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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086487
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】フッ素系溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/50 20060101AFI20220602BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C11D7/50
C09K3/30 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198522
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003DA12
4H003DB02
4H003DC02
4H003ED26
4H003FA04
4H003FA15
4H003FA46
(57)【要約】
【課題】 広範囲の用途に利用できる新規な組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 パーフルオロヘプテン、及びクロロトリフルオロプロペンを含有する組成物、これを含む洗浄剤、および、これを用いて物品を洗浄する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーフルオロヘプテン、及びクロロトリフルオロプロペンを含有する組成物。
【請求項2】
パーフルオロヘプテン、及びクロロトリフルオロプロペンからなる共沸組成物または共沸様組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
パーフルオロヘプテンが、1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-3-ヘプテン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-2-ヘプテン、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
クロロトリフルオロプロペンが、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペン、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
10.0~75.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び25.0~90.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
20.0~75.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び25.0~80.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
45.0~55.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び45.0~55.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
5.0~30.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び70.0~95.0質量%の1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
10.0~20.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び80.0~90.0質量%の1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、請求項1~4または8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物を含む洗浄剤。
【請求項11】
請求項10に記載の洗浄剤を用いて物品を洗浄する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロヘプテン(PFH)と、クロロトリフルオロプロペンを含有するフッ素系溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの産業において、これまで、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)およびハイドロフルオロカーボン(HFC)などのハロゲン化炭化水素を含むフッ素系溶剤が、エアゾール噴射剤、冷媒、溶媒、洗浄剤、熱可塑性および熱硬化性発泡体用の発泡剤、熱媒体、ガス状誘電体、消火剤および鎮火剤、動力サイクル作動流体、重合媒体、微粒子除去流体、キャリア流体、バフ研磨剤、および置換乾燥剤等をはじめとする広範囲の用途に使用されてきた。
【0003】
しかしながら、CFCやHCFCはオゾン層破壊物質として知られており、特にHCFC-225に代表されるHCFC類はその不燃性、ポリマー適合性、安定性等に優れ汎用されてきたが、HCFCはオゾン破壊係数を有し、且つ、地球温暖化係数も高いため2019年をもって全廃となった。
一方、HFCはオゾン層を破壊する危険はないものの、温室効果ガスとして地球温暖化に影響を及ぼすことから、より環境負荷の少ない、すなわち、オゾン破壊係数が0であり、地球温暖化係数が非常に低い代替品が求められている。
【0004】
そのような代替品として、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、及びパーフルオロオレフィン(PFO)が開発されており、PFOの中でも全ての水素がフッ素に置換されたパーフルオロヘプテン(ペルフルオロヘプテン、PFH)は、オゾン破壊係数がゼロであり地球温暖化係数も低いことから、各種の使用の提案がなされている(特許文献1、特許文献2)。また、HCFOとして、クロロトリフルオロプロペンが知られていて、洗浄剤、溶剤などに有用であるとされている(特許文献6)。しかしながら、洗浄用途においては、HCFOはポリマーを溶解する能力が高い(ポリマーアタック性(溶解性)が強い)ためポリマーを含有する製品には使用できず、HFO及びPFHは油溶解性が低いため洗浄効果を得ることが困難であった。
【0005】
また、使用中或いは回収時の蒸留中に分留されない、すなわち、沸騰・蒸発時に分留しない定沸点特性を有する共沸組成物が有用であることが知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5)が、特許文献1にも記載されているとおり、共沸組成物を形成するかどうかを理論的に予測することは不可能であり、種々の組み合わせについて、優れた特性を有する新規な共沸組成物の探索が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-110035号公報
【特許文献2】国際公開第2019/213193号
【特許文献3】特表平6-501949号公報
【特許文献4】特表2013-514444号公報
【特許文献5】特表2012-528922号公報
【特許文献6】国際公開第2018/092780号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決する、産業上、広範囲の用途に利用できる新規な共沸様組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、オゾン破壊係数が0であり、且つ、地球温暖化係数が低いパーフルオロヘプテン(PFH)と、油溶解性に優れたクロロトリフルオロプロペンとを含有する組成物が、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れた(ポリマーアタック性(溶解性)が抑制された)組成物であること、並びに単一化合物と同様の挙動を示す共沸様組成物を形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.パーフルオロヘプテン及びクロロトリフルオロプロペンを含有する組成物。
2.パーフルオロヘプテン、及びクロロトリフルオロプロペンからなる共沸または共沸様組成物。
3.パーフルオロヘプテンが、1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-3-ヘプテン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-2-ヘプテン、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である1.または2.に記載の組成物。
4.クロロトリフルオロプロペンが、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン、1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペン、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種である1.または2.に記載の組成物。
5.10.0~75.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び25.0~90.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる、1.~4.のいずれかに記載の組成物。
6.20.0~75.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び25.0~80.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる1.~5.のいずれかに記載の組成物。
7.45.0~55.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び45.0~55.0質量%の1-クロロ-2 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる1.~6.のいずれかに記載の組成物。
8.5.0~30.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び70.0~95.0質量%の1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる1.~4.のいずれかに記載の組成物。
9.10.0~20.0質量%のパーフルオロヘプテン、及び80.0~90.0質量%の1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペンからなる1.~4.または8.のいずれかに記載の組成物。
10.1.~9.のいずれかに記載の組成物を含む洗浄剤。
11.10.に記載の洗浄剤を用いて物品を洗浄する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オゾン破壊係数が0であり、地球温暖化係数の非常に低い、組成物を提供することができる。
本発明の組成物は、パーフルオロヘプテン(PFH)と、油溶解性に優れたクロロトリフルオロプロペンとを含有する組成物であって、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れた(ポリマーアタック性(溶解性)が抑制された)組成物である。本発明はまた、単一化合物と同様の挙動を示す共沸様組成物であって、引火性でないという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の気液平衡曲線を示す。
図2】実施例2の気液平衡曲線を示す。
図3】実施例3(右)、及び比較例2(左)の樹脂適合性試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の組成物は、パーフルオロヘプテン(PFH)およびクロロトリフルオロプロペンから本質的になり、両成分併せて組成物中の50%以上、望ましくは55%以上、さらに望ましくは60%以上を占めることが好ましい。
【0013】
本発明において、PFHは、その構造異性体・立体異性体に特に制限はなく、単一の異性体でも、それら異性体の混合物であってもよい。好ましくは、1,1,1,2,2,3,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-3-ヘプテン(パーフルオロ-3-ヘプテン)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-テトラデカフルオロ-2-ヘプテン(パーフルオロ-2-ヘプテン)、及びそれらの異性体から選択される少なくとも1種が挙げられる。より好ましくは、シス-パーフルオロ-3-ヘプテン、トランス-パーフルオロ-3-ヘプテン、或いはそれらを含む混合物である。特にトランス-パーフルオロ-3-ヘプテン、或いはそれを含む混合物が好ましい。
【0014】
クロロトリフルオロプロペン(HCFO-1233)には各種の異性体が存在するが、本発明に用いられるHCFO-1233は、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)、1-クロロ-3 ,3 ,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233zd)、或いはそれらの混合物であることが好ましい。HCFO-1233ydは、シス-HCFO-1233ydまたはシス-HCFO-1233ydを含む混合物であることが好ましい。
【0015】
当該技術分野で認められているように、共沸組成物は、2つ以上の異なる成分の混合物であり、それは、所与の圧力下で液体形態にあるとき、実質的に一定温度で沸騰し、その温度は、個々の成分の沸騰温度より高いかまたは低く、かつ、それは沸騰中の全体液体組成と本質的に同一である蒸気組成を提供する(例えば、M.F.Doherty and
M.F.Malone、Conceptual Design of Distillation Systems、McGraw-Hill(NewYork)、2001年、185~186、351~359頁を参照)。
【0016】
この時、液の組成を共沸混合液の組成に近い範囲で、種々変化させて定圧の気液平衡関係を測定してみると、共沸組成物の沸点が極大又は極小となることが知られている。
【0017】
従って、共沸組成物の本質的な特徴は、所与の圧力で、液体組成物の沸点が固定されていること、かつ、沸騰中の組成物の上方の蒸気の組成が本質的に、沸騰中の全体液体組成物の組成である(すなわち、液体組成物の成分の分留が全く起こらない)ことである。共沸組成物が異なる圧力で沸騰にかけられるとき、共沸組成物の各成分の沸点および質量百分率の両方が変わる場合があることもまた当該技術分野で認められている。従って、共沸組成物は、成分間に存在する特有の関係の観点からまたは成分の組成範囲の観点から、または指定圧力での固定沸点によって特徴付けられる組成物の各成分の正確な質量百分率の観点から定義されてもよい。
【0018】
本発明の組成物は、共沸組成物のように挙動する(すなわち、定沸点特性または沸騰もしくは蒸発時に分留しない傾向を有する)組成物を意味する。それ故に、沸騰もしくは蒸発中に、気液組成は、それらが仮に変化する場合でも、最小限の程度または無視できる程度しか変化しない。これは、沸騰もしくは蒸発中に、気液組成がかなりの程度変化する非共沸様組成物とは対照的である。
【0019】
また、本発明の組成物は、実質的に温度差なしの液相線および気相線を示す。すなわち、所与の圧力下での液相温度と気相温度との差は小さな値であろう。本発明では、(最低共沸点を基準として)2℃以下の液相温度との差の組成物は共沸様組成物であると考える。
【0020】
さらに、あるシステムの相対揮発度が1.0に近づくときに、そのシステムが共沸組成物または共沸様組成物を形成すると定義されることはこの分野で周知のことである。相対揮発度は、成分1の揮発度対成分2の揮発度の比である。蒸気中のある成分のモル分率対液体中のそれの比がその成分の揮発度である。
【0021】
本発明のPFHおよびクロロトリフルオロプロペンを含む共沸様組成物は、大気圧下での沸点が、30~100℃、好ましくは40~80℃の範囲にあることが望ましい。
【0022】
本発明において、クロロトリフルオロプロペンが1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)である場合、本発明の組成物は、大気圧下での沸点が49~51℃であることが好ましく、49~50℃で有ることがより好ましい。
その配合量は、PFH:HCFO-1233yd=10~75質量%:90~25質量%であることが好ましく、より好ましくは、20~75質量%:80~25質量%であり、更に好ましくは、45~55質量%:55~45質量%である。 PFHが10質量%未満の場合には(すなわち、HCFOがPFHに対して多量すぎると)、ポリマーアタック性(溶解性)の増加が生じることがあり、逆に、PFH75質量%を超える場合には(すなわち、HCFOがPFHに対して少量すぎると)、油除去率の低下が生じることがある。
【0023】
本発明において、クロロトリフルオロプロペンが1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)である場合、本発明の組成物は、大気圧下での沸点が36~41℃であることが好ましく、38.5~40.5℃で有ることがより好ましい。
その配合量は、PFH:HCFO-1233zd=5~30質量%:95~70質量%であることが好ましく、より好ましくは、10~20質量%:90~80質量%である。PFHが5質量%未満の場合には(すなわち、HCFOがPFHに対して多量すぎると)、ポリマーアタック性(溶解性)の増加が生じることがあり、逆に、PFHが30質量%を超える場合には(すなわち、HCFOがPFHに対して少量すぎると)、油除去率の低下が生じることがある。
【0024】
本発明の組成物は更に、アルコールを含むことが好ましい。アルコールとしては、炭素数1~3のアルコールから選択される少なくとも1種が好ましく、エタノールがより好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、必要に応じて安定化剤として、ニトロアルカン類、エポキシド類、フラン類、ベンゾトリアゾール類、フェノール類、アミン類またはホスフェイト類を1種またはそれ以上含んでもよく、その配合量は、組成物に対して0.01~5質量%、好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0026】
本発明の組成物はまた、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて、(炭素数1~3のアルコール以外の)アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類、アミン類、グリコールエーテル類、シロキサン類などの他の成分を含んでもよい。
【0027】
本発明の組成物は、オゾン層破壊係数(ODP)が0であり、地球温暖化係数(GWP
)が約100以下、好ましくは50以下、より好ましくは10以下である。ここで、本発明におけるODPおよびGWPは、世界気象機関の報告書である「Scientific
Assessment of Ozone Depletion,2002」に定義されるものである。
【0028】
本発明の組成物は、従来からハロゲン化炭化水素が使用されてきた、エアゾール噴射剤、冷媒、溶媒、洗浄剤、微粒子除去流体、熱可塑性および熱硬化性発泡体用の発泡剤(発泡体膨張剤)、熱媒、ガス状誘電体、消火剤および鎮火剤、動力サイクル作動流体、重合媒体、キャリア流体、バフ研磨剤、および置換乾燥剤等の広範囲の用途に使用することができる。
【0029】
尚、本発明を洗浄剤として用いる場合、本発明の組成物により洗浄される対象は、特に限定されるものではないが、電子・電機・機械部品等、或いは、自動車の小型部品等、連続的に生産、洗浄されるべきもの等に好適に用いることが出来る。
中でも、本発明の組成物は、有機成分(油分)や無機成分の汚れを表面に有する固体表面、例えば、半導体表面、電子基板表面、電子回路、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、MEMS(Micro
Electro Mechanical Systems)、ハードディスク表面、その他微細構造を有する表面を洗浄するための洗浄剤として好適に使用することができる。
【0030】
特に、本発明の組成物は、安全性が高く地球環境に優しく、且つ、ポリマー適合性に優れる(ポリマーアタック性(溶解性)が抑制される)と共に、油分溶解性が高く洗浄性にも優れ、単一化合物と同様な挙動を示す共沸様組成物を形成することから、樹脂製品の洗浄に適している。
【0031】
また、本発明の組成物は、冷却を行うための冷媒として好適に使用することができる。特に共沸を示すことから、本発明の組成物を凝縮させる工程と、冷却する物体の近くで蒸発させる工程を含む冷却方法(沸騰冷却)に用いる冷媒としても好適である。
【0032】
さらに、本発明の組成物は、熱可塑性または熱硬化性発泡体を製造するための発泡剤(発泡体膨張剤)として好適に使用することができる。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例0033】
PFHおよびクロロトリフルオロプロペンよりなる混合物の沸点、表面張力、密度、粘度、引火点の測定及び算出、並びに油溶解度試験及び樹脂適合性試験を、それぞれ以下の方法で行った。
【0034】
[沸点(平衡還流沸点)]
冷却水温度を5℃とし、またホットプレートとフラスコの間に何もしかずに直に加熱した以外は、JIS K 2233に準じて沸点(平衡還流沸点)を測定した。
【0035】
・密度:アマガーの法則
m=Σxjj
V:密度
x:モル分率
なお、PFHの密度値は1.63g/ml(NIST REFPROP Ver.10を用いて算出。25℃設定)、HCFO-1233ydの密度は1.39g/ml(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの密度は
1.31g/ml、(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0036】
組成物の粘度を以下の計算式により算出した。
・粘度:McAllisterの方法
lnηm=Σxif(ηi
η:粘度
x:モル分率
f(η):粘度の対数
なお、PFHの粘度は0.77mPa・s(NIST REFPROP Ver.10を用いて算出、25℃設定)、HCFO-1233ydの粘度は0.57mPa・s(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの粘度は0.41mPa・s、(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力
次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0037】
[表面張力]
組成物の表面張力を以下の計算式により算出した。

・表面張力:Macleod-Sugdenの相関式
σ1/4=[P](ρL-ρV)/MW
σ;表面張力
P:パラコール係数
ρL:液比重
ρv:蒸気比重,
MW:分子量

なお、PFHの表面張力値は13.8mN/m(NIST REFPROP Ver.10を用いて算出。25℃設定)、HCFO-1233ydの表面張力は21.7mN/m(AGC Research Report 69(2019)環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA(登録商標)AS-300の開発より引用)、及びHCFO-1233zdの表面張力は18.6mN/m(セントラル硝子社、1233Z 優れた環境性能、高い洗浄力 次世代フッ素系溶剤 2015年10月より引用)を用いた。
【0038】
[引火点]
引火点の測定は、JIS K 2265-1980に準じたタグ密閉式およびクリーブランド開放式引火点試験により測定した。
【0039】
[油溶解率]
50mlのガラス製スクリュー瓶に、表1に示す実施例1~7のいずれかの組成物20gに対し、表2または表3の「油混合量」に示す量の油(組成物20gに対する質量%で表示)を入れ、室温にて手で30秒間振盪後静置した後、溶液の外観を目視にて観察した。
○: 均一溶液(白濁や二層分離無し)
×: 白濁または二層分離有り
【0040】
[油除去率]
洗浄性能を示す指標として油除去率を用いる。油除去率は、次式により算出する。
【数1】
【0041】
[洗浄条件]
洗浄剤として、表1に示す組成物を使用する。
装置として、卓上型超音波洗浄機(3周波超音波洗浄機VS-100III型)を用い、超音波周波数28kHz、出力100W、洗浄時間3分、室温で洗浄する。
【0042】
[樹脂適合性試験(ABS樹脂)]
ABS樹脂からなるテストピース(2×20×100mm)を、表2に記載の組成物中に室温にて3分間浸漬し、表面変化の有無を目視にて観察した。
〇:変化なし
×:軟化
【0043】
実施例及び比較例で用いたPFHおよびクロロトリフルオロプロペンは、以下の通りである。
・PFH
93質量%のパーフルオロ-3-ヘプテン、及び
7質量%パーフルオロ-2-ヘプテン、
からなる混合物
・クロロトリフルオロプロペン
HCFO-1233yd
(AGC社製 AMOLEA(登録商標)AS-300)
HCFO-1233zd
(セントラル硝子社製、セレフィン(登録商標)1233Z)
また、実施例及び比較例で用いた油類、樹脂類は、以下の通りである。
・油類
ポリアルキレングリコール(PAG)
(日本サン石油株式会社製、スナイス(登録商標)P 56)
ポリビニルエーテル系合成基油(PVE)
(出光興産株式会社製、ダフニー(登録商標)ハーメチックオイルFV68S)
ナフテン系鉱物油
(日本サン石油株式会社製、Suniso(登録商標)4GS
Refrigeration Oil)
ポリエチレングリコール
(三洋化成工業株式会社製、PEG-200)
流動パラフィン
(三光化学工業株式会社製、流動パラフィン LP No.70-S)
・樹脂類
ABS樹脂 (テクノUMF株式会社製、サイコテックT1101)
【0044】
[実施例1~7、比較例1~3]
表1に示す本発明の各組成物、並びにPFH、HCFO-1233yd、及びHCFO-1233zdの沸点、表面張力、密度、粘度、引火点を表1に示す。実施例1~3の油溶解度を表2に、実施例4~7の油溶解度を表3に示す。
加えて、実施例3及び4、並びに比較例1~3の油除去率を表4に示す。更に、ABSの樹脂適合性試験結果を表5に示し、実施例3及び比較例2のABS樹脂の樹脂適合性試験結果の写真を図3に示す。
また、実施例3及び実施例4の気液平衡曲線を図1及び図2に示す。
図1においては、PFH/HCFO-1233ydの質量比が50/50の付近で極小沸点を、図2においては、PFH/HCFO-1233zdの質量比が16/84質量%付近で極小沸点を示すことから、PFHとクロロトリフルオロプロペンが共沸様を示すことが確認された。
また、図3において、比較例2のものでは、ABS樹脂が組成物中に溶け出したことによって、組成物の白濁が観察されたが、実施例3のものでは、そのような白濁は観察されなかった。
表1~表5、図3が示すように、実施例の組成物は、優れた油除去率、高い洗浄力を示しつつ、また、ポリマーアタック性(溶解性)が非常に低いものである。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
図1
図2
図3