(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086558
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】金属印刷用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/02 20140101AFI20220602BHJP
【FI】
C09D11/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198637
(22)【出願日】2020-11-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】降矢 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】荒木 隆史
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB04
4J039AB08
4J039AD13
4J039AD14
4J039AE06
4J039BC09
4J039BC59
4J039BE01
4J039BE12
4J039EA48
4J039FA01
(57)【要約】
【課題】溶剤成分の使用が削減された水性オーバープリントニスを印刷面に塗工された場合であってもハジキが抑制され、かつ、流動性やミスチングの改善という点でも良好な性能を有する金属印刷用インキ組成物を提供すること。
【解決手段】着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部として酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物を用いる。下記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~6の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、
前記樹脂の少なくとも一部として酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂を含み、前記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~6の整数である。)
【請求項2】
前記ロジン変性樹脂が、前記溶剤及び2価以上の金属アルコキシ化合物とともにゲル化ワニスとされた状態で組成物に添加されることを特徴とする請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項3】
前記溶剤を組成物の全体に対して20質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項4】
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項5】
さらに、アルキッド樹脂を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。
【請求項6】
前記アルキッド樹脂が、ヤシ油変性アルキッド樹脂であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属印刷用インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板あるいはこれら金属素材からなる金属缶などの金属外面の印刷には、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などのバインダー樹脂と鉱物油または高級アルコールなどの有機溶剤を主たるビヒクル成分とする金属印刷用インキ組成物が使用されている。
【0003】
また、これら印刷表面には、インキ塗膜の密着性、耐折り曲げ性、耐衝撃性、耐摩擦性等を向上させるため、オーバープリントニスによるコーティングが行われるのが一般的である。これらオーバープリントニスとしては、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のバインダー樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の硬化剤、及び鉱物油やセロソルブ系等の有機溶剤からなる溶剤タイプのものが広く使用されていた。
【0004】
そして、金属外面の印刷に際しては、オフセット印刷機、ドライオフセット印刷機等を用いてインキの印刷を行ってから、コーター等を用いてウエットオンウエットでオーバープリントニスをインキ被膜上に塗布し、その後150~280℃で焼付けが行われていた。
【0005】
しかしながら、近年では、溶剤による大気汚染の問題、印刷作業環境における衛生面あるいは安全性の面から、金属印刷の分野においても、従来用いてきた溶剤タイプのオーバープリントニスではなく、水性タイプのものを採用するのが一般的となっている。しかし、従来の金属印刷用インキ組成物のインキ塗膜上に、水性オーバープリントニスを塗布した場合、水性オーバープリントニスのはじき、水性オーバープリントニスのインキ膜中へのもぐり込みなどの現象を生じ、その結果、塗膜の光沢又は密着性等の品質が著しい低下をきたすという問題があった。そこで、インキ組成物においても、水性オーバープリントニスに対する優れた適性を有することが要求されてきた。
【0006】
このような水性オーバープリントニスに対する適性を改善する方法として、例えば、特許文献1には、炭素数4~8のアルキレングリコール系溶剤の使用が、特許文献2には、ポリオキシアルキレングリコール系溶剤の使用が、特許文献3には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系有機溶剤の使用が、特許文献4には、ポリオキシアルキレンアルキルエステル系溶剤の使用がそれぞれ提案されている。これらのインキ組成物に用いられる有機溶剤は、インキ組成物の水性オーバープリントニスに対する適性を改善する上では効果があるが、インキ組成物の流動性が不足しがちだったり、印刷中にミスチングを生じがちだったりする等の点で改善の余地があった。
【0007】
金属印刷用インキ組成物の流動性や印刷中のミスチングを改善しようとする場合、例えば特許文献5の実施例に記載されるように、高沸点芳香族炭化水素のような極性の低い溶剤を用いる方法もある。しかしながら、昨今では、更なる環境負荷低減を目的として、溶剤成分を極限まで削減した水性オーバープリントニス製品が流通しており、このようなオーバープリントニスを用いた場合、極性の低い溶剤を用いたインキ組成物ではハジキを生じる問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5-75031号公報
【特許文献2】特公平5-40791号公報
【特許文献3】特公平5-40792号公報
【特許文献4】特開昭64-60670号公報
【特許文献5】特開2009-249435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、インキ組成物の流動性や印刷中のミスチングの改善という点と、オーバープリントニスを塗工した際のハジキの抑制という点との間にはトレードオフの関係が成立し、一方を満足しようとすると他方が満足されなくなるという傾向にある。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、溶剤成分の使用が削減された水性オーバープリントニスを印刷面に塗工された場合であってもハジキが抑制され、かつ、流動性やミスチングの改善という点でも良好な性能を有する金属印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、インキ組成物に含まれる樹脂の少なくとも一部として酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂と、かつ下記一般式(1)で表すポリオキシアルキレンアルキルエーテル系溶剤との両方を含むインキ組成物を用いることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0011】
(1)本発明は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなる金属印刷用インキ組成物であって、上記樹脂の少なくとも一部として酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする金属印刷用インキ組成物である。
【化1】
(上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基であり、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基であり、nは、2~6の整数である。)
【0012】
(2)また本発明は、上記ロジン変性樹脂が上記溶剤及び2価以上の金属アルコキシ化合物とともにゲル化ワニスとされた状態で組成物に添加されることを特徴とする(1)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0013】
(3)また本発明は、上記溶剤を組成物の全体に対して20質量%以上含むことを特徴とする(1)項又は(2)項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0014】
(4)また本発明は、上記ロジン変性樹脂がその構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする(1)項~(3)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0015】
(5)また本発明は、さらに、アルキッド樹脂を含むことを特徴とする(1)項~(4)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【0016】
(6)また本発明は、上記アルキッド樹脂がヤシ油変性アルキッド樹脂であることを特徴とする(1)項~(5)項のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶剤成分の使用が削減された水性オーバープリントニスを印刷面に塗工された場合であってもハジキが抑制され、かつ、流動性やミスチングの改善という点でも良好な性能を有する金属印刷用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の金属印刷用インキ組成物(本発明のインキ組成物等と適宜省略する。)の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本発明のインキ組成物は、金属印刷用であり、刷版として凸版を用いるいわゆるドライオフセット印刷方式や、刷版として平版を用いるオフセット印刷方式での印刷に好ましく適用されるが、金属印刷において通常用いられる印刷方式全般に適用が可能である。また、本発明のインキ組成物は、インキ組成物による印刷の直後にウエットオンウエットで水性オーバープリントニス(OPニス)を塗工しても、塗工されたOPニスのハジキを抑制できるので、そのような印刷及び塗工方式が採用される2ピース缶印刷においても好ましく適用可能であるのはもちろん、3ピース缶印刷においても好ましく用いることができる。本発明のインキ組成物は、溶剤成分の削減された水性OPニスがウエットオンウエットで適用されてもハジキを抑制でき、かつ組成物としての良好な流動性を備えるので印刷中の壷上がり等の問題を抑制できる。
【0020】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂及び溶剤を含んでなり、上記樹脂の少なくとも一部として酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂を含み、上記溶剤として上記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする。また、本発明のインキ組成物は、これらの各成分に加えて、その他の樹脂としてアルキッド樹脂を含むこともできる。以下、各成分について説明する。
【0021】
[樹脂]
本発明のインキ組成物は、酸価10~400mgKOH/gであるロジン変性樹脂を含む。本発明のインキ組成物は、こうした高酸価のロジン変性樹脂を含むことにより、組成物自体の極性が高くなると考えられ、同じく極性の高い水性OPニスへの親和性が高くなって、これをウエットオンウエットで塗工してもハジキを生じないものと推察される。
【0022】
ロジン変性樹脂とは、原料の一つとしてロジンを用いて調製された樹脂である。ロジンには、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸、レボピマール酸等の樹脂酸が混合物として含まれ、これら樹脂酸は、親水性で化学活性なカルボキシ基が含まれ、中には共役二重結合を備えるものもある。そのため、多価アルコールや多塩基酸を組み合わせて縮重合させたり、ロジン骨格に含まれるベンゼン環にフェノールの縮合体であるレゾールを付加させたり、ジエノフィルである無水マレイン酸やマレイン酸とディールスアルダー反応をさせてマレイン酸や無水マレイン酸骨格を付加させさせたりすること等により、様々なロジン変性樹脂が調製されている。このようなロジン変性樹脂は、各種のものが市販されており、それを入手して用いることも可能である。
【0023】
ロジン変性樹脂としては、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、ロジン変性ポリエステル樹脂等が挙げられる。本発明においては、ロジン変性樹脂の酸価に基づく極性が重要であり、いずれのロジン変性樹脂を用いてもよいが、これらの中でも、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むものが好ましく用いられる。「その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含む」樹脂とは、原料の一部としてマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを用いて調製されたものであり、例えば、多塩基酸の一部としてマレイン酸やフマル酸を縮重合させたロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂や、ジエノフィルとしてマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸や無水フマル酸をディールスアルダー反応で付加させた構造を備えるマレイン化ロジン、フマル化ロジンや、これらに含まれる官能基を用いてさらに他の化学種を重合させた樹脂等を意味する。
【0024】
ロジン変性樹脂の酸価は、10~400mgKOH/gであり、20~400mgKOH/gであることが好ましく、100~300mgKOH/gであることがより好ましく、150~300mgKOH/gであることがさらに好ましい。ロジン変性樹脂の酸価がこの範囲であることにより、水性OPニスをウエットオンウエットで塗工したときのハジキの抑制と、ミスチングや壷上がりの抑制といった印刷適性とを両立できるので好ましい。
【0025】
ロジン変性樹脂は、後述する溶剤とともに加熱されることにより溶解又は分散されてワニスとされた状態で使用される。ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得た溶解ワニス中に2価以上の金属アルコキシ化合物をゲル化剤として投入し、ゲル化ワニスとされることが好ましい。ロジン変性樹脂からゲル化ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、インキ組成物に適度な粘弾性が付与され、流動性の向上とミスチングの低減を図ることができるほか、より強靱な硬化被膜を形成できるので好ましい。
【0026】
インキ組成物中におけるロジン変性樹脂の含有量としては、組成物全体に対して5~50質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して5~40質量%がより好ましく挙げられ、組成物全体に対して8~40質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0027】
本発明のインキ組成物は、上記ロジン変性樹脂に加えてアルキッド樹脂を含むことが好ましい。アルキッド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸との縮重合体であり、ポリエステルの一種だが、これらに加えて動植物油及び/又はそれらの脂肪酸とともに縮重合を行うことでも調製される。このとき、動植物油は、多価アルコールとの間でエステル交換されて脂肪酸となり、アルキッド樹脂の構造中に組み込まれる。アルキッド樹脂中における動植物油の脂肪酸を由来とする割合を油長といい、本発明で用いられるアルキッド樹脂の油長としては、20~50質量%が好ましく挙げられる。なお、動植物油の脂肪酸成分を含まないアルキッド樹脂であるオイルフリーアルキッドを用いてもよい。
【0028】
本発明におけるアルキッド樹脂としては各種のものを用いることができるが、中でもヤシ油変性アルキッド樹脂が好ましく用いられる。アルキッド樹脂としてヤシ油変性アルキッド樹脂を用いることにより、インキ組成物の分散安定性が良好になり、また透明性の高い良好な色相が得られる点で好ましい。
【0029】
インキ組成物中におけるアルキッド樹脂の含有量としては、組成物全体に対して10~40質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して10~30質量%がより好ましく挙げられ、15~25質量%がさらに好ましく挙げられる。
【0030】
本発明のインキ組成物には、上記のロジン変性樹脂やアルキッド樹脂に加えて、従来用いられている樹脂を併用することもできる。すなわち、印刷適性、塗膜物性等の要求性能に応じて、上記のロジン変性樹脂やアルキッド樹脂と相溶する公知の樹脂を単独又は複数混合して用いることができる。このような樹脂としては、ポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等を挙げることができる。
【0031】
[溶剤]
本発明のインキ組成物は、下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを溶剤として含む。以下、下記一般式(1)で表す化合物よりなる群から選択される少なくとも1つを溶剤のことを特定溶剤とも呼ぶ。
【0032】
【0033】
上記一般式(1)中、各Aは、それぞれ独立に決定され、分岐を有してもよい炭素数2~4のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、エチレン基[-(CH2)2-]、プロピレン基[-CH2(CH3)-CH2-、又は-CH2CH2(CH3)-]、トリメチレン基[-(CH2)3-]、イソプロピリデン基[-C(CH3)2-]等を挙げることができる。
【0034】
上記一般式(1)中、Rは、分岐及び/又は環構造を備えてもよい炭素数1~13のアルキル基である。なお、このアルキル基は、脂肪族基のみならす脂環式基であってもよい。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)中、nは、2~6の整数である。nが2以上であることにより、印刷機上でのインキ組成物の安定性を付与するだけの、特定溶剤の十分な沸点を確保できるので好ましく、nが6以下であることにより、インキ組成物の溶剤として好ましい粘度とすることができる。
【0036】
上記一般式(1)で表す化合物の例としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジプロピレングリコールトリデシルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノデシルエーテル、テトラプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0037】
本発明のインキ組成物中の特定溶剤の含有量としては、組成物全体に対して20~40質量%が好ましく挙げられ、組成物全体に対して23~40質量%がより好ましく挙げられる。特定溶剤の含有量が組成物全体に対して20質量%以上であることにより、水性OPニスをウエットオンウエットで塗工したときのハジキを効果的に抑制できるので好ましい。
【0038】
[着色顔料]
着色顔料は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来から印刷インキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0039】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、蛍光顔料等が例示される。また、インキ組成物に金色や銀色等の金属色を付与するための金属粉顔料も本発明では着色顔料として扱う。このような金属粉顔料としては、金粉、ブロンズパウダー、アルミニウムパウダーをペースト状に加工したアルミニウムペースト、雲母パウダー等を挙げることができる。
【0040】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物の全体に対して5~50質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製する場合には、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0041】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、その他の成分として、必要に応じて公知の硬化剤、顔料分散剤、上記特定溶剤以外の溶剤、ワックス、安定剤等を添加することができる。
【0042】
硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂を用いることができる。
【0043】
上記特定溶剤以外の溶剤としては、例えば、沸点範囲が230~400℃程度の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素、アルキルベンゼン等の芳香族炭化水素、高級アルコール等を挙げることができる。
【0044】
本発明のインキ組成物は、着色顔料、樹脂、特定溶剤を含む溶剤等の各成分を混合し、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて常法によって調製できる。インキ組成物の粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が10~70Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【0045】
本発明のインキ組成物における金属印刷用の金属としては、特に限定されないが、例えば亜鉛引き又は錫引き鉄板、アルミニウム板、あるいはこれら金属素材からなる金属缶等が挙げられる。
【0046】
また、印刷されたインキ組成物の上に塗工する水性OPニスとしては、通常使用されているものを用いることができ、具体的には、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性アルキッド樹脂、水性エポキシ樹脂又はこれら2種以上の変性樹脂等をバインダーとし、硬化剤としてのアミノ樹脂を併用したもの等を挙げることができる。
【0047】
インキ組成物及び水性OPニスを用いて金属素材面に印刷する場合は、まず、本発明のインキ組成物を用いてドライオフセット印刷機やオフセット印刷機等により印刷を行い、インキ組成物が乾燥しない状態(ウエットオンウエット)で、水性OPニスをコーター等によりオーバーコーティングし、その後、150~280℃で数秒~数分間焼き付けを行えばよい。
【実施例0048】
以下、実施例を示すことにより本発明のインキ組成物をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
[アルキッド樹脂Aの合成]
ネオペンチルグリコール17.4質量部、ペンタエリスリトール23.0質量部、ヤシ油脂肪酸22.2質量部、イソフタル酸36.8質量部及びテレフタル酸7.01質量部を窒素雰囲気下にて230℃で加熱して1段階目のエステル化を行い、その後無水トリメリット酸4.7質量部を加えて、窒素雰囲気下にて155℃で加熱して2段階目のエステル化を行った。これらのエステル化反応は、常法に従って行い、酸価34.0mgKOH/g、油長23.5、重量平均分子量3530、数平均分子量490のアルキッド樹脂Aを得た。これを樹脂Aと呼ぶ。
【0050】
[アルキッド樹脂Bの合成]
ペンタエリスリトール29.4質量部、ヤシ油脂肪酸44.4質量部、イソフタル酸28.8質量部、チタン(IV)ブトキシド0.09質量部及びキシレン3.0質量部を窒素雰囲気下にて230℃で加熱して1段階目のエステル化を行い、その後無水トリメリット酸4.5質量部を加えて、窒素雰囲気下にて170℃で加熱して2段階目のエステル化を行った。これらのエステル化反応は、常法に従って行い、酸価29.2mgKOH/g、油長47.0、重量平均分子量23120、数平均分子量755のアルキッド樹脂Bを得た。これを樹脂Bと呼ぶ。
【0051】
[ワニス1の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g、重量平均分子量536、数平均分子量312、軟化点108℃≦)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル30.1質量部を130℃にて1時間加熱してこれらを溶解させ、ワニス1を得た。ワニス1は、マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g)の溶解ワニスである。
【0052】
[ワニス2の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g、重量平均分子量536、数平均分子量312、軟化点108℃≦)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル30.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス2を得た。ワニス2は、マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0053】
[ワニス3の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g、重量平均分子量536、数平均分子量312、軟化点108℃≦)51.9質量部及びポリアルキレングリコールモノブチルエーテル(一般式(1)において、Rがブチル基であり、nが4であって、Aがエチレン基(-CH2CH2-)のものが2個、Aがプロピレン基(-CH2(CH3)CH-)のものが2個である化合物)30.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス3を得た。ワニス3は、マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0054】
[ワニス4の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g、重量平均分子量536、数平均分子量312、軟化点108℃≦)51.9質量部及びジエチレングリコールモノヘキシルエーテル25.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス4を得た。ワニス4は、マレイン化ロジン樹脂(酸価205.5mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0055】
[ワニス5の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価26.1mgKOH/g、重量平均分子量53224、数平均分子量1001、軟化点133-143℃)51.9質量部及びアルキルベンゼン(和益化学工業製、製品名LAB)63.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)0.65質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス5を得た。ワニス5は、マレイン化ロジン樹脂(酸価26.1mgKOH/g)のゲル化ワニスであり、特定溶剤を含まないものである。
【0056】
[ワニス6の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価26.1mgKOH/g、重量平均分子量53224、数平均分子量1001、軟化点133-143℃)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル53.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)0.65質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス6を得た。ワニス6は、マレイン化ロジン樹脂(酸価26.1mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0057】
[ワニス7の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価202.5mgKOH/g、重量平均分子量865、数平均分子量375、軟化点100-120℃)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル40.1質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス7を得た。ワニス7は、マレイン化ロジン樹脂(酸価202.5mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0058】
[ワニス8の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価194.7mgKOH/g、重量平均分子量2120、数平均分子量506、軟化点155-170℃)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル54.6質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス8を得た。ワニス8は、マレイン化ロジン樹脂(酸価194.7mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0059】
[ワニス9の調製]
マレイン化ロジン樹脂(酸価171.0mgKOH/g、重量平均分子量4335、数平均分子量554、軟化点145-160℃)51.9質量部及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテル59.5質量部を130℃にて1時間加熱及び撹拌してこれらを溶解させ、その後、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(ALCH)1.3質量部を加えて130℃にて40分間加熱及び撹拌してゲル化を行うことで、ワニス9を得た。ワニス9は、マレイン化ロジン樹脂(酸価171.0mgKOH/g)のゲル化ワニスである。
【0060】
[比較例1、実施例1~7]
上記アルキッド樹脂A(樹脂A)を含むインキ組成物として、表1の処方にて、比較例1及び実施例1~7のインキ組成物を調製した。インキ組成物の調製に際しては、各成分を混合した後、40℃に加熱したロールミルにて混練を行った。なお、表1でインキ組成物の調製に用いた特定溶剤は、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルである。
【0061】
[比較例2、実施例8~14]
上記アルキッド樹脂B(樹脂B)を含むインキ組成物として、表2の処方にて、比較例2及び実施例8~14のインキ組成物を調製した。インキ組成物の調製に際しては、各成分を混合した後、40℃に加熱したロールミルにて混練を行った。なお、表2でインキ組成物の調製に用いた特定溶剤は、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルである。
【0062】
[実施例15~19]
アルキッド樹脂を含まないインキ組成物として、表3の処方にて、実施例15~19のインキ組成物を調製した。インキ組成物の調製に際しては、各成分を混合した後、40℃に加熱したロールミルにて混練を行った。なお、表3でインキ組成物の調製に用いた特定溶剤は、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルである。
【0063】
なお、表1~3に記載した各配合量は、質量部である。また、表1~3において、「着色顔料」はフタロシアニンブルー15:3であり、「中和剤」はジブチルアミンであり、「硬化剤」はフルエーテル型メチル化メラミン樹脂(オルネクス社製、Cymel303LF)である。
【0064】
[流動性評価]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、スプレッドメーターにてフロー値を測定し、フロー傾斜(スロープ)値にて流動性を評価した。なお、フロー傾斜値とは、スプレッドメーターで100秒後の広がり直径をmm単位で計った数値から、10秒後の広がり直径をmm単位で計った数値を差し引いた数値であり、この値が大きいほど流動性が良好となる。評価基準は下記の通りとし、その結果を表1~3の「流動性」欄に示した。
○:フロー傾斜値が4.0以上である
△:フロー傾斜値が2.0以上4.0未満である
×:フロー傾斜値が2.0未満である
【0065】
[水性OPニスのハジキ評価]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、金属片に展色したインキ組成物の塗膜上に水性OPニスを塗布し、塗布された水性OPニスのハジキ、もぐり込みの有無を目視で調べて評価した。評価基準は下記の通りとし、その結果を表1~3の「ハジキ評価」欄に示した。
○:ハジキが全く見られず、光沢も良好である
△:ハジキは殆ど見られないが、やや光沢が低下している(実用上問題なし)
×:ハジキやOPニスのもぐり込みの傾向が見られる
【0066】
[耐ミスチング評価]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、インキ組成物1.3ccをとってインコメーターの回転ローラーに塗布し、均一にならした後、1200rpmで1分間回転させた。この間、ローラーの下に白紙を置いておき、その上へのミスチングの多少を比較した。測定はローラーを30℃に保って行った。評価基準は下記の通りとし、その結果を表1~3の「耐ミスチング性」欄に示した。
◎:測定前後の白紙の質量変化が20mg未満である
○:測定前後の白紙の質量変化が20mg以上、40mg未満である
△:測定前後の白紙の質量変化が40mg以上、60mg未満である
×:測定前後の白紙の質量変化が60mg以上である
【0067】
[鉛筆硬度]
各実施例及び比較例のインキ組成物のそれぞれについて、RIテスター(株式会社明製作所製)4分割ロールを用いてインキ組成物0.1ccをアルミニウム板上に展色し、得られた展色片を電気オーブンで200℃にて2分間加熱した。その後、展色片を室温に戻し、JIS K5400に基づき展色表面の鉛筆硬度を測定した。その結果を表1~3の「鉛筆硬度」欄に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表1~3に示すように、本発明のインキ組成物は、比較例のインキ組成物に比べて、インキ組成物の流動性と水性OPニスのハジキの面で両立されていることがわかる。特に、表1の比較例1と実施例1とを対比すると、ロジン変性樹脂であるマレイン化ロジンが配合されることにより、インキ組成物の流動性と水性OPニスのハジキの両方が改善されることがわかる。また、実施例1と実施例2とを対比すると、ロジン変性樹脂であるマレイン化ロジンをゲル化ワニスとすることで、耐ミスチング性や鉛筆硬度の向上が見られた。さらに、表2の実施例13と実施例14とを対比すると、特定溶剤が増加することにより水性OPニスのハジキがより改善されることが理解され、この結果から、特定溶剤の添加量が組成物全体に対して20質量%程度以上であるのが好ましいと理解される。
前記ロジン変性樹脂が、前記溶剤及び2価以上の金属アルコキシ化合物とともにゲル化ワニスとされた状態で組成物に添加されることを特徴とする請求項1記載の金属印刷用インキ組成物。
前記ロジン変性樹脂が、その構造中にマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及び無水フマル酸からなる群より選択される少なくとも一つを由来とする部位を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の金属印刷用インキ組成物。