(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086319
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】被試験車両用排ガス吸込装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20220602BHJP
F02D 28/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
G01M17/007 H
F02D28/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198261
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】若原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】古屋 浩志
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092FA00
(57)【要約】
【課題】マフラーの排気管における排気ガス排出口の向きに影響されることなく、また都合の良い場所で、簡単に試験を行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸込装置を提供する。
【解決手段】一端側が被試験車両100の排気管110に接続される可撓性を有するパイプ状の前側ダクト12と、一端側に前側ダクト受入口11bを有すると共に、他端側に後側ダクト取付口11cを有する管状体11と、管状体11の後側ダクト取付口11cに取り付けられたパイプ状の後側ダクト13と、管状体11から突き出されて、管状体11内に差し込まれた前側ダクト12の外周面に当接して前側ダクト12を管状体11内に保持する固定アジャスタ14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験車両の排気管に接続されて、排気ガスの導出経路を確保する被試験車両用排ガス吸込装置であって、
一端側が前記排気管に外挿可能で、可撓性を有するパイプ状の前側ダクトと、
一端側に開口径が前記前側ダクトの他端側の外径よりも大径に形成された前側ダクト受入口を有すると共に、他端側に後側ダクト取付口を有する管状体と、
前記後側ダクト取付口に取り付けられたパイプ状の後側ダクトと、
前記管状体内に突き出され、前記管状体内に差し込まれた前記前側ダクトの外周面に当接して前記前側ダクトを前記管状体内に保持する固定アジャスタと、
を備える、ことを特徴とする被試験車両用排ガス吸込装置。
【請求項2】
前記固定アジャスタは、前記前側ダクト受入口の外周に沿って略等間隔で複数個設けている、ことを特徴とする請求項1に記載の被試験車両用排ガス吸込装置。
【請求項3】
前記管状体は、キャスター付きの移動台車上に設置している、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の被試験車両用排ガス吸込装置。
【請求項4】
前記キャスター付きの移動台車は、前記管状体の配置位置の高さを調整可能な高さ調整機構を備える、ことを特徴とする請求項3に記載の被試験車両用排ガス吸込装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被試験車両用排ガス吸込装置に関するものであり、特に、室内等でエンジンを駆動して試験を行う被試験車両が生成するエンジン排ガスを吸い込んで、外部等に排出するための被試験車両用排ガス吸込装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内で、自動車等の車両におけるガソリンエンジン等を実際に駆動して試験を行う方法として、シャーシダイナモメータ装置上で車両を疑似走行させて行う走行試験や、走行試験装置上で疑似走行させる走行試験等が知られている。これらの走行試験では、実際にガソリンエンジンを駆動しての試験を行うので排気ガスが発生する。この排気ガスが室内等に充満すると、身体に危険を及ぼすので、エンジンから排出される排気ガスを吸引して外部に導出する装置を必要とする。
【0003】
そこで、被試験車両からの排気ガスを吸引して外部等に導出する装置も各種提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
ところで、自動車等のマフラー採用車の多くは、車体の後部バンパーの内側から後方に向けて排気ガスを排出する構造を採用している。また、マフラーの向きは水平に設置されるものが多いが、近年では車体下方に向けて排気ガスを排出する構造を採用している自動車も多く見られる。しかし、マフラーの多くはバンパーよりも内側に設置されて、外部にせり出していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4102486号公報
【特許文献2】特許第4172546号公報
【特許文献3】特許第5328831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で知られる試験装置は、車両の走行試験を行うシャーシダイナモメータ装置の一端側から被試験車両に向けて風を噴流して、空気の流れを形成する噴流装置を設けるともに、他端側に噴流装置からの風と排気ガスを同時に吸引する装置を設け、排気ガスを風の流れに乗せて強制的に吸い取るようにしたものである。
【0007】
この特許文献1で知られる装置では、被試験車両を載せたシャーシダイナモメータ装置の一端側に配置した噴流装置から他端側に向けて風を流し、他端側に配置した吸引装置で、噴流装置からの風と排気ガスを同時に吸引する構造をとっているので、装置が大がかりで、また設置スペースも大きくなるという問題点があった。また、試験室内で被試験車両を設置する位置及び向きも固定され、試験室内での自由度が規制される。したがって、試験室内の任意の位置、及び、任意の向きで試験を行うことができないという不都合があった。
【0008】
特許文献2で知られる装置は、車両の水平に設置されたマフラーに、マフラーからの排気ガスをバンパーの外側に導出させるためのアタッチメントを取り付けておく。そして、そのアタッチメントを、試験室内のシャーシダイナモメータ装置と相対位置関係を有して設置されている基台に設けている排気ガス導出管に接続させ、排気ガスの導出経路を確保するようにしたものである。
【0009】
この特許文献2で知られる装置では、排気ガス導出管をシャーシダイナモメータ装置と相対位置関係を有している基台に設けているので、車両を配置する位置が試験室内の特定の位置に制限され、車両を試験室内のどの位置に設置しても試験をすることができるという自由度が規制される。したがって、試験室内の任意の位置、及び、任意の向きで試験をすることができないという不都合があった。
【0010】
特許文献3で知られる装置は、自由度が規制されずに、キャスターに乗せられて自由な位置に移動でき、その移動された位置でバンパーよりも内側で、後方に向かって水平に延びているマフラーに対して、吸気ホッパーを水平方向から前進させて近づけ、排気ガス排出管に接続させて、排気ガスの導出経路を確保するようにしたものである。
【0011】
この特許文献3で知られる装置では、後方に向かって水平に延びているマフラーに対しては水平方向から前進させて近づけることができるが、水平に延びずに、下向きのマフラーや、大きく斜め上方向、又は、斜め下方向を向いて取り付けられている場合は対応することができないという不都合があった。
【0012】
そこで、マフラーの排気管における排気ガス排出口の向きに影響されることなく、また都合の良い場所で、簡単に試験を行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸込装置を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、被試験車両の排気管に接続されて、排気ガスの導出経路を確保する被試験車両用排ガス吸込装置であって、一端側が前記排気管に外挿可能で、可撓性を有するパイプ状の前側ダクトと、一端側に開口径が前記前側ダクトの他端側の外径よりも大径に形成された前側ダクト受入口を有すると共に、他端側に後側ダクト取付口を有する管状体と、前記後側ダクト取付口に取り付けられたパイプ状の後側ダクトと、前記管状体内に突き出され、前記管状体内に差し込まれた前記前側ダクトの外周面に当接して前記前側ダクトを前記管状体内に保持する固定アジャスタと、を備える、被試験車両用排ガス吸込装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、可撓性を有する前側ダクトの一端側を被試験車両の排気管に外挿させ、他端側を前側ダクト受入口から管状本体内に差し込み、かつ、固定アジャスタで管状本体に固定すると、被試験車両の排気管と管状本体との間を確実に接続させることができる。しかも、前側ダクトは可撓性を有しているので、被試験車両の排気管が、後部バンパーの内側から外側に向かって水平に延びる状態以外で、例えば下向き、あるいは左右方向等に延びた状態で設置されていても、前側ダクトの可撓性により対応することができる。また、前側ダクトは、固定アジャスタの保持を解くことにより、車両形状等に応じた前側ダクトと容易に交換をすることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記固定アジャスタは、前記前側ダクト受入口の外周に沿って略等間隔で複数個設けている、被試験車両用排ガス吸込装置を提供する。
【0016】
この構成によれば、前側ダクト受入口から差し込まれた前側ダクトの他端側は、前側ダクト受入口の外周に沿って略等間隔で設けられている複数個の固定アジャスタから均等に支えられて固定されるので、固定保持が安定する。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、前記管状体は、キャスター付きの移動台車上に設置している、被試験車両用排ガス吸込装置を提供する。
【0018】
この構成によれば、被試験車両がどの位置にあっても、キャスター付きの移動台車により装置を自由な位置に移動させて適正な状態で、排気ガスを導出させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成において、前記キャスター付きの移動台車は、前記管状体の配置位置の高さを調整可能な高さ調整機構を備える、被試験車両用排ガス吸込装置を提供する。
【0020】
この構成によれば、被試験車両の排気管の高さが変わっても、高さ調整機構により、管状体等の配置位置の高さを適正な位置に調整して、被試験車両の試験を最適な状態で行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
発明によれば、可撓性を有する前側ダクトの一端側を被試験車両の排気管に外挿して接続させるとともに、他端側を前側ダクト受入口から管状本体内に差し込み、かつ、固定アジャスタで前側ダクトを管状本体に固定すると、被試験車両の排気管と管状本体との間を簡単、かつ、確実に接続させて、ガソリンエンジンなどを駆動した状態で試験を行うことができる。しかも、前側ダクトは可撓性を有しているので、被試験車両の排気管が、後部バンパーの内側から外側に向かって水平に延びる状態以外、例えば排気管が下向き、あるいは左右方向等に延びた状態で設置されていても、前側ダクトの可撓性により、その向きに屈曲させて簡単に対応させることができる。また、前側ダクトは、固定アジャスタにより、車両形状等に応じた前側ダクトと容易に交換をすることができる。これにより、マフラーの排気ガス排出口の向きに影響をされることなく、また都合の良い場所で、簡単に試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両用排ガス吸引装置の一実施例を、被試験車の排気管に前側ダクトを接続した状態で示す説明図である。
【
図2】同上車両用排ガス吸引装置の要部側面図である。
【
図3】
図2のA-A矢視方向から見た正面図である。
【
図4】同上車両用排ガス吸引装置の要部平面図である。
【
図5】同上車両用排ガス吸引装置における管状体の側面図である。
【
図6】同上車両用排ガス吸引装置における管状体の正面図である。
【
図7】同上車両用排ガス吸引装置における移動台車の平面図である。
【
図8】同上車両用排ガス吸引装置における移動台車の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明はマフラーの排気管における排気ガス排出口の向きに影響をされることなく、また都合の良い場所で、簡単に試験を行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸込装置を提供するという目的を達成するために、被試験車両の排気管に接続されて、排気ガスの導出経路を確保する被試験車両用排ガス吸込装置であって、一端側が前記排気管に外挿可能で、可撓性を有するパイプ状の前側ダクトと、一端側に開口径が前記前側ダクトの他端側の外径よりも大径に形成された前側ダクト受入口を有すると共に、他端側に後側ダクト取付口を有する管状体と、前記後側ダクト取付口に取り付けられたパイプ状の後側ダクトと、前記管状体内に突き出され、前記管状体内に差し込まれた前記前側ダクトの外周面に当接して前記前側ダクトを前記管状体内に保持する固定アジャスタと、を備える構成としたことにより実現した。
【実施例0024】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0025】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0026】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0027】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明の被試験車両用排ガス吸込装置の各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0028】
図1乃至
図3は本発明に係る車両用排ガス吸引装置10の一実施例を説明する図であり、
図1は被試験車両100の排気管110のガス排出側の部分に前側ダクト12を接続した状態で示す説明図、
図2は車両用排ガス吸引装置10の要部側面図、
図3は
図2のA-A矢視方向から見た正面図である。
【0029】
車両用排ガス吸引装置10は、
図1に示すように、管状体11と、管状体11の吸い込み側に取り付けられる前側ダクト12と、管状体11の排出側に取り付けられる後側ダクト13と、管状体11を被試験車両100の必要とする位置に移動させる移動台車50等を備えている。なお、
図1に示す被試験車両100は、マフラーの排気管110が、リヤバンパーの内側で、車体の後方斜め下向きの状態で車体本体に取り付けられている場合を示している。しかし、マフラーの排気管110の位置及び向きは、特に
図1に示す位置及び向き等に限定されるものではない。
【0030】
管状体11は、
図1乃至
図3の他に、
図4乃至
図6にも示している。
図1乃至
図3に
図4乃至
図6を加えて更に説明すると、管状体11は、ステンレス(SUS)製の筒体であり、管状本体11aと、管状本体11aの前側に設けられた環状の前側ダクト受入口11bと、管状本体11aの後側に設けられた同じく環状の後側ダクト取付口11cとを有している。なお、前側ダクト受入口11bの開口径と後側ダクト取付口11cの開口径では、前側ダクト受入口11bの開口径の方が後側ダクト取付口11cの開口径よりも大きく形成されている。したがって、管状体11は、前側から後側に向かうに従って内径が徐々に小さくなる形状にして形成されている。
【0031】
また、管状体11には、前側ダクト受入口11bの外周上部に取り付けられた前側取手16aと、管状本体11aの外周上部に取り付けられた後側取手16bが設けられている。前側取手16aは、ブラケット17を介して前側ダクト受入口11bに取り付けられており、後側取手16bは、管状本体11aの外周上部に立設された支軸18に、その支軸18を支点にして左右方向に回動可能に取り付けられている。
【0032】
前側ダクト受入口11bは、管状本体11aから独立して設けられている環状をした部材である。前側ダクト受入口11bは、管状本体11aとの間に設けられた
図4に示すヒンジ11dを支点にして、管状本体11aに対し回動可能に取り付けられており、通常はオートロックパンチ錠11eにより、
図1、
図2、
図4、
図5に示すように閉ロック状態に保持されている。なお、前側ダクト受入口11bは、管状本体11aと一体に形成されていても構わないものである。
【0033】
また、前側ダクト受入口11bには、外周に沿って略等間隔で複数個(本実施例では4個)の固定アジャスタ14が取り付けられている。
図6に示すように、固定アジャスタ14は、前側ダクト受入口11bの外周面を貫通して管状体11内に突き出された棒ねじ部14aと、管状体11内において棒ねじ部14aの先端に取り付けられた固定パッド部14bと、棒ねじ部14aの後部に取り付けられた蝶ねじ部14c等で構成されている。そして、蝶ねじ部14cを回転させると、その回転方向に応じて棒ねじ部14aが管状体11内に突出する量が調整されて、後述するようにして前側ダクト受入口11bを通って管状体11内に差し込まれた前側ダクト12に固定パッド部14bを押し当てて、管状体11内において前側ダクト12を固定できるようになっている。
【0034】
一方、管状体11の後側ダクト取付口11cの内部には、管状体11内を流れる排気ガスの流れと直交する形(排気ガス通路を横切る形)で、ストッパー部材15が設けられている。ストッパー部材15は、
図1及び
図6に示すように本実施例では30mm角の編み目で形成された金属製のメッシュ板であり、前側ダクト12の他端側の差し込み量を規制するストッパーと、前側ダクト受入口11b側から不用意に吸い込まれたゴミなどの部材を捕捉するストッパー等として機能する。
【0035】
前側ダクト12は、ステンレス製であり、また、作業者等が手で適切な形状に変形させるとその形状を維持することができる、いわゆる可撓性を有して自由なパイプ形状に屈曲可能なパイプ材である。前側ダクト12は、内径がマフラーの排気管110の外径よりも大きく、外径が管状体11の内径よりも小さく形成され、管状体11内に挿入配置された前側ダクト12の外周面と管状体11の内周面との間に隙間を設け、この隙間により、後述する強制排気部19で強制排気するとき、排気管110からの高温の排気ガスと、管状体11と前側ダクト12との間から吸い込まれる試験室内の冷気とを混合させて、強制排気部19に導入される排気ガスを冷やし、排気ガスの熱で電動排気ファン20が高温になるのを保護するようにしている。前側ダクト12の内径寸法は、例えば100mmに設定されるが、これに限定されるものではない。そして、前側ダクト12は、
図1に示すように、前側ダクト12の一端側の開口に、マフラーの排気管110の出口側を差し込む、すなわち前側ダクト12の一端側を排気管110に外挿することにより、マフラーの排気管110と連結させて被試験車両100側に取り付けられる。一方、他端側は、前側ダクト受入口11bを通って管状体11内にストッパー部材15に突き当たる程度まで差し込み、かつ、固定アジャスタ14の固定パッド部14bを前側ダクト12の外周面に押し当てることにより管状体11に固定される。これにより、前側ダクト12が、マフラーの排気管110と管状体11との間に連結固定されるようになっている。なお、後述するように、管状体11は、前側ダクト12はキャスター付きの移動台車50上に設置されているので、管状体11とマフラーの排気管110との距離の調整は、移動台車50の移動により調整して、その後、ペダルロック機構54でロックしておくことが可能である。したがって、固定アジャスタ14による前側ダクト12の他端側における管状体11への固定は、常に固定させた状態でセットしておくことも可能である。また、排気管110と前側ダクト12との間の接続は、排気管110と前側ダクト12との間に隙間があっても構わない。さらに、前側ダクト12の太さ(外径)も、前側ダクト受入口11bの内径の範囲内であれば、自由な太さのものを使用することができる。
【0036】
後側ダクト13は、可撓性を有して屈曲可能な蛇腹状をしたダクトであり、内径は管状体11の後側ダクト取付口11cの外径と略同じ大きさで形成されている。後側ダクト13の内径寸法は、例えば250mmに設定されるが、これに限定されるものではない。また、後側ダクト13は、必ずしも屈曲可能に形成されていなくても構わないものである。そして、後側ダクト13の一端側は、
図1及び
図4に示すように、管状体11の後側ダクト取付口11cの外周部分を後側ダクト13内に差し込むことにより管状体11と連結される。また、後側ダクト13の他端側は、前側ダクト12を通して吸い込まれた排気ガスを室外に導出できるように設定されており、その長さは試験室の床面201上の比較的自由な位置に引き回すことができる大きさが確保される。さらに、後側ダクト13の他端側は強制排気部19に接続されており、前側ダクト12及び管状体11内を通って後側ダクト13内に排気されて来る排気ガスを、強制排気部19を介して強制的に外部へ排出することができる。なお、強制排気部19は、電動排気ファン20を有し、電動排気ファン20が回転駆動することにより、排気ガスを管状体11側から強制的に吸い込み、強制排気部19から外部等に排気できるようになっている。
【0037】
したがって、管状体11側は、管状体11の前後にそれぞれ前側ダクト12と後側ダクト13等を取り付けることにより、1本の排気通路として一体化される。
【0038】
移動台車50は、
図1、
図2、
図3に加えて
図7及び
図8にも詳細に示している。移動台車50の構成を
図1乃至
図3に
図7及び
図8を加えて更に説明すると、移動台車50は、管状体11を乗せて比較的自由な位置に移動させるものであり、
図7に示すように、管状体11を乗せる略四角形をしたステンレス製の平板状の床基板51を有している。
【0039】
床基板51の下面側の四隅には、それぞれキャスター52が取り付けられており、キャスター52により、床基板51が試験室の床面201上を自由に移動できるようになっている。また、床基板51の下面側には、4個のキャスター52で囲まれる領域の内側に、これら4個のキャスター52に各々対応して4個の脚53が取り付けられているとともに、左右両側に取り付けられた前後の脚53に各々対応して1対のペダルロック機構54が取り付けられている。
【0040】
脚53は、ペダルロック機構54の操作により脚53の長さ(高さ)が変わるようになっている。すなわち、
図1及び
図8に実線で示すように、ペダルロック機構54のペダル54aが上方位置(アンロック位置)に移動されているときは、脚53の脚先53aがキャスター52よりも上方(床基板51の裏面側)に引き込まれて、キャスター52が床面201上に乗っかり、移動台車50の移動を可能にするアンロック状態を形成する。これに対して、
図3に実線で、また
図8に1点鎖線で示しているように、ペダルロック機構54のペダル54aが押し下げられて下方位置(ロック位置)に移動されているときは、
図2及び
図3に示すように、脚53の脚先53aがキャスター52よりも下方に突き出されて床基板51が持ち上げられる。そして、キャスター52を床面201から浮き上がらせることにより、移動台車50の移動をロックするロック状態を形成して、管状体11を移動後の位置で固定し、車両用排ガス吸引装置10による排ガス吸引作業を安定して行うことができるようになっている。
【0041】
すなわち、ペダルロック機構54は、上方位置(アンロック位置)にあるペダル54aを作業者が足で1回踏むと、ペダル54aが下方位置(ロック位置)に下がって脚53によるロック状態を形成し、ペダル54aをもう一度作業者が足で踏むと、ペダル54aが上方位置(アンロック位置)に上がって脚53によるアンロック状態(ロック解除)を形成する、と言う動作が繰り返される。
【0042】
床基板51の上面側には、
図1乃至
図3に示すように、手押しレバー55が取り付けられている。手押しレバー55は、管状体11を挟んで左右の位置に設置される1対の縦杆部55aと、縦杆部55aの上部を連結している連結部55bとを一体に有して、下側が開放された略コ字状に形成されている。なお、縦杆部55aの上部は後側に向かって斜め上方に傾斜されている。そして、手押しレバー55は、左右の縦杆部55aが管状体11の左右両側に各々配置され、各縦杆部55aの下端部を床基板51の上面に各々固定して取り付けられている。
【0043】
また、床基板51の上面側には、上面上における管状体11の高さ、すなわち管状体11の床面201からの高さ位置を調整するための高さ調整機構60が設けられている。高さ調整機構60は、
図2乃至
図4に示すように、手押しレバー55側に設けられた左右1対の支持板62と、支軸18に取り付けられた連結板63と、支持板62と連結板63との間に設けられた左右のロックピン64と、左右の支持板62に設けられたロック穴65等で構成されている。
【0044】
左右1対の支持板62は、管状本体11aの外周側面に対向して、手押しレバー55の左右の縦杆部55aと略平行な状態で、縦杆部55aに固定して取り付けられている。支持板62の管状本体11aの外周側面と対向する面には、
図2に示すように、縦方向に略等ピッチ(本実施例では約30ミリ間隔)で点在する状態にして、複数個(本実施例では10個)のロック穴65が形成されている。
【0045】
連結板63は、
図3に示すように、後側取手16bが取り付けられている支軸18を支点として左右方向に後側取手16bと一体に回動可能にして、その連結板63の中央部分が支軸18に取り付けられている。また、
図4に示すように、連結板63には、支軸18を挟んで左右両側の位置に連結穴66が設けられており、連結穴66にステンレス製のロックピン64の一端64aが回動可能に連結されている。
【0046】
ロックピン64の係合ロック部である他端64b(以下、これを「係合ロック部64b」という)側は、支持板62のロック穴65と対向する位置に伸ばされている。また、ロックピン64の係合ロック部64bと支持板62における複数のロック穴65の中の一つのロック穴65とが対応している位置において、連結板63が後側取手16bと共に回動されて、連結板63が管状本体11aと略直角になるロック位置に回動されると、その回動に伴って左右の係合ロック部64bがそれぞれ対応している支持板62のロック穴65内に進入して互いに係合される。そして、その係合されたロック穴65の位置で管状本体11aと支持板62とが係合ロックされ、管状本体11aの高さ位置を固定することができるようになっている。
【0047】
また、ロック位置から、連結板63が後側取手16bと共に回動されて、連結板63が管状本体11aに対して、例えば略30度旋回されたアンロック位置に回動されると、左右の係合ロック部64bが対応している支持板62のロック穴65からそれぞれ抜け出て、ロックピン64と支持板62との係合が解かれる。
図4は、その係合ロック部64bがロック穴65から抜け出した状態を示している。そして、後側取手16b及び前側取手16aを掴んで管状体11を上下方向に移動させると、管状体11の床面201からの高さを調整することができる。
【0048】
また、調整した位置において、連結板63を後側取手16bと共に再びロック位置に回動させると、その調整後の高さ位置において、対応しているロック穴65にロックピン64の係合ロック部64bが係合される。そして、管状体11の床面201からの高さをその調整された高さ位置に変更して保持しておくことができるようになっている。これにより、車両用排ガス吸引装置10では、管状体11の高さを高さ調整機構60で調整することにより、車両用排ガス吸引装置10に対する高さを簡単に調整することができる。なお、
図4のロックピン64の形態は、支持板62側のロック穴65とロックピン64との係合が解除されたアンロック状態を示している。
【0049】
したがって、この実施例による構成の車両用排ガス吸引装置10では、管状体11を乗せた移動台車50を被試験車両100と近接する試験位置まで移動させ、可撓性を有する前側ダクト12の一端側を被試験車両100の排気管110に接続させるとともに、他端側を前側ダクト受入口11bから管状体11の管状本体11a内に差し込み、かつ、固定アジャスタ14で管状本体11aに固定すると、被試験車両100の排気管110と管状体11の間を確実に接続させることができる。そして、後側ダクト13の一端側を後側ダクト取付口11cに連結させ、後側ダクト13の他端側を強制排気部19に接続すると、被試験車両100から排出される排気ガスを、試験室の外側に排出することができる。なお、管状体11と前側ダクト12及び後側ダクト13は、既に連結した状態で試験位置まで移動させ、試験位置で前側ダクト12と排気管110とを接続させた後に、ペダルロック機構54で移動台車50をロックして、セットすることも可能である。
【0050】
また、この実施例による構成の車両用排ガス吸引装置10では、前側ダクト12が可撓性を有しているので、被試験車両100の排気管110が、後部バンパーの内側から外側に向かって水平に延びる状態以外の、例えば下向き、あるいは左右方向等に延びた状態で設置されていたとしても、前側ダクト12の可撓性により対応することができる。なお、排気管110と前側ダクト12との間の連結は、前側ダクト12自身に取付時における屈曲変形を保持する機能を持たせているので、前側ダクト12を排気管110にセットした後は、直接固定していなくても連結が保持される。
【0051】
また、前側ダクト12は、固定アジャスタ14により、車両形状等に応じて、長さや、太さ等が異なるものと交換を容易に行うことができる。
【0052】
また、管状体11を、キャスター付きの移動台車50上に設置しているので、被試験車両100がどの位置にあっても、キャスター付きの移動台車50により車両用排ガス吸引装置10を自由な位置に移動させて適正な状態で、排気ガスを外部に導出させることができる。
【0053】
また、移動台車50は、管状体11の配置位置の高さを調整可能な高さ調整機構60を備えているので、被試験車両100の排気管110の高さ等が変わっても、高さ調整機構60により管状体11等の配置位置の高さを適正な位置に調整することができ、これにより被試験車両100の試験を最適な状態で行うことができる。
【0054】
なお、上記実施例の構造では、管状体11に前側ダクト12を固定する部材としての固定アジャスタ14は、前側ダクト受入口11bの外周面を貫通して管状体11内に突き出された構造を開示したが、必ずしも管状体11を貫通せずに設けて管状体11に前側ダクト12を固定するようにしてもよいものである。
また、本発明は、上記以外の構成だけで無く、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。