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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086320
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】生産プロセスのモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20220602BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220602BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20220602BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 R
G06Q50/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198262
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】定家 国則
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸宏
(72)【発明者】
【氏名】松木 章洋
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
3C100AA29
3C100AA34
3C100AA38
3C100AA70
3C100BB05
3C100BB11
3C100BB27
3C100EE11
3C223AA05
3C223BA03
3C223BB17
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF23
3C223FF24
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH03
3C223HH08
5L049CC03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動作中の生産プロセスの良否を精度良く予測する生産プロセスのモニタリング方法を提供する。
【解決手段】生産プロセスのモニタリング方法は、過去に実施された動作済みプロセスにおける複数の動作済みロットの実績状態データ及び実績品質データを収集するステップと、仮想プロセスにおけるそれぞれ異なる状態に対応した複数の仮想ロットの仮想状態データを設定するとともに、仮想ロットの仮想品質データを収集するステップと、状態データから導出される複数の主成分得点を各座標軸に設定した多次元座標上において、動作済みロット及び仮想ロットを複数のグループに区分するステップと、モニタリングプロセスの状態を示す状態データに基づいて、モニタリングプロセスがグループの何れに属するか又は何れのグループにも属さないかを判定するステップと、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品又はサービスを生産する生産プロセスのモニタリング方法であって、
過去に実施された生産プロセスである動作済みプロセスにおける複数の動作済みロットの状態を示す状態データである実績状態データ及び前記製品又はサービスの品質を示す品質データである実績品質データを収集するステップと、
前記生産プロセスを模した仮想プロセスにおけるそれぞれ異なる状態に対応した複数の仮想ロットの状態を示す状態データである仮想状態データを設定するとともに、前記製品又はサービスの品質を示す品質データである仮想品質データを収集するステップと、
前記状態データから導出される複数の主成分得点を各座標軸に設定した多次元座標上において、前記動作済みロット及び前記仮想ロットを複数のグループに区分するステップと、
モニター対象の生産プロセスであるモニタリングプロセスの状態を示す状態データに基づいて、前記モニタリングプロセスが、前記グループの何れに属するか又は何れのグループにも属さないかを判定するステップと、
を含むことを特徴とする生産プロセスのモニタリング方法。
【請求項2】
前記モニタリングプロセスにおける前記製品又はサービスの品質を示す品質データを前記モニタリングプロセスが属する前記グループの品質データから予測するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の生産プロセスのモニタリング方法。
【請求項3】
製品又はサービスを生産する生産プロセスのモニタリング方法であって、
前記生産プロセスを模した仮想プロセスにおけるそれぞれ異なる状態に対応した複数の仮想ロットの状態を示す状態データである仮想状態データを設定するとともに、前記製品又はサービスの品質を示す品質データである仮想品質データを収集するステップと、
前記状態データから導出される複数の主成分得点を各座標軸に設定した多次元座標上において、前記仮想ロットを複数のグループに区分するステップと、
モニター対象の生産プロセスであるモニタリングプロセスの状態を示す状態データに基づいて、前記モニタリングプロセスが、前記グループの何れに属するか又は何れのグループにも属さないかを判定するステップと、
を含むことを特徴とする生産プロセスのモニタリング方法。
【請求項4】
過去に実施された生産プロセスである動作済みプロセスにおける複数の動作済みロットの状態を示す状態データである実績状態データ及び前記製品又はサービスの品質を示す品質データである実績品質データを収集するステップをさらに含み、
前記多次元座標上において、前記動作済みロット及び前記仮想ロットを複数のグループに区分することを特徴とする請求項3に記載の生産プロセスのモニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品(物)を製造するプロセス又はサービスを提供するプロセス(以下、総称して「生産プロセス」と称す)のモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、製造プロセスに関する品質データ及び状態データに主成分分析及びクラスター分析を適用して製造プロセスのロットを複数のグループに区分し、グループ毎の良否を判定して予め判定基準を生成し、動作中の製造プロセスから導出される主成分得点が、判定基準を満たすか否かで動作中の製造プロセスの良否を判定する生産プロセスのモニタリング方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-167205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法によれば、過去に動作済みの製造プロセスに基づいて判定基準が生成されるため、動作中の製造プロセスが過去に経験したことがない製造状態に当たる場合、動作中の製造プロセスの良否を柔軟に判定できないという問題があった。
【0005】
そこで、動作中の生産プロセスの良否を精度良く予測するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る生産プロセスのモニタリング方法は、製品又はサービスを生産する生産プロセスのモニタリング方法であって、過去に実施された生産プロセスである動作済みプロセスにおける複数の動作済みロットの状態を示す状態データである実績状態データ及び前記製品又はサービスの品質を示す品質データである実績品質データを収集するステップと、前記生産プロセスを模した仮想プロセスにおけるそれぞれ異なる状態に対応した複数の仮想ロットの状態を示す状態データである仮想状態データを設定するとともに、前記製品又はサービスの品質を示す品質データである仮想品質データを収集するステップと、前記状態データから導出される複数の主成分得点を各座標軸に設定した多次元座標上において、前記動作済みロット及び前記仮想ロットを複数のグループに区分するステップと、モニター対象の生産プロセスであるモニタリングプロセスの状態を示す状態データに基づいて、前記モニタリングプロセスが、前記グループの何れに属するか又は何れのグループにも属さないかを判定するステップと、を含む。
【0007】
この構成によれば、仮想ロットの仮想状態データが動作済みロットの実績状態データと異なるように設定され、仮想ロットの仮想状態データに応じた仮想品質データが実験や簡易なシミュレーション等の仮想プロセスによって収集されることにより、動作中のモニタリングプロセスが、動作済みロット及びこれを補完するように設定された仮想ロットを区分した何れかのグループに属するか否かの判定に基づいて、動作中のモニタリングプロセスの良否を精度良く予測することができる。
【0008】
また、本発明に係る生産プロセスのモニタリング方法は、前記モニタリングプロセスにおける前記製品又はサービスの品質を示す品質データを前記モニタリングプロセスが属する前記グループの品質データから予測するステップをさらに含むことが好ましい。
【0009】
この構成によれば、モニタリングプロセスが属すると判定されたグループに属する経験済みロット又は仮想ロットの品質データに基づいて、モニタリングプロセスで生産される製品又はサービスの品質データを予測することができる。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る生産プロセスのモニタリング方法は、製品又はサービスを生産する生産プロセスのモニタリング方法であって、前記生産プロセスを模した仮想プロセスにおけるそれぞれ異なる状態に対応した複数の仮想ロットの状態を示す状態データである仮想状態データを設定するとともに、前記製品又はサービスの品質を示す品質データである仮想品質データを収集するステップと、前記状態データから導出される複数の主成分得点を各座標軸に設定した多次元座標上において、前記仮想ロットを複数のグループに区分するステップと、モニター対象の生産プロセスであるモニタリングプロセスの状態を示す状態データに基づいて、前記モニタリングプロセスが、前記グループの何れに属するか又は何れのグループにも属さないかを判定するステップと、を含む。
【0011】
この構成によれば、複数の仮想ロットに対して互いに異なるように仮想状態データが設定され、仮想ロットの仮想状態データに応じた仮想品質データが実験や簡易なシミュレーション等の仮想プロセスによって収集されることにより、動作中のモニタリングプロセスが、仮想ロットを仮想状態データ及び仮想品質データに基づいて区分した何れかのグループに属するか否かの判定に基づいて、動作中のモニタリングプロセスの良否を精度良く予測することができる。
【0012】
また、本発明に係る生産プロセスのモニタリング方法は、過去に実施された生産プロセスである動作済みプロセスにおける複数の動作済みロットの状態を示す状態データである実績状態データ及び前記製品又はサービスの品質を示す品質データである実績品質データを収集するステップをさらに含み、前記多次元座標上において、前記動作済みロット及び前記仮想ロットを複数のグループに区分することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、仮想ロットの仮想状態データ及び仮想品質データに加えて、動作済みロットの実績状態データ及び実績品質データを考慮することにより、動作中のモニタリングプロセスの良否を精度良く予測することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、動作中のモニタリングプロセスの良否を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る生産プロセスのモニタリング方法を適用する蒸留塔の構成を示す模式図。
図2】動作済みロット及び仮想ロットに関する状態データ及び品質データを示す表。
図3】動作済みロット毎の主成分の情報量及びグループを示す表。
図4】動作済みロット毎の主成分得点をプロットしたグラフ。
図5】仮想ロット毎の主成分の情報量及び品質データを示す表。
図6】仮想ロット毎の主成分得点をプロットしたグラフ。
図7】動作済みロット及び仮想ロットの主成分得点をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0017】
本実施形態に係る解析方法は、生産プロセスに対して適用される。生産プロセスには、機械設備のみで構成されて全ての工程が自動化されたプロセス、作業者の手作業による作業工程を含むプロセス、並びに機械設備によって自動化された製造工程及び作業者の手作業による作業工程を含むプロセス等が含まれる。また、生産プロセスとは、物を生産するプロセスに限定されず、例えば廃液の洗浄や医薬品開発における治験結果の解析等のサービスが含まれる。
【0018】
以下では、生産プロセスの一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の精製に本解析方法を適用した場合を例に説明する。なお、本発明を適用する生産プロセスは、その他の製造ライン及びサービスを提供するプロセスも含まれることは言うまでもない。
【0019】
図1は、NMPの精製を行う蒸留塔1を示す模式図である。蒸留塔1は、例えば、Liイオン2次電池製造工程等から回収された原料(精製前NMP)から高純度のNMPを精製する。精製前NMPは、主に、NMP、H2O、NMP前駆体、安全性に関わる物質及び不純物が含まれている。なお、精製前NMPに含まれる各種製品の割合は、Liイオン2次電池製造工程毎に異なり必ずしも一様ではない。
【0020】
蒸留塔1は、下部に設けられた回収部2と、上部に設けられた濃縮部3と、に区分され、回収部2と濃縮部3との境目から原料が供給される。
【0021】
蒸留塔1内に投入された原料は、回収部2の塔底から加熱装置(リボイラ)4によって供給された蒸気により加熱され、低沸点の成分が先に蒸発し、蒸留塔1の塔頂に向かって上昇する。
【0022】
蒸留塔1の内部には棚状の構造物が設置されていて、下部から上昇する蒸気と、上部から下降する液体が接する。蒸気と液体の接触(気液接触)により、液体が蒸発するのに必要な熱(蒸発潜熱)が蒸気と液体との間でやり取りされる。この際、発生する蒸気は、液体よりも沸点の低い成分が多く含まれる一方、液体は、蒸気よりも沸点の高い成分が多く含まれている。
【0023】
また、蒸留塔1では気液接触を行うため、塔頂の冷却装置(コンデンサ)5を使って蒸気を再び液体に戻す(還流)が行われる。
【0024】
このようにして、蒸留塔1では、塔全体で気液接触を行うため、塔頂での冷却と塔底での加熱を同時に行い還流させ、蒸留塔1の塔頂では、沸点の低い成分を、蒸留塔1の塔底では、沸点の高い成分を分離・回収する。
【0025】
蒸留塔1には、種々の値を測定する図示しないセンサが設けられている。センサの測定対象は、原料の組成、原料の投入量、塔内温度、加熱装置4の設定温度、冷却装置5を経て塔内に還流される液体の還流量等である。
【0026】
蒸留塔1を構成する各種構成は、制御装置10によって動作制御される。制御装置10は、例えばCPUやメモリ等を有する装置制御部11と、データの入出力を制御する入出力部12と、データを表示する表示部13と、データを記憶する記憶部14と、を備えている。なお、制御装置10の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作することにより実現されても良い。
【0027】
制御装置10は、センサが測定した蒸留塔1の運転状態を示す状態データや精製後NMPの品質情報等を示す品質データに基づいて、後述する処理を行う。状態データは、生産プロセスの精製条件(蒸留塔1を構成する各種機器の運転条件等)を示すマニュファクチャデータと、精製前NMPの組成を示すマテリアルデータと、を含む。
【0028】
装置制御部11は、各機器を制御する制御部11aと、状態データについて後述する処理を行う解析部11bと、後述する仮想ロットの検証を行う検証部11cと、後述するモニタリングプロセスの判定を行う判定部11dと、に機能分割される。
【0029】
入出力部12は、例えば、キーボードやマウス、通信制御装置、印刷装置等がある。表示部13は、例えば、ディスプレイがある。記憶部14には、各種処理で用いる様々なデータ等が記憶されている。
【0030】
次に、本実施形態に係る生産プロセスのモニタリング方法の手順について説明する。
【0031】
[動作済みロット解析]
まず、生産プロセスにおける複数の動作済みロットの状態及び品質を解析するステップについて具体的に説明する。
【0032】
解析部11bは、動作済みの生産プロセスについて、センサが測定した状態データ(実績状態データ)と、精製後NMPの品質データ(実績品質データ)とを動作済みロット毎に収集する(ステップS1)。
【0033】
ステップS1で収集された状態データ及び品質データは、記憶部14に記憶される。図2は、動作済みロットの状態データ及び品質データを含む表であり、図2表中の種別「経験済み」に属するロットが動作済みロットに該当し、図2表中の動作済みロットに関する「原料組成」の欄は、各動作済みロットにおいて蒸留塔1に投入された精製前NMPの組成を示す状態データであり、動作済みロットに関する「判定」の欄は、動作済みロットにおける精製後NMPの品質を示す品質データであり、表中の「〇」は、精製後NMPが出荷基準をクリアするとともに安全上の問題が発生していないことを意味する。
【0034】
次に、ステップS1で収集した状態データ及び品質データを標準化して中間関数に変換する(ステップS2)。
【0035】
ステップS2で行う状態データの標準化処理は、公知のものであり、具体的には、解析部11bが、状態データの標準化処理を数式1に基づいて行う。
【数1】
【0036】
次に、ステップS2で求めた中間変数に基づいて主成分負荷量及び主成分得点を求める(ステップS3)。
【0037】
具体的には、まず、中間変数における相関係数行列を作成し、相関係数行列の固有値と固有ベクトルを導出する。相関係数行列は、中間変数がx1、x2、x3・・のときに、第1主成分PC1は、数式2で示すように表される。また、第N主成分PCnは、数式3で示すように表される。そして、係数a11、a12、a13・・を1行目の要素、係数an1、an2、an3・・をn行目の要素に用いることにより、相関係数行列が形成される。
【数2】

【数3】
【0038】
次に、相関係数行列の固有ベクトルから主成分得点を求める。また、相関係数行列の固有値から各主成分の寄与率を求める。主成分の寄与率は、固有値を固有値の総和で割ることで得られる。ここで、固有値の大きい方から、第1主成分、第2主成分・・第N主成分を決定する。
【0039】
具体的には、解析部11bが、各ロットの中間変数x1、x2、x3と相関係数行列の各係数とに基づいて、第1主成分PC1、第2主成分PC2・・の値、即ち、主成分得点を算出とする。図3は、動作済みロット毎の主成分の情報量を示す表である。
【0040】
次に、解析部11bは、図3に示す主成分得点にクラスター分析を適用して、各ロットを複数のグループに区分する(ステップS4)。
【0041】
「クラスター分析」とは、解析対象データ(クラスター)を類似性に着目して複数のグループに分類する方法であり、階層的クラスタリングや分類最適化クラスタリング等が知られている。本実施形態におけるクラスター分析が着目する「類似性」とは、各ロットの主成分得点同士の距離をいう。
【0042】
クラスター分析の手法としては、例えば、階層的クラスタリングの一つである凝集型階層的クラスタリング等が知られている。また、クラスター間の距離算出方法として、安定して解を得られるウォード法等を用いる。「ウォード法」とは、2つのクラスターを併合した際の偏差平方和の増加量が最小になるクラスターを選択するものである。例えば、クラスターA、Bを併合してクラスターCを生成する場合、クラスターA、B、C内の偏差平方和Sa、Sb、Scは、それぞれ数式4~6のように表される。
【数4】

【数5】

【数6】
【0043】
数式4~6により、クラスターC内の偏差平方和Scは、以下のようになる。
【数7】
【0044】
数式7のΔSabは、クラスターA、Bを併合してクラスターCを生成した際の偏差平方和の増分であることを意味する。したがって、各併合段階でΔSabが最小になるようにクラスターを選択して併合することにより、クラスタリングを進めていく。
【0045】
本実施形態では、図4に示すように、動作済みロットを第1~第3の固有ベクトル(図4中のEV1~EV3)の3次元空間で3つのグループ1~3に区分した。図4は、動作済みロットにおけるEV1~EV3の合成ベクトルを上述した3次元空間上にプロットしたものを、EV1-EV3平面(横軸にEV1、縦軸にEV3を設定した平面)に投影したグラフである。また、図4では、同一のグループを構成する動作済みロットを同一の符号でプロットしている。また、図3表中の右欄「group」は、各動作済みロットが属するグループを示す。なお、固有ベクトルの数は、3つに限定されるものではなく、2つ以下でも4つ以上であっても構わない。また、グループの数は、3つに限定されるものではなく、2つ以下でも4つ以上であっても構わない。
【0046】
次に、各グループに属する動作済みロットの品質データに基づいて、グループ間の品質データの優劣を判定する(ステップS5)。具体的には、制御装置10は、品質データ(精製後NMPの純度、不純物の含有量等)から得られる中間変数をロット毎に呼び出し、グループ間での品質データの優劣を判定する。各グループの品質の優劣は、グループ3、グループ2、グループ1の順であって、グループ3が最優であった。
【0047】
なお、品質データの優劣は、同一グループを構成する複数のロット(ロット群)内の平均値に基づいて行うのが好ましい。これにより、グループ内の複数のロットの品質データのばらつきが平準化され、グループ間の品質データの良否の傾向を大局的に把握することができる。
【0048】
[仮想ロット検証]
次に、生産プロセスの未経験の状態を想定したロット(仮想ロット)における品質を検証するステップについて具体的に説明する。
【0049】
検証部11cは、上述した動作済みの生産プロセスの解析(ステップS1~S5)と同様にして、複数の仮想ロット毎の状態データ(仮想状態データ)及び品質データ(仮想品質データ)に基づいて、仮想ロットを複数のグループに区分する。
【0050】
具体的には、まず、生産プロセスを模した仮想プロセスにおける複数の仮想ロット毎に設定された仮想状態データが、記憶部14に記憶される(ステップS6)。
【0051】
ここで、「仮想プロセス」とは、実際に蒸留塔1を動作させた生産プロセスではなく、任意に設定された仮想状態データで蒸留塔1を稼働させたと仮定した場合に、どのような仮想品質データが得られるかを検証するために動作済みの生産プロセスを模して設定されるものである。
【0052】
また、「仮想状態データ」とは、生産プロセスの未経験の状態を想定して、即ち、上述した動作済みロットとは異なる状態になるように、蒸留塔1の運転条件や原料の組成を任意に変更して設定される状態データを意味する。
【0053】
本実施形態では、「仮想状態データ」を、動作済みロットの実績状態データと一致しないように、蒸留塔1に投入される原料の組成のみをそれぞれランダムに変更するとともに、その他の精製条件を上述した生産プロセスと一致させた仮想ロットの状態データとした。図2表中の種別「未経験」に属するロットが仮想ロットに該当し、図2表中の仮想ロットに関する「原料組成」の欄は、各仮想ロットにおける原料の組成を示す仮想状態データである。
【0054】
次に、仮想状態データに基づいて取得された仮想ロット毎の仮想品質データが、記憶部14に記憶される(ステップS7)。
【0055】
「仮想品質データ」とは、仮想状態データで蒸留塔1が原料を精製した場合の精製後NMPの品質データや安全上の問題の有無を意味する。本実施形態では、「仮想品質データ」は、仮想状態データに基づいて、生産プロセスを再現した実験や簡易的なシミュレーションにより取得した品質データ(精製後NMPの品質や安全上の問題の有無)とした。
【0056】
図2表中の仮想ロットに関する「判定」の欄は、各仮想ロットにおける仮想品質データである。なお、図2表中の「Weeping」とは、蒸留塔1において上段の原料が過度に滴り落ちて精製度が悪化したことを示す。「Flooding」とは、蒸留塔1において蒸気が過剰に増加し、原料が流下せずに精製度が悪化したことを示す。「安全上の問題」とは、塔底に濃縮された原料に爆発性を示す安全性に関わる物質が所定濃度以上に濃縮されたことを示す。
【0057】
次に、解析部11bは、ステップS2、3と同様に、ステップS6で収集した仮想状態データ及び仮想品質データを標準化して中間関数に変換した上で、中間変数に基づいて主成分負荷量及び主成分得点を求める(ステップS8)。図5は、仮想ロット毎の主成分の情報量及び仮想品質データを示す表である。
【0058】
次に、検証部11cは、各仮想ロットを仮想品質データに基づいて4つのグループ4~7に区分する(ステップS9)。図6は、仮想ロットにおけるEV1~EV3の合成ベクトルを上述した3次元空間上にプロットしたものを、EV1-EV3平面(横軸にEV1、縦軸にEV3を設定した平面)に投影したグラフである。
【0059】
図6中のグループ4は、精製後NMPに問題がない仮想ロットが属するグループであり、グループ5は、Weepingの発生に起因して精製後NMPの品質に問題が生じた仮想ロットが属するグループであり、グループ6は、Floodingの発生に起因して精製後NMPの品質に問題が生じた仮想ロットが属するグループであり、グループ7は、安全上の問題が生じた仮想ロットが属するグループである。なお、図7は、図4、6を重ねたグラフの一部を拡大し、グループ4とグループ5~7とを区別して表記したものである。
【0060】
[モニタリングプロセス予測]
【0061】
次に、モニター対象の生産プロセス(モニタリングプロセス)の良否を予測するステップについて具体的に説明する。
【0062】
まず、動作中のモニタリングプロセスの状態データを収集する(ステップS10)。モニタリングプロセスの状態データは、各種センサで測定され、記憶部14に記憶される。
【0063】
次に、判定部11dは、ステップS10で測定したモニタリングプロセスの状態データが、ステップS4で区分した動作済みロットに関するグループ1~3又はステップS9で区分した仮想ロットに関するグループ4~7の何れに属するかを判定する(ステップS11)。
【0064】
具体的には、解析部11bが、記憶部14に記憶されたモニタリングプロセスの状態データを呼び出し、ステップS2、3と同様に、その主成分負荷量及び主成分得点を導出する。
【0065】
そして、判定部11dが、解析部11bが導出した主成分得点がステップS4で区分した動作済みロットのグループ1~3又はステップS9で区分した仮想ロットのグループ4~7の何れのグループ内に属するか又は何れのグループにも属さないかを判定する。
【0066】
次に、モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点が、動作済みロットのグループ1~3又は仮想ロットのグループ4~7の何れのグループに属するか否かを判定する手順について、具体的に説明する。
【0067】
まず、第1~第3の固有ベクトル(EV1~EV3)までの3次元空間における動作済み任意ロットの主成分得点をEV1、EV2、EV3とし、モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点をX1、X2、X3とするとき、最も近い合成ベクトルである動作済みロット又は仮想ロットを特定する。なお、EV1~3の3次元空間におけるモニタリングプロセスの合成ベクトル(X1、X2、X3)と動作済みロット又は仮想ロットの合成ベクトル(EV1、EV2、EV3)との距離Dは、数式8により算出される。
【数8】
【0068】
そして、距離Dが最も短いロット(最近ロット)が属するグループ(最近グループ)をモニタリングプロセスが属するグループとして判定する。
【0069】
このようにして、仮想ロットの仮想状態データが動作済みロットの実績状態データと異なるように設定され、仮想ロットの仮想状態データに応じた仮想品質データが実験や簡易なシミュレーション等の仮想プロセスによって収集されることにより、動作済みロット及びこれを補完するように設定された仮想ロットに基づいて、動作中のモニタリングプロセスの良否(例えば、モニタリングプロセスが過去の動作済みロットと同様に進行することが予測される、又は、モニタリングプロセスが動作済みロットから外れるものの予め仮想品質データが把握された仮想ロットと同様に進行する等)を予測することができる。なお、モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点が、動作済みロットのグループ1~3又は仮想ロットのグループ4~7の何れのグループに属するか否かを判定する手順は、上述したものに限定されるものではない。
【0070】
次に、モニタリングプロセスが属するグループの品質データに基づいて、モニタリングプロセスの品質データを予測する(ステップS12)。
【0071】
モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点が、ステップS5で区分された動作済みロットのグループ1~3の何れかに属している場合には、属するグループの実績品質データに基づいて、モニタリングプロセスで生産される製品の品質データを過去の生産プロセスの実績から精度良く予測できる。
【0072】
一方、モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点が、ステップS9で区分された仮想ロットのグループ4~7の何れかに属している場合には、属するグループの品質データに基づいて、モニタリングプロセスで生産される製品の品質データを、高度なシミュレーションモデルを用意することなく予測できる。
【0073】
また、モニタリングプロセスがグループ4~7の何れかに属していると判定された場合には、制御装置10は、グループ4~7に属する仮想ロットの仮想品質データに応じて、モニタリングプロセスの品質データを安定化させるために、所定のガイダンスを表示部13に表示しても構わない。
【0074】
このようなガイダンスとしては、例えば、モニタリングプロセスがグループ4に属する場合には、仮想品質データが良好なものであるから、モニタリングプロセスの品質データも良好なものであると推測される旨の表示である。
【0075】
また、モニタリングプロセスがグループ5に属する場合には、「Weeping」が発生する虞があるため、還流量を増やす旨のガイダンスを表示することが考えられる。
【0076】
また、モニタリングプロセスがグループ6に属する場合には、「Flooding」が発生する虞があるため、原料の投入量を減らす旨のガイダンスを表示することが考えられる。
【0077】
さらに、モニタリングプロセスがグループ7に属する場合には、安全性に関わる物質が塔底で濃縮する虞があるため、塔底から高濃度の成分の抜き出し量を増やす旨のガイダンスを表示することが考えられる。
【0078】
このようにして、モニタリングプロセスが未経験の状態で進捗する場合であっても、逸脱した要因やその際の対処方法をガイダンスとして提供することにより、蒸留塔1の運転員に運転を進める上での安心感を付与することができる。
【0079】
さらに、図7に示すグラフにモニタリングプロセスの主成分得点を重ねたものを表示部13に表示することにより、ユーザが視覚的に精製後NMPの品質の良否を認識することができる。
【0080】
一方、数式8で算出される距離Dが各グループ1~7の大きさに比べて著しく遠い等の理由により、モニタリングプロセスの状態データに応じた主成分得点が、ステップS4で区分した動作済みロットのグループ1~3又はステップS9で区分した仮想ロットのグループ4~7の何れのグループにも属さないと判定された場合には、モニタリングプロセスが、動作済みロット及び仮想ロットの何れとも相違する可能性が高い。この場合には、制御装置10が、表示部13に注意を促す旨のガイダンスを表示しても構わない。
【0081】
また、本実施形態では、経験済みのロットの状態データ及び品質データ並びに仮想ロットの状態データ及び品質データに基づいて、モニタリングプロセスの品質データを予測した場合を例に説明したが、複数の仮想ロットを仮想状態データ及び仮想品質データに基づいて区分した複数のグループの何れかに属するか否かの判定に基づいて、モニタリングプロセスの良否や品質を予測しても構わない。
【0082】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0083】
1 :蒸留塔
2 :回収部
3 :濃縮部
4 :加熱装置
5 :冷却装置
10 :制御装置
11 :装置制御部
11a:制御部
11b:解析部
11c:検証部
11d:判定部
12 :入出力部
13 :表示部
14 :記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7