(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086768
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】農業用マルチ資材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 13/00 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
A01G13/00 301Z
A01G13/00 ZBP
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198956
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000100458
【氏名又は名称】みかど化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晶英
(72)【発明者】
【氏名】元吉 一浩
【テーマコード(参考)】
2B024
【Fターム(参考)】
2B024DB01
2B024DC01
(57)【要約】
【課題】地温の低下を招くことなく、栽培作物の芽、茎、葉を資材表面に貫通させて延び出るのを助長することができ、ふくらみによる段差をなくし、巻長さを増やすことができ長尺巻が可能となるため、結果として輸送コストを低下させ、使用者の利便性を向上させる農業用マルチ資材及びその加工方法を提供すること。
【解決手段】長尺状の農業用フィルムからなる農業用マルチ資材において、農業用フィルムに、所定幅の植生領域と、植生領域の両側に位置する側方領域とが画定され、植生領域には、レーザにより、幅方向に延びる非貫通溝21が形成された植生部を複数列有することを特徴とする農業用マルチ資材。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の農業用フィルムからなる農業用マルチ資材において、
該農業用フィルムに、所定幅の植生領域と、該植生領域の両側に位置する側方領域とが画定され、
前記植生領域には、レーザにより、幅方向に延びる非貫通溝が形成された植生部を複数列有することを特徴とする農業用マルチ資材。
【請求項2】
前記植生部は、幅方向に沿って複数個の前記非貫通溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の農業用マルチ資材。
【請求項3】
前記非貫通溝の各々には、1又は複数個の貫通部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の農業用マルチ資材。
【請求項4】
前記農業用フィルムが農業用マルチ資材であり、
該マルチ資材の長手方向に沿って所定幅の植生領域と、該植生領域の両側に位置する側方領域とが画定され、
該植生領域には、幅方向に延びる植生部を、長手方向に沿って、複数列形成し、
該植生部は、非貫通溝がレーザにより形成されることを特徴とする農業用マルチ資材の製造方法。
【請求項5】
前記植生部は、幅方向に沿って複数個の前記非貫通溝が形成されることを特徴とする請求項4記載の農業用マルチ資材の製造方法。
【請求項6】
前記非貫通溝の各々には、1又は複数個の貫通部を形成することを特徴とする請求項4又は5記載の農業用マルチ資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチ資材及びその製造方法に関し、より詳しくは、製造後にロール巻きする際に、段差なく巻ける農業用マルチ資材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ栽培においては、地温保持、土壌水分保持、土壌固結防止、養分流亡防止および雑草繁茂防止等を目的として農業用マルチ資材(マルチフィルムあるいはマルチ資材という場合がある。)が用いられている。
【0003】
従来、特許文献1には、長手方向に沿って、幅方向の中央側に画定される植生領域と、植生領域の両側にそれぞれ配置される側方領域とにより構成されているマルチ資材が開示されている。
その植生領域には、複数の植生穴が設けられ、栽培時において、その植生穴を通って、栽培作物の茎葉が伸び出る。
この植生穴は、マルチ資材の幅方向に延びるスリット(切れ目)を長手方向に沿って複数並設し、各々のスリットにより植生穴を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の植生穴は、栽培時において、その植生穴を通って、栽培作物の茎葉が伸び出ることができるが、フィルムの断面方向に貫通しているために、フィルムの上部と土壌の部分の空気の出入りが自由になる。そのため地温が逃げてしまう恐れがあった。
また、フィルムに貫通線が設けられると、フィルムを巻き取る際に、ふくらみが生じ、輸送コストを上昇させ、マルチ展張作業を困難にして、使用者の利便性が低下するという解決すべき課題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、地温の低下を招くことなく、栽培作物の芽、茎、葉を資材表面に貫通させて延び出るのを助長することができ、ふくらみによる段差をなくし、巻長さを増やすことができ長尺巻が可能となるため、結果として輸送コストを低下させ、使用者の利便性を向上させる農業用マルチ資材及びその加工方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0009】
(請求項1)
長尺状の農業用フィルムからなる農業用マルチ資材において、
該農業用フィルムに、所定幅の植生領域と、該植生領域の両側に位置する側方領域とが画定され、
前記植生領域には、レーザにより、幅方向に延びる非貫通溝が形成された植生部を複数列有することを特徴とする農業用マルチ資材。
(請求項2)
前記植生部は、幅方向に沿って複数個の前記非貫通溝が形成されていることを特徴とする請求項1記載の農業用マルチ資材。
(請求項3)
前記非貫通溝の各々には、1又は複数個の貫通部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の農業用マルチ資材。
(請求項4)
前記農業用フィルムが農業用マルチ資材であり、
該マルチ資材の長手方向に沿って所定幅の植生領域と、該植生領域の両側に位置する側方領域とが画定され、
該植生領域には、幅方向に延びる植生部を、長手方向に沿って、複数列形成し、
該植生部は、非貫通溝がレーザにより形成されることを特徴とする農業用マルチ資材の製造方法。
(請求項5)
前記植生部は、幅方向に沿って複数個の前記非貫通溝が形成されることを特徴とする請求項4記載の農業用マルチ資材の製造方法。
(請求項6)
前記非貫通溝の各々には、1又は複数個の貫通部を形成することを特徴とする請求項4又は5記載の農業用マルチ資材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、栽培作物の芽、茎、葉を資材表面に貫通させて延び出るのを助長する貫通孔あるいは非貫通孔を設けても、栄えを良くし、商品価値を向上させ、巻き取り段差をなくし、巻長さの限界を伸ばし輸送コストを低下させ、使用者の利便性を向上させる農業用マルチ資材及びその製造方法を提供することができる。
【0011】
すなわち、従来の刃物による植生部の加工では巻き数の限界があったが、本発明では倍以上巻けるようになり、更に段差が少なくなり、そのことにより繰り出し時の絡み切れが無く、きれいに展張できるようになり、交換の手間も減少する。
【0012】
現在使われている市場では、機械の大型化、作付面積の拡大による使用フィルムの長巻の必要性が求められているが、本発明のマルチ資材はかかる要請を満足することができ、市場ニーズに合致している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図2の深さの異なる非貫通溝の一例を示す図である。
【
図6】本発明の植生部の非貫通溝の他の一例を示す図
【
図7】本発明のマルチ資材を利用して栽培したジャガイモの栽培例
【
図8】本発明のマルチ資材を利用して栽培したジャガイモの栽培例
【
図9】本発明のマルチ資材を利用して栽培したジャガイモの栽培例
【
図10】本発明のマルチ資材を利用して栽培したジャガイモの栽培例
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の農業用マルチ資材の一例を示す平面図、
図2は
図1の(II)-(II)線断面図である。
図3(a)~
図3(d)は、
図2の深さの異なる非貫通溝の一例を示す図であり、
図4は、
図1の(IV)-(IV)線断面図である。
【0016】
図1、2において、1は農業用マルチ資材であり、長尺状の農業用フィルム10からなる。農業用マルチ資材1は、作物が栽培される畝を被覆できるように長尺状フィルムの形態を有している。
【0017】
農業用マルチ資材の材質は、格別限定されず、生分解樹脂でもよいし、生分解樹脂以外のポリオレフィン系樹脂などでもよいが、本発明では、生分解樹脂が好ましい。生分解樹脂は格別限定されず、種々の生分解樹脂を用いることができる。
【0018】
農業用マルチ資材1は、長手方向(図中、上下方向)に沿って、幅方向(図中、左右方向)の中央側に画定される所定幅の植生領域2と、植生領域2の両側にそれぞれ配置される側方領域3、3とにより構成されている。側方領域3は、作物の栽培時において、主として植生領域2の側方で畝の肩部を被覆する領域である。この側方領域3には、マルチ資材1が風によって捲れ上がらないようにするため、必要に応じて覆土される。
【0019】
植生領域2には、複数の植生部20が設けられる。植生部20は、栽培時において、栽培作物の芽、茎葉が通って伸び出ることを可能にする役割を果たす。
【0020】
農業用フィルム10の植生部20には、
図2に示すように、レーザにより形成された非貫通溝21が複数列形成されている。
図2において、非貫通溝21と非貫通溝21との間、つまり植生部20と植生部20との長手方向の間隔Aは、所定間隔に形成されていることが好ましい。
【0021】
非貫通溝21は、農業用マルチ資材1の表面から裏面に渡って貫通しない溝部である。非貫通溝21の各々の下方のフィルムには、非貫通のフィルム部位22を各々有する。
【0022】
農業用マルチ資材1の厚みをLとし、非貫通溝21の溝深さがGである場合、非貫通のフィルム部位22の長さはL-Gである。
【0023】
本発明において、フィルム厚みL=18μmの場合、非貫通のフィルム部位22の長さは、好ましくは、1~15μmであり、より好ましくは、3~9μmの範囲である。
【0024】
図3(a)~
図3(d)には、非貫通溝21の溝深さの異なる態様の一例が示されている。
図3(a)~
図3(d)のいずれも、フィルム厚みL=18μmの場合を例示している。
【0025】
図3(a)の例では、非貫通溝21は、幅0.2mm、深さ3.6μm、非貫通のフィルム部位の長さ14.4μmである。
図3(b)の例では、非貫通溝21は、幅0.2mm、深さ9.0μm、非貫通のフィルム部位の長さ9μmである。
図3(c)の例では、非貫通溝21は、幅0.2mm、深さ10.8μm、非貫通のフィルム部位の長さ7.2μmである。
図3(d)の例では、非貫通溝21は、幅0.2mm、深さ14.4μm、非貫通のフィルム部位の長さ3.6μmである。
【0026】
図3の例における溝深さ(G)は一例であり、フィルム資材の引張強度試験からの予測値を算出した値である。したがって、引張強度の測定値から溝深さを算出することができる。
【0027】
図4は、
図1の(IV)-(IV)線断面図である。
図4に示すように、農業用フィルム10は、幅方向(図中、左右方向)の中央側に画定される所定幅の植生領域2と、植生領域2の両側にそれぞれ配置される側方領域3、3とで構成され、植生領域2には、幅方向に沿って1個の非貫通溝21が形成されている。図示の例では、非貫通溝21の深さはGである。本実施形態においては、1個の非貫通溝21によって1列の植生部が設けられる例が示されている。
【0028】
図1、2には、直線状の非貫通溝21が複数列平行に形成された例が示されているが、
図1の直線を曲線(例えば、波線)に代えれば、曲線状の非貫通溝21となる。
【0029】
また本発明において、非貫通溝21の幅は、上記の例では0.2mmとしたが、格別限定されず、0.1~10mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~5mmの範囲である。
【0030】
本発明において、非貫通溝21は、レーザ加工によって形成できる。レーザビームは、例えば出力10W~100WのCO2ガスレーザによるものを用いることができる。
【0031】
本発明の実施態様によれば、MAXが70WのCO2ガスレーザで、平常運転時は30Wの出力でレーザ加工していた場合、30/70=43%の出力でレーザ加工できる。
【0032】
CO2ガスレーザは、レーザ出力を効率良く取り出すことができ、また、レーザビームの品質も高く、溝部の加工を効率良く実施できる。本実施形態においては、CO2ガスレーザに限らず、レーザ出力を効率良く取り出せるものであればよい。
【0033】
CO2ガスレーザを照射する加工装置は、レーザの性質状、パルス状に放出されるため、溝の底は一直線ではなく凹凸に進む。尚且つ、加工装置が、経年劣化し、出力の振り幅が大きくなるため、凹凸が大きくなる場合があり、非貫通のフィルム部位が薄くなればドットの様な点々状の穴が開く場合もある。この場合、透かして見た状態ではドット加工にも見える。
【0034】
しかし、CO2ガスレーザは、拡大してみれば、溝を掘りつつ進んでいるので深さの違いで、通常のドットとは違いがある。
【0035】
本発明における試験結果では、非貫通のフィルム部位を残す非貫通溝21を形成する加工における適度な切れ方は、フィルム厚みの50%~90%ぐらい切れる深さの範囲が好ましく、実用上好ましいのは、70%~80%ぐらいであり、
図3(a)~
図3(d)の例でみれば、フィルム厚みが18μmであるから、深さは12.6μm~14.4μmの範囲が実用上好ましいと言える。
【0036】
本発明では、複数の非貫通溝21の各々には、ところどころに貫通部分を有する態様も含まれる。
【0037】
レーザ出力は、パルス状に送られるため、
図5(a)に示すように、非貫通溝21の底に凹凸が形成される。
【0038】
したがって、非貫通のフィルム部位が薄い場合には、この凹凸により貫通部25が形成される。
【0039】
ところどころに貫通部分を有する態様というのは、
図5(a)の例でいえば、凹部の全てに貫通部25が形成された例に限らず、凹部の1つ、二つ又は三つに貫通部25が形成されていてもよいことを意味している。
【0040】
貫通部25は、ドット状の穴であるが、この穴が非貫通溝21の形成方向(切れの良い方向)に従って形成される。
【0041】
ドット状の貫通部25は、
図5(b)に示すように、非貫通溝21の列を上から見れば、ドット列に見える点が特徴である。
【0042】
図示の例では、ドット状の貫通部25として円形で示しているが、楕円状でもよい。また、貫通部25の各ドットの大小は同一のサイズである必要はない。更に、図示の例では、非貫通溝21内でのドット位置は、溝幅に対して中央に位置していなくてもよい。
【0043】
図6は、農業用マルチ資材の非貫通溝の他の一例を示す図である。
図1の例では、1本の直線状の非貫通溝21が複数列平行に形成された例が示されているが、これに限定されず、例えば
図6に示すように、植生領域2の複数の植生部20に設けられる非貫通溝21を、1本の直線上ではなく、複数個、所定間隔Bをあけて形成して、1列の植生部20を形成し、これらを複数列平行に形成してもよい。
【0044】
栽培作物は、土壌中から、茎、葉、芽が資材を突き破ることができるものであれば格別限定されず、例えば、ゴボウ、ルタバガ、ビート、ニンジン、パースニップ、ダイコン、カブ、ブラック・サルシファイ、サツマイモ、キャッサバ、ヤーコン、タロイモ、サトイモ、コンニャク、タシロイモ(ポリネシアン・アロールート)、レンコン、ショウガ、ジャガイモ、キクイモ、クワイ、タマネギ、エシャロット、ニンニク、ラッキョウ、ユリ、カタクリ、ヤムイモ、ヤマノイモ、ナガイモ等の根菜類を例示できる。
【実施例0045】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0046】
実施例1
1.フィルム試作
みかど化工社製生分解マルチフィルムに、
図5に示すように、非貫通溝21をレーザ加工により形成した。
フィルム厚みは18μm、非貫通溝の深さは、フィルム厚み方向に14μmであった。
フィルムを幅方向に渡って、側方領域3/植生領域2/側方領域3の3つの領域に区分けし、植生領域2に非貫通溝21を形成した。
【0047】
2.フィルム巻取り試験
フィルムの巻き数が増加しても、非貫通溝21の切れ目の盛り上がりが全くなかった。
非貫通溝21は、貫通穴がないので、穴があることによる、マルチ下への風の吹きこみがなく、地温の維持に貢献する。
巻数は厚み20μmで600m巻が可能であり、18μmで800巻きが可能であった。
【0048】
実施例2
実施例1で得られたフィルムを用いて、ジャガイモの栽培を行い、下記(1)~(9)の時期にジャガイモの茎、芽がマルチ資材を突き破ることができるか否かを確認した。
【0049】
株間は15cmの試験1と、株間30cmの試験2を行った。
(1)2020年3月17日
(2)2020年4月6日
(3)2020年4月10日
(4)2020年4月15日
(5)2020年4月21日
(6)2020年4月27日
(7)2020年5月7日
(8)2020年5月25日
(9)2020年6月18日
実験結果を
図7~
図10に示す。
【0050】
(評価)
試験1では、(2)2020年4月6日の21日目に、2か所突き破りが確認された。
また試験2では、(2)2020年4月6日の21日目に、発芽しフィルムが持ち上がるのを確認され、(3)2020年4月10日の25日目には、加工線からの破れがあることが確認された。