(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086670
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220602BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198817
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】立松 慧大
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
(72)【発明者】
【氏名】高見 知寛
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 拓也
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE49
5H505FF01
5H505FF05
5H505HA05
5H505HA06
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505KK05
5H505LL22
5H505LL24
5H770AA07
5H770BA05
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770FA13
5H770HA02X
5H770HA03W
5H770JA17W
5H770LA08W
5H770QA27
5H770QA31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放電に伴いインバータ回路の入力直流電圧が低下した際に電動モータに円滑に放電することができる車載電動圧縮機を提供する。
【解決手段】車両空調装置20を含む車載機器10において、車載用電動圧縮機30の制御部44は、車載機器130、140のコンデンサC1、C2に蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行い、強制同期運転中においてインバータ回路43への入力直流電圧Vinの低下に伴い入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと電動モータ33の回転数を下げる。規定値をKとしたとき、規定値は、下記式(1)を満たす値である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、センサレス運転により前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
スイッチング素子を有するインバータ回路と、
前記インバータ回路のスイッチング素子を制御して直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行い、前記強制同期運転中において前記インバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い前記入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと前記電動モータの回転数を下げ、
前記規定値をKとしたとき、前記規定値は、下記式(1)を満たす値である
【数1】
ことを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記入力直流電圧が低下し目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項3】
前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記電動モータの運転を停止し、再起動後に前記強制同期運転を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項4】
流体を圧縮する圧縮部と、センサレス運転により前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
スイッチング素子を有するインバータ回路と、
前記インバータ回路のスイッチング素子を制御して直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行い、前記強制同期運転中において前記インバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い前記入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、実測の前記変調率をフィードバックして前記変調率が前記規定値となるように指令モータ回転数を制御し、
前記規定値をKとしたとき、前記規定値は、下記式(1)を満たす値である
【数2】
ことを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項5】
前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記電動モータの運転を停止し、再起動後に前記強制同期運転を行うことを特徴とする請求項4に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の車載電動機用の制御装置においては、車両衝突時、直流電源とコンデンサの間をリレーで開放するとコンデンサに電荷が貯まったまま残るので、これを放電させるべく、電動機にトルクを発生させるように駆動回路を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動モータにトルクを発生させることで放電を行うが、コンデンサ両極電圧(=インバータ回路の入力直流電圧)は放電に伴い低下する。一方、ロータは回転しているため誘起電圧はモータ回転数に応じて発生し続けている。放電でインバータ回路の入力直流電圧が低下し、この入力直流電圧が誘起電圧に対して小さくなると、モータ電流を流せなくなる。そのためトルクが出せずロータの回転がついてこれなくなり、ロータの回転がついてこれないことでモータ電流波形が乱れ、騒音・過電流の発生や放電の遅れが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車載電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、センサレス運転により前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、スイッチング素子を有するインバータ回路と、前記インバータ回路のスイッチング素子を制御して直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する制御部と、を備え、前記制御部は、車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行い、前記強制同期運転中において前記インバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い前記入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと前記電動モータの回転数を下げ、前記規定値をKとしたとき、前記規定値は、下記式(1)を満たす値であることを要旨とする。
【0006】
【数1】
これによれば、制御部により、車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転が行われる。そして、制御部により、強制同期運転中においてインバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと電動モータの回転数が下げられる。その結果、放電に伴いインバータ回路の入力直流電圧が低下した際に電動モータに円滑に放電することができる。
【0007】
また、車載用電動圧縮機において、前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記入力直流電圧が低下し目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返すとよい。これによれば、目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返すことで、放電効率を高めることができる。
【0008】
また、車載用電動圧縮機において、前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記電動モータの運転を停止し、再起動後に前記強制同期運転を行うとよい。これによれば、電動モータの運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行うことにより、一旦停止を挟むことで強制同期運転を開始しやすくすることができる。
【0009】
上記課題を解決するための車載電動圧縮機は、流体を圧縮する圧縮部と、センサレス運転により前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、スイッチング素子を有するインバータ回路と、前記インバータ回路のスイッチング素子を制御して直流電源からの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給する制御部と、を備え、前記制御部は、車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行い、前記強制同期運転中において前記インバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い前記入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、実測の前記変調率をフィードバックして前記変調率が前記規定値となるように指令モータ回転数を制御し、前記規定値をKとしたとき、前記規定値は、下記式(1)を満たす値であることを要旨とする。
【0010】
【数2】
これによれば、制御部により、車載機器のコンデンサに蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転が行われる。そして、制御部により、強制同期運転中においてインバータ回路への入力直流電圧の低下に伴い入力直流電圧に対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、実測の変調率をフィードバックして変調率が規定値となるように指令モータ回転数が制御される。その結果、放電に伴いインバータ回路の入力直流電圧が低下した際に電動モータに円滑に放電することができる。
【0011】
また、車載用電動圧縮機において、前記制御部は、前記放電要求を受けると、前記電動モータの運転を停止し、再起動後に前記強制同期運転を行うとよい。これによれば、電動モータの運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行うことにより、一旦停止を挟むことで強制同期運転を開始しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放電に伴いインバータ回路の入力直流電圧が低下した際に電動モータに円滑に放電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態における車載用電動圧縮機を模式的に示す一部破断図。
【
図2】インバータ装置及びその周辺の構成を示すブロック図。
【
図4】(a),(b),(c)はモータ回転数、モータ電流、インバータ回路の入力直流電圧の推移を示すタイムチャート。
【
図5】インバータ回路の入力直流電圧とモータ回転数との関係における特性図。
【
図6】第2の実施形態を説明するためのフローチャート。
【
図8】第2の実施形態を説明するための制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0015】
図1に示すように、車載機器10は車両空調装置20を含む。車両空調装置20は、車載用電動圧縮機30と、車載用電動圧縮機30に対して冷媒を供給する外部冷媒回路100とを備えている。外部冷媒回路100は、蒸発器、凝縮器、膨張弁などを有している。車両空調装置20は、車載用電動圧縮機30によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路100によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車両の室内の冷暖房を行う。
【0016】
図2に示すように、車両空調装置20は、当該車両空調装置20の全体を制御する空調ECU80を備えている。空調ECU80は、車内温度や設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機30に対してオン/オフ指令等といった各種指令を送信する。
【0017】
図1に示すように、車載用電動圧縮機30は、外部冷媒回路100から冷媒を内部に導入する吸入口31aを有するハウジング31と、圧縮部32と、電動モータ33とを備えている。圧縮部32及び電動モータ33は、ハウジング31内に収容される。
【0018】
ハウジング31は、全体として略円筒形状である。ハウジング31には、冷媒が吐出される吐出口31bが形成されている。
圧縮部32は、ハウジング31内の冷媒を吸引圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口31bから吐出させるものである。圧縮部32の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0019】
電動モータ33は、三相モータであって、圧縮部32を駆動させるものである。電動モータ33は、ハウジング31に対して回転可能に支持された円柱状の回転軸34と、当該回転軸34に対して固定された円筒形状のロータ35と、ハウジング31に固定されたステータ36とを有する。ロータ35は、磁石35aが埋設された円筒形状のロータコア35bを有している。磁石35aは永久磁石である。回転軸34の軸線方向と、円筒形状のハウジング31の軸線方向とは一致している。ステータ36は、円筒形状のステータコア36aと、当該ステータコア36aに形成されたティースに捲回されたコイル36bとを有している。ロータ35及びステータ36は、回転軸34の径方向に対向している。
【0020】
車載用電動圧縮機30は、電動モータ33を駆動するインバータ装置40と、当該インバータ装置40が収容されたケース41を備えている。電動モータ33のコイル36bとインバータ装置40とは電気的に接続されている。ケース41は、固定具としてのボルト42によってハウジング31に固定されている。
【0021】
車載用電動圧縮機30は、ハウジング31内に、圧縮部32と、圧縮部32を駆動する電動モータ33が配置されるとともに電動モータ33に電力を供給するインバータ装置40が一体化されている。そして、電動モータ33により圧縮部32が駆動されると冷媒が吸入口31aからハウジング31内に吸入されて回転軸34の軸線方向に冷媒が流れ、圧縮部32に吸入されて圧縮部32で冷媒が圧縮された後に吐出口31bから吐出される。
【0022】
図2に示すように、インバータ装置40は、スイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路43と、制御部44を備える。制御部44は、インバータ回路43のスイッチング素子Q1~Q6を制御して直流電源としての高圧バッテリ110からの直流電力を交流電力に変換して電動モータ33に供給するためのものである。制御部44は、ドライブ回路45と、PWM制御部46と、コントローラ47を備えている。
【0023】
インバータ回路43において正極母線Lpと負極母線Lnとの間には高圧直流電圧が印加される。正極母線Lpと負極母線Lnとの間にu相の上下のアームを構成するスイッチング素子Q1,Q2が直列に接続されている。同様に、正極母線Lpと負極母線Lnとの間にv相の上下のアームを構成するスイッチング素子Q3,Q4が直列に接続されている。また、正極母線Lpと負極母線Lnとの間にw相の上下のアームを構成するスイッチング素子Q5,Q6が直列に接続されている。スイッチング素子Q1,Q2による直列回路の中間点に電動モータ33のコイルが接続されている。同様に、スイッチング素子Q3,Q4による直列回路の中間点に電動モータ33のコイルが接続されている。また、スイッチング素子Q5,Q6による直列回路の中間点に電動モータ33のコイルが接続されている。各スイッチング素子Q1~Q6は、それぞれ、IGBTよりなる。スイッチング素子Q1~Q6には帰還ダイオードD1~D6が逆並列接続されている。
【0024】
u相用のスイッチング素子Q2と負極母線Lnとを繋ぐ配線に電流センサ48が設けられている。v相用のスイッチング素子Q4と負極母線Lnとを繋ぐ配線に電流センサ49が設けられている。w相用のスイッチング素子Q6と負極母線Lnとを繋ぐ配線に電流センサ50が設けられている。このように、インバータ装置40は、電動モータ33に流れる電流の値を検出する電流センサ48,49,50を備える。
【0025】
本実施形態では回転位置センサを用いておらず位置センサレス化が図られている。即ち、電動モータ33は、センサレス運転により圧縮部32を駆動するモータである。
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子にはドライブ回路45が接続されている。ドライブ回路45にはPWM制御部46が接続されている。PWM制御部46にはコントローラ47が接続されている。
【0026】
コントローラ47は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0027】
コントローラ47は、空調ECU80と電気的に接続されており、空調ECU80からの指令に基づいて、PWM制御部46及びドライブ回路45を介して各スイッチング素子Q1~Q6を周期的にオンオフさせる。詳細には、PWM制御部46は、各スイッチング素子Q1~Q6をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、ドライブ回路45は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Q1~Q6のオンオフ制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換して電動モータ33(コイル36b)に供給することができる。
【0028】
インバータ装置40は電圧センサ51を有する。電圧センサ51により正極母線Lpと負極母線Lnとの間におけるインバータ回路43の入力直流電圧Vinが検出される。電圧センサ51によるインバータ回路43の入力直流電圧Vinの検出結果がコントローラ47に送られ、コントローラ47はインバータ回路43の入力直流電圧Vinを検知することができる。
【0029】
図2に示すように、車載機器10は、システムメインリレー120と、機器(機器A)130と、機器(機器B)140と、車両ECU90を備えている。
図2において車両に搭載された高圧バッテリ110は例えば400Vバッテリである。高圧バッテリ110の正極から高圧バスラインLhv1が延びているとともに高圧バッテリ110の負極から高圧バスラインLhv2が延びている。高圧バスラインLhv1,Lhv2に対し車載用電動圧縮機30のインバータ装置40、及び、その他の車載の機器130,140が接続されている。
【0030】
システムメインリレー120は正極端子用接点である。高圧バッテリ110の正極から延びる高圧バスラインLhv1にはシステムメインリレー120を介してインバータ回路43の正極母線Lpが接続されている。また、高圧バッテリ110の負極から延びる高圧バスラインLhv2にはインバータ回路43の負極母線Lnが接続されている。
【0031】
また、高圧バッテリ110の正極から延びる高圧バスラインLhv1にはシステムメインリレー120を介して機器(機器A)130が接続されている。高圧バッテリ110の負極から延びる高圧バスラインLhv2には機器(機器A)130が接続されている。また、高圧バッテリ110の正極から延びる高圧バスラインLhv1にはシステムメインリレー120を介して機器(機器B)140が接続されている。高圧バッテリ110の負極から延びる高圧バスラインLhv2には機器(機器B)140が接続されている。
【0032】
機器(機器A)130には、正負の高圧バスラインLhv1,Lhv2間にコンデンサC1が設けられている。機器(機器B)140には、正負の高圧バスラインLhv1,Lhv2間にコンデンサC2が設けられている。コンデンサC1,C2は、例えば入力フィルタ用コンデンサである。
【0033】
車両ECU90にはシステムメインリレー120が接続されている。システムメインリレー120は車両ECU90を介して車両のスタートキーのオン操作により閉路され、車両のスタートキーのオフ操作により開路される。
【0034】
車両ECU90は、衝突検出信号を入力する。衝突検出信号は、例えば車両に搭載されたGセンサから所定の大きさ以上の加速度が車両に加わると出力される。車両ECU90は衝突検出信号を入力するとシステムメインリレー120を開路(開放)する。
【0035】
車両ECU90には空調ECU80を介してコントローラ47が接続されており、車両ECU90が衝突検出信号を入力すると、車両ECU90から放電指令、即ち、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求が空調ECU80を介してコントローラ47に送られる。
【0036】
次に、このように構成した車載用電動圧縮機30の作用を説明する。
コントローラ47は、
図3に示す処理を実行する。この処理を説明するために
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)を用いる。
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)には、モータ回転数Nm、モータ電流Im、インバータ回路43の入力直流電圧Vinの推移を示す。コントローラ47は、
図5に示すインバータ回路43の入力直流電圧Vinとモータ回転数Nmとの特定の関係を示した回転数制限線(マップ)Lcを記憶している。
【0037】
図5において、横軸にインバータ回路43の入力直流電圧Vinをとるとともに、縦軸にモータ回転数Nmをとっている。
図5中の線L1は、変調率が最大となる入力直流電圧Vinとモータ回転数Nmとの関係を示した線である。変調率は、インバータ回路43への入力直流電圧Vinに対するインバータ回路43の出力線間電圧実効値の比である。変調率が最大となる線L1は、下に凸となる曲線である。回転数制限線Lcは、変調率が最大となる線L1の下に位置し、変調率が最大となる線L1に対しマージン(余裕)を持たせた線である。回転数制限線Lcは直線であり、インバータ回路43の入力直流電圧Vinが低くなるほどモータ回転数Nmも小さくなる特性を有する。
【0038】
このように、
図5の線L1、即ち、変調率の理論上の最大値である下記式(2)Kmax(約0.78)となるモータ回転数・入力直流電圧の条件(=誘起電圧に対してインバータ回路43の入力直流電圧Vinが不足する線L1)に対して、マージンを持たせるようモータ回転数を制限する回転数制限線Lcが設定されている。
【0039】
【数3】
この回転数制限線Lcに基づいて放電中のモータ回転数を制限することになる。
【0040】
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)において、横軸に時間tをとり、縦軸にモータ回転数Nm、モータ電流Im及びインバータ回路43の入力直流電圧Vinをとっている。
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)において、t1のタイミングで放電指令の受信により、即ち、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求の受信により放電要求が発生したものとする。t1までは位置センサレス駆動による通常運転が行われる。
【0041】
図3に示すように、コントローラ47は、ステップS10において放電指令による放電要求を受信(
図4(a),(b),(c)のt1のタイミング)した後に、ステップS11に移行する。
【0042】
コントローラ47は、ステップS11において通常の停止処理を実行してPWM出力を遮断させる。即ち、制御部44は、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求を受けると(外部からの放電指令を受信すると)、電動モータ33の運転を停止する。
【0043】
そして、コントローラ47は、ステップS12において再起動のための待ち時間が経過したか否か判断してロータ35が停止するのを待つ。コントローラ47は、再起動待ち時間が経過したことによりロータ35が停止すると、ステップS13に移行する。コントローラ47は、ステップS13において初期位置推定を実施してロータ35の位置を検出する。
【0044】
その後、
図4(a),(b),(c)のt2のタイミングでコントローラ47は、ステップS14においてステータ36がロータ35の磁石35aに吸引するように所定のモータ回転数での強制同期によって加速する。コントローラ47は、ステップS15において目標のモータ回転数に到達したか否か判断して到達していないとステップS14に戻る。即ち、制御部44は、電動モータ33の運転を停止した後に、予め定めた第1のモータ回転数(
図4(a)では第1のモータ回転数Nm1は、例えば1000rpm)での強制同期運転を行う。詳しくは、電動モータ33においてトルクが発生するように所定の上アーム用スイッチング素子(Q1,Q3,Q5)と下アーム用スイッチング素子(Q2,Q4,Q6)をオンオフ制御して電動モータ33に電流を流して回転磁界を発生させコンデンサC1,C2等に蓄積された電荷を電動モータ33で消費して放電させることを行う。
【0045】
図4(a),(b),(c)のt3~t4の期間において一定回転、即ち、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転が行われる。
衝突時に放電指令を受信して車載用電動圧縮機30を運転することによりコンデンサC1,C2に残る電荷を放電する。この際、放電時の運転は安定した放電を行うため規定回転数(例えば1000rpm)の強制同期によって行う。強制同期運転を行うことにより電動モータ33のロータ35が回っているかどうかの推定はせず、特定の周波数の交流電流をステータ36のコイル36bに流し続ける。
【0046】
放電時の運転は通常運転時に使用している位置センサレス運転ではなく、強制同期で運転する。通常運転で採用している位置センサレス運転では放電による急激な電圧降下と低電圧で位置推定が失敗し、脱調する可能性があるが、強制同期運転を採用することでモータ電流値と周波数を一定にして運転することが可能となる。また、衝突によって車載用電動圧縮機30がロックし、ロータ35が回転できない状態となっても強制同期による運転なのでモータ電流を流すことができ、放電が可能となる。
【0047】
このように、強制同期による運転であるため低回転時における位置センサレス制御の位置推定精度低下による脱調懸念がなく、安定して放電することができる。
コントローラ47は、
図3のステップS15で目標のモータ回転数に到達すると、ステップS16に移行する。コントローラ47は、インバータ回路43の入力直流電圧Vinを監視しており、ステップS16において現在のモータ回転数に対する入力直流電圧Vinが、モータ回転数を制限する回転数制限線Lc(
図5)以下か否か、より詳細には、現在のモータ回転数に対応した回転数制限線Lc上での入力直流電圧値以下か否かを判断する。コントローラ47は、現在のモータ回転数に対する入力直流電圧Vinが、回転数制限線Lc以下でないとステップS18に移行する。一方、コントローラ47は、ステップS16において現在のモータ回転数に対する入力直流電圧Vinがモータ回転数を制限する回転数制限線Lc以下であると(
図4(a),(b),(c)のt4のタイミング)、ステップS17に移行してモータ回転数を下げる。
【0048】
このように、制御部44は、強制同期運転中においてインバータ回路43への入力直流電圧Vinの低下に伴い現在の回転数に対する入力直流電圧Vinが
図5の回転数制限線Lc以下となると、言い換えれば変調率が上昇し回転数制限線Lcに対応した規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと電動モータ33の回転数を下げる。第2のモータ回転数は、その回転数に下げた時の入力直流電圧Vinに対応した回転数制限線Lc上でのモータ回転数よりも低くなるよう予め設定されている。
【0049】
コントローラ47は、ステップS18においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinが目標電圧(放電したい目標の電圧)に到達したか否か判断する。コントローラ47は、目標電圧(例えば50V)に到達していないとステップS16に戻る。ステップS16、ステップS17、ステップS18の処理を繰り返すことにより
図4(a),(b),(c)のt4~t5の期間においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinの低下に伴いモータ回転数Nmも下げられる。一方、コントローラ47は、ステップS18においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinが目標電圧に到達すると(
図4(a),(b),(c)のt5のタイミング)、ステップS19で放電制御を終了する。
【0050】
このように制御部44は、インバータ回路43の入力直流電圧Vinが低下し、目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返す。
よって、インバータ回路43の入力直流電圧Vinに応じてモータ回転数Nmを制限するため、インバータ回路43の入力直流電圧Vinの不足に起因するモータ電流波形の乱れが発生せず、騒音・過電流の発生を防ぎ、放電時間も短くすることができる。
【0051】
以下、詳しく説明する。
特許文献1に開示の技術においては、自動車に異常が発生したらリレー(スイッチ)の開放状態で電動モータにトルクを発生させてコンデンサの電荷を短時間で大量に消費させることにより放電時間を短くする。この技術を用いて高圧バスラインLhv1,Lhv2上に貯まっている電荷を放電させる。この場合、インバータ回路43の入力直流電圧Vinが電動モータ33側の誘起電圧よりも高いうちはトルクを発生(モータ電流を流す)ことができるが、逆転すると、即ち、インバータ回路43の入力直流電圧Vinが電動モータ33側の誘起電圧よりも低くなると、モータ電流を流せなくなり、磁石35aを引っ張る力が無くなる。その結果、ロータ35の回転がついてこれなくなり、モータ回転数が落ちていき、誘起電圧が下がり、インバータ回路43の入力直流電圧Vinよりも誘起電圧が小さくなる。すると、モータ電流が急激に流れるようになり、波形の乱れが発生してしまう。その結果、ロータ35の急激な回転の変化により音が発生したり設計値以上にモータ電流が流れてしまう(IPMモータに過電流によりダメージを与えてしまう)。また、コンデンサの放電自体も遅れてしまう(悪影響がある)。
【0052】
外部からの放電指令の受信に伴い電動モータ33の運転を停止した後に、予め定めたモータ回転数(モータ回転数一定)での強制同期運転を行うことにより放電を行う場合のモータ電流波形の乱れが発生する原因(メカニズム)について言及する。
【0053】
第1段階として、強制同期運転によって一定回転数で運転を行い、電力を消費することでインバータ回路43の入力直流電圧Vinが低下していく。
第2段階として、放電によるインバータ回路43の入力直流電圧Vinの急減少により変調率(インバータ回路43の入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比)、即ち、出力線間電圧実効値に対するインバータ回路43の入力直流電圧Vinの利用率が上がっていく。
【0054】
第3段階として、変調率が頭打ちになり、一定回転するロータ35による誘起電圧に対してインバータ回路43の入力直流電圧Vinが不足しモータ電流が流せなくなる。
第4段階として、モータ電流が流せないのでトルクが出ず、ロータ35の回転がついてこれなくなりモータ回転数が落ちる。
【0055】
第5段階として、モータ回転数が下がることで誘起電圧が下がり、インバータ回路43の入力直流電圧Vinと釣り合う。
第6段階として、モータ電流が一気に流せるようになって勢いよくモータ電流が流れる。これによりモータ電流波形が乱れる。
【0056】
本実施形態では、誘起電圧によってモータ電流波形が乱れるのを防ぐべくインバータ回路43の入力直流電圧Vinを監視し、電圧低下時にモータ回転数の制限をかける。つまり、強制同期運転で一定回転数のまま放電を行った場合、上記の通りインバータ回路43の入力直流電圧Vinが低電圧になった際にモータ電流波形が乱れないように(変調率が頭打ちにならないように)インバータ回路43の入力直流電圧Vinに応じてモータ回転数を下げる。
【0057】
このように、本実施形態においては、モータ回転数を一定に保った状態で運転しようとする場合、インバータ回路43の入力直流電圧Vinが下がってしまうと、誘起電圧との関係で問題が発生するので、誘起電圧の発生を抑制することによりモータ電流を安定して流せるようにする。インバータ回路43の入力直流電圧Vinが下がってきたのに応じてモータ回転数を下げる。これにより、誘起電圧もモータ回転数の低下に伴って下がってくるのでインバータ回路43の入力直流電圧Vin側が誘起電圧よりも低くなることが発生せずに安定してモータ電流を流すことができる。
【0058】
具体的なモータ回転数の制限のかけ方について言及する。モータ回転数に応じて誘起電圧が発生するので、変調率を用いてインバータ回路43の入力直流電圧Vinからどれぐらいの電圧を利用してやれば運転できるのかを考える。変調率は、インバータ回路43の入力直流電圧Vinをどれぐらいモータ電圧に使うかを示す。例えばインバータ回路43の入力直流電圧Vinが300Vの場合、モータ電圧として使えるのは実効値として200V弱となる。この状態が変調率最大となる。それを超えると、それ以上インバータ回路43の入力直流電圧Vinをモータ電圧として使えない。その変調率が最大となる線L1(
図5参照)よりも誘導電圧が上に来ている場合にはもうモータ電流が流せなくなる。よって、変調率が最大となる線L1がモータ電流を流せる限界となる。変調率が最大となる線L1に対してマージンを持たせて下に、モータ回転数を制限する回転数制限線Lcを設定する。そして、強制同期運転中に放電によってインバータ回路43の入力直流電圧Vinが下がってくるときに、所定電圧になったら回転数制限線Lcに沿ってモータ回転数を落とすようにする。
【0059】
第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)制御部44は、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行う。そして、制御部44は、強制同期運転中においてインバータ回路43への入力直流電圧Vinの低下に伴い入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、予め定めた第2のモータ回転数へと電動モータ33の回転数を下げる。規定値をKとしたとき、規定値は、下記式(1)を満たす値である。
【0060】
【数4】
よって、放電に伴いインバータ回路43の入力直流電圧Vinが低下した際に電動モータ33に円滑に放電することができる。
【0061】
(2)制御部44は、放電要求を受けると、入力直流電圧Vinが低下し目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返す。よって、目標値になるまでモータ回転数の低減を繰り返すことで、放電効率を高めることができる。
【0062】
(3)制御部44は、放電要求を受けると、電動モータ33の運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行う。よって、電動モータ33の運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行うことにより、一旦停止を挟むことで強制同期運転を開始しやすくすることができる。
【0063】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
第1の実施形態では制限マップによるフィードフォワードによってモータ回転数を制御したが、本実施形態では、変調率をフィードバックすることによってモータ回転数を制御することで変調率が一定以上にならないよう制御する。
【0064】
コントローラ47は、
図3に代わり
図6に示す処理を実行する。この処理を説明するために
図7を用いる。
図7にはインバータ回路43の入力直流電圧Vin、モータ回転数Nm、変調率の推移を示す。制御部44は、
図8に示す機能ブロックを有する。変調率は、本実施形態でもインバータ回路43の入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である。
【0065】
図7において、横軸に時間tをとり、縦軸にインバータ回路43の入力直流電圧Vin、モータ回転数Nm、変調率をとっている。
図7において、t10のタイミングで変調率が目標値を超えたものとする。t10からは変調率にフィードバックをかける制御が行われる。
【0066】
図6に示すように、コントローラ47は、ステップS10において放電指令による放電要求を受信すると、ステップS11において通常の停止処理を実行してPWM出力を遮断させる。即ち、制御部44は、外部からの放電指令を受信すると、電動モータ33の運転を停止する。
【0067】
コントローラ47は、ステップS12において再起動待ち時間が経過したか否か判断して再起動待ち時間が経過してロータ35が停止すると、ステップS13において初期位置推定を実施してロータ35の位置を検出する。コントローラ47は、ステップS14においてステータ36がロータ35の磁石35aに吸引するように強制同期により加速した後に、ステップS20に移行する。即ち、制御部44は、電動モータ33の運転を停止した後に、予め定めたモータ回転数での強制同期運転を行う。よって、強制同期による運転であるため低回転時における位置センサレス制御の位置推定精度低下による脱調懸念がなく、安定して放電することができる。
【0068】
コントローラ47は、ステップS20において現在の変調率から目標変調率の差分を求めることにより変調率偏差を計算する。コントローラ47は、ステップS21において変調率偏差に比例ゲインを乗算して比例項を計算するとともに変調率偏差に積分ゲインを乗算して積分項を計算する。コントローラ47は、ステップS22において比例項と積分項を加算して回転数指令に設定する。
【0069】
コントローラ47は、ステップS18においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinが目標電圧(放電したい目標の電圧)に到達したか否か判断する。コントローラ47は、目標電圧に到達していないとステップS20に戻る。即ち、制御部44は、強制同期運転中においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinが低下し、インバータ回路43の入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である変調率が規定値に達したら実測の変調率をフィードバックして変調率が規定値となるように指令モータ回転数を制御する。よって、インバータ回路43の入力直流電圧Vinに応じてモータ回転数Nmを制限するため、インバータ回路43の入力直流電圧Vinの不足に起因するモータ電流波形の乱れが発生せず、騒音・過電流の発生を防ぎ、放電時間も短くすることができる。また、フィードバック制御であるため電動モータの種類を問わず導入可能である。
【0070】
一方、コントローラ47は、ステップS18においてインバータ回路43の入力直流電圧Vinが目標電圧に到達するとステップS19で放電制御を終了する。即ち、フィードバック制御を入力直流電圧Vinが目標値になるまで行う。
【0071】
図7においてt10のタイミングで変調率が規定値にあたる変調率目標値を超えると、変調率にフィードバックをかけてモータ回転数Nmを制御して変調率を一定に保つ。
図8で説明すると、制御部44において、目標変調率設定部60と、回転数指令制御部61と、PWM演算部62と、変調率算出部63と、減算部64を有する。目標変調率設定部60において、目標変調率αtが設定される。回転数指令制御部61においてモータ回転数が指令される。PWM演算部62においてPWM演算が行われる。変調率算出部63においてPWM演算での実際の変調率αg(=Vin/出力線間電圧実効値)が算出される。減算部64において、目標変調率αtと実際の変調率αgとの差Δαが求められる。差Δαを無くすように回転数指令制御部61においてモータ回転数が指令される。
【0072】
このような制御ブロックに基づき、PI制御によって回転数指令を制御する。
このように、制御部44は、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行う。そして、制御部44は、強制同期運転中においてインバータ回路43への入力直流電圧Vinの低下に伴い入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、実測の変調率をフィードバックして変調率が規定値となるように指令モータ回転数を制御する。また、制御部44は、放電要求を受けると、入力直流電圧が低下し目標値になるまでフィードバックを実行して変調率が規定値となるように指令モータ回転数を制御する。また、制御部44は、放電要求を受けると、電動モータ33の運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行う。
【0073】
以下、詳しく説明する。
目標の変調率となるように印加するモータ電圧を調整しようとしてもインバータ回路43の入力直流電圧Vinが下がるため目標のモータ電圧に印加しにくい。そこで、実際の変調率を求めて目標の変調率と比較して、両者の差を求める。その差に応じてモータ回転数を変える。その結果、スムーズに電動モータを駆動することができる。
【0074】
つまり、モータ回転数が決まれば発生する誘起電圧が決まるので、モータ回転数を高くすればするほど電力の消費も大きくなるのでなるべく変調率を上げるようにする。ここで、変調率が最大となる線L1(
図5参照)を超えてしまうと電動モータを回せなくなってしまう。そこで、モータ回転数を上げて変調率を上げてやる際に変調率が最大となる線L1を超えないようにすべく
図5の線L1よりも少し下の線L2に沿わすようにする。そのため、今の変調率が目標変調率に対しどれぐらい離れているかによってモータ回転数を上下動させるかを決める。モータ回転数と誘起電圧がほぼ比例の関係があるので、モータ回転数を上げれば上げるほど誘起電圧が発生する。モータ回転数を上げていくと変調率を高くしないと回せない。モータ回転数と変調率の関係は運転状況によって変わる。これを制御すべく最初のモータ回転数を高く設定し、変調率に誤差が出たら誤差を無くすようにモータ回転数を制御する(高くなっていた回転数を下げる)。
【0075】
第2の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(4)車載用電動圧縮機30の構成として、流体を圧縮する圧縮部32と、センサレス運転により圧縮部32を駆動する電動モータ33と、電動モータ33を駆動するインバータ装置40と、を備える。インバータ装置40は、スイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路43と、インバータ回路43のスイッチング素子Q1~Q6を制御して直流電源としての高圧バッテリ110からの直流電力を交流電力に変換して電動モータ33に供給する制御部44と、を備える。制御部44は、車載機器130,140のコンデンサC1,C2に蓄積された電荷の放電要求を受けると、予め定めた第1のモータ回転数での強制同期運転を行う。そして、制御部44は、強制同期運転中においてインバータ回路43への入力直流電圧Vinの低下に伴い入力直流電圧Vinに対する出力線間電圧実効値の比である変調率が上昇し規定値に達すると、実測の変調率をフィードバックして変調率が規定値となるように指令モータ回転数を制御する。規定値をKとしたとき、規定値は、下記式(1)を満たす値である。
【0076】
【数5】
よって、放電に伴いインバータ回路43の入力直流電圧Vinが低下した際に電動モータ33に円滑に放電することができる。
【0077】
(5)制御部44は、放電要求を受けると、電動モータ33の運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行う。よって、電動モータ33の運転を停止し、再起動後に強制同期運転を行うことにより、一旦停止を挟むことで強制同期運転を開始しやすくすることができる。
【0078】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・インバータ回路43において複数のスイッチング素子としてIGBTを用いたが、これに限るものではない。例えば、スイッチング素子としてMOSトランジスタを用いてもよい。MOSトランジスタを用いた場合、ボディダイオード(寄生ダイオード)により帰還ダイオードが構成される。
【0079】
・
図5における線L1,L2は下に凸となる曲線であるが、この形状に限るものではない。モータ型式や制御方式によってその形状は変わりうる。
・
図5における回転数制限線Lcは直線であるが、この形状に限るものではない。曲線や折れ線となるような設定も可能である。
【符号の説明】
【0080】
30…車載用電動圧縮機、32…圧縮部、33…電動モータ、40…インバータ装置、43…インバータ回路、44…制御部、110…高圧バッテリ、Q1~Q6…スイッチング素子。