(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086097
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】空中用音響整合層とこれを用いたセンサー
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197921
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】512117683
【氏名又は名称】永井 清
(72)【発明者】
【氏名】永井 清
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA22
5D019FF01
(57)【要約】
【課題】空中用超音波センサーに於いて発信源の圧電材料と空気との音響インピーダンスが大きく異なる。一般的には整合層を設けるが余りにもその数値差が大きいため課題が有った。本特許は、この課題を解決する手段を提案した。
【解決手段】圧電材料が発する超音波エネルギーを空気中に透過させる値を最大にする整合層を設けることに成功した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中用の超音波センサーの発信源である圧電素子に設けた音響整合層において、該音響整合層を構成する有機樹脂材料の密度が1.5g/cm^3以下、かつ音速が1,500m/Seci以下の中空球状微粒子有機樹脂材料で構成されていることを特徴とする音響整合層。
【請求項2】
請求項1を包含し、使用する有機樹脂材料はシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェ―ノール樹脂、アクリル樹脂およびこれら樹脂と同等の物性値を有する有機樹脂で構成される中空球体粒子からなる事を特徴とする音響整合層。
【請求項3】
請求項1および2を包含し、中空球状粒子間に形成される空間を中空球状粒子を構成する有機材料で充填し接着したことを特徴とする音響整合層。
【請求項4】
請求項1,2および3項を包含し、該音響整合層に付設した圧電材料からなる発信源および音響吸収層を保有することを特徴とする空中用センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波発信源と超音波が伝搬する媒体間で生ずる音響インピーダンスの差を緩和する音響整合層と、これを用いたセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現代の社会生活に於いて超音波の利用は広範囲に及んでいる。多くの場合、その発信源は圧電セラミックスまたは水晶が主たるものである。
【0003】
超音波を利用する機器に於いては電気信号を超音波信号に変換する素子により被検体に超音波信号を送信し、被検体部の密度変化により発生する超音波の反射を再度素子で受ける。これを電気信号に変換後、これら情報を可視画像として映像化し、被検体の解析評価に使用する。これら機器に使用する変換素子の代表的キーマテリアルはチタン酸ジルコン酸鉛(通称PZTと言われている)圧電素子で構成されている。圧電素子(PZT)は電気信号を超音波に変換する機能が高い(電気機械結合係数)事から頻用されてきた。特に変換後の超音波を効率よく被検体に伝搬させる機能を併せて保有することが重要かつ欠くべからざる必須の特性である。
圧電素子としては、上記PZTに微量成分としてマグネシウム(Mg)やニオビウム(Nb)を加えた三成分PZTやPM-NT系の単結晶や水晶も特性の適合性を考慮し広く使用されている。
【0004】
超音波は色々な媒質の中を伝搬するが異なる媒質の境界面では両者の密度と伝搬する音速の違いに起因する反射が起こる。
このため異なる媒質を超える場合には超音波の音圧およびエネルギーの伝搬が大きく阻害され、超音波の音圧およびエネルギーの反射が起こる。特に、物質の密度と伝搬する音速の積を音響インピーダンスと定義し、超音波物性を論ずる場合の尺度としている。
【0005】
現在、超音波を利用して広義の計測を行っている多くの機器、装置を媒体別に分類すると(1)空気またはガス:距離計測やガス分析等(2)水もしくは液体:ソナー、魚探、プロッターおよび各種医療用超音波診断装置等(3)固体関連:金属探傷器、コンクリート欠陥探索および各種膜厚計等である。
【0006】
先に、現用の圧電素子としてはPZT(チタン酸鉛・ジルコン酸鉛)および、これをベースとし微量成分としてマグネシウム(Mg)やニオビウム(Nb)を加えた三成分PZTやPM-NT系の単結晶圧電材料である事に触れた。
これ等の音響インピーダンス(Zo)は20~30MRaylである。一方、媒体が空気であると、その音響インピーダンスは0.0004MRayl、水や人体の音響インピーダンス(Zm)は1.5MRayl、固体では千差万別であるが銅:45MRay、鉄は38MRaylおよびエポキシ樹脂は2~3MRayl、シリコーンラバーは1.2MRayl程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開:2005-269133
【特許文献2】国際公開番号:WO2013-190852
【特許文献3】特開2002-262394
【特許文献4】特開:平2-177799
【特許文献5】国際公開番号:WO2020-017478
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jeffrey H.Goll:"The design of broad-band fluid-loadeo ultra-sonic transducers" IEEE transc,on Su,Vol.SU-26No.6(Nov.1979)
【非特許文献2】Jaques Souquet,Philippe Defranoud,Jean Desbois: "Design of low-loss wide-band urutrasonic transducer for noninvasive medical application" IEEE, transc. onSU Vol. SU-26, No.2(Mar.1979)
【非特許文献3】Charles. S. Desilets, John D.Fvaser, Gordon S. Kino:"The design of efficient broad-band piezoelectric transducer"IEEE transc, onSU. Vol. SU-25. No.3(May1978)
【非特許文献4】K.K.Phai and S.K.Nigogi:Young's modulus of porous materials, J.Mater. Sci. 22. pp257-263,1987
【非特許文献5】G.D.MaAdm: J. Iron steel Inst., 168 pp346-358,1951
【非特許文献6】広瀬ほか:焼結鉄の弾性率に及ぼす気孔効率および気孔形状の影響、Tokyo Metoropolitan College of Aeronautcal Engineering ,2020.10, pp35-41(都立航空専門学校 平成13年度 研究紀要 第39号)
【非特許文献7】空中音波送波器の音響整合層のための粒子分散型複合材料の設計とその音響特性:斎藤他、秋田大学 工学資源学部 電気電子工学科、素材物性学雑誌 Vol.19 第1/2号 (2006年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先ず、現状の空中利用の超音波発信源に対する整合層の現状について触れる。
既に触れてきた通り、媒体が空気で超音波の発信素子がPZT系の圧電素子のケースでは整合層の設定が非常に難しい。その理由はPZT系素子の音響インピーダンス(Zo)は20~30MRaylである。一方、水(人体)の音響インピーダンスは1.5MRaylであり空気の音響インピーダンスは0.0004MRaylである。
【0010】
非特許文献1~3で示されている通り音響インピーダンスが異なり相接する物質の境界面で反射する超音波の割合は(Zo-Zm)/(Zo+Zm)で規定される。
従ってPZT系の素材で構成されたプローブを直接人体に接したケースで計算してみると、その境界面で90%余りの超音波が反射されてしまう結果となる。
一方、超音波エネルギィーの透過率は4Zo*Zm/(Zo+Zm)^2により算出できるがZo*Zm^(1/2)の条件を満たす整合層ZMLを設けた時、透過率が最大となる。その場合の透過率の最大値は1である。
この様に被検査対象の構成物質は圧電材料の、それと比べて極めて多用な値を持っているので、効率を考える場合には最善の注意を払う必要が有る。
特に音響インピーダンスが極端に小さい水および空気に対しては検討する課題が多い。
被検体から反射された超音波も受信デバイスである素子に到達する過程は同じ論理で極めて効率が悪いことが判る。そこで音響インピーダンスが異なる媒体間で超音波の反射を如何に減らして、その減衰を最小限に食い止めるか数々の工夫がなされてきた。
すなわち、大きく異なった音響インピーダンス媒体の間に、音響整合層と命名された中間的な音響インピーダンスを持つ層を設け、可能な限り超音波の音圧とエネルギィーの反射量を小さくし、トータルで超音波の両物理量を効率良く透過させる手法である。
【0011】
大きく音響インピーダンスが異なる媒体に於いて、最適な整合層を設けるために理論的な考察が(非特許文献2~3)等において提案されてきた。これらの中でS.Desilet等の提案した設計基準式がシミュレーション結果と併せて評価の結果、その信頼性が高く評価されて、整合層の設計に多く利用されてきた。
すなわち、整合層が単一の場合は(Zo*Zm^2)^(1/3)、二重整合層の場合に於いては第一整合層を(Zo^4*Zm^2)^(1/7)、第二整合層を(Zo*Zm^6)^(1/7)と定める提案である。
また、整合層ZMLは前項で触れた様に、式:ZML=(Zo*Zm)^(1/2)を満足するとき超音波エネルギィーの透過率が最大となる。
【0012】
整合層は複数設けて超音波の透過率を大きくすることが可能である。経済性との絡みで通常は2~3層のことが多い。然し音響インピーダンスが大きく異なる空中整合層等にあっては超音波透過エネルギーを主体に考慮するケースもある。
【0013】
既に示してきた通り、理想とする整合層を理論的に求めることは可能である。
超音波発信源と伝搬空気媒体との極端な音響インピーダンスの差がある中、超音波のエネルギ―透過率が最大値となる様な整合層の音響インピーダンスを(0011)項に示した理論式を用いて計算してみると0.11MRaylとなる。現状、この値を単独で賄える物質は存在しない。
音響インピーダンスを下げる手法は次に示す3つの方法が有る。(1)使用材料の密度を下げる(2)該材料の音速を下げる(3)密度および音速共に下げる。
要求される整合層に対して、その音響インピーダンスを満足させる手段として密度の異なる素材を混合して複合材料として、それを賄う方法や、素材に空隙を設け密度を低下させる方法が考案され提供されてきた。
【0014】
特許文献1および2に於いては(0013)項に記載の(1)を主体に考案している。すなわち、密度を可能な限り低くする目的で空孔を含む乾燥ゲルを結合粒子により結合し、乾燥ゲル間に構成される空間を残存させることで、より低密度化を図った整合層の製造を提案している。しかし製品の密度の低減に関する具体的な数値と音速の数値に対する言及はあるが、該材質の具体的なサンプルの密度と音速データおよび音響インピーダンスの記述には及ばない。
また、乾燥ゲルと結合粒子および、これ等で構成される空間の相互関係に関する記述は一切ない。従ってミクロな均一性はないものと思慮する。
【0015】
特許文献3に於いて整合層の理想値0.11MRaylに対して、ガラスバルーンやプラスチックバルーンを樹脂で固定した音響インピーダンスが0.75MRaylの値をもった整合層が得られたことが記載されている。しかし、材料の形状や構造に関する詳細な記述はない。
【0016】
特許参考文献4には(0013)項記載の(3)を主体に考案している。すなわち、密度を可能な限り低くする目的でべースとなる基本材料に有機樹脂を選び、該樹脂材料の密度を低減する目的で樹脂材料中に中空のガラスバルーンやプラスチックバルーンを混ぜている。すなわち、中空球体のマトリックスと中空球体間に空隙がある整合層を作成し、密度が0.5g/cm^3,音速が900m/Sec.で、音響インピーダンスは4.5MRaylの整合層を得た記述がみられる。しかし、中空のガラスバルーンやプラスチックバルーンの形状および位置関係の詳細なる記述はない。理想的な空中整合層の値0.11MRaylに対して0.45MRaylの空中整合層を得たことが記述されているが理想値からは程遠い。
【0017】
非特許文献7に於いて、中空プラスチック粒子をシリコーンゴムに均等に分散させた粒子分散型の複合材料を整合層とする試みをし0.25MRaylの音響インピーダンスを持った整合層が製作できた旨の記載がある。(0013)項の(3)の条件に合致した内容の検討である。
しかし、(1)中空プラスチック粒子の分散が均一にできてない。これは特性全般の致命傷となっている。従って(2)複合材料の音速にバラツキを生じている。(3)中空プラスチック粒子の混合割合を増加させても理論値通りに音響インピーダンスが低減しておらず、空中整合層としての目標を達成していない。すなわち、目的とする0.11MRaylの値には程遠い結果である。この要因は空孔形成材の取り扱いに大きな問題を含んでいるためと思料する。
【0018】
前項で空中整合層に対する現状を把握した。これ等の内容から理想的な空中整合層を製造するために何が必要か改めて考察する。
【0019】
先ず(1)整合層を形成するベースとなり得る可能性がある材料の物性について把握する。(2)この材料をベースとし音響インピーダンス特性に大きく関与する密度の低減策を図る。(音響インピーダンスは構成材料の密度と、その材料中を伝搬する音速の責で決まる)
すなわち密度の低減策として材料中に空孔を介在させた複合材料を製造する。これによりベース材料の音響インピーダンスを本体の値より大きく低下させ、同時に複合材料中の音波の伝搬速度も低下させる試みである。
これら試みにあって重要な課題として空孔の均一分散を如何にするか、と言う問題が残る。本発明者は特許文献5により既に、この問題を解決し多孔質圧電セラミックの製造に供している。
【0020】
その原理は(1)同じ径を持つ微粒球状粒子を容器に入れた時、相接する微粒球状粒子が形成する空間は容器の容積の約30%を占める。すなわち容器に収納されている球状微粒子の容積は容器容積の70%に過ぎない。(2)この場合、限り無く同径に近い微粒子であれば微粒径に関係なく、この関係は成立する。(3)球状微粒子および、これ等で形成される空間は極めて正確な位置関係を保つ。すなわち、規則正しい配列をする。
従って、この原理を使用して空孔の均一分散は十分担保できる。空孔率が比較的低い整合層の製造に於いては(イ)空孔を形成する中空有機樹脂製球状粒子壁を厚く、かつ(ロ)該中空球状粒子間で構成される空間に球状粒子と同材の有機樹脂を充填することにより達成できる。
空孔率が高い整合層を製造するためには(ハ)中空球状粒子間で構成される空間は、そのまま保持し空孔を形成する中空有機樹脂製球状粒子壁をコントロールする。
極めて規則正しい空間を形成することが可能であると同時に空間率の制御も可能である。従って空中整合層に最適な音響インピーダンスをもった整合層を簡単に供給可能である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は空中用途の超音波発信子に対する最適な整合層の構成材料に係わり、整合層の設計に寄与する複合材料の機能設計資料と、これを用いた整合層の設計に関するものである。
【0022】
整合層の設計に於いて重要な事は、その音響インピーダンスを規定するファクターの数値選定にある。既に記述した通り音響インピーダンスは整合層を構成する物質の密度と、構成物質中を伝搬する音速との積で決まる。しかし機能設計を考慮した複合材料の試作に当たって密度は物理の法則により比較的簡単に算出できる。しかし音速は機能材料製造後でないと実測できない。
予め整合層製造前に音速が推測できれば極めて効率よく整合層の機能設計が可能となる。音速Vが構成物質のヤング率Yoと密度ρの関数である事に注目し、密度の変化によりヤング率が、どの様に変化するか考察した。
物質内の音速V、その物質の密度ρおよびヤング率Yoとの間には下記に示した(a)の関係がある。
音速V^2=ヤング率Yo/密度ρ ・…・ (a)
従って、整合層を構成する物質の機械的物性であるヤング率と空孔率の関係が分かれば整合層の設計段階で音速が推測可能となり音響インピーダンスの値も推測し得る。
【0023】
金属やセラミックスおよび有機材料に異種材料を存在させることにより複合材料を構成し、その機械的特性や付随する各種特性を変える技術も数多く開発されてきた。
これら材料中に空孔を存在させたポーラス材料に対する機械的特性の変化についても理論的考察が多く為されてきた。比較的多く引用され学術的な信頼性も高いと思われる非特許文献4~6等に発表された数式を参考に検証を試みた。表1は空孔率に対するヤング率の変化の様子を論文に掲載された内容をグラフ化して示した。(非特許文献4~6)同時に、これら論文の空孔率V.S.ヤング率の平均値を点線で示した。
【表1】
【0024】
前項で示したMcAdam等の論文には原材料のヤング率をYoとし、原材料に均一分散させた空孔の空孔率をPとした場合、ヤング率Yについて、Y=Yo(1-P)^nが成り立つことが記述されている。この理論式と同様に他の非特許文献(掲載せず)に於いて、Y=Yo(1-kP)^nやY=Yo(1-1.9*P+0.9*P^2)も提案されてきた。
上記の理論式はMcAdam等の論文で提案された理論式の内、n=2に相当する近似曲線を描いている。
これ等の論理式の適応についてはベースとなる材料が金属かセラミックスか或いは有機材料等の違いにより変わるものと思料する。其々の材料について実験結果に基ずく実測値をプロットした。これにより提案されている理論式のうち適用する最適なベキ数nを決めることが同種材料の物性の推測に役立つと考えた。これ等は整合層に求められる音響インピーダンス設計に有用な設計基礎資料となる。
【0025】
圧電材料等セラミックスに関して行なった母材PZTのポーラス化実験では、表1に示した通りn=4と定めることが適当と判断した。同様にシリコーンラバーについても同様にn=3と定めると理論曲線に実験数値が乗ることが判った。
【0026】
整合層の製作時、多くの場合その密度を低減する目的で母材に空孔を設けることを配慮し、アルミナセラミックやガラス製バルーン(中空球体)や樹脂製のバルーンが考えられてきた。母材に空孔を設けて密度を低減させることは、図らずも母材のヤング率の低減にも寄与している。
何等かの形体で整合層に使用される素材について空孔率とヤング率の関係を表2に示す。
【表2】
【0027】
音響インピーダンスを極力小さな値にする方策としては(0022)項で示した式(a)のヤング率及び密度を可能な限り小さな値とすることが肝要である。
【0028】
表2が示す通り、空中用整合層としては有機樹脂材料に空孔を介在させたもの以外、適切な材料がないことが判る。
【0029】
既に述べてきた通り、空気の音響インピーダンスは0.0004MRaylと非常に小さい。それ故、空中整合層に使用するベース材料は可能な限り空気の音響インピーダンスに近い値をもった材料が望ましい。音響インピーダンスの小さな整合層用として最適な材料を選定するならばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、、フェノール樹脂、合成ゴム、およびポリエチレンやポリメチルメタアクレレート(PMMA)等が、その物性ならびに入手し易さ等から最適である。
因みにエポキシ樹脂の音響インピーダンスは1.65~2.10、シリコンおよびフェノール樹脂は0.97~2.0、合成ゴムは1.7、ポリエチレンは1.8およびポリメチルメタアクレレート(PMMA)は0.83~0.85等である。
【0030】
表3はシリコーンラバーに空孔を介在させた場合、空孔率(体積%)の変化に対して理論的な音響インピーダンスの変化を示した。
机上設計法として、先ず(1)空孔率の変化に対するヤング率の変化を理論的に求める。(2)同時に空孔率の変化に対する密度の変化を求める。(3)物体中の音速は、物体の密度とヤング率の関数なので上記(1)および(2)から各空孔率に対する音速を求める。
(4)音響インピーダンスは音速と密度との積として求められる。
音響インピーダンスの理論的な設計は上記プロセスを踏むことにより可能である。各空孔率のサンプルの超音波の音速を測定することにより、簡単に検証できる。
【表3】
【0031】
シリコンを使用した場合には空孔率58%以上で音響インピーダンスが0.20MRayl以下の整合層を製造可能である。空孔率が70%で0.10MRaylの整合層を作ることができる可能性を示す。
【0032】
表3は前項シリコーンラバーの論理曲線に対して剛性を加味してベキ数を多少修整しエポキシ樹脂に空孔を存在させた場合、空孔率に対するヤング率の変化を示した。この数値を利用して対応する速度を求め、密度および音響インピーダンスと共にプロットした。
【表4】
【0033】
エポキシ樹脂を使用した場合には空孔率65%で音響インピーダンスが0.20MRayl、空孔率75%で同0.1MRay、空孔率が75%以上で0.1MRayll以下の整合層を製造することが可能である。
【0034】
空中用の整合層に対する必須の条件として、音響インピーダンスを限りなく空気のそれに近付ける目的と、超音波エネルギ―透過率を最大にする条件を加味し整合層の音響インピーダンスの目標値0.11MRaylを決めた。
既に述べてきた通り論理的には、目的とする値をもった整合層を得る事は数値設計上、可能であることが判った。
しかし、問題は空孔率が非常に高いことに有る。すなわち、空孔率に対して抜本的な数値解析が必要となるが本発明者は既に特許文献5に於いて、この問題の解決をしている。
同様な観点から、球状微粒子が稠密状態を形成するとき球状微粒子の数学的な位置関係および相接する球体間に構成される空間について解析した結果を表5に示した。
【表5】
【0035】
同一径を持つ球状微細粒子が規則正しく稠密状態を保つケースに於ける解析を表6に示した。
【表6】
【0036】
前項の解析により得られた球状微粒子および球状粒子間空間について考察した。表7は中空球状微粒子を用いて、これ等粒子間空間を有機樹脂材料で各粒子の接着を兼ねて埋め合わせたケースである。球状微粒子の壁厚と空間率の変化を粒状微粒子の径との関係で示した。
【表7】
【0037】
比較的空間率を大きく採りたい場合には、球体微粒子が構成する空間を、そのまま残しておくことが望ましい。表8には高い空間率を構成する方策を示した。
【表8】
【0038】
(0034)項で述べた通り空中用整合層として求められている要件は、
(1)音響インピーダンスが限りなく空気のそれに近いこと(2)超音波のエネルギー透過率が最大値であること、の2点である。
要件を満たす理想的な整合層の音響インピーダンスの値は0.10MRaylである。一方(0031)項でシリコーン樹脂に空孔を分散させた場合、理論的には空孔率58%以上で0.20MRayl以下の音響インピーダンスを得ることができる。また空孔率70%で0.10MRaylの音響インピーダンスが得られることが裏付けされている。
【0039】
中空の球状微粒子を構成する有機樹脂は空中整合層の目的から、その母材となるシリコーン或いはエポキシ樹脂と同等な物性を持つことが好ましい。特に音響インピーダンスが可能な限り、これらの樹脂に近いことが必須の要件である。この様な条件に適合する樹脂の一つとしてフェノール樹脂がある。
日本フェライト社製、エクスパンセル(マイクロカプセル)はフェノール樹脂製の中空球状粒子で本発明の実施には極めて都合の良い材料である。カタログによれば粒子サイズも多岐に亘り入手可能である。
【0040】
シリコーン樹脂を用いて整合層を作る場合、表3によれば空孔率70%以上で0.10MRaylの音響インピーダンスが得られる。
【0041】
空間率を70%以上、確保するには(1)中空フェノール樹脂微粒子間で構成される空間にシリコーン樹脂等を充填(2)該微粒子間に構成される空間を、そのまま保持する二つの方法がある。空間率は後者の方が大きくすることが可能である。
【0042】
以上述べてきた手段を組み合わせると、空中用整合層として適切な性能を持ったものを製造可能である。すなわち、径が40~60μm、壁厚2.5~4μmの中空フェノール微細粒子を用い、接着用および充填用のシリコーン樹脂を用いて該粒子間にできる空間を埋めると同時に該微粒子相互を接着することにより所望の整合層が得られる。
【0043】
別の方法として、径が40~60μm、壁厚4.0~6.0μmの中空フェノール微細粒子を用い、接着用のシリコーン樹脂を用いて該粒子該微粒子相互を接着することにより0.10MRayl以下の音響インピーダンスを持った所望の整合層が得られる。
【0044】
本発明はさらに本発明の音響整合層に付設されている圧電振動子、該圧電振動子の他の面に付設されている音響バッキング材等からなる空中用センサーにもある。
【発明の効果】
【0045】
空気に最も近い音響インピーダンスを持った有機材料に、空孔を人為的に形成し、より音響インピーダンスを空気に近付けられることは分かっていた。
しかし、数多くの微細な空孔を規則正しく基材である有機樹脂中に分散、或いは存続させる最適な手法が無かったため要望された整合層が出来なかった。本発明は、この難題をクリアして従来無理と思われていた画期的な空中用超音波の整合層を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の製造実施例を説明するための断面図である。割型2および3を外筐型1に予め装着し、これに選粒された球状微粒子3を振り込んだ状態を示す。5は球体微粒子間に形成された空間を示す。4は中空球体微粒子内に存在する空間を示す。
【
図2】
図2は中空球体微粒子で構成された整合層の模写的外観図を示す。
【実施例0047】
実施例1
既に述べた通り、球状微粒子を構成する材質は空中整合層の目的から、その母材はシリコーンやエポキシ樹脂または、これ等と同等な物性を持つ樹脂であることが好ましい。特に音響インピーダンスが可能な限り、これらの樹脂に近いことが必須の要件である。
【0048】
特に音響インピーダンスは可能な限り、これらの樹脂に近いことが必須の要件である。この様な条件に適合する樹脂の一つとしてフェノール樹脂がある。
日本フェライト社製、商品名Expancel、(エクスパンセル:マイクロカプセル)はフェノール樹脂製の中空球状粒子で本発明の実施には極めて都合の良い材料である。カタログによれば粒子サイズも多岐に亘り入手可能である。
【0049】
中空球状微粒子(日本フェライト社製、商品名Expancel、グレード551DE0d42、平均粒径30-50μm)を使用した。
購入した中空球状微粒子は予め超音波振動機付きの篩器に35μmパスのフィルターと25μmパスのフィルターを設けて、中央値が30μmとなる様、選粒工程を設けた。
これにより30±5μmの範囲に有るフェライト製中空微粒子を用意した。選粒された、該球状微粒子を、加工後取り出しが容易にできる様型1の内側設けられた割型2および3の内側に約2mmの厚さに振り込む。
(0036)で触れた、中空球状微粒子間に構成された空間にシリコーン樹脂を介在させる場合には比較的高い粘性を持ったシリコーン樹脂(例えば信越化学、KE-445-Tや中粘性タイプのKE-3417およびKE3418)を注入する。より確実に粒子間空間にシリコーン樹脂を注入したい場合には減圧下の雰囲気で、この工程を行うことにより作業の万全を期すことができる。
メーカー推奨の作業工程を経て、割型2および3を型1から取り出し、被加工物である整合層シートを取り出す。
其の後、整合層シートは空中センサーの使用周波数のλ/4の奇数倍に相当する厚さに加工する。多くの場合、その厚さは200μm~400μm程度である。
【0050】
空間率を大きな値に設定する場合には、中空粒子間の空間に樹脂を充填しない。この様なケースでは(0043)のプロセスを踏んで整合層を製造する過程で接着材であるシリコーン樹脂を低粘性の物を選定する。
信越化学製、「超低粘度耐熱一液型シリコーン接着剤KE-3410,3411等が最適であった。メーカ推奨の作業基準に従って、整合層の製作を行った。
【0051】
前項迄シリコーン樹脂を用いたケースの実施例を説明してきたが、エポキシ樹脂または、これら樹脂と相当なる物性値を保有する樹脂を使用した場合に於いても、全く同じ工程により空中用整合層の製造が可能である。
敢えて付け加えるならば、接着剤は低粘性のエポキシ樹脂(積水化学製、低粘性含侵用)ER1426が最適であった。
【0052】
この様な工程を経て得られた空中用整合層の特性を計測した結果を表8に示した。
密度はAnton Paar 社のDMA4100Mにより測定した。また、音速は超音波工業(株)UVM-2を用いて測定した。音響インピーダンスは密度ρと音速(m/Sec)の値が分かれば、その積で求められる。
表8に示した通り、所期の目的通りの音響インピーダンスを持った整合層を得ることができた。
ただし、Expancelは肉厚3μmの中空球状粒子を使用したが、各粒子間にシリコーンおよびエポキシ樹脂を充填しないサンプルは機械的強度にやや難が有り、これを使用するケースに於いては空中センサーに装着する形状に考慮する必要が有った。
【表8】