(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086457
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】誘電加熱システム
(51)【国際特許分類】
H05B 6/52 20060101AFI20220602BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
H05B6/52
H05B6/68 330Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198472
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】上田 雅哉
【テーマコード(参考)】
3K086
3K090
【Fターム(参考)】
3K086AA05
3K086BA09
3K086CB12
3K086CC01
3K086CD07
3K086EA14
3K090AA13
3K090BA04
(57)【要約】
【課題】高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを正確かつ円滑に調整する。
【解決手段】高周波誘電加熱システム(1)は、インピーダンスを離散的に変更可能な整合器(4)と、高周波電源(2)の出力電力を、初期値から定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、各出力電力で負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを調整する制御器(5)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の電力を出力する電源部と、
上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、
上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを離散的に変更可能である可変部と、
上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、
上記可変部に当該可変部のインピーダンスを変更させることにより、上記電源部、上記加熱部、および、上記可変部を含む電源の出力インピーダンスである電源インピーダンスを調整する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から、上記電源部が上記対象物を含む負荷に印加する電力である定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスの変化に整合するように、各出力電力において、上記電源インピーダンスを調整する
ことを特徴とする誘電加熱システム。
【請求項2】
上記制御部は、
(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、
(2)上記可変部の各インピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(4)上記出力電力を1段階大きくし、
(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、
(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、
(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、
(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記電源インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記負荷インピーダンスに整合すると判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の誘電加熱システム。
【請求項3】
上記可変部は、複数のスイッチを備えており、当該スイッチの開閉によりインピーダンスを変更可能であり、
上記制御部は、(5)および(7)の処理において、それぞれ(3)および(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスを設定する際に、上記複数のスイッチのうち、一部のスイッチの開閉を固定し、当該一部以外のスイッチの開閉を、当該開閉の状態を示すグレイコードに従って切り替える
ことを特徴とする請求項2に記載の誘電加熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電加熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波誘電加熱システムによる解凍及び加熱では、高周波電源のインピーダンスと、負荷のインピーダンスとを整合させる必要がある。そのため、高周波電源と、負荷との間には、整合器が設けられる。そして、加熱は、高周波電源の出力インピーダンスと、負荷の入力インピーダンスとを整合させる動作モード(以下、整合点探索モードという)と、負荷6に電力を印加する動作モード(以下、定常電力印加モードという)とを繰り返すことで行われる。
【0003】
整合点探索モードでは、高周波電源への反射電力が大きくなり、高周波電源に使用される半導体スイッチング素子が破壊されてしまう虞がある。その解決法として、整合点探索モードでの電力を、定常電力印加モードでの電力よりも低くする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に電力を小さくしてインピーダンスを整合させると、定常電力印加モードにおいて整合がずれてしまい、効率的な加熱ができないだけでなく、半導体スイッチング素子が破壊されるという問題が生じる。
【0006】
インピーダンスが整合している状態とは、高周波電源と、負荷との間の整合面において、高周波電源の出力インピーダンスと、負荷の入力インピーダンスとが一致している状態を指す。整合点探索モードでは、負荷の入力インピーダンスを変化させることにより、高周波電源の出力インピーダンスに一致する点を探索することになる。つまり、整合点探索モードでは、電力を小さくした状態の負荷の入力インピーダンスに高周波電源の出力インピーダンスを合わせることになる。そのため、整合点探索モードでの出力インピーダンスと、定常電力印加モードでの出力インピーダンスとが異なる場合には、定常電力印加モードで整合ずれが発生する。
【0007】
図10は、高周波電源の一例を示す図である。本例では、高周波電源2の出力電力は電源電圧を変化させることで実現される。
図11は、半導体スイッチング素子の出力容量特性を示すグラフである。
図11に示すように、半導体スイッチング素子の出力容量はドレイン-ソース間の電圧、すなわち、高周波電源2の電源電圧によって変化することが分かる。このため、
図10の高周波電源では、出力電力により出力インピーダンスが変化することになる。
【0008】
なお、特許文献1の技術は、加熱調理開始時のインピーダンス不整合時において、半導体スイッチ素子の耐圧破壊を防止する高周波加熱装置を提供するものである。ただし、特許文献1の技術では、初期整合時において主電力増幅器に供給される直流電圧が、定常出力時よりも低くなるように制御した場合、定常出力時とは出力インピーダンスが異なる点が問題になる。すなわち、
図12に示すように、整合点探索モードと、定常電力印加モードとでは、高周波電源の出力電力が大きく異なるので、出力インピーダンスも大きく変化する。
【0009】
本発明の一態様は、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを正確かつ円滑に調整することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る誘電加熱システムは、高周波の電力を出力する電源部と、上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを離散的に変更可能である可変部と、上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、上記可変部に当該可変部のインピーダンスを変更させることにより、上記電源部、上記加熱部、および、上記可変部を含む電源の出力インピーダンスである電源インピーダンスを調整する制御部と、を備え、上記制御部は、上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から、上記電源部が上記対象物を含む負荷に印加する電力である定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスの変化に整合するように、各出力電力において、上記電源インピーダンスを調整する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態1に係る高周波誘電加熱システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る出力電力の制御イメージを示す図である。
【
図3】上図は本発明の実施形態1に係る整合器の構成例を示す図であり、下図は本発明の実施形態1に係るスイッチの開閉と、整合器の状態との関係を示す表である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る整合器のスイッチの状態を表現するコード表である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る整合点探索モードにおける制御器の処理概要を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態1に係る整合点探索モードにおける制御器の処理例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態1に係る整合器の状態に応じた探索順序を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る整合点探索モードにおける制御器の処理例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の実施形態3に係る整合器の構成例を示す図である。
【
図10】従来技術に係る高周波電源の一例を示す図である。
【
図11】従来技術に係る半導体スイッチング素子の出力容量特性を示すグラフである。
【
図12】従来技術に係る高周波電源の出力電力の時間的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0014】
(実施形態1の概要)
図2は、本実施形態に係る出力電力の制御イメージを示す図である。本実施形態では、
図2に示すように、整合点探索モードにおいて、高周波電源2の出力電力に関して、小電力から、電源インピーダンスと、負荷インピーダンスとが整合する整合点の探索を始め、その電力における整合点から少し電力を大きくして整合点の探索を再度行う。このように、高周波電源2の出力電力を段階的に少しずつ上げて、定常電力に徐々に近づけていきながら、整合点の探索を繰り返す。なお、定常電力は、高周波電源2が負荷6に印加する電力である。
【0015】
さらに一例として、初期の電力を小さくした状態での探索は、小電力の範囲であれば、疎に行ってもよい。なお、小電力とは、反射比率を正確に測定可能な程度の最小電力である。
【0016】
上記により、高周波電源2の出力インピーダンスと、負荷6の入力インピーダンスとが整合していない場合には、高周波電源2の出力電力が小さいため、反射波によるスイッチング半導体の破壊を防ぐことができる。そして、各電力での整合点の近傍での探索により、徐々に定常電力に近付けるため、整合点探索モードから定常電力印加モードに移行した場合に、高周波電源2の出力インピーダンスが大きく変化して、負荷6の入力インピーダンスとの整合がずれることが発生しなくなる。
【0017】
従って、効率的な加熱を行い、かつ、スイッチング半導体の破壊を防ぎながら、定常出力印加モードにおける整合点を正確かつ円滑に探索することができる。
【0018】
なお、本実施形態における整合点とは、電源の出力インピーダンスの値と、負荷の入力インピーダンスの値とが一致する値である。ここで、この「一致する値」は、完全に一致せず、略一致する値であってもよい。
【0019】
(高周波誘電加熱システム1の構成)
図1は、本実施形態に係る高周波誘電加熱システム(以下、誘電加熱システムという)1の構成を示す図である。誘電加熱システム1は、高周波電源(電源部)2と、検波器(検出部)3と、整合器(可変部)4と、制御器(制御部)5と、2つの電極(加熱部)61とを備えている。なお、高周波電源2、検波器3、整合器4、および、下側の電極61は、接地7に接続されている。
【0020】
2つの電極61は対向しており、当該電極61の間には、ターゲット(対象物)Tが介設されている。ターゲットTは、加熱または解凍の対象である。2つの電極61は、高周波電源2から出力された電力が印加されることによりターゲットTを加熱する。
【0021】
高周波電源2は、例えば、13.56MHz、40.68MHz等の高周波の交流電力を出力する。なお、当該交流電力の電力レベルは、制御器5により制御可能である。
【0022】
高周波電源2から出力される電力は、検波器3、および、整合器4を通過して、電極61間に印加される。電力の印加により電極61間に発生した電界は、ターゲットTに作用する。すなわち、当該電界により、ターゲットTは、加熱または解凍される。
【0023】
検波器3は、高周波電源2と、整合器4との間に介設される。検波器3は、高周波電源2から整合器4の方向に進む進行波の電力レベル(整合器4に出力される出力電力)と、当該進行波(出力電力)が整合器4に反射されて高周波電源2に戻る反射波の電力レベル(反射電力)とを検出し、それぞれに対応した信号を出力する。なお、検波器3は、進行波と、反射波との比である反射率に応じた信号を出力するものであってもよい。
【0024】
整合器4は、高周波電源2と、2つの電極61との間に介設され、自らのインピーダンスを離散的に変更可能である。すなわち、整合器4は、コイルと、コンデンサとを備えており、一部またはすべての、コイルのインダクタンスと、コンデンサのキャパシタンスとを変化させることができる。整合器4は、当該インダクタンスと、当該キャパシタンスとを変化させることにより、電源のインピーダンスを変化させることが可能である。なお、整合器4は、コイルのみの構成であってもよいし、コンデンサのみの構成であってもよい。
【0025】
制御器5は、電力値モニタ部51と、出力パワー制御部52と、整合調整部53とを備えている。電力値モニタ部51は、検波器3の電力値を取得する。出力パワー制御部52は、検波器3が取得した電力値を参照して、高周波電源2の電力レベルを制御する。整合調整部53は、整合器4のインダクタンスおよびキャパシタンスの少なくとも一方を変化させることにより、電源のインピーダンスを制御する。
【0026】
制御器5は、高周波電源2が定常電力を出力するときに、整合器4に整合器4のインピーダンスを変更させることにより、高周波電源2、2つの電極61、および、整合器4を含む電源の出力インピーダンスである電源インピーダンスを調整する。
【0027】
制御器5は、出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から、高周波電源2が負荷6に印加する電力である定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、ターゲットTを含む負荷6の入力インピーダンスである負荷インピーダンスの変化に整合するように、各出力電力において、上記電源インピーダンスを調整する。
【0028】
詳細には、2つの電極61間の過熱により、ターゲットTの温度が上昇する。それに伴って、ターゲットTにおける氷と水との比率が変化することにより、ターゲットTの誘電比率が変化することにより、負荷インピーダンスが変化する。変化した負荷インピーダンスに整合するように、制御器5は、電源インピーダンスを調整する。ただし、出力電力の大きさに応じて電源インピーダンスが変化するため、急に大電力をターゲットTに印可すると、反射波による素子の破損の可能性が大きくなるので、制御器5は、電力を段階的に上げるように制御する。
【0029】
なお、電源インピーダンスと、負荷インピーダンスとの整合面の位置に関しては、
図1では、検波器3と、整合器4との間に示しているが、適宜変更してもよい。例えば、整合面の位置は、整合器4と電極61との間であってもよいし、電極61とターゲットTとの間であってもよいし、ターゲットTと誘電加熱システム1全体(ターゲットT以外の部分)との間であってもよいし、他の位置であってもよい。上記のように、整合面の位置は、特に限定されるものではなく、複数の解釈が可能である。
【0030】
(整合器4の構成例)
図3上図は、本実施形態に係る整合器4の構成例を示す図である。整合器4は、スイッチS1、S2、S3を備えており、当該スイッチS1、S2、S3の各開閉によりインピーダンスを変更可能である。なお、以下、スイッチS1、S2、S3を総称する場合、スイッチSと称する。
図3上図に示すように、整合器4において、並列接続されたコイルL(L1、L2、L3)と、スイッチS(S1、S2、S3)とを一つの構成要素とし、複数の当該構成要素が入出力回路内に直列または並列に接続されている。なお、コイルL0には、スイッチSが接続されていない。
【0031】
コイルLと並列に接続されたスイッチSをオンすると、コイルLの両端は短絡するので、上記構成要素のインダクタンスはゼロ(0)になる。そして、スイッチSをオフすると、上記構成要素のインダクタンスはコイルLのインダクタンスに等しくなる。
【0032】
なお、上記構成要素に用いるものは、コイルLではなく、コンデンサCであってもよい。また、コイルLまたはコンデンサCとセットで用いるスイッチSは、コイルLまたはコンデンサCに対して直列に接続されてもよい。
【0033】
整合器4は、複数配置された構成要素のスイッチSの開閉の組み合わせを変えることにより、離散的にインピーダンスを変更可能であり、電源のインピーダンスを調整することが可能になる。この場合、電源のインピーダンスは、2の「スイッチの個数」乗通りのインピーダンスが実現できることになる。本実施形態では、説明のため、3つの上記構成要素を用いた整合回路を扱うものとする。この場合、8(=2の3乗)通りのインピーダンスが実現可能である。
【0034】
なお、スイッチSは、半導体スイッチであってもよいし、メカニカルリレーであってもよい。
【0035】
図3下図は、本実施形態に係る3つのスイッチSの開閉と、整合器4の状態との関係を示す表である。以下の説明のため、
図3下図に示すように、3つのスイッチSをそれぞれS1、S2、S3とし、それぞれのスイッチSの開閉の組み合わせによる整合器4の状態0~7を定義する。例えば、スイッチS1、S2、および、S3がすべて閉である場合、整合器4のインピーダンスの状態は状態0になる。整合器4の状態0~7は、それぞれ異なるインピーダンスに対応する。
【0036】
(整合器4の状態)
図4は、本実施形態に係る整合器4のスイッチSの状態を表現するコード表である。本実施形態では、スイッチS1、S2、S3の状態を変化させる際に、3ビットのグレイコードを用いる。具体的には、スイッチSの閉を0として定義し、スイッチSの開を1として定義することにより、整合器4の状態をグレイコードで表す。
【0037】
図4上図は、見やすさのため、
図3下図の「閉」を「0」に、「開」を「1」に置き換えたものである。
【0038】
本実施形態では、
図4左下図および
図4右下図に示すように、スイッチS1、S2、および、S3の状態を変化させるために、3ビットのグレイコードを用いる。グレイコード(Gray code)とは、2進数の表現で、隣り合う値でビットの変化が1ビットしかないようにしたものである。
【0039】
詳細には、グレイコード(英: Gray code、交番2進符号(こうばんにしんふごう、英:Reflected Binary Code)などともいう)は、数値の符号化法の一つであり、前後に隣接する符号間のハミング距離が必ず1であるという特性を持つ。ハミング距離とは、桁数が同じ2つの値を比較した場合、対応する位置にある値が異なる桁の個数である。例えば、2進数の場合、「1111111」と、「1110101」とのハミング距離は、2となる。
【0040】
なお、通常の2進表現をグレイコードに変換するには、対象の2進表現と、それを1ビット右シフトし、最上位ビットを0にしたものとの排他的論理和(Exclusive OR)をとる。参考のために、
図4右下図は、2ビットのグレイコードを示す図である。
【0041】
スイッチS1、S2、および、S3の切り替え順序にグレイコードを用いることによって、整合点探索時におけるスイッチS1、S2、および、S3の切り替え回数を削減することができ、整合器4の耐久性を向上させることができる。
【0042】
本実施形態では、さらに整合器4の耐久性を向上させ、整合点の探索にかかる時間を短縮する方法を提案する。
【0043】
(整合点探索モードの処理)
図5は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理概要を示すフローチャートである。
【0044】
本実施形態に係る整合方法は、整合点探索モードにおいて、小電力から探索を始め、小電力における整合点の近傍を、少し電力を上げて再び探索を行う。電力を段階的に上げて定常出力に徐々に近づけていきながら探索を繰り返すことにより、半導体スイッチング素子の破壊を防ぎながら、定常出力における整合点を正確かつ円滑に探索する。
【0045】
制御器5は、高周波電源2の出力を制御する信号である出力パワー制御信号をV0~Vx(xは任意の数)の値で出力する。出力パワー制御信号は、例えば、V0<V1<V2・・・<Vxであり、最大値であるVxは、定常電力印加モード時における出力値と同等である。なお、例えば、V0およびV1の差分と、V1およびV2の差分との差が均一であってもよいし、不均一であってもよい。
【0046】
以下、説明の便宜上、出力パワー制御信号はV0~V3まで設定されているとする。
【0047】
(ステップS501)
制御器5は、出力パワー制御信号を最小値であるV0に設定する。
【0048】
(ステップS502)
制御器5は、整合器4の状態(
図3下図参照)のうち、整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力を取得する。なお、ステップS501で出力パワー制御信号を最小値V0に設定しているため、整合器4の各状態において探索を行っても、半導体スイッチング素子を破壊する程、反射波電力が大きくなることはない。
【0049】
(ステップS503)
制御器5は、ステップS502で取得した整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を選択する。
【0050】
(ステップS504)
制御器5は、出力パワー制御信号をV0よりも大きい電圧値V1に設定する(出力電力を1段階大きくする)。
【0051】
(ステップS505)
制御器5は、ステップS503で選択した整合器4の状態(インピーダンス)と、当該整合器4の状態(インピーダンス)を示すバイナリコード(2進数値)の近傍とにおける進行波電力および反射波電力を取得する。
【0052】
例えば、ステップS503において状態0(M0)が選択された場合、制御器5は、出力パワー制御信号を1段上げて(すなわち、Vxの変数xに1を加算して)、M0とバイナリコードにおける1つ上のM1(001b)をグレイコードの順序に従って探索する。なお、bは、2進数値であることを示す。この場合、M0と、M1とのハミング距離は、1になる。
【0053】
ステップS503において状態1(M1)が選択された場合、制御器5は、出力パワー制御信号を1段上げた状態でM0(000b)、M1(001b)、M3(010b)の3つの状態をグレイコードの順序に従って探索する。ただし、この場合、M1と、M3とのハミング距離は、2になる。
【0054】
これは、整合点の探索に際して、最小のハミング距離で探索するという第1条件と、整合器4の状態を示すバイナリコードの近傍を探索するという第2条件とがあるときに、第1条件に配慮しつつ、第2条件を優先した結果である。
【0055】
(ステップS506)
制御器5は、ステップS505で取得した、整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0056】
(ステップS507)
制御器5は、出力パワー制御信号をV1よりも大きい電圧値V2に設定する(出力電力を1段階大きくする)。
【0057】
(ステップS508)
制御器5は、ステップS506で選択した整合器4の状態(インピーダンス)と、当該整合器4の状態(インピーダンス)を示すバイナリコードの近傍とにおける進行波電力および反射波電力を取得する。
【0058】
(ステップS509)
制御器5は、ステップS508で取得した整合器4の各状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0059】
(ステップS510)
制御器5は、出力パワー制御信号をV2よりも大きい電圧値V3に設定する(出力電力を1段階大きくする)。
【0060】
(ステップS511)
制御器5は、ステップS509で選択した整合器4の状態(インピーダンス)と、当該整合器4の状態(インピーダンス)を示すバイナリコードの近傍とにおける進行波電力および反射波電力を取得する。
【0061】
(ステップS512)
制御器5は、ステップS511で取得した整合器4の状態における進行波電力および反射波電力のうち、進行波電力が最大で、かつ、反射波電力が最小である整合器4の状態を新たに選択する。
【0062】
図6は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理例を示すフローチャートである。ここで、出力パワー制御信号は、高周波電源2の出力を制御するための信号である。
【0063】
ここでは、説明のため、制御器5は、V0、V1、V2、および、V3の4つの値を出力し、V0<V1<V2<V3の関係があるものとする。出力パワー制御信号と、高周波電源2の出力レベルとは比例し、高周波電源はV3の時定常電力印加モードとなるものとし、これをVx(x=0~3の数)と表記する。また、
図3下図の整合器4の8つの状態をMy(y=0~7の数)と表記する。なお、変数x、y、電力出力値Vx、および、整合器4の状態Myは、メモリに格納されているものとする。
【0064】
(ステップS601)
制御器5は、変数xに0を代入し、変数yに0を代入する。
【0065】
(ステップS602)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。これにより、制御器5は、高周波電源2の出力電力を初期値に設定することになる。
【0066】
(ステップS603)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0067】
(ステップS604)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値をメモリ上の、状態Myに対応するアドレスに記憶させる。
【0068】
(ステップS605)
制御器5は、変数yに1を加算する。
【0069】
(ステップS606)
制御器5は、変数yが7よりも大きいか否かを判定する。変数yが7よりも大きい場合(ステップS606のYES)、整合器4の各インピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得したことになるので、次に、制御器5は、ステップS607の処理を実行する。変数yが7よりも大きくない(7以下である)場合(ステップS606のNO)、制御器5は、ステップS603の処理を再度実行する。
【0070】
ステップS603~S606において、制御器5は、状態M0、M1、M2、M3、M4、M5、M6、M7の順に、整合器4の8つの状態について探索を行っている。従って、スイッチSの切り替え回数を最小にして探索を行うことができる。
【0071】
(ステップS607)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、この状態My’のy’を、変数zに保存する。
【0072】
ステップS607までの処理が最小電力による第1回目の整合点探索である。次に、制御器5は、ステップS608以降の処理を実行する。
【0073】
(ステップS608)
制御器5は、変数xに1を代入し、変数zの値に応じて変数yの値を設定する。その設定の詳細は、後述する。
【0074】
(ステップS609)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。
【0075】
(ステップS610)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0076】
(ステップS611)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値を、状態Myに対応する、メモリ上のアドレスに記憶させる。
【0077】
(ステップS612)
制御器5は、次の変数yの値があるか否かを判定する。その判定の詳細は、後述する。次の変数yの値がある場合(ステップS612のYES)、制御器5は、ステップS613の処理を実行する。次の変数yの値がない場合(ステップS612のNO)、制御器5は、ステップS614の処理を実行する。
【0078】
ステップS612の判定により、制御器5は、ステップS607またはステップS614で選択した整合器4のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得することになる。
【0079】
(ステップS613)
制御器5は、次の変数yの値を設定する。その設定の詳細は、後述する。そして、制御器5は、ステップS610の処理を再度実行する。
【0080】
(ステップS614)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、当該状態My’のy’を変数zに保存する。
【0081】
(ステップS615)
制御器5は、変数xに1を加算する。
【0082】
(ステップS616)
制御器5は、変数xが3よりも大きいか否かを判定する。変数xが3よりも大きい(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS616のYES)、制御器5は、処理を終了する。この場合に、変数zに記録された状態が、負荷インピーダンスに電源インピーダンスを整合させるための整合器4の状態を表している。すなわち、制御器5は、ステップS614で選択した整合器4のインピーダンスを含む電源インピーダンスが、高周波電源2が定常電力を出力するときの負荷インピーダンスに整合すると判断する。
【0083】
一方、変数xが3よりも大きくない(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS616のNO)、制御器5は、ステップS609の処理を再度実行する。
【0084】
(整合器4の状態に応じた探索順序)
図7は、本実施形態に係る整合器4の状態に応じた探索順序を示す図である。詳細には、
図7は、前回の探索において最も整合のとれた状態を示すバイナリコードにおける近傍を、最小のハミング距離で探索できるように作成したものである。換言すれば、
図7は、
図6のステップS608、S612、S613における、変数zの値に応じた変数yの取り扱いを示す。
【0085】
変数zは、スイッチSの状態番号を示す。詳細には、変数zは、前回の探索(出力パワー制御信号が1段小さい状態での探索)において、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小であった状態を保持している変数である。
図7に示すように、変数zの値により、次回の探索順序が決定される。例えば、変数zが0であれば、制御器5は、1回目は状態M0で探索し、2回目は状態M1で探索する。変数zが7であれば、制御器5は、1回目は状態M2で探索し、2回目は状態M6で探索し、3回目は状態M7で探索する。
【0086】
図7によれば、例えば、変数zが0であれば、変数yの値が0および1の2個ある。従って、ステップS608において、制御器5は、最初に、変数yの値に0を設定する。ステップS612において、制御器5は、次のyの値があると判定する。そして、ステップS613において、制御器5は、変数yの値に1を設定する。これに続くステップS612において、制御器5は、次のyの値がないと判定する。
【0087】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0088】
本実施形態では、最小電力による第1回目の整合点探索において、初期の電力を小さくした状態での探索を疎に行う。詳細には、第1回目の整合点探索は、M0、M3、M4、M7の4つの状態について探索を行う。この4つの状態とは、
図4上図において、S3が0である4つの状態である。M0、M3、M4、M7の順序は、S3を0として、S1、S2を
図4右下図の2bitのグレイコードに従って変化させたものである。これによってスイッチの切り替え回数を最小にして疎の探索を行うことができる。
【0089】
換言すると、整合器4の各状態のうち、開閉状態が共通しているスイッチSを抽出し、該当するスイッチSの開閉状態が一致する整合器4の状態について探索する。該当するスイッチSを固定し、他のスイッチSを切り替えることにより、最小限の切り替え回数を実現することができる。
【0090】
なお、制御器5は、進行波電力および反射波電力の条件(ステップS809、S816)に応じて選択した整合器4のインピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスを設定する際に、整合器4のスイッチSの個数が3個(S1、S2、S3)である場合、3個(複数)のスイッチSのうち、1個のスイッチS(例えばS3、一部のスイッチ)の開閉を固定し、他の2つのスイッチS(例えばS1、S2、当該一部以外のスイッチ)の開閉を切り替える構成にする。これにより、制御器5は、
図4右下図の2ビットのグレイコードに従って、S1、S2の切り替えを行う。
【0091】
図8は、本実施形態に係る整合点探索モードにおける制御器5の処理例を示すフローチャートである。
【0092】
ここでは、説明のため、制御器5は、V0、V1、V2、および、V3の4つの値を出力し、V0<V1<V2<V3の関係があるものとする。出力パワー制御信号と、高周波電源2の出力レベルとは比例し、高周波電源はV3の時定常電力印加モードとなるものとし、これをVx(x=0~3の数)と表記する。また、
図3下図の整合器4の8つの状態をMy(y=0~7の数)と表記する。なお、変数x、y、電力出力値Vx、および、整合器4の状態Myは、メモリに格納されているものとする。
【0093】
(ステップS801)
制御器5は、変数xに0を代入し、変数yに0を代入する。
【0094】
(ステップS802)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。これにより、制御器5は、高周波電源2の出力電力を初期値に設定することになる。
【0095】
(ステップS803)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0096】
(ステップS804)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値をメモリ上の、状態Myに対応するアドレスに記憶させる。
【0097】
(ステップS805)
制御器5は、変数yが3であるか否かを判定する。変数yが3である場合(ステップS805のYES)、制御器5は、ステップS806の処理を実行する。変数yが3でない場合(ステップS805のNO)、制御器5は、ステップS807の処理を実行する。
【0098】
(ステップS806)
制御器5は、変数yに1を加算する。そして、制御器5は、ステップS808の判定を実行する。
【0099】
(ステップS807)
制御器5は、変数yに3を加算する。そして、制御器5は、ステップS808の判定を実行する。
【0100】
(ステップS808)
制御器5は、変数yが7よりも大きいか否かを判定する。変数yが7よりも大きい場合(ステップS808のYES)、整合器4の各インピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得したことになるので、次に、制御器5は、ステップS809の処理を実行する。変数yが7よりも大きくない(7以下である)場合(ステップS808のNO)、制御器5は、ステップS803の処理を再度実行する。
【0101】
ステップS803~S808において、制御器5は、状態M0、M3、M4、M7の順に、整合器4の4つの状態について探索を行っている。この4つの状態とは、
図4上図においてS3が0である4つの状態である。M0、M3、M4、M7の順序は、S3を0として、S1およびS2を
図4右下図の2ビットグレイコードに従って変化させたものである。これによって、スイッチSの切り替え回数を最小にして、疎の探索を行うことができる。
【0102】
(ステップS809)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、この状態My’のy’を、変数zに保存する。
【0103】
ステップS809までの処理が最小電力による第1回目の整合点探索である。次に、制御器5は、ステップS810以降の処理を実行する。
【0104】
(ステップS810)
制御器5は、変数xに1を代入し、変数zの値に応じて変数yの値を設定する。その設定の詳細は、
図7およびその説明を参照のこと。
【0105】
(ステップS811)
制御器5において、出力パワー制御部52は、出力パワー制御信号をVxに設定する。
【0106】
(ステップS812)
整合調整部53は、整合器4の状態をMyに設定する。
【0107】
(ステップS813)
電力値モニタ部51は、検波器3から電力値を取得し、当該電力値から進行波電力と、反射波電力とを読み取り、整合器4の状態Myに対応付けて記録する。例えば、電力値モニタ部51は、進行波電力および反射波電力の値を、状態Myに対応する、メモリ上のアドレスに記憶させる。
【0108】
(ステップS814)
制御器5は、次の変数yの値があるか否かを判定する。その判定の詳細は、
図7およびその説明を参照のこと。次の変数yの値がある場合(ステップS814のYES)、制御器5は、ステップS815の処理を実行する。次の変数yの値がない場合(ステップS814のNO)、制御器5は、ステップS816の処理を実行する。
【0109】
ステップS814の判定により、制御器5は、ステップS809またはステップS816で選択した整合器4のインピーダンス、および、当該インピーダンスの近傍のインピーダンスについて、進行波電力および反射波電力を取得することになる。
【0110】
(ステップS815)
制御器5は、次の変数yの値を設定する。その設定の詳細は、
図7およびその説明を参照のこと。そして、制御器5は、ステップS812の処理を再度実行する。
【0111】
(ステップS816)
制御器5は、以上の結果により、進行波電力が最大であり、かつ、反射波電力が最小である状態My’を探して(整合器4のインピーダンスを選択して)、当該状態My’のy’を変数zに保存する。
【0112】
(ステップS817)
制御器5は、変数xに1を加算する。
【0113】
(ステップS818)
制御器5は、変数xが3よりも大きいか否かを判定する。変数xが3よりも大きい(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS818のYES)、制御器5は、処理を終了する。この場合に、変数zに記録された状態が、負荷インピーダンスに電源インピーダンスを整合させるための整合器4の状態を表している。すなわち、制御器5は、ステップS816で選択した整合器4のインピーダンスを含む電源インピーダンスが、高周波電源2が定常電力を出力するときの負荷インピーダンスに整合すると判断する。
【0114】
一方、変数xが3よりも大きくない(進行波電力が最終値よりも小さい)場合(ステップS818のNO)、制御器5は、ステップS811の処理を再度実行する。
【0115】
なお、本実施形態において、限定する要件ではない点を、以下に示す。
【0116】
(1)出力パワー制御信号と、出力電力との関係は、比例である必要はない。例えば、出力パワー制御信号を増加させることにより、出力電力が減少する関係でもよいし、線形比例する必要もない。
【0117】
(2)出力制御信号は、アナログ信号である必要はない。例えば、パルス信号のデューティ比による制御でもよいし、何段階かのデジタル的な制御でもよい。
【0118】
(3)整合器4の状態すべてについて反射率を確認する必要はなく、反射率の確認順序も重要ではない。反射率が規定値以下となった時点で探索を完了してもよいし、探索する状態の数を減らしても構わない。
【0119】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0120】
誘電加熱システム1全体の構成は、実施形態1と同様である。
【0121】
図9は、本実施形態に係る整合器4aの構成例を示す図である。
図9に示すように、整合器4aにおいて、複数のバリアブルコンデンサC(C1、C2)が入出力回路内に直列または並列に接続されている。バリアブルコンデンサCは、キャパシタンスを変化させることができる。整合器4aは、複数配置されたバリアブルコンデンサCのキャパシタンスを変えることにより、連続的にインピーダンスを変更可能であり、電源のインピーダンスを調整することが可能である。この場合、電源のインピーダンスは、連続的に変化する。
【0122】
本実施形態の効果は、実施形態1と同様である。
【0123】
なお、コンピュータ制御により、バリアブルコンデンサCのキャパシタンスを離散的に変化させることが可能である。この場合、本実施形態にグレイコードを適用して、整合器4aの状態(すなわち、バリアブルコンデンサC1、C2のキャパシタンスの離散値の組合せ)をグレイコードで表すことにしてもよい。
【0124】
〔ソフトウェアによる実現例〕
誘電加熱システム1の制御器5の制御ブロック(特に、電力値モニタ部51、出力パワー制御部52、および、整合調整部53)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0125】
後者の場合、制御器5は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0126】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る誘電加熱システムは、高周波の電力を出力する電源部と、上記電源部から出力された電力が印加されることにより対象物を加熱する加熱部と、上記電源部と、上記加熱部との間に介設され、自らのインピーダンスを離散的に変更可能である可変部と、上記電源部と、上記可変部との間に介設され、上記電源部から上記可変部に出力される出力電力と、当該出力電力が上記可変部に反射されて上記電源部に戻る反射電力とを検出する検出部と、上記可変部に当該可変部のインピーダンスを変更させることにより、上記電源部、上記加熱部、および、上記可変部を含む電源の出力インピーダンスである電源インピーダンスを調整する制御部と、を備え、上記制御部は、上記出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から、上記電源部が上記対象物を含む負荷に印加する電力である定常電力の値である最終値まで段階的に大きくしながら、上記負荷の入力インピーダンスである負荷インピーダンスの変化に整合するように、各出力電力において、上記電源インピーダンスを調整する。
【0127】
上記の構成によれば、出力電力を、所定値よりも小さい値である初期値から上記定常電力の値である最終値まで段階的に大きくすることにより、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【0128】
本発明の態様2に係る誘電加熱システムは、上記態様1において、上記可変部が、離散的にインピーダンスを変更可能であり、上記制御部が、(1)上記出力電力を上記初期値に設定し、(2)上記可変部の各インピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(3)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(4)上記出力電力を1段階大きくし、(5)(3)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)上記出力電力が最大であり、かつ、上記反射電力が最小である上記可変部のインピーダンスを選択し、(7)上記出力電力が上記最終値よりも小さい場合に、上記出力電力を1段階大きくし、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスについて、上記出力電力および上記反射電力を取得し、(6)の処理に戻り、(8)上記出力電力が上記最終値である場合に、(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを含む上記電源インピーダンスが、上記電源部が定常電力を出力するときの上記負荷インピーダンスに整合すると判断することとしてもよい。
【0129】
上記の構成によれば、出力電力を1段階ずつ大きくしながら、出力電力が最大であり、かつ、反射電力が最小である上記可変部のインピーダンス、および、当該インピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスを選択するので、高周波電源から負荷に電力を印加する場合に、負荷インピーダンスに整合する電源インピーダンスを正確かつ円滑に調整することができる。
【0130】
本発明の態様3に係る誘電加熱システムは、上記態様2において、上記可変部が、複数のスイッチを備えており、当該スイッチの開閉によりインピーダンスを変更可能であり、上記制御部が、(5)および(7)の処理において、それぞれ(3)および(6)の処理で選択した上記可変部のインピーダンスを示すバイナリコードの近傍のインピーダンスを設定する際に、上記複数のスイッチのうち、一部のスイッチの開閉を固定し、当該一部以外のスイッチの開閉を、当該開閉の状態を示すグレイコードに従って切り替えることとしてもよい。
【0131】
上記の構成によれば、可変部が備える複数のスイッチのうち、一部のスイッチの開閉を固定し、かつ、当該一部以外のスイッチの開閉をグレイコードに従って切り替えることにより、当該一部以外のスイッチの切り替え回数を少なくして、疎の整合点探索を行うことができる。従って、可変部の耐久性を向上させるとともに、整合点探索にかかる時間を短縮することができる。
【0132】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 高周波誘電加熱システム
2 高周波電源(電源部)
3 検波器(検出部)
4、4a 整合器(可変部)
5 制御器(制御部)
6 負荷
S、S1、S2、S3 スイッチ
T ターゲット(対象物)
61 電極(加熱部)