(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008625
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】腐食を抑制するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
C23F11/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021158929
(22)【出願日】2021-09-29
(62)【分割の表示】P 2018553873の分割
【原出願日】2017-03-30
(31)【優先権主張番号】62/363,574
(32)【優先日】2016-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/322,616
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/273,158
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506041682
【氏名又は名称】エヌシーエイチ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NCH CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドリューニアク,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ステイメル,ライル,エイチ.
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA01
4K062BB12
4K062BB15
4K062BB16
4K062BB25
4K062CA03
4K062CA05
4K062FA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水システムにおける金属部品の腐食を抑制するための組成物及び抑制方法を提供する。
【解決手段】組成物は、アミノ酸ベースのポリマー又はその水溶性塩と、ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩と、及び第2のホスホン酸又はその水溶性塩とを含んでおり、第2のホスホン酸は、(1)ホスホノカルボン酸、又は(2)1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸であり、スズを含まない、組成物である。水システムを処理して、前記水システム中での金属部品の腐食を抑制する方法であって、前記組成物を有効量で前記水システム中の水に加える工程を含む方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水システムを処理して、前記水システム中での亜鉛メッキ鋼部品上の白さびの発生を抑制する方法であって、
アミノ酸ベースのポリマー、
ヒドロキシホスホノ酢酸若しくはその水溶性塩、又は
アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸若しくはその水溶性塩の両方を、
有効量で前記水システム中の水に加える工程を含む方法。
【請求項2】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも3ppmの活性濃度のアミノ酸ベースのポリマー、少なくとも3ppmのヒドロキシホスホノ酢酸、又はそれら両方を、前記水システム中に与える量である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、3ppm~50ppmの活性濃度のアミノ酸ベースのポリマー、3ppm~50ppmの活性濃度のヒドロキシホスホノ酢酸、又はそれら両方を与える量である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ヒドロキシホスホノ酢酸以外のホスホン酸を、有効量で前記水システム中の水に加える工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸の両方が加えられ、
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、前記水システム中で少なくとも9ppmである、アミノ酸ベースのポリマー、ヒドロキシホスホノ酢酸、及び他のホスホン酸の結合活性濃度を与える量である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸の両方が加えられ、
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、前記水システム中で少なくとも6ppmである、アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸の組み合わされた活性濃度を与える量である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸は、前記水システムに加えられる前に、処理用組成物と組み合わされ、前記処理用組成物は、約2重量%~15重量%のアミノ酸ベースのポリマーと、約2重量%~10重量%のヒドロキシホスホノ酢酸とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アミノ酸ベースのポリマー、ヒドロキシホスホノ酢酸、及びトレーサが、前記水システムに加えられる前に、処理用組成物と組み合わされて、
前記水システム中での処理用組成物の量を、前記トレーサの測定に基づいて、周期的に測定する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記処理用組成物は更に、中和アミン、塩素安定化剤、スケール抑制剤、分散剤、別の腐食抑制剤、キレート化剤、及びアゾール腐食抑制剤の1又は複数を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
追加の処理用組成物を必要に応じて加えて、少なくとも3ppmのアミノ酸ベースのポリマーの活性濃度と、少なくとも3ppmのヒドロキシホスホノ酢酸の活性濃度とを維持する工程を更に含み、これらの濃度は、前記水システム中の水の量に加えた場合のものである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸は両方とも、別々に前記水システムに加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ホスホノカルボン酸の有効量を加える工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも2ppmの濃度のホスホノカルボン酸を与える量である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ホスホノカルボン酸は、HEDP、PBTC、又はそれら両方である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
規制されている金属は、前記水システム中の水に加えられない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記処理用組成物は、亜鉛又はスズを含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
水システムにおける金属部品の腐食又は白さびを抑制するための組成物であって、アミノ酸ベースのポリマーと、ヒドロキシホスホノ酢酸と、第2のホスホン酸とを含む組成物。
【請求項19】
第2のホスホン酸は、ホスホノカルボン酸である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその塩である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸ナトリウムである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
規制されている金属は、前記組成物に含まれない、請求項18に記載の組成物。
【請求項23】
ヒドロキシホスホノ酢酸に対するアミノ酸ベースのポリマーの重量比は、90:10~10:90の範囲であり、組み合わされたアミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸のホスホノカルボン酸に対する重量比は、90:10~60:40の範囲である、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
約2重量%~15重量%のアミノ酸ベースのポリマーと、約2重量%~10重量%のヒドロキシホスホノ酢酸と、約2重量%~10重量%のホスホノカルボン酸とを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
中和アミン、塩素安定化剤、スケール抑制剤、分散剤、別の腐食抑制剤、キレート化剤、アゾール腐食抑制剤、及び蛍光色素トレーサの1又は複数を更に含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
1又は複数のモノエタノールアミン、ポリカルボキシレートポリマー、カルボキシレート/スルホネート機能性コポリマー、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール)、及び1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩を更に含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも3ppmの活性アミノ酸ベースのポリマーと、少なくとも3ppmの活性ヒドロキシホスホノ酢酸とを与えるのに十分な量のアミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項28】
活性アミノ酸ベースのポリマーの産量は3ppm~50ppmであり、活性ヒドロキシホスホノ酢酸の産量は3ppm~50ppmである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
活性アミノ酸ベースのポリマーの産量は5ppm~30ppmであり、活性ヒドロキシホスホノ酢酸の産量は3ppm~20ppmである、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも3ppmの活性アミノ酸ベースのポリマーと、少なくとも3ppmの活性ヒドロキシホスホノ酢酸とを与えるのに十分な量のポリアスパラギン酸又はその塩及びヒドロキシホスホノ酢酸を含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項31】
前記組成物は、亜鉛又はスズを含まない、請求項18に記載の組成物。
【請求項32】
水システムを処理して、前記水システム中での金属部品の腐食又は亜鉛メッキ鋼部品上の白さびの発生を抑制する方法であって、アミノ酸ベースのポリマーと、ヒドロキシホスホノ酢酸と、第2のホスホン酸とを、有効量で前記水システム中の水に加える工程を含む方法。
【請求項33】
第2のホスホン酸は、ホスホノカルボン酸である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも3ppmの活性濃度のアミノ酸ベースのポリマーと、少なくとも3ppmのヒドロキシホスホノ酢酸と、少なくとも2ppmのホスホノカルボン酸とを、前記水システム中に与える量である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、3ppm~50ppmの活性濃度のアミノ酸ベースのポリマーと、3ppm~50ppmの活性濃度のヒドロキシホスホノ酢酸と、2ppm~20ppmの活性濃度のホスホノカルボン酸とを与える量である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、5ppm~30ppmの活性濃度のアミノ酸ベースのポリマーと、3ppm~20ppmの活性濃度のヒドロキシホスホノ酢酸と、2ppm~10ppmの活性濃度のホスホノカルボン酸とを与える量である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
アミノ酸ベースのポリマー、ヒドロキシホスホノ酢酸、及びホスホノカルボン酸の前記有効量は、前記水システム中の水の量に加えられた場合に、少なくとも9ppmである、アミノ酸ベースのポリマー、ヒドロキシホスホノ酢酸、及びホスホノカルボン酸の結合活性濃度を前記水システムに与える量である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその塩である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
アミノ酸ベースのポリマー、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノカルボン酸、及びトレーサが、前記水システムに加えられる前に、処理用組成物に組み合わされ
前記水システム中での処理用組成物の量を、前記トレーサの測定に基づいて、周期的に測定する工程を更に含む、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
追加の処理用組成物を必要に応じて加えて、少なくとも3ppmのアミノ酸ベースのポリマーの濃度と、少なくとも3ppmのヒドロキシホスホノ酢酸の濃度とを維持する工程を更に含み、これらの濃度は、前記水システム中の水の量に加えた場合のものである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
ホスホノカルボン酸は、HEDP、PBTC、又はそれら両方である、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記水システム中の水は、殺生物剤を含有する、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記水システム中の水は、pHが7よりも大きい、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2016年4月14日出願の米国仮特許出願第62/322,616号及び2016年7月18日出願の米国仮特許出願第62/363,574号の利益を主張する。
【0002】
<本発明の分野>
本発明は、水システムにおける金属部品の腐食又は白さび(white rust)を抑制するための処理用組成物及び処理方法に関する。本発明は、低いLSI(ランゲリア飽和指数)の水システム、例えば開放型再循環システム、閉ループ冷却又は加熱システム、及びボイラーに見られる腐食性環境で特に有用である。
【背景技術】
【0003】
水システム、例えば開放型再循環システム、閉ループ冷却システム又は閉ループ加熱システム、冷却塔、及びボイラー中の水溶液と接触がある金属部品での腐食、ミネラルスケール(mineral scale)及び白さびの発生を引き下げて、これらのシステムの金属部分の保護を補助するために、様々な水処理用組成物が用いられている。これらの水システムで典型的に用いられる金属としては、鉄を含む金属(亜鉛メッキ鋼が挙げられる)、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、鉛、並びにはんだが挙げられる。多くの既知の腐食抑制剤が、規制されている毒性金属、例えば亜鉛、クロム酸塩、及びモリブデン酸塩、を含有する。これらは環境に有害であり、且つコストを増大させる。亜鉛は、一般的に、高腐食性(低LSI)の水を含む水システムにおいて、腐食抑制剤として用いられている。しかしながら、その使用は、毒性問題が原因で所望されず、一部の場所では規制を受けてしまう。亜鉛の無毒性代替物としてスズも用いられているが、より高価である。
【0004】
また、多くの既知の腐食抑制剤の性能は、殺生物剤の使用により悪影響を受けてしまう。殺生物剤は、水システムにおいて、微生物の増殖を制御するのに頻繁に用いられている。米国特許第5,523,023号では、ポリアスパラギン酸及び単一のホスホン酸の使用が、ホスホン酸が2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)である場合において、殺生物剤の存在下でさえも、腐食を抑制するのに有効であると開示されている。米国特許第5,523,023号においては、好ましいホスホン酸はPBTCであるが、他のホスホン酸(1-ヒドロキシエタン1,1-ジホスホン酸及びヒドロキシホスホノ酢酸(HPA)が挙げられる)もまた適していると言及されている。ポリアスパラギン酸及びPBTCの使用に基づいた、米国特許第5,523,023号に示されている腐食度の結果は、他の腐食抑制剤よりも良好であるが、特に殺生物剤の存在下での、より一層優れた腐食抑制が依然として必要とされている。
【0005】
白さび防止に現在利用されている解決策として、炭酸亜鉛による金属表面の不動態化と、白さび発生の可能性を引き下げるような水化学の制御とが挙げられる。既知の処理として、無機リン酸塩、チオカルバメート、有機リン化合物、及びタンニンの使用が挙げられる。例えば、米国特許第5,407,597号及び米国特許第6,468,470号は、有機リン化合物(PBTCが挙げられる)、モリブデン、チタン、タングステン、又はバナジウムのアルカリ金属塩、及びカルバメート化合物又はタンニン化合物を含む組成物を開示している。米国特許第6,183,649号は、循環水システムを処理するための、PBTC、ポリアクリル酸ナトリウム、トリルトリアゾールナトリウム、モリブデン酸アルカリ金属、及び臭化アルカリ金属を含む白さび処理用組成物を開示している。米国特許第6,183,649号はまた、デシルチオエチルエーテルアミン(decyl thioethyletheramine)(DTEA)の1.5%水溶液を、25lb/1,000ガロンの水/週の割合にて循環水システムに加えてから、DTEAの付加後の10サイクルの再循環について、1サイクルあたり600ppmの割合にて白さび処理用組成物を加えることを開示している。
【0006】
より環境に優しくて、殺生物剤と併せて十分に機能できる効果的な腐食抑制剤及び効果的な白さび抑制剤組成物、並びに方法が必要とされている。また、腐食及び白さびの両方に、別々の処理(マイナスに相互作用する場合もある)を必要とすることなく対処することとなる単一の処理用組成物及び方法も必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の好ましい一実施形態によれば、向上した腐食抑制剤及び白さび抑制剤組成物は、アミノ酸ベースのポリマー(AAP)、ヒドロキシホスホノ酢酸(HPA)又はその水溶性塩、及び別のホスホン酸又はその水溶性塩を含む。ヒドロキシホスホノ酢酸は、以下の一般構造を有する:
【0008】
【0009】
最も好ましくは、アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその水溶性塩であるが、他の化合物、例えばポリグリシン酸、ポリグルタミン酸、及びそれらの塩が用いられてもよい。最も好ましくは、アミノ酸ベースのポリマーは、以下の式を有する:
【0010】
【0011】
式中、ポリアスパラギン酸については、R1=H、R2=OH、R3=COOHであり、そしてx=1である。最も好ましくは、他のホスホン酸は、ホスホノカルボン酸であり、又は任意の有機ホスホン酸塩が用いられてもよい。最も好ましくは、ホスホノカルボン酸は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、2-ホスホノブテン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、又はホスホノコハク酸である。好ましくは、抑制剤組成物中のAAPの、HPAに対する重量比は、90:10から10:90であり、組み合わせたAAP及びHPAの、他のホスホン酸に対する比率は、90:10から60:40の範囲である。より好ましくは、抑制剤組成物中のAAPの、HPAに対する重量比の範囲は、80:20から80:20であり、組み合わせたAAP及びHPAの、他のホスホン酸に対する比率は、80:20から70:30である。
【0012】
最も好ましくは、本発明の好ましい実施形態に従う組成物は全て、有機質であり、規制されている金属、例えば亜鉛、クロム酸塩、及びモリブデン酸塩、を含有せず、その性能は、殺生物剤を加えても影響されない。最も好ましくは、本発明の好ましい実施形態に従う組成物は、スズを含有しない。
【0013】
HPA及びAAP(例えばポリアスパラギン酸)の両方を、別々に腐食抑制剤として用いることは、以前に知られていた。また、米国特許第5,523,023号において、AAPがホスホノカルボン酸と一緒に用いられて、腐食を抑制することができると開示されているが、AAP及びHPAを一緒に、別のホスホン酸、好ましくはホスホノカルボン酸又は有機ホスホン酸塩と共に用いて、腐食を抑制することは以前に知られてはいなかった。
【0014】
処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合、本発明に従う好ましい組成物は、少なくとも3ppmの活性AAPと、少なくとも3ppmの活性HPAと、少なくとも2ppmの他のホスホン酸とをもたらす。より好ましくは、処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合、好ましい組成物は、3ppm~50ppmのAAPと、3ppm~50ppmのHPAと、2ppm~20ppmの他のホスホン酸とを、最も好ましくは5ppm~30ppmのAAPと、3ppm~20ppmのHPAと、2ppm~10ppmの他のホスホン酸とをもたらす。加えて、好ましい組成物の3つの成分の組合せ全体は、処理されることとなる水に加えられた場合、少なくとも8ppmの活性腐食抑制剤をもたらす。これらの成分は、毒性金属の使用を必要としない、そして殺生物剤によって悪影響を受けることのない腐食抑制の向上という予想外の相乗効果を有する。
【0015】
低LSI水での鉄金属腐食抑制に及ぼす抑制剤組成物の予想外の相乗効果に加えて、同組成物はまた、亜鉛メッキ鋼での白さびの発生を妨げるプラスの効果を有する。亜鉛メッキ鋼は、鋼基板に融合した亜鉛の薄いコーティングからなる。白さびは、通常、膨大な白色の沈着として現れる、亜鉛への急速で局所的な腐食侵食である。この急速な腐食は、局所的な領域において亜鉛を完全に除去する虞があり、結果として装置寿命が短縮する。ヒドロキシホスホノ酢酸もアミノ酸ベースのポリマー(例えばポリアスパラギン酸)も、単独でも組み合わせても、市販の製品について白さび防止のために以前に利用されていない。理論によって拘束されるものではないが、本発明に従う組成物は、亜鉛メッキ鋼の表面に保護層を形成して、白さびの発生を引き下げているかもしれないと考えられる。本発明に従って白さびを処理するために、ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノ酸ベースのポリマー、及び別のホスホン酸を、先で示した量で用いて腐食を抑制するのが好ましい(重量比及び濃度は両方とも、処理されることとなる水システム中の水に加えた場合のものである)。また、ヒドロキシホスホノ酢酸も他のホスホン酸も伴わないアミノ酸ベースのポリマーの使用が、白さびを抑制するのに有益であることも見出された。別の好ましい実施形態によれば、白さびを処理するための組成物は、アミノ酸ベースのポリマー及びヒドロキシホスホノ酢酸を、別のホスホン酸を伴わずに含む。更に別の好ましい実施形態によれば、白さびを処理するための組成物は、アミノ酸ベースのポリマーを、ヒドロキシホスホノ酢酸を少しも伴わずに含む。
【0016】
他の好ましい実施形態によれば、腐食又は白さびを抑制するための組成物はまた、以下の成分の1又は複数を含む:中和アミン、塩素安定化剤、例えばモノエタノールアミン(MEA);スケール抑制剤及び分散剤、例えば、ポリカルボキシレートポリマー及び/又はカルボキシレート/スルホネート機能性コポリマー(代表例:ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMAA)、ポリマレイン酸(PMA)、並びに、アクリル酸及びスルホン化モノマーのコポリマー、例えばAA/AMPS);他のスケール抑制剤及び腐食抑制剤、キレート化剤;アゾール腐食抑制剤、例えば、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール);並びに/又は蛍光色素トレーサ、例えば1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩(PTSA)。組成物全体は、約2重量%~15重量%のアミノ酸ベースのポリマー(例えばポリアスパラギン酸)、約2重量%から10重量%のヒドロキシホスホノ酢酸、及び約2重量%から10重量%の別のホスホン酸を含むのが好ましい。
【0017】
水システム中での金属部品の腐食及び/又は亜鉛メッキ鋼部品上の白さびを妨げる好ましい一方法に従えば、先に記載される本発明の好ましい実施形態に従う処理用組成物が、水システムに加えられる。先に記載されるAAP、HPA、及び別のホスホン酸の1又は複数を組み合わせた組成物について、好ましい方法は、当該組成物を水中に、処理用組成物の20ppm~600ppm、より好ましくは100~300ppmの有効供給レートにて供給することを含む。これは、処理される水の化学、及び処理用組成物中の任意選択の成分の量によって異なってくる。好ましくは、少なくとも3ppmのAAP、少なくとも3ppmのHPA、及び少なくとも2ppmの別のホスホン酸の3つの処理成分の1又は複数の有効活性量(腐食又は白さびが処理されることとなるか、両方が処理されることとなるかによって異なってくる)を与えるのに十分な量の処理用組成物が、水システムに加えられる(濃度はそれぞれ、処理されることとなる水システム中の水の量に加えた場合のものである)。より好ましくは、処理用組成物は、水システム中の水に加えられた場合に、3ppm~50ppmのAAP、3ppm~50ppmのHPA、及び2ppm~20ppmの別のホスホン酸の1又は複数の成分の有効活性量を与えるのに十分な量で加えられる。最も好ましくは、これらの有効活性量は、水システム中の水に加えられた場合に、5ppm~30ppmのAAP、3ppm~20ppmのHPA、及び2ppm~10ppmの他のホスホン酸である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の組成物及び方法は、以下の図に関連して更に記載且つ説明される。
【
図1】
図1は、3フィート/秒、そして5フィート/秒の流量でのスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図2】
図2は、3フィート/秒、そして5フィート/秒の流量にて、殺生物剤の存在下で行われたスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図3】
図3は、3フィート/秒の流量でのスピナー試験後における、鋼切取試片の腐食レベルを示す写真である。
【
図4】
図4は、スピナー試験後における、亜鉛メッキ切取試片の白さびレベルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
幾つかのラボ試験を行って、本発明に従う種々の組成物の有効性を試験した。本発明に従う組成物を、水システム中の金属部品上を流れる水をシミュレートするスピナー試験を用いて評価した。各スピナー試験の設定では、水のステンレス鋼コンテナにおいて、4枚の金属切取試片(軟鋼切取試片(C1010)及び銅切取試片(CDA 11)を用いた)を、各コンテナ内の水中に、回転シャフトからぶら下がっているホルダーから吊るした。シャフトが、ステンレス鋼コンテナ内の水中で、147回転/分にて切取試片を回転させると、回転シャフトの中心からの切取試片距離に応じて、3~5フィート/秒の流量の代わりになる。各スピナー試験で用いた初期量の水は、水システムにおいて典型的に見られる腐食性の低硬度水の特徴を有した。用いた水は、以下の表1に示す特性を有した。
【0020】
【0021】
各スピナー試験の間、水に空気を通して、且つ、120Fの一定温度と一定量とに水を維持する(水位がセンサーレベル未満に下がると、脱イオン水の自動追加で蒸発を補償する)。標準的な試験期間は、48時間である。
【0022】
スピナー試験設定を用いて、本発明の好ましい実施形態に従う、亜鉛又はスズを少しも加えていない組成物(AAP、HPA、及び別のホスホン酸(HEDP)を含む実施例1~3)(表2に示す)を、亜鉛のみ(比較例4)、スズのみ(比較例5)、AAPのみ(比較例6)、HPAのみ(比較例7)、スズと組み合わせたHPA(比較例8)、及びスズと組み合わせたAAP(比較例9)を主たる抑制剤として用いた組成物(全て表3に示す)と比較した。種々の処理のppm濃度は、スピナー試験コンテナ内の水の量に加えた場合の濃度である。亜鉛又はスズ入り組成物は、それらの入っていない組成物との比較用であった。亜鉛は、典型的に、高度に腐食性(低LSI)の水を含む水システムにおいて、腐食抑制剤として用いられている。しかしながら、その使用は、毒性問題に起因して、所望されず、その使用は、一部の場所では規制を受ける。スズは、亜鉛の無毒性代替物として推進されており、且つ特許化されているが、より高価である。表2及び表3に一覧にした主たる腐食抑制剤成分に加えて、全ての試験を、4ppmの活性AA/AMPSコポリマー及び4ppmの活性TTAの存在下で実行した。これらの成分を、スピナー試験の各設定内の水に加えて、それらの濃度レベルを実現した。種々の抑制剤の存在下でのスピナー試験後の軟鋼切取試片についての腐食レベル及びピッチングレベルを、
図1に示す。
【0023】
【0024】
【0025】
約3フィート/秒に等しい流量にて、また、約5フィート/秒に等しい流量にて、各組成物を用いてスピナー試験を行った。如何なる処理もしない対照試験もまた、比較のために実行した。
図1は、対照による、そして実施例組成物1~9による各スピナー試験後の代表的な軟鋼切取試片の写真を示す。切取試片の腐食の量及びピッチングが、写真に示されている。見られるように、対照切取試片は、広範囲にわたる腐食(写真上の暗い領域)を示す。本発明の好ましい実施形態に従う組成物(実施例2~3)に用いた切取試片は、もしあったとしてもほとんど、腐食もピッチングも示さない(写真上の暗い領域は極めて少ない)。腐食抑制のための、本発明の好ましい実施形態に従う3つ全ての成分を含有するが、2.5ppm(少なくとも3ppmのより好ましい量を下回る)のHPAしか含有していない実施例1に用いた切取試片は、対照及び比較例(比較例4~9)に勝る結果の向上を示すが、5ppmのHPAを用いた実施例2~3よりも僅かに多くの腐食を示す。比較組成物(比較例4~9)に用いた切取試片は、対照よりも顕著に良好であるが、実施例1~3によるよりも大きな腐食及びピッチングの証拠を示す。結果に基づくと、AAP、HPA、及び別のホスホン酸(当該実施例において、HEDP)の組合せは、相乗的に相互作用して、亜鉛、スズ、又は他の規制されている金属の使用を必要とせずとも腐食制御の向上を実現するのは明らかである。
【0026】
一部の先行技術の水処理腐食抑制組成物は、酸化殺生物剤を同系に用いて生物学的増殖を妨げる場合に、効果的な保護を実現しない。最も広く用いられている酸化殺生物剤は、塩素及び安定化臭素である。追加のスピナー腐食試験を、実施例組成物2及び3を用いて実行して、比較例組成物4(亜鉛のみ)及び7(HPAのみ)と、安定化臭素殺生物剤組成物(Chem-Aqua 42171として市販されている)の存在下で比較した。実施例組成物4及び7を選択した理由は、比較例のスピナー試験で最良の結果を示したためである。比較例4及び7は両方とも、低LSI水中でかなり適切に実施されるが、以下で考察するように、殺生物剤を加えると顕著に悪くなる。また、実施例4は、亜鉛を用いており、毒性が懸念されるため、使用が所望されない。先の試験と同様に、これらの試験は、4ppmの活性AA/AMPSコポリマー及び4ppmの活性TTAの存在下で実行した。40ppmのスラグ量(slug dose)の殺生物剤を、各スピナー試験の始めに(腐食抑制組成物を加えて、試験を始めた後に)加えて、約1ppmのFHR(遊離ハロゲン残基)をもたらした。
【0027】
図2は、殺生物剤の存在下での実施例組成物による各スピナー試験の後の代表的な軟鋼切取試片の写真を示す。見られるように、本発明の好ましい実施形態に従う組成物(実施例2~3)に用いた切取試片は、もしあったとしてもほとんど、腐食もピッチングも示さない。このことは、本発明に従う好ましい組成物の機能性が、殺生物剤によって悪影響を受けないことを示している。比較組成物(比較例4及び7)に用いた切取試片は、実施例2~3よりも実質的に多くの腐食を示す。なお、比較例7は、HPA及びHEDPを用いており、AAPを全く用いておらず、殺生物剤なしで良好な結果を示したが、殺生物剤を加えると、顕著に多くの腐食が生じた。AAP及びHEDPを有し、HPAを全く用いていない比較組成物(比較例6)は、殺生物剤なしでは不十分であった(上述の
図1)ので、殺生物剤ありで試験しなかった。なぜなら、結果が、
図1におけるよりも更に悪くなると予想されたからである。結果に基づくと、AAP、HPA、及び別のホスホン酸の組合せは、一緒に相乗的に相互作用して、腐食制御の向上を、殺生物剤の存在下でさえ実現して、HPA単独での使用に勝る結果の向上を示すのは明らかである。
【0028】
また、軟鋼切取試片についての腐食度を、切取試片の重量損失から測定且つ算出した。殺生物剤を加えていない、そして殺生物剤を加えたスピナー試験の両方の結果を、表4に纏める。また、腐食様式、特にピッチングの存在に関する情報(これは多くの用途において重要であり、一部の腐食抑制剤(単独で用いられるHPAが挙げられる)は、ピッチングに対して不十分な保護物質であることが知られている)を、表4に含めている。最も好ましくは、本発明の実施形態に従う腐食抑制剤組成物は、殺生物剤の存在下でさえ、腐食について3MPY以下の腐食度を達成する。
【0029】
【0030】
本発明の好ましい実施形態に従う組成物は、HPA由来の、そしてこれらの実施例に用いた他のホスホン酸(HEDP)由来の有機リン酸塩を含有する。殺生物剤の存在下で、有機リン酸塩は、多くの場合、オルトリン酸塩に逆戻りし、これは、腐食を妨げるのに良好なものではなく、そのうえリン酸カルシウムによるスケールを形成する問題を発生させる虞がある。AAP、HPA、及びHEDP(又は別のホスホン酸)の組合せを、本発明の好ましい実施形態に従う腐食抑制剤として用いる場合、有機リン酸塩の、オルトリン酸塩への逆戻りは、実質的に検出されなかった。実施例2及び3及び比較例7の組成物に由来するサンプルを、オルトリン酸塩の存在について、当該組成物の混合直後に、そして再度48時間後に試験した。結果を、以下の表5に一覧にする。AAP、HPA、及びHEDPを用いる(そして、上述のように、AA/AMPS及びTTAを含有する)実施例2及び3は、48時間にわたって、オルトリン酸塩の増大をほとんど示さなかったが、HPA及びHEDPを含有する(そして、上述のように、AA/AMPS及びTTAを含有する)が、AAPを含有しない比較例7は、実質的な増大を示した。
【0031】
【0032】
別の好ましい実施形態によれば、表6に一覧にした水処理用組成物(先で試験した実施例2と同じである)が、水システムにおいて、広範囲のLSI値にわたって、そして殺生物剤の存在下で、腐食を抑制するのに有効である。
【0033】
【0034】
好ましくは、NaOH及び/又はKOHもまた、本発明の実施形態に従う組成物に加えられる。これらの成分は、典型的には、水処理製剤に加えられて、酸を中和して、最終組成物のpHを所望のレベルに至らせるものである。ほとんどの組成物は、pHが>8であり、pHが>12のものもある。(本発明に従う組成物の好ましい実施形態と同様に)TTAを用いる組成物において、TTAの溶解性を確実にするために、組成物のpHがより高い(>11)ことが所望される(pHが低いと、溶解性が非常に悪い)。
【0035】
低LSI水中での追加のスピナー試験を実行して、本発明の好ましい実施形態に従う、腐食を抑制するための処理用組成物の種々の濃度の有効性を試験した。先で記載したのと同じスピナー試験パラメーター及び低LSI水(表1)を、当該試験に用いた。スピナー試験水に加えた場合の成分の濃度、及び当該試験の結果を、以下の表7に示す。
図3は、試験が終わった後の、各組成物についての試験切取試片(3フィート/秒の流量にて試験した)の写真を示す。
【0036】
【0037】
比較例10、13、及び15は、AAP、HPA、及びHEDPを用いているが、好ましい濃度未満の量である。これらの例は、抑制剤の低いレベルにて、腐食の増大を示す(そして、比較例10は、中程度のピッチングを示した)。本発明の好ましい実施形態に従う実施例11~12、14、及び16(腐食度は低く、且つピッチングはない)は、様々な任意選択の成分、並びにAAPの、HPAに対する変動する濃度及び比率について、良好な性能を示す。当該実施例はまた、HEDPからPBTCへの変更(実施例16)と、二次的キレートの減少とが、本発明の好ましい実施形態に従う組成物の腐食抑制性能に影響を与えないことを示す。実施例17は、AAP及びHPAを用い、第2のホスホン酸を用いなかった(米国特許第5,523,023号に記載される組成物と類似する)。これは、低LSI水における腐食の制御が向上した結果を示すが、当該結果は、本発明の好ましい実施形態に従う実施例における結果ほどは良好でない。
【0038】
追加のスピナー試験を実行して、米国特許第5,523,023号に開示されたAAP及びPBTCを用いる組成物を、本発明の好ましい実施形態に従う組成物と比較した。試験設定は、低LSI水、軟鋼(C1010)切取試片、及び3フィート/秒の流量を用いる、先に記載のものと同じであった。結果を、以下の表8に示す。
【0039】
【0040】
見られるように、AAP、HPA、及び第2のホスホン酸(HEDP又はPBTC)を有する本発明の好ましい実施形態に従う実施例(実施例20、21、及び12)は、AAP及びPBTCのみ(少しのHPAもなし)を用いる比較例よりも、非常に良好な腐食抑制結果を示す。また、比較例18~19は、トータルで20ppmの抑制剤(AAP及びPBTC)を用いた場合でさえも、腐食度が3MPYよりも大きくなった。これは、トータルで実質的により少ない抑制剤を用いた本発明に従う好ましい組成物によって達成可能な腐食度よりも高い。例えば、実施例11は、トータルで13.5ppmの抑制剤(AAP、HPA、HEDP)しか用いないで、腐食度が2.3MPYであり、実施例16は、トータルで12.6ppmの抑制剤(AAP、HPA、PBTC)しか用いないで、腐食度が2.1MPYであった。加えて、比較例18~19の腐食度は、AAP、HPA、及び第2のホスホン酸を用いる比較例13及び15の腐食度に匹敵するが、比較例18~19における結果を達成するのに必要な抑制剤の総量(合計20ppm)は、比較例13及び15において必要な総量(それぞれ合計10.76及び15.76ppm)よりもかなりに高い。これらの実験の結果は、第2のホスホン酸の付加は、AAP及びHPAと組み合わせて、トータルでより少ない抑制剤を用いる場合でさえ、そして殺生物剤の存在下でさえ、腐食抑制を向上させるという予想外の相乗効果をもたらすことを示している。
【0041】
当業者であれば、他の適切な、又は同等の化合物、及び他の処理化合物(他の腐食抑制剤が挙げられる)が、本発明の範囲内で、先の成分のいずれかの代用とされてよく、又は先の成分のいずれかに加えられてよいことを理解するであろう。本発明の実施形態に従う組成物は、LSI値が広範囲にわたる(LSI<0を含む)水システムにおいて、そして規制されている毒性金属の使用を必要とすることなく、金属部品上の腐食の抑制に有効である。当該組成物はまた、より高いpH値(7~9)(典型的には水システム、例えば冷却塔及びボイラーにおいて見られる)でも有効である。一方、一部の先行技術抑制剤は、そのようなpHレベルにて無効であり、又はその有効性が引き下げられる(例えば、ポリアスパラギン酸/第一スズ塩処理は、pH5~7にてのみ有効である)。本発明に従う当該組成物はまた、有機リン酸塩の、オルトリン酸塩への逆戻りを妨げて、殺生物剤の存在下で有効性を維持する。
【0042】
電気化学的方法を用いる他の実験を実行して、白さびを妨げるための、本発明に従う組成物を試験した。以下の表9の結果は、白さびの発生を引き下げる際の、HPA及びAAP(別のホスホン酸なし)の組合せの相乗効果を示しており、個々の成分(HPA単独、及びAAP単独)の使用と比較している。サイクリックボルタンメトリー試験を、0.1M炭酸ナトリウム溶液中で、亜鉛電極を用いて実行した。酸化の尺度は、観察される酸化曲線ピーク下面積である;面積が狭いほど、酸化が生じておらず、腐食度が低いことを意味する。結果は、6~10回の実験の平均と標準偏差である。
【0043】
【0044】
追加のスピナー腐食試験を、ステンレス鋼コンテナ内で、亜鉛メッキ表面上で白さびが発生することが知られている高アルカリ度の水中で実行して、白さびの発生を妨げるための、本発明の好ましい実施形態に従う組成物の有効性を試験した。当該試験における水化学(高アルカリ度の合成水の特徴を有する)を、以下の表10に詳述する。4枚の溶融亜鉛メッキ鋼切取試片(HDG G70)(寸法1.0×4.0×0.02インチ)を、各コンテナ内で、回転シャフトからぶら下がっているホルダー上に設置した。回転シャフトを、147回転/分にて回転させて、回転シャフトの中心からの切取試片距離に応じて、3~5フィート/秒の流量の代わりとした。試験の間、水に空気を通して、水を120Fの一定温度且つ一定量に維持した(水位がセンサーレベル未満に下がると、DI水の自動追加により、蒸発を補償した)。標準的な試験期間は、48時間であった。2つの比較例に用いた活性成分、及び本発明に従う好ましい組成物の3つの実施例を、腐食度と共に、表11に一覧にする。
【0045】
【0046】
【0047】
重量損失法を用いて腐食度を算出するために、これらの試験由来の亜鉛メッキ切取試片を、標準的な手順に従って、濃縮酢酸アンモニウム中に浸漬してリンスすることによってクリーニングした。
図4は、表12に記載する組成物によるスピナー試験後の、クリーニング前後の亜鉛メッキ切取試片の写真を示す。クリーニング前の切取試片上に見える白色の沈着が、白さびである。腐食(暗い点として示される)に起因する亜鉛メッキ層の損傷が、クリーニング後の切取試片上に見える。ブランク(比較例22-非処理)切取試片は、完全に、白色の沈着でカバーされ、そしてクリーニング後、亜鉛メッキ層のほとんどが除去されて、軟鋼の腐食が見られた。HPA及びHEDP(アミノ酸ベースのポリマーなし)(比較例23)で処理した切取試片は、白さびの実質的な発生を示したが、対照(比較例22)よりもずっと優れた向上を示した。より顕著に良好な結果が、実施例24~26の組成物で得られた。最良の結果は、AAP、HPAを3ppm超にて、そして第2のホスホン酸(HEDP)を用いる実施例24で達成された。HPAの使用は、軟鋼の腐食を抑制するのに重要であるが、その使用は、白さび処理について、任意選択である。実施例26から分かるように、AAP及びHEDPをHPAなしで用いた結果は、3つを組み合わせたのとほぼ同じくらい良好であった。従って、本発明に従う、白さびを処理するための好ましい組成物は、2~15%のアミノ酸ベースのポリマー、0~10%のHPA、及び0~10%の第2のホスホン酸を含む。好ましくは、本発明に従う処理用組成物中の活性アミノ酸ベースのポリマーの量は、少なくとも3ppm、より好ましくは3ppm~50ppm、最も好ましくは5ppm~30ppmである(濃度は全て、処理されることとなる水システム中の水の量に加えた場合のものである)。より好ましくは、AAPを、HPAと併せて、少なくとも3ppm、より好ましくは3ppm~50ppm、最も好ましくは約3ppm~20ppmの量で、そして/又は別のホスホン酸と併せて、少なくとも2ppm、より好ましくは2ppm~20ppm、最も好ましくは約2ppm~10ppmの量で用いる。
【0048】
本発明に従って白さびを処理するために、ヒドロキシホスホノ酢酸及びアミノ酸ベースのポリマーの両方を、より好ましくは第2のホスホン酸と併せて、先で示した重量範囲の量で用いることが好ましい。しかし、アミノ酸ベースのポリマー又はヒドロキシホスホノ酢酸の、他を伴わない使用が、白さびを抑制するのに有益であることも見出された。
【0049】
水システム中での金属部品の腐食及び/又は亜鉛メッキ鋼部品上の白さびを妨げる好ましい一方法に従えば、先に記載した本発明に従う処理用組成物が、処理用組成物の20ppm~600ppmの好ましい有効供給レートにて、より好ましくは100~300ppmにて、水システムに加えられる。これは、処理される水の化学、及び処理用組成物中の任意選択の成分の量によって異なってくる。好ましくは、少なくとも3ppmのAAPの有効活性量、及び少なくとも3ppmのHPAの有効活性量を与えるのに十分な量の処理用組成物が、水システムに加えられる(濃度は両方とも、処理されることとなる水システム中の水の量に加えた場合のものである)。より好ましくは、HPAの量は、少なくとも3ppmである。より好ましくは、処理用組成物は、水システム中の水に加えられた場合に、3ppm~50ppmのAAP、3ppm~50ppmのHPA、及び2ppm~20ppmの第2のホスホン酸の有効活性量を与えるのに十分な量で加えられる。最も好ましくは、これらの有効活性量は、水システム中の水に加えられた場合に、5ppm~30ppmのAAP、3ppm~20ppmのHPA、及び2ppm~10ppmの第2のホスホン酸である。白さびを処理するためのHPAの使用は、任意選択であるので、本発明に従う好ましい方法に用いられる処理用組成物は、AAPを、少しのHPAも伴わずに含んでもよく、そして、処理されることとなる水システムの水中でのこれらの同じ濃度範囲のAAPを与えるのに十分な量で加えられてよい。別の好ましい実施形態によれば、水システムに加えられる組成物は、水システム中の組成物のレベルが測定且つ監視され得るように、蛍光トレーサを含む。トレーサ測定に基づいて、水システム内での処理の有効量を維持するために、必要に応じて、追加の処理用組成物が水システムに加えられる。
【0050】
本明細書中に記載される実施例の試験における種々の処理のppm濃度は全て、スピナー試験において水に加えられた場合の濃度であり、処理されることとなる水システム中の水に加えられた場合の濃度に関連することとなる。具体的に除外されない限り、本明細書中の、そして請求項中の酸への言及は全て、酸の水溶性塩を含み、このことは当業者によって理解されるであろう。また、当業者であれば、本明細書中に含まれる実施例を含めて本明細書を読めば直ぐに、水を処理するための組成物及び当該組成物を用いる方法の好ましい実施形態に対する修正及び変更が、本発明の範囲内でなされ得ることを理解するであろう。本明細書で開示される本発明の範囲は、本発明者らが法的に権利付与される添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることが意図されている。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水システムにおける金属部品の腐食を抑制するための組成物であって、
アミノ酸ベースのポリマー又はその水溶性塩と、
ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩と、
第2のホスホン酸又はその水溶性塩とを含んでおり、
第2のホスホン酸は、(1)ホスホノカルボン酸、又は(2)1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸であり、
スズを含まない、組成物。
【請求項2】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸又はその水溶性塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリアスパラギン酸ナトリウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
モリブデン酸塩、亜鉛、及びクロム酸塩の少なくとも一つを含まない、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリグリシン酸又はその水溶性塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
アミノ酸ベースのポリマーは、ポリグルタミン酸又はその水溶性塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩に対するアミノ酸ベースのポリマー又はその水溶性塩の重量比は、90:10~10:90の範囲であり、
アミノ酸ベースのポリマー又はその水溶性塩とヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩の組合せの第2のホスホン酸又はその水溶性塩に対する重量比は、90:10~60:40の範囲である、請求項1乃至6の何れかに記載の組成物。
【請求項8】
約2重量%~15重量%のアミノ酸ベースのポリマー又はその水溶性塩と、
約2重量%~10重量%のヒドロキシホスホノ酢酸又はその水溶性塩と、
約2重量%~10重量%の第2のホスホン酸又はその水溶性塩とを含む、請求項1乃至6の何れかに記載の組成物。
【請求項9】
アクリル酸及びスルホン化モノマーのコポリマーを更に含む、請求項1乃至6の何れかに記載の組成物。
【請求項10】
AA/AMPSを更に含む、請求項1乃至6の何れかに記載の組成物。
【請求項11】
アゾール腐食抑制剤を更に含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
中和アミン、塩素安定化剤、スケール抑制剤、分散剤、別の腐食抑制剤、キレート化剤、アゾール腐食抑制剤、及び蛍光色素トレーサの1又は複数を更に含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
モノエタノールアミン、ポリカルボキシレートポリマー、カルボキシレート/スルホネート機能性コポリマー、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール(トリルトリアゾール)、及び1,3,6,8-ピレンテトラスルホン酸テトラナトリウム塩の1又は複数を更に含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
水システムを処理して、前記水システム中での金属部品の腐食を抑制する方法であって、請求項1乃至13の何れかに記載の組成物を有効量で前記水システム中の水に加える工程を含む方法。
【外国語明細書】