(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086517
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】蓄熱マイクロカプセル、蓄熱マイクロカプセル分散体、及び蓄熱マイクロカプセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20220602BHJP
B01J 13/18 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C09K5/06 J
B01J13/18
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198576
(22)【出願日】2020-11-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】金台 修一
(72)【発明者】
【氏名】木島 健二
(72)【発明者】
【氏名】徳田 裕
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 明
【テーマコード(参考)】
4G005
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005AB14
4G005AB15
4G005BA03
4G005BB03
4G005BB06
4G005DB01X
4G005DB02X
4G005DC29Y
4G005DC29Z
4G005DC34Y
4G005DC34Z
4G005DD04Z
4G005DD08Z
4G005DD12Z
4G005DE02X
4G005EA06
(57)【要約】
【課題】内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくく、かつ、外圧によって破壊されにくい蓄熱マイクロカプセルを提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱材と、前記潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含み、前記シェル層は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーに由来する構造単位と、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体から形成されており、前記共重合体中の前記多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセルを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱蓄熱材と、
前記潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含み、
前記シェル層は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーに由来する構造単位と、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体から形成されており、
前記共重合体中の前記多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセル。
【請求項2】
前記共重合体中の前記親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、2~58質量%である、請求項1に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項3】
前記多官能モノマー及び前記親水性基含有単官能モノマー以外のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の含有割合が、前記共重合体の全質量を基準として、0~45質量%である、請求項1又は2に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項4】
前記蓄熱マイクロカプセル中の前記潜熱蓄熱材及び前記共重合体の合計の質量に占める、前記潜熱蓄熱材の質量の割合は、50~95質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項5】
前記多官能モノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する多官能モノマーを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項6】
前記親水性基含有単官能モノマーは、酸基を有する酸基含有単官能モノマー、水酸基を有する水酸基含有単官能モノマー、及びアミド基を有するアミド基含有単官能モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項7】
前記多官能モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項8】
前記親水性基含有単官能モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項9】
前記潜熱蓄熱材は、脂肪酸エステル及び脂肪族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項10】
水性分散媒と、
前記水性分散媒に分散している、請求項1~9のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセルと、
を含有する蓄熱マイクロカプセル分散体。
【請求項11】
水及び界面活性剤を含有する水相組成物と、潜熱蓄熱材、単量体成分、及び油溶性重合開始剤を含有する油相組成物とを混合して乳化液を得ること;並びに
前記乳化液における前記油相組成物による油滴中で前記単量体成分を懸濁重合により重合させて、前記潜熱蓄熱材を内包するシェル層を得ること;を含み、
前記単量体成分は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーと、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーとを含有し、
前記単量体成分中の前記多官能モノマーの含有量は、前記単量体成分の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【請求項12】
前記乳化液を得る前に、加熱溶解した前記潜熱蓄熱材に、前記単量体成分、及び前記油溶性重合開始剤を加えて混合し、前記油相組成物を調製すること;をさらに含む請求項11に記載の蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱マイクロカプセル、蓄熱マイクロカプセル分散体、及び蓄熱マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーの有効な利用方法として、蓄熱材が用いられている。物質や空間等を冷却したり加温したりするときに使用される蓄熱材としては、物質の熱容量や比熱(顕熱)を利用する材料、物質の相変化に伴い発生する熱量(潜熱)を利用する材料、及び物質の化学反応熱を利用する材料等がある。例えば水は、日常において身近な蓄熱材であり、湯又は氷等の形態で保温や保冷の目的に使用されている。
【0003】
物質の相変化に伴う潜熱を利用した蓄熱材料(潜熱型蓄熱材料)は、相変化を伴わない顕熱のみを利用した蓄熱材料(顕熱型蓄熱材料)に比べて、蓄熱密度(効率)や加工性等に利点を有することから、近年多く利用されている。潜熱型蓄熱材料は、例えば、固相から液相への相転移時に熱が吸収される現象を利用して保冷材等に利用されており、目的に応じて種々の形態に加工されたものが利用されている。その一例として、潜熱蓄熱物質(相変化物質)を含む潜熱蓄熱材(芯物質、コア、又は内包物等とも称される。)が被膜(シェル、壁物質、カプセル壁、又は膜物質等とも称される。)に内包されている蓄熱マイクロカプセルが挙げられる。
【0004】
蓄熱マイクロカプセルは、潜熱蓄熱物質の相変化に伴う熱量の変化が潜熱蓄熱材の周囲を取り囲む被膜内で行われるため、潜熱蓄熱物質がどのような状態であっても粒子として取り扱うことができることから、取り扱いやすいという利点がある。例えば、蓄熱マイクロカプセルを、蓄熱機能を付与する他の材料に含ませた混合物として用いやすいなどの利点がある。
【0005】
上述のような蓄熱マイクロカプセルとして、例えば、特許文献1には、脂肪族炭化水素等の潜熱蓄熱物質を主成分とする芯物質の周囲にメラミン樹脂膜からなる膜物質を備えた蓄熱マイクロカプセルが開示されている。また、例えば、特許文献2には、相変化にともなって潜熱を蓄熱又は放熱する相変化物質を芯物質とし、該芯物質がアクリル系重合性モノマーを重合したアクリル系樹脂を主成分とするカプセル壁で覆われた蓄熱マイクロカプセルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-163486号公報
【特許文献2】特開2004-203978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された蓄熱マイクロカプセルのように、膜物質がメラミン樹脂からなる場合、メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合によって得られるものであることから、規制対象物質であるホルムアルデヒドが残留するおそれがある。メラミン樹脂を得る際の重合系では、一般に、メラミンの反応率を上げるために、重合の際にメラミンの2倍以上のモル数のホルムアルデヒドの添加が必要となるからである。また、メラミン樹脂は高価であり、蓄熱マイクロカプセルのコストが高くなりやすい。
【0008】
特許文献2に開示されたような、有機化合物の潜熱蓄熱物質がアクリル系樹脂のカプセル壁で覆われた蓄熱マイクロカプセルは、加熱と冷却の繰り返しによって、潜熱蓄熱物質の相変化に伴う体積変化が繰り返され、カプセル壁に負荷がかかる場合がある。そのため、カプセル壁が劣化したり、破損したりする場合があり、結果として、内包物である芯物質(潜熱蓄熱材)が滲出することがある。また、例えば、蓄熱マイクロカプセルによって蓄熱機能を付与する物の最表面に蓄熱マイクロカプセルが露出する場合もあり、その場合、圧縮等により、カプセル壁が破損することがあり、結果として、潜熱蓄熱材が滲出することもある。
【0009】
そこで本発明は、内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくく、かつ、外圧によって破壊されにくい蓄熱マイクロカプセルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、潜熱蓄熱材と、前記潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含み、前記シェル層は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーに由来する構造単位と、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体から形成されており、前記共重合体中の前記多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセルを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくく、かつ、外圧によって破壊されにくい蓄熱マイクロカプセルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの光学顕微鏡による観察画像と、比較例1の蓄熱マイクロカプセルの光学顕微鏡による観察画像を表し、本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルにおけるシェル層を説明するための図面代用写真である。
【
図2A】実施例1のプレス試験(80MPa条件)後の樹脂塗膜表面のSEM画像を表す図面代用写真である。
【
図2B】比較例2のプレス試験(20MPa条件)後の樹脂塗膜表面のSEM画像を表す図面代用写真である。
【
図3A】実施例1のサイクル試験前後の樹脂塗膜表面のSEM画像を表す図面代用写真である。
【
図3B】比較例3のサイクル試験前後の樹脂塗膜表面のSEM画像を表す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材と、その潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含む。シェル層は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーに由来する構造単位と、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体から形成されている。その共重合体中の多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である。
【0015】
蓄熱マイクロカプセルのシェル層を構成する共重合体は、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位を含むとともに多官能モノマーに由来する構造単位を42~98質量%含むため、潜熱蓄熱材を被覆することができ、適度な弾力性及び靭性を有しうる。それにより、シェル層は、潜熱蓄熱材(潜熱蓄熱物質)の温度変化による相変化に伴う体積変化に追従しやすいため、内包物である潜熱蓄熱材がシェル層外へ滲出しにくい蓄熱マイクロカプセルを提供することができる。なおかつ、シェル層は、その適度な弾力性及び靭性により、外圧によって破壊されにくいため、内包物である潜熱蓄熱材がより滲出しにくい蓄熱マイクロカプセルを提供することができる。本明細書において、「追従」とは、蓄熱マイクロカプセルにおけるシェル層が、内包物である潜熱蓄熱材の体積変化に伴って、形状(シェル層の形状)を変化させることをいう。
【0016】
以下、蓄熱マイクロカプセルの構成に関して、目的とする蓄熱マイクロカプセルが得られやすい観点等から、好ましい構成等を説明する。
【0017】
蓄熱マイクロカプセルは、シェル層に内包されている潜熱蓄熱材を含有する。潜熱蓄熱材は、蓄熱マイクロカプセルの内部に存在することから、蓄熱マイクロカプセルにおける、コア、芯材、芯物質、及び内包物等と称されてもよい。潜熱蓄熱材は、主成分として潜熱蓄熱物質(相変化物質)を含有するものであり、潜熱蓄熱物質のみからなるものでもよい。潜熱蓄熱材中の潜熱蓄熱物質の含有量は、潜熱蓄熱材の全質量を基準として、50~100質量%であることが好ましく、70~100質量%であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましく、95~100質量%であることがよりさらに好ましい。潜熱蓄熱物質には、有機化合物を用いることができ、1種又は2種以上の潜熱蓄熱物質を用いることができる。
【0018】
蓄熱マイクロカプセルを広範な分野にて利用しうるように、潜熱蓄熱物質は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定される融点が-40~100℃の範囲にあるものが好ましく、-10~60℃の範囲にあるものがより好ましい。また、潜熱蓄熱物質のDSC法により測定される潜熱量は、その相変化による潜熱を種々の分野で利用するという観点から、50~400J/gであることが好ましく、100~300J/gであることがより好ましい。
【0019】
潜熱蓄熱物質としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、及び脂肪族アルコール等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、使用目的に応じた温度設定のし易さや、安定性の高さ(長期寿命である)等の観点から、潜熱蓄熱材は、脂肪族炭化水素及び脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
脂肪族炭化水素としては、例えば、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-ノナデカン、n-エイコサン、n-ヘンエイコサン、n-ドコサン、及びその他のn-パラフィン等の直鎖状脂肪族炭化水素;パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油由来炭化水素系ワックス;並びにポリエチレンワックス、及びフィッシャー・トロプシュワックス等の合成炭化水素系ワックス;等を挙げることができる。上記の直鎖状脂肪族炭化水素(n-パラフィン)の炭素原子数は、8~40であることが好ましく、12~40であることがより好ましく、14~40であることがさらに好ましい。また、上記の各種ワックス類(炭化水素系ワックス)は、過冷却防止剤として用いることもできる。その過冷却防止剤(炭化水素系ワックス)と他の潜熱蓄熱物質とを潜熱蓄熱材として併用することが好ましく、潜熱蓄熱材として、炭化水素系ワックスと脂肪酸エステルとを併用することがより好ましい。
【0021】
上記のパラフィンワックスは、主として、石油の減圧蒸留留出油部分から分離精製することにより製造される、常温(20℃±15℃)で固形のワックスであり、n-パラフィンを主成分とするものである。パラフィンワックスの融点は、40~70℃であることが好ましい。上記のマイクロクリタリンワックスは、主として、石油の減圧蒸留残渣油部分から分離精製することにより製造される、常温で固形のワックスであり、主に分岐鎖状脂肪族炭化水素(イソパラフィン)及び/又は脂環式炭化水素(シクロパラフィン)を含むものである。マイクロクリタリンワックスの融点は、60~90℃であることが好ましい。上記の合成炭化水素系ワックスの融点は、40~130℃であることが好ましい。
【0022】
脂肪酸としては、例えば、炭素原子数が8~30の脂肪酸を用いることができる。脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸、及び分岐不飽和脂肪酸に大別することができ、これらのなかでも、直鎖飽和脂肪酸が好ましい。直鎖飽和脂肪酸としては、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、及びヘキサコサン酸等を挙げることができる。これらのなかでも、入手のしやすさから、炭素原子数が10~18の直鎖飽和脂肪酸がより好ましい。また、融点が15~70℃の範囲にある直鎖飽和脂肪酸がより好ましい。
【0023】
脂肪酸エステルとしては、例えば、炭素原子数が8~30の脂肪酸エステルを用いることができ、融点が10~30℃の範囲にある脂肪酸エステルを好ましく用いることができる。好適な脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ビニル、セバシン酸ジメチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、及びパルミチン酸プロピル等を挙げることができる。これらのなかでも、入手のしやすさから、炭素原子数が10~18の直鎖飽和脂肪酸のメチル、エチル、プロピル、又はブチルエステル等がより好ましい。
【0024】
脂肪酸エーテルとしては、例えば、炭素原子数が14~60の脂肪酸エーテルを用いることができ、融点が-10~70℃の範囲にある脂肪酸エーテルを好ましく用いることができる。好適な脂肪酸エーテルとしては、例えば、ヘプチルエーテル、オクチルエーテル、テトラデシルエーテル、及びヘキサデシルエーテル等を挙げることができる。
【0025】
脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素原子数が8~60の脂肪族アルコールを用いることができ、融点が15~80℃の範囲にある脂肪族アルコールを好ましく用いることができる。好適な脂肪族アルコールとしては、例えば、2-ドデカノール、1-テトラデカノール、7-テトラデカノール、1-オクタデカノール、1-エイコサノール、及び1,10-デカンジオール等を挙げることができる。
【0026】
なお、潜熱蓄熱材は、上述した潜熱蓄熱物質(相変化物質)以外の他の物質を含んでもよい。他の物質としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、芳香剤、及び過冷却防止剤等が挙げられる。潜熱蓄熱材中の潜熱蓄熱物質以外の他の物質の合計含有量は、潜熱蓄熱材中の潜熱蓄熱物質の含有量を確保する観点から、潜熱蓄熱材の全質量を基準として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、実質的に0質量%であってもよい。
【0027】
蓄熱マイクロカプセルの有用性が高まることから、蓄熱マイクロカプセル中の潜熱蓄熱材及び共重合体の合計の質量に占める、潜熱蓄熱材の質量の割合は、50~95質量%であることが好ましい。この割合は、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、65質量%以上であることがよりさらに好ましい。一方、蓄熱マイクロカプセルにおけるシェル層の強度の観点から、上記の割合は、90質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
蓄熱マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材を内包しているシェル層を含有する。シェル層は、蓄熱マイクロカプセルにおいて、内部にある潜熱蓄熱材を内包する層であることから、膜物質、及び壁物質等と称されてもよい。シェル層は、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位と、多官能モノマーに由来する構造単位42~98質量%とを含む共重合体から形成されている。そのため、前述の通り、シェル層は、潜熱蓄熱材を被覆することができ、適度な弾力性及び靭性を有することが可能であり、それにより、潜熱蓄熱物質の温度変化による相変化に伴う体積変化に追従しやすい。
【0029】
シェル層の追従性について、
図1を参照してより具体的に説明する。
図1には、後記実施例1の蓄熱マイクロカプセルの(a)室温(約25℃)、(b)室温から5℃に冷却した時、(c)室温から80℃に加熱した時のそれぞれの条件下、光学顕微鏡で観察した際の画像を示す。また、
図1には、比較のために、後記比較例1の蓄熱マイクロカプセルの(d)室温から5℃に冷却した時、(e)冷却時から室温に戻した時のそれぞれの条件下の光学顕微鏡で観察した際の画像も併せて示す。蓄熱マイクロカプセルは、その一態様において、シェル層の追従性が良好であるため、室温から冷却したとき、潜熱蓄熱物質の体積収縮にシェル層が追従して表面にシワが寄ったような形態になりうる(
図1(a)及び(b)参照)。また、その蓄熱マイクロカプセルは、その一態様において、室温から加熱したとき、潜熱蓄熱物質の体積膨張にシェル層が追従して表面のシワが戻りうる(
図1(a)及び(c)参照)。これに対し、比較される本発明外の蓄熱マイクロカプセルは、室温から冷却したとき、潜熱蓄熱物質の体積収縮にシェル層が追従できずに粒子形状が変形する(
図1(d)参照)。また、比較される本発明外の蓄熱マイクロカプセルは、冷却時から室温に戻しても、元の球形状に戻らない(
図1(e)参照)。
【0030】
シェル層を構成する共重合体には、多官能モノマーの1種又は2種以上が用いられていてもよく、親水性基含有単官能モノマーの1種又は2種以上が用いられていてもよい。したがって、シェル層を構成する共重合体は、多官能モノマーに由来する構造単位及び親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位を、それぞれ、1種又は2種以上含んでいてもよい。なお、以下の各モノマーの説明において、特に断りのない限り、当該説明中のモノマーは、いずれも1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
多官能モノマー及び単官能モノマーは、いずれも重合性不飽和結合を有する重合性単量体の一種である。本明細書において、重合性単量体とは、分子中に重合性二重結合(例えば炭素-炭素二重結合)及び重合性三重結合(例えば炭素-炭素三重結合)等の重合性不飽和結合を有するラジカル重合可能な単量体を意味する。重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、3-ブテニル基、及びエチニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合しうる基であれば、これらに限定されない。また、本明細書において、「構造単位」とは、共重合体を形成するモノマーの単位を意味する。「(モノマーに)由来する構造単位」とは、例えば、当該モノマーにおける重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(-C-C-)となった構造単位等が挙げられる。
【0032】
多官能モノマーは、1分子中に2つ以上の重合性不飽和結合を有する重合性単量体である。多官能モノマーは、2つ以上の重合性不飽和結合を有するため、シェル層(シェル層を構成する共重合体)に架橋構造を形成しうることから、シェル層(共重合体)の適度な靭性及び弾力性に寄与することができる。
【0033】
多官能モノマーにおける重合性不飽和結合の数の上限は特に制限されないが、入手の容易さ等の観点から、2~6つの重合性不飽和結合を有する多官能モノマーを用いることが好ましい。なかでも、シェル層が適度な弾力性及び靭性を有しやすいことから、多官能モノマーの1分子中の重合性不飽和結合の数は、2~5であることがより好ましく、2~4であることがさらに好ましい。
【0034】
多官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する多官能モノマー(以下、「(メタ)アクリロイルオキシ基含有多官能モノマー」と記載することがある。)、ビニル基を2つ以上有する多官能モノマー(以下、「ビニル基含有多官能モノマー」と記載することがある。)、及びアリル基を2つ以上有する多官能モノマー(以下、「アリル基含有多官能モノマー」と記載することがある。)等を挙げることができる。また、多官能モノマーとしては、ビニル基、アリル基、及び(メタ)アクリロイルオキシ基等の重合性不飽和結合を有する基のうちの2種以上の基を有する多官能モノマー(以下、「その他の多官能モノマー」と記載することがある。)を挙げることができる。なかでも、多官能モノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する多官能モノマー((メタ)アクリロイルオキシ基含有多官能モノマー)を含むことが好ましい。さらには、シェル層に用いる多官能モノマーが、(メタ)アクリロイルオキシ基含有多官能モノマーであることがより好ましい。
【0035】
本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」との文言には、「アクリロイルオキシ基」及び「メタクリロイルオキシ基」の両方の文言が含まれることを意味する。同様に、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
【0036】
(メタ)アクリロイルオキシ基含有多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有二官能モノマーを挙げることができる。
【0037】
また、(メタ)アクリロイルオキシ基含有多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有三官能モノマー;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有四官能モノマー;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有五官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有六官能モノマー;等を挙げることができる。
【0038】
ビニル基含有多官能モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ブタジエン、及びイソプレン等を挙げることができる。アリル基含有多官能モノマーとしては、例えば、ジアリルフタレート、及びトリアリルイソシアヌレート等を挙げることができる。その他の多官能モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0039】
上記に挙げた多官能モノマーの具体例のなかでも、多官能モノマーは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。なかでも、多官能モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0040】
シェル層において、共重合体中の多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である。多官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合が42質量%以上であることにより、外圧によって破壊されにくく、それにより、潜熱蓄熱材が滲出しにくいシェル層が得られやすい。この観点から、多官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合は、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがさらに好ましい。また、多官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合が、98質量%以下であることにより、潜熱蓄熱材の体積変化に追従しやすく、それにより、潜熱蓄熱材が滲出しにくいシェル層が得られやすい。この観点から、多官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合は、97質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
親水性基含有単官能モノマーは、1分子中に1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する重合性単量体である。親水性基含有単官能モノマーにおける「単官能」との文言は、1分子中の重合性不飽和結合の数が1つであることに基づく。親水性基含有単官能モノマーにおける1分子中の親水性基の数は特に限定されず、1又は2以上であってよい。親水性基含有単官能モノマーは、上述の多官能モノマーとともに共重合することで、シェル層(共重合体)は親水性の部分を有することから、潜熱蓄熱材を被覆することができる。蓄熱マイクロカプセルを製造する際、親水性の物質(例えば、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位を含む共重合体)は粒子の外側へ、疎水性の物質(例えば脂肪酸エステル等の潜熱蓄熱物質)は粒子の内部へ行きやすいためである。このことから、内部(潜熱蓄熱材)が疎水性で外側(シェル層)が親水性の蓄熱マイクロカプセルを得ることが可能である。
【0042】
本明細書において、親水性基とは、水との間に親和性を示す基をいい、水中で電離してイオンになる基、及び水素結合で水和する基を含む。親水性基としては、例えば、酸基、水酸基、アミド基、及びポリオキシエチレン基等を挙げることができる。親水性基含有単官能モノマーは、1種又は2種以上の親水性基を含んでいてもよい。
【0043】
親水性含有単官能モノマーとしては、例えば、酸基を有する酸基含有単官能モノマー、水酸基を有する水酸基含有単官能モノマー、アミド基を有するアミド基含有単官能モノマー、及びポリオキシエチレン基を有するポリオキシエチレン基含有単官能モノマー等を挙げることができる。なかでも、親水性基含有単官能モノマーは、酸基含有単官能モノマー、水酸基含有単官能モノマー、及びアミド基含有単官能モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、さらにはそれらの少なくとも1種であることがより好ましい。
【0044】
酸基含有単官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、及びマレイン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等のカルボキシ基含有単量体;スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体;等を挙げることができる。これらのなかでも、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が好ましい。
【0045】
水酸基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸アリールエステル;2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;o-,m-,p-ヒドロキシスチレン等のヒドロキシ基を有するスチレン系単量体;ビニルアルコール及びアリルアルコール等の不飽和アルコール単量体;等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが好ましい。
【0046】
アミド基含有単官能モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、及びN-ビニル-2-ピロリドン等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0047】
ポリオキシエチレン基含有単官能モノマーとしては、例えば、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びエトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0048】
上記に挙げた具体例のなかでも、親水性基含有単官能モノマーは、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、及び(メタ)アクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。なかでも、親水性基含有単官能モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0049】
シェル層において、共重合体中の親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、共重合体の全質量を基準として、2~58質量%であることが好ましい。シェル層(共重合体)が潜熱蓄熱材を被覆しやすい観点から、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合は、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがよりさらに好ましい。また、共重合体中の多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合を確保して、潜熱蓄熱材の体積変化に追従しやすいシェル層を得る観点から、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の上記含有割合は、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることがよりさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
シェル層を構成する共重合体は、その共重合体を形成する重合性単量体に由来する構造単位としては、多官能モノマーに由来する構造単位と、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とからなることが好ましい。また、シェル層を構成する共重合体は、多官能モノマー及び親水性基含有単官能モノマーのそれぞれに由来する構造単位のほか、多官能モノマー及び親水性基含有単官能モノマー以外のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位をさらに含んでいてもよい。エチレン性不飽和モノマーには、後述の通り、種々のモノマーを使用しうることから、エチレン性不飽和モノマーの使用により、シェル層の弾力性をコントロールしやすくなる。そのため、シェル層を構成する共重合体は、その共重合体を形成する重合性単量体に由来する構造単位としては、多官能モノマーに由来する構造単位と、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位と、エチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位とからなることも好ましい。
【0051】
ここでいうエチレン性不飽和モノマーは、上述の多官能モノマーに該当するものを除くことから、単官能モノマーの一種であり、1分子中に重合性二重結合を1つ有するラジカル重合可能な単量体を意味する。また、エチレン性不飽和モノマーは、上述の親水性基含有単官能モノマーに該当するものを除くことから、親水性基非含有の単官能モノマーである。
【0052】
エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン系単量体;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のモノオレフィン単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル及びエチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;塩化ビニル及びフッ化ビニル等のハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン単量体;N-ビニルモルホリン、4-アクリロイルモルホリン、4-メタクリロイルモルホリン、4-ビニルピリジン、及び1-ビニルイミダゾール等の窒素原子含有ビニル単量体;等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸エステル、及びスチレン系単量体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル等を挙げることができる。これらのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0054】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。これらのなかでも、炭素原子数が1~18(より好ましくは1~12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0055】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0056】
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0057】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、o-,m-,p-メトキシスチレン、o-,m-,p-エトキシスチレン、o-,m-,p-クロロスチレン、o-,m-,p-ブロモスチレン、o-,m-,p-フルオロスチレン、及びo-,m-,p-クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これらのなかでも、スチレンが好ましい。
【0058】
シェル層において、共重合体中のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の含有割合は、共重合体の全質量を基準として、0~45質量%であることが好ましい。シェル層を構成する共重合体に必須の多官能モノマー及び親水性基含有単官能モノマーのそれぞれに由来する構造単位の含有割合を確保して目的とするシェル層が得られやすい観点から、エチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の上記含有割合は、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることがよりさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
前述した潜熱蓄熱材及びシェル層を含む蓄熱マイクロカプセルの形状は、球状であることが好ましく、真球状であることがより好ましい。蓄熱マイクロカプセルの個数平均粒子径は、1~100μmであることが好ましく、2~50μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。蓄熱マイクロカプセルの個数平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、水性分散媒と蓄熱マイクロカプセルとを含有する分散液について測定される測定される個数基準の粒度分布における、球相当径の個数基準の累積頻度50%となる粒子径を採る。
【0060】
本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルは、水性分散媒に分散している状態で存在するものでもよい。この状態の蓄熱マイクロカプセルとしては、水性分散媒と、その水性分散媒に分散している蓄熱マイクロカプセルとを含有する蓄熱マイクロカプセル分散体として提供することができる。このような分散体の形態として蓄熱マイクロカプセルを提供することにより、蓄熱マイクロカプセルを安定した状態で供給することが可能である。蓄熱マイクロカプセルは、後述する本発明の一実施形態の製造方法によって容易に製造することが可能である観点から、蓄熱マイクロカプセル分散体は、エマルション状であることが好ましく、O/W(水中油)型エマルション状であることがより好ましい。
【0061】
蓄熱マイクロカプセル分散体中の蓄熱マイクロカプセルの含有量(質量%)は、蓄熱マイクロカプセル分散体の全質量を基準として、5~75質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、20~60質量%であることがさらに好ましい。
【0062】
蓄熱マイクロカプセル分散体における水性分散媒は、分散質である蓄熱マイクロカプセルの分散媒として機能する水性媒体である。水性分散媒は、少なくとも水を含む液状媒体である。水性分散媒としては、水のみを使用してもよいし、水、及び水と混じり合うことができる水溶性有機溶剤のうちの1種又は2種以上を含む混合溶剤を用いてもよい。
【0063】
水性分散媒としては、水を主成分として用いることが好ましく、水には、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、及びN-メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されず、また、水溶性有機溶剤の1種又は2種以上を使用してもよい。水性分散媒の全質量を基準とした水の含有量は、50~100質量%であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0064】
蓄熱マイクロカプセル分散体中の水の含有量(質量%)は、蓄熱マイクロカプセル分散体の全質量を基準として、25~95質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましく、40~80質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
蓄熱マイクロカプセル分散体は、水性分散媒及び蓄熱マイクロカプセル以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分は、蓄熱マイクロカプセルの製造時に使用されたものでもよいし、蓄熱マイクロカプセルの製造後に添加されたものでもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤(乳化剤)、分散剤、染料、顔料、金属化合物、消泡剤、発泡剤、滑剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、防錆剤、難燃剤、湿潤剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、芳香剤、及び過冷却防止剤等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上が蓄熱マイクロカプセル分散体に含有されていてもよい。
【0066】
蓄熱マイクロカプセル及び蓄熱マイクロカプセル分散体は、例えば、以下に述べる本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法によって、得ることが可能である。
【0067】
本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法は、水及び界面活性剤を含有する水相組成物と、潜熱蓄熱材、単量体成分、及び油溶性重合開始剤を含有する油相組成物とを混合して乳化液を得ることを含む。また、蓄熱マイクロカプセルの製造方法は、上記の乳化液における油相組成物による油滴中で単量体成分を懸濁重合により重合させて、潜熱蓄熱材を内包するシェル層を得ることを含む。単量体成分は、前述の通り、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーと、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーとを含有する重合性単量体組成物である。この単量体成分は、任意成分として、前述のエチレン性不飽和モノマーを含有してもよい。また、単量体成分中の多官能モノマーの含有量は、単量体成分の全質量を基準として、42~98質量%である。上記の製造方法によって、上述した蓄熱マイクロカプセル分散体を得ることができる。換言すれば、蓄熱マイクロカプセルを、蓄熱マイクロカプセル分散体に存在する形態として得ることができる。
【0068】
本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造方法では、重合開始剤として油溶性重合開始剤を用いることから、油相(油滴)中でラジカルが発生することによる懸濁重合を行うことができる。この懸濁重合では、油相組成物中に油溶性重合開始剤が溶解し、水相組成物中に油相組成物を液滴(油滴)として撹拌及び分散させながら、懸濁重合を行うことができる。
【0069】
蓄熱マイクロカプセルの製造方法は、上記の乳化液を得る前に、加熱溶解した潜熱蓄熱材に、単量体成分、及び油溶性重合開始剤を加えて混合し、油相組成物を調製することをさらに含むことが好ましい。これにより、潜熱蓄熱材を加熱溶解した状態で、単量体成分及び油油溶性重合開始剤と混合することができるため、油相組成物を調製しやすくなり、蓄熱マイクロカプセルを製造しやすくなる。
【0070】
油溶性重合開始剤には、油溶性であり、かつ、油相中でラジカルを発生させる重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、及びアゾ化合物等を挙げることができる。有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びジ-t-ブチルパーオキサイド等を挙げることができる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、及び2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等を挙げることができる。油溶性重合開始剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0071】
油溶性重合開始剤の使用量は、単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~8質量部であることがより好ましく、0.5~5質量部であることがさらに好ましい。
【0072】
乳化液を得る際に、水相組成物として用いる水の使用量は、単量体成分の総量100質量部に対して、400~2000質量部であることが好ましく、500~1500質量部であることがより好ましく、600~1200質量部であることがさらに好ましい。
【0073】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤の使用量は、上記の単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~8質量部であることがより好ましい。
【0074】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性アニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0075】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル等の反応性ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0076】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルトリエチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ジアルキルジエチルアンモニウム塩、及びN-ポリオキシアルキレン-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等を挙げることができる。両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミンオキサイド、及びアルキルカルボキシベタイン等を挙げることができる。
【0077】
乳化液を得る際に使用する界面活性剤は、分散剤としての役割を有していてもよいが、乳化液を得る際には、界面活性剤以外の分散剤をさらに用いてもよい。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸等のポリカルボン酸;ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース類;等を挙げることができ、1種又は2種以上を用いることができる。分散剤の使用量は、単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~8質量部であることがさらに好ましい。
【0078】
乳化液を得るに当たり、乳化温度は、潜熱蓄熱材(潜熱蓄熱物質及び過冷却防止剤等)の析出温度以上の温度とすることが好ましく、例えば、20~100℃であることが好ましく、40~90℃であることがより好ましい。水相組成物と油相組成物とを混合する際には、各種の乳化分散機を用いることができる。乳化分散機としては、例えば、プロペラミキサー、ホモミキサー、及びホモディスパー等の回転撹拌型乳化機;超音波ホモジナイザー;並びに加圧式ホモジナイザー等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0079】
シェル層を得る際の懸濁重合による重合温度は、潜熱蓄熱材(潜熱蓄熱物質及び過冷却防止剤等)の析出温度以上の温度とすることが好ましく、例えば、20~100℃であることが好ましく、40~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、1~15時間であることが好ましい。
【0080】
懸濁重合による重合後には、シェル層を得た液中に中和剤を添加して、中和することが好ましい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等の有機アミン類等を挙げることができる。中和剤の1種又は2種以上を用いてもよい。中和剤は水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0081】
蓄熱マイクロカプセル分散体のpHは、6.0~10.0であることが好ましく、6.5~9.5であることがより好ましく、7.0~9.0であることがさらに好ましい。本明細書において、pHは、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができ、25℃での値である。
【0082】
上述のような製造方法によって、分散液状の形態として、蓄熱マイクロカプセル(蓄熱マイクロカプセル分散体)を得ることができる。また、例えば、蓄熱マイクロカプセル分散体(分散液)を、ろ過又は遠心分離等の手法で固液分離することにより、粉体状、湿潤状、又はスラリー状等の状態にある蓄熱マイクロカプセルを得ることもできる。
【0083】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルにおけるシェル層(共重合体)は、親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位を含むとともに多官能モノマーに由来する構造単位を42~98質量%含む。そのため、シェル層は、適度な弾力性及び靭性を有することが可能であり、潜熱蓄熱材の温度変化による相変化に伴う体積変化に追従しやすい。したがって、そのシェル層を含む蓄熱マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材が滲出しにくく、かつ、外圧によって破壊されにくいという特性を有することが可能である。この蓄熱マイクロカプセルは、潜熱蓄熱材の滲出が抑えられることから、繰り返し利用した後でも、高い潜熱蓄熱性能を維持することが可能である。
【0084】
また、前述のシェル層(共重合体)を形成する多官能モノマー及び親水性基含有単官能モノマー、並びに任意に用いうるエチレン性不飽和モノマーの各モノマーとして、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを好ましく用いることができる。それにより、蓄熱マイクロカプセルの原料として、ホルムアルデヒドを用いる必要がないことから、ノンホルマリン系の蓄熱マイクロカプセルとなり、環境に優しい機能材料とすることができる。
【0085】
蓄熱マイクロカプセルの使用態様は、特に限定されない。例えば、蓄熱マイクロカプセルを、塗料、インク、粘着剤、接着剤、コーティング剤、有機材料(樹脂等)、及び無機材料等の他の材料と混合して使用することが挙げられる。この場合、蓄熱マイクロカプセルは、内包物である潜熱蓄熱材により、比重が比較的高いことから飛散しにくいため、扱い易く、上記混合が容易である。
【0086】
例えば、衣料及び寝具等の用途に蓄熱マイクロカプセルを利用する場合、蓄熱マイクロカプセルを布地や織物に含浸させた後に乾燥させることにより、潜熱型蓄熱材料として、温度安定性に優れた素材の提供が期待できる。また、例えば、蓄熱マイクロカプセルを建築材料に応用する場合、蓄熱マイクロカプセルを、床、壁、及び天井等の躯体中に保持させてボード状に加工することにより、潜熱型蓄熱建材の提供が期待できる。さらに、例えば、蓄熱マイクロカプセルを溶剤又はワニス中に分散して調製した印刷インキや塗料を、床及び壁等に吹き付け等の手段で塗工することにより、温度維持性に優れた内装用建材の提供も期待できる。
【0087】
その他の用途として、電子部品の温度上昇を抑制するために、蓄熱マイクロカプセルを用いることが挙げられる。また、車道、歩道、及び橋梁等に蓄熱マイクロカプセルを埋設して、日中に太陽光のエネルギーを貯え、夜間の凍結を防止する方法への利用が期待できる。さらに、長時間適温を持続する保冷材や保温材として、蓄熱マイクロカプセルを利用しうる。
【0088】
以上の通り、本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルは、以下のような構成をとることが可能である。
[1]潜熱蓄熱材と、前記潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含み、前記シェル層は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーに由来する構造単位と、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位とを含む共重合体から形成されており、前記共重合体中の前記多官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセル。
[2]前記共重合体中の前記親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、2~58質量%である、上記[1]に記載の蓄熱マイクロカプセル。
[3]前記多官能モノマー及び前記親水性基含有単官能モノマー以外のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の含有割合が、前記共重合体の全質量を基準として、0~45質量%である、上記[1]又は[2]に記載の蓄熱マイクロカプセル。
[4]前記蓄熱マイクロカプセル中の前記潜熱蓄熱材及び前記共重合体の合計の質量に占める、前記潜熱蓄熱材の質量の割合は、50~95質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[5]前記多官能モノマーは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2つ以上有する多官能モノマーを含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[6]前記親水性基含有単官能モノマーは、酸基を有する酸基含有単官能モノマー、水酸基を有する水酸基含有単官能モノマー、及びアミド基を有するアミド基含有単官能モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[5]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[7]前記多官能モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[6]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[8]前記親水性基含有単官能モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[7]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[9]前記潜熱蓄熱材は、脂肪酸エステル及び脂肪族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[8]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセル。
[10]水性分散媒と、前記水性分散媒に分散している、上記[1]~[9]のいずれかに記載の蓄熱マイクロカプセルと、を含有する蓄熱マイクロカプセル分散体。
[11]水及び界面活性剤を含有する水相組成物と、潜熱蓄熱材、単量体成分、及び油溶性重合開始剤を含有する油相組成物とを混合して乳化液を得ること;並びに前記乳化液における前記油相組成物による油滴中で前記単量体成分を懸濁重合により重合させて、前記潜熱蓄熱材を内包するシェル層を得ること;を含み、前記単量体成分は、2つ以上の重合性不飽和結合を有する多官能モノマーと、1つの重合性不飽和結合及び親水性基を有する親水性基含有単官能モノマーとを含有し、前記単量体成分中の前記多官能モノマーの含有量は、前記単量体成分の全質量を基準として、42~98質量%である、蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
[12]前記乳化液を得る前に、加熱溶解した前記潜熱蓄熱材に、前記単量体成分、及び前記油溶性重合開始剤を加えて混合し、前記油相組成物を調製すること;をさらに含む上記[11]に記載の蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【実施例0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
<蓄熱マイクロカプセル分散体の製造>
(実施例1)
イオン交換水752.3質量部に、アニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム2.0質量部(花王株式会社製の商品名「ラテムルWX」(有効成分26質量%)7.7質量部)、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA;株式会社クラレ製の商品名「クラレポバール PVA-217」)5.0質量部を溶解して、水相組成物(界面活性剤水溶液)を調製した。この水相組成物を50℃に加熱した。
【0091】
一方、潜熱蓄熱物質としてステアリン酸ブチル(融点17~22℃)388.0質量部、及び過冷却防止剤としてパラフィンワックス(日本精蝋株式会社製の商品名「Paraffin Wax-155」、融点69℃)12.0質量部を混合し、70℃に加熱して溶解した。このなかに、親水性基含有単官能モノマーとしてメタクリル酸20.0質量部、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート80.0質量部、油溶性重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)1.5質量部(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加えた後、よく撹拌して油相組成物とした。
【0092】
上記の50℃に加熱した水相組成物に、上記の油相組成物を添加し、ホモミキサーを用いて混合撹拌し、乳化させ、乳化液を得た。得られた乳化液を、撹拌機、温度計、冷却器、及び滴下ロートを備えた四ツ口セパラブルフラスコに全量仕込み、撹拌しながら内温を80℃に加温し、3時間にわたって、懸濁重合による重合反応を行った。重合終了後、重合液を冷却した後、25質量%アンモニア水20.0質量部を添加して中和し、pHを調整後、120メッシュのろ布を用いてろ過した。このようにして、アクリル系樹脂エマルション組成物として、潜熱蓄熱材と、潜熱蓄熱材を内包しているシェル層とを含む蓄熱マイクロカプセルが水中に分散している分散体を得た。得られた蓄熱マイクロカプセル分散体の固形分は40.0質量%、pHは8.5、粘度は300mPa・sであった。
【0093】
(実施例2~19及び比較例1~3)
実施例1における蓄熱マイクロカプセル分散体の製造に用いた材料及びその使用量(単位:質量部)を、後記表1~3の上段に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、エマルション状の蓄熱マイクロカプセル分散体を製造した。
【0094】
実施例1~19及び比較例1~3で得られた蓄熱マイクロカプセル分散体について、蓄熱マイクロカプセルの外圧(プレス試験)による耐性、並びにサイクル試験による潜熱蓄熱材の滲出抑制効果及びシェル層の形状維持効果を評価した。
【0095】
(外圧による耐性)
蓄熱マイクロカプセル分散体を、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)ラテックス(旭化成株式会社製の商品名「SBラテックス L-7063」)に固形分質量比で10:1となるように混合し、塗工液を作製した。塗工液をPETフィルム上に乾燥膜厚が50μmとなるように塗工し、乾燥することで、樹脂粒子(蓄熱マイクロカプセル)が分散した樹脂塗膜を得た。プレス機(株式会社東洋精機製作所製の製品名「ミニテストプレス」、型式「MP-WNL」)を用いて、樹脂塗膜に対し、その上方から、20MPa、40MPa、80MPaの圧力をかけた後の樹脂塗膜表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。そして、SEM画像中の80%以上の樹脂粒子が球形を維持できているときを耐性ありと判断し、そのときの圧力値に基づき、蓄熱マイクロカプセルのシェル層の外圧(プレス試験)による耐性を評価した。以下の評価基準の「A」及び「B」の場合、蓄熱マイクロカプセルは外圧によって破壊されにくい性質を有すると判断した。一例として、
図2Aに実施例1のプレス試験(80MPa)後の樹脂塗膜表面のSEM画像を示し、
図2Bに比較例2のプレス試験(20MPa)後の樹脂塗膜表面のSEM画像を示す。
A:80MPaでも耐性あり。
B:80MPaでは耐性なしだが、40MPaで耐性あり。
C:40MPaでは耐性なしだが、20MPaで耐性あり。
D:20MPaでも耐性なし。
【0096】
(潜熱蓄熱材の滲出抑制)
温度制御が可能な恒温槽中に、上記のプレス試験前の樹脂塗膜と紙(コピー用紙;アスクル株式会社製の商品名「マルチペーパー スーパーホワイト+」)を重ね合わせて密着させて入れ、相変化温度を挟む温度域として、-10℃から60℃まで温度変化させた。具体的には、昇温に1時間、60℃で30分保持、降温に1時間、-10℃で30分保持のサイクルを1サイクル(1回)として、100サイクル(100回)の温度変化を与えるサイクル試験を行った。サイクル試験後、樹脂塗膜と紙を取り出して、紙を目視にて観察し、以下の評価基準にしたがって、蓄熱マイクロカプセル(そのシェル層)からの潜熱蓄熱材の滲出抑制効果を評価した。以下の評価基準の「A」及び「B」の場合、蓄熱マイクロカプセルは、内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくい性質を有すると判断した。
A:紙に潜熱蓄熱材の滲出の跡がない。
B:紙に潜熱蓄熱材の滲出の跡があり、その跡が紙の片面面積の10%未満である。
C:紙に潜熱蓄熱材の滲出の跡があり、その跡が紙の片面面積の10%以上である。
【0097】
(シェル層の形状維持)
上記のサイクル試験後の樹脂塗膜の表面をSEMで観察し、蓄熱マイクロカプセル(そのシェル層)の形状に基づき、以下の評価基準にしたがって、シェル層の形状維持効果を評価した。以下の評価基準の「A」及び「B」の場合、蓄熱マイクロカプセルは、内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくい性質を有すると判断した。一例として、
図3Aに実施例1のサイクル試験前後の樹脂塗膜のSEM画像を示し、
図3Bに比較例3のサイクル試験前後の樹脂塗膜のSEM画像を示す。
A:樹脂粒子の潰れがない。
B:樹脂粒子が一部潰れているが、その割合はSEM画像中の10%未満である。
C:樹脂粒子が一部潰れており、その割合がSEM画像中の10%以上である。
【0098】
以上の各実施例及び比較例の評価結果を表1~3の下段に示す。表1~3中に示す「潜熱蓄熱材の割合(質量%)」は、蓄熱マイクロカプセル中の潜熱蓄熱材及びシェル層(共重合体)の合計の質量に占める、潜熱蓄熱材の質量の割合を表す。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表1~3に示す通り、本発明の一実施形態の蓄熱マイクロカプセルは、繰り返し使用された場合でも、内包物である潜熱蓄熱材が滲出しにくく、かつ、外圧によっても破壊されにくく、潜熱蓄熱材がより滲出しにくい特性を有することが確認された。
前記共重合体中の前記親水性基含有単官能モノマーに由来する構造単位の含有割合は、前記共重合体の全質量を基準として、2~58質量%である、請求項1に記載の蓄熱マイクロカプセル。
前記多官能モノマー及び前記親水性基含有単官能モノマー以外のエチレン性不飽和モノマーに由来する構造単位の含有割合が、前記共重合体の全質量を基準として、0~45質量%である、請求項1又は2に記載の蓄熱マイクロカプセル。
前記蓄熱マイクロカプセル中の前記潜熱蓄熱材及び前記共重合体の合計の質量に占める、前記潜熱蓄熱材の質量の割合は、50~95質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
前記多官能モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
前記親水性基含有単官能モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセル。
前記乳化液を得る前に、加熱溶解した前記潜熱蓄熱材に、前記単量体成分、及び前記油溶性重合開始剤を加えて混合し、前記油相組成物を調製すること;をさらに含む請求項9~11のいずれか1項に記載の蓄熱マイクロカプセルの製造方法。