(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086843
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】モータ制御装置、空気調和機の室外機及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/34 20160101AFI20220602BHJP
H02P 6/21 20160101ALI20220602BHJP
【FI】
H02P21/34
H02P6/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199092
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 佑理
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE48
5H505EE49
5H505FF01
5H505FF10
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG06
5H505HA06
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ22
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL16
5H505LL37
5H505MM10
5H560AA01
5H560BB04
5H560DB13
5H560DC06
5H560EB01
5H560GG04
5H560HA01
5H560HA04
5H560HB02
5H560HC00
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】ファンモータを確実に起動させること。
【解決手段】室外機ファンFを正転方向に回転させるファンモータMの駆動を制御するモータ制御装置100において、回転検出部52は、ファンモータMの起動前にファンモータMの空転方向及び空転速度を検出し、起動処理部53は、ファンモータMの起動時にファンモータMのロータの位置を検出せずにファンモータMのロータとステータの回転磁界とを同期させる同期運転を行う際に、ファンモータMの目標回転速度を、空転速度よりも小さい値を有する回転速度とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンを正転方向に回転させるモータの駆動を制御するモータ制御装置であって、
前記モータの起動前に前記モータの空転方向及び空転速度を検出する検出部と、
前記モータの起動時に前記モータのロータの位置を検出せずに前記ロータと前記モータのステータの回転磁界とを同期させる同期運転を行う際に、前記モータの目標回転速度を、前記空転速度よりも小さい値を有する第一回転速度とする起動処理部と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記起動処理部は、前記空転方向が前記正転方向である場合、前記モータを前記第一回転速度よりも小さい値を有する第二回転速度で所定時間だけ回転させた後、前記モータの回転速度を前記第二回転速度から前記第一回転速度へ向かって徐々に増加させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記起動処理部は、前記空転方向が逆転方向である場合、前記モータを前記第一回転速度で所定時間だけ回転させた後、前記モータの回転速度を徐々に減少させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記起動処理部は、前記モータの回転速度を徐々に減少させた後、前記モータの回転方向を前記逆転方向から前記正転方向に反転させる、
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記モータの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、前記モータに印加される電圧の位相と前記ロータの位相とを合わせる位相調整を行う調整部、をさらに具備する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
ファンと、
前記モータと、
請求項1から5の何れか一項に記載のモータ制御装置と、
を具備する空気調和機の室外機。
【請求項7】
ファンを正転方向に回転させるモータの起動前に前記モータの空転方向及び空転速度を検出し、
前記モータの起動時に前記モータのロータの位置を検出せずに前記ロータと前記モータのステータの回転磁界とを同期させる同期運転を行う際に、前記モータの目標回転速度を、前記空転速度よりも小さい値を有する回転速度とする、
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置、空気調和機の室外機及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室外機は、熱交換機と、熱交換機用のファン(以下では「室外機ファン」と呼ぶことがある)と、室外機ファンを回転させるモータ(以下では「ファンモータ」と呼ぶことがある)とを有する。
【0003】
ファンモータは、起動の際には、停止状態から極低回転で運転を開始する。極低回転では誘起電圧が極小であるため、ファンモータの駆動を制御するモータ制御装置は、ファンモータのロータの位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出することが困難である。このため、モータ制御装置は、ファンモータの起動時点から、ファンモータの回転速度がロータ位置の検出が可能な速度に到達するまでの間、実際のロータ位置を検出せずにファンモータのロータとファンモータのステータの回転磁界とを同期させる運転(以下では「同期運転」と呼ぶことがある)を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-128485号公報
【特許文献2】特開2008-187776号公報
【特許文献3】特開2009-038867号公報
【特許文献4】特開2018-204878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、同期運転ではモータ制御装置は実際のロータ位置を検出しないため、ファンモータの負荷の状態によってはファンモータの起動が困難となる場合がある。
【0006】
例えば、ファンモータの起動前でも、室外機ファンが外風等から外力を受けて空転することがある。ファンモータは正転方向で起動するため、ファンモータの起動前に室外機ファンがファンモータの正転方向と逆方向に(つまり、逆転方向に)空転している場合には、ファンモータの起動時の負荷(以下では「起動時負荷」と呼ぶことがある)が大きくなる。起動時負荷が大きくなると、ファンモータの起動の際の同期運転においてファンモータの起動に失敗する可能性が大きくなる。
【0007】
そこで、本開示は、ファンモータを確実に起動させることができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のモータ制御装置は、ファンを正転方向に回転させるモータの駆動を制御し、検出部と、起動処理部とを有する。前記検出部は、前記モータの起動前に前記モータの空転方向及び空転速度を検出する。前記起動処理部は、前記モータの起動時に前記モータのロータの位置を検出せずに前記ロータと前記モータのステータの回転磁界とを同期させる同期運転を行う際に、前記モータの目標回転速度を、前記空転速度よりも小さい値を有する回転速度とする。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、ファンモータを確実に起動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例の速度制御部の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例のd軸電流制御部の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例のq軸電流制御部の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例の第一位相調整部の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例の第二位相調整部の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本開示の実施例のファンモータの巻き線抵抗値と逆転方向の所定の回転速度との関係の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施例の空転速度とゼロベクトル回転速度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0012】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図1において、モータ制御装置100は、減算部11,14,15,19と、速度制御部12と、励磁電流制御部13と、d軸電流制御部16と、q軸電流制御部17と、非干渉化制御部18と、加算部20と、dq/3φ変換部21と、PWM部22と、IPM23と、電流算出部24と、3φ/dq変換部25と、軸誤差算出部26と、PLL制御部29と、積分部30と、1/Pn処理部31とを有する。また、モータ制御装置100は、運転制御部51と、回転検出部52と、起動処理部53と、第一位相調整部54Aと、第二位相調整部54Bと、V
d生成部55Aと、V
q生成部55Bと、Pn処理部56と、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4とを有する。スイッチSW1は、入力端子SW1-1,SW1-2と出力端子SW1-0とを有し、スイッチSW2は、入力端子SW2-1,SW2-2と出力端子SW2-0とを有する。スイッチSW3は、入力端子SW3-1,SW3-2,SW3-3と出力端子SW3-0とを有し、スイッチSW4は、入力端子SW4-1,SW4-2と出力端子SW4-0とを有する。
【0013】
IPM23は、上アームのスイッチング素子としてU相、V相、W相の各相の3個のスイッチング素子Fu,Fv,Fwを有するとともに、下アームのスイッチング素子としてX相、Y相、Z相の各相の3個のスイッチング素子Fx,Fy,Fzを有する。PWM部22は、スイッチング素子Fu,Fv,Fw,Fx,Fy,Fzのスイッチングを制御するために、U相、V相、W相、X相、Y相、Z相の6相のPWM信号をIPM23へ出力する。
【0014】
モータ制御装置100は、ファンモータMに接続され、ファンモータMの駆動を制御する。ファンモータMは室外機ファンFに接続され、室外機ファンFを回転させる。モータ制御装置100、ファンモータM及び室外機ファンFは、例えば、空気調和機の室外機に搭載される。
【0015】
減算部11,14,15,19、速度制御部12、励磁電流制御部13、d軸電流制御部16、q軸電流制御部17、非干渉化制御部18、加算部20、dq/3φ変換部21、PWM部22、電流算出部24、3φ/dq変換部25、軸誤差算出部26、PLL制御部29、積分部30、1/Pn処理部31、運転制御部51、回転検出部52、起動処理部53、第一位相調整部54A、第二位相調整部54B、Vd生成部55A、Vq生成部55B、Pn処理部56、及び、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4は、例えばマイクロコンピュータまたはプロセッサにより実現される。プロセッサの一例として、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。
【0016】
図2は、本開示の実施例の速度制御部の構成例を示す図である。
図2において、速度制御部12は、積分定数K
Iωの係数部121と、積分部122と、比例定数K
Pωの係数部123と、加算部124とを有する。
【0017】
図3は、本開示の実施例のd軸電流制御部の構成例を示す図である。
図3において、d軸電流制御部16は、積分定数K
Idの係数部161と、積分部162と、比例定数K
Pdの係数部163と、加算部164とを有する。
【0018】
図4は、本開示の実施例のq軸電流制御部の構成例を示す図である。
図4において、q軸電流制御部17は、積分定数K
Iqの係数部171と、積分部172と、比例定数K
Pqの係数部173と、加算部174とを有する。
【0019】
図5は、本開示の実施例の第一位相調整部の構成例を示す図である。
図5において、第一位相調整部54Aは、積分定数K
Iの係数部541Aと、積分部542Aと、比例定数K
Pの係数部543Aと、加算部544Aとを有する。
【0020】
図6は、本開示の実施例の第二位相調整部の構成例を示す図である。
図6において、第二位相調整部54Bは、制限部540Bと、積分定数K
Iの係数部541Bと、積分部542Bと、比例定数K
Pの係数部543Bと、加算部544Bとを有する。
【0021】
<モータ制御装置における処理>
図7は、本開示の実施例のモータ制御装置における処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0022】
ここで、ファンモータMの起動前でも、空転する室外機ファンに連動してファンモータMが正転方向または逆転方向に空転することがある。以下では、正転方向の空転を「正空転」と呼び、逆転方向の空転を「逆空転」と呼ぶことがある。回転検出部52は、ファンモータMの起動前に、ファンモータMの空転時の回転方向(以下では「空転方向」と呼ぶことがある)と、ファンモータMの空転時の回転速度(以下では「空転速度」と呼ぶことがある)とを検出し、検出した空転方向及び空転速度を運転制御部51へ出力する。例えば、回転検出部52は、ファンモータMのU相、V相、W相の各相の誘起電圧を用いて、空転方向及び空転速度を検出する。例えば、回転検出部52は、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがV相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が正転方向であると判定し、U相の誘起電圧の立ち上がりエッジの次に検出される立ち上がりエッジがW相の誘起電圧の立ち上がりエッジである場合には、空転方向が逆転方向であると判定する。また、空転速度が大きくなるほどファンモータMの誘起電圧の周期が小さくなるため、回転検出部52は、例えば、U相の誘起電圧の周期に基づいて空転速度を検出する。
【0023】
そして、
図7のステップST310では、運転制御部51は、空転速度が、正転方向の所定の回転速度R1(以下では「正転R1」と呼ぶことがある)から逆転方向の所定の回転速度R2(以下では「逆転R2」と呼ぶことがある)までの範囲にあるか否かを判定する。例えば、ファンモータMの巻き線抵抗値が60Ωである場合、正転方向をプラス、逆転方向をマイナスとして、正転R1=400[rpm]、逆転R2=-100[rpm]に予め設定される。
【0024】
空転速度が正転R1から逆転R2までの範囲にある場合は(ステップST310:Yes)、処理はステップST410へ進む。一方で、空転速度が正転R1から逆転R2までの範囲にない場合は(ステップST310:No)、処理はステップST320へ進む。
【0025】
ステップST320では、運転制御部51は、空転速度が、逆転R2から逆転方向の所定の回転速度R3(以下では「逆転R3」と呼ぶことがある)までの範囲にあるか否かを判定する。但し「逆転R2>逆転R3」であり、空気調和機の冷凍サイクルの仕様として、例えば、逆転R3=-400[rpm]に予め設定される。
【0026】
空転速度が逆転R2から逆転R3までの範囲にない場合は(ステップST320:No)、処理はステップST310へ戻る。一方で、空転速度が逆転R2から逆転R3までの範囲にある場合は(ステップST320:Yes)、処理はステップST510へ進む。
【0027】
ステップST410,ST420,ST430では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMを正転方向で同期運転させる。以下では、正転方向での同期運転を「正転同期運転」と呼ぶことがある。また以下では、ステップST410で行われる正転同期運転を「第一正転同期運転」と呼び、ステップST420で行われる正転同期運転を「第二正転同期運転」と呼び、ステップST430で行われる正転同期運転を「第三正転同期運転」と呼ぶ。
図7に示すように、第一正転同期運転の次に第二正転同期運転が行われ、第二正転同期運転の次に第三正転同期運転が行われる。
【0028】
次いで、ステップST440では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMの位相を調整する。スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1が接続されるため、第一位相調整部54AによってファンモータMの位相が調整される。
【0029】
次いで、ステップST450では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMの運転モードを同期運転モードから、ベクトル制御の運転モード(以下では「ベクトル制御モード」と呼ぶことがある)へ移行させ、ベクトル制御でファンモータMを駆動させる。
【0030】
次いで、ステップST460では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の接続状態をステップST450における接続状態に維持したまま、ベクトル制御でファンモータMを駆動させ続ける通常運転を行う。
【0031】
一方で、ステップST510では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMを逆転方向で同期運転させる。以下では、逆転方向での同期運転を「逆転同期運転」と呼ぶことがある。なお、電圧指令値V*が正の値(正電圧)のときファンモータMにはファンモータMを正転方向に回転させるトルクが発生する。
【0032】
次いで、ステップST520では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の接続状態をステップST510における接続状態に維持したまま、ファンモータMに印加する電圧を正の傾きで変化させつつ、ファンモータMの回転方向を逆転方向から正転方向に反転させる同期運転(以下では「反転同期運転」と呼ぶことがある)を行う。
【0033】
次いで、ステップST530では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-2を接続し、ファンモータMの位相の調整を行いつつ、正転同期運転を行う。つまり、ステップST530では、運転制御部51は、ファンモータMの位相の調整と、正転同期運転とを同時に行う。また、ステップST530では、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-2が接続されるため、第二位相調整部54BによってファンモータMの位相が調整される。
【0034】
次いで、ステップST540では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMの位相を調整する。
【0035】
次いで、ステップST550では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続し、ファンモータMの運転モードを同期運転モードからベクトル制御モードへ移行させ、ベクトル制御でファンモータMを駆動させる。
【0036】
次いで、ステップST560では、運転制御部51は、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の接続状態をステップST550における接続状態に維持したまま、ベクトル制御でファンモータMを駆動させ続ける通常運転を行う。
【0037】
なお、ファンモータMの巻き線抵抗値が大きくなるほど、ファンモータMの制動力が低くなり、逆方向に空転しているファンFの同期が難しくなるため、ステップST310,ST320における所定の回転速度R2は、
図8に示すように、ファンモータMの巻き線抵抗値が大きくなるほど、より小さい値(0に近い値、以下同様)に設定されるのが好ましい。
図8は、本開示の実施例のファンモータの巻き線抵抗値と逆転方向の所定の回転速度との関係の一例を示す図である。
【0038】
<モータ制御装置の動作>
図9及び
図10は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例の説明に供する図である。
図9及び
図10には、電圧指令値V
*の時間推移と、電気角速度指令値ω
e_refの時間推移とを実線で示す。また、
図9及び
図10において、電気角速度指令値ω
e_ref(目標回転速度)に対するファンモータMの実際の電気角速度(以下では「実角速度」と呼ぶことがある)を「ω
real」と表記し、実角速度ω
realのおよその時間推移を破線で示す。また、以下の説明において、ファンモータMの電気角速度及び機械角速度は、ファンモータMの回転速度に相当する。
【0039】
ステップST310で空転速度が正転R1から逆転R2までの範囲にある場合には(ステップST310:Yes)、ファンモータMの起動はステップST410の第一正転同期運転から開始される。一方で、ステップST320で空転速度が逆転R2から逆転R3までの範囲にある場合には(ステップST320:Yes)、ファンモータMの起動はステップST510の逆転同期運転から開始される。以下、モータ制御装置100の動作例を、ファンモータMの起動が第一正転同期運転から開始される場合と、逆転同期運転から開始される場合とに分けて説明する。
【0040】
<ファンモータMの起動が第一正転同期運転から開始される場合の動作>
ファンモータMの起動が第一正転同期運転から開始される場合、起動時におけるファンモータMの運転区間は、
図9に示すように、ステップST310の処理が行われる運転待機区間S0A、ステップST410の処理が行われる第一正転同期運転区間S1A、ステップST420の処理が行われる第二正転同期運転区間S2A、ステップST430の処理が行われる第三正転同期運転区間S3A、ステップST440の処理が行われる位相調整区間S4A、ステップST450の処理が行われるモード移行区間S5A、及び、ステップST460の処理が行われる通常運転区間S6Aに区別される。
【0041】
<運転待機区間S0Aにおける動作>
運転待機区間S0AではファンモータMは起動前の運転待機中にあるため、運転待機区間S0Aにおける実角速度ωrealは空転速度に相当する。運転待機区間S0Aでは、回転検出部52が空転方向及び空転速度ωrealを検出し、検出した空転方向及び空転速度ωrealを運転制御部51及び起動処理部53へ出力する。
【0042】
ここで、ファンモータMの起動時には、ファンモータMの起動直後に、相補PWMモードに切り替わることによってPWM部22から出力されるPWM信号がゼロベクトル信号となる時間が発生する。PWM信号がゼロベクトル信号であるとき、上アームのスイッチング素子Fu,Fv,Fwがオンになる一方で下アームのスイッチング素子Fx,Fy,Fzがオフになるか、または、上アームのスイッチング素子Fu,Fv,Fwがオフになる一方で下アームのスイッチング素子Fx,Fy,Fzがオンになる。このため、PWM信号がゼロベクトル信号になると、ファンモータMにおける発電電流がファンモータM内で環流するため、ファンFの運動エネルギーが電気エネルギーに変換されてジュール熱として消費される。これによりファンモータMの回転が制動(いわゆる発電制動)されてファンモータMの回転速度が空転速度よりも低下する。
【0043】
例えば、ファンモータMの空転速度と、PWM信号がゼロベクトル信号になったときのファンモータMの回転速度(以下では「ゼロベクトル回転速度」と呼ぶことがある)との関係は、
図11に示すようになる。
図11は、本開示の実施例の空転速度とゼロベクトル回転速度との関係の一例を示す図である。
図11に示すように、ファンモータMの起動前にファンモータMが正空転または逆空転の何れの空転をしている場合であっても、ゼロベクトル回転速度は空転速度よりも小さい値となるため、ファンモータMの起動時点での回転速度は、ファンモータMの起動前での空転速度よりも小さい値となる。
【0044】
そこで、起動処理部53は、ファンモータMの起動前に回転検出部52によって検出された空転速度ω
realに基づいて、第二正転同期運転区間S2Aにおける目標回転速度として目標電気角速度ω
seh
*を式(1)に従って算出する。目標電気角速度ω
seh
*は、空転速度ω
realより小さい値となる。例えば、正転R1=400[rpm]、逆転R2=-100[rpm]、逆転R3=-400[rpm]に予め設定されている場合は、
図11に基づいて、α=0.4931、β=-1.0844に予め設定される。なお、空転速度が正転方向の100[rpm]から逆転方向の100[rpm]までの範囲にある場合は、起動処理部53は、目標電気角速度ω
seh
*を一定の値γに設定しても良い。空転速度が小さいと、回転検出部52の精度が担保されないためである。例えば、正転R1=400[rpm]、逆転R2=-100[rpm]、逆転R3=-400[rpm]に予め設定されている場合、γは、空転速度が正転方向の100[rpm]のときの目標電気角速度ω
seh
*である48.2[rpm]に予め設定される。
【数1】
【0045】
そして、検出された空転方向及び空転速度ωrealがステップST310の条件に合致して(ステップST300:Yes)、ファンモータMの運転区間は運転待機区間S0Aから第一正転同期運転区間S1Aに移行する。
【0046】
<第一正転同期運転区間S1Aにおける動作>
第一正転同期運転区間S1A(
図9)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。また、第一正転同期運転区間S1Aでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ω
m_ref及び電圧指令値V
*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ω
m_ref及び電圧指令値V
*を起動処理部53に算出させる。
【0047】
起動処理部53は、式(2)及び式(3)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(2)及び式(3)における「ω
e_ref」は電気角速度指令値を示し、式(2)における「Pn」はファンモータMの極対数を示し、式(3)における「ω
ses
*」は第一正転同期運転区間S1Aにおける起動開始電気角速度を示す。また、
図9における「T
2S」は第一正転同期運転区間S1Aの時間を示す。起動開始電気角速度ω
ses
*及び時間T
2Sは、予め行われる試験によって定まる所定値であり、第一正転同期運転区間S1Aにおける電気角速度指令値ω
e_refは、目標電気角速度ω
seh
*よりも小さい値を有する起動開始電気角速度ω
ses
*で一定に保たれる。起動処理部53は、式(2)及び式(3)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数2】
【数3】
【0048】
また、起動処理部53は、式(4)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(4)における「V
ss
*」は第一正転同期運転区間S1Aにおける起動開始電圧を示す。起動開始電圧V
ss
*は、予め行われる試験によって定まる所定値であり、第一正転同期運転区間S1Aにおける電圧指令値V
*は、起動開始電圧V
ss
*で一定に保たれる。
【数4】
【0049】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより式(3)に示す電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0050】
V
d生成部55Aは、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ω
e_refと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流I
qとを用いて、式(5)に従ってd軸電圧指令値V
d
*を算出し、算出したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21及びV
q生成部55Bへ出力する。式(5)において、「L
q」はファンモータMのq軸インダクタンスを示す。
【数5】
【0051】
V
q生成部55Bは、起動処理部53から入力される電圧指令値V
*と、V
d生成部55Aから入力されるd軸電圧指令値V
d
*とを用いて、式(6)に従ってq軸電圧指令値V
q
*を算出し、算出したq軸電圧指令値V
q
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【数6】
【0052】
積分部30は、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ωe_refを積分することより、ファンモータMの電気角位相(dq軸位相)θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。このように、ファンモータMの運転モードが同期運転モードにある場合は、起動処理部53によって算出された機械角速度指令値ωm_refに基づいて電気角位相θeが算出されるため、同期運転モードでは、実際のロータ位置は検出されない。
【0053】
dq/3φ変換部21は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、二相のd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を、三相のU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*へ変換し、変換後のU相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*をPWM部22へ出力する。
【0054】
PWM部22は、PWMの搬送波であるキャリア信号と、U相電圧指令値Vu
*、V相電圧指令値Vv
*及びW相電圧指令値Vw
*との比較結果に基づいてPWMを行うことによりU相、V相、W相、X相、Y相、Z相の6相のPWM信号を生成し、生成したPWM信号をIPM23へ出力する。
【0055】
IPM23は、PWM信号に基づくスイッチング制御により、モータ制御装置100の外部から印加される直流電圧Vdcから、ファンモータMのU相、V相、W相のそれぞれへ印加する交流電圧(三相交流電圧)を生成し、生成した各相の交流電圧をファンモータMのU相、V相、W相へ印加することによりファンモータMを駆動する。IPM23は、ファンモータMを駆動する駆動部の一例である。
【0056】
電流算出部24は、電流算出部24が有するシャント抵抗(図示せず)を用いてIPM23の母線電流を検出し、検出した母線電流と、PWM部22から出力されるスイッチング情報SIとから、ファンモータMのU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを算出する。スイッチング情報SIは、IPM23におけるスイッチングパターンを示す。電流算出部24は、算出したU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを3φ/dq変換部25へ出力する。
【0057】
3φ/dq変換部25は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、三相のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを、二相のd軸電流Id及びq軸電流Iqへ変換し、変換後のq軸電流Iqを運転制御部51及びVd生成部55Aへ出力する。
【0058】
<第二正転同期運転区間S2Aにおける動作>
以下、第二正転同期運転区間S2Aにおける動作について、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と異なる点について説明し、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0059】
第二正転同期運転区間S2A(
図9)では、起動処理部53は、式(2)及び式(7)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(7)において、「ω
ses
*」は第一正転同期運転区間S1Aにおける一定の電気角速度、「ω
seh
*」は第二正転同期運転区間S2Aにおける目標電気角速度、「T
3s」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
seh
*に収束するまでに要する時間、「t」は第二正転同期運転区間S2Aの開始時点からの経過時間を示し、時間T
3sは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(7)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの正転方向での電気角速度は、
図9に示すように、起動開始電気角速度ω
ses
*から目標電気角速度ω
seh
*に達するまで線形に増大する。起動処理部53は、式(2)及び式(7)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数7】
【0060】
また、起動処理部53は、式(8)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(8)において、「V
ss
*」は第一正転同期運転区間S1Aにおける一定の電圧指令値、「V
sh
*」は第二正転同期運転区間S2Aにおける目標電圧、「t」は第二正転同期運転区間S2Aの開始時点からの経過時間、「T
3S」は第二正転同期運転区間S2Aの時間を示し、目標電圧V
sh
*及び時間T
3Sは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(8)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図9に示すように、起動開始電圧V
ss
*から目標電圧V
sh
*に達するまで線形に増大する。
【数8】
<第三正転同期運転区間S3Aにおける動作>
以下、第三正転同期運転区間S3Aにおける動作について、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と異なる点について説明し、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0061】
第三正転同期運転区間S3A(
図9)では、起動処理部53は、式(2)及び式(9)に従って、正転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出し、算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数9】
【0062】
また、起動処理部53は、式(10)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。
【数10】
【0063】
つまり、時間T4sを有する第三正転同期運転区間S3Aでは、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ωseh
*で一定に保たれるとともに、電圧指令値V*は目標電圧Vsh
*で一定に保たれる。時間T4sは、予め行われる試験によって定まる所定値である。
【0064】
<位相調整区間S4Aにおける動作>
以下、位相調整区間S4Aにおける動作について、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と異なる点について説明し、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0065】
位相調整区間S4A(
図9)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。よって、第一位相調整部54AがスイッチSW4及びスイッチSW3を介して積分部30、運転制御部51及びV
d生成部55Aに接続される。スイッチSW3での入力端子SW3-1から入力端子SW3-2への切替時点で第一位相調整部54Aから出力される電気角速度ω
eは目標電気角速度ω
seh
*とする。これにより、スイッチSW3の切替時に生じうる異音等(所謂、切替ショック)を防止できる。
【0066】
3φ/dq変換部25は、変換後のd軸電流Idを第一位相調整部54A及び第二位相調整部54Bへ出力し、変換後のq軸電流IqをVd生成部55Aへ出力する。
【0067】
また、位相調整区間S4Aでは、第三正転同期運転区間S3Aと同様に、起動処理部53は、式(10)に従って電圧指令値V*を算出し、算出した電圧指令値V*をVq生成部55Bへ出力するため、電圧指令値V*は目標電圧Vsh
*で一定に保たれる。
【0068】
ここで、目標電圧Vsh
*は、負荷急変によるファンモータMの脱調を防止するために、比較的大きい値に設定される。よって、第二正転同期運転区間S2A及び第三正転同期運転区間S3Aでは、ファンモータMは進角状態で回転するため、ファンモータMの位相は最適な位相からずれている可能性がある。ファンモータMの位相が最適な位相からずれたままファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行すると、速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17がハンチングを起こしてしまい、ファンモータMの起動に失敗する可能性が大きくなる。
【0069】
そこで、第一位相調整部54Aは、ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、ファンモータMの位相が最適な位相になるように、ファンモータMの位相を調整する。
【0070】
第一位相調整部54A(
図5)において、係数部541Aは、d軸電流I
dに積分定数K
Iを乗算し、乗算結果I
d・K
Iを積分部542Aへ出力する。積分部542Aは、乗算結果I
d・K
Iを積分し、積分結果を加算部544Aへ出力する。一方で、係数部543Aは、d軸電流I
dに比例定数K
pを乗算し、乗算結果I
d・K
pを加算部544Aへ出力する。加算部544Aは、積分部542Aでの積分結果と係数部543Aでの乗算結果とを加算し、加算結果を電気角速度ω
eとして出力する。ここで、積分定数K
I及び比例定数K
pは、d軸電流I
dが0(ゼロ)に収束するような値に予め定められている。よって、第一位相調整部54Aでは、d軸電流I
dが小さくなるような電気角速度ω
eが生成され、生成された電気角速度ω
eが積分部30、運転制御部51及びV
d生成部55Aへ出力される。d軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eが算出されることにより、ファンモータMへ印加される交流電圧の位相とファンモータMのロータの位相とが合わせられる位相調整が行われる。この位相調整は、同期運転モードで行われる。
【0071】
V
d生成部55Aは、第一位相調整部54Aから入力される電気角速度ω
eと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流I
qとを用いて、式(11)に従ってd軸電圧指令値V
d
*を算出し、算出したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【数11】
【0072】
積分部30は、第一位相調整部54Aから入力される電気角速度ωeを積分することより電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。
【0073】
第一位相調整部54Aが、d軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eを算出することにより、ファンモータMの正転方向での位相が最適な位相になる。その結果、
図9に示すように、位相調整区間S4Aにおいて、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ω
seh
*から徐々に増加する。
【0074】
また、位相調整区間S4Aでは、第一正転同期運転区間S1Aと同様に、式(6)に従ってq軸電圧指令値Vq
*が算出される。
【0075】
このように、位相調整区間S4Aでは、
図9に示すように、起動処理部53が電圧指令値V
*を目標電圧V
sh
*で一定にした状態で、第一位相調整部54Aは、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eを算出する。その結果、
図9に示すように、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ω
seh
*から増加して最適値に収束する。
【0076】
なお、第一位相調整部54Aにおいてd軸電流Idが0(ゼロ)に収束するまでに要する時間T5sが位相調整区間S4Aの長さとして設定されると良い。例えば、軸誤差算出部26が算出した軸誤差Δθが所定の範囲内(例えば、±20°以内)になった場合に、d軸電流Idが収束したと判定することができる。
【0077】
<モード移行区間S5Aにおける動作>
モード移行区間S5A(
図9)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。これにより、ファンモータMの運転モードは同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する。
【0078】
また、運転制御部51は、モード移行区間S7Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて3φ/dq変換部25によって得られたq軸電流Iqを、モード移行区間S5Aへの移行時点で、速度制御部12の積分部122の初期値に設定する。また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行時点で非干渉化制御部18から最初に出力されるd軸非干渉化補正値Vdaをd軸電流制御部16の積分部162の初期値に設定する。また、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行時点で非干渉化制御部18から最初に出力されるq軸非干渉化補正値Vqaのマイナス値(-Vqa)をq軸電流制御部17の積分部172の初期値に設定する。
【0079】
また、モード移行区間S5Aでは、運転制御部51は、モード移行区間S5Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて第一位相調整部54Aにより算出された電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算した値を一定値の機械角速度指令値ωm_refとして減算部11へ出力する。
【0080】
減算部11は、運転制御部51から入力される機械角速度指令値ωm_refから機械角速度ωmを減算することにより機械角速度偏差Δωを算出し、算出した機械角速度偏差Δωを速度制御部12へ出力する。機械角速度ωmは、1/Pn処理部31から減算部11に入力される。
【0081】
速度制御部12(
図2)において、係数部121は、機械角速度偏差Δωに積分定数K
ωを乗算し、乗算結果Δω・K
ωを積分部122へ出力する。積分部122は、乗算結果Δω・K
ωを積分し、積分結果を加算部124へ出力する。一方で、係数部123は、機械角速度偏差Δωに比例定数K
pωを乗算し、乗算結果Δω・K
pωを加算部124へ出力する。加算部124は、積分部122での積分結果と係数部123での乗算結果とを加算し、加算結果をq軸電流指令値I
q
*として出力する。ここで、積分定数K
ω及び比例定数K
pωは、機械角速度偏差Δωが0(ゼロ)に収束するような値に予め定められている。よって、速度制御部12では、機械角速度偏差Δωが小さくなるようなq軸電流指令値I
q
*が生成され、生成されたq軸電流指令値I
q
*が励磁電流制御部13及び減算部15へ出力される。
【0082】
励磁電流制御部13は、q軸電流指令値Iq
*からd軸電流指令値Id
*を生成し、生成したd軸電流指令値Id
*を減算部14へ出力する。
【0083】
減算部14は、d軸電流指令値Id
*からd軸電流Idを減算することによりd軸電流偏差ΔIdを算出し、算出したd軸電流偏差ΔIdをd軸電流制御部16へ出力する。
【0084】
減算部15は、q軸電流指令値Iq
*からq軸電流Iqを減算することによりq軸電流偏差ΔIqを算出し、算出したq軸電流偏差ΔIqをq軸電流制御部17へ出力する。
【0085】
d軸電流制御部16(
図3)において、係数部161は、d軸電流偏差ΔI
dに積分定数K
Idを乗算し、乗算結果ΔI
d・K
Idを積分部162へ出力する。積分部162は、乗算結果ΔI
d・K
Idを積分し、積分結果を加算部164へ出力する。一方で、係数部163は、d軸電流偏差ΔI
dに比例定数K
pdを乗算し、乗算結果ΔI
d・K
pdを加算部164へ出力する。加算部164は、積分部162での積分結果と係数部163での乗算結果とを加算し、加算結果をd軸電圧指令値V
d
**として出力する。ここで、積分定数K
Id及び比例定数K
pdは、d軸電流偏差ΔI
dが0(ゼロ)に収束するような値に予め定められている。よって、d軸電流制御部16では、d軸電流偏差ΔI
dが小さくなるようなd軸電圧指令値V
d
**が生成され、生成されたd軸電圧指令値V
d
**が減算部19へ出力される。
【0086】
q軸電流制御部17(
図4)において、係数部171は、q軸電流偏差ΔI
qに積分定数K
Iqを乗算し、乗算結果ΔI
q・K
Iqを積分部172へ出力する。積分部172は、乗算結果ΔI
q・K
Iqを積分し、積分結果を加算部174へ出力する。一方で、係数部173は、q軸電流偏差ΔI
qに比例定数K
pqを乗算し、乗算結果ΔI
q・K
pqを加算部174へ出力する。加算部174は、積分部172での積分結果と係数部173での乗算結果とを加算し、加算結果をq軸電圧指令値V
q
**として出力する。ここで、積分定数K
Iq及び比例定数K
pqは、q軸電流偏差ΔI
qが0(ゼロ)に収束するような値に予め定められている。よって、q軸電流制御部17では、q軸電流偏差ΔI
qが小さくなるようなq軸電圧指令値V
q
**が生成され、生成されたq軸電圧指令値V
q
**が加算部20へ出力される。
【0087】
非干渉化制御部18は、d軸とq軸との間に発生する干渉をキャンセルし、d軸とq軸とをそれぞれ独立に制御するための非干渉化補正値を生成する。例えば、非干渉化制御部18は、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqと、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeとから、d軸電圧指令値Vd
**を非干渉化するためのd軸非干渉化補正値Vdaを生成し、生成したd軸非干渉化補正値Vdaを減算部19へ出力する。また例えば、非干渉化制御部18は、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流Idと、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeと、磁束とから、q軸電圧指令値Vq
**を非干渉化するためのq軸非干渉化補正値Vqaを生成し、生成したq軸非干渉化補正値Vqaを加算部20へ出力する。
【0088】
減算部19は、d軸電圧指令値Vd
**からd軸非干渉化補正値Vdaを減算することによりd軸電圧指令値Vd
**を非干渉化し、非干渉化後のd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0089】
加算部20は、q軸電圧指令値Vq
**にq軸非干渉化補正値Vqaを加算することによりq軸電圧指令値Vq
**を非干渉化し、非干渉化後のq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0090】
モード移行区間S5Aにおけるdq/3φ変換部21、PWM部22、IPM23及び電流算出部24の動作については、第一正転同期運転区間S1Aにおける動作と同一であるため、説明を省略する。
【0091】
3φ/dq変換部25は、積分部30によって算出された電気角位相θeを用いて、三相のU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを、二相のd軸電流Id及びq軸電流Iqへ変換し、変換後のd軸電流Idを減算部14、非干渉化制御部18及び軸誤差算出部26へ出力し、変換後のq軸電流Iqを減算部15、非干渉化制御部18及び軸誤差算出部26へ出力する。
【0092】
軸誤差算出部26は、d軸電圧指令値Vd
*と、q軸電圧指令値Vq
*と、d軸電流Idと、q軸電流Iqとから、実際のdq軸と制御上のdq軸との間のずれを示す軸誤差Δθを算出し、算出した軸誤差ΔθをPLL制御部29へ出力する。
【0093】
PLL制御部29は、軸誤差Δθから、ファンモータMの実際の回転速度を示す電気角速度ωeを算出し、算出した電気角速度ωeを非干渉化制御部18、積分部30及び1/Pn処理部31へ出力する。
【0094】
1/Pn処理部31は、電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算することより機械角速度ωmを算出し、算出した機械角速度ωmを減算部11へ出力する。
【0095】
積分部30は、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeを積分することより、ファンモータMの電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。ファンモータMの運転モードがベクトル制御モードにある場合は、PLL制御部29から入力される電気角速度ωeに基づいて電気角位相θeが算出されるため、積分部30によって算出される電気角位相θeは実際のロータ位置を示す。つまり、ベクトル制御モードでは、積分部30によって実際のロータ位置が推定される。
【0096】
このように、モード移行区間S5Aでは、モード移行区間S5Aへの移行直前に位相調整区間S4Aにおいて第一位相調整部54Aにより算出された電気角速度ω
eが一定値の機械角速度指令値ω
m_refとして減算部11へ入力される。また、モード移行区間S5Aへの移行直前のq軸電流I
qが積分部122の初期値として入力される。さらに、モード移行区間S5Aへの移行直前のd軸電圧V
d、q軸電圧V
qが、非干渉化制御部18での補正分を考慮して積分部162,172に入力される。よって、モード移行区間S5Aでは、ファンモータMが一定の回転速度で回転することで、速度制御部12(
図2)、d軸電流制御部16(
図3)及びq軸電流制御部17(
図4)の動作が安定する(換言すれば、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になる)。速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17の動作が安定するまでに要する時間T
6s、つまり、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になるまでに要する時間T
6sがモード移行区間S7Aの長さとして設定されると良い。また、時間T
6sとしては、少なくとも積分部162,172の時定数までの時間が確保されると良い。
【0097】
<通常運転区間S6Aにおける動作>
通常運転区間S6Aにおける運転モードはベクトル制御モードである。以下、通常運転区間S6Aにおける動作について、モード移行区間S5Aにおける動作と異なる点について説明し、モード移行区間S5Aにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0098】
通常運転区間S6Aでは、運転制御部51において生成される機械角速度指令値ωm_refが、運転制御部51から減算部11に入力される。
【0099】
減算部11は、モータ制御装置100の外部から入力される機械角速度指令値ωm_refから、1/Pn処理部31から入力される機械角速度ωmを減算することにより機械角速度偏差Δωを算出し、算出した機械角速度偏差Δωを速度制御部12へ出力する。
【0100】
<ファンモータMの起動が逆転同期運転から開始される場合の動作>
ファンモータMの起動が逆転同期運転から開始される場合、起動時におけるファンモータMの運転区間は、
図10に示すように、ステップST310,ST320の処理が行われる運転待機区間S0B、ステップST510の処理が行われる逆転同期運転区間S1B、ステップST520の処理が行われる反転同期運転区間S2B、ステップST530の処理が行われる位相調整正転同期運転区間S3B、ステップST540の処理が行われる位相調整区間S4B、ステップST550の処理が行われるモード移行区間S5B、及び、ステップST560の処理が行われる通常運転区間S6Bに区別される。
【0101】
<運転待機区間S0Bにおける動作>
運転待機区間S0BではファンモータMは起動前の運転待機中にあるため、運転待機区間S0Bにおける実角速度ωrealは空転速度に相当する。運転待機区間S0Bでは、回転検出部52が空転方向及び空転速度ωrealを検出し、検出した空転方向及び空転速度ωrealを運転制御部51及び起動処理部53へ出力する。
【0102】
上記のように、ファンモータMの起動前にファンモータMが正空転または逆空転の何れの空転をしている場合であっても、ファンモータMの起動時点での回転速度は、ファンモータMの起動前での空転速度よりも小さい値となる。
【0103】
そこで、起動処理部53は、ファンモータMの起動前に回転検出部52によって検出された空転速度ω
realに基づいて、逆転同期運転区間S1Bにおける起動開始電気角速度ω
ges
*を式(12)に従って算出する。起動開始電気角速度ω
ges
*は、空転速度ω
realより小さい値となる。例えば、正転R1=400[rpm]、逆転R2=-100[rpm]、逆転R3=-400[rpm]に予め設定されている場合は、
図11に基づいて、α=0.4931、β=-1.0844に予め設定される。
【数12】
【0104】
そして、検出された空転方向及び空転速度ωrealがステップST320の条件に合致して(ステップST320:Yes)、ファンモータMの運転区間は運転待機区間S0Bから逆転同期運転区間S1Bに移行する。
【0105】
<逆転同期運転区間S1Bにおける動作>
逆転同期運転区間S1B(
図10)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-1を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。また、逆転同期運転区間S1Bでは、運転制御部51は、機械角速度指令値ω
m_ref及び電圧指令値V
*の算出指示を起動処理部53へ出力することにより、機械角速度指令値ω
m_ref及び電圧指令値V
*を起動処理部53に算出させる。
【0106】
起動処理部53は、式(2)及び式(13)に従って、逆転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。
図10における「T
2g」は逆転同期運転区間S1Bの時間を示し、時間T
2gは、予め行われる試験によって定まる所定値である。また、ファンモータMの同期を引き込みやすくするために、逆転同期運転区間S1Bにおける電気角速度指令値ω
e_refは、起動開始電気角速度ω
ges
*で一定に保たれる。よって、逆転同期運転区間S1Bにおける実角速度ω
realは、
図10に示すように、起動開始電気角速度ω
ges
*を目標にして時間の経過とともに正転方向に減少する。つまり、起動開始電気角速度ω
ges
*は、逆転同期運転区間S1Bにおける目標電気角速度でもある。起動処理部53は、式(2)及び式(13)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数13】
【0107】
また、起動処理部53は、式(14)に従って電圧指令値V
*を決定し、決定した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。よって、逆転同期運転区間S1Bにおける電圧指令値V
*は0(ゼロ)[V]で一定に保たれる。
【数14】
【0108】
Pn処理部56は、機械角速度指令値ωm_refにファンモータMの極対数Pnを乗算することにより式(13)に示す電気角速度指令値ωe_refを算出し、算出した電気角速度指令値ωe_refを積分部30及びVd生成部55Aへ出力する。
【0109】
ここで、起動処理部53は、式(15)に従ってd軸電圧指令値V
d
*を決定することを示す算出指示をV
d生成部55Aへ出力する。この決定指示に従って、V
d生成部55Aは、Pn処理部56から入力される電気角速度指令値ω
e_refにかかわらず、0(ゼロ)[V]のd軸電圧指令値V
d
*を決定、決定したd軸電圧指令値V
d
*をdq/3φ変換部21及びV
q生成部55Bへ出力する。
【数15】
【0110】
Vq生成部55Bは、起動処理部53から入力される電圧指令値V*と、Vd生成部55Aから入力されるd軸電圧指令値Vd
*とを用いて、式(6)に従ってq軸電圧指令値Vq
*を算出し、算出したq軸電圧指令値Vq
*をdq/3φ変換部21へ出力する。よって、逆転同期運転区間S1Bにおいて算出されるq軸電圧指令値Vq
*は0(ゼロ)[V]となる。
【0111】
以上のように、逆転同期運転区間S1Bでは、電圧指令値V*、d軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*が0(ゼロ)[V]とされるため、PWM信号はゼロベクトル信号となり、制動がかかり減速されるので減速が安定するまでの時間を確保することでファンモータMの同期が引き込まれやすくなる。
【0112】
以降の動作については、第一正転同期運転区間S1A(
図9)における動作と同一であるため、説明を省略する。
【0113】
<反転同期運転区間S2Bにおける動作>
以下、反転同期運転区間S2Bにおける動作について、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と異なる点について説明し、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0114】
反転同期運転区間S2B(
図10)では、起動処理部53は、式(2)及び式(16)に従って、逆転方向での機械角速度指令値ω
m_refを算出する。式(16)において、「ω
ges
*」は逆転同期運転区間S1Bにおける一定の電気角速度、「ω
geh
*」は反転同期運転区間S2Bにおける目標電気角速度、「T
3g」はファンモータMの電気角速度が目標電気角速度ω
geh
*に収束するまでに要する時間、「t」は反転同期運転区間S2Bの開始時点からの経過時間を示し、目標電気角速度ω
geh
*及び時間T
3gは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(16)に従って電気角速度指令値ω
e_refが算出されることにより、ファンモータMの逆転方向での電気角速度は、
図10に示すように、起動開始電気角速度ω
ges
*から目標電気角速度ω
geh
*に達するまで線形に増大する。また、電気角速度が起動開始電気角速度ω
ges
*から目標電気角速度ω
geh
*に達するまでの間に、ファンモータMの回転方向は、逆転方向から正転方向へと反転する。起動処理部53は、式(2)及び式(16)に従って算出した機械角速度指令値ω
m_refをPn処理部56へ出力する。
【数16】
【0115】
また、起動処理部53は、式(17)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(17)において、「V
gs
*」は反転同期運転区間S2Bにおける起動開始電圧、「V
gh1
*」は反転同期運転区間S2Bにおける目標電圧、「t」は反転同期運転区間S2Bの開始時点からの経過時間、「T
3g」は反転同期運転区間S2Bの時間を示し、起動開始電圧V
gs
*、目標電圧V
gh1
*及び時間T
3gは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(17)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、反転同期運転区間S2Bでは、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図10に示すように、起動開始電圧V
gs
*から目標電圧V
gh1
*に達するまで線形に増大する。
【数17】
【0116】
但し、目標電圧V
gh1
*は、式(18)によって表される電圧ベクトルが電流ベクトルよりも進角するような値に設定されるのが好ましく、想定される最大負荷でもファンモータMの回転方向が逆転方向から正転方向へと十分に反転できるような電圧値に設定される。これにより、ファンモータMの回転方向は、反転同期運転区間S2Bにおいて、逆転方向から正転方向へと反転する。
【数18】
【0117】
<位相調整正転同期運転区間S3Bにおける動作>
以下、位相調整正転同期運転区間S3Bにおける動作について、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と異なる点について説明し、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0118】
位相調整正転同期運転区間S3B(
図10)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-2を接続する。よって、第二位相調整部54BがスイッチSW4及びスイッチSW3を介して積分部30、運転制御部51及びV
d生成部55Aに接続される。スイッチSW3での入力端子SW3-1から入力端子SW3-2への切替時点で第二位相調整部54Bから出力される電気角速度ω
eは目標電気角速度ω
geh
*とする。これにより、スイッチSW3の切替時に生じうる異音等(所謂、切替ショック)を防止できる。
【0119】
3φ/dq変換部25は、変換後のd軸電流Idを第一位相調整部54A及び第二位相調整部54Bへ出力し、変換後のq軸電流IqをVd生成部55Aへ出力する。
【0120】
ここで、第二位相調整部54Bは、ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、ファンモータMの位相が最適な位相になるように、ファンモータMの位相を調整する。
【0121】
第二位相調整部54B(
図6)において、制限部540Bは、係数部541B,543Bに入力されるd軸電流I
dを制限する。例えば、制限部540Bは、3φ/dq変換部25から第二位相調整部54Bへ入力されたd軸電流I
dが0(ゼロ)以上(I
d≧0)のときは、3φ/dq変換部25から入力されたd軸電流I
dをそのまま係数部541B,543Bへ出力する。一方で、3φ/dq変換部25から第二位相調整部54Bへ入力されたd軸電流I
dが0(ゼロ)未満(I
d<0)のときは、制限部540Bは、値が0(ゼロ)のd軸電流I
dを係数部541B,543Bへ出力する。
【0122】
係数部541Bは、d軸電流Idに積分定数KIを乗算し、乗算結果Id・KIを積分部542Bへ出力する。積分部542Bは、乗算結果Id・KIを積分し、積分結果を加算部544Bへ出力する。一方で、係数部543Bは、d軸電流Idに比例定数Kpを乗算し、乗算結果Id・Kpを加算部544Bへ出力する。加算部544Bは、積分部542Bでの積分結果と係数部543Bでの乗算結果とを加算し、加算結果を電気角速度ωeとして出力する。
【0123】
ここで、積分定数KI及び比例定数Kpは、d軸電流Idが0(ゼロ)に収束するような値に予め定められている。よって、3φ/dq変換部25から第二位相調整部54Bへ入力されたd軸電流Idが0(ゼロ)以上(Id≧0)のときは、第二位相調整部54Bでは、d軸電流Idが小さくなるような電気角速度ωeが生成され、生成された電気角速度ωeが積分部30、運転制御部51及びVd生成部55Aへ出力される。d軸電流Idが0(ゼロ)になるような電気角速度ωeが算出されることにより、ファンモータMへ印加される交流電圧の位相とファンモータMのロータの位相とが合わせられる位相調整が行われる。この位相調整は、同期運転モードで行われる。
【0124】
また、3φ/dq変換部25から第二位相調整部54Bへ入力されたd軸電流I
dが0(ゼロ)未満(I
d<0)のときは、第二位相調整部54Bでは、乗算結果I
d・K
Iが0(ゼロ)になるため乗算結果I
d・K
Iの積分が為されない。また
図10において、例えば、目標電気角速度ω
geh
*は最適な任意の正値 (例えば10[rpm])に設定されている。よって、位相調整正転同期運転区間S3Bでは、第二位相調整部54Bから出力される電気角速度ω
eが減少することを防止できる。これにより、第二位相調整部54Bから出力される電気角速度ω
eが、目標電気角速度ω
geh
*である最適な任意の正値(例えば10[rpm])に達した後、最適な任意の正値(例えば10[rpm])付近の正の値(正側)にあるときに、再び負の値(負側)に戻ってしまうことを防止できる。このように、電気角速度ω
eが目標電気角速度ω
geh
*に達した時点から開始される位相調整正転同期運転区間S3Bでは、電気角速度ω
eが正の値に制限される。
【0125】
Vd生成部55Aは、第二位相調整部54Bから入力される電気角速度ωeと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(11)に従ってd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0126】
積分部30は、第二位相調整部54Bから入力される電気角速度ωeを積分することより電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。
【0127】
第二位相調整部54Bが、d軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eを算出することにより、ファンモータMの正転方向での位相が最適な位相になる。その結果、
図10に示すように、位相調整正転同期運転区間S3Bにおいて、ファンモータMの正転方向での電気角速度は目標電気角速度ω
geh
*から増加する。
【0128】
また、起動処理部53は、式(19)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。式(19)において、「V
gh2
*」は位相調整正転同期運転区間S3Bにおける目標電圧、「t」は位相調整正転同期運転区間S3Bの開始時点からの経過時間、「T
4g」は位相調整正転同期運転区間S3Bの時間を示し、目標電圧V
gh2
*及び時間T
4gは、予め行われる試験によって定まる所定値である。式(19)に従って電圧指令値V
*が算出されることにより、位相調整正転同期運転区間S3Bでは、正電圧で与えられるファンモータMの電圧は、
図10に示すように、目標電圧V
gh1
*から目標電圧V
gh2
*に達するまで線形に増大する。
【数19】
【0129】
つまり、位相調整正転同期運転区間S3Bでは、ファンモータMの位相の調整と、ファンモータMの正転同期運転とが並行して行われる。
【0130】
<位相調整区間S4Bにおける動作>
以下、位相調整区間S4Bにおける動作について、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と異なる点について説明し、逆転同期運転区間S1Bにおける動作と同一の点についての説明は省略する。
【0131】
位相調整区間S4B(
図10)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-1を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-1を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-2を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。よって、第一位相調整部54AがスイッチSW4及びスイッチSW3を介して積分部30、運転制御部51及びV
d生成部55Aに接続される。スイッチSW3での入力端子SW3-1から入力端子SW3-2への切替時点で第一位相調整部54Aから出力される電気角速度ω
eは、スイッチSW3の切替直前の電気角速度とする。これにより、スイッチSW3の切替時に生じうる異音等(所謂、切替ショック)を防止できる。
【0132】
3φ/dq変換部25は、変換後のd軸電流Idを第一位相調整部54A及び第二位相調整部54Bへ出力し、変換後のq軸電流IqをVd生成部55Aへ出力する。
【0133】
また、起動処理部53は、式(20)に従って電圧指令値V
*を算出し、算出した電圧指令値V
*をV
q生成部55Bへ出力する。よって、位相調整区間S4Bでは、電圧指令値V
*は目標電圧V
gh2
*で一定に保たれる。
【数20】
【0134】
ここで、位相調整区間S4A(
図9)と同様に、第一位相調整部54Aは、ファンモータMの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、ファンモータMの位相が最適な位相になるように、ファンモータMの位相を調整する。例えば、起動処理部53が電圧指令値V
*を目標電圧V
gh2
*で一定にした状態で、第一位相調整部54Aは、3φ/dq変換部25から入力されるd軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eを算出する。位相調整区間S4A(
図9)と同様に、d軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eが算出されることにより、ファンモータMへ印加される交流電圧の位相とファンモータMのロータの位相とが合わせられる位相調整が行われる。
【0135】
Vd生成部55Aは、第一位相調整部54Aから入力される電気角速度ωeと、3φ/dq変換部25から入力されるq軸電流Iqとを用いて、式(11)に従ってd軸電圧指令値Vd
*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd
*をdq/3φ変換部21へ出力する。
【0136】
積分部30は、第一位相調整部54Aから入力される電気角速度ωeを積分することより電気角位相θeを算出し、算出した電気角位相θeをdq/3φ変換部21及び3φ/dq変換部25へ出力する。
【0137】
第一位相調整部54Aが、d軸電流I
dが0(ゼロ)になるような電気角速度ω
eを算出することにより、ファンモータMの逆転方向での位相が最適な位相になる。その結果、
図10に示すように、位相調整区間S4Bにおいて、ファンモータMの正転方向での電気角速度はさらに増加して最適値に収束する。
【0138】
なお、第一位相調整部54Aにおいてd軸電流Idが0(ゼロ)に収束するまでに要する時間T5gが位相調整区間S4Bの長さとして設定されると良い。例えば、軸誤差算出部26が算出した軸誤差Δθが所定の範囲内(例えば、±20°以内)になった場合に、d軸電流Idが収束したと判定することができる。
【0139】
<モード移行区間S5Bにおける動作>
モード移行区間S5B(
図10)では、運転制御部51は、スイッチSW1において出力端子SW1-0に入力端子SW1-2を接続し、スイッチSW2において出力端子SW2-0に入力端子SW2-2を接続し、スイッチSW3において出力端子SW3-0に入力端子SW3-3を接続し、スイッチSW4において出力端子SW4-0に入力端子SW4-1を接続する。これにより、ファンモータMの運転モードは位相調整モードからベクトル制御モードへ移行する。
【0140】
また、運転制御部51は、モード移行区間S5A(
図9)と同様にして、積分部122,162,172の初期値を設定する。
【0141】
また、モード移行区間S5Bでは、モード移行区間S5Aと同様に、運転制御部51は、モード移行区間S5Bへの移行直前に位相調整区間S4Bにおいて第一位相調整部54Aにより算出された電気角速度ωeをファンモータMの極対数Pnで除算した値を一定値の機械角速度指令値ωm_refとして減算部11へ出力する。
【0142】
以降の動作については、モード移行区間S5Aと同一であるため、説明を省略する。
【0143】
このように、モード移行区間S5Bでは、モード移行区間S5Bへの移行直前に位相調整区間S4Bにおいて第一位相調整部54Aにより算出された電気角速度ω
eが一定値の機械角速度指令値ω
m_refとして減算部11へ入力される。また、モード移行区間S5Bへの移行直前のq軸電流I
qが積分部122の初期値として入力される。さらに、モード移行区間S5Bへの移行直前のd軸電圧V
d、q軸電圧V
qが、非干渉化制御部18での補正分を考慮して積分部162,172に入力される。よって、モード移行区間S5Bでは、ファンモータMが一定の回転速度で回転することで、速度制御部12(
図2)、d軸電流制御部16(
図3)及びq軸電流制御部17(
図4)の動作が安定する(換言すれば、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になる)。速度制御部12、d軸電流制御部16及びq軸電流制御部17の動作が安定するまでに要する時間T
6g、つまり、回転速度を一定としたときに電圧が一定となる状態になるまでに要する時間T
6gがモード移行区間S5Bの長さとして設定されると良い。また、時間T
6gとしては、少なくとも積分部162,172の時定数までの時間が確保されると良い。
【0144】
<通常運転区間S6Bにおける動作>
通常運転区間S6Bにおける動作については、通常運転区間S6A(
図9)における動作と同一であるため、説明を省略する。
【0145】
以上、実施例について説明した。
【0146】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、ファン(実施例の室外機ファンF)を正転方向に回転させるモータ(実施例のファンモータM)の駆動を制御し、検出部(実施例の回転検出部52)と、起動処理部(実施例の起動処理部53)とを有する。検出部は、モータの起動前にモータの空転方向及び空転速度を検出する。制御部は、モータの起動時にモータのロータの位置を検出せずにロータとモータのステータの回転磁界とを同期させる同期運転を行う際に、モータの目標回転速度を、空転速度よりも小さい値を有する第一回転速度(実施例の目標電気角速度ωseh
*,起動開始電気角速度ωges
*)とする。
【0147】
ファンを回転させるモータの起動時にはモータの回転が制動されてモータの回転速度が空転速度よりも低下するため、モータの目標回転速度を、空転速度よりも小さい値を有する第一回転速度とすることで、同期運転における同期ずれを抑制することができるので、モータを確実に起動させることができる。
【0148】
また、起動処理部は、空転方向が正転方向である場合、モータを第一回転速度(実施例の目標電気角速度ωseh
*)よりも小さい値を有する第二回転速度(実施例の起動開始電気角速度ωses
*)で所定時間(実施例の時間T2S)だけ回転させた後、モータの回転速度を第二回転速度(実施例の起動開始電気角速度ωses
*)から第一回転速度(実施例の目標電気角速度ωseh
*)へ向かって徐々に増加させる。また、起動処理部は、空転方向が逆転方向である場合、モータを第一回転速度(実施例の起動開始電気角速度ωges
*)で所定時間(実施例の時間T2g)だけ回転させた後、モータの回転速度を徐々に減少させる。また、起動処理部は、空転方向が逆転方向である場合、モータの回転速度を徐々に減少させた後、モータの回転方向を逆転方向から正転方向に反転させる。
【0149】
こうすることで、同期運転における同期の引き込みがしやすくするため、同期運転における同期を確実にとることができる。
【0150】
また、本開示のモータ制御装置は、調整部(実施例の第一位相調整部54A,第二位相調整部54B)を有する。調整部は、モータの運転モードが同期運転モードからベクトル制御モードへ移行する前に、モータに印加される電圧の位相とロータの位相とを合わせる位相調整を行う。
【0151】
このような位相調整を行うことで、モータの脱調を防止できる。
【符号の説明】
【0152】
100 モータ制御装置
51 運転制御部
52 回転検出部
53 起動処理部
54A 第一位相調整部
54B 第二位相調整部
55A Vd生成部
55B Vq生成部