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  • 特開-円すいころ軸受 図1
  • 特開-円すいころ軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086292
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20220602BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20220602BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198218
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿山 祐樹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701CA08
3J701EA31
3J701EA76
3J701FA32
(57)【要約】
【課題】内輪軌道面の大つば側が貧潤滑状態となるのを抑制することができる円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受1は、内輪軌道面2a、小つば5、及び大つば6を有する内輪2と、外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2a及び外輪軌道面3aに転動可能に配置されている複数の円すいころ4と、軸方向一方側の小径環状体11、軸方向他方側の大径環状体12、及び小径環状体11と大径環状体12とを連結している複数の柱13を有する環状の保持器10と、を備える。保持器10は、柱13の径方向内側面17において柱13の長手方向に延びる溝18を有し、柱13の径方向内側面17は、溝18よりも軸方向他方側において内輪軌道面2aに沿って対向する第1対向面部17aを有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に形成された内輪軌道面、前記内輪軌道面の軸方向一方側に設けられ径方向外側に突出する小つば、及び前記内輪軌道面の軸方向他方側に設けられ径方向外側に突出する大つばを有する内輪と、
内周に形成された外輪軌道面を有し、前記内輪の径方向外側に設けられている外輪と、
前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面に転動可能に配置されている複数の円すいころと、
軸方向一方側の小径環状体、軸方向他方側の大径環状体、及び前記小径環状体と前記大径環状体とを連結している複数の柱を有する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、前記柱の径方向内側面において当該柱の長手方向に延びる溝を有し、
前記柱の径方向内側面は、前記溝よりも軸方向他方側において前記内輪軌道面に沿って対向する第1対向面部を有する、円すいころ軸受。
【請求項2】
前記内輪は、前記大つばの軸方向一方側のつば面と前記内輪軌道面との間の隅部に形成された逃げ部を有し、
前記柱の径方向内側面は、前記第1対向面部よりも軸方向他方側において前記逃げ部に沿って対向する第2対向面部を有する、請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記柱は、軸方向他方側で開口する切り欠きを有する、請求項1又は請求項2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記保持器は、前記外輪又は前記円すいころにより回転案内される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の円すいころ軸受90を示す断面図である。円すいころ軸受90は、内輪91と、外輪92と、複数の円すいころ93と、これらの円すいころ93を周方向に間隔をあけて保持している環状の保持器94と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。内輪91は、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって拡径する内輪軌道面95と、軸方向他方側の端部に径方向外方へ突出している大つば96と、を有している。外輪92は、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって拡径する外輪軌道面97を有している。
【0003】
円すいころ軸受90(例えば、内輪91)が回転すると、円すいころ93は、内輪軌道面95及び外輪軌道面97に沿って自転しながら公転する。その際、円すいころ93の軸方向他方側の大端面98は、大つば96の軸方向一方側のつば面99に滑り接触する。また、内輪91と外輪92との間では、潤滑油が軸方向一方側から軸方向他方側に向かって流れるポンプ作用が生じる。このため、潤滑油は、円すいころ軸受90の軸方向一方側から軸受内部に流入し、円すいころ軸受90の回転に伴うポンプ作用により、軸方向他方側から軸受外部に流出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6492540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記円すいころ軸受90では、高速回転時において軸方向一方側から保持器94と内輪軌道面95との間に流入した潤滑油は、円すいころ軸受90の回転に伴う遠心力により、保持器94の内周面に張り付きながら軸方向他方側に流れる。このため、内輪軌道面95の大つば96側では貧潤滑状態となり、焼き付きが発生する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、内輪軌道面の大つば側が貧潤滑状態となるのを抑制することができる円すいころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、外周に形成された内輪軌道面、前記内輪軌道面の軸方向一方側に設けられ径方向外側に突出する小つば、及び前記内輪軌道面の軸方向他方側に設けられ径方向外側に突出する大つばを有する内輪と、内周に形成された外輪軌道面を有し、前記内輪の径方向外側に設けられている外輪と、前記内輪軌道面及び前記外輪軌道面に転動可能に配置されている複数の円すいころと、軸方向一方側の小径環状体、軸方向他方側の大径環状体、及び前記小径環状体と前記大径環状体とを連結している複数の柱を有する環状の保持器と、を備え、前記保持器は、前記柱の径方向内側面において当該柱の長手方向に延びる溝を有し、前記柱の径方向内側面は、前記溝よりも軸方向他方側において前記内輪軌道面に沿って対向する第1対向面部を有する、円すいころ軸受。
である。
【0008】
本発明によれば、保持器の柱の径方向内側面に溝が形成されているので、円すいころ軸受が回転すると、その回転に伴う遠心力により保持器の柱の径方向内側面に付着した潤滑油を溝内に保持することができる。また、柱の径方向内側面は、溝よりも軸方向他方側において内輪軌道面に沿って対向する第1対向面部を有するので、溝から軸方向他方側に溢れた潤滑油を第1対向面部により内輪軌道面の軸方向他方側に塗り付けることができる。これにより、内輪軌道面の大つば側が貧潤滑状態となるのを抑制することができる。その結果、焼き付きが発生するのを抑制することができる。
【0009】
(2)前記内輪は、前記大つばの軸方向一方側のつば面と前記内輪軌道面との間の隅部に形成された逃げ部を有し、前記柱の径方向内側面は、前記第1対向面部よりも軸方向他方側において前記逃げ部に沿って対向する第2対向面部を有するのが好ましい。
この場合、溝から軸方向他方側に溢れた潤滑油を、柱の第1対向面部及び第2対向面部に沿って逃げ部へ誘導することができる。逃げ部に誘導された潤滑油は、遠心力により大つばのつば面に流れるので、大つばのつば面が貧潤滑状態となるのを抑制することができる。
【0010】
(3)前記柱は、軸方向他方側で開口する切り欠きを有するのが好ましい。この場合、軸受内部の潤滑油の撹拌抵抗を低減することができる。その結果、円すいころ軸受の回転トルクを低減することができる。
【0011】
(4)前記保持器は、前記外輪又は前記円すいころにより回転案内されるのが好ましい。この場合、保持器の柱の径方向内側面は内輪軌道面に対して非接触となるので、保持器の溝から内輪軌道面に供給された潤滑油が、保持器の柱によって掻き取られるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内輪軌道面の大つば側が貧潤滑状態となるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る円すいころ軸受を示す断面図である。
図2】保持器の一部を径方向内側から見た斜視図である。
図3】内輪、外輪、及び保持器の断面図である。
図4図3の要部拡大断面図である。
図5】従来の円すいころ軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[円すいころ軸受の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る円すいころ軸受を示す断面図である。円すいころ軸受1は、内輪2と、内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、内輪2と外輪3との間に設けられている複数の円すいころ4と、これら円すいころ4を保持している環状の保持器10と、を備えている。円すいころ軸受1は、潤滑油(オイル)によって潤滑される。
【0015】
内輪2は、軸受鋼や機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。内輪2の外周には、複数の円すいころ4が転動する内輪軌道面2aが形成されている。内輪軌道面2aは、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうにしたがって拡径するようにテーパー状に形成されている。内輪2は、内輪軌道面2aの軸方向一方側(図1では左側)に設けられ径方向外側に突出する小つば5と、内輪軌道面2aの軸方向他方側(図1では右側)に設けられ径方向外側に突出する大つば6と、を有している。
【0016】
大つば6の軸方向一方側には、つば面7が形成されている。つば面7と内輪軌道面2aとの間の隅部には、凹状の逃げ部8が全周にわたって形成されている。逃げ部8は、図1の断面視において、内輪軌道面2aから軸方向他方側に延びる平面部8aと、平面部8aとつば面7の径方向内側端との間に介在する凹曲面部8bと、を有している。
【0017】
外輪3は、内輪2と同様に、軸受鋼や機械構造用鋼等を用いて形成された環状の部材である。外輪3の内周には、複数の円すいころ4が転動する外輪軌道面3aが形成されている。外輪軌道面3aは、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうにしたがって拡径するようにテーパー状に形成されている。
【0018】
円すいころ4は、軸受鋼等を用いて形成された部材である。円すいころ4は、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとを転動する。円すいころ4は、軸方向一方側に直径の小さい小端面4aを有し、軸方向他方側に直径の大きい大端面4bを有している。大端面4bは、大つば6のつば面7に滑り接触する。
【0019】
図2は、保持器10の一部を径方向内側から見た斜視図である。図1図2において、保持器10は、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)や繊維強化樹脂(FRP)等の合成樹脂製であり、射出成形によって成形されている。保持器10は、内輪2と外輪3との間に形成されている環状空間Sに設けられている。
【0020】
保持器10は、軸方向一方側の小径環状体11と、軸方向他方側の大径環状体12と、周方向に間隔をあけて設けられている複数の柱13と、を有している。小径環状体11及び大径環状体12は円環形状であり、軸方向に所定間隔離れて設けられている。柱13は、小径環状体11と大径環状体12とを連結している。
【0021】
小径環状体11と大径環状体12との間であって周方向で隣り合う二つの柱13,13同士の間に形成される空間は、円すいころ4を保持(収容)するポケット14となる。保持器10は、各ポケット14に一つの円すいころ4を収容し、複数の円すいころ4を周方向に等しい間隔をあけて配置し保持している。
【0022】
保持器10は、例えば、外輪軌道面3aに滑り接触することで、外輪3により回転案内される。このため、保持器10の柱13は、内輪軌道面2aに対して非接触となっている。なお、保持器10は、円すいころ4により回転案内されてもよい。その場合も、保持器10の柱13は、内輪軌道面2aに対して非接触となる。
【0023】
図1において、円すいころ軸受1では、上記のように内輪軌道面2a及び外輪軌道面3aが、軸方向一方側から軸方向他方側に向かって拡径している。このため、円すいころ軸受1(本実施形態では内輪2)が回転すると、内輪2と外輪3との間に形成されている環状空間Sを潤滑油が軸方向一方側から軸方向他方側に向かって流れる作用(ポンプ作用)が生じる。このような円すいころ軸受1の回転に伴うポンプ作用により、軸受外部の潤滑油が、軸方向一方側から、内輪2と外輪3との間の環状空間S(軸受内部)に流入し、軸方向他方側から流出する。つまり、潤滑油が軸受内部を通過する。以上より、図1に示す円すいころ軸受1では、軸方向一方側が潤滑油の流入側となり、軸方向他方側が潤滑油の流出側となる。
【0024】
[保持器の柱の構成]
図3は、内輪2、外輪3、及び保持器10の断面図である。図2図3において、保持器10の柱13は、大径環状体12の径方向内方において軸方向他方側で開口する切り欠き13aを有する。柱13の径方向内側面17は、小径環状体11の内周面から、内輪軌道面2aの軸方向他方側に向かって延びている。
【0025】
柱13の径方向内側面17には、柱13の長手方向に延びる溝18が形成されている。溝18の断面形状は、溝18の長手方向の途中部18aにおいて溝深さが最も深くなるようにV字状に形成されている。溝18は、軸方向両側でそれぞれ開口している。具体的には、溝18は、途中部18aから軸方向一方側の領域に第1溝部18bを有し、途中部18aから軸方向他方側の領域に第2溝部18cを有している。
【0026】
第1溝部18bは、途中部18aから軸方向一方側の第1溝終端18dに向かうにしたがって溝深さが浅くなっている。これにより、溝18は、第1溝終端18dで溝深さがゼロとなることで、径方向一方側に向かって開口している。第2溝部18cは、途中部18aから軸方向他方側の第2溝終端18eに向かうにしたがって溝深さが浅くなっている。これにより、溝18は、第2溝終端18eで溝深さがゼロとなることで、径方向他方側に向かって開口している。
【0027】
図4は、図3の要部拡大断面図である。図4に示すように、柱13の径方向内側面17は、溝18の第2溝終端18eよりも軸方向他方側において、内輪軌道面2aに沿って対向する第1対向面部17aを有している。本実施形態の第1対向面部17aは、溝18の第2溝終端18eから内輪軌道面2aの軸方向他方側の端に対向する位置まで、内輪軌道面2aと所定間隔をあけて平行に延びている。
【0028】
柱13の径方向内側面17は、第1対向面部17aよりも軸方向他方側において、逃げ部8に沿って対向する第2対向面部17bを有している。本実施形態の第2対向面部17bは、第1対向面部17aの軸方向他方側の端から逃げ部8の平面部8aの途中部に対向する位置まで、平面部8aと所定間隔をあけて平行に延びている。第2対向面部17bの軸方向他方側の端は、柱13の軸方向他方側において切り欠き13aの径方向内方に形成された端面13bに接続されている。
【0029】
このような柱13の径方向内側面17の構成によれば、円すいころ軸受1の軸方向一方側から内輪2と保持器10との間に流入した潤滑油は、円すいころ軸受1の回転に伴う遠心力により、保持器10の柱13の径方向内側面17に付着する。柱13の径方向内側面17に付着した潤滑油は、その径方向内側面17において柱13の長手方向に延びる溝18内に保持される。そして、溝18の第2溝終端18eから軸方向他方側に溢れた潤滑油は、柱13の第1対向面部17aにより内輪軌道面2aに塗り付けられる。これにより、内輪軌道面2aの大つば6側が貧潤滑状態となるのを抑制することができる。その結果、焼き付きが発生するのを抑制することができる。
【0030】
また、溝18の第2溝終端18eから軸方向他方側に溢れた潤滑油を、柱13の第1対向面部17a及び第2対向面部17bに沿って逃げ部8へ誘導することができる。逃げ部8に誘導された潤滑油は、前記遠心力によって大つば6のつば面7に流れるので、大つば6のつば面7が貧潤滑状態となるのを抑制することができる。
【0031】
また、柱13は、軸方向他方側で開口する切り欠き13aを有するので、軸受内部の潤滑油の撹拌抵抗を低減することができる。その結果、円すいころ軸受1の回転トルクを低減することができる。
【0032】
また、保持器10は、外輪3又は円すいころ4により回転案内されるので、保持器10の柱13の径方向内側面17は内輪軌道面2aと非接触となる。これにより、保持器10の溝18から内輪軌道面2aに供給された潤滑油が、保持器10の柱13によって掻き取られるのを抑制することができる。
【0033】
[その他]
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の円すいころ軸受は、図示した形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、柱13の径方向内側面17は、第1対向面部17aと第2対向面部17bを有しているが、少なくとも第1対向面部を有していればよい。
【0034】
また、溝18の断面形状は、本実施形態の形状に限定されるものではない。例えば、溝18の断面形状は、凹曲面状に形状されていてもよい。また、溝18の断面形状は、軸方向一方側から軸方向他方側に向かうにしたがって、溝深さが深くなるように、又は溝深さが浅くなるように形成されていてもよい。また、柱13の径方向内側面17の第1対向面部17a又は第2対向面17bには、潤滑油を軸方向他方側に誘導するために、軸方向に延びる複数の筋を設けてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1:円すいころ軸受 2:内輪 2a:内輪軌道面
3:外輪 3a:外輪軌道面 4:円すいころ
5:小つば 6:大つば 7:つば面
8:逃げ部 10:保持器 11:小径環状体
12:大径環状体 13:柱 13a:切り欠き
17:径方向内側面 17a:第1対向面部 17b:第2対向面部
18:溝
図1
図2
図3
図4
図5