(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086381
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収材及びそれを使用する排煙中の二酸化炭素回収方法。
(51)【国際特許分類】
B09B 3/20 20220101AFI20220602BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220602BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20220602BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20220602BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20220602BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220602BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20220602BHJP
【FI】
B09B3/00 301M
B09B3/00 ZAB
B01J20/04 C
B01D53/78
B01D53/62
C01B32/50
B09B3/00 304G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198341
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】302072457
【氏名又は名称】株式会社アムスエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 登壽男
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002BA02
4D002DA05
4D002DA06
4D002DA14
4D002DA16
4D002DA22
4D002DA66
4D002DA70
4D004AA36
4D004AA37
4D004AB03
4D004CA14
4D004CA15
4D004CA34
4D004CA45
4D004CC11
4G066AA16B
4G066AA30B
4G066AA47B
4G066AA50B
4G066AA66B
4G066AA75B
4G066AA78B
4G066BA36
4G066CA35
4G066FA37
4G146JA02
4G146JB04
4G146JC12
4G146JC22
(57)【要約】
【解決すべき課題】
石炭灰により空気あるいは排ガス中の二酸化炭素を回収するとともに石炭灰中に含まれる重金属や有害物質を不溶化する方法を提供すること
【解決手段】
酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg
2SiO
4、Fe
2SiO
4)を含む固化・不溶化剤を、石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に添加混合し固化した二酸化炭素吸収材と、二酸化炭素含有ガスを接触させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を含む、石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰用固化・不溶化剤。
【請求項2】
石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合してなる、二酸化炭素吸収材。
【請求項3】
石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合し、二酸化炭素含有ガスと気液接触させて炭酸化することを特徴とする石炭灰中の重金属不溶化方法。
【請求項4】
石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合し、石炭燃焼廃ガスと気液接触させて炭酸化することを特徴とする石炭燃焼廃ガス中の二酸化炭素回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所において発生する大量の石炭灰を使用した二酸化炭素吸収材、及びそれを使用した排煙中の二酸化炭素の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国においては、原子力発電所の再稼働が進まない中で、発電コストが低く安定供給が可能な石炭を燃料とする火力発電が主力電源となっており、最近では我が国の電力構成の30%強に上っている。
【0003】
一方、石炭火力は、石炭の燃焼に伴って、大量の石炭灰が生じ大量の二酸化炭素が排出されることから、環境重視、温暖化ガスの削減の意識が高まる中、風当たりが強い電源でもある。当面は石炭火力を活用せざるを得ない状況の中で、これらの二つの問題を解決することは重要な課題といえる。
【0004】
かかる問題の解決方法として、石炭の燃焼設備から排出される石炭灰をスラリー化し、燃焼排ガスと気液接触させて燃焼廃ガス中の二酸化炭素を吸収させる方法(特許文献1)や、回収した石炭灰をゼオライト製造装置に導いてゼオライトを製造し、このゼオライトを使用して前記燃焼廃ガスから二酸化炭素を回収する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0005】
しかし、前者の方法では二酸化炭素の回収率は10%程度にとどまり、後者の方法では回収率は向上するものの、新たにゼオライト製造装置が必要となり、さらに石炭灰には、有害金属であるカドミウムや六価クロムなどの重金属が含まれていることから、いずれの方法も使用済み石炭灰の処理が必要であった。
【0006】
石炭灰中の重金属に対する既存の対処法としては、セメント材に配合して重金属を不溶化する方法(特許文献3,4)が主流であるが、石炭火力発電所の稼働が増加している状況では、処理能力が限界に近付いている。
【0007】
本発明者は、重量比が1:5~5:1の軽焼マグネサイトと軽焼ドロマイトを含む石炭灰の固化・不溶化剤に係る特許(特許文献5)を取得しているが、石炭灰には重金属だけでなくAs、Fなどの陰イオン成分やBのような非イオン成分などの有害物質も含まれており、係る固化・不溶化剤では、石炭灰中のすべての有害物質を不溶化することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-261658号公報
【特許文献2】特開2009-262086号公報
【特許文献3】特開2016-047519号公報
【特許文献4】特開2000-301107号公報
【特許文献5】特許第3706618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、石炭灰により空気あるいは排ガス中の二酸化炭素を回収するとともに石炭灰中に含まれる重金属や有害物質を不溶化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような状況に鑑み、本発明者は、石炭灰により二酸化炭素の回収をするとともに石炭灰中に含まれる重金属を不溶化する方法について、鋭意検討した結果、従来の固化・不溶化剤(特許第3706618号)を改良発展させ、焼成温度及び焼成時間を調整することにより、その活性度(Mg含有量)を50%、好ましくは55~60%程度に高めた酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を主成分とし、酸化マグネシウムとドロマイトの重量比が1:5~5:1である固化・不溶化剤を、石炭灰に添加混合した状態で、燃焼廃ガスのような二酸化炭素含有ガスと接触させて炭酸化すれば、石炭灰中の重金属だけでなくAs,F,Bなどの有害成分も、石炭灰と強固に結合し、長期間にわたって溶出しないことを突き止め、本発明に至ったものである。
【0011】
本発明の酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石の混合物が、石炭灰中に含まれるカドミウムなどの重金属を不溶出化するメカニズムを
図4で説明すると、大気中から大量の二酸化炭素を吸収すると、酸化マグネシウムが炭酸マグネシウムに炭化しながらその針状結晶を成長させる。一方、カドミウムも酸化されるが前記炭酸マグネシウムの針状結晶の成長中にその結晶内に取り込まれるため、長期間、重金属が溶出することがないと考えられる。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
(1)酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を含む、石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰用固化・不溶化剤。
(2)石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合してなる、二酸化炭素吸収材。
(3)石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン肥、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合し、二酸化炭素含有ガスと気液接触させて炭酸化することを特徴とする石炭灰中の重金属不溶化方法。
(4)石炭の燃焼装置の燃焼残滓及び排ガスから回収される石炭灰に、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、熔成リン、及びカンラン石(Mg2SiO4、Fe2SiO4)を添加混合し、石炭燃焼廃ガスと気液接触させて炭酸化することを特徴とする石炭燃焼廃ガス中の二酸化炭素回収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二酸化炭素吸収材を使用すれば、空気中や燃焼廃ガス中の二酸化炭素が高い効率で回収・除去することができ、二酸化炭素を十分吸収し、炭酸化された廃吸収材からは重金属が浸出することがないので、種々の用途に再利用が可能であり、投棄しても安全である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1における二酸化炭素の濃度の経時変化を示したグラフ
【
図2】実施例1における石炭灰を含む試料の1m
2当たりの二酸化炭素の累計吸収量を示したグラフ
【
図3】比較例1における試料A、Bを用いた場合の二酸化炭素の濃度の経時変化を示したグラフ
【
図4】石炭灰中に含まれる重金属を不溶化するメカニズムの説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0016】
<本発明の二酸化炭素吸収材を用いた二酸化炭素吸収実験>
酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、17%熔成リン肥、及びカンラン石(Mg
2SiO
4、Fe
2SiO
4)から成る薬剤として、アムスエンジニアリング社製固化剤(商品名、「エコハーモニィ EH2008T62」)を利用した。
(1)本発明の二酸化炭素吸収材の調製
・容器に、石炭灰と、酸化マグネシウム、石膏、ドロマイト、硫酸第一鉄、17%熔成リン肥、及びカンラン石(Mg
2SiO
4、Fe
2SiO
4)から成る薬剤を5:1で配合した混合物を131g加え、この混合物に純水51.8g加えて、均一となるよう攪拌した。
・加水した混合物37.21gを46.5mmφ×15mm のガラス製シャーレに加え、これを90mmφ×20mmのプラスチックシャーレに移して直径50mmの円形に形を整え、蓋をした。
(2)二酸化炭素ガスの調製
・30Lガス分析用サンプリングバッグ(商品名「テドラーバッグ」)に既知濃度の二酸化炭素標準ガス(窒素ベース2種標準16.11%)1Lを加え、次いでゼロガス(窒素ガス)16.9Lを加えて、二酸化炭素濃度8000ppmの実験用ガスとした。
(3)試験条件の設定
・20Lガス分析用サンプリングバッグ(商品名「テドラーバッグ」)に切り込みを入れ、上記混合物を入れたシャーレを蓋つきのまま前記切込み部分から入れる。
・切込み部をシーラーで密封し、ポンプでガス分析用サンプリングバッグ内の空気を抜く。
・注射筒を用いて、二酸化炭素濃度8000ppmの実験用ガスを5L注入した。
・実験は、ガス分析用サンプリングバッグ内のプラスチックシャーレの蓋をバッグの外から手で開けることによって開始する。
・所定時間におけるガス分析用サンプリングバッグ内の二酸化炭素濃度を、検知管により採取したガスで計測した。その結果を表1及び
図1に示す。
本発明の二酸化炭素吸収材によれば、8,000ppmの二酸化炭素を48時間で二酸化炭素濃度は不検出(100ppm未満)にすることができた。
【0017】
【表1】
・吸収量(mg)=[測定結果と前回測定結果の差]×(44.01/(273+温度)×0.082)×バッグ内ガス容積(L)×10
-3
・累計吸収量(mg)=吸収量(mg)+ 前回までの累計吸収量(mg)
・1m
2あたりの累計吸収量(g)= 累計吸収量(mg)× 10
-3 ÷ 混合品表面積(cm
2)× 10
-4
【0018】
本実験で使用した混合物の表面積35.34cm
2(概ね50mmφ×10mm)及び重量変化から、本発明の混合物の1m
2当たりの累積二酸化炭素吸収量の経時変化は
図2のようになった。
【0019】
[比較例1]
<石炭灰に代えて砂を用いた試験>
実施例1で石炭灰に代えて山砂(A)、及び再生砂(B)を使用し、薬剤と精製水を下記表に示される様に加えて実施例1と同様に固化してペレット状とし、二酸化炭素濃度が5400ppmの空気を、実施例1と同様な容器中にそれぞれ入れて密封し、容器中の気体の二酸化炭素濃度の経時的変化を計測した。その結果を
図2に示す。
【0020】
【0021】
図2から明らかなように、薬剤の添加量を増やすと吸収速度は増加するが、これらの二酸化炭素吸収材では、48時間を過ぎても二酸化炭素を完全に吸収することができなかった。