(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086486
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】遺体撮影治具
(51)【国際特許分類】
A61B 6/14 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
A61B6/14 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198519
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】500175325
【氏名又は名称】学校法人愛知学院
(71)【出願人】
【識別番号】503110451
【氏名又は名称】株式会社フラット
(71)【出願人】
【識別番号】520470578
【氏名又は名称】柿本 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】有地 榮一郎
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】柿本 直也
(72)【発明者】
【氏名】勝又 明敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿延
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA12
4C093CA16
4C093CA37
4C093DA05
4C093ED12
(57)【要約】
【課題】死亡した場所で遺体の口内のX線撮影を実施することができ、撮影者又は撮影補助者が被爆する懸念のない遺体撮影治具を提供することである。
【解決手段】
被験者Hの頭部hを載置する頭部支持部材2と、頭部支持部材2に対向する側にある外郭部材3を有し、頭部支持部材2には、感光体配置部材があり、外郭部材3の所定の位置に指標があり、感光体配置部材に感光体6を設置した状態で被験者Hの頭部hを頭部支持部材2に載置して頭部hの他の部位を外郭部材3で覆い、指標の部位を参照してX線照射装置7を設置する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線照射装置を使用して、被験者の歯形を撮影する際に使用される遺体撮影治具であって、
被験者の頭部を載置する頭部支持部と、
前記頭部支持部に対向する側にある外郭部を有し、
前記頭部支持部には、感光体配置部があり、
前記外郭部の所定の位置に印があり、
前記感光体配置部に感光体を設置した状態で被験者の頭部を前記頭部支持部に載置して前記頭部の他の部位を前記外郭部で覆い、
前記印の部位を参照して前記X線照射装置を設置して、被験者の歯形を撮影することができる遺体撮影治具。
【請求項2】
前記外郭体がX線遮蔽材を有し、前記外郭体の一部にX線透過部がある請求項1に記載の遺体撮影治具。
【請求項3】
前記頭部支持部と前記外郭体が、着脱自在である請求項1又は2に記載の遺体撮影治具。
【請求項4】
前記頭部支持部と前記外郭体は係合部を有し、前記係合部によって前記頭部支持部と前記外郭体は一体化される請求項1乃至3のいずれかに記載の遺体撮影治具。
【請求項5】
X線照射装置を使用して、被験者の歯形を撮影する際に使用される、遺体撮影治具であって、
頭部挿入部を有し、当該頭部挿入部の内部に感光体配置部があり、
当該頭部挿入部の外周部であって、前記感光体配置部とは異なる領域に印があり、前記感光体配置部に感光体を設置した状態で被験者の頭部を前記頭部挿入部に挿入された状態とし、前記印の部位を参照して前記X線照射装置を設置して、被験者の歯形を撮影することができる遺体撮影治具。
【請求項6】
前記頭部挿入部は、被験者の頭部を載置する頭部支持部と、
前記頭部支持部に対向する側にある外郭部を有し、両者が組み合わされて被験者の頭部の全周を覆う環状形状を構成する請求項5に記載の遺体撮影治具。
【請求項7】
前記感光体配置部は、円弧状面を有し、シート状の感光体を前記円弧状面に沿って設置可能である請求項5又は6に記載の遺体撮影治具。
【請求項8】
被験者の顔面と、感光体配置部との間に介在されて、前記被験者の鼻部が過度に押し付けられることを阻止する介在部材を有する請求項5乃至7のいずれかに記載の遺体撮影治具。
【請求項9】
前記介在部材は、顔面の一部を支持する顔面当接部と、鼻部が挿入される開口又は凹部を有する請求項8に記載の遺体撮影治具。
【請求項10】
前記印が周方向の複数箇所に設けられている請求項1乃至9のいずれかに記載の遺体撮影治具。
【請求項11】
下部側の部位で被験者の顔面が保持され、上部側の部位で被験者の後頭部が覆われる請求項1乃至10のいずれかに記載の遺体撮影治具。
【請求項12】
被験者の頭部の高さを変更することが可能である請求項1乃至11のいずれかに記載の遺体撮影治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体の歯顎や歯形をX線撮影するための遺体撮影治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺体の身元確認をする方法の一つとして、歯形を照合する方法がある。
すなわち、死亡されたのではないかと思われる方が通院されていた歯科医院で撮られた歯型データが、遺体の歯形と一致するか否かで、当該遺体の身元を確認することができる。特許文献1には、患者の歯形のパノラマX線撮影を実施することができるパノラマ撮像装置が開示されている。特許文献1に開示されたパノラマ撮像装置を使用すると、患者の歯形を良好にX線撮影することができる。また、特許文献1のパノラマ撮像装置は、患者が仰向けに寝た状態でX線撮影することができるので、遺体にも適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されているような従来のX線撮像装置は、非常に大掛かりであり、歯科医院等の設備の整った場所でなければ設置して使用することができない。一方、遺体を移動させることは困難であるため、死亡した場所で歯形のX線撮影を実施することができるのが好ましい。
【0005】
そこで従来は、遺体の口をこじ開け、遺体の口内に感光体フィルムを配置し、携帯型のX線撮影装置で歯顎のX線撮影を実施していた。その際、感光体フィルムが撮影対象の歯顎の裏側で停止した状態でX線撮影を実施しなければならないため、従来は、撮影者又は撮影補助者が自身の指を遺体の口内に入れて感光体フィルムの位置を固定していた。そのため、撮影者又は撮影補助者の指が、X線で被爆する懸念がある。また、そもそも遺体の口内に指を入れることは、撮影者又は撮影補助者にとって気持ちが良いものではない。
【0006】
そこで本発明は、死亡した場所で遺体の口内のX線撮影を実施することができ、撮影者又は撮影補助者が被爆する懸念のない遺体撮影治具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第一の様相は、X線照射装置を使用して、被験者の歯形を撮影する際に使用される遺体撮影治具であって、被験者の頭部を載置する頭部支持部と、前記頭部支持部に対向する側にある外郭部を有し、前記頭部支持部には、感光体配置部があり、前記外郭部の所定の位置に印があり、前記感光体配置部に感光体を設置した状態で被験者の頭部を前記頭部支持部に載置して前記頭部の他の部位を前記外郭部で覆い、前記印の部位を参照して前記X線照射装置を設置して、被験者の歯形を撮影することができる遺体撮影治具である。
【0008】
本様相によると、被験者の頭部を載置する頭部支持部と、頭部支持部に対向する側にある外郭部を有し、頭部支持部には、感光体配置部があり、感光体配置部に感光体を設置した状態で被験者の頭部を頭部支持部に載置して頭部の他の部位を外郭部で覆うので、頭部支持部と外郭部が、被験者の頭部の周囲に配置される。
そして、外郭部の所定の位置に印があり、X線照射装置を設置する位置が、印によって規定され、被験者の頭部の位置が頭部支持部によって固定されているので、被験者の頭部に対するX線照射装置の設置位置を適切に設定することができる。そのため、被験者の口内を良好にX線撮影することができる。
また、感光体配置部に感光体を設置した頭部支持部に被験者の頭部を載置して外郭部側からX線を照射してX線撮影を行うので、被験者の口内に感光体(X線フィルム)を配置する必要がない。そのため、撮影者又は撮影補助者は、被験者の口内に指を入れて感光体を支持する必要がなく、X線被爆する懸念がない。
本様相の遺体撮影治具によると、被験者(遺体)を死亡した場所から別の場所へ移動させることなく、口内のX線撮影を良好に実施することができる。
【0009】
本様相において、前記外郭体がX線遮蔽材を有し、前記外郭体の一部にX線透過部があるのが好ましい。
【0010】
この構成によると、外郭体がX線遮蔽材を有し、外郭体の一部にX線透過部があるので、X線透過部からX線を照射し、被験者の歯形をX線撮影することができると共に、外郭体のX線遮蔽材によってX線が外部に漏洩することが阻止される。
【0011】
前記頭部支持部と前記外郭体が、着脱自在であるのが好ましい。
【0012】
この構成によると、頭部支持部と外郭体が着脱自在であるので、頭部支持部から外郭体を外した状態で被験者の頭部を載置することができ、載置後、被験者の頭部を覆うように外郭体を頭部支持部に装着することができる。すなわち、遺体撮影治具に被験者の頭部を設置し易い。
【0013】
前記頭部支持部と前記外郭体は係合部を有し、前記係合部によって前記頭部支持部と前記外郭体は一体化されるのが好ましい。
【0014】
この構成によると、頭部支持部と外郭体は係合部を有し、係合部によって頭部支持部と外郭体は一体化されるので、頭部支持部に対する外郭体の位置合わせが容易である。また、係合部によって頭部支持部に対して外郭体を確実に取り付けることができる。すなわち、頭部支持部に対する外郭体の相対位置が固定される。
【0015】
本発明の第二の様相は、X線照射装置を使用して、被験者の歯形を撮影する際に使用される、遺体撮影治具であって、頭部挿入部を有し、当該頭部挿入部の内部に感光体配置部があり、当該頭部挿入部の外周部であって、前記感光体配置部とは異なる領域に印があり、前記感光体配置部に感光体を設置した状態で被験者の頭部を前記頭部挿入部に挿入された状態とし、前記印の部位を参照して前記X線照射装置を設置して、被験者の歯形を撮影することができる遺体撮影治具である。
【0016】
本様相によると、被験者の歯顎に対するX線照射装置を適切な位置に固定してX線撮影を実施することができる。そのため、大掛かりな装備がなくても、被験者の歯形を良好にX線撮影することができる。また、撮影者又は撮影補助者がX線被爆する懸念がない。
【0017】
前記頭部挿入部は、被験者の頭部を載置する頭部支持部と、前記頭部支持部に対向する側にある外郭部を有し、両者が組み合わされて被験者の頭部の全周を覆う環状形状を構成するのが好ましい。
【0018】
この構成によると、被験者の頭部を載置する頭部支持部と、頭部支持部に対向する側にある外郭部が組み合わされて被験者の頭部の全周を覆う環状形状を構成するので、遺体撮影治具を堅固(頑丈)に構成することができる。
【0019】
前記感光体配置部は、円弧状面を有し、シート状の感光体を前記円弧状面に沿って設置可能であるのが好ましい。
【0020】
この構成によると、感光体配置部が円弧状面を有するので、感光体配置部を被験者の歯顎の周囲に配置することができる。そして感光体配置部の円弧状面に沿ってシート状の感光体を設置することができるので、被験者の歯顎(歯形)をX線撮影してシート状の感光体に感光させることができる。すなわち、シート状の感光体を円弧状面に沿って設置することによって、被験者の歯顎(歯形)を連続的に撮影することができる。
【0021】
被験者の顔面と、感光体配置部との間に介在されて、前記被験者の鼻部が過度に押し付けられることを阻止する介在部材を有するのが好ましい。
【0022】
この構成によると、被験者の顔面と、感光体配置部との間に介在されて、被験者の鼻部が過度に押し付けられることを阻止する介在部材を有するので、頭部支持部に対する被験者の頭部の載置が安定する。すなわち、介在部材が、被験者の顔面における突出した鼻部の周囲の部位に当接して支持するので、被験者の頭部の向きが変動しにくい。
【0023】
前記介在部材は、顔面の一部を支持する顔面当接部と、鼻部が挿入される開口又は凹部を有するのが好ましい。
【0024】
この構成によると、鼻部を介在部材の開口又は凹部に挿入して逃がすことができる。そのため、鼻部が過度に押し付けられることを防止することができる。そして、顔面当接部によって顔面の一部を支持するので、被験者の頭部の支持が安定する。
【0025】
前記印が周方向の複数箇所に設けられているのが好ましい。
【0026】
この構成によると、周方向の複数箇所の印を参照して、周方向の複数箇所にそれぞれX線照射装置を適切に設置することができる。すなわち、周方向の固定された複数箇所から被験者の頭部をX線撮影することができる。これにより、X線撮影者の技量に左右されることなく、パノラマ風の良好なX線撮影を実施することができる。
【0027】
下部側の部位で被験者の顔面が保持され、上部側の部位で被験者の後頭部が覆われるのが好ましい。
【0028】
この構成によると、下部側の部位で被験者の顔面が保持され、被験者の顔面が頭部支持部に載置される。すなわち、被験者の顔面が感光体配置部に配置された感光体と近接する。そして、上部側の部位で被験者の後頭部が覆われ、この上部側の部位にX線照射装置を設置し、被験者の歯顎(歯形)をX線撮影し、感光体に良好に写し込むことができる。
【0029】
被験者の頭部の高さを変更することが可能であるのが好ましい。すなわち、被験者の頭部の高さを変更することによってX線照射装置が設置される部位から被験者の頭部の位置までの距離を調整できるのが好ましい。
【0030】
この構成によると、被験者の頭部の大きさに応じて被験者の頭部の高さ位置を変更することができる。よって、X線撮影を良好に実施することができる。具体的には、子供と大人とでは、頭部の大きさが相違する。ところが、この構成によると、X線照射装置から照射されたX線の軸線上に被験者の頭部を適切に配置することができる。その結果、被験者の歯顎(歯形)のX線撮影を良好に実施することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の遺体撮影治具によると、被験者(遺体)が死亡した場所で、被験者の口内のX線撮影を良好に実施することができる。また、撮影者又は撮影補助者は、被験者の口内に指を入れて感光体を支持する必要がなく、X線被爆する懸念がない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態に係る遺体撮影治具の斜視図である。
【
図3】
図2とは異なる角度位置から視た遺体撮影治具の分解斜視図である。
【
図4】
図1の遺体撮影治具の正面図であり、(a)は、頭部支持部材と外郭部材が一体化された状態を示しており、(b)は、頭部支持部材と外郭部材が分離した状態を示す。
【
図5】遺体撮影治具の頭部支持部材と、感光体と、介在部材を分離して示す斜視図である。
【
図6】頭部支持部材上に感光体と介在部材を設置した状態を示す斜視図であり、説明の都合上、意図的に感光体と介在部材の位置をずらした状態を示す。
【
図7】頭部支持部に遺体の頭部を配置した状態を示す平面図である。
【
図8】
図7において、頭部支持部に外郭部材を一体化させて、遺体撮影治具を構成した状態を示す平面図である。
【
図9】
図1の遺体撮影治具の一つの印の位置に、X線照射装置を配置した状態を示す斜視図である。
【
図10】遺体撮影治具に比較的大きい頭部を配置した状態を示す正面図である。
【
図11】遺体撮影治具に比較的小さい頭部を配置した状態を示す正面図である。
【
図12】本実施形態に係る遺体撮影治具を使用してX線撮影された被験者の歯形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら説明する。
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る遺体撮影治具1は、頭部支持部材2(頭部支持部)と外郭部材3(外郭体)を備えている。
【0034】
頭部支持部材2は、遺体撮影治具1の下部側の部位を構成する部材である。
頭部支持部材2は、起立辺部13a、13b、複数の連結部材24、感光体配置部材4(感光体配置部)を有する。
【0035】
起立辺部13aは、金属等の剛性を有する素材で構成された厚みのある板状の部材である。起立辺部13aには上下の向きがあり、
図2に示すように、下部側には直線状を呈する直線部14aが設けられており、上部側には略半円弧状に凹んだ円弧部15aが設けられている。
【0036】
直線部14aの両側には起立辺部16a、17aが連続している。すなわち、起立辺部16a、17aの下端が直線部14aと連続している。また、起立辺部16a、17aの上端には、載置部18a、19aが連続している。載置部18a、19aは、直線部14aと平行であり、起立辺部16a、17aの上端から互いに接近する方向に延びている。
載置部18a、19aには、頭部支持部材側係合部9a、9cが設けられている。頭部支持部材側係合部9a、9cは、載置部18a、19aから突出する突起である。
【0037】
載置部18a、19aにおける起立辺部16a、17aとは反対側の端部には、縦壁部20a、21aが設けられている。縦壁部20a、21aは、下端が載置部18a、19aと連続し、縦壁部20a、21aの上端は、上端部22a、23aを介して円弧部15aと連続している。
【0038】
起立辺部13bは、起立辺部13aと同様の大きさ及び形状を有しており、各部を示す符号は、起立辺部13aにおける数字プラスアルファベットのアルファベット部分「a」を「b」に変更して示している。例えば、起立辺部13aの直線部14aに対応する起立辺部13bの直線部の符号は「14b」である。ただし、起立辺部13aの頭部支持部材側係合部9a、9cに対応する起立辺部13bの頭部支持部材側係合部の符号は「9b」と「9d」としている。
【0039】
起立辺部13a、13bは、向きが揃った状態で互いに所定の距離を隔てて平行に対向配置されており、複数の部位が連結部材24で連結固定されている。
【0040】
また、起立辺部13a、13bの間には、感光体配置部材4が設けられている。感光体配置部材4は、円弧部15a、15bに沿うように円弧形状に湾曲した部材である。感光体配置部材4は、X線を遮蔽し剛性を有する金属で構成されており、起立辺部13a、13bに溶接等の固定手段によって堅固に固定されている。感光体配置部材4の上面は、円弧状面4aを構成している。円弧状面4aには、湾曲可能なシート状の部材を配置可能である。すなわち円弧状面4aには、
図5に示す感光体6と介在部材12を配置することができる。
【0041】
感光体6は、可視光線を遮断し、X線を透過する袋内に収納されており、全体として薄い板形状を呈し、弾性を有していて湾曲することができる。そのため、感光体6は、
図6に示すように、感光体配置部材4の円弧状面4a上に沿って配置することができる。
【0042】
また、介在部材12は、
図6に示すように、感光体6の上に配置(載置)される。
介在部材12は、肉厚を有する板形状を呈する部材である。また、介在部材12は、湾曲が可能であると共に、若干の押圧変形が可能な素材で構成されている。
図5に示すように、介在部材12には、顔面当接部12aが設けられている。顔面当接部12aは、被験者H(
図7)の顔面fが当接する平面の部位である。また、顔面当接部12aには開口12bが設けられている。開口12bには、被験者Hの鼻部(図示せず)を配置することを想定している。すなわち、開口12bに被験者Hの鼻部を配置することにより、顔面当接部12aに被験者(遺体)Hの顔面fを載置する際に、鼻部が過度に顔面当接部12aに押圧されないように鼻部を逃がすことができる。顔面当接部12aには、開口12bの代わりに凹部を設けてもよい。
【0043】
図6では、頭部支持部材2の感光体配置部材4と、感光体6と、介在部材12の位置関係を示すために、敢えて感光体6と介在部材12を頭部支持部材2に対して若干ずらして配置した状態を示している。すなわち、
図6では、感光体6と介在部材12の一部が、感光体配置部材4から逸脱し、感光体配置部材4の一部が露出している状態を示している。実際には、感光体6及び介在部材12は、感光体配置部材4の円弧状面4aの円周方向の長さと同等の長さを有し、円弧状面4aの範囲内に配置されている。
【0044】
頭部支持部材2は、以上説明したような構造を有している。頭部支持部材2は、重心が低く、起立辺部13a、13bの下部(直線部14a、14b)が床面(地面)に接地した状態で非常に安定している。すなわち、頭部支持部材2は、転覆しにくい構造を呈している。
【0045】
次に、外郭部材3(外郭体)について説明する。
外郭部材3は、円弧部材25a、25bと、連結部材26と、遮蔽部材27a~27g(X線遮蔽材)を有している。
【0046】
円弧部材25a、25bは、剛性を有する金属で構成された外形が半円形で横断面が四角形の部材である。
図3に示すように、円弧部材25aの両端には、外郭部材側係合部10a、10cが設けられている。外郭部材側係合部10a、10cは、円弧部材25aの両端面に設けられた穴である。同様に、円弧部材25bの両端には、穴である外郭部材側係合部10b、10dが設けられている。
【0047】
円弧部材25a、25bは、所定の間隔を置いて対向配置されており、剛性を有する複数の連結部材26で強固に連結固定されている。円弧部材25a、25bの互いの対向面には、複数の遮蔽部材27a~27gが設置されている。各遮蔽部材27a~27gは、同じ大きさのX線を遮断する平板状の部材である。各遮蔽部材27a~27gは、円弧部材25a、25bに沿う円弧状であってもよい。
【0048】
各遮蔽部材27a~27gは、円弧部材25a、25bの円周方向に配置されている。すなわち、
図10において一点鎖線で示す各遮蔽部材27a~27gの法線30a~30gは、円弧部材25b(25a)の中心方向を向くように、互いに所定角度ずつ向きを変えながら配置されている。各遮蔽部材27a~27gによって、外郭部材3の円周方向の部位は、ほぼ塞がっている。
【0049】
本実施形態では、7枚の遮蔽部材27a~27gが円弧部材25a、25bの間に掛け渡されているが、このうちの5枚の遮蔽部材27b、27c、27d、27e、27fに開口部8(X線透過部)が設けられている。開口部8は、遮蔽部材27b、27c、27d、27e、27fを貫通する長方形の孔である。両端の遮蔽部材27a、27gには、開口部8が設けられていない。よって、開口部8(X線透過部)が設けられた遮蔽部材27b、27c、27d、27e、27fと、開口部8(X線透過部)が設けられていない遮蔽部材27a、27gが、外郭部材3の周方向の複数箇所に設けられている。
【0050】
また、
図1、
図2に示すように、開口部8の周囲には、指標5(印)が付されている。指標5は、開口部8を囲むように設けられている。指標5は、円形の線が描かれたものであるが、代わりに、周囲に比べて若干凹んだ円形の凹みであってもよい。本実施形態では、指標5の直径が開口部8の長さと略一致しており、円形の指標5の中央部分に開口部8がある。指標5の直径は、X線照射装置7(
図9)のX線が照射(発射)される筒状のX線照射部7a(
図9)の直径よりも若干大きい。
【0051】
外郭部材3(外郭体)は、以上説明したような構造を有しており、全体として剛性があり、強固な構造となっている。外郭部材側係合部10a~10d(
図3)は、外郭部材3の下部の四隅の位置に配されており、ちょうど頭部支持部材側係合部9a~9d(
図3)に対応した配置となっている。
【0052】
次に、遺体撮影治具1の頭部支持部材2と外郭部材3の組み立てについて説明する。
頭部支持部材2の載置部18a、18b、19a、19bに、外郭部材3の円弧部材25a、25bの両端部が載置され、外郭部材側係合部10a~10d(係合穴)と、頭部支持部材側係合部9a~9d(係合突起)が係合(凹凸嵌合)する。すなわち、外郭部材側係合部10a~10dと頭部支持部材側係合部9a~9dが係合することによって、頭部支持部材2と外郭部材3が一体化する。外郭部材3は、頭部支持部材2に対して着脱自在である。
【0053】
また、このとき、外郭部材3(外郭体)の円弧部材25a、25bの内側(内周側)に、
図3、
図4(a)、
図4(b)に示す頭部支持部材2の上端部22a、22b、23a、23bが配置される。そして、円弧部材25a、25bの両端付近の内周面29a、29b(
図3、
図4)が、頭部支持部材2の縦壁部20a、20b、21a、21bに近接対向する、又は当接する。
【0054】
頭部支持部材2に対して外郭部材3が、各円弧部材25a、25bの直径方向(水平方向)への移動が制限される。すなわち、
図4(a)に示すように、頭部支持部材2側の上端部22a、22b、23a、23bと、外郭部材3側の円弧部材25a、25bの内周面29a、29bが係合、又は近接対向しているため、頭部支持部材2に対して外郭部材3が水平方向に移動しようとしても、外郭部材側係合部10a~10dと頭部支持部材側係合部9a~9dの凹凸嵌合部分に負荷を集中させることなく、頭部支持部材2に対する外郭部材3の移動を阻止することができる。また、外郭部材側係合部10a~10dと頭部支持部材側係合部9a~9dの凹凸嵌合によって、起立辺部13a、13bが並ぶ方向への頭部支持部材2と外郭部材3の相対移動が阻止される。すなわち、頭部支持部材2と外郭部材3は、水平方向のいずれの方向への相対移動も阻止されている。
【0055】
次に、遺体撮影治具1の使用方法について説明する。
図5、
図6に示すように、頭部支持部材2(頭部支持部)の感光体配置部材4(円弧状面4a)上にシート状の感光体6(X線フィルム)と、介在部材12を配置する。
【0056】
頭部支持部材2に感光体6と介在部材12を配置した状態で、
図7に示すように、被験者(遺体)Hの頭部hを頭部支持部材2上に載置する。すなわち、介在部材12及び感光体6を介して、遺体撮影治具1の下部側に配された頭部支持部材2の感光体配置部材4(円弧状面4a)に、被験者Hの頭部hを載置する。このとき、被験者Hの鼻部(図示せず)は、介在部材12の開口12b(
図5)内に配置されている。
【0057】
また、介在部材12の顔面当接部12aに被験者Hの顔面fが載置されているが、被験者Hの頭部hが動かないように、図示しない介在物(例えば、タオル等の布材が好ましい。)を介在させるのが好ましい。
【0058】
頭部支持部材2に被験者Hの頭部hを載置した後、
図8に示すように、外郭部材3(外郭体)を頭部支持部材2に装着する。すなわち、
図3に示す頭部支持部材2の四隅の位置に設けた載置部18a、18b、19a、19b上に外郭部材3の円弧部材25a、25bの両端部を載置すると共に、載置部18a、18b、19a、19bに設けた頭部支持部材側係合部9a~9d(突起)に、円弧部材25a、25bに設けた外郭部材側係合部10a~10d(穴)を係合させる。
【0059】
このとき、
図4(a)に示すように、頭部支持部材2と外郭部材3が環状形状を構成し、下部側の頭部支持部材2上に外郭部材3が配置される。すなわち、外郭部材3の遮蔽部材27a~27gが、頭部h(後頭部)の周囲を覆うように配置される。外郭部材3は、頭部支持部材2と対向する側(上部側)に配置される。
【0060】
このように組み立てられた遺体撮影治具1に、
図9に示すようにX線照射装置7を配置する。すなわち、X線照射装置7におけるX線を照射するX線照射部7aを、各遮蔽部材27b~27gの指標5に合わせて配置する。
図9では、X線照射装置7(X線照射部7a)を遮蔽部材27dの指標5に合わせた状態を示している。指標5は、X線照射部7aの外径よりも若干大きく描かれた円である。よって、X線照射部7aは、指標5内に配置可能であり、X線照射部7aの周囲に沿って指標5が見えている。そのため、外部からX線照射部7aが指標5内に配置されているか否かを目視確認することができる。
【0061】
図10に示す状態では、被験者Hの頭部hと、外郭部材3の各遮蔽部材27a~27gの位置が固定されている。また、
図10において一点鎖線で示す各遮蔽部材27b、27d、27fの法線30b、30d、30fは、頭部hの口内tの方向を向いている。
【0062】
ここで、先に頭部支持部材2に外郭部材3を装着して頭部挿入部11(
図9)を構成し、この頭部挿入部11に被験者Hの頭部hを挿入してもよい。すなわち、頭部挿入部11の内部に感光体配置部材4があり、各遮蔽部材27a~27gが頭部挿入部11の周囲(外周部)に配置されている。感光体配置部材4と、指標5(印)を有する各遮蔽部材27b~27fは、頭部挿入部11の周囲の異なる領域に配されている。
【0063】
X線照射装置7の電源として、持ち運びが可能な発電機(図示せず)を使用する。これにより、電源設備のない野外等でも、X線照射装置7を使用することができる。
【0064】
図10に示すように、遺体撮影治具1に被験者Hの頭部hを配置した状態で、被験者Hの口内tのX線撮影を実施する。すなわち、各遮蔽部材27b~27fに設けられた指標5(印)を参照して開口部8にX線照射装置7をセットする。このとき、X線照射装置7のX線の軸線が、被験者Hの口内tの方向を向く。すなわち、各遮蔽部材27b~27fの指標5を参照してX線照射装置7を配置する(具体的には、指標5にX線照射部7aを合わせる)だけで、X線照射装置7のX線の軸線が、各遮蔽部材27b~27fの法線30b~30fと一致する。
【0065】
ここで、「指標5を参照する」とは、指標5の位置にX線照射装置7(X線照射部7a)を一致させたり、指標5と隣接する位置にX線照射装置7(X線照射部7a)を配置する場合等の形態をとることを意味している。すなわち、指標5は、X線照射装置7を適切に配置するための基準となっている。
【0066】
そして、各遮蔽部材27b~27fに順にX線照射装置7を配置し、X線を照射する。照射されたX線は、被験者Hの口内t(歯列、歯顎)を透過し、感光体6を感光させ、歯形等の画像が感光体6にX線撮影される。本実施形態では、各遮蔽部材27b~27fのうち、遮蔽部材27b、27d、27fのみを使用してX線撮影を実施している。そして、その結果、感光体6には、
図12に示すようなX線画像が撮影される。
【0067】
図12に示すように、各遮蔽部材27b、27d、27f側から口内tにX線が照射されて、1枚の感光体6に画像31b、31d、31fが撮影されている。具体的には、
図10において、遮蔽部材27bの開口部8から照射されたX線によって、画像31b(
図12)が撮影され、遮蔽部材27dの開口部8から照射されたX線によって、画像31dが撮影され、遮蔽部材27fの開口部8から照射されたX線によって、画像31fが撮影されている。画像31bと画像31dの間、及び画像31dと画像31fの間には、X線で感光していない非感光領域32が形成されている。
【0068】
また、画像31bと画像31dは、若干重複している。すなわち、
図12に示すように、画像31bの領域33と、画像31dの領域34が重複している。同様に、画像31d、31fも一部が重複するようにX線撮影されている。すなわち、
図12に示すように、画像31dの領域35と、画像31fの領域36が重複している。これらの画像31b、31d、31fが、それぞれ重複してX線撮影されている。
【0069】
ここで、感光体6として、デジタルデータで画像を記録することができるイメージングプレートを使用すると、イメージングプレート(感光体6)に画像31b、31d、31fがデジタルデータ(画像データ)として記録される。この画像データは、パーソナルコンピュータ(図示せず)による画像処理によって、容易に一続きの疑似パノラマ画像を作成することができる。すなわち、被験者Hの口内tのパノラマ画像を模した疑似パノラマ画像を容易に作成することができる。
【0070】
具体的には、画像処理ソフトウェアによって、
図12の画像31bの領域33と、画像31dの領域34が重なるように画像処理(画像の加工)を行う。同様に、画像31dの領域35と、画像31fの領域36が重なるように画像処理を行う。その結果、画像31b、31dの継目と、画像31d、31fの継目は、若干段差があって不連続な状態にはなるが、歯列自体には切れ目がない画像が得られる。
【0071】
また、感光体6として感光体フィルムを使用することもできるが、野外において、速やかに疑似パノラマ画像を作成するためには、イメージングプレートを使用するのが好ましい。
【0072】
感光体6としてイメージングプレートを使用し、パーソナルコンピュータとしてバッテリを搭載したノート型のパーソナルコンピュータを使用し、X線照射装置7の電源として発電機を使用すると、被験者Hの口内tのX線撮影と、口内tの疑似パノラマ画像が、被験者(遺体)Hが死亡した現場で完結することができる。すなわち、被験者(遺体)Hを別の場所へ移動させずに済む。
【0073】
本実施形態では、外郭部材3の周方向の3つの位置からX線を照射する場合について説明したが、口内tを網羅できるのであれば、X線の照射位置の数はいくつであってもよい。すなわち、いくつの遮蔽部材27b~27fの開口部8を使用してX線撮影してもよい。例えば周方向の5つの位置(遮蔽部材27b~27f等)からX線を照射してもよい。周方向の照射位置の数が少ないほど、非感光領域32の数が減る。そのため、疑似パノラマ画像を作成するのに、各画像同士を合成する手間が少なくなる。逆に、周方向の照射位置の数が多いほど、非感光領域32の数が増えるが、口内tのより詳細な実情に近いX線画像を撮影することができる。
【0074】
ここで、X線照射装置7を配置しない遮蔽部材27a、27gには、開口部8が設けられていない。そのため、遮蔽部材27a、27g側からX線が漏洩する懸念がない。また、X線照射装置7が配置されていない遮蔽部材の開口部8には、当該開口部8を閉じる遮蔽材(図示せず)を設置し、この遮蔽材によってX線が漏洩するのを阻止するのが好ましい。
【0075】
さらに、円弧部材25a、25bに対して、各遮蔽部材27b~27fを着脱可能にすると、開口部8が設けられた遮蔽部材と、開口部8が設けられていない遮蔽部材とを取り替えることができる。例えば、
図10に示す例では、遮蔽部材27c、27eの位置からのX線撮影は実施されていない。そのため、開口部8を有する遮蔽部材27c、27eの代わりに、開口部8が設けられていない遮蔽部材27aと同様の構造の遮蔽部材を外郭部材3に装着するのが好ましい。
【0076】
本実施形態の遺体撮影治具1を使用することにより、被験者Hの口内tに感光体を配置せずに済む。そのため、撮影者又は撮影補助者が、被験者Hの口内tに指を差し入れて、感光体を保持する必要がなく、衛生的である上に、被験者(遺体)Hを傷付ける懸念がない。また、撮影者又は撮影補助者の指がX線被爆する懸念がなく、さらに、撮影者又は撮影補助者が気持ち悪い思いをせずに済む。
【0077】
次に、
図11を参照しながら、頭部h1が小さい被験者をX線撮影する場合ついて説明する。
図11は、子供等の被験者H1の比較的小さい頭部h1をX線撮影する場合の遺体撮影治具41の正面図である。
【0078】
遺体撮影治具41では、介在部材42が使用されている。介在部材42は、
図5、
図6に示す遺体撮影治具1の介在部材12と同じ素材で構成されているが、厚みが大きい。具体的には、介在部材42の厚みは、介在部材12の厚みの3~7倍の大きさである。厚みが大きい介在部材42を使用しているため、厚みが小さい介在部材12を使用した場合よりも、被験者H1の頭部h1の高さ位置が高くなる。
【0079】
そのため、
図11に示すように、法線30c~30eが、被験者H1の口内t1を適切に通過する。すなわち、X線照射装置7から照射されたX線が、口内t1を適切に通過し、感光体6に良好なX線画像が撮影される。
【0080】
介在部材12、42の具体的な厚み寸法については、適宜設定可能であるが、比較的薄い介在部材12の厚みは、例えば0.5cm~2cm程度とすることができ、比較的厚い介在部材42の厚みは、例えば、3cm~5cm程度とすることができる。
【符号の説明】
【0081】
1、41 遺体撮影治具
2 頭部支持部
3 外郭部材(外郭部、外周部)
4 感光体配置部
4a 円弧状面
5a~5e 指標(印)
6 感光体
7 X線照射装置
8a~8e 孔(X線透過部)
9a~9d 頭部支持部側係合部
10a~10d 外郭部材側係合部
11 頭部挿入部
12、42 介在部材
12a 顔面当接部
12b 開口
27a~27g 遮蔽部材(X線遮蔽材)
H、H1 被験者(遺体)
f 被験者の顔面
h 被験者の頭部
t、t1 被験者の口内