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特開2022-86175ヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法
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  • 特開-ヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法 図1
  • 特開-ヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086175
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】ヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/61 20060101AFI20220602BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220602BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20220602BHJP
   C12Q 1/533 20060101ALI20220602BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220602BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20220602BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20220602BHJP
   C12Q 1/527 20060101ALI20220602BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20220602BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220602BHJP
   C12N 9/90 20060101ALN20220602BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20220602BHJP
【FI】
C12N15/61
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/48
C12Q1/533
C12N15/31
C12N15/54
C12Q1/689 Z
C12Q1/527
C12N15/60
C12N9/10
C12N9/90
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198048
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 海平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 淳治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 琢也
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B050DD02
4B050KK07
4B050LL05
4B050LL10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ15
4B063QQ26
4B063QQ38
4B063QQ39
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ67
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】微生物がヒト腸管に長期定着し続けるための因子について明らかにし、その因子を利用したスクリーニング方法等を開発する。
【解決手段】微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現の有無を確認することを特徴とするヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現の有無を確認することを特徴とするヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項2】
微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および細胞外多糖発現の有無を確認するものである請求項1に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記微生物がビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムである請求項1または2に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記微生物が乳児由来のものである請求項1~3のいずれか1項に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記ヒト腸内の長期定着が、少なくとも乳児期から幼児期までである請求項1~4のいずれか1項に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項6】
微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群がputative dTDP-4-dehydrorhamnose 3, 5-epimerase遺伝子のホモログを含み、この遺伝子が配列番号11および12に記載のプライマーで検出されるものである、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項7】
微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群がputative dTDP-4-dehydrorhamnose 3, 5-epimerase遺伝子のホモログを含み、この遺伝子が配列番号1、3、5、7、9のいずれか1つに記載の配列またはそのホモログである、請求項1~6のいずれか1項に記載のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法。
【請求項8】
配列番号1、3、5のいずれかに記載の配列であることを特徴とするラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれる遺伝子。
【請求項9】
配列番号11および12に記載のラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるputative dTDP-4-dehydrorhamnose 3, 5-epimerase遺伝子ホモログの増幅用プライマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法、その方法に用いられる遺伝子、プライマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム(Bifidobacterium longum ss. longum)は、乳児から老人まで幅広い年齢層において、ヒト腸内から分離される亜種であり、ヒトと密接な共生関係をもつと考えられる腸内細菌である。また、同亜種はコレステロール吸収抑制効果や整腸作用などの様々な生理効果を有することが知られているが、その効果を発揮するためには、単に腸管を通過するだけでなく、腸内に長期定着することが重要と考えられている。
【0003】
また、生後初期の腸内細菌叢は、その後のアレルギーの発症や肥満といった疾病リスクとの関連が知られている。そのため、生後初期の乳児の腸内に長期定着し、腸内環境を改善するなどの生理効果を有する微生物を見出すことは非常に有用であると考えられる。さらに、生後初期においては、腸内細菌の構成が変化しやすく、出産様式や、離乳による食事成分の変化、宿主免疫の発達、投与される抗生物質といった様々な影響を受ける。そのため、この時期に腸内に長期定着する微生物を見つけることは、腸内環境の変化に耐えうる微生物を見出すという点からも有用である。
【0004】
ヒトの生後半年以降に分離される同亜種の2菌株が、それぞれ同じ被験者の腸内に約6年間定着し続けることがロシアの研究グループから報告されている(非特許文献1)。
【0005】
また、本出願人らも生後半年以内の乳児期から追跡調査を行っている幼児(約6歳)の腸内から、長期定着していた3株のビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムを報告している(非特許文献2)。
【0006】
しかしながら、これらの報告では、単に実際にヒト腸内に長期定着していた菌株を発見したことを報告するのみで、これらの菌株がヒト腸内に長期定着し続けるための因子については何ら報告していなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shkoporov AN, et al., Biosci Biotechnol Biochem., 2008, 72:742-8.
【非特許文献2】Kaihei OKI, et al., BMC Microbiol,2018, 8:209.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、微生物がヒト腸内に長期定着し続けるための因子について明らかにし、その因子を利用したスクリーニング方法等を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、微生物がヒト腸内に長期定着し続けるための因子を見出し、それらの因子を利用したヒト腸内に長期定着する微生物を発見するためのスクリーニング方法を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現の有無を確認することを特徴とするヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法である。
【0011】
また、本発明は、配列番号1、3、5のいずれかに記載の配列であることを特徴とするラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれる遺伝子である。
【0012】
更に、本発明は、配列番号11および12に記載の微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれる遺伝子増幅用プライマーである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法は、ヒト腸内に長期定着する微生物を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ヒト腸内に長期定着する微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群とその周辺遺伝子の模式図を示す。
図2図2は、細胞外多糖発現試験の結果を示す(図中、(A)は長期定着菌株(LTC:左から1521、1784、1854)、(B)は非長期定着菌株(Non-LTC:左から1268、1844、2289、2488)である)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のヒト腸内に長期定着する微生物のスクリーニング方法(以下、「本発明方法」という)は、微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現の有無を確認するものであり、好ましくは微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および細胞外多糖発現の有無を確認するものである。ここで言うラムノース前駆体代謝遺伝子群とは、dTDP-glucose 4,6-dehydratase遺伝子、putative dTDP-4-dehydrorhamnose 3, 5-epimerase遺伝子(以下、rfbC遺伝子ということがある)およびGlucose-1-phosphate thymidylyltransferase遺伝子、またはそれぞれのホモログによって構成されるオペロンである。また、ホモログとは、この遺伝子産物のアミノ酸配列に、例えばblast+ といった既存の相同性検索ソフトウェアを用いてアライメントした際、カバレッジおよび相同性が50%を超える、および/またはe-valueが10-6を下回るアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子のことをいう。なお、ここで長期定着とは、前記微生物がヒト腸内に長期間定着し続けることをいい、特に、少なくとも乳児期(生後1年以内)から幼児期(6歳)までの間、ヒト腸内に定着し続けることをいう。
【0016】
本発明方法により、スクリーニングされる微生物は、特に限定されず、例えば、自然界に存在するものであっても、それを変異させたものであってもよい。微生物としては、例えば、乳酸菌やビフィズス菌が挙げられ、好ましくはビフィドバクテリウム ロンガム、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ラムノーサス等が挙げられるが、ヒト腸内に長期定着する可能性が高いことから、ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムが特に好ましい。微生物は、ヒトの乳児由来のものが好ましく、ヒトの乳児の腸管、糞便等由来のものが特に好ましい。なお、ここで言う乳児とは生後1年以内のヒトをさし、幼児は生後1年以降から生後6年までのヒトをさす。
【0017】
なお、微生物が確実にヒト腸内に長期定着するかどうかを確認する方法としては、例えば、長期間同じヒトの腸管または糞便から微生物を採取する等の方法を用いて、同じヒトの腸内における微生物の存在を確認する方法等が挙げられる。
【0018】
本発明方法において、上記微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在の有無は、公知の遺伝子解析技術でその全配列や部分配列を特定することで確認できるが、ラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるrfbC遺伝子のホモログを特定して確認することが好ましい。ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムのrfbC遺伝子のホモログは、多くの場合、ラムノース前駆体代謝遺伝子群にのみ含まれる遺伝子であるため、この遺伝子を特定することでラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在の有無を確認することができる。具体的に、遺伝子解析技術としてプライマーを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いる場合には、rfbC遺伝子のホモログを増幅できるプライマーを用いることが好ましい。配列番号11または12に記載のプライマーは、ラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるrfbC遺伝子やそのホモログを増幅できるものである。本発明方法においては、上記のようにして微生物にラムノース前駆体代謝遺伝子群が有るものを選択する。
【0019】
また、上記微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在の有無を確認する方法は、上記方法の他に、ラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるrfbC遺伝子のホモログの存在の有無を公知の方法で確認する方法が挙げられる。rfbC遺伝子のホモログの例としては、配列番号1、3、5、7、9のいずれか1つに記載のものが挙げられる。これらの配列番号1、3、5、7、9のいずれかに記載の配列のホモログの有無をDNAシーケンサー等で確認し、本発明方法においては、上記のようにして微生物にラムノース前駆体代謝遺伝子群が有るものを選択する。
なお、配列番号1、3、5に記載のラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれる遺伝子は、下記(1)~(3)の菌株のものであり、配列番号7および9に記載のrfbC 遺伝子のホモログは、非特許文献1で公知のビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム(35B、44B)のものである。
【0020】
なお、上記ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺(上下流約 30KB)遺伝子領域には細胞壁成分や細胞外多糖の生合成への関与が示唆される複数の遺伝子群が存在する。このような遺伝子領域は2つのタイプに分けられ、それぞれ以下のような特徴を有する。
<Type1>
・複数の glycosyltransferase 遺伝子と多糖合成遺伝子を有する
・ラムノース前駆体代謝遺伝子群は遺伝子領域の縁に、トランスポゾン配列に囲まれて存在する
・細胞外多糖(以下、EPSということがある)合成の開始を担う Priming glycosyltransferase (GTF) が領域内に含まれる
<Type2>
・複数の glycosyltransferase 遺伝子が領域内に散在する
・1~複数個の多糖合成遺伝子およびABC-transporter 様の遺伝子がラムノース前駆体代謝遺伝子群近傍に存在する
・ラムノース前駆体代謝遺伝子群は領域の中心付近に存在する
・両端の6遺伝子は菌株間で保存されている
・Priming GTF が領域内に含まれず、離れた領域に存在する
【0021】
また、本発明方法においては、ラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるrfbC遺伝子およびそのホモログの存在の有無を、例えば、以下のプライマ-を用い、それによりrfbC遺伝子が増幅されるかどうかで判断することができる。
【0022】
rfbC-Fプライマー(配列番号11):AGCCRTGGGACAARTACATC
rfbC-Rプライマー(配列番号12):CRTTGATGATVGTGCCRTAC
【0023】
これらのプライマーを用いてrfbC遺伝子を増幅する方法や条件は特に限定されないが、例えばアニ―リング温度を55度に設定した一般的なPCR法が挙げられる。
【0024】
本発明方法において、上記微生物の細胞外多糖発現の有無は、微生物を1%グルコース添加GAM寒天培地で嫌気的に培養して、得られた菌体を2N水酸化ナトリウムで分解した上清をエタノールと混合した際に、繊維状の物質が検出されることにより細胞外多糖の発現が有りと確認することができ、それ以外は発現無しと確認することができる。本発明方法においては、上記微生物に細胞外多糖発現が有るものを選択する。
【0025】
本発明方法により、スクリーニングされる微生物は、ラムノース前駆体代謝遺伝子群が有る、および/または、細胞外多糖発現が有るものであるため、ヒト腸内に長期定着するものである。
【0026】
本発明方法を構築するために利用したビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムは以下の5株である。これらはヒト腸内に長期定着していたものである(非特許文献1、2)。
【0027】
(1)ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム(1521)
由来:乳児(生後90日)糞便
科学的性質:運動性を持たないグラム陽性の偏性嫌気性桿菌
rfbC遺伝子のホモログ:配列番号1に記載の配列
細胞外多糖発現:有
ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域:Type2
※細胞外多糖発現は下記の方法で確認。
【0028】
(2)ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム(1784)
由来:乳児(生後120日)糞便
科学的性質:運動性を持たないグラム陽性の偏性嫌気性桿菌
rfbC遺伝子のホモログ:配列番号3に記載の配列
細胞外多糖発現:有
ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域:Type2
※細胞外多糖発現は下記の方法で確認。
【0029】
(3)ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム(1854)
由来:乳児(生後110日)糞便
科学的性質:運動性を持たないグラム陽性の偏性嫌気性桿菌
rfbC遺伝子のホモログ:配列番号5に記載の配列
細胞外多糖発現:有
ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域:Type1
※細胞外多糖発現は下記の方法で確認。
【0030】
(4)ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 35B
由来:幼児(生後11ヵ月)糞便
rfbC遺伝子のホモログ:配列番号7に記載の配列
ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域:Type2
【0031】
(5)ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 44B
由来:乳児(生後9ヶ月)糞便
rfbC遺伝子のホモログ:配列番号9に記載の配列
ラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域:Type2様(公開されているドラフトゲノム中のコンティグが領域内部で分断されているため、一部未解読領域が含まれる。)
【0032】
なお、本発明方法でスクリーニングして得られる微生物は、ヒト腸内に長期定着するものであり、この微生物は、従来公知の微生物と同じく飲食品に利用することができる。
【0033】
具体的に、本発明方法でスクリーニングして得られる微生物が、ビフィズス菌であれば、これを発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、発酵豆乳、発酵果汁等の飲料、ヨーグルト、チーズといった発酵飲食品に利用することができる。このような発酵飲食品を摂取すれば、ヒト腸内に長期定着するため、ビフィズス菌の有する各種生理効果を長期間にわたって受けることができる。
【0034】
本発明により、微生物に、ラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現があれば、ヒト腸内に長期定着する可能性が示された。そのため、ラムノース前駆体代謝遺伝子群および/または細胞外多糖発現を誘導する遺伝子を常法に従って微生物に組み込めば、微生物がヒト腸内に長期定着し得る。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実 施 例 1
スクリーニング方法の開発:
(1)ヒト腸内に長期定着していたことが知られている、非特許文献1および2に記載の微生物(長期定着菌株:LTC)の遺伝情報を入手した。なお、1521、1784、1854の遺伝情報については、これまで非公開である。
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 1521
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 1784
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 1854
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 35B
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 44B
また、比較対象として非特許文献2に記載の長期定着していなかった微生物(非長期定着菌株:Non-LTC)の遺伝情報を入手した。なお、これらの菌株の遺伝情報については、これまで非公開である。
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム1268
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム1844
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム2289*
・ビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム2488
*非特許文献2に記載の2285が失われたため、同株であることが確認されている2289を使用した。
【0037】
上記微生物の遺伝情報から、Prokkaソフトウェアver.1.14-dev(Eren et al. (2015) PeerJ. 3:e1319.)を用いてCDSの抽出およびアノテーションを行い、Anvioソフトウェアver.5.2(Seemann (2014) Bioinformatics. 30:2068-9)を用いてパンゲノム解析を行い、パンゲノムに含まれる全遺伝子について、LTCおよびNon-LTCにおける保有頻度を比較した。その結果、LTCには、ラムノース前駆体代謝遺伝子群の中でも rfbC遺伝子のホモログが有意に高頻度で存在していた。上記のラムノース前駆体代謝遺伝子群は、LTC全てから検出され、Non-LTCでは検出されなかった。blast+ v2.10.1 による相同性解析の結果、LTCから検出された上記遺伝子産物は、UniProt データベースに B. longum のrfbC 遺伝子産物として登録されている DJO10A 株の同遺伝子産物[Uniprot ID:B3DPF5]に対し、アミノ酸ベースで相同性 72-99%、カバレッジ 99% かつ e-value 0を示した。また、その周辺の遺伝子領域には、細胞壁成分や細胞外多糖の生合成への関与が示唆される複数の遺伝子群(glycosidase、glycosyltransferase、polysaccharide synthesis protein、rhamnose precursor、ATP transporter など)が存在していた(図1)。
【0038】
また、上記したラムノース前駆体代謝遺伝子群の周辺遺伝子領域には以下のような特徴があった。
<Type1>(1854)
・複数の glycosyltransferase 遺伝子と多糖合成遺伝子を有する
・ラムノース前駆体代謝遺伝子群は遺伝子領域の縁に、トランスポゾン配列に囲まれて存在する
・EPS合成の開始を担う Priming GTF が領域内に含まれる
<Type2>(1521、1784、35B、44B)
・複数の glycosyltransferase 遺伝子が領域内に散在する
・1または複数個の多糖合成遺伝子およびABC-transporter 様の遺伝子がラムノース前駆体代謝遺伝子群近傍に存在する
・ラムノース前駆体代謝遺伝子群は領域の中心付近に存在する
・両端の5遺伝子のアミノ酸配列は菌株間で高度に保存されている
・Priming GTF が領域内に含まれず、離れた領域に存在する
【0039】
上記LTCのうち、1521、1784、1854を用い、Non-LTCのうち、1268、1844、2289、2488を用いて細胞外多糖発現の確認を以下の方法で行った。その結果を図2に示した。
【0040】
<細胞外多糖発現試験>
微生物を1%グルコース添加GAM寒天培地で嫌気的に培養し、得られた菌体を2N水酸化ナトリウムで分解した上清をエタノールと混合した際に、繊維状の物質が検出されることにより細胞外多糖の発現が有りと判定した。
【0041】
LTCは全て細胞外多糖を発現していたのに対し、Non-LTCは細胞外多糖を発現していなかった(図2)。
【0042】
以上の結果より、ヒト腸内に長期定着する微生物には、ラムノース前駆体代謝遺伝子群が存在し、細胞外多糖発現が有った。
【0043】
そのため、微生物のラムノース前駆体代謝遺伝子群の存在および/または細胞外多糖発現の有無を確認することにより、ヒト腸内に長期定着する微生物がスクリーニングできることがわかった。
【0044】
実 施 例 2
ラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれる遺伝子増幅用プライマーの開発:
実施例1で用いたビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガム 1521、1784、1854は、細胞外多糖を発現する。これらの微生物はラムノース前駆体代謝遺伝子群に含まれるrfbC 遺伝子のホモログを高頻度に保有していた。そのため、このrfbC 遺伝子のホモログを増幅し得るプライマーをLTCが保有する同遺伝子の配列に基づいて設計した。設計したプライマーを以下に示した。
【0045】
rfbC-Fプライマー(配列番号11):AGCCRTGGGACAARTACATC
rfbC-Rプライマー(配列番号12):CRTTGATGATVGTGCCRTAC
【0046】
このプライマーを用いて、本出願人が保有しているビフィドバクテリウム ロンガム 亜種 ロンガムの内、ドラフトゲノム情報が取得されている42菌株について、rfbC遺伝子のホモログの有無(Positive30株、Negative12株)を調べたところ、ドラフトゲノム中の同遺伝子の有無が、増幅産物の有無と完全に一致した。
【0047】
以上の結果より、 rfbC 遺伝子のホモログの有無が配列番号11または配列番号12のプライマーにより判断できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のスクリーニング方法は、ヒト腸内に長期定着する微生物を効率よく得ることができるため、ヒト腸内に長期定着する微生物を利用した各種生理効果を期待した各種飲食品等の開発に利用できる。
図1
図2
【配列表】
2022086175000001.app