(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086252
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、積層体、成形体、及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/12 20060101AFI20220602BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220602BHJP
C08K 13/04 20060101ALI20220602BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220602BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220602BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220602BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220602BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220602BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220602BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20220602BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20220602BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C08L23/12
C08K9/04
C08K13/04
B32B27/32 Z
B32B27/20
B32B27/40
B32B27/30 A
B32B27/36
B29C45/14
B29C51/12
B29C51/14
B29C63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198160
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 要
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4F208
4F211
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AC03A
4F100AK03B
4F100AK07A
4F100AK25B
4F100AK41B
4F100AK51B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA10A
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4F100DE01A
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4F100EJ42
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB41
4F100GB48
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4F100JA11A
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4F100JL11B
4F100YY00A
4F206AA11A
4F206AB11B
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4F206AD08
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4F208AH26
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4F211AA03
4F211AA11
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4J002BB121
4J002DJ036
4J002EG037
4J002EW068
4J002FA016
4J002FB086
4J002FD078
4J002FD207
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】耐傷付き性に優れる樹脂シートを製造することができる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリプロピレンと、有機化層状無機化合物と、を含み、前記有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上であり、前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上である樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレンと、有機化層状無機化合物と、を含み、
前記有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上であり、
前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上である樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化層状無機化合物の平均粒子径が2~20μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機化層状無機化合物の含有量が6~25質量%である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機化層状無機化合物が、層状無機化合物の有機変性体である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機化層状無機化合物が、層状無機化合物の層間に有機カチオンを担持する化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
広角X線回折法で測定した場合における、前記層状無機化合物の(001)面の平均層間距離が1.5nm以上である、請求項4又は5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
中和剤及び酸化防止剤からなる群から選択される1以上の成分を含む、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記中和剤の含有量が0.3質量%以上である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記酸化防止剤の含有量が0.3質量%以上である、請求項7又は8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて作成された樹脂シート。
【請求項11】
前記樹脂シートに含まれるポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、請求項10に記載の樹脂シート。
【請求項12】
示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、請求項10又は11に記載の樹脂シート。
【請求項13】
前記樹脂シートのポリプロピレンがスメチカ晶を含む、請求項10~12のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の樹脂シートを含む積層体。
【請求項15】
請求項10~13のいずれかに記載の樹脂シートと易接着層とを含む、積層体。
【請求項16】
前記易接着層が、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む、請求項15に記載の積層体。
【請求項17】
前記易接着層における前記樹脂シートと反対側の面に印刷層を有する、請求項15又は16に記載の積層体。
【請求項18】
請求項10~13のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項14~17のいずれかに記載の積層体を含む成形体。
【請求項19】
請求項10~13のいずれかに記載の樹脂シート又は請求項14~17のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
【請求項20】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、請求項19に記載の成形体の製造方法。
【請求項21】
前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、請求項19に記載の成形体の製造方法。
【請求項22】
前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、請求項19に記載の成形体の製造方法。
【請求項23】
チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記樹脂シート又は積層体を配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、前記チャンバーボックス内を減圧して前記加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記加熱軟化させた積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、請求項19に記載の成形体の製造方法。
【請求項24】
請求項18に記載の成形体を用いて作成された車両の内装材、車両の外装材、鞍乗型車両用外装カバー、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、又は情報通信機器の筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シート、積層体、成形体、及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や住宅設備分野等の産業分野において、成形品に意匠を付与する技術として従来行われてきた塗装やメッキ等の手法に代わり、環境負荷を低減でき、今までにない新たな意匠性を付与できる手法として、加飾シートを用いる方法が注目されている。加飾シートは、樹脂シートに予め印刷や表面処理を施して意匠性を付与したものであり、樹脂成形体と一体化させることで、成形体に意匠を付与することができる。
【0003】
ポリプロピレンは、成形性と耐薬品性に優れており、また軽量化を図ることができるため、加飾シートとしての応用が期待されている。しかしながら、ポリプロピレンシートの中には表面に傷が付きやすいものがあり、例えば自動車の内装用や外装用の加飾シートとして適用した場合、必ずしも実用に耐え得るレベルの耐傷つき性を得られないという問題がある。
【0004】
耐傷つき性を向上する技術として、例えば特許文献1には、ポリプロピレンを含む化粧シートの耐擦傷性の向上を目的として、ガラスフィラーを配合することが記載されている。また特許文献2には、プロピレン系重合体を含む成形体の耐傷付き性の向上を目的として、無機充填剤とオイルを配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-215379号公報
【特許文献2】特開2013-256670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、ガラスフィラーのアスペクト比や配向状態によっては、ポリプロピレンとガラスフィラーの収縮率差により、表面凹凸が顕著に発現する場合がある。また、特許文献2の技術では、成形条件や使用環境によってブリードアウトが発生する場合がある。すなわち、従来の方法では、耐傷付き性向上の効果を十分に得られないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、耐傷付き性に優れる樹脂シートを製造することができる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の樹脂組成物等が提供される。
1.ポリプロピレンと、有機化層状無機化合物と、を含み、
前記有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上であり、
前記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上である樹脂組成物。
2.前記有機化層状無機化合物の平均粒子径が2~20μmである、1に記載の樹脂組成物。
3.前記有機化層状無機化合物の含有量が6~25質量%である、1又は2に記載の樹脂組成物。
4.前記有機化層状無機化合物が、層状無機化合物の有機変性体である、1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.前記有機化層状無機化合物が、層状無機化合物の層間に有機カチオンを担持する化合物である、1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
6.広角X線回折法で測定した場合における、前記層状無機化合物の(001)面の平均層間距離が1.5nm以上である、4又は5に記載の樹脂組成物。
7.中和剤及び酸化防止剤からなる群から選択される1以上の成分を含む、1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8.前記中和剤の含有量が0.3質量%以上である、7に記載の樹脂組成物。
9.前記酸化防止剤の含有量が0.3質量%以上である、7又は8に記載の樹脂組成物。
10.1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて作成された樹脂シート。
11.前記樹脂シートに含まれるポリプロピレンの130℃での結晶化速度が2.5min-1以下である、10に記載の樹脂シート。
12.示差走査熱量測定で得られる曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上の発熱ピークを有する、10又は11に記載の樹脂シート。
13.前記樹脂シートのポリプロピレンがスメチカ晶を含む、10~12のいずれかに記載の樹脂シート。
14.10~13のいずれかに記載の樹脂シートを含む積層体。
15.10~13のいずれかに記載の樹脂シートと易接着層とを含む、積層体。
16.前記易接着層が、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群から選択される1以上の樹脂を含む、15に記載の積層体。
17.前記易接着層における前記樹脂シートと反対側の面に印刷層を有する、15又は16に記載の積層体。
18.10~13のいずれかに記載の樹脂シート又は14~17のいずれかに記載の積層体を含む成形体。
19.10~13のいずれかに記載の樹脂シート又は14~17のいずれかに記載の積層体を成形し、成形体を得る成形体の製造方法。
20.前記樹脂シート又は前記積層体を金型の上に配置すること、及び
成形用樹脂を前記樹脂シート又は前記積層体に向けて供給することで、前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するように賦形しつつ、前記成形用樹脂と、前記樹脂シート又は前記積層体と、を一体化させること
を含む、19に記載の成形体の製造方法。
21.前記樹脂シート又は前記積層体を金型に合致するよう賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、19に記載の成形体の製造方法。
22.前記樹脂シート又は前記積層体を加熱して金型のキャビティ面上に配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を前記金型の形状に合致するように賦形すること、及び
成形用樹脂を前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体に向けて供給することで、前記成形用樹脂と、前記賦形された樹脂シート又は前記賦形された積層体と、を一体化させること
を含む、19に記載の成形体の製造方法。
23.チャンバーボックス内に芯材を配設し、前記芯材の上方に前記樹脂シート又は積層体を配置し、前記樹脂シート又は前記積層体を加熱軟化し、前記チャンバーボックス内を減圧して前記加熱軟化させた前記樹脂シート又は前記加熱軟化させた積層体を前記芯材に押圧して被覆させる、19に記載の成形体の製造方法。
24.18に記載の成形体を用いて作成された車両の内装材、車両の外装材、鞍乗型車両用外装カバー、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、又は情報通信機器の筐体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐傷付き性に優れる樹脂シートを製造することができる樹脂組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の樹脂シートを製造するための製造装置の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る樹脂組成物、樹脂シート、積層体、成形体、及び成形体の製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0012】
1.樹脂組成物
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、ポリプロピレンと、有機化層状無機化合物とを含む。当該樹脂組成物における有機化層状無機化合物の含有量は6質量%以上であり、ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率は85モル%である。
上記の樹脂組成物で用いる有機化層状無機化合物は、後述するように、層状無機化合物からなるものであり、その層間にはポリプロピレンが侵入可能である。すなわち、当該有機化層状無機化合物はポリプロピレンに対して高い親和性を有するため、上記の樹脂組成物から得られる樹脂シートは、その全体にわたって有機化層状無機化合物を均一に分散させることができる。これにより、樹脂シート全体の機械的特性が高められ、優れた耐傷付き性を実現できる。
なお、本明細書において、耐傷付き性とは、シートや成形体の表面を布やブラシ等で擦過した際の傷付きにくさを言い、具体的には実施例に記載の方法により評価する。
以下、上記の樹脂組成物に用いる各成分について説明する。
【0013】
(ポリプロピレン)
ポリプロピレンは、少なくともプロピレンを含む重合体である。具体的には、ホモポリプロピレン、プロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。特に、耐熱性、硬度の理由からホモポリプロピレンが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る樹脂組成物で用いるポリプロピレンは、アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上である。
アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上であれば、樹脂シートとしたときに十分な剛性を得られ、優れた耐傷付き性を得られる。
ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率は、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがさらに好ましく、また、99モル%以下であることが好ましく、98.5モル%以下であることがより好ましい。
アイソタクチックペンタッド分率が、85モル%以上かつ99モル%以下であれば、樹脂シートとしたときに、優れた耐傷付き性とともに十分な透明性を得られ、成形体としたときに良好な加飾性を得られる。
また、アイソタクチックペンタッド分率は、85モル%以上99モル%以下であることが好ましく、95モル%以上99モル%以下であることがより好ましく、96モル%以上98.5モル%以下であることがより好ましい。
【0015】
アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載された方法を採用でき、13C-NMRにより測定できる。
アイソタクチックペンタッド分率の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0016】
プロピレンとオレフィンとの共重合体は、アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上(好ましくは85~99モル%)であれば、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよく、これらの混合物でもよい。
オレフィンとしては、エチレン、ブチレン、シクロオレフィン等が挙げられる。
【0017】
ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、「MFR」と言う場合がある。)は、0.5~10g/10分の範囲が好ましい。この範囲内であれば、フィルム形状又はシート形状への成形性に優れる。ポリプロピレンのMFRは、JIS-K7210に準拠して、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定する。
【0018】
樹脂組成物におけるポリプロピレンの含有量は、通常、75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは87質量%以上である。また、通常、99質量%以下であり、好ましくは95質量%以下である。
【0019】
(有機化層状無機化合物)
有機化層状無機化合物とは、層状無機化合物の有機変性体である。有機化層状無機化合物は、層状無機化合物の層間に、有機カチオンを担持させた(インターカレーションされた)化合物であることが好ましい。インターカレーションとは、通常、層状物質の層間に電子供与体又は電子受容体が電荷移動力によって挿入されることを言う。
【0020】
本発明の一態様に係る樹脂組成物における有機化層状無機化合物の含有量は、6質量%以上である。有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上であれば、樹脂シートとしたときに優れた耐傷付き性が得られる。
樹脂組成物における有機化層状無機化合物の含有量は、7質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、9質量%以上であることがさらに好ましく、11質量%以上であることがよりさらに好ましく、12質量%以上であることが特に好ましい。また、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、19質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下がよりさらに好ましく、17質量%以下が特に好ましい。有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上かつ25質量%以下であれば、樹脂シートの製膜を問題なく実施でき、かつ、優れた耐傷付き性を発揮できる。また、有機化層状無機化合物の含有量が11質量%以上かつ19質量%以下、より好ましくは12質量%以上かつ16質量%以下であれば、優れた耐傷つき性に加え、さらに、より良好な表面平滑性をも併せ持つ樹脂シートを実現することができる。
【0021】
有機化層状無機化合物の層状無機化合物としては、例えば粘土鉱物が挙げられる。具体的には、層状構造をもつケイ酸塩鉱物等が挙げられ、多数のシート(例えば、ケイ酸で構成される四面体シート、AlやMg等を含む、ケイ酸で構成される八面体シート等)が積層された層状構造を有する無機化合物である。
【0022】
層状無機化合物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、パイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカ、カオリナイト、パイロフィロライト等が挙げられる。また、層状無機化合物としては、リン酸ジルコニウム、フッ素処理した膨潤性マイカ(フッ素化マイカ)等を用いてもよい。
層状無機化合物は天然品であっても、合成品であってもよい。
【0023】
上記の中でも、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素処理した膨潤性マイカが好ましく、モンモリロナイト、及びフッ素処理した膨潤性マイカがより好ましい。
層状無機化合物は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0024】
有機カチオンとしては、例えば、分子量が10~1,000,000の有機化合物のカチオン挙げられ、例えば層状無機化合物表面と親和性のある官能基を有する化合物のカチオン、金属カチオン、オニウム塩のカチオン、水溶性ポリマーのカチオン等が挙げられる。
【0025】
層状無機化合物表面と親和性のある官能基を有する化合物のカチオンの官能基としては、ハロゲン原子、酸無水物基、カルボン酸基、水酸基、チオール基、エポキシ基、エステル基、アミド基、ウレア基、ウレタン基、エーテル基、チオエーテル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ニトロ基、アミノ基、オキサゾリン基、イミド基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
また、官能基として、例えばベンゼン環、ピリジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環等の芳香環の基が挙げられる。
【0026】
金属カチオンの金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等が挙げられる。
【0027】
オニウム塩のカチオンとしては、ジアルキル(例えば、炭素数10~20、好ましくは炭素数14~18)ジメチルアンモニウムカチオン、トリアルキル(例えば、炭素数10~20)モノメチルアンモニウムカチオン等のテトラアルキルアンモニウムカチオン、オクチルアンモニウムカチオン、ドデシルアンモニウムカチオン、オクタデシルアンモニウムカチオン、アミノドデカン酸カチオン等のアンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。
オニウム塩のカチオンは、テトラアルキルアンモニウムカチオンが好ましく、ジアルキルジメチルアンモニウムカチオン、ジアルキルジエチルアンモニウムカチオン、トリアルキルモノメチルアンモニウムカチオンがより好ましい。アルキル基(例えば、炭素数1~4、10~22、12~20)としては、炭素数12のドデシル基、炭素数14のテトラデシル基、炭素数16のヘキサデシル基、炭素数18のオクタデシル基等が挙げられる。
【0028】
水溶性ポリマーのカチオンとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、リグニンスルホン酸等のリグニン誘導体、キトサン塩酸塩等のキトサン誘導体、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンジルスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルベンジルホスホン酸、ポリアクリル酸等のカチオンが挙げられる。
有機カチオンは、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
層状無機化合物は、広角X線回折法の測定での、層状無機化合物の(001)面の平均層間距離が、1.5nm以上が好ましく、2.0nm以上がより好ましい。1.5nm以上であれば、ポリプロピレンがより容易に層間に入り込むことができ、有機化層状無機化合物がポリプロピレン中に均一に分散した状態を得られやすい。
上限値に、特に制限はないが、通常100nmである。
【0030】
層状無機化合物の(001)面の平均層間距離は、具体的にはXpert PRO(スペクトリス株式会社製)等を用いて測定できる。具体的には、以下のようにして測定する。
樹脂組成物について、油圧式射出成形機IS-80EPN(東芝機械株式会社製)を用いて、厚さ2mm、短辺65mm、長辺150mmの平板状の試料とする。
得られた試料を、以下の条件でX線回折測定し、(001)面に由来するピーク位置から、Braggの条件式に従い、有機化層状無機化合物の平均層間距離を算出する。
装置:Xpert PRO(スペクトリス株式会社製)
Anode material:Cu
Anti-scatter slit:1/8°
Scan range:1.5~6°
Scan step size:0.0167113°
Time per step:約10
Braggの条件式:λ=2dsin(2θ/2)
λ(入射X線波長):1.541874 2θ:測定角
【0031】
有機化層状無機化合物の平均粒子径は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
有機化層状無機化合物の平均粒子径が2μm以上であれば、樹脂シートにおいて優れた耐傷付き性が得られる。また、有機化層状無機化合物の平均粒子径が20μm以下であれば、ポリプロピレンとの混錬時における、有機化層状無機化合物の破砕を抑制でき、樹脂シートにおいて優れた耐傷付き性を得られる。
【0032】
有機化層状無機化合物の平均粒子径は、以下のように測定する。
すなわち、9mm2の領域における粒径0.5μm~30μmの粒子を、電子顕微鏡(JEOL社製、製品名:JSM-6010PLUS/LA)により撮影した写真を用いて目視により無差別に100個選択し、当該100個の粒子の粒径の単純平均(算術平均)を求める。粒径は、その粒子の長径を用いる。
【0033】
有機化層状無機化合物は、例えば、水又はプロトン供与体を含む分散媒、有機化剤(例えば、有機カチオンを含む)及び層状無機化合物を混合して、インターカレーションにより層間に有機物を有する層状無機化合物含有液を調製(有機変性)したのち、過剰の分散媒を脱処理することで調製できる。
【0034】
有機化層状無機化合物は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
(中和剤、酸化防止剤)
一実施形態において、樹脂組成物はさらに、中和剤及び酸化防止剤からなる群から選択される1以上の成分を含む。このような成分を含むことで、樹脂組成物を用いて得られる樹脂シートの耐熱変色性や耐候性を向上させることができる。
【0036】
中和剤と酸化防止剤を樹脂組成物に含有させた場合のそれぞれの効果について、以下に説明する。
樹脂組成物において有機化層状無機化合物を用いると、有機化層状無機化合物から浸出する成分に起因して、温度変化等に伴い樹脂シートの変色や機械的特性の劣化等が生じることがあるが、樹脂組成物中に中和剤及び酸化防止剤からなる群から選択される1以上の成分を含有させることで、これらの不具合の発生を抑制できる。
【0037】
具体的には、有機化層状無機化合物とポリプロピレンとを混錬すると、層状無機化合物の層間にポリプロピレンが侵入し、層間にインターカレーションされていた塩素やフッ素等の成分が混錬樹脂中に放出されることがある。このような成分によって、樹脂シートとしたときに耐候性や耐熱変色性が低下することがある。特に、ポリプロピレンを含む樹脂組成物に予め酸化防止機能を有する成分により酸化防止機能が付与されているような場合に、上記の塩素やフッ素等の成分により当該酸化防止機能が損なわれることがある。
樹脂組成物に中和剤を添加すると、層状無機化合物から混錬樹脂中に放出される塩素やフッ素等の成分を中和剤により捕捉できる。このため、樹脂シートとしたときに、温度変化等に伴う変色や機械的特性の劣化を抑制でき、耐候性や耐熱変色性の低下を抑制できる。
また、樹脂組成物に酸化防止剤を含有すると、元来付与されている酸化防止機能が若干低下したとしても、当該酸化防止剤によって、失われた酸化防止機能を回復することができる。
【0038】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、中和剤及び酸化防止剤のいずれか一方を添加してもよいし、両方を添加してもよい。
【0039】
中和剤としては、例えばステアリン酸系中和剤(ステアリン酸を含む化合物)、ハイドロタルサイト系中和剤(ハイドロタルサイトを含む化合物)、エポキシ系中和剤(エポキシを含む化合物)等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも樹脂との相溶性、及びブリードアウトの抑制の観点から、ステアリン酸系中和剤が好ましい。
ステアリン酸系中和剤としては、具体的には、ステアリン酸カルシウム、12ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12ヒドロキシステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0040】
本発明の一態様に係る樹脂組成物における中和剤の含有量は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
中和剤の含有量が0.2質量%以上であれば、樹脂シートとしたときに、優れた耐熱変色性や耐候性を得られる。また、中和剤の含有量が1質量%以下であれば、ブリードアウトの発生を抑制できる。
【0041】
酸化防止剤としては、例えばリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも酸化防止性能の安定性の観点から、リン系酸化防止剤が好ましい。
リン系酸化防止剤としては、具体的にはBASFジャパン株式会社製「Irgafos168(商品名)」、クラリアントケミカルズ株式会社製「HOSTANOX P-EPQ(商品名)」等が挙げられる。
【0042】
本発明の一態様に係る樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
酸化防止剤の含有量が0.2質量%以上であれば、樹脂シートとしたときに、優れた耐熱変色性や耐候性を得られる。また、酸化防止剤の含有量が1質量%以下であれば、ブリードアウトの発生を抑制できる。
【0043】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、金属不活性剤を添加してもよい。
金属不活性剤とは、金属及び金属イオンのいずれかまたは両方の拡散を抑制する物質をいう。樹脂組成物中に金属不活性剤を含有することで、金属や金属イオンだけでなく、塩素やフッ素イオンの移動も抑制でき、樹脂シートとしたときに温度変化等に伴う変色や機械的特性の劣化を抑制し、耐候性や耐熱変色性の低下を抑制できる。
本発明の一態様に係る樹脂組成物における金属不活性剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
ただし、金属不活性剤によっては、得られる樹脂シートの透明性(ヘイズ値)を損ねる場合があるため、透明性を優先する場合には、樹脂組成物における金属不活性剤の含有量を、例えば、0.3質量%以下、0.1質量%以下、又は0質量%としてもよい。
【0045】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、前述した各種成分の他に、必要に応じて、着色剤、安定剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0046】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.8質量%以上、99.9質量%以上又は100質量%が、
ポリプロピレン及び有機化層状無機化合物;
ポリプロピレン、有機化層状無機化合物、及び中和剤;
ポリプロピレン、有機化層状無機化合物、及び酸化防止剤;
ポリプロピレン、有機化層状無機化合物、中和剤及び酸化防止剤;
ポリプロピレン、有機化層状無機化合物、中和剤、酸化防止剤、及び金属不活性剤;又は
ポリプロピレン、有機化層状無機化合物、中和剤、酸化防止剤、金属不活性剤、及び上記の各任意成分から選択される1以上の成分である。
【0047】
2.樹脂シート
本発明の一態様に係る樹脂シートは、上述した本発明の樹脂組成物を用いて作成されたものであり、当該樹脂組成物を含むと言うこともできる。当該樹脂シートには、上述した本発明の樹脂組成物の組成が原則としてそのまま反映される。すなわち、本発明の一態様に係る樹脂シートは、ポリプロピレンと、有機化層状無機化合物と、を含み、上記有機化層状無機化合物の含有量が6質量%以上であり、上記ポリプロピレンのアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上である。
【0048】
本発明の一態様に係る樹脂シートは、その全体にわたって、有機化層状無機化合物が均一に分散されたものとすることできるため、樹脂シート全体の機械的特性が高められ、優れた耐傷付き性を実現できる。
【0049】
本発明の一態様に係る樹脂シートにおける各成分の種類、含有量、その他の条件については、「1.樹脂組成物」で説明したものと同じである。
【0050】
本発明の一態様に係る樹脂シートの表面算術平均粗さRaは、好ましくは2.1μm以下であり、より好ましくは1.7μm以下であり、さらに好ましくは1.4μm以下である。下限値は特に限定されないが、例えば0μmであり、剥離性を考慮すると、好ましくは0.01μm以上である。
表面算術平均粗さRaの具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0051】
樹脂シートに含まれるポリプロピレンの130℃での結晶化速度は、成形性の観点から、2.5min-1以下であることが好ましく、2.0min-1以下であることがより好ましい。
結晶化速度が2.5min-1以下であると、金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。
下限値は特に限定されないが、通常0.1min-1以上であり、0.6min-1以上が好ましく、0.8min-1以上がより好ましく、0.9min-1以上がさらに好ましく、1.0min-1以上がよりさらに好ましく、1.2min-1以上が特に好ましい。
結晶化速度の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0052】
樹脂シートに含まれるポリプロピレンは、結晶構造としてスメチカ晶を含むことが好ましい。スメチカ晶は準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから透明性に優れるため好ましい。また、スメチカ晶は、準安定状態であるため、結晶化が進んだα晶と比較して低い熱量でシートが軟化することから、成形性に優れるため、好ましい。
ポリプロピレンの結晶構造には、スメチカ晶の他に、α晶、β晶、γ晶、非晶部等他の結晶形を含んでもよい。
例えば、樹脂シート中のポリプロピレンの30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上がスメチカ晶であってもよい。
結晶構造の具体的な確認方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0053】
樹脂シートは造核剤を含まないことが好ましい。
樹脂シートが造核剤を含む場合であっても、樹脂シート中の造核剤の含有量は少量であることが好ましく、例えば、樹脂シートの1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下である。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤等が挙げられ、市販品としてはゲルオールMD(新日本理化学株式会社)やリケマスターFC-1(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
【0054】
一実施形態において、造核剤を添加しないでポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下とし、80℃/秒以上で冷却して上述したスメチカ晶を形成することにより、当該樹脂シートを用いた成形体において、優れた意匠性を得ることができる。また、後述する成形体の製造において説明するように、樹脂シートの加熱及び賦形を行うことによって、樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を維持したままα晶に転移する。この転移により、樹脂シートの表面硬度や透明性をさらに向上できる。
【0055】
アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下かつポリプロピレンの結晶化速度を2.5min-1以下で、透明性や光沢に優れたポリプロピレンシートとするには、通常、スメチカ晶を形成することが必要となる。
後述する成形体の製造において説明するように、樹脂シートの加熱及び賦形を行うことによって、樹脂シートのポリプロピレンはスメチカ晶由来の微細構造を維持したままα晶に転移するが、成形体中のポリプロピレンが、アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下かつポリプロピレンの結晶化速度が2.5min-1以下であれば、スメチカ晶由来といえる。
【0056】
小角X線散乱解析法により散乱強度分布と長周期を算出することにより、樹脂シートが80℃/秒以上で冷却して得られたものか、そうでないかを判断することができる。即ち、上記解析により樹脂シートがスメチカ晶由来の微細構造を有しているか否かを判断することが可能である。測定は以下の条件で行う。
・X線発生装置はultraX 18HF(株式会社リガク製)を用い、散乱の検出にはイメージングプレートを使用する。
・光源波長:0.154nm
・電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
尚、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0057】
樹脂シートに含まれるポリプロピレンは、好ましくは示差走査熱量(DSC)測定で得られる曲線(DSC曲線)において、最大吸熱ピークの低温側に1J/g以上、好ましくは1.5J/g以上の発熱ピーク(「低温側発熱ピーク」ともいう。)を有する。上限値は特に限定されないが、通常10J/g以下である。
上記の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0058】
本発明の一態様に係る樹脂シートの厚さは、通常、10~800μmであり、20~600μmが好ましい。上記範囲であれば、樹脂シートが薄くても一定の耐傷つき性が発揮される。一方、厚さが大きいほど、通常、耐傷つき性能は高くなる。
【0059】
3.樹脂シートの製造方法
本発明の樹脂シートの製造方法は特に制限されないが、例えば押出法等が挙げられる。
上記押出法では上述した本発明の樹脂組成物の溶融物(以下、溶融樹脂と称する。)の冷却を含み、当該冷却は、好ましくは80℃/秒以上の冷却速度で行い、樹脂シートの内部温度が結晶化温度以下となるまで行う。これにより、樹脂シートに含まれるポリオレフィン(特にポリプロピレン)等の結晶構造を、上述のスメチカ晶とすることができる。冷却速度は、90℃/秒以上がより好ましく、150℃/秒以上がさらに好ましい。
具体的な製造方法は、実施例において詳述する。
【0060】
4.積層体
本発明の一態様に係る樹脂シートは、他の層が積層された積層体としてもよい。
即ち、本発明の一態様に係る積層体は、上述した本発明の樹脂シートを含み、当該樹脂シートに他の層が積層されたものである。
【0061】
例えば、本発明の一態様に係る樹脂シートは、樹脂成分からなる他の樹脂層を積層して積層体としてもよい。当該他の樹脂層に用いる樹脂としては、特に制限はないが、本発明の一態様に係る樹脂シートに用いる樹脂と同じ樹脂(ポリプロピレン)が好ましい。当該他の樹脂層に用いるポリプロピレンとしては、上記の樹脂組成物及び樹脂シートで説明した通りである。
このような樹脂層を設けることで、最表層となる樹脂シートの厚さを小さくすることができ、すなわち、有機化層状無機化合物の使用量を抑えることができる。なお、上述したように、最表層の樹脂シートの厚さをある程度小さくしても、一定の耐傷つき性は確保される。
【0062】
当該他の樹脂層の厚さは、通常、20~790μmであり、50~590μmが好ましい。
【0063】
当該他の樹脂層を設ける場合、樹脂シートと当該他の樹脂層の各材料を共押出した上で、上記の冷却処理を行うことにより、所望の積層体を製造することができる。具体的な製造方法は、実施例において詳述する。
【0064】
また、各種機能や意匠性を付与するための層を積層してもよい。このような層としては、易接着層、アンダーコート層、金属層、印刷層等が挙げられる。
【0065】
一実施形態において、積層体は、樹脂シートと、易接着層とを含む。
一実施形態において、積層体は、樹脂シートと、易接着層とを含み、易接着層における樹脂シートと反対側の面に印刷層を有する。
以下、前述した各層について説明する。
【0066】
(易接着層)
易接着層は、好ましくはウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂を含む。
そのような易接着層を設けることで、後述する成形体が複雑な非平面状に成形された場合であっても、易接着層が樹脂シートに追従して良好に層構成を形成でき、ひび割れや剥離が生じることを防止できる。
【0067】
ウレタン系樹脂としては、ジイソシアネート、高分子量ポリオール及び鎖延長剤を反応させて得られるウレタン系樹脂が好ましい。高分子量ポリオールは、ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオールとしてもよい。ウレタン系樹脂の市販品としては、ハイドランWLS-202(DIC株式会社製)等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、アクリット8UA-366(大成ファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂としては、アローベースDA-1010(ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0068】
易接着層は、上述した材料を1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
易接着層が含むウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち、後述する金属層及び印刷層への密着性や成形性を考慮すると、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0070】
なお、易接着層がポリプロピレン系樹脂を含む場合、易接着層が含むポリプロピレン系樹脂は、樹脂シートや成形体本体が含み得るポリプロピレンとは、通常、異なる。
【0071】
易接着層の引張破断伸度は、例えば150%以上900%以下であり、好ましくは200%以上850%であり、より好ましくは300%以上750%以下である。
易接着層の引張破断伸度が150%以上であると、熱成形の際の樹脂シートの伸びに易接着層が問題なく追従できるため、易接着層のひび割れ、及び金属層や印刷層のひび割れや剥離を抑制することができる。引張破断伸度が900%以下であると耐水性が良好である。
【0072】
易接着層の引張破断伸度は、例えば、ガラス基板上に、易接着層の形成に用いるものと同一組成の樹脂(組成物)をバーコーターにて塗布し、80℃にて1分間乾燥し、その後分離して厚み150μmの試料を作成し、JIS K7311:1995に準拠した方法で測定することにより評価できる。
【0073】
易接着層は、1層単独でもよく、又は、2層以上の積層構造でもよい。
【0074】
易接着層の厚さは、0.01μm以上3μm以下が好ましく、0.03μm以上0.5μm以下がより好ましい。
また、易接着層の厚さは、0.01μm以上、又は0.03μm以上としてもよく、3μm以下、又は0.5μm以下としてもよい。
易接着層の厚さが0.01μm以上であれば、十分なインキ密着性を得ることができる。また、易接着層の厚さが3μm以下であれば、べた付きによる積層体間のブロッキングを抑制できる。
【0075】
易接着層は、例えば、上述した樹脂をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、40~100℃にて10秒~10分間乾燥することで形成することができる。
【0076】
易接着層の上には、インキやハードコート、反射防止コート、遮熱コート等の各種コーティングを積層できる。
また、樹脂シートにおいて、上記の易接着層(第1の易接着層)と反対側の面に易接着層をもう1層設けてもよい(第2の易接着層)。このようにすることで、成形体の表面となるポリオレフィン樹脂層に、表面処理やハードコーティング等の機能性を付与することができる。
【0077】
(アンダーコート層)
アンダーコート層は、易接着層と金属層とを密着させることができる層である。アンダーコート層を設けることにより、熱成形時に応力が加わった場合でも、金属層に極めて微細なクラックを無数に生じさせることができ、レインボー現象の発生を無くし、又は低減することができる。
アンダーコート層を形成する材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル等が挙げられる。
【0078】
成形時の耐白化性(白化現象の起こりにくさ)や金属層との密着性の観点から、アンダーコート層を形成する材料としては、アクリル樹脂が好ましく、例えば荒川化学工業株式会社製「DA-105」を用いることができる。
【0079】
上記材料は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
アンダーコート層において、上述した樹脂成分(主剤)に硬化剤を組み合わせて用いてもよい。硬化剤としては、アジリジン系化合物、ブロックドイソシアネート化合物、エポキシ系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「CL102H」を用いることができる。
【0081】
硬化剤を用いる場合、アンダーコート層における主剤と硬化剤の含有割合は、固形分の質量比で、例えば35:4~35:40であり、好ましくは35:4~35:32であり、より好ましくは35:12~35:32である。また、35:12~35:20としてもよい。
硬化剤の配合量が主剤35に対して4以上であると、硬化反応が問題なく進行し、耐白化性を維持することができる。40以下であると、アンダーコート層の伸び性が良好であり、成形時のひび割れを抑制することができる。
【0082】
アンダーコート層の形成方法としては、例えば、上述した材料をグラビアコーター、キスコーター又はバーコーター等で塗布し、50~100℃にて10秒~10分間乾燥し、40~100℃にて10~200時間エージングすることで形成することができる。
【0083】
アンダーコート層の厚さは、0.05μm~50μmとしてもよく、0.1μm~10μmとしてもよく、0.5μm~5μmとしてもよい。
また、アンダーコート層の厚さは、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.5μm以上としてもよく、50μm以下、10μm以下、又は5μm以下としてもよい。
【0084】
(金属層)
金属層は、金属又は金属酸化物を含む層である。
金属層を形成する金属としては、積層体に金属調の意匠を付与できる金属であれば特に限定されないが、例えば、スズ、インジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金及び亜鉛が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を含む合金を用いてもよい。
上記のうち、インジウム及びアルミニウムは伸展性と色調に特に優れるため好ましい。金属層が伸展性に優れると、積層体を三次元成形した際にひび割れが発生しにくい。
【0085】
金属層の形成方法は特に制限されないが、質感が高く高級感のある金属調の意匠を積層体に付与する観点から、例えば、上記の金属を用いた、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着法等を用いることができる。特に、真空蒸着法は低コストであり、かつ、被蒸着体へのダメージを少なくすることができる。真空蒸着法の条件は、用いる金属の溶融温度又は蒸発温度に応じて適宜設定すればよい。
【0086】
上記方法の他、上記の金属又は金属酸化物を含むペーストを塗工する方法、上記の金属を用いためっき法等を用いることもできる。
【0087】
金属層の厚さは、5nm以上80nm以下としてもよい。5nm以上であると所望の金属光沢が問題なく得られ、80nm以下であるとひび割れが発生しにくい。
【0088】
(印刷層)
印刷層の形状としては、特に制限されないが、例えばベタ状、カーボン調、木目調等の様々な形状が挙げられる。
印刷の方法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、スプレーコート法等の一般的な印刷方法が利用できる。特に、スクリーン印刷法はインキの膜厚が厚くできるため、複雑な形状に成形した際にインキ割れが発生しにくい。
例えば、スクリーン印刷の場合、成形時の伸びに優れたインキが好ましく、十条ケミカル株式会社製の「FM3107高濃度白」や「SIM3207高濃度白」等が例示できるが、この限りではない。
【0089】
5.成形体
上述した本発明の一態様に係る樹脂シートは、成形体の製造に用いることができる。すなわち、当該成形体は、上述した本発明の一態様に係る樹脂シートを含む。
なお、樹脂シートの代わりに上述した本発明の一態様に係る積層体を用いることもでき、後述する「6.成形体の製造方法」において「樹脂シート」と言う場合には樹脂シート又は積層体を示す。
【0090】
6.成形体の製造方法
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、上述した本発明の樹脂シートを成形し、成形体を得る。成形体を得るための成形方法は格別限定されず、例えば、インモールド成形、インサート成形、被覆成形等が挙げられる。以下、各製造方法について説明する。
【0091】
(インモールド成形)
インモールド成形は、金型内に樹脂シートを設置して、金型内に供給される成形用樹脂の圧力で所望の形状に成形して成形体を得る方法である。
具体的には、樹脂シートを金型の上に配置すること、及び、成形用樹脂を樹脂シートに向けて供給することで、樹脂シートを金型に合致するように賦形しつつ、成形用樹脂と、樹脂シートと、を一体化させることを含む。
【0092】
(インサート成形)
インサート成形では、金型内に設置する賦形体を予備賦形しておき、その形状に成形用樹脂を充填することで、成形体を得る方法である。
具体的には、樹脂シートを金型に合致するよう賦形すること、及び、成形用樹脂を賦形された樹脂シートに向けて供給することで、成形用樹脂と、賦形された樹脂シートと、を一体化させることを含む。インサート成形では、上述したインモールド成形と比べ、より複雑な形状の成形体を形成することができる。
金型に合致するように行う賦形(予備賦形)は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形、プラグアシスト成形等で行うことができる。賦形に際して、予め樹脂シートを加熱することができる。
【0093】
(射出成形金型内で予備附形を行うインサート成形)
また、インサート成形の一類型として、樹脂シートの予備賦形を、射出成形を行う金型内で行う方法も挙げられる。
具体的には、樹脂シートを加熱して金型のキャビティ面上に配置し、樹脂シートを金型の形状に合致するように賦形すること、及び、成形用樹脂を賦形された樹脂シートに向けて供給することで、成形用樹脂と、賦形された樹脂シートと、を一体化させることを含む。
樹脂シートの予備賦形の方法としては、例えば、樹脂シートをヒーター等で予め加熱し、加熱された樹脂シートを射出成形用の金型のキャビティ面上に配置し、キャビティ内部を吸引することで、樹脂シートを金型の内部形状に合致するように賦形することができる。その後、キャビティ内に賦形された樹脂シートを設置したまま、成形用樹脂を充填することで、成形体を得ることができる。
本方法によれば、より複雑な形状の成形体を、より簡易な方法により形成することができる。
【0094】
インモールド成形及びインサート成形等に用いられる成形用樹脂は、成形可能な熱可塑性樹脂であることが好ましい。そのような熱可塑性樹脂として、具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル重合体等が例示できるが、この限りではない。熱可塑性樹脂には、ファイバーやタルク等の無機フィラーを添加してもよい。
成形用樹脂の供給は、射出で行うことが好ましく、圧力5MPa以上120MPa以下での射出が好ましい。
金型温度は20℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0095】
(被覆成形)
被覆成形による成形体の製造方法は、チャンバーボックス内に芯材を配設すること、チャンバーボックス内における芯材の上方に樹脂シートを配置すること、チャンバーボックス内を減圧すること、樹脂シートを加熱軟化させること、及び、加熱軟化させた樹脂シートを芯材に押圧して、芯材を樹脂シートによって被覆することを含むことが好ましい。
このとき、加熱軟化後、芯材の上面に、樹脂シートを接触させることが好ましい。
押圧は、チャンバーボックス内において、樹脂シートの、芯材と接する側を減圧したまま、樹脂シートの、芯材の反対側を加圧することが好ましい。
芯材は、凸状でも凹状であってもよく、例えば三次元曲面を有する樹脂、金属、セラミック等が挙げられる。樹脂としては、成形用樹脂として説明したものと同様のものが挙げられる。
【0096】
被覆成形に用いるチャンバーボックスは、例えば、互いに分離可能な、上下2つの成型室(上成型室及び下成型室)を備えるものが好適である。以下に、そのようなチャンバーボックスを用いた被覆成形の一例を説明する。
まず、下成型室内のテーブル上へ芯材を載せ、セットする。被成型物である樹脂シートを下成型室上面にクランプで固定する。この際、上・下成型室内は大気圧である。
次に上成型室を降下させ、上・下成型室を接合させ、チャンバーボックス内を閉塞状態にする。上・下成型室内の両方を大気圧状態から、真空タンクによって真空吸引状態とする。
上・下成型室内を真空吸引状態にした後、ヒーターを点けて樹脂シートの加熱を行なう。
次に、上・下成型室内は真空状態のまま下成型室内のテーブルを上昇させる。
次に、上成型室内の真空を開放し大気圧を入れることによって、被成型物であるシート又は積層体は芯材へ押し付けられてオーバーレイ(成型)される。
なお、上成型室内に圧縮空気を供給することで、より大きな力でシート又は積層体を芯材へ密着させることも可能である。オーバーレイが完了した後、ヒーターを消灯し、下成型室内の真空も開放して大気圧状態へ戻し、上成型室を上昇させ、加飾印刷された樹脂シートが表皮材として被覆された製品を取り出すことができる。
【0097】
(成形体の用途)
以上に説明した成形体の用途は特に限定されず、種々の用途に用いることができる。一実施形態において、成形体は、車両の内装材、車両の外装材、鞍乗型車両用外装カバー、家電の筐体、化粧鋼鈑、化粧板、住宅設備、又は情報通信機器の筐体等に用いることができる。
【実施例0098】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0099】
実施例1
(1)樹脂組成物の調製
以下のポリプロピレン、有機化層状無機化合物、中和剤、酸化防止剤、及び金属不活性剤を、表1に示す配合量(質量%)で混合し、樹脂組成物を調製した。
ポリプロピレン:株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロ F133A」、MFR:3g/10分、以下、「PP-1」と言う場合がある。
有機化層状無機化合物:片倉コープアグリ株式会社製「ソマシフMAE」(層状無機化合物:モンモリロナイト、有機カチオン:ジアルキル(炭素数14~18)ジメチルアンモニウムイオン)平均粒子径:10μm、平均層間距離:3.5nm)
中和剤:関東化学株式会社製「ステアリン酸カルシウム」
酸化防止剤:BASF株式会社製「Irgafos 168」
金属不活性剤:株式会社ADEKA社製「CDA-6」
【0100】
(2)積層体の製造
図1に示す装置を用いて、第1の層(樹脂シート、厚さ40μm)/第2の層(厚さ260μm)の2層の積層構造からなる積層体を製造した。
各層の材料は以下の通りである。
第1の層(樹脂シート):上記で得られた樹脂組成物
第2の層:PP-1
【0101】
図1に示す装置の動作を説明する。
押出機のTダイ52より押し出された樹脂組成物の溶融物(以下、単に溶融樹脂と称する)を第1冷却ロール53上で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56との間に挟み込む。
この状態で、溶融樹脂を第1、第4冷却ロール53、56で圧接するとともに急冷し、樹脂シートとする。樹脂シートは、続いて、第4冷却ロール56の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57と第4冷却ロール56とに挟まれて面状圧接される。第4冷却ロール56で面状圧接及び冷却された後、金属製エンドレスベルト57に密着した樹脂シートは、金属製エンドレスベルト57の回動とともに第2冷却ロール54上に移動される。樹脂シートは、前述同様、第2冷却ロール54の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト57により面状圧接され、再び冷却される。第2冷却ロール54上で冷却された樹脂シート51は、その後金属製エンドレスベルト57から剥離される。なお、第1、第2冷却ロール53、54の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材62が被覆されている。
【0102】
積層体の製造条件は以下の通りである。
・第1の層(樹脂シート)の押出機の直径:50mm
・第2の層の押出機の直径:75mm
・Tダイ52の幅:900mm
・成形後の積層体の厚さ:300μm
・ポリプロピレンシート51の引き取り速度:5m/分
・第4冷却ロール56及び金属製エンドレスベルト57の表面温度:17℃
・冷却速度:10,800℃/分
【0103】
(3)積層体の評価
得られた積層体について以下の評価を行った。結果を表1に示す。
・アイソタクチックペンタット分率
積層体に用いたポリプロピレン(PP-1)について13C-NMRスペクトルを評価することでアイソタクチックペンタット分率を測定した。具体的には、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,8,687(1975)」で提案されたピークの帰属に従い、下記の装置、条件及び計算式を用いて行った。結果を表1に示す。
(装置・条件)
装置:13C-NMR装置(日本電子株式会社製「JNM-EX400」型)
方法:プロトン完全デカップリング法(濃度:220mg/ml)
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
(計算式)
アイソタクチックペンタット分率[mmmm]=m/S×100
ラセミペンタッド分率[rrrr]=γ/S×100
ラセミメソラセミメソペンタッド分率[rmrm]=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8~22.5ppm
Pαβ:18.0~17.5ppm
Pαγ:17.5~17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7~20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7~22.5ppm
【0104】
・結晶化速度
示差走査熱量測定器(DSC)(パーキンエルマー社製「Diamond DSC」)を用いて、積層体に用いたポリプロピレン(PP-1)の結晶化速度を測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始から最大ピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始及び終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
【0105】
・結晶構造
積層体のポリプロピレン(PP-1)の結晶構造を、X線発生装置(株式会社リガク製「model ultra X 18HB」)を用いて、広角X線の散乱パターンを下記測定条件で測定し、同定した。その結果、積層体において、ピーク分離してもスメチカ晶型のピークが見られたため、積層体中にスメチカ晶が存在することが確認できた。
(測定条件)
・光源波長:300mAのCuKα線(波長=1.54Å)の単色光
・線源出力 電圧/電流:50kV/250mA
・照射時間:60分
・カメラ長:1.085m
・試料厚み:1.5~2.0mmになるようにシートを重ねる。製膜(MD)方向が揃うようにシートを重ねる。
なお、測定時間を短縮するため、1.5~2.0mmになるようにシートを重ねているが、測定時間を長くすれば、シートを重ねずに1枚でも測定可能である。
【0106】
・低温側発熱ピーク
積層体に用いたポリプロピレン(PP-1)について、上記結晶化速度の測定と同じ示差走査熱量測定装置を用いて測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温して吸熱ピーク及び発熱ピークを観察し、発熱ピークが観察された場合はその発熱量(J/g)を、JIS-K-7122:2012(転移熱測定方法)に記載の転移熱算出方法に準拠して算出した。
【0107】
・表面平滑性
積層体の第1の層(最表層)の表面算術平均粗さRaを、3Dレーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製「LEXT4000LS」)により、以下の条件で求めた。
対物レンズ:20倍
ズーム:1倍
測定ピッチ:0.06μm
走査モード:X,Y,Z高精度カラー
解析長さ:642μm
【0108】
・耐傷つき性
積層体の第1の層(最表層)の耐傷つき性を、下記式で表される学振摩耗試験前後の光沢度の変化率にて評価した。
光沢変化率=(学振摩耗試験前光沢度―学振摩耗試験後光沢度)/学振摩耗試験前光沢度
(学振摩耗試験)
試験機器:東洋精機株式会社製 学振摩耗試験機(型式 D)
荷重:300g
往復回数:10往復
摩耗子:R20、20mm×20mm
試験子:スチールウール#0000
(光沢度測定)
試験機器:日本電色工業株式会社製「VG7000」
測定角度:20°
JIS-K-7105に準拠して光沢度を測定した。
【0109】
・透明性
積層体の透明性を、ヘイズ測定機(日本電色工業株式会社製 NDH2000)を用い、JIS-K-7136に準拠して測定した。
【0110】
・耐熱変色性
積層体を測色計にて測定した後、100℃の乾燥機内にて1週間静置した。200時間経過後にも同様に測色計にて積層体を測色計にて測定して色差を算出することで、耐熱変色性を評価した。
使用機器(測色計):コニカミノルタ株式会社製「CM-2600d」
測定モード:L*a*b*
光源系:D65(UV100%)
観察視野:10°
【0111】
・耐候性
積層体の耐候性を、スーパーキセノンウェザーメータにて評価した。試験前後の色差を測定して各サンプルを評価した。
使用機器(耐候試験):スガ試験機製 SX-75
試料面放射照度:180W/m2(300~400nm)
BP温度:63±3℃
湿度:50±5%RH
雨降り:120分間中18分間
総照射時間:2000時間
使用機器(測色計):コニカミノルタ株式会社製「CM-2600d」
測定モード:L*a*b*
光源系:D65(UV100%)
観察視野:10°
【0112】
実施例2~7、比較例1、2
第1の層(樹脂シート)に用いる樹脂組成物の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同じ方法で樹脂組成物及び積層体を製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0113】
実施例8、比較例3
第1の層(樹脂シート)に用いる樹脂組成物の組成を表1に示すように変更し、第2の層を設けなかった以外は、実施例1と同じ方法で樹脂組成物及び樹脂シートを製造し、評価した。結果を表1に示す。なお、シートの厚さは、第1の層のみで300μmとした。
【0114】
本発明の樹脂シート及び積層体から得られる成形体は、多岐にわたる種々の用途に使用することができ、例えば、輸送機器(自動車や二輪車等)、住宅設備、建築材料、家電等の多岐に渡る分野の筐体にて、塗装を代替する加飾シートとして使用することができる。