(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086317
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】建設機械および履帯
(51)【国際特許分類】
B62D 55/21 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
B62D55/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198258
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】特許業務法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】関口 良明
(72)【発明者】
【氏名】北村 良太
(57)【要約】
【課題】履帯のブッシュが摩耗するのを抑え、履帯の寿命を延ばす。
【解決手段】履帯8は、長手方向一側に外側リンク部9A,10Aが形成されると共に長手方向他側に内側リンク部9B,10Bが形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンク9および右トラックリンク10と、左トラックリンク9および右トラックリンク10の内側リンク部9B,10B間を連結しスプロケット6の回転力が伝達されるブッシュ11と、ブッシュ11内に挿通され、軸方向の両端側が外側リンク部9A,10Aに連結された連結ピン12と、を備え、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位の外周面には、円筒状のカラー15が嵌合している。これにより、スプロケット6は、ブッシュ11に噛合することなくカラー15に噛合し、ブッシュ11に回転力を伝達して履帯8を周回動作させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータに設けられたスプロケットにより周回動作を行う履帯を備えた自走可能な車体と、前記車体に設けられた作業装置とを有し、
前記履帯は、
長手方向一側に外側リンク部が形成されると共に長手方向他側に内側リンク部が形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンクおよび右トラックリンクと、
前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記内側リンク部間を連結し前記スプロケットの回転力が伝達される円筒状のブッシュと、
前記ブッシュ内に挿通され、軸方向の両端側が前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記外側リンク部に連結された連結ピンと、を備えてなる建設機械において、
前記ブッシュのうち前記スプロケットに対応する部位の外周面には、円筒状のカラーが嵌合していることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記カラーは、自己潤滑性を有する材料を用いて形成され、前記ブッシュに対して着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記カラーは、複数の分割カラー片を組み合わせることにより円筒状に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記カラーは、前記ブッシュの外周面に螺旋状に巻き付けられた線状体からなるスパイラルチューブによって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の建設機械。
【請求項5】
前記ブッシュの外周面のうち前記カラーが嵌合する部位には、軸方向に離間して一対の環状溝が設けられ、
前記一対の環状溝内には、それぞれOリングが設けられ、
前記ブッシュの外周面、前記Oリング、および前記カラーの内周面によって囲まれる空間内には潤滑剤が封入されていることを特徴とする請求項1,2,3または4に記載の建設機械。
【請求項6】
前記カラーの軸方向の両端には、前記カラーの外周面から径方向外側に張出し、前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記内側リンク部と対面する鍔部がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載の建設機械。
【請求項7】
長手方向一側に外側リンク部が形成されると共に長手方向他側に内側リンク部が形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンクおよび右トラックリンクと、
前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記内側リンク部間を連結し前記スプロケットの回転力が伝達される円筒状のブッシュと、
前記ブッシュ内に挿通され、軸方向の両端側が前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記外側リンク部に連結された連結ピンと、を備えてなる履帯において、
前記ブッシュのうち前記スプロケットに対応する部位の外周面には、円筒状のカラーが嵌合していることを特徴とする履帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば油圧ショベル等の履帯を備えたクローラ式の建設機械および履帯に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルに代表されるクローラ式の建設機械は、自走可能な下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、上部旋回体に設けられた作業装置とにより構成されている。下部走行体と上部旋回体は油圧ショベルの車体を構成し、下部走行体には履帯が設けられている。履帯は、下部走行体に設けられた遊動輪と駆動輪(スプロケット)とに巻回され、無限軌道を形成する。油圧ショベルは、履帯によって不整地や泥濘地を安定して走行することができる。
【0003】
履帯は、長手方向一側に外側リンク部が形成されると共に長手方向他側に内側リンク部が形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンクおよび右トラックリンクと、左トラックリンクおよび右トラックリンクの内側リンク部間を連結し、スプロケットの回転力が伝達されるブッシュと、ブッシュ内に挿通され、軸方向の両端側が左トラックリンクおよび右トラックリンクの外側リンク部に連結された連結ピンと、を備えている(特許文献1参照)。
【0004】
スプロケットは、下部走行体に搭載された走行モータによって回転駆動され、履帯のブッシュに噛合することにより、スプロケット6の回転力がブッシュに伝達される。これにより、履帯は、遊動輪とスプロケットとに巻回された状態で周回動作を行い、油圧ショベルは、履帯を不整地や泥濘地に接地させることにより、不整地等を安定して走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、油圧ショベルの走行時には、スプロケットと履帯のブッシュとの噛合部に土砂が噛み込まれることが多い。このため、油圧ショベルが長期に亘って稼働する間に、ブッシュあるいはスプロケットに偏摩耗が生じ、これらブッシュあるいはスプロケットの寿命が低下してしまうという問題がある。
【0007】
本発明の一実施形態の目的は、履帯のブッシュが摩耗するのを抑え、履帯の寿命を延ばすことができるようにした建設機械および履帯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、走行モータに設けられたスプロケットにより周回動作を行う履帯を備えた自走可能な車体と、前記車体に設けられた作業装置とを有し、前記履帯は、長手方向一側に外側リンク部が形成されると共に長手方向他側に内側リンク部が形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンクおよび右トラックリンクと、前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記内側リンク部間を連結し前記スプロケットの回転力が伝達される円筒状のブッシュと、前記ブッシュ内に挿通され、軸方向の両端側が前記左トラックリンクおよび前記右トラックリンクの前記外側リンク部に連結された連結ピンと、を備えてなる建設機械において、前記ブッシュのうち前記スプロケットに対応する部位の外周面には、円筒状のカラーが嵌合していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、スプロケットに対応するブッシュの外周面にカラーが嵌合しているので、スプロケットは、ブッシュに噛合することなく、カラーに噛合することにより、ブッシュに回転力を伝達して履帯を周回動作させる。これにより、ブッシュの摩耗を抑えることができ、履帯の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態が適用された油圧ショベルを示す左側面図である。
【
図2】
図1中のスプロケットおよび履帯等を拡大して示す左側面図である。
【
図4】履帯を構成するトラックリンク、ブッシュ、連結ピン、カラー等を
図3中の矢示IV―IV方向から見た断面図である。
【
図5】トラックリンク、ブッシュ、連結ピン、カラー等を拡大した断面図である。
【
図6】第2の実施形態による履帯を構成するトラックリンク、ブッシュ、連結ピン、カラー等を示す
図5と同様位置の断面図である。
【
図7】第3の実施形態による履帯を構成するトラックリンク、ブッシュ、連結ピン、カラー等を示す
図5と同様位置の断面図である。
【
図8】分割型カラーによって構成された第1の変形例によるカラーを示す斜視図である。
【
図9】分割型カラーを構成する分割カラー片を示す分解斜視図である。
【
図10】スパイラルチューブによって構成された第2の変形例によるカラーを示す斜視図である。
【
図11】スパイラルチューブを構成する線状体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態による建設機械を、油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、
図1ないし
図11を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施形態では、油圧ショベルの走行方向を前後方向とし、油圧ショベルの走行方向と直交する方向を左右方向として説明する。
【0012】
図1ないし
図5は本発明の第1の実施形態を示している。クローラ式の油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とを備え、これら下部走行体2と上部旋回体3とにより車体が構成されている。上部旋回体3の前側には作業装置4が設けられ、油圧ショベル1は、上部旋回体3を旋回させつつ作業装置4を俯仰動させることにより、土砂の掘削作業等を行う。
【0013】
下部走行体2は、ベースとなるトラックフレーム2Aを有している。トラックフレーム2Aは、センタフレーム2Bと、センタフレーム2Bを挟んで左右両側に設けられ、前後方向に伸長する左,右のサイドフレーム2C(左側のみ図示)とを備えている。左,右のサイドフレーム2Cの長さ方向の一端側には遊動輪5が設けられ、他端側にはスプロケット(駆動輪)6が設けられ、スプロケット6は走行モータ7によって回転する。スプロケット6には、全周に亘って歯車状の歯部6Aが形成され、これら複数の歯部6Aは、スプロケット6が回転することにより後述する履帯8のカラー15に噛合する。
【0014】
履帯8は、下部走行体2に設けられた遊動輪5とスプロケット6とに巻回されている。履帯8は、スプロケット6によって駆動されることにより、遊動輪5とスプロケット6との間で周回動作を行い、不整地等において油圧ショベル1を安定して走行させる。履帯8は、後述する左トラックリンク9、右トラックリンク10、ブッシュ11、連結ピン12、シュー14、カラー15を含んで構成されている。
【0015】
複数の左トラックリンク9、および複数の右トラックリンク10は、履帯8のベースとなるもので、それぞれ履帯8の周回方向に延び、ブッシュ11、連結ピン12等を用いて無端状に連結されている。これら複数の左トラックリンク9と右トラックリンク10とは、左右方向で一定の間隔をもって対面している。
【0016】
左トラックリンク9の長手方向一側には、外側リンク部9Aが形成され、長手方向他側には内側リンク部9Bが形成されている。外側リンク部9Aは、隣合う他の左トラックリンク9に設けられた内側リンク部9Bの外側に配置され、内側リンク部9Bは、隣合う他の左トラックリンク9に設けられた外側リンク部9Aの内側に配置される。同様に、右トラックリンク10の長手方向一側には、外側リンク部10Aが形成され、長手方向他側には内側リンク部10Bが形成されている。外側リンク部10Aは、隣合う他の右トラックリンク10に設けられた内側リンク部10Bの外側に配置され、内側リンク部10Bは、隣合う他の右トラックリンク10に設けられた外側リンク部10Aの内側に配置される。
【0017】
図5に示すように、左トラックリンク9の外側リンク部9Aには、連結ピン12が挿嵌されるピン挿嵌孔9Cと、ピン挿嵌孔9Cよりも大径なシール装着穴9Dとが同心上に形成されている。シール装着穴9Dは、その奥部が内側端面9Eとなった有底穴からなり、後述の環状シール13が装着される。一方、左トラックリンク9の内側リンク部9Bには、ブッシュ挿嵌孔9Fが形成され、ブッシュ挿嵌孔9Fにはブッシュ11が挿嵌される。同様に、右トラックリンク10の外側リンク部10Aには、ピン挿嵌孔10Cと、ピン挿嵌孔10Cよりも大径なシール装着穴10Dとが同心上に形成されている。シール装着穴10Dは、その奥部が内側端面10Eとなった有底穴からなり、環状シール13が装着される。一方、右トラックリンク10の内側リンク部10Bには、ブッシュ挿嵌孔10Fが形成され、ブッシュ挿嵌孔10Fにはブッシュ11が挿嵌される。
【0018】
ブッシュ11は、左トラックリンク9および右トラックリンク10の内側リンク部9B,10B間に設けられている。ブッシュ11は、例えば鋼材を用いて円筒状に形成され、左トラックリンク9の内側リンク部9Bと、右トラックリンク10の内側リンク部10Bとの間を連結している。ブッシュ11の内周側には連結ピン12が挿通され、ブッシュ11の外周側にはカラー15が嵌合される。
【0019】
ここで、ブッシュ11の長さ方向の一端側は、左トラックリンク9(内側リンク部9B)のブッシュ挿嵌孔9Fに圧入状態で挿嵌され、ブッシュ11の長さ方向の他端側は、右トラックリンク10(内側リンク部10B)のブッシュ挿嵌孔10Fに圧入状態で挿嵌されている。また、ブッシュ11の一端面11Aは、左トラックリンク9の外側リンク部9Aに設けられた内側端面9Eと間隔をもって対面し、ブッシュ11の他端面11Bは、右トラックリンク10の外側リンク部10Aに設けられた内側端面10Eと間隔をもって対面している。
【0020】
連結ピン12は、ブッシュ11の内周側に挿通して設けられている。連結ピン12は、例えば鋼材を用いて円柱状に形成され、連結ピン12の両端側は、左トラックリンク9の外側リンク部9Aと右トラックリンク10の外側リンク部10Aとに連結されている。具体的には、連結ピン12の軸方向(長さ方向)の中間部は、ブッシュ11内に摺動可能に挿通され、連結ピン12の両端側は、ブッシュ11の一端面11Aおよび他端面11Bから突出している。連結ピン12の一端側は、外側リンク部9Aのピン挿嵌孔9C内に圧入状態で挿嵌され、連結ピン12の他端側は、外側リンク部10Aのピン挿嵌孔10C内に圧入状態で挿嵌されている。
【0021】
これにより、左トラックリンク9および右トラックリンク10の外側リンク部9A,10Aと、これに隣り合う左トラックリンク9および右トラックリンク10の内側リンク部9B,10Bとの間が連結ピン12を介して連結され、複数の左トラックリンク9と右トラックリンク10とが、無端状に連結される構成となっている。ブッシュ11の内周面と連結ピン12との間には、グリース等の潤滑剤(図示せず)が充填され、この潤滑剤によってブッシュ11の内周面と連結ピン12の外周面との摺動面が潤滑される。
【0022】
環状シール13は、左トラックリンク9の外側リンク部9Aに設けられたシール装着穴9D、および右トラックリンク10の外側リンク部10Aに設けられたシール装着穴10Dにそれぞれ設けられている。環状シール13は、例えばウレタンゴム等の弾性樹脂材料を用いてM型の断面形状を有するシールリングとして形成されている。
【0023】
左トラックリンク9のシール装着穴9D内に装着された環状シール13は、連結ピン12の外周側に取付けられた状態でシール装着穴9D内に配置され、外側リンク部9Aの内側端面9Eとブッシュ11の一端面11Aとに適度な圧力をもって当接している。同様に、右トラックリンク10のシール装着穴10D内に装着された環状シール13は、連結ピン12の外周側に取付けられた状態でシール装着穴10D内に配置され、外側リンク部10Aの内側端面10Eとブッシュ11の他端面11Bとに適度な圧力をもって当接している。これにより、連結ピン12とブッシュ11との間に充填したグリース等の潤滑剤が外部に漏洩するのが防止されると共に、連結ピン12とブッシュ11との間に外部からの土砂等の異物が侵入するのが防止される。
【0024】
複数のシュー(履板)14は、左トラックリンク9と右トラックリンク10とに取付けられている。シュー14は、鋼材等を用いて前後方向の寸法に対して左右方向の寸法が大きな矩形の板状体として形成されている。シュー14は、ボルトを用いて左トラックリンク9と右トラックリンク10とに固定され、これら左トラックリンク9と右トラックリンク10とを一体に連結すると共に、履帯8の接地面を形成する。
【0025】
次に、本実施形態に用いられるカラー15について説明する。
【0026】
カラー15は、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位の外周面に嵌合している。即ち、カラー15は、左トラックリンク9の内側リンク部9Bと右トラックリンク10の内側リンク部10Bとの間に位置してブッシュ11の外周面に嵌合している。ここで、カラー15は、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール樹脂)、UHMW-PE(超高分子量ポリエチレン)等の摺動性を有する強化プラスチック、あるいはCu系コーティングやMo系コーティングを含む固体潤滑特性が付与された金属などの自己潤滑性を有する材料を用いて単一の円筒状に形成されている。
【0027】
カラー15は、ブッシュ11の外周面に僅かな隙間をもって嵌合し、ブッシュ11に対して摺動(回転)可能となっている。遊動輪5とスプロケット6とに履帯8を巻回した状態で、スプロケット6を回転させると、スプロケット6の歯部6Aは、ブッシュ11に嵌合したカラー15に噛合する。これにより、スプロケット6の回転力がブッシュ11に伝達されて履帯8が周回動作を行うことにより、油圧ショベル1が走行する。
【0028】
ここで、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位の外周面には、自己潤滑性を有する材料を用いて形成されたカラー15が嵌合している。このため、スプロケット6の各歯部6Aが、ブッシュ11に直接的に接触することがないので、ブッシュ11の摩耗を抑えることができる構成となっている。また、油圧ショベル1の走行時に、スプロケット6とカラー15との噛合部に土砂が噛み込まれた場合でも、カラー15は自己潤滑性を有しているため、噛み込まれた土砂によってカラー15自体あるいはスプロケット6が摩耗するのを抑えることができる構成となっている。
【0029】
一方、カラー15は、ブッシュ11に対して摺動可能となっている。このため、スプロケット6がカラー15に噛合したときに、スプロケット6とカラー15との間の摺動抵抗が大きい場合には、カラー15とスプロケット6との間の摺動は少なく、カラー15は、主としてブッシュ11との間で摺動する。これにより、スプロケット6の摩耗を抑えることができる構成となっている。
【0030】
第1の実施形態による油圧ショベル1は、上述の如きカラー15を有する履帯8を備えるもので、走行モータ7によってスプロケット6が回転駆動されることにより、スプロケット6の各歯部6Aは、ブッシュ11の外周面に嵌合したカラー15に連続的に噛合する。これにより、スプロケット6の回転力が履帯8に伝達され、履帯8が周回動作を行うことにより、油圧ショベル1は不整地等を安定して走行することができる。
【0031】
この場合、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位(左トラックリンク9の内側リンク部9Bと右トラックリンク10の内側リンク部10Bとの間の部位)の外周面には、自己潤滑性を有する材料を用いて形成されたカラー15が嵌合している。このため、スプロケット6の各歯部6Aは、ブッシュ11に直接的に接触することなくカラー15に噛合することにより、カラー15を介してブッシュ11に回転力を伝達する。この結果、ブッシュ11の摩耗を抑えることができ、履帯8の寿命を延ばすことができる
【0032】
一方、油圧ショベル1の走行時には、スプロケット6とカラー15との噛合部に土砂が噛み込まれる。しかし、カラー15は自己潤滑性を有しているため、噛み込まれた土砂によってスプロケット6あるいはカラー15が摩耗するのを抑制することができる。また、カラー15は、ブッシュ11に対して摺動可能となっているため、スプロケット6とカラー15との間の摺動抵抗が大きい場合には、カラー15とスプロケット6との間の摺動は少なく、カラー15は主としてブッシュ11に対して摺動する。これにより、スプロケット6の摩耗を抑えることができる。しかも、カラー15は自己潤滑性を有しているため、カラー15自体の摩耗、およびブッシュ11の摩耗も抑制することができる。この結果、ブッシュ11の耐久性を高めることができ、履帯8の寿命を延ばすことができる。さらに、スプロケット6の摩耗が抑制されることにより、スプロケット6の寿命をも延ばすことができる。
【0033】
次に、
図6は本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、ブッシュの外周面とカラーの内周面との間に潤滑剤が封入されていることにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
第2の実施形態による履帯16は、第1の実施形態による履帯8と同様に、左トラックリンク9、右トラックリンク10、連結ピン12、シュー14、カラー15、後述のブッシュ17等により構成されるものの、ブッシュ17とカラー15との間に後述の潤滑剤20が封入される点で、履帯8とは異なっている。
【0035】
ブッシュ17は、第1の実施形態で用いたブッシュ11に代えて本実施形態に用いられている。ブッシュ17は、左トラックリンク9の内側リンク部9Bと、右トラックリンク10の内側リンク部10Bとの間を連結している。ここで、ブッシュ17は、第1の実施形態によるブッシュ11と同様に、鋼材を用いて円筒状に形成されているものの、その外周面に一対の環状溝17Aが形成されている点で、ブッシュ11とは異なっている。ブッシュ17の内周側には連結ピン12が挿通され、ブッシュ17の外周側にはカラー15が嵌合される。
【0036】
一対(2個)の環状溝17Aは、ブッシュ17の外周面のうちカラー15が嵌合する部位に設けられている。一対の環状溝17Aは、ブッシュ17の外周面に全周に亘って環状に形成され、ブッシュ17の軸方向に離間した2か所に配置されている。一対の環状溝17Aには、それぞれOリング18が装着されている。一対の環状溝17Aに装着されたOリング18の外周縁は、ブッシュ17の外周面から環状に突出し、ブッシュ17の外周面にカラー15を嵌合させた状態では、カラー15の内周面に適度な弾性をもって当接する。
【0037】
これにより、ブッシュ17とカラー15との間には、2個のOリング18と、ブッシュ17の外周面と、カラー15の内周面とによって囲まれた円筒状の空間19が形成されている。ブッシュ17とカラー15との間に形成された円筒状の空間19内には、グリース等の潤滑剤20が封入されている。これにより、ブッシュ17とカラー15との間には、潤滑剤20によって常に一定の潤滑が確保されている。
【0038】
第2の実施形態による油圧ショベル1は、上述の如きブッシュ17を有する履帯16を備えるもので、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0039】
然るに、第2の実施形態による履帯16は、ブッシュ17の外周面とカラー15の内周面との間に形成された空間19内に、潤滑剤20が封入されている。これにより、ブッシュ17とカラー15との間には、潤滑剤20によって常に一定の間隔が確保されるので、スプロケット6がカラー15に噛合したときに、カラー15がブッシュ17に直接的に接触することがない。この結果、カラー15およびブッシュ17の摩耗をさらに抑えることができ、履帯16の寿命を一層延ばすことができる。
【0040】
次に、
図7は本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、カラーの軸方向の両端に、カラーの外周面から径方向に張出す鍔部が設けられていることにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
第3の実施形態による履帯21は、第1の実施形態による履帯8と同様に、左トラックリンク9、右トラックリンク10、ブッシュ11、連結ピン12、シュー14、カラー22等により構成されるものの、カラー22の形状が第1の実施形態によるカラー15とは異なっている。
【0042】
カラー22は、第1の実施形態で用いたカラー15に代えて本実施形態に用いられている。カラー22は、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位の外周面に嵌合している。即ち、カラー22は、左トラックリンク9の内側リンク部9Bと右トラックリンク10の内側リンク部10Bとの間に位置してブッシュ11の外周面に嵌合している。ここで、カラー22は、第1の実施形態によるカラー15と同様に、摺動性を有する強化プラスチック、あるいは固体潤滑特性が付与された金属などの自己潤滑性を有する材料を用いて円筒状に形成されている。しかし、カラー22は、軸方向の両端に一対の鍔部22Aが設けられている点で、カラー15とは異なっている。
【0043】
一対の鍔部22Aは、カラー22の軸方向の両端にそれぞれ設けられている。鍔部22Aは、カラー22の外周面から径方向に張出す円板状をなし、カラー22に一体形成されている。カラー22の軸方向の一端に設けられた一方の鍔部22Aは、左トラックリンク9の内側リンク部9Bと軸方向で対面し、カラー22の軸方向の他端に設けられた他方の鍔部22Aは、右トラックリンク10の内側リンク部10Bと軸方向で対面している。即ち、鍔部22Aは、左トラックリンク9の内側リンク部9Bとスプロケット6との間、右トラックリンク10の内側リンク部10Bとスプロケット6との間にそれぞれ配置されている。
【0044】
これにより、油圧ショベル1が傾斜した地面等を走行する場合に、履帯21を構成する左トラックリンク9の内側リンク部9B、あるいは右トラックリンク10の内側リンク部10Bが、スプロケット6に接近したとしても、これら内側リンク部9B、あるいは内側リンク部10Bとスプロケット6との間には、カラー22の鍔部22Aが介在し、スプロケット6が、内側リンク部9B,10Bに直接的に接触するのを鍔部22Aによって抑える構成となっている。
【0045】
第3の実施形態による油圧ショベル1は、上述の如き鍔部22Aが設けられたカラー22を有する履帯21を備えるもので、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0046】
然るに、本実施形態による履帯21は、カラー22の軸方向の両端に一対の鍔部22Aが設けられ、この鍔部22Aは、左トラックリンク9の内側リンク部9Bとスプロケット6との間、および右トラックリンク10の内側リンク部10Bとスプロケット6との間にそれぞれ配置されている。これにより、油圧ショベル1が傾斜した地面等を走行する場合に、履帯21を構成する左トラックリンク9の内側リンク部9B、あるいは右トラックリンク10の内側リンク部10Bに対し、スプロケット6が直接的に接触するのを鍔部22Aによって抑えることができる。この結果、内側リンク部9B,10Bとスプロケット6との接触による異音(騒音)の発生、内側リンク部9B,10Bあるいはスプロケット6の摩耗を抑制することができる。
【0047】
ここで、第1の実施形態に用いられるカラー15は、単一の円筒体によって形成されている。しかし、本発明はこれに限らず、例えば
図8および
図9に示す第1の変形例のように、複数(例えば2個)の分割カラー片を組み合わせることにより形成された分割型カラー23を用いても良い。
【0048】
図8および
図9に示す分割型カラー23は、同一形状をなす2個の分割カラー片24を組み合わせることにより円筒状に形成されている。2個の分割カラー片24は、第1の実施形態によるカラー15と同様の材料、即ち、摺動性を有する強化プラスチック、あるいは固体潤滑特性が付与された金属などの自己潤滑性を有する材料を用いて半円弧状に形成されている。2個の分割カラー片24には、それぞれ一対の組合せ面24A,24Bが長さ方向の全域に亘って設けられている。そして、一方の分割カラー片24の組合せ面24Aと、他方の分割カラー片24の組合せ面24Bとが組み合わされ、一方の分割カラー片24の組合せ面24Bと、他方の分割カラー片24の組合せ面24Aとが組み合わされることにより、分割型カラー23が形成される。
【0049】
ここで、分割カラー片24の組合せ面24Aには、径方向の外側に凹部24A1が形成され、組合せ面24Bには、径方向の内側に凹部24B1が形成されている。凹部24A1には傾斜面24A2が設けられ、凹部24B1には、傾斜面24A2と等しい勾配を有する傾斜面24B2が設けられている。これにより、
図9に示すように、2つの分割カラー片24の組合せ面24A,24Bを突合せて径方向に押圧するだけで、一方の分割カラー片24の凹部24A1と他方の分割カラー片24の凹部24B1とが、傾斜面24A2,24B2を当接させた状態で係合する。同様に、一方の分割カラー片24の凹部24B1と他方の分割カラー片24の凹部24A1とが、傾斜面24B2,24A2を当接させた状態で係合する。これにより、突合わされた2個の分割カラー片24の組合せ面24A,24Bがインロー嵌合され、円筒形状を保った分割型カラー23が形成される。
【0050】
この結果、例えばブッシュ11の外周面に嵌合させた分割型カラー23が摩耗、あるいは破損して交換が必要な場合には、2個の分割カラー片24によってブッシュ11を挟み込み、これら2個の分割カラー片24を径方向に押圧するだけで、容易に分割型カラー23をブッシュ11の外周面に嵌合させることができ、分割型カラー23を交換するときの作業性を高めることができる。しかも、同一形状を有する2個の分割カラー片24を用いることにより、コストの低減にも寄与することができる。
【0051】
なお、第1の変形例においては、2つの分割カラー片24が、凹凸状の組合せ面24A,24Bを嵌合させて物理的に結合することにより、全体として円筒形状をなす分割型カラー23を構成する場合について説明した。しかし、分割カラー片は、互いに組み合わされることで、全体としてブッシュ11の外周面を覆うように構成されていればよい。例えば、分割カラー片は、平坦な合わせ面を有し、当該合わせ面が接着剤によって互いに接着されることで、全体として円筒形状をなすように構成されていてもよい。
【0052】
また、例えば
図10および
図11に示す第2の変形例のように、単一の円筒体からなるカラー15に代えて、ブッシュ11の外周面に螺旋状に巻き付けられた線状体からなるスパイラルチューブ25を用いても良い。
【0053】
図10に示すスパイラルチューブ25は、例えば断面四角形の線状体26をブッシュ11の外周面に螺旋状に巻き付けることにより、円筒状に形成されている。線状体26は、自己潤滑性を有し、かつ熱硬化性を有する樹脂材料等を用いて形成され、
図11に示すように、外力が作用していない状態では、緩やかなコイル状を保っている。そして、線状体26をブッシュ11の外周面に螺旋状に巻き付けた状態で加熱することにより、ブッシュ11の外周側に嵌合する円筒状のスパイラルチューブ25が形成される。
【0054】
このように、ブッシュ11の外周面に線状体26を螺旋状に巻き付けて加熱するだけで、容易にブッシュ11の外周側にスパイラルチューブ25を嵌合させることができるので、摩耗、破損したスパイラルチューブ25を新たなスパイラルチューブ25に交換するときの作業性を高めることができる。
【0055】
かくして、本実施形態では、スプロケット6により周回動作を行う履帯8は、長手方向一側に外側リンク部9A,10Aが形成されると共に長手方向他側に内側リンク部9B,10Bが形成され、互いに無端状に連結される左トラックリンク9および右トラックリンク10と、左トラックリンク9および右トラックリンク10の内側リンク部9B,10B間を連結しスプロケット6の回転力が伝達される円筒状のブッシュ11と、ブッシュ11内に挿通され、軸方向の両端側が左トラックリンク9および右トラックリンク10の外側リンク部9A,10Aに連結された連結ピン12と、を備え、ブッシュ11のうちスプロケット6に対応する部位の外周面には、円筒状のカラー15が嵌合している。
【0056】
この構成によれば、スプロケット6に対応するブッシュ11の外周面にカラー15が嵌合しているので、スプロケット6は、ブッシュ11に噛合することなく、カラー15に噛合することにより、ブッシュ11に回転力を伝達して履帯8を周回動作させる。この結果、ブッシュ11の摩耗を抑えることができ、履帯8の寿命を延ばすことができる。
【0057】
実施形態では、カラー15は、自己潤滑性を有する材料を用いて形成され、ブッシュ11に対して着脱可能に取り付けられている。この構成によれば、スプロケット6とカラー15との噛合部に土砂が噛み込まれた場合でも、噛み込まれた土砂によってカラー15自体あるいはスプロケット6が摩耗するのを抑えることができる。
【0058】
実施形態では、分割型カラー23は、複数の分割カラー片24を組み合わせることにより円筒状に形成されている。この構成によれば、複数の分割カラー片24を組み合わせるだけで容易に分割型カラー23を形成することができ、この分割型カラー23をブッシュ11の外周面に嵌合させることができるので、分割型カラー23を交換するときの作業性を高めることができる。
【0059】
実施形態では、カラーは、ブッシュ11の外周面に螺旋状に巻き付けられた線状体26からなるスパイラルチューブ25によって形成されている。この構成によれば、ブッシュ11の外周面に線状体26を螺旋状に巻き付けることにより、容易にブッシュ11の外周面にスパイラルチューブ25を嵌合させることができるので、スパイラルチューブ25に交換するときの作業性を高めることができる。
【0060】
実施形態では、ブッシュ17の外周面のうちカラー15が嵌合する部位には、軸方向に離間して一対の環状溝17Aが設けられ、一対の環状溝17A内には、それぞれOリング18が設けられ、ブッシュ17の外周面、Oリング18、およびカラー15の内周面によって囲まれる空間19内には潤滑剤20が封入されている。この構成によれば、ブッシュ17とカラー15との間には、潤滑剤20によって常に一定の間隔が確保される。従って、スプロケット6がカラー15に噛合したときに、カラー15がブッシュ17に直接的に接触することがないので、カラー15およびブッシュ17の摩耗をさらに抑えることができ、履帯16の寿命を一層延ばすことができる。
【0061】
実施形態では、カラー22の軸方向の両端には、カラー22の外周面から径方向外側に張出し、左トラックリンク9および右トラックリンク10の内側リンク部9B,10Bと対面する鍔部22Aがそれぞれ設けられている。この構成によれば、油圧ショベル1が不整地を走行する場合等において、左トラックリンク9の内側リンク部9B、あるいは右トラックリンク10の内側リンク部10Bに対し、スプロケット6が直接的に接触するのを鍔部22Aによって抑えることができる。これにより、内側リンク部9B,10Bとスプロケット6との接触による異音の発生、内側リンク部9B,10Bあるいはスプロケット6の摩耗を抑制することができる。
【0062】
なお、第1の変形例では、2個の分割カラー片24を組み合わせた分割型カラー23を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば3個以上の分割カラー片によって分割型カラーを構成してもよい。
【0063】
また、実施形態では、履帯8を備えた油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の履帯を備えた建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
6 スプロケット
7 走行モータ
8,16,21 履帯
9 左トラックリンク
9A,10A 外側リンク部
9B,10B 内側リンク部
10 右トラックリンク
11,17 ブッシュ
12 連結ピン
15,22 カラー
17A 環状溝
18 Oリング
19 空間
20 潤滑剤
22A 鍔部
23 分割型カラー(カラー)
24 分割カラー片
25 スパイラルチューブ
26 線状体