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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086887
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】カーボンルアーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 85/00 20060101AFI20220602BHJP
   A01K 85/16 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A01K85/00 Z
A01K85/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199159
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】520471852
【氏名又は名称】有限会社スギモリ工機
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】杉森 拓也
【テーマコード(参考)】
2B307
【Fターム(参考)】
2B307BA42
2B307BA46
2B307BA70
(57)【要約】
【課題】本物の魚の動きに似た動きができることで釣果に優れるとともに、耐久性にも優れるルアー、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンルアー1は、略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーであって、このルアー1の外殻を構成する本体2と、本体2の内部に設けられる連結支持部材4と、本体2の内部に充填される樹脂部材3とを備えてなり、連結支持部材4は、複数のアイ5を連結するとともに、錘6を支持する部材であり、本体2は、熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維織布の硬化体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーであって、
前記ルアーは、このルアーの外殻を構成する本体と、前記本体の内部に設けられる連結支持部材および錘と、前記本体の内部に充填される樹脂部材と、前記本体の外部に突出した複数のアイとを備えてなり、
前記連結支持部材は、前記複数のアイを連結するとともに、前記錘を支持する部材であり、
前記本体は、熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維織布の成形体であることを特徴とするカーボンルアー。
【請求項2】
前記本体は、前記略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体からなり、
前記2つの分割体は、互いに嵌合する接合部を有し、
前記接合部のうち、一方の前記接合部は段差のない雌型の接合部で、他方の前記接合部は、この接合部の外側に配置される外周部と、内側に配置される段差部とを有する雄型の接合部であり、
前記段差部の外周が、前記雌型の接合部の内周に嵌合し、
前記雄型の外周部の外周面と、前記雌型の接合部の外周面とが、段差なく接合していることを特徴とする請求項1記載のカーボンルアー。
【請求項3】
前記炭素繊維織布の繊維方向が、前記略紡錘形状の長手方向と直交しないことを特徴とする請求項1または請求項2記載のカーボンルアー。
【請求項4】
略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーの製造方法であって、
前記ルアーの外殻となる本体を構成する、前記略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体を製造する工程と、得られた2つの分割体を接合する工程とを有し、
前記分割体を製造する工程が、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグをルアー外殻の形状の凹溝を有する凹型に沿って配置する配置工程と、前記プリプレグの上から樹脂製の入れ子を装填する装填工程と、前記プリプレグおよび樹脂製の入れ子を前記凹型に対して押圧する押圧プレートで挟んだ状態で加熱焼成して前記プリプレグを硬化させる成形工程とを有することを特徴とするカーボンルアーの製造方法。
【請求項5】
前記2つの分割体は、互いに嵌合する接合部を有し、
前記接合部のうち、一方の前記接合部は段差のない雌型の接合部で、他方の前記接合部は、この接合部の外側に配置される外周部と、内側に配置される段差部とを有する雄型の接合部であり、
前記雄型の接合部を備えた前記分割体を製造する際の前記成形工程において、前記凹型と前記押圧プレートとの間に、前記凹型の凹溝に重ねて設けられる、前記凹溝の縁の形状と相似形で前記凹溝の縁の内寸よりも小さい薄溝を有する段差部形成部材を配置し、前記薄溝の内径まで前記プリプレグを配置した状態で該プリプレグを硬化させて、前記薄溝の内径に沿った前記段差部を形成することを特徴とする請求項4記載のカーボンルアーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルアーフィッシングに用いられるルアーおよびルアーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルアーを用いた魚釣りはルアーフィッシングと呼ばれ、多くの愛好家が存在する。ルアーには様々な種類のものがあり、狙う魚や、水温、使用者の趣向などによって自由に選択して用いられる。
【0003】
種々のルアーの中でも、トップウォータールアーと呼ばれる水面に浮くタイプのルアーは、ルアーフィッシングにおいて古くから用いられており、趣向性の高いルアーといわれている。トップウォータールアーは、疑似餌として魚に捕食を促すだけでなく、魚に対して威嚇や、好奇心を起こさせることでルアーへの食いつきを誘発することができる。トップウォータールアーは上述の通り水面に浮くため、水面を動かすことができる。そのため、水面のルアーに対して魚が飛びついて食いつく光景を見ることができ、人気が高いルアーの一つである。例えば、マグロなどの大型魚も、トップウォータールアーで水面近くへ誘い出し、釣ることが可能である。
【0004】
疑似餌であるルアーは、本物の魚と似た動きをすることが求められる。例えば、水面を動く魚を捕食する魚を釣る場合、捕食される魚と似た動きをすることがルアーの性能として求められ、水面を動かすために浮力を付与する必要がある。また、ルアーの動きや姿勢などの制御には、重心位置も重要である。トップウォータールアーは、水面に浮くように、比重が水よりも軽い必要があり、樹脂製や、木製などの素材が用いられる。樹脂製ルアーは、大量生産がしやすく、形状の自由度も高いため、もっとも広く普及してい。一方、木製ルアーは比重が小さく、本物の魚に似た動きをする。そのため、木製ルアーは釣果に優れ、木製のトップウォータールアーには多くのファンが存在する。従来の樹脂製ルアーとしては、例えば特許文献1が挙げられる。また、従来の木製ルアーとしては、例えば特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4346186号公報
【特許文献2】特開2004-222630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り樹脂製ルアーは広く普及しているが、木製ルアーと比べ比重が大きいため、本物の魚に似た動きを出しにくい。一方、木製ルアーは、本物の魚に似た動きを出しやすく釣果に優れるが、木材自体の強度が樹脂材よりも低い場合が多く、また使用を続けると徐々に水が塗装面から内部へと浸潤し、木製の部分が劣化しやすい。そのため、木製ルアーは通常の樹脂製ルアーと比較して、耐久性が劣る。このように、従来の樹脂製ルアーや木製ルアーには、それぞれ一長一短があるため、それぞれの良い点を併せ持つようなルアーの開発が望まれている。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、本物の魚の動きに似た動きができることで釣果に優れるとともに、耐久性にも優れるルアー、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカーボンルアーは、略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーであって、このルアーの外殻を構成する本体と、上記本体の内部に設けられる連結支持部材および錘と、上記本体の内部に充填される樹脂部材と、上記本体の外部に突出した複数のアイとを備えてなり、上記連結支持部材は、上記複数のアイを連結するとともに、上記錘を支持する部材であり、上記本体は、熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維織布の成形体であることを特徴とする。
【0009】
上記本体は、上記略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体からなり、上記2つの分割体は、互いに嵌合する接合部を有し、上記接合部のうち、一方の上記接合部は段差のない雌型の接合部で、他方の上記接合部は、この接合部の外側に配置される外周部と、内側に配置される段差部とを有する雄型の接合部であり、上記段差部の外周が、上記雌型の接合部の内周に嵌合し、上記雄型の外周部の外周面と、上記雌型の接合部の外周面とが、段差なく接合していることを特徴とする。
【0010】
上記炭素繊維織布の繊維方向が、上記略紡錘形状の長手方向と直交しないことを特徴とする。
【0011】
本発明のカーボンルアーの製造方法は、略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーの製造方法であって、上記ルアーの外殻となる本体を構成する、上記略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体を製造する工程と、得られた2つの分割体を接合する工程とを有し、上記分割体を製造する工程が、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグをルアー外殻の形状の凹溝を有する凹型に沿って配置する配置工程と、上記プリプレグの上から樹脂製の入れ子を装填する装填工程と、上記プリプレグおよび樹脂製の入れ子を上記凹型に対して押圧する押圧プレートで挟んだ状態で加熱焼成して上記プリプレグを硬化させる成形工程とを有することを特徴とする。
【0012】
上記2つの分割体は、互いに嵌合する接合部を有し、上記接合部のうち、一方の上記接合部は段差のない雌型の接合部で、他方の上記接合部は、この接合部の外側に配置される外周部と、内側に配置される段差部とを有する雄型の接合部であり、
上記雄型の接合部を備えた上記分割体を製造する際の上記成形工程において、上記凹型と上記押圧プレートとの間に、上記凹型の凹溝に重ねて設けられる、上記凹溝の縁の形状と相似形で上記凹溝の縁の内寸よりも小さい薄溝を有する段差部形成部材を配置し、上記薄溝の内径まで上記プリプレグを配置した状態で該プリプレグを硬化させて、上記薄溝の内径に沿った上記段差部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカーボンルアーは、略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーであり、外殻を構成する本体と、本体の内部に設けられる連結支持部材および錘と、本体の内部に充填される樹脂部材と、本体の外部に突出した複数のアイとを備え、連結支持部材は複数のアイを連結するとともに錘を支持する部材で、本体は熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維織布の成形体であるので、ルアーの比重が小さいことに加えて、錘による重心位置の設定が可能であり、かつ、その外殻材質と内部への樹脂充填から高強度となる。これにより、本発明のカーボンルアーは、本物の魚の動きに似た動きができるので釣果に優れるとともに、耐久性に優れる。
【0014】
また、本体が、略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体からなり、2つの分割体の接合部(雄型と雌型)において、雄型の接合部の段差部外周が雌型の接合部の内周に嵌合しているので、熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維織布の成形体である分割体同士を強固に接合でき、本体の強度をより高めることができる。また、雄型の接合部の外周部外周面と、雌型の接合部外周面とが、段差なく接合しているので、分割体同士の接合箇所に凹凸が無く、外観上実物の魚に似て見え、魚の誘因効果の向上も期待できる。
【0015】
また、炭素繊維織布の繊維方向が、略紡錘形状の長手方向と直交しないので、外観上、炭素繊維織布の織り目が魚の鱗のように見える。これにより、周囲の魚をより誘い、優れた釣果が期待できる。
【0016】
本発明のカーボンルアーの製造方法は、ルアーの外殻となる本体を構成する、略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体を製造する工程と、得られた2つの分割体を接合する工程とを有し、分割体を製造する工程が、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグをルアー外殻の形状の凹溝を有する凹型に沿って配置する配置工程と、プリプレグの上から樹脂製の入れ子を装填する装填工程と、プリプレグおよび樹脂製の入れ子を凹型に対して押圧する押圧プレートで挟んだ状態で加熱焼成してプリプレグを硬化させる成形工程とから構成されるので、樹脂製の入れ子の熱膨張によりプリプレグを押圧でき、オートクレーブや真空バックなしで、炭素繊維織布強化樹脂成形体であるルアー本体を製造できる。これにより、比重が小さく、かつ、構造的欠陥が無く、高強度な外殻を有するルアーを安価に製造できる。
【0017】
また、2つの分割体の接合部(雄型と雌型)のうち、雄型の接合部を備えた分割体を製造する際の成形工程として、凹型と押圧プレートとの間に、凹型の凹溝に重ねて設けられる、凹溝の縁の形状と相似形で凹溝の縁の内寸よりも小さい薄溝を有する段差部形成部材を配置し、薄溝の内径までプリプレグを配置した状態でプリプレグを硬化させて、薄溝の内径に沿った段差部を形成する工程を用いることで、炭素繊維織布強化樹脂成形体において、分割体同士の接合強度を向上できる嵌合形状を成形時に容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のルアーの一実施形態の斜視図(一部透過)である。
図2】本発明のルアーの一実施形態の分解図である。
図3】2つの分割体の接合前後の腹部周方向の断面図である。
図4】プリプレグと成形用金型の位置関係を示す図である。
図5】プリプレグ成形時の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のルアーの一実施形態を図1に基づいて説明する。図1にルアーの内部を一部透過した状態の斜視図を示す。
図1に示すように、ルアー1は、略紡錘形状の魚を模した魚釣り用のルアーである。ルアー1の大きさは、例えば長手方向の長さ約20cm、太さ約3cmである。ルアー1は、外殻を構成する本体2と、本体2の内部に設けられる連結支持部材4および錘6と、本体2の内部に充填される樹脂部材3と、本体2の外部に突出した複数のアイ5とを備える。
【0020】
本体2は、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグの成形体である。一般的な樹脂製ルアーでは、比重の低減と強度の両立のために本体内部にリブが設けられることが多いが、プリプレグでのリブ形成は成形工程に手間がかかる。本体がプリプレグの成形体の場合、それ自体の剛性の高さから、リブが無くても本体の強度を確保しやすいため、本体2の内部を中空構造とできる。本体2は貫通孔12を腹部に2つ有する。ルアー1は、貫通孔12から充填された樹脂部材3を本体2の内部に備える中実体である。本体2には、目や、鰭、リップ、鱗模様などを適宜設けてもよい。
【0021】
本体2の内部には、樹脂部材3としてウレタン樹脂が充填されている。本体の内部が樹脂部材で充填されるため、ルアーの強度が高くなり耐久性に優れる。また、本体2の内部への水の侵入を防止できる。樹脂部材としては、一般的なウレタン樹脂の他、例えば、発泡ポリウレタンや、シリコーン樹脂などを選択してもよい。トップウォータールアーに必要な浮力を付与する観点からは、樹脂部材は、低比重であることが好ましい。また、樹脂部材3は本体2の内部の空間全てに充填せず、所定量のみ充填するなどしてもよい。これにより、ルアーの比重をより低減でき浮力がさらに向上する。その他、樹脂部材3は、予め成形したものを本体2の接合時に、本体2の内部に配置(充填)してもよい。また、この際には樹脂部材3を連結支持部材4に固定する形態としてもよい。
【0022】
連結支持部材4は、複数のアイ5を連結するとともに、錘6を支持する部材である。連結支持部材4は、具体的には、本体2の頭部2a、腹部2b、および尾部2cの各箇所に配置されるアイ5a、アイ5b、およびアイ5cを連結する。アイ5aには釣糸を係止し、アイ5bおよびアイ5cには釣針を係止する。連結支持部材4は、その材質は特に限定されず、樹脂製または金属製とできる。各アイは主にステンレスなどの金属製とすることから、連結支持部材4は、各アイと一体部材の金属製とすることが好ましい。
【0023】
連結支持部材4は、ルアー1の重心を調整する錘6を尾部2cの側に備えている。錘6は、例えばステンレス、タングステン、鉛などの金属製である。一般的な樹脂製ルアーでは、本体内部にリブなどの形状を設けて錘を任意の位置に固定することが容易である。一方、本発明のルアーでは、本体2の内部が中空構造であり、上述のとおり、リブなどの形状を設けることは容易でない。これを踏まえて、本発明のルアーでは、本体2の中空構造内に連結支持部材4を設けて、錘6を棒状の支持部4aの上の任意の位置に配置できる構成としている。それにより、本体が、炭素繊維織布強化樹脂成形体の中空構造でありながら、水中でのルアーの姿勢を考慮した錘配置が可能になる。
【0024】
図2に、図1に示したルアーを分解したものの斜視図を示す。本体2は、略紡錘形状の長手方向に沿って、背部と腹部を通る断面で分割された2つの分割体7からなる。
【0025】
図3に、2つの分割体が互いに嵌合して接合する前と、接合した後の状態を示す。図3(a)は2つの分割体の接合前の腹部の周方向の断面図であり、図3(b)は2つの分割体の接合後の腹部の周方向の断面図である。分割体7aおよび分割体7bは、それぞれ、互いに嵌合する接合部13aおよび接合部13bを有している。
【0026】
分割体7aの接合部は、段差のない雌型の接合部13aである。一方、分割体7bの接合部は、この接合部の外側に配置される外周部13cと、その内側に配置される段差部13dを有する、雄型の接合部13bである。雄型の接合部13bの外周部13cは、雌型の接合部13aの端面と突き当たる突き当たり面を有する。雄型の外周部13cの外周面と、雌型の接合部13aの外周面とは、段差なく接合している。また、雄型の接合部13bにおいて、外周部13cの外周面と、段差部13dの外周面との段差幅は、雌型の接合部13aの厚みとほぼ同じか少し大きい。段差部13dの外周が、雌型の接合部13aの内周に嵌合し、各接合部同士は、接着剤により強固に固定されている。
【0027】
2つの分割体の接合方法は上述のように嵌合する方法に限られない。例えば、各接合部の端面同士を接着剤のみで固定するなどしてもよい。なお、本体が炭素繊維織布強化樹脂成形体であり、その端面は織布の切断箇所であるので、その切断面形状によっては接着が容易でない場合がある。これに対して、接合部同士を嵌合する構造とすることで、分割体の端面の切断形状を考慮する必要がなく、また、構造的に安定し、接着面積も広くできるため、分割体同士を強固に確実に接合できる。
【0028】
本体を構成する分割体は、例えば、綾織の3K炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグを加熱焼成して成形される。ここで、「3K炭素繊維織布」は、繊維径数μm程度のモノフィラメントを1束あたり約3000本とした繊維束を用いた織布である。そのため、本体は、高強度な外殻を有し、耐久性に優れる。また、炭素繊維織布の繊維方向は、ルアーの略紡錘形状の長手方向と直交させず、例えば該長手方向に対する上記繊維方向が約45°となっている。これにより、織布の織り目が餌となる魚の鱗のように見えることから、魚の誘引効果が期待できる。なお、分割体は、炭素繊維織布に予め熱硬化性樹脂が含浸されたプリプレグを用いて成型されたもの以外に、炭素繊維織布への熱硬化性樹脂の含浸と熱硬化を順次行って成形されたものでもよい。
【0029】
プリプレグを構成する炭素繊維織布の織りパターンは、綾織に限らず、平織でもよい。また、3Kに限らず、1Kや、5Kなどでもよい。炭素繊維の素材としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系のいずれを選択してもよい。加工性や強度の観点から、炭素繊維織布は、綾織で3KのPAN系炭素繊維織布であることが好ましい。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂や、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などから選択できる。硬化性および硬化物の機械的特性の観点から、プリプレグの樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0030】
本発明のカーボンルアーは、外殻となる本体が炭素繊維織布強化樹脂成形体で、本体の内部に樹脂部材と連結支持部材(錘支持可能)を備えるので、ルアーの比重が小さく(1よりも小さい)、連結支持部材上での錘による重心位置の設定が可能であり、また、充填された樹脂部材により錘の位置ずれなども抑制できる。これにより、本発明のカーボンルアーは、本物の魚の動きに似た動きが安定して実現でき、釣果に優れる。
【0031】
本発明のルアーの製造工程の一実施形態について、図4および図5を用いて以下に説明する。図4には、分割体の製造工程における、プリプレグを分割体へ成形する際のプリプレグと成形用金型の位置関係を示す。図5には、プリプレグを入れ子で押圧しながら分割体を成形する成形工程での、プリプレグと、樹脂製の入れ子と、成形用金型の断面図を示す。
【0032】
本発明のルアーの製造工程は、ルアーの外殻となる本体を構成する、略紡錘形状の長手方向に沿って分割された2つの分割体を製造する工程(分割体製造工程)と、得られた2つの分割体を接合する工程(接合工程)とを備える。以下、(1)~(3)において分割体製造工程が含む各工程を説明し、(4)~(6)において接合工程およびその他の工程を説明する。
【0033】
(1)配置工程
配置工程では、炭素繊維織布に熱硬化性樹脂を含侵させたプリプレグ(例えば、エポキシ含浸の炭素繊維織布:3K、硬化後の厚み0.2mm)を、ルアーの外殻の形状である凹溝81を有する成型用金型である凹型8に沿って、3枚配置する。積層する3枚のプリプレグのうち、最外殻に配置するプリプレグは、炭素繊維織布の繊維方向が完成後のルアーの略紡錘形状の長手方向に対して、例えば約45°の角度となるように配置する。また、積層の際には、繊維方向が同じとならないように重ねて配置する。プリプレグの配置前には、凹溝81の内部に離型剤などをスプレーし、離型被膜を形成する。本体内部への樹脂部材の充填用の貫通孔を形成するため、プリプレグの配置後、成型後の腹部の貫通孔にあたる場所の2か所に、半円筒形状の治具を嵌め込む。
【0034】
(2)装填工程
装填工程では、予め凹型8を用いて成形した中実のシリコーン樹脂製の入れ子11を装填し、プリプレグを凹型8の内面に押し付ける。入れ子11の大きさは、加熱焼成前において、凹型8内においてプリプレグと押圧プレート9とに密に接触する大きさである。装填時に凹型8とシリコーン樹脂製の入れ子11の隙間からはみ出る余分なプリプレグはカッターにより除去し、プリプレグの端部が平面上に揃うように整える(図5(a)参照)。なお、樹脂製の入れ子を装填する前に、凹型に沿って配置したプリプレグの上から、離型剤をスプレーし、プリプレグの内面に離型被膜を形成してもよい。
【0035】
シリコーン樹脂製の入れ子は、その線熱膨張係数から、エポキシ樹脂含浸のプリプレグの加熱焼成条件において適度に膨張し、プリプレグを十分に押圧できる。これにより、成形工程での真空引き(オートクレーブや真空バック)を不要とできる。また、シリコーン樹脂製の入れ子は、表面エネルギーが低いため、離型剤を設けない場合であっても成形工程後にプリプレグから離型しやすい。なお、入れ子は、シリコーン樹脂製に限らず、加熱焼成温度以上の耐熱性を有し、軟質で熱膨張性の樹脂であれば適宜選択できる。
【0036】
(3)成形工程
成形工程では、プリプレグおよびシリコーン樹脂製の入れ子11を、凹型8に対して押圧する押圧プレート9で挟む。押圧プレート9と、凹型8は、四隅と長辺の中央部に設けた複数か所の固定穴へボルト(図示省略)を挿入して固定する。押圧しながら、常圧下にて、例えば約120℃~150℃で約3時間~5時間、加熱焼成してプリプレグを熱硬化させて分割体を成形する(図5(a)参照)。加熱焼成時には、シリコーン樹脂製の入れ子11が熱膨張し、プリプレグに対し均一に押圧するので、凹型8の内面形状に沿った設計通りの外殻を成形できる。
【0037】
ここで、図4(b)と図5(b)に基づき、雄型の接合部を備えた分割体を製造する工程について説明する。雄型の接合部を備えた分割体を製造する工程は、雌型の接合部を備えた分割体を製造する場合(図4(a)と図5(a))と比較して工程の一部が異なる。
【0038】
凹型8と押圧プレート9との間に、凹型8の凹溝81に重ねて設けられる、凹溝81の縁の形状と相似形で凹溝81の縁の内寸よりも小さい薄溝10bを有する段差部形成部材10を配置する。薄溝10bの内径までプリプレグを配置した状態で、このプリプレグを硬化させて、薄溝10bの内径に沿った段差部13dを形成する。より詳細には、配置工程において、凹型8の凹溝81より少しサイズの大きいプリプレグを配置した後、装填工程において入れ子11を装填する。その後、段差部形成部材10を、プリプレグの凹溝81からの突出端部が薄溝10bの内径に沿うように、凹型8に対して配置する。その際に、段差部形成部材10の薄溝10bからはみ出る余分なプリプレグはカッターにより除去する。最後に、成形工程において、段差部形成部材10の上に配置される押圧プレート9で、プリプレグおよび入れ子11を凹型8に対して押圧しつつ、加熱焼成して成形する。
【0039】
これにより、一方の分割体7bの接合部の内側に配置される段差部13dが形成される。接着剤で2つの分割体を接合するに際して、段差部13dの段差面からの突出幅(段差部形成部材10の厚み)が主な接着しろとなる。この突出幅は、これらの分割体を十分な強度で接合できる幅とする。また、これらの分割体を外周上において段差なく接合できるように、接合部の両分割体間に接着剤層分の隙間を設けることが好ましい。この隙間を設けることで、分割体の接合部の段差部などの形状に歪みがあるような場合であっても、接着剤層でその歪みを吸収できる。この隙間を設ける観点から、分割体7bと嵌合する分割体7aの厚みTは、凹溝81の外縁の内寸W1および薄溝10bの外縁の内寸W2と、例えば以下の関係にあることが好ましい。
T:(W1-W2)/6<T<(W1-W2)/2
これにより、雄型の接合部の段差部13dの外周と、雌型の接合部13aの内周との隙間を設けることの上記効果に加えて、この隙間が大きくなりすぎないため、構造的に安定しやすく、適量の接着剤で固定できる。
【0040】
なお、2つの分割体はともに、段差部形成部材を用いず、押圧プレートと凹型により成形してもよい。この場合、雌型の接合部を有する分割体が2つ得られる。接合工程では、雌型の接合部の端面同士を接着剤により接着して本体を得る。端面のみでの接着は、雄型と雌型の接合部を接着する場合よりも接着面積が小さくなる。小さい面積でより高い接着力を発現するため、端面は平滑であることが好ましい。
【0041】
(4)接合工程
2つの分割体の接合部にエポキシ系などの接着剤を塗布し、錘を支持する連結支持部材を挟み込みながら、雄型と雌型の接合部を互いに嵌合して、本体が得られる。接合工程前において、錘は、連結支持部材の支持部上の任意の位置に予め固定しておく。
【0042】
(5)研磨工程
接着された本体を水中に浸漬し、耐水性のサンドペーパーを用いて、本体表面のバリや接着剤の除去、研磨などを行う。
【0043】
(6)充填工程
充填工程では、本体の腹部に設けられた貫通孔からウレタン樹脂などの樹脂部材を充填し、これを硬化させることでルアーが完成する(例えば図1の形状)。なお、本体には、必要に応じて目や、鰭、リップ、鱗模様などを適宜設けることができる。
【0044】
積層したプリプレグを用いて、曲率が小さく複雑な立体形状を成形するには、一般的に高い加工技術・生産設備(オートクレーブなど)を要する。本発明の製造方法を用いることで、構造的欠陥が無く、高強度な外殻を有するルアーを、簡易な設備で安価に製造できる。
【0045】
以上、各図などに基づき本発明のカーボンルアーおよびカーボンルアーの製造方法について説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のカーボンルアーおよび本発明の製造方法で製造したカーボンルアーは、本物の魚の動きに似た動きができることで釣果に優れるとともに、耐久性にも優れるので、幅広い用途のルアーとして利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 ルアー(カーボンルアー)
2 本体
3 樹脂部材
4 連結支持部材
4a 支持部
5、5a、5b、5c アイ
6 錘
7、7a、7b 分割体
8 凹型
81 凹溝
9 押圧プレート
10 段差部形成部材
10b 薄溝
11 入れ子
12 貫通孔
13、13a、13b 接合部
13c 外周部
13d 段差部
図1
図2
図3
図4
図5