(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086573
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】軟質部材の取付構造
(51)【国際特許分類】
B43L 19/00 20060101AFI20220602BHJP
B43K 29/02 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
B43L19/00 C
B43K29/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198657
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕輔
(57)【要約】
【課題】軟質部材を容易に着脱でき、また、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができる軟質部材の取付構造を提供する。
【解決手段】筒体3の上端部に軸方向上方に開口する取付孔331を設け、筒体3に軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝332aと、案内溝332aの下端部と周方向に直交する直交溝332bと、を含む係合溝332を備え、係合溝は少なくとも径方向内方に貫設される。軟質部材2の外周面は大径部21と、大径部21の下方に連設される小径部24と、大径部21と小径部24との間に形成される肩部23とからなり、小径部24の外周面に外向突起25を形成し、係合溝332に外向突起25を係合させた際、肩部23と筒体3の上端とが軸方向に当接するとともに、筒体3に対する軟質部材2の上下方向の移動を阻止してなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具の軸筒またはキャップ等の筒体の上端部に軟質部材を着脱自在に取り付ける軟質部材の取付構造であって、
前記筒体の上端部に軸方向上方に開口する取付孔を設け、前記筒体に軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝と、前記案内溝の下端部と周方向に直交する直交溝と、を含む係合溝を備え、前記係合溝は少なくとも径方向内方に貫設され、前記軟質部材の外周面は、大径部と、前記大径部の下方に一体に連設される小径部と、前記大径部と前記小径部との間に形成される肩部とからなり、前記小径部の外周面に外向突起を形成し、前記係合溝に前記外向突起を係合させ前記軟質部材と前記筒体とを係合させた際、前記肩部と前記筒体の上端とが軸方向に当接するとともに、筒体に対する前記軟質部材の上下方向の移動を阻止してなることを特徴とする軟質部材の取付構造。
【請求項2】
前記係合溝は、前記直交溝の終端部から軸方向上方又は下方に延びる固定溝を備え、前記係合溝のうち少なくとも前記直交溝と前記固定溝は径方向に貫設される請求項1に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項3】
前記直交溝の上下方向の幅は、前記外向突起の上下方向の幅より小さい請求項1又は2に記載の軟質部材の取付構造。
【請求項4】
前記外向突起は、径方向外方に突出する円柱状の突起である請求項1乃至3のいずれかに記載の軟質部材の取付構造。
【請求項5】
前記筒体は前記案内溝と前記直行溝とによって形成される角部に面取り部が設けられる請求項1乃至4のいずれかに記載の軟質部材の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質部材の取付構造に関する。詳細には、筆記具の軸筒またはキャップ等の筒体の上端部に軟質部材を取り付ける軟質部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができ、装着された軟質部材を容易に予備の軟質部材に交換することができる熱変色性筆記具が開示されている。当該熱変色性筆記具の構成は、頭冠と、軸筒と、軟質部材と、予備軟質部材と、を備える。軸筒の第1の頭冠装着部は、頭冠の軸筒装着孔に螺合により着脱自在に装着される。軟質部材及び予備軟質部材の第2の頭冠装着部は、頭冠の軟質部材装着孔に螺合により着脱自在に装着される。予備軟質部材は、軸筒内部及び前記頭冠内部に収容される。軟質部材は予備軟質部材と交換可能である。当該熱変色性筆記具によれば、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができると共に、装着された軟質部材を、容易に予備の軟質部材又は摩擦部に交換することができる。
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、軟質部材を着脱するための工具等が不要であり手軽に着脱はできるものの、螺合という動作で着脱するには軟質部材を複数回回転させる必要があり、使用者にとっては手間がかかると感じるおそれがある。また、螺合時の回転量の不足により軟質部材を最後まで確実に螺合させなかった場合には、使用中にゆるんだり脱落したりするおそれがあり、摩擦の際に軟質部材がぐらつき、安定した適切な摩擦ができないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような知見に鑑みてなされたものであり、軟質部材を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に軟質部材を着脱でき、また、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができる軟質部材の取付構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記具の軸筒またはキャップ等の筒体の上端部に軟質部材を着脱自在に取り付ける軟質部材の取付構造であって、前記筒体の上端部に軸方向上方に開口する取付孔を設け、前記筒体に軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝と、前記案内溝の下端部と周方向に直交する直交溝と、を含む係合溝を備え、前記係合溝は少なくとも径方向内方に貫設され、前記軟質部材の外周面は、大径部と、前記大径部の下方に一体に連設される小径部と、前記大径部と前記小径部との間に形成される肩部とからなり、前記小径部の外周面に外向突起を形成し、前記係合溝に前記外向突起を係合させ前記軟質部材と前記筒体とを係合させた際、前記肩部と前記筒体の上端とが軸方向に当接するとともに、筒体に対する前記軟質部材の上下方向の移動を阻止してなることを要件とする。
【0007】
本発明によれば、前記筒体の上端部に軸方向上方に開口する取付孔を設け、前記筒体に軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝と、前記案内溝の下端部と周方向に直交する直交溝と、を含む係合溝を備え、前記係合溝は少なくとも径方向内方に貫設され、前記軟質部材の外周面は、大径部と、前記大径部の下方に一体に連設される小径部と、前記大径部と前記小径部との間に形成される肩部とからなり、前記小径部の外周面に外向突起を形成し、前記係合溝に前記外向突起を係合させ前記軟質部材と前記筒体とを係合させることで、軟質部材を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に軟質部材を着脱できる。また、前記係合溝に前記外向突起を係合させ前記軟質部材と前記筒体とを係合させた際、前記肩部と前記筒体の上端とが軸方向に当接するとともに、筒体に対する前記軟質部材の上下方向の移動を阻止してなることで、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく、安定した適切な摩擦ができる。
【0008】
また、前記係合溝は、前記直交溝の終端部から軸方向上方又は下方に延びる固定溝を備え、前記係合溝のうち少なくとも前記直交溝と前記固定溝は径方向に貫設されることが好ましい。
【0009】
これによれば、前記外向突起が前記固定溝に入ることで固定され、意図せず軟質部材と筒体との係合が解除されることが無く、軟質部材が容易に軸方向に移動することが無い。また、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく、摩擦の際により安定した適切な摩擦ができる。また、前記係合溝のうち少なくとも前記直交溝と前記固定溝は径方向に貫設されることによれば、直交溝と固定溝を、キャビティが2つ以上に分割される、いわゆる割型と称される形式の金型で成形することができ、直交溝と固定溝の形成が容易となる。また、直交溝と固定溝の溝をより深く形成することができ、外向突起の確実な係合が可能となる。
【0010】
また、前記直交溝の上下方向の幅は、前記外向突起の上下方向の幅より小さいことが好ましい。
【0011】
これによれば、前記外向突起が前記直交溝を通過している間は、外向突起が軸方向に圧縮された状態で通過する。その後、外向突起が直交溝から固定溝に移動した際には、外向突起の軸方向の圧縮が解除され、前記軟質部材と前記筒体とが係合される。すなわち、固定溝に外向突起を係合させ軟質部材と筒体とを係合させた後は、外向突起が不意に固定溝から直交溝に戻ることが無く、不意に筒体から軟質部材が脱落するおそれがない。
【0012】
また、前記外向突起は、径方向外方に突出する円柱状の突起であることが好ましい。
【0013】
これによれば、外向突起が案内溝から直交溝に移動する際に、直交溝への挿入を容易にすることができ、軟質部材の取付性を向上させることができる。
【0014】
また、前記筒体は前記案内溝と前記直交溝とによって形成される角部に面取り部が設けられることが好ましい。
【0015】
これによれば、外向突起が案内溝の下端部から直交溝に移動する際に、挿入抵抗が小さくなり、直交溝への挿入をより容易にすることができる。その結果、前記軟質部材と前記筒体との係合が容易となり、軟質部材の取付性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、軟質部材を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に着脱でき、また、摩擦の際に軟質部材がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができる軟質部材の取付構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態における熱変色性筆記具を示す正面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の軟質部材の斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態の頭冠を示す斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第1の工程を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第1実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第2の工程を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第3の工程を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第1実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第4の工程を示す斜視図である。
【
図8】本発明の第2実施形態の頭冠を示す斜視図である。
【
図9】本発明の第2実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第1の工程を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第2実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第2の工程を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第2実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第3の工程を示す斜視図である。
【
図12】本発明の第2実施形態の軟質部材と頭冠を装着する第4の工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で、筒体3において、「上」とは取付孔331側を指し、「下」とはその反対側を指す。また、本発明で、軟質部材2において、「下」とは取付孔331への挿入側を指し、「上」とはその反対側を指す。また、本実施形態の熱変色性筆記具1において、「上」とは軟質部材側を指し、「下」とはペン先5側を指す。
【0019】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
【0020】
図1乃至
図7に、本発明の第1実施形態を示す。
図1は、本発明の第1実施形態における筆記具を示す正面図であって、ペン先5(筆記体)が突出している状態を示す図である。
図2は、第1実施形態の軟質部材2の斜視図であり、
図3は、第1実施形態の頭冠33を示す斜視図である。
図4乃至
図7は、本実施形態の軟質部材2と頭冠33を装着する工程を順に示す斜視図である。
【0021】
図1に示す本実施形態の筆記具は、出没式のボールペンであり、前端に開口を有する筒体3(言い換えれば軸筒)を備えている。当該筒体3は、先細状の円筒体からなる前軸31と、当該前軸31の後端部と螺合または嵌合により取り付けられる円筒状の後軸32と、当該後軸32の後端部と螺合または嵌合により取り付けられる円筒状の頭冠33と、からなる。
【0022】
また、本実施形態の筆記具は、筆記体(不図示)の内部に熱変色性インキを備える熱変色性筆記具1である。筒体3の内部には、筒体3の軸方向に移動可能な筆記体が交換可能に収容されている。筆記体は、上方側にインク収容筒を有しており、当該インク収容筒の下方端にチップホルダー及びペン先5が固定されている。チップホルダー及びペン先5は、筆記体の移動に伴って、前軸31の前端開口から出没可能となっている。
【0023】
本実施形態の出没機構(不図示)は、回転カム機構を用いたサイドスライド式出没機構である。当該出没機構は、後軸32の上部内面に形成されたカム部と、該カム部に係合し且つ筆記体の後端に当接する回転部材と、該回転部材に係合し且つスライド孔より径方向外方に突出する操作部であるクリップ4と、前軸31内に収容され且つ筆記体を上方に付勢するコイルバネ(例えば圧縮コイルスプリング)とからなる。
【0024】
また、本実施形態の出没機構は、ペン先突出操作及びペン先没入操作のいずれもが操作部であるクリップ4を下方にスライド操作するダブルノック式である。具体的には、筆記体が没入している状態でクリップ4が下方にスライド移動されると、筆記体が下方側に移動され、チップホルダーの下方部(ペン先5)が前軸31の開口から突出する。そして、当該突出状態が、不図示のカム部と回転部材との係止作用によって維持される。
【0025】
チップホルダーの下方部が突出している状態(
図1の状態)でクリップ4が下方にスライド移動されると、不図示のカム部と回転部材の係止状態が解除される。これにより、コイルバネの作用により、チップホルダーが上方側に戻され、チップホルダーの下方部が前軸31の開口から退没する。
【0026】
出没機構は、これ以外にも、筒体3上方に設けた操作部を下方に押圧することによりペン先5が出没する後端ノック式、筒体3側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することによりペン先5が出没するサイドノック式、筒体3上方の操作部を回転操作することによりペン先5が出没する回転式等が挙げられる。
【0027】
・筆記体
筆記体は、ペン先5と、該ペン先5が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管と、該インキ収容管内に充填される熱変色性インキと、該熱変色性インキの後端に充填され且つ該熱変色性インキの消費に伴い前進する追従体(例えば高粘度流体)とからなる。本実施の形態の熱変色性筆記具1に適用される熱変色性インキ組成物を収容した筆記体は、筒体3内に1本収容されるが、本発明は、筒体3内に複数本の筆記体を備える多芯筆記具にも適用できる。
【0028】
ペン先5は、例えば、前端に回転可能にボールを抱持した金属製のボールペンチップのみからなる構成、またはボールペンチップの上方外面を保持した合成樹脂製のペン先ホルダーからなる構成が挙げられる。また、インキ収容管の後端開口部に、インキ収容管と外部とが通気可能な通気孔を備えた尾栓が取り付けられる。ペン先5の内部には、前端のボールを下方に押圧するスプリングが収容される。スプリングは、圧縮コイルスプリングの前端部にロッド部を備えた構成であり、ロッド部の前端がボール後面に接触している。非筆記時、スプリングの下方付勢によりボールがボールペンチップ前端の内向きの前端縁部内面に密接され、ペン先5の前端からのインキの漏出及びインキの蒸発を防止できる。
【0029】
・熱変色性インキ
本発明において、熱変色性インキは、可逆熱変色性インキが好ましい。可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、または、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独または併用して構成することができる。
【0030】
また、可逆熱変色性インキに含有される色材は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が好適に用いられる。
【0031】
・軟質部材
図1を参照して、本実施形態の軟質部材2について説明する。
図1に示すように、熱変色性筆記具1は軟質部材2を備える。軟質部材2は、筆記具の軸筒またはキャップ等の筒体3の上端部に着脱自在に設けられる。軟質部材2の大径部21の上方には摩擦部22を備える。本実施の形態において、軟質部材2は内部に熱変色性インキを内蔵し且つ該熱変色性インキを筆記体より吐出可能な熱変色性筆記具1の後端に設ける構成が好ましい。
【0032】
本実施の形態において、軟質部材2を構成する弾性材料は、弾性を有する合成樹脂(ゴム、エラストマー)が好ましく、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)又は2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物等が挙げられる。軟質部材2を構成する弾性を有する合成樹脂は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)ではなく、摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料が好ましい。軟質部材2は筆記具と別体の任意形状の部材である摩擦具とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具に軟質部材2を設けることにより、携帯性に優れたものとなる。
【0033】
軟質部材2は、ポリプロピレン樹脂及びスチレン系熱可塑性エラストマーの混合物、またはポリプロピレン樹脂及びポリプロピレン系熱可塑性エラストマーの混合物から形成されてもよい。混合物の配合比率がそれぞれ重量比で1:1~1:4であり、研磨剤、可塑剤、充填剤を含有せず、JIS K6251に規定されたデュロメータ硬度Aが70°~100°となる材質からなり、JIS S 6050-2002に規定する鉛筆描線の消し能力(消字率)が70%以下のものである可塑剤を含有しない低摩耗性の弾性材料から形成される。それによって軟質部材2は、擦過時に消しカスが生じにくく、熱変色性も優れているので有効である。
【0034】
軟質部材2は、摩擦部22による摩擦時に摩耗カス(消しカス)が殆ど生じない低摩耗性の弾性材料から形成されるが、摩擦する面の種類若しくは状態又は摩擦の方法によっては、少しずつ摩耗又は破損する可能性がある。摩耗又は破損した軟質部材2では適切な摩擦ができず、熱変色性インキの筆跡を摩擦し、その際に生じる摩擦熱で熱変色性インキの筆跡を熱変色させることが困難となるおそれがある。
【0035】
また、軟質部材2は、摩擦する面に鉛筆等で筆記された筆跡があった場合又は摩擦する面が汚れていた場合は、鉛筆等の芯のカス又は汚れが軟質部材2に転写され、軟質部材2が汚損する可能性がある。汚損した軟質部材2では、別の紙面等を摩擦した際に軟質部材2に付着した汚れ等を紙面に転写してしまい、紙面を汚してしまうおそれがある。
【0036】
軟質部材2が摩耗若しくは破損又は汚損等した場合に、摩耗若しくは破損又は汚損等した軟質部材2を新しい軟質部材2に交換することで再度適切な摩擦をすることが可能となる。
【0037】
図2に示すように、本実施形態の軟質部材2の外周面は、大径部21と、大径部21の下方に一体に連設される小径部24と、大径部21と小径部24との間に形成される肩部23とからなり、小径部24の外周面には外向突起25が形成される。これにより、係合溝332に外向突起25を係合させたときに、肩部23と外向突起25によって頭冠33(筒体3)を挟み込むことができ、軟質部材2と頭冠33(筒体3)を確実に係合させることができる。本実施形態においては、外向突起25は軸心を中心に対称位置に2か所配置してあるが、少なくとも1か所設けられてあればよい。
【0038】
また、
図2に示すように、外向突起25は径方向外方に突出する円柱状の突起である。これにより、係合溝332に外向突起25を係合させ軟質部材2と頭冠33(筒体3)とを係合させる際に、係合溝332中の外向突起25の移動が容易となる。また、外向突起25の形状は前述の円柱状の他にも、円錐台状、半球状、多角柱状の角部に面取り部を設けた形状でもよい。
【0039】
軟質部材2は、軸心方向に空気流路を備えることが好ましい。これにより、軟質部材2を幼児が誤って飲み込んだ場合でも、軟質部材2の空気流路が通気可能となり気道を確保することができ、窒息事故を回避できる。
【0040】
軟質部材2の大径部21の外面には、回転操作部を形成してもよい。なお、回転操作部とは、例えば、スパナ掛け可能な6角形や8角形等の二面幅部、又はローレット部等を挙げることができる。回転操作部を把持し操作することにより、軟質部材2の回転操作が容易になり、頭冠33(筒体3)と軟質部材2との容易な着脱が可能になる。
【0041】
・筒体
図1を参照して、本実施形態の筒体3について説明する。
図1に示すように、本実施形態の熱変色性筆記具1は、先細状の円筒体からなる前軸31と、当該前軸31の後端部と螺合または嵌合により取り付けられる円筒状の後軸32と、当該後軸32の後端部と螺合または嵌合により取り付けられる円筒状の頭冠33と、からなる筒体3を備えている。
【0042】
前軸31の前端には、筆記体のペン先5が突出可能な開口が軸方向に貫設されている。筒体3は、合成樹脂(例えば、ポリカーボネイト等)または金属により形成される。なお、筒体3は筆記具のキャップであってもよい。この場合、取付孔331はキャップの閉塞端側に形成される。
【0043】
図3に示すように、頭冠33(筒体3)は上端部に軸方向上方に開口する取付孔331を設け、軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝332aと、案内溝332aの下端部と周方向に直交する直交溝332bと、を含む係合溝332を備える。また、案内溝332aと直交溝332bは少なくとも径方向内方に貫設される。これによれば、軟質部材2を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に軟質部材2を着脱できる。また、直交溝332bは外向突起25が通過する際に外向突起25を圧縮する圧縮部332dを備える。
【0044】
また、
図3に示すように、係合溝332は、直交溝332bの終端部から軸方向上方に延びる固定溝332cを備える。これによれば、外向突起25が固定溝332cに入ることで固定され、意図せず軟質部材2と頭冠33(筒体3)との係合が解除されることが無く、軟質部材2が容易に軸方向に移動することが無い。また、摩擦の際に軟質部材2がぐらつくことがなく、摩擦の際により安定した適切な摩擦ができる。
【0045】
また、係合溝332のうち少なくとも直交溝332bと固定溝332cは径方向に貫設される。これにより、直交溝332bと固定溝332cを、キャビティが2つ以上に分割される、いわゆる割型と称される形式の金型で成形することができ、直交溝332bと固定溝332cの形成が容易となる。また、直交溝332bと固定溝332cの溝をより深く形成することができ、外向突起25の確実な係合が可能となる。
【0046】
また、
図3に示すように、直交溝332bの上下方向の幅は、外向突起25の上下方向の幅より小さい。これによれば、外向突起25が直交溝332bを通過している間は、外向突起25が軸方向に圧縮された状態で直交溝332b(圧縮部332d)を通過する。その後、外向突起25が直交溝332bから固定溝332cに移動した際には、外向突起25の軸方向の圧縮が解除され、軟質部材2と頭冠33(筒体3)とが係合される。すなわち、固定溝332cに外向突起25を係合させ軟質部材2と頭冠33(筒体3)とを係合させた後は、外向突起25が不意に固定溝332cから直交溝332bに戻ることが無く、不意に頭冠33(筒体3)から軟質部材2が脱落するおそれがない。
【0047】
また、
図3に示すように、筒体3は案内溝332aと直交溝332bとによって形成される角部332eに面取り部332fが設けられる。なお、面取り部とは、例えば、C面、R面等が形成された部分を指す。これによれば、外向突起25が案内溝332aの下端部から直交溝332bに移動する際に、挿入抵抗が小さくなり、直交溝332bへの挿入をより容易にすることができる。その結果、軟質部材2と筒体3との係合が容易となり、軟質部材2の取付性を向上させることができる。
【0048】
また、
図3に示すように、頭冠33(筒体3)は、直交溝332bと固定溝332cとによって形成される第2の角部に段部332gが設けられる。これにより、軟質部材2と頭冠33(筒体3)とを係合させた際、より確実な抜け止め効果を得ることができ、不意に軟質部材2が脱落することを防止することができる。
【0049】
また、該第2の角部に第2の面取り部が設けられてもよい。これにより、軟質部材2を交換するために外向突起25を固定溝332cから直交溝332bに挿入させる際に、挿入抵抗が小さくなり、軟質部材2を交換する際の軟質部材2と頭冠33(筒体3)との係合の解除が容易となる。
【0050】
本発明は、係合溝332と前述の軟質部材2の外向突起25とを係合させて、頭冠33(筒体3)に軟質部材2を装着する。係合溝332に外向突起25を係合させ軟質部材2と頭冠33(筒体3)とを係合させた際、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に当接するとともに、頭冠33(筒体3)に対する軟質部材2の上下方向の移動を阻止することができる。
【0051】
以下に、
図4乃至
図7を参照して第1実施形態の頭冠33(筒体3)に軟質部材2を装着する工程を順に説明する。
【0052】
図4は、第1実施形態の軟質部材2と頭冠33を装着する第1工程(軟質部材2を頭冠33に装着する前の状態)を示す斜視図である。
図4に示すように、軸心を基準とした外向突起25と案内溝332aの回転方向の位置が合っている状態を示しており、該状態から軟質部材2の外向突起25を頭冠33の案内溝332aに挿入していく。案内溝332aの周方向の幅は、外向突起25の周方向の幅よりも大きいか略同一であることが好ましい。これにより、外向突起25を抵抗なく容易に案内溝332aに挿入していくことができる。
【0053】
図5は、第1実施形態の軟質部材2と頭冠33を装着する第2工程を示す斜視図である。
図5に示すように、外向突起25の案内溝332aへの装着が完了した状態を示している。外向突起25が案内溝332aの下端部まで装着されており、該下端部から周方向に直交する直交溝332bに外向突起25を移動することができる状態となっている。
【0054】
図6は、第1実施形態の軟質部材2と頭冠33を装着する第3工程を示す斜視図である。
図6に示すように、外向突起25が直交溝332bを通過している状態を示している。直交溝332bの上下方向の幅は、外向突起25の上下方向の幅より小さいため、外向突起25が上下方向に圧縮された状態で直交溝332b(圧縮部332d)を通過する。また、この際に、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に当接する。
【0055】
なお、筒体3(頭冠33)は案内溝332aと直交溝332bとによって形成される角部332eに面取り部332fが設けられている。これにより、外向突起25が案内溝332aの下端部から直交溝332bに挿入される際に、挿入抵抗が小さくなり、外向突起25を容易に直交溝332bに挿入することができる。
【0056】
図7は、第1実施形態の軟質部材2と頭冠33を装着する第4工程を示す斜視図である。
図7に示すように、外向突起25が直交溝332bを通過し終え固定溝332cまで移動され、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に当接し、軟質部材2と頭冠33の装着が完了した状態を示している。
【0057】
これにより、軟質部材2に軸方向外方の力が加わった場合でも、外向突起25が固定溝332cに係合されており、軟質部材2が抜けることがない。また、軟質部材2に回転方向の力(軟質部材側から見た時の反時計回りの力)が加わった場合でも、直交溝332bと固定溝332cとによって形成される第2の角部に設けられた段部332gが、外向突起25が不意に直交溝332bに侵入することを防ぐ。その結果、軟質部材2が不意に抜けてしまうおそれがない。
【0058】
一方、意図して軟質部材2を取り外す場合(すなわち軟質部材2を新たな軟質部材に交換する場合)は、軟質部材2に回転方向の力を加え、外向突起25を固定溝332cから直交溝332bに移動させる。その後、外向突起25を直交溝332bから案内溝332aに移動させると軟質部材2を取り外すことができる。
【0059】
<第2実施形態>
以下、図面を参照して本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、頭冠33(筒体3)の形態が、第1実施形態とは異なっている。第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0060】
図8乃至
図12に、本発明の第2実施形態を示す。
図8は、第2実施形態の頭冠33(筒体3)を示す斜視図である。
図9乃至
図12は、本実施形態の軟質部材2と頭冠33(筒体3)を装着する工程を順に示す斜視図である。
【0061】
・筒体
図8に示すように、係合溝332は、直交溝332bの終端部から軸方向下方に延びる固定溝332cを備える。これによれば、外向突起25が固定溝332cに入ることで固定され、意図せず軟質部材2と頭冠33(筒体3)との係合が解除されることが無く、軟質部材2が容易に軸方向に移動することが無い。また、摩擦の際に軟質部材2がぐらつくことがなく、摩擦の際により安定した適切な摩擦ができる。
【0062】
以下に、
図9乃至
図12を参照して第2実施形態の頭冠33(筒体3)に軟質部材2を装着する工程を順に説明する。
【0063】
図9は、第2実施形態の軟質部材2と頭冠33(筒体3)を装着する第1工程(軟質部材2を頭冠33に装着する前の状態)を示す斜視図である。
図9に示すように、軸心を基準とした外向突起25と案内溝332aの回転方向の位置が合っている状態を示しており、該状態から軟質部材2の外向突起25を頭冠33(筒体3)の案内溝332aに挿入していく。案内溝332aの周方向の幅は、外向突起25の周方向の幅よりも大きいか略同一であることが好ましい。これにより、外向突起25を抵抗なく容易に案内溝332aに挿入していくことができる。
【0064】
図10は、第2実施形態の軟質部材2と頭冠33(筒体3)を装着する第2工程を示す斜視図である。
図10に示すように、外向突起25の案内溝332aへの装着が完了した状態を示している。外向突起25が案内溝332aの下端部まで装着されており、該下端部から周方向に直交する直交溝332bに外向突起25を移動することができる状態となっている。なお、この際に、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に離間している。
【0065】
図11は、第2実施形態の軟質部材2と頭冠33(筒体3)を装着する第3工程を示す斜視図である。
図11に示すように、外向突起25が直交溝332bを通過している状態を示している。直交溝332bの上下方向の幅は、外向突起25の上下方向の幅より小さいため、外向突起25が上下方向に圧縮された状態で直交溝332b(圧縮部332d)を通過する。また、この際に、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に離間している。
【0066】
なお、頭冠33(筒体3)は案内溝332aと直交溝332bとによって形成される角部332eに面取り部332fが設けられている。これにより、外向突起25が案内溝332aの下端部から直交溝332bに挿入される際に、挿入抵抗が小さくなり、外向突起25を容易に直交溝332bに挿入することができる。
【0067】
図12は、第2実施形態の軟質部材2と頭冠33(筒体3)を装着する第4工程を示す斜視図である。
図12に示すように、外向突起25が直交溝332bを通過し終え固定溝332cまで移動され、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に当接し、軟質部材2と頭冠33(筒体3)の装着が完了した状態を示している。なお、軟質部材2と頭冠33(筒体3)の装着が完了した状態で、肩部23と頭冠33(筒体3)の上端とが軸方向に当接する。
【0068】
これにより、軟質部材2に軸方向外方の力が加わった場合でも、外向突起25が固定溝332cに係合されており、軟質部材2が抜けることがない。また、軟質部材2に回転方向の力(軟質部材側から見た時の反時計回りの力)が加わった場合でも、直交溝332bと固定溝332cとによって形成される第2の角部に設けられた段部332gが、外向突起25が不意に直交溝332bに侵入することを防ぐ。その結果、軟質部材2が不意に抜けてしまうおそれがない。
【0069】
一方、意図して軟質部材2を取り外す場合(すなわち軟質部材2を新たな軟質部材に交換する場合)は、軟質部材2に回転方向の力を加え、外向突起25を固定溝332cから直交溝332bに移動させる。その後、外向突起25を直交溝332bから案内溝332aに移動させると軟質部材2を取り外すことができる。
【0070】
以上のような構成の本発明は、以下のように作用する。
【0071】
本発明によれば、筒体3の上端部に軸方向上方に開口する取付孔331を設け、筒体3に軸方向上方に開口し軸方向下方に延びる案内溝332aと、案内溝332aの下端部と周方向に直交する直交溝332bと、を含む係合溝332を備え、係合溝332は少なくとも径方向内方に貫設され、軟質部材2の外周面は、大径部21と、大径部21の下方に一体に連設される小径部24と、大径部21と小径部24との間に形成される肩部23とからなり、小径部24の外周面に外向突起25を形成し、係合溝332に外向突起25を係合させ軟質部材2と筒体3とを係合させることで、軟質部材2を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に軟質部材2を着脱できる。また、係合溝332に外向突起25を係合させ軟質部材2と筒体3とを係合させた際、肩部23と筒体3の上端とが軸方向に当接するとともに、筒体3に対する軟質部材2の上下方向の移動を阻止してなることで、摩擦の際に軟質部材2がぐらつくことがなく、安定した適切な摩擦ができる。
【0072】
また、係合溝332は、直交溝332bの終端部から軸方向上方又は下方に延びる固定溝332cを備え、係合溝332のうち少なくとも直交溝332bと固定溝332cは径方向に貫設されることによれば、外向突起25が固定溝332cに入ることで固定され、意図せず軟質部材2と筒体3との係合が解除されることが無く、軟質部材2が容易に軸方向に移動することが無い。また、摩擦の際に軟質部材2がぐらつくことがなく、摩擦の際により安定した適切な摩擦ができる。また、係合溝332のうち少なくとも直交溝332bと固定溝332cは径方向に貫設されることによれば、直交溝332bと固定溝332cを、キャビティが2つ以上に分割される、いわゆる割型と称される形式の金型で成形することができ、直交溝332bと固定溝332cの形成が容易となる。また、直交溝332bと固定溝332cの溝をより深く形成することができ、外向突起25の確実な係合が可能となる。
【0073】
また、直交溝332bの上下方向の幅は、外向突起25の上下方向の幅より小さいことによれば、外向突起25が直交溝332bを通過している間は、外向突起25が軸方向に圧縮された状態で直交溝332b(圧縮部332d)通過する。その後、外向突起25が直交溝332bから固定溝332cに移動した際には、外向突起25の軸方向の圧縮が解除され、軟質部材2と筒体3とが係合される。すなわち、固定溝332cに外向突起25を係合させ軟質部材2と筒体3とを係合させた後は、外向突起25が不意に固定溝332cから直交溝332bに戻ることが無く、不意に筒体3から軟質部材2が脱落するおそれがない。
【0074】
また、外向突起25は、径方向外方に突出する円柱状の突起であることによれば、外向突起25が案内溝332aから直交溝332bに移動する際に、直交溝332bへの挿入を容易にすることができ、軟質部材2の取付性を向上させることができる。
【0075】
また、筒体3は案内溝332aと直交溝332bとによって形成される角部332eに面取り部332fが設けられることによれば、外向突起25が案内溝332aの下端部から直交溝332bに移動する際に、挿入抵抗が小さくなり、直交溝332bへの挿入をより容易にすることができる。その結果、軟質部材2と筒体3との係合が容易となり、軟質部材2の取付性を向上させることができる。
【0076】
以上の通り、本発明の軟質部材2の取付構造によれば、軟質部材2を着脱するための工具等が不要で、手間がかからず容易に着脱でき、また、摩擦の際に軟質部材2がぐらつくことがなく安定した適切な摩擦ができる軟質部材2の取付構造を提供できる。
【符号の説明】
【0077】
1 熱変色性筆記具
2 軟質部材
21 大径部
22 摩擦部
23 肩部
24 小径部
25 外向突起
3 筒体
31 前軸
32 後軸
33 頭冠
331 取付孔
332 係合溝
332a 案内溝
332b 直交溝
332c 固定溝
332d 圧縮部
332e 角部
332f 面取り部
332g 段部
4 クリップ
5 ペン先