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特開2022-85709換水装置、換水方法および海水魚の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085709
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】換水装置、換水方法および海水魚の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
A01K63/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197519
(22)【出願日】2020-11-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(うち高品質の活魚を低コストで安定的に供給するための低塩分蓄養方法および装置の開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(71)【出願人】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】広島県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】520002760
【氏名又は名称】株式会社クラハシ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川口 修
(72)【発明者】
【氏名】御堂岡 あにせ
(72)【発明者】
【氏名】東谷 福太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 美咲
(72)【発明者】
【氏名】岩本 有司
(72)【発明者】
【氏名】谷本 昌太
(72)【発明者】
【氏名】長尾 則男
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 良太
(72)【発明者】
【氏名】宮内 亮哉
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104CA01
2B104EA01
2B104EF09
(57)【要約】
【課題】混合層を設けずとも、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、簡便に換水できる換水装置等を実現する。
【解決手段】換水装置(100)は、海水魚を飼育するための、塩分濃度が所定範囲にある飼育水(26)を収容する水槽(8)に、高塩分濃度水を給水する第1給水口(14)と、低塩分濃度水を給水する第2給水口(15)と、第1給水口(14)および第2給水口(15)からの給水量ならびに水槽(8)からの排水量の算出のために、水槽(8)内の水位を検知する水位検知部(7)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水魚を飼育するための、塩分濃度が所定範囲にある飼育水を収容する水槽に、塩分濃度が前記所定範囲に係る上限値以上の高塩分濃度水を給水する第1給水口と、
前記水槽に、塩分濃度が前記所定範囲に係る下限値以下の低塩分濃度水を給水する第2給水口と、
前記第1給水口からの給水量、前記第2給水口からの給水量および前記水槽からの排水量の算出のために、前記水槽内の水位を検知する水位検知部と、を備える換水装置。
【請求項2】
前記第1給水口からの給水と、前記第2給水口からの給水とを切り替える給水切替部を更に備える、請求項1に記載の換水装置。
【請求項3】
前記水槽からの排水速度は、前記第1給水口からの給水速度および前記第2給水口からの給水速度のうちの少なくとも一方よりも大きい、請求項1または2に記載の換水装置。
【請求項4】
以下の(1)第1排水サブステップ、(2)第1給水サブステップ、ならびに(3)前記第1排水サブステップおよび前記第1給水サブステップの後に実施される第1均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第1ステップを含む換水方法。
(1)第1排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(2)第1給水サブステップ:前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記所定範囲に係る上限値以上または前記所定範囲に係る下限値以下から選択して設定された第1塩分濃度の第1塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(3)第1均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【請求項5】
前記第1ステップ後に、以下の(4)第2排水サブステップ、(5)第2給水サブステップ、ならびに(6)前記第2排水サブステップおよび前記第2給水サブステップの後に実施される第2均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第2ステップを含む、請求項4に記載の換水方法。
(4)第2排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(5)第2給水サブステップ:前記第2均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記第1塩分濃度が前記上限値以上である場合、前記下限値以下に設定され、前記第1塩分濃度が前記下限値以下である場合、前記上限値以上に設定された第2塩分濃度の第2塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(6)第2均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【請求項6】
直近の前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の予測塩分濃度が前記所定範囲内にあり、次回の前記第1排水サブステップ、前記第1給水サブステップおよび前記第1均一化サブステップを実行した場合の前記飼育水の予測塩分濃度が前記所定範囲外になる場合は、前記次回の前記第1排水サブステップ、前記第1給水サブステップおよび前記第1均一化サブステップを実行しない、請求項4または5に記載の換水方法。
【請求項7】
以下の(1)第1排水サブステップ、(2)第1給水サブステップ、ならびに(3)前記第1排水サブステップおよび前記第1給水サブステップの後に実施される第1均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第1ステップを含む換水方法により、飼育水の塩分濃度が調整された水槽で飼育する海水魚の生産方法。
(1)第1排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(2)第1給水サブステップ:前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記所定範囲に係る上限値以上または前記所定範囲に係る下限値以下から選択して設定された第1塩分濃度の第1塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(3)第1均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換水装置、換水方法および海水魚の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水よりも塩分濃度が低い飼育水の中で海水魚を飼育することにより、海水魚を延命させ、外傷から回復させることができることが知られている(特許文献1)。また、特許文献2には、海水魚の外傷回復を促進しつつ体重減少を抑制する、海水魚の保存方法が開示されている。
【0003】
ここで、海水魚を飼育する際には、海水魚に由来する汚濁物質を除去するために、飼育水を入れ換える必要がある。飼育水を入れ換える作業は、「換水」とも称される。そして、上記のような海水よりも塩分濃度が低い飼育水を用意するためには、例えば、飼育用の水槽とは別に、海水と淡水とを混合する混合槽を設け、混合槽において所定の塩分濃度に調整することが考えられる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5803026号公報
【特許文献2】特許第6733095号公報
【特許文献3】特開2018-130080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1または特許文献2に係る方法の実施には、特許文献3の開示のように、塩分濃度が低い飼育水を用意するために、海水と淡水とを混合する混合層が必要となる。したがって、換水装置の小型化が困難となる。
【0006】
本発明の一態様は、混合層を設けずとも、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水を簡便に行うことができる換水装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る換水装置は、海水魚を飼育するための、塩分濃度が所定範囲にある飼育水を収容する水槽に、塩分濃度が前記所定範囲に係る上限値以上の高塩分濃度水を給水する第1給水口と、前記水槽に、塩分濃度が前記所定範囲に係る下限値以下の低塩分濃度水を給水する第2給水口と、前記第1給水口からの給水量、前記第2給水口からの給水量および前記水槽からの排水量の算出のために、前記水槽内の水位を検知する水位検知部と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、換水装置が第1給水口および第2給水口を備えるので、これら第1給水口および第2給水口を飼育用の水槽に接続すれば、高塩分濃度水と低塩分濃度水とを混合する混合槽を、飼育水を収容する水槽とは別に設けることなく、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保つことができる。そのため、換水装置および水槽を含む飼育システム全体の構成を小型化することができる。
【0009】
また、換水装置が水位検知部を備えるので、飼育水の塩分濃度の予測に基づいて、第1給水口からの給水量、第2給水口からの給水量および水槽からの排水量を制御することができる。そのため、飼育水の塩分濃度のモニタリング頻度を低下させることができる。したがって、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水を簡便に行うことができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る換水装置は、前記第1給水口からの給水と、前記第2給水口からの給水とを切り替える給水切替部を更に備えてもよい。上記の構成によれば、給水切替部が第1給水口からの給水と第2給水口からの給水とを切り替えるので、給水は、第1給水口または第2給水口のいずれか一方から行われる。そのため、第1給水口および第2給水口の原水圧が変動する場合であっても、水位検知部によって、第1給水口からの給水量および第2給水口からの給水量をより正確に制御することができる。これにより、飼育水の塩分濃度をより精度よく予測し、飼育水の塩分濃度のモニタリング頻度を低下させることができる。したがって、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水をより簡便に行うことができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る換水装置は、前記水槽からの排水速度は、前記第1給水口からの給水速度および前記第2給水口からの給水速度のうちの少なくとも一方よりも大きくてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、排水速度が給水速度よりも大きいので、給水された高塩分濃度水または低塩分濃度水のうち、飼育水と混合されずに水槽からそのまま排水される高塩分濃度水または低塩分濃度水の量を低減することができる。そのため、海水魚に由来する汚濁物質を効率的に除去することができる。
【0013】
また、水槽内の飼育水の塩分濃度をより精度よく予測することができ、飼育水の塩分濃度のモニタリング頻度を低下させることができる。したがって、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水を更に簡便に行うことができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る換水方法は、以下の(1)第1排水サブステップ、(2)第1給水サブステップ、ならびに(3)前記第1排水サブステップおよび前記第1給水サブステップの後に実施される第1均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第1ステップを含む。
【0015】
(1)第1排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(2)第1給水サブステップ:前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記所定範囲に係る上限値以上または前記所定範囲に係る下限値以下から選択して設定された第1塩分濃度の第1塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(3)第1均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【0016】
上記の方法によれば、第1均一化サブステップにおいて、水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させるので、第1ステップ後においても、水槽内の飼育水の塩分濃度を精度よく予測することができる。そのため、飼育水の塩分濃度のモニタリング頻度を低下させることができる。したがって、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水を簡便に行うことができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る換水方法は、前記第1ステップ後に、以下の(4)第2排水サブステップ、(5)第2給水サブステップ、ならびに(6)前記第2排水サブステップおよび前記第2給水サブステップの後に実施される第2均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第2ステップを含んでもよい。
【0018】
(4)第2排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(5)第2給水サブステップ:前記第2均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記第1塩分濃度が前記上限値以上である場合、前記下限値以下に設定され、前記第1塩分濃度が前記下限値以下である場合、前記上限値以上に設定された第2塩分濃度の第2塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(6)第2均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【0019】
上記の方法によれば、第1塩分濃度が上限値以上である場合、第2塩分濃度が下限値以下に設定されるので、第1ステップで飼育水の塩分濃度を上昇させ、かつ第2ステップで飼育水の塩分濃度を低下させることができる。したがって、第1ステップと第2ステップとを繰り返すことにより、飼育水の塩分濃度を長期的に所定範囲に保つことができる。
【0020】
また、第1塩分濃度が下限値以下である場合、第2塩分濃度が上限値以上に設定されるので、第1ステップで飼育水の塩分濃度を低下させ、かつ第2ステップで飼育水の塩分濃度を上昇させることができる。したがって、第1ステップと第2ステップとを繰り返すことにより、飼育水の塩分濃度を長期的に所定範囲に保つことができる。
【0021】
また、本発明の一態様に係る換水方法は、直近の前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の予測塩分濃度が前記所定範囲内にあり、次回の前記第1排水サブステップ、前記第1給水サブステップおよび前記第1均一化サブステップを実行した場合の前記飼育水の予測塩分濃度が前記所定範囲外になる場合は、前記次回の前記第1排水サブステップ、前記第1給水サブステップおよび前記第1均一化サブステップを実行しなくてもよい。
【0022】
上記の方法によれば、第1排水サブステップ、第1給水サブステップおよび第1均一化サブステップを繰り返した後の飼育水の予測塩分濃度が所定範囲外になる直前に、第1ステップを終了することができる。したがって、換水を行いながら、より長期間、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保つことができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る海水魚の生産方法は、以下の(1)第1排水サブステップ、(2)第1給水サブステップ、ならびに(3)前記第1排水サブステップおよび前記第1給水サブステップの後に実施される第1均一化サブステップのそれぞれを1回以上行う第1ステップを含む換水方法により、飼育水の塩分濃度が調整された水槽で飼育する。
【0024】
(1)第1排水サブステップ:海水魚を飼育するための飼育水を水槽から排水する;
(2)第1給水サブステップ:前記第1均一化サブステップ後の前記飼育水の塩分濃度が所定範囲となるように、前記所定範囲に係る上限値以上または前記所定範囲に係る下限値以下から選択して設定された第1塩分濃度の第1塩分濃度水を前記水槽に給水する;
(3)第1均一化サブステップ:前記水槽内の前記飼育水の塩分濃度を均一化させる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、混合層を設けずとも、飼育水の塩分濃度を所定範囲に保ちながら、換水を簡便に行うことができる換水装置等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態に係る飼育システムを示す概略図である。
図2】一実施形態に係る換水方法を示すフローチャートである。
図3】一実施形態に係る換水方法において、低塩分濃度水を用いた場合の塩分濃度の予測結果を示すグラフである。
図4】一実施形態に係る換水方法において、高塩分濃度水を用いた場合の塩分濃度の予測結果を示すグラフである。
図5】一実施形態に係る換水方法において、低塩分濃度水および高塩分濃度水を交互に用いた場合の塩分濃度の予測結果を示すグラフである。
図6】一実施形態に係る換水方法による難分解性有機物濃度の推移のシミュレーション結果を示すグラフである。
図7】実施例1に係る換水方法による塩分濃度の推移を示すグラフである。
図8】実施例1に係る換水方法を用いて生産した海水魚の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔飼育システム〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る飼育システム1を示す概略図である。飼育システム1は、海水魚を飼育するための飼育システムである。図1に示すように、飼育システム1は、換水装置100と、飼育水槽(水槽)8と、生物濾過槽9と、循環ポンプ6と、加温冷却ユニット5と、制御盤4と、を備える。図1において、実線の矢印は飼育水の流路を表し、破線の矢印は電気信号を表す。
【0028】
本実施形態では、飼育システム1は、海水魚を飼育するための飼育水26を濾過しながら循環再利用する閉鎖循環システムであり、飼育水26の一部が換水により入れ換えられる。
【0029】
飼育水槽8は、海水魚を飼育するための、塩分濃度が所定範囲CRにある飼育水26を収容する。ここで、塩分濃度の所定範囲CRは、海水魚の魚種または飼育目的等に応じて、適宜選択することができる。海水魚を延命させ、外傷から回復させる効果を向上させるためには、所定範囲CRに係る上限値Cmaxは、2.7%以上3.0%以下であることが好ましく、所定範囲CRに係る下限値Cminは、0.55%以上1.4%以下であることが好ましい。より具体的には、特許文献1に開示の通り、海水魚を延命させ、外傷から回復させる効果を向上させるためには、上限値Cmaxは2.75%、下限値Cminは0.55%であることが好ましい。また、特許文献2に開示の通り、海水魚の外傷回復を促進しつつ、体重減少を抑制する保存方法のためには、上限値Cmaxは3.0%、下限値Cminは0.9%であることが好ましい。飼育水槽8には、飼育水26の排水を制御するための排水バルブ12が設けられている。
【0030】
飼育水槽8の内部における底面近傍には、エアストーン10が設けられている。エアストーン10は、エアチューブ20を介してブロア2に接続されている。ブロア2から供給される空気がエアストーン10から気泡として放出されることにより、飼育水26に酸素が供給されるように、エアストーン10およびブロア2は構成されている。
【0031】
換水装置100は、飼育水槽8内の飼育水26を換水するための装置である。換水装置100は、第1給水口14と、第2給水口15と、給水切替部3と、給水バルブ13と、水位センサ(水位検知部)7と、を備える。
【0032】
第1給水口14は、飼育水槽8に、塩分濃度が上限値Cmax以上の高塩分濃度水を給水する。高塩分濃度水として、例えば海水を使用することができる。第2給水口15は、飼育水槽8に、塩分濃度が下限値Cmin以下の低塩分濃度水を給水する。低塩分濃度水として、例えば水道水、河川水または地下水を使用することができる。
【0033】
給水切替部3は、第1給水口14からの給水と、第2給水口15からの給水とを切り替える。そのため、本実施形態では、第1給水口14から供給される高塩分濃度水および第2給水口15から供給される低塩分濃度水は、給水切替部3を通って飼育水槽8に給水される。なお、換水装置100は給水切替部3を備えていなくてもよい。この場合、第1給水口14および第2給水口15は、直接水槽8に接続される。この場合、換水装置100は、単一の給水バルブ13ではなく、第1給水口14および第2給水口15に通じる各配管に、各給水口からの給水量を独立して制御可能な給水バルブをそれぞれ備えていてもよい。これらの給水バルブの開閉は、後述する制御盤4の機能により制御されてもよく、ユーザにより手動で制御されてもよい。
【0034】
水位センサ7は、飼育水槽8内の飼育水26の水位を検知する。水位センサ7が、飼育水26の水位を検知することにより、第1給水口14からの給水量、第2給水口15からの給水量および飼育水槽8からの排水量の算出が可能である。
【0035】
生物濾過槽9は、飼育水槽8からオーバーフローした飼育水27を収容し、生物濾過するための水槽である。本実施形態では、生物濾過槽9内の飼育水27の水位は、飼育水槽8内の飼育水26の水位よりも低く、飼育水槽8からオーバーフローした飼育水26が生物濾過槽9内に流入するように、飼育水槽8および生物濾過槽9が配置されている。あるいは、生物濾過槽9内の飼育水27の水位を、飼育水槽8内の飼育水26の水位よりも高くして、生物濾過槽9からオーバーフローした飼育水27が飼育水槽8内に流入するように、飼育水槽8および生物濾過槽9を配置してもよい(図示せず)。
【0036】
循環ポンプ6は、生物濾過槽9内の飼育水27を、加温冷却ユニット5を介して飼育水槽8まで送る。そのため、飼育水槽8内の飼育水26は、生物濾過槽9、循環ポンプ6および加温冷却ユニット5を通って、飼育水槽8まで循環する。なお、生物濾過槽9からオーバーフローした飼育水27が飼育水槽8内に流入する配置である場合には、飼育水26は、循環ポンプ6によって、加温冷却ユニット5を介して飼育水槽8から生物濾過槽9に送られる。この循環経路において、複数箇所に手動バルブ11が設けられている。手動バルブ11は、飼育システム1の各配管等について、個別のメンテナンスを容易にするために設けられている。加温冷却ユニット5は、循環ポンプ6により送り出された飼育水27を加温または冷却し、海水魚の飼育に適した温度に調整する。
【0037】
制御盤4は、例えば漏電ブレーカー、手動スイッチ、タイマースイッチ、リレースイッチ、ディレイスイッチおよび表示板(いずれも図示せず)を備える。制御盤4は、給水切替部3、給水バルブ13、排水バルブ12、循環ポンプ6および加温冷却ユニット5に電気的に接続されており、これらを制御するように構成されている。
【0038】
また、制御盤4は、水位センサ7に電気的に接続されており、水位センサ7が検知した飼育水槽8内の飼育水26の水位に応じて、給水切替部3、給水バルブ13および排水バルブ12を制御するように構成されている。なお、制御盤4は、手動バルブ11についても制御可能な構成であってもよい。また、制御盤4は、飼育システム1を統括的に制御するための、CPU(Central Processor Unit)等の制御部であってもよい。
【0039】
<変形例>
換水装置100は、水位検知部として、水位センサ7の代わりにボールタップ(図示せず)および立ち上がり配管(図示せず)を備えてもよい。この場合、飼育水槽8への第1給水口14または第2給水口15からの給水時には、ボールタップが水位検知部として機能し、飼育水槽8からの排水時には、立ち上がり配管が水位検知部として機能する。このように、換水装置100は、複数の水位検知部を備えていてもよい。
【0040】
当該変形例では、飼育水槽8内の飼育水26の水位が所定の下限水位以下となる前に、給水切替部3を通って、第1給水口14または第2給水口15からの給水が開始される。そして、飼育水26の水位が所定下限水位に達すると、立ち上がり配管により排水が止まり、その後に制御盤4により排水バルブ12が閉止される。その後、飼育水槽8内の飼育水26の水位が所定の上限水位に達すると、ボールタップにより第1給水口14または第2給水口15からの給水が停止される。そのため、換水装置100がボールタップおよび立ち上がり配管を備える場合、給水バルブ13を省略することができる。給水バルブ13を省略する場合、後述の塩分予測の誤差が大きくならないように、排水速度が給水速度より十分に大きいことを要する。この場合、例えば、給水速度は排水速度の20%未満であることが好ましい。
【0041】
また、飼育システム1は、飼育水26の水質をより良好に維持するために、生物濾過槽9に加えて、または生物濾過槽9に代えて、例えば物理濾過ユニット、泡沫分離装置等の固液分離ユニットまたは紫外線装置等の殺菌装置(いずれも図示せず)を備えてもよい。
【0042】
また、生物濾過槽9の溶存酸素が少なくなり、アンモニアを硝化する機能が低下する場合には、飼育システム1は、飼育水26の水質をより良好に維持するために、ブロア2からの空気を生物濾過槽9に供給することが好ましい。
【0043】
〔換水方法〕
図2は、本発明の一実施形態に係る換水方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、図1に示す飼育システム1を使用する換水方法を例示的に説明するが、本発明はこれに限定されず、他の構成の飼育システムを使用してもよい。また、以下には、飼育システム1のユーザ(以下、単に「ユーザ」と称する)が、制御盤4等の操作によって各工程を実行するとともに、一部の工程は、制御盤4の機能により自律的に実行される例を示している。ただし、制御盤4がいずれの工程を自律的に実行するかは、以下の例に限られるものではない。
【0044】
図2に示すように、ユーザは、換水方法の開始時に、まず塩分濃度の予測および換水期間の設定を実行する(S1)。塩分濃度の予測方法および換水期間の設定方法については、後述する。なお、S1の工程については、例えば、過去に設定した条件等を用いる場合は省略してもよい。次に、ユーザは、第1ステップS10を開始する。第1ステップS10では、制御盤4は、以下の(1)第1排水サブステップS11、(2)第1給水サブステップS12、および(3)第1均一化サブステップS13のそれぞれを1回以上行う。
【0045】
(1)第1排水サブステップS11:海水魚を飼育するための飼育水26を飼育水槽8から排水する。
【0046】
(2)第1給水サブステップS12:第1均一化サブステップS13後の飼育水26の塩分濃度が所定範囲CRとなるように、上限値Cmax以上または下限値Cmin以下から選択して設定された第1塩分濃度の第1塩分濃度水を飼育水槽8に給水する。
【0047】
(3)第1均一化サブステップS13:飼育水槽8内の飼育水26の塩分濃度を均一化させる。
【0048】
第1排水サブステップS11は、排水バルブ12を開放することにより行われる。制御盤4は、第1排水サブステップS11における排水量について、水位センサ7が検知した飼育水槽8内の飼育水26の水位に応じて制御する。
【0049】
第1給水サブステップS12では、制御盤4は、第1給水口14からの高塩分濃度水または第2給水口15からの低塩分濃度水を、第1塩分濃度水として飼育水槽8に給水する。このとき、ユーザは、給水切替部3を制御して、第1均一化サブステップS13後の飼育水26の塩分濃度が所定範囲CRとなるように、第1給水口14からの給水または第2給水口15からの給水のいずれかを切り替える。なお、飼育システム1が給水切替部3を備えない構成である場合、ユーザは、給水切替部3ではなく、第1給水口14および第2給水口15にそれぞれ設けられた給水バルブを制御してもよい。
【0050】
制御盤4は、第1給水サブステップS12における給水量について、水位センサ7が検知した飼育水槽8内の飼育水26の水位に応じて制御する。
【0051】
制御盤4は、第1排水サブステップS11を行い、その後に第1給水サブステップS12を行う。なお、換水装置100がボールタップおよび立ち上がり配管を備える場合には、制御盤4は、第1排水サブステップS11および第1給水サブステップS12を同時に行ってもよい。
【0052】
第1排水サブステップS11および第1給水サブステップS12が同時に行われる場合には、制御盤4は、第1排水サブステップS11における排水速度を、第1給水サブステップS12における給水速度よりも大きくなるよう設定することが好ましい。この場合、給水された第1塩分濃度水のうち、飼育水26と混合されずに飼育水槽8からそのまま排水される第1塩分濃度水の量を低減することができる。そのため、海水魚に由来する汚濁物質を効率的に除去すると同時に、飼育水26の塩分濃度を精度よく推定することができる。
【0053】
なお、換水装置100が、給水バルブ13および水位センサ7の代わりに、ボールタップおよび立ち上がり配管を備える場合、第1排水サブステップS11の開始とほぼ同時に、第1給水サブステップS12が開始される。この場合、制御盤4は、第1排水サブステップS11における排水速度を、第1給水サブステップS12における給水速度よりも大きく設定することが好ましい。なお、第1排水サブステップS11における排水速度が、第1給水サブステップS12における給水速度よりも大きい場合には、第1排水サブステップS11が終了した後、第1給水サブステップS12が終了する。
【0054】
第1均一化サブステップS13は、第1排水サブステップS11および第1給水サブステップS12の後に実施される。制御盤4は、第1均一化サブステップS13について、例えば、排水バルブ12および給水バルブ13を閉じた状態で、所定の期間、待機することにより行ってよい。制御盤4は、待機期間について、例えば飼育水槽8の大きさおよび形状、飼育システム1における飼育水槽8および配管等の各部の構造、第1ステップS10および第2ステップS20における換水量、ならびにブロア2から供給される空気の量等に応じて、適宜選択することができる。飼育水槽8内の飼育水26の塩分濃度を確実に均一化させるために、制御盤4は、待機期間について例えば、飼育システム1の導入時に、飼育水槽8における飼育水26の塩分濃度が安定するまでの期間を、予め求めておくことで設定してよい。
【0055】
制御盤4は、第1均一化サブステップS13の後、設定した換水期間が経過したか否かを判定する(S14)。言い換えれば、第1均一化サブステップS13の後、制御盤4は、次回の第1排水サブステップS11、第1給水サブステップS12および第1均一化サブステップS13を実行した場合の飼育水26の予測塩分濃度が、所定範囲外になるか否かを判定する。換水期間の設定および予測塩分濃度についての詳細は後述する。
【0056】
S14でNoの場合、制御盤4は、第1排水サブステップS11に戻り、第1排水サブステップS11、第1給水サブステップS12および第1均一化サブステップS13を繰り返す。一方、S14でYesの場合、制御盤4は、第1ステップS10を終了し、海水魚の飼育を続けるか否かを判定する(S15)。言い換えると、S14でYesの場合は、制御盤4は、次回の第1排水サブステップS11、第1給水サブステップS12および第1均一化サブステップS13を実行しない。
【0057】
S15では、制御盤4は、例えば飼育水槽8内に飼育すべき海水魚が残っているか否か等に応じて、海水魚の飼育を続けるか否かを判定してよい。S15でYesの場合には、ユーザは、第2ステップS20を開始する。ただし、ユーザは、この時点での飼育水26の水質が、換水の必要がない程度に良好に保たれていると判定した場合には、第2ステップS20の前に一定期間、換水を行わない期間を設けてもよい。一方、S15でNoの場合には、ユーザは、換水方法を終了する。
【0058】
第2ステップS20では、制御盤4は、以下の(4)第2排水サブステップS21、(5)第2給水サブステップS22、および(6)第2均一化サブステップS23のそれぞれを1回以上行う。
【0059】
(4)第2排水サブステップS21:海水魚を飼育するための飼育水26を飼育水槽8から排水する。
【0060】
(5)第2給水サブステップS22:第2均一化サブステップS23後の飼育水26の塩分濃度が所定範囲CRとなるように、第1塩分濃度が上限値Cmax以上である場合、下限値Cmin以下に設定され、前記第1塩分濃度が下限値Cmin以下である場合、上限値Cmax以上に設定された第2塩分濃度の第2塩分濃度水を飼育水槽8に給水する。
【0061】
(6)第2均一化サブステップS23:飼育水槽8内の飼育水26の塩分濃度を均一化させる。
【0062】
第2排水サブステップS21は、第1排水サブステップS11と同様の方法で行われる。また、第1排水サブステップS11および第1給水サブステップS12と同様に、換水装置100がボールタップおよび立ち上がり配管を備える場合には、制御盤4は、第2排水サブステップS21および第2給水サブステップS22を同時に行ってもよい。
【0063】
第2給水サブステップS22では、制御盤4は、第1給水口14からの高塩分濃度水または第2給水口15からの低塩分濃度水を、第2塩分濃度水として飼育水槽8に給水する。このとき、第1給水サブステップS12で給水された第1塩分濃度水が第1給水口14からの高塩分濃度水である場合には、ユーザは、給水切替部3を制御して、第2給水口15からの低塩分濃度水の給水に切り替えさせる。一方、第1給水サブステップS12で給水された第1塩分濃度水が第2給水口15からの低塩分濃度水である場合には、ユーザは、給水切替部3を制御して、第1給水口14からの高塩分濃度水の給水に切り替えさせる。第2給水サブステップS22における給水量の制御は、第1給水サブステップS12における給水量の制御と同様の方法で行われる。なお、飼育システム1が給水切替部3を備えない構成である場合、ユーザは、給水切替部3ではなく、第1給水口14および第2給水口15にそれぞれ対応する給水バルブを制御してもよい。
【0064】
制御盤4は、第2均一化サブステップS23について、第2排水サブステップS21および第2給水サブステップS22の後に実施する。第2均一化サブステップS23は、第1均一化サブステップS13と同様の方法で行われる。
【0065】
制御盤4は、第2均一化サブステップS23の後、設定した換水期間が経過したか否かを判定する(S24)。言い換えれば、第2均一化サブステップS23の後、制御盤4は、次回の第2排水サブステップS21、第2給水サブステップS22および第2均一化サブステップS23を実行した場合の飼育水26の予測塩分濃度が、所定範囲外になるか否かを判定する。
【0066】
S24でNoの場合、制御盤4は、第2排水サブステップS21に戻り、第2排水サブステップS21、第2給水サブステップS22および第2均一化サブステップS23を繰り返す。一方、S24でYesの場合、ユーザは、第2ステップS20を終了し、海水魚の飼育を続けるか否かを判定する(S25)。言い換えると、S24でYesの場合は、次回の第2排水サブステップS21、第2給水サブステップS22および第2均一化サブステップS23を実行しない。
【0067】
S25では、S15と同様の方法で判定を行うことができる。S25でYesの場合には、ユーザは、第1ステップS10に戻る。この場合にも、ユーザは、この時点での飼育水26の水質が、換水の必要がない程度に良好に保たれていると判定した場合には、第1ステップS10に戻る前に一定期間、換水を行わない期間を設けてもよい。一方、S25でNoの場合には、ユーザは、換水方法を終了する。
【0068】
なお、第1排水サブステップS11、第1給水サブステップS12、第2排水サブステップS21または第2給水サブステップS22を行っている間は、制御盤4は、循環ポンプ6および加温冷却ユニット5を停止させることが好ましい。これらのステップを行っている間は飼育水槽8の水位が低下するため、生物濾過槽9への水の供給がなくなる。この状態で循環ポンプ6が動作を継続すると、生物濾過槽9内の飼育水27が空になってしまい、飼育システム1の配管内に空気が混入する、循環ポンプ6が空回りする等の不具合が発生してしまう。これは、飼育水槽8で飼育している海水魚にガス病が発生する原因となり得る。
【0069】
上記の説明では、ユーザは、制御盤4の操作により、給水切替部3、給水バルブ13および排水バルブ12を制御するが、本発明はこれに限定されない。例えば、給水切替部3、給水バルブ13および排水バルブ12のうちの少なくとも1つは、ユーザが手動により制御してもよい。
【0070】
なお、上記の換水方法を用いて、海水魚を生産することができるため、上記の換水方法は、本発明の一実施形態に係る「海水魚の生産方法」であると言い換えることができる。また、本発明の一実施形態に係る換水装置は、上記の換水方法に使用される換水装置であることが好ましい。
【0071】
〔塩分濃度の予測〕
本発明の一実施形態に係る換水方法は、飼育水26の塩分濃度の予測結果に基づいて行うことが好ましい。すなわち、ユーザは、飼育水26の塩分濃度の予測および換水期間の設定(S1)を、第1ステップS10または第2ステップS20の前に行うことが好ましい。以下に、図3から図5を参照して、飼育水26の塩分濃度の予測方法および換水期間の設定方法について説明する。当該予測方法によれば、第1均一化サブステップS13または第2均一化サブステップS23の後に参照される予測塩分濃度、および、予測塩分濃度が所定範囲外となるまでの期間の予測結果を得ることができる。
【0072】
塩分濃度の予測を行うために、ユーザは、第1給水サブステップS12で飼育水槽8に給水される第1塩分濃度水の塩分濃度を測定する。また、ユーザは、第2給水サブステップS22で飼育水槽8に給水される第2塩分濃度水の塩分濃度を測定する。また、ユーザは、換水前の飼育水26の塩分濃度を測定する。飼育水26および各ステップで給水される水の塩分濃度を正確に把握することで、ユーザは、正確な塩分濃度の予測を行うことができる。なお、第1塩分濃度水および第2塩分濃度水の塩分濃度については、ユーザは、飼育システム1の導入時に一度測定すればよい。一方で、飼育水26の塩分濃度については、ユーザは、第1ステップS10または第2ステップS20の開始時に毎回測定し、塩分濃度の予測結果を逐一補正することが、予測精度を高く維持する観点から好ましい。
【0073】
飼育水26の塩分濃度は、下記式(1)により予測できる。
【0074】
=C+a*(Cin-C) ・・・(1)
ここで、Cは換水後の飼育水26の塩分濃度(%)、Cは換水前の飼育水26の塩分濃度(%)、Cinは換水中に給水される水(すなわち、第1塩分濃度水または第2塩分濃度水)の塩分濃度(%)、aは1回の換水による換水率を示す。
【0075】
また、ユーザは、1回の換水による換水率aを決定するにあたり、第1ステップS10または第2ステップS20を何回、どのような頻度により行うか、すなわち日間換水率および日間換水回数を決定する。
【0076】
日間換水率は、飼育水槽8で飼育する飼育魚の収容密度等から、飼育水26が汚濁される速度に基づいて決定してよい。また、日間換水回数は、飼育水槽8の汚濁が許容水準を超えない範囲で、飼育魚へのストレスを低減できる回数に決定すればよい。
【0077】
例えば、少ない回数の換水で飼育水槽8の汚濁を十分に低減できるのであれば、換水によって飼育魚にストレスが生じる回数も低減できる。ただし、日間換水回数が少なすぎる場合、1回の換水による換水率が大きくなるため、1回の換水で飼育魚にかかるストレスが大きくなってしまう。
【0078】
日間換水回数は、例えば、1回であってもよく、1回より少ない回数であってもよい。この場合、換水によって飼育魚にストレスが生じる回数も低減できる。また、1日に2回以上換水してもよい。この場合、1回の換水で飼育魚にかかるストレスを低減できる。
【0079】
日間換水率および日間換水回数が決定すれば、飼育水槽8の水位下限について、下記式(2)により決定できる。なお、飼育水槽8の水位上限Lは、飼育水槽8の大きさによって決定できる。
【0080】
(L-L)=a’*(V/(A*n)) ・・・(2)
ここで、Lは飼育水槽8の水位上限(m)、Lは飼育水槽8の水位下限(m)、a’は飼育水槽8の日間換水率、Vは飼育水槽8の容量(m)、Aは飼育水槽8の面積(m)、nは日間換水回数をそれぞれ示す。
【0081】
このようにして飼育水槽8の水位の上限および下限を決定すれば、ユーザは、飼育水槽8の水位を適切な範囲に保ちながら、第1ステップS10および第2ステップS20を継続的に行うことができる。
【0082】
また、ユーザは、第1均一化サブステップS13および第2均一化サブステップS23において、飼育水26の塩分濃度が均一となるまで待機する待機期間についても設定する。待機期間は、飼育水槽8の大きさおよび循環ポンプ6の循環速度等の、飼育システム1の構成により、飼育水26の塩分濃度が均一となるように適宜設定すればよい。
【0083】
飼育水26の水位の上限および下限、換水頻度、待機期間については、飼育システム1の構成または飼育する飼育魚の種類等を変更しない限り、変更しなくてもよい。したがって、ユーザは、これらのパラメータについて、換水を行うたびに設定する必要はない。なお、これらのパラメータについては、飼育水26の状態を観察しながら適宜再設定を行ってもよい。
【0084】
ユーザは、上記式(1)による塩分濃度の予測結果と、飼育魚の種類等により設定される塩分濃度の所定範囲CRとに基づいて、換水期間を決定する。すなわち、ユーザは、飼育水26の塩分濃度が所定範囲CRに収まるように、第1ステップS10および第2ステップS20のいずれかを繰り返し行う期間を決定できる。
【0085】
上記の塩分濃度の予測方法に基づいて、本実施形態に係る換水方法に低塩分濃度水(水道水)を用いた場合の飼育水26の塩分濃度を予測した例を図3に、高塩分濃度水(海水)を用いた場合の飼育水26の塩分濃度を予測した例を図4に示している。
【0086】
図3では、上記式(1)において、換水前の飼育水26の塩分濃度Cを2.7%、給水される水の塩分濃度Cinを0%とし、換水期間を7日間とした場合の予測結果を示す。図3の上のグラフは、日間換水回数nを1回とし、図3の下のグラフは、日間換水回数nを2回とした場合の予測結果を示す。なお、日間換水率a’はいずれも0.1としたため、日間換水回数nを1回とした場合の換水率aは0.1、日間換水回数nを2回とした場合の換水率aは0.05とした。
【0087】
また、図4では、換水前の飼育水26の塩分濃度Cを1.0%、給水される水の塩分濃度Cinを3.4%とし、換水期間を7日間とした場合の予測結果を示す。図4の上のグラフは、日間換水回数nを1回とし、図4の下のグラフは、日間換水回数nを2回とした場合の予測結果を示す。なお、日間換水率a’はいずれも0.18としたため、日間換水回数nを1回とした場合の換水率aは0.18、日間換水回数nを2回とした場合の換水率aは0.09である。
【0088】
また、図5では、本実施形態に係る換水方法に低塩分濃度水(水道水)を用いる期間と、高塩分濃度水(海水)を用いる期間とを交互に繰り返し設けて、換水を連続的に行った例を示す。すなわち、第1ステップS10および第2ステップS20を、交互に繰り返し実施した例を示している。
【0089】
ここでは、換水前の飼育水26の塩分濃度Cを2.0%、給水される水の塩分濃度Cinを、低塩分濃度水の場合は0%、高塩分濃度水の場合は3.4%とし、換水期間を100日間とした場合の予測結果である。なお、換水において供給される水は、低塩分濃度水と高塩分濃度水とを、14日間ごとに切り替えた。日間換水回数nは1回であり、換水率aは0.02である。
【0090】
このような塩分濃度の予測方法によれば、本実施形態に係る換水方法を実行中の任意の時点における飼育水26の塩分濃度を予測できる。したがって、ユーザは、第1ステップS10または第2ステップS20を終了するタイミング、または、第1ステップS10と第2ステップS20とを切り替えるタイミングについて、高精度かつ容易に認識できる。
【0091】
このような塩分濃度の予測は、第1ステップS10および第2ステップS20の開始前に1回のみ行ってもよく、換水方法の開始後も、任意のタイミングで飼育水26の塩分濃度の測定および塩分濃度の再予測を行うことで、予測結果に補正を加えていってもよい。
【0092】
塩分濃度の測定には、例えば塩分センサを用いてよい。上記の塩分濃度の予測方法および換水方法では、塩分濃度の測定は頻繁に行うものではないため、塩分センサのメンテナンスコストを低減させることができる。
【0093】
〔飼育水の汚濁物質除去効果〕
図6は、本実施形態に係る換水方法を用いた場合の、飼育水26中における汚濁物質濃度の推移について、シミュレーション結果を示すグラフである。また、比較のため、従来技術に係る換水方法を用いた場合のシミュレーション結果も併記している。
【0094】
シミュレーションでは、(i)飼育水26の汚濁物質濃度は一定速度で増加する、(ii)換水において飼育水26に供給される水には、汚濁物質が含まれないかまたは無視できるほど低濃度である、と仮定している。また、汚濁物質としては、難分解性有機物、硝酸態窒素およびリン酸態リン等、換水以外では飼育水26から速やかに除去されにくい物質を想定している。図6における「難分解性有機物」は、これらの汚濁物質を含むものである。
【0095】
シミュレーションに用いた汚濁物質の予測方法について、下記式(3)および下記式(4)に基づいて予測を行った。シミュレーション結果について、図6に実線にて示している。
【0096】
=P+S*dt ・・・(3)
=P-a*P*dt ・・・(4)
ここで、Pは汚染前の飼育水26の汚濁物質濃度(mg/L)、Pは換水直前の飼育水26の汚濁物質濃度(mg/L)、Pは換水直後の飼育水26の汚濁物質濃度(mg/L)、dtはタイムステップ(換水間隔)(day)、Sは飼育水26の、海水魚の排泄等による汚濁物質濃度の増加速度(mg/L/day)、aは1回の換水による換水率を示す。なお、汚濁物質濃度の増加速度Sは1mg/L/day、換水率aは0.1、タイムステップdtは1日とした。
【0097】
また、従来技術に係る換水方法である連続換水法(かけ流し換水)を用いた場合のシミュレーションは、下記式(5)に基づいて行った。シミュレーション結果について、図6に破線にて示している。
【0098】
=S/a’*(1-e-a’*t) ・・・(5)
ここで、Pは飼育水26の汚濁物質濃度(mg/L)、Sは飼育水26の汚濁物質濃度の増加速度(mg/L/day)、a’は日間換水率、tはシミュレーション日数(day)を示す。なお、汚濁物質濃度の増加速度Sは1mg/L/day、日間換水率a’は0.1とした。
【0099】
図6に示すように、本実施形態に係る換水方法によれば、従来技術に係る連続換水法よりも、飼育水26の汚濁物質濃度が低い濃度で推移している。したがって、本実施形態に係る換水方法によれば、簡便でありながら、従来技術と同等以上の汚濁物質の除去効果を得ることができる。
【実施例0100】
本発明の一実施例について、図7および図8を参照して以下に説明する。本発明の一実施例として、漁獲された海水魚について、本発明の一実施形態に係る飼育システムを用いて、本発明の一実施形態に係る換水方法を実施しながら飼育する実験を行った。実験の条件は以下の通りである。
【0101】
・飼育システム:図1に記載のものを使用、飼育水槽8の容量は5トン
・高塩分濃度水:塩分濃度3.3%の海水、低塩分濃度水:塩分濃度0%の水道水
・飼育水26の塩分濃度の所定範囲CR:上限値Cmax=2.7%、下限値Cmin=1.4%
・日間換水率:0.055(これに合わせて飼育水26の水位上限および下限を設定)
・日間換水頻度:1回
・換水期間:塩分濃度が所定範囲に収まるように設定
・実験(塩分予測)期間:144日間(期間中、海水魚をそれぞれ不定期間飼育)
・海水魚の魚種:キジハタ、オニオコゼ、ハモ、マダイ、カワハギ
飼育水26の塩分濃度は、上記式(1)により予測した。予測した塩分濃度は、図7に実線にて示している。また、不定期に飼育水26の塩分濃度を実測した。実測した塩分濃度は、図7に白抜き丸として示している。なお、各換水期間(第1ステップまたは第2ステップ)の開始時に、それぞれ塩分濃度の実測値により塩分濃度の予測値を更新した。更新を行った時点について、図7に下向きの矢頭として示している。
【0102】
また、144日間の実験期間中に、一度だけ高塩分濃度水(海水)を大量に給水した。高塩分濃度水(海水)を大量に給水した時点について、図7に下向きの矢印として示している。
【0103】
実験結果について、図7に塩分濃度の予測値と塩分濃度の実測値との比較結果を示す。また、図8に本実験で飼育(生産)した海水魚の評価結果を示す。海水魚の評価は、活魚品質を「優」、生鮮鮮魚品質を「良」、加工鮮魚品質を「可」、廃棄品質を「不可」とした。すなわち、「優」「良」「可」「不可」の順で、「優」が最も高品質であり、「不可」が最も低品質である。
【0104】
図7に示すように、飼育水の塩分濃度の予測値は、実測値と非常に近かった。すなわち、本発明の一実施形態に係る塩分濃度の予測方法は、予測精度が良好であることが示された。また、図8に示すように、本発明の一実施形態に係る換水方法により飼育(生産)された海水魚は、備蓄日数(飼育日数)を問わず、「不可」であるものがほとんどなかった。したがって、本発明の一実施形態に係る換水方法によれば、安定して高品質な海水魚を飼育および生産できることが示された。
【0105】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態または実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0106】
100 換水装置
1 飼育システム
3 給水切替部
4 制御盤
7 水位センサ(水位検知部)
8 飼育水槽(水槽)
9 生物濾過槽
12 排水バルブ
13 給水バルブ
14 第1給水口
15 第2給水口
26、27 飼育水
Cmax 上限値
Cmin 下限値
S10 第1ステップ
S11 第1排水サブステップ
S12 第1給水サブステップ
S13 第1均一化サブステップ
S20 第2ステップ
S21 第2排水サブステップ
S22 第2給水サブステップ
S23 第2均一化サブステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8