IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-演算装置及びプログラム 図1
  • 特開-演算装置及びプログラム 図2
  • 特開-演算装置及びプログラム 図3
  • 特開-演算装置及びプログラム 図4
  • 特開-演算装置及びプログラム 図5
  • 特開-演算装置及びプログラム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086894
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】演算装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/06 20120101AFI20220602BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20220602BHJP
   E01C 23/01 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
B60W40/06
G08G1/00 J
E01C23/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199166
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼松 伸一
(72)【発明者】
【氏名】首藤 悠
【テーマコード(参考)】
2D053
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
2D053AA32
2D053AB03
2D053FA01
3D241BA50
3D241BC03
3D241BC06
3D241DB10Z
3D241DC49B
3D241DC49Z
5H181AA01
5H181CC04
5H181CC27
5H181FF05
5H181FF10
5H181MC16
(57)【要約】
【課題】車両側の検出条件が異なる場合であっても、道路の路面の状態を適切に確認する。
【解決手段】演算装置は、道路を走行する車両10の異なる位置に設けられる複数のセンサによって検出された、車両の挙動を示す車両挙動情報を取得する車両挙動情報取得部と、複数の車両挙動情報に基づいて、入力としての道路の路面状態と、出力としての車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、道路の路面状態を示す路面状態情報を取得する路面状態情報取得部と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する車両の異なる位置に設けられる複数のセンサによって検出された、前記車両の挙動を示す車両挙動情報を取得する車両挙動情報取得部と、
複数の前記車両挙動情報に基づいて、入力としての前記道路の路面状態と、出力としての前記車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、前記道路の路面状態を示す路面状態情報を取得する路面状態情報取得部と、
を含む、演算装置。
【請求項2】
前記路面状態情報取得部は、前記道路の異なる位置の路面状態がそれぞれの前記車両挙動情報に影響を及ぼすと仮定することで前記伝達関数を推定することで、前記道路の位置毎の路面状態情報を取得する、請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記路面状態情報取得部は、前記道路のそれぞれの位置の路面状態とそれぞれの前記車両挙動情報との組み合わせ毎に、前記伝達関数を推定して、前記道路の位置毎の路面状態情報を取得する、請求項2に記載の演算装置。
【請求項4】
異なる前記センサが検出した前記車両挙動情報を、X1、X2、X3、X4とし、異なる位置における前記路面状態を、S1、S2、S3、S4とした場合に、
前記路面状態情報取得部は、以下の式(1)~(4)の全てが成立するような伝達関数A11~A44及び車両挙動情報S1~S4を算出することで、前記路面状態情報を算出する、請求項3に記載の演算装置。
X1=A11・S1+A21・S2+A31・S3+A41・S4+E1 ・・・(1)
X2=A12・S1+A22・S2+A32・S3+A42・S4+E2 ・・・(2)
X3=A13・S1+A23・S2+A33・S3+A43・S4+E3 ・・・(3)
X4=A14・S1+A24・S2+A34・S3+A44・S4+E4 ・・・(4)
ここで、S1を入力信号としX1を出力信号とする伝達関数をA11とし、S1を入力信号としX2を出力信号とする伝達関数をA12とし、S1を入力信号としX3を出力信号とする伝達関数をA13とし、S1を入力信号としX4を出力信号とする伝達関数をA14とし、S2を入力信号としX1を出力信号とする伝達関数をA21とし、S2を入力信号としX2を出力信号とする伝達関数をA22とし、S2を入力信号としX3を出力信号とする伝達関数をA23とし、S2を入力信号としX4を出力信号とする伝達関数をA24とし、S3を入力信号としX1を出力信号とする伝達関数をA31とし、S3を入力信号としX2を出力信号とする伝達関数をA32とし、S3を入力信号としX3を出力信号とする伝達関数をA33とし、S3を入力信号としX4を出力信号とする伝達関数をA34とし、S4を入力信号としX1を出力信号とする伝達関数をA41とし、S4を入力信号としX2を出力信号とする伝達関数をA42とし、S4を入力信号としX3を出力信号とする伝達関数をA43とし、S4を入力信号としX4を出力信号とする伝達関数をA44とし、E1~E4は係数である。
【請求項5】
道路を走行する車両の異なる位置に設けられる複数のセンサによって検出された、前記車両の挙動を示す車両挙動情報を取得するステップと、
複数の前記車両挙動情報に基づいて、入力としての前記道路の路面状態と、出力としての前記車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、前記道路の路面状態を示す路面状態情報を取得するステップと、
を含む、演算方法を、コンピュータに実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、道路を走行している車両の振動を検出し、その振動データに基づいて、道路の路面凹凸状態を診断する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-108988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば同じ道路を走行していたとしても、例えば車種が異なるなど、車両側の検出条件が異なる場合には、車両の挙動は異なるものとなり、道路の路面の状態を適切に検出できないおそれがある。そのため、車両側の検出条件が異なる場合であっても、道路の路面の状態を適切に検出することが求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両側の検出条件が異なる場合であっても、道路の路面の状態を適切に検出可能な演算装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る演算装置は、道路を走行する車両の異なる位置に設けられる複数のセンサによって検出された、前記車両の挙動を示す車両挙動情報を取得する車両挙動情報取得部と、複数の前記車両挙動情報に基づいて、入力としての前記道路の路面状態と、出力としての前記車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、前記道路の路面状態を示す路面状態情報を取得する路面状態情報取得部と、を含む。
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係るプログラムは、道路を走行する車両の異なる位置に設けられる複数のセンサによって検出された、前記車両の挙動を示す車両挙動情報を取得するステップと、複数の前記車両挙動情報に基づいて、入力としての前記道路の路面状態と、出力としての前記車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、前記道路の路面状態を示す路面状態情報を取得するステップと、を含む、演算方法を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両側の検出条件が異なる場合であっても、道路の路面の状態を適切に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る検出システムの模式的なブロック図である。
図2図2は、車両の模式図である。
図3図3は、車両の模式図である。
図4図4は、演算装置の模式的なブロック図である。
図5図5は、路面状態の算出を説明する模式図である。
図6図6は、本実施形態に係る路面状態の算出フローを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
(検出システム)
図1は、本実施形態に係る検出システムの模式的なブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る検出システム1は、車両10と、測定データ取得装置12と、演算装置14とを含む。検出システム1は、道路Rを走行する車両10の車両挙動情報に基づき、その道路Rの路面状態を判定するシステムである。車両挙動情報とは、道路Rを走行中の車両10の挙動を示す情報であり、詳しくは後述する。検出システム1は、演算装置14によって、車両挙動情報に基づいて道路Rの路面状態を算出することで、道路Rの路面状態を判定する。路面状態は、本実施形態では路面の凹凸度合いを示す指標である。さらに言えば、本実施形態では、路面状態は、路面の鉛直方向での高さを示す情報であり、例えば、道路R上のある位置における路面状態は、その位置よりも車両10の進行方向に沿って単位距離手前での路面の高さに対する、その位置における路面の高さの差分であってよい。また例えば、路面状態は、IRI(International Roughness Index;国際ラフネス指数)、路面の平たん性、ひび割れ、わだち掘れ、及びMCI(Meintenance Control Index)の少なくとも1つであってもよい。また例えば、路面状態は、道路R上の、マンホールの有無や橋の継ぎ目の有無など、路面の凹凸度合いに影響を及ぼす物体の有無を示す情報であってよいし、路面の凹凸度合いに影響を及ぼす物体の有無を示す情報と、上記の情報(IRIなど)とを含むものであってもよい。また、路面状態情報は、路面の状態を示す指標であれば、路面の凹凸度合いを示す指標に限定されない。
【0012】
検出システム1においては、車両10が、道路Rを走行しながら車両挙動情報を検出し、検出した車両挙動情報を測定データ取得装置12に送信する。測定データ取得装置12は、例えば道路Rを管理する主体に管理される装置(コンピュータ)である。測定データ取得装置12は、車両10から送信された車両挙動情報を、演算装置14に送信する。演算装置14は、測定データ取得装置12から送信された車両挙動情報に基づき、車両10が走行した道路Rの路面状態を算出する。そして、演算装置14は、路面状態の算出結果を、測定データ取得装置12に送信する。このように、演算装置14は、測定データ取得装置12を介して車両挙動情報を取得するが、それに限られない。例えば、検出システム1は、測定データ取得装置12が設けられておらず、演算装置14が、車両10から直接車両挙動情報を取得してもよい。
【0013】
(車両)
図2及び図3は、車両の模式図である。図2及び図3におけるZ方向は、鉛直方向の上方を指し、図2は鉛直方向上方から車両10を見た場合の模式図であり、図3は、側方から車両10を見た場合の模式図である。図2に示すように、車両10は、位置センサ10Aと、複数の挙動センサ10Bと、測定装置10Cとを備える。位置センサ10Aは、車両10の位置情報を取得するセンサである。車両10の位置情報とは、車両10の地球座標を示す情報である。位置センサ10Aは、本実施形態ではGNSS(Global Navivation Satelite System)用のモジュールである。
【0014】
挙動センサ10Bは、車両10の挙動を示す車両挙動情報を検出するセンサである。車両挙動情報は、道路を走行中の車両10の挙動を示す情報であれば任意の情報であってよい。それぞれの挙動センサ10Bは、異なる種類の車両挙動情報を検出するものであってよいが、同じ種類の車両挙動情報を検出することが好ましい。本実施形態では、挙動センサ10Bは、車両10の加速度を車両挙動情報として検出することが好ましい。この場合、挙動センサ10Bは、加速度を検出する加速度センサであり、より好ましくは3軸での加速度を検出する加速度センサである。また、挙動センサ10Bが検出する車両挙動情報は、加速度であることに限られず、例えば、加速度、車両10の周囲を撮像した画像データ、車両10の速度、車両10の角速度、車両10のステアリング角度、車両10のブレーキ量、車両10のワイパの動作、及び車両10のサスペンションの作動量の少なくとも1つであってよい。なお、車両10の周囲の画像データは、車両10の動きによって変化するため、車両10の挙動を示す情報であるといえる。車両10の周囲の撮像画像を検出する挙動センサ10Bは例えばカメラであり、車両10の速度を検出する挙動センサ10Bは例えば速度センサであり、車両10の速度を検出する挙動センサ10Bは例えば3軸ジャイロセンサであり、車両10のステアリング角度を検出する挙動センサ10Bは例えばステアリングセンサであり、車両10のブレーキ量を検出する挙動センサ10Bは例えばブレーキセンサであり、車両10のワイパの動作を検出する挙動センサ10Bは例えばワイパセンサが挙げられ、車両10のサスペンションの作動量を検出する挙動センサ10Bは例えばサスペンションセンサが挙げられる。
【0015】
それぞれの挙動センサ10Bは、車両10において、互いに異なる位置に搭載されている。図3に示すように、挙動センサ10Bは、車両10のタイヤ(ホイール)TRに設けられるサスペンションSUよりも、Z方向側に設けられる。すなわち、挙動センサ10Bは、車両10のサスペンションSUよりも、タイヤTRとは反対方向側(Z方向側)に設けられる。図2の例では、挙動センサ10Bとして、左側の前輪であるタイヤTR1のサスペンションSUのZ方向側に設けられる挙動センサ10B1と、右側の前輪であるタイヤTR2のサスペンションSUのZ方向側に設けられる挙動センサ10B2と、左側の後輪であるタイヤTR3のサスペンションSUのZ方向側に設けられる挙動センサ10B3と、右側の後輪であるタイヤTR4のサスペンションSUのZ方向側に設けられる挙動センサ10B4とを含む。ただし、挙動センサ10Bの設けられる位置は任意であり、例えばサスペンションSUよりもZ方向側に設けられていることに限られない。また、挙動センサ10Bの数も、4つであることに限られず任意であり、2つ以上の任意の数であってよい。また、図2の例ではタイヤTRの数は4つであるが、その数は任意であり、例えば、2つ以上の任意の数であってよい。
【0016】
本実施形態の演算装置14は、これらの挙動センサ10B(図2の例では挙動センサ10B1~10B4)がそれぞれ検出した車両挙動情報を取得して、路面状態を算出する。
【0017】
なお、車両10は、以上説明した挙動センサ10B以外にも、車両挙動情報を検出するセンサが設けられていてもよい。例えば、サスペンションSUよりも鉛直方向下方に、車両挙動情報を検出するセンサが設けられていてもよい。このように挙動センサ10B以外にも車両挙動情報を検出するセンサが設けられている場合には、演算装置14は、これら複数のセンサが検出した車両挙動情報のうちの、挙動センサ10Bが検出した車両挙動情報を用いて、路面状態を算出するといえる。
【0018】
測定装置10Cは、位置センサ10A及び挙動センサ10Bを制御して車両10の位置情報と車両挙動情報を検出させて、検出させた位置情報と車両挙動情報とを記録する装置である。すなわち、測定装置10Cは、車両10の位置情報と車両挙動情報とを記録するデータロガーとして機能する。測定装置10Cは、コンピュータであるとも言え、制御部10C1と、記憶部10C2と、通信部10C3とを含む。制御部10C1は、演算装置、すなわちCPU(Central Processing Unit)である。記憶部10C2は、制御部10C1の演算内容やプログラム、車両10の位置情報及び車両挙動情報などの各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶装置のうち、少なくとも1つを含む。なお、記憶部10C2が保存する制御部10C1用のプログラムは、測定装置10Cが読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。通信部10C3は、外部の装置と通信を行う通信モジュールであり、例えばアンテナなどである。
【0019】
制御部10C1は、記憶部10C2に記憶されたプログラムを読み出して、位置センサ10A及び挙動センサ10Bの制御を実行する。制御部10C1は、車両10が道路を走行中に、所定時間ごとに、挙動センサ10Bに車両10の車両挙動情報を検出させる。また、制御部10C1は、位置センサ10Aに、挙動センサ10Bが車両挙動情報を検出したタイミングにおける車両10の位置情報を検出させる。すなわち、制御部10C1は、車両10が所定時間走行するたびに、挙動センサ10Bに車両10の車両挙動情報を検出させ、位置センサ10Aに車両10の位置情報を検出させる。ここでの所定時間とは、例えば1分など、一定の時間であることが好ましいが、所定時間は一定の時間であることに限られず、任意の長さであってよい。すなわち、所定時間は都度変化してもよく、例えば前回検出を行ってから1分経過したタイミングで今回の検出を行い、今回の検出から3分経過しタイミングで次回の検出を行ってもよい。
【0020】
以下、挙動センサ10Bが車両挙動情報を検出したタイミングにおける車両10の位置情報を、適宜、車両位置情報と記載する。車両位置情報は、車両挙動情報が検出された位置の情報(座標)ともいえる。
【0021】
制御部10C1は、所定時間ごとに検出させた車両10の車両挙動情報と、車両位置情報とを取得し、取得した車両挙動情報と車両位置情報とを関連付けて、記憶部10C2に記憶させる。すなわち、同じタイミングで検出された車両挙動情報と車両位置情報とが、関連付けられる。そのため、記憶部10C2には、関連付けられた車両挙動情報と車両位置情報とが、検出されたタイミング毎に記憶される。なお、ここで関連付けられる車両位置情報と車両挙動情報とは、同じタイミングで検出されたものであるが、厳密に同じタイミングであることに限られず、異なるタイミングで検出されたものであってよい。この場合、例えば、検出タイミングの差が所定値以下となる車両位置情報と車両挙動情報とが、同じタイミングで検出されたものとして扱われて、関連付けられる。
【0022】
制御部10C1は、関連付けられた車両挙動情報と車両位置情報とを、通信部10C3を介して、測定データ取得装置12に送信する。測定データ取得装置12は、車両10から受信した車両挙動情報と車両位置情報とを、演算装置14に送信する。なお、測定データ取得装置12を設けない場合は、制御部10C1は、関連付けられた車両挙動情報と車両位置情報とを、演算装置14に直接送信してもよい。
【0023】
(車両挙動情報と路面状態との関係)
ここで、路面状態は、路面に接するタイヤTRを介して、車両10の挙動に影響を与える。例えば、路面の凹凸(路面状態)に応じてタイヤTRが振動し、その振動が車両10全体に伝わるため、車両10の加速度(車両挙動情報)は、路面の凹凸(路面状態)に応じて変化する。このように車両挙動情報が路面状態に応じて変化するため、路面状態は、車両挙動情報に基づいて推定可能である。しかし、車両が異なる場合には、振動の伝わり方も異なるため、同じ路面状態の道路を走行しても、検出される車両挙動情報が異なる場合がある。例えば軽い車両の方が、振動が増幅されて加速度変化が大きくなる場合がある。また、車両挙動情報を検出するセンサの設けられた位置や種類によっても、車両挙動情報が異なることもある。
【0024】
以上説明した路面状態と車両挙動情報との関係は、次のように言い換えることもできる。車両10においては、入力信号としての路面状態が、例えば振動などの信号に変換されて、タイヤTRを介して車両10に入力される。そして、その信号(例えば振動)が、車両10で変調されて挙動センサ10Bの設けられる位置まで伝達されて、挙動センサ10Bが、伝達された信号を、出力信号(例えば加速度)として検出する。この場合、車種やセンサ位置、種類などの検出条件に応じて、信号の変調度合いが異なるため、検出条件が変わると、挙動センサ10Bが検出する出力信号(車両挙動情報)も変わる。すなわち、路面状態を入力信号として車両挙動情報を出力信号とした場合の伝達関数が、車両10側の検出条件に応じて異なるために、路面状態が同じであっても車両挙動情報が変わるといえる。なお、ここでの伝達関数は、入力信号である路面状態と出力信号である車両挙動情報との関係を示す関数といえる。
【0025】
このように、同じ路面状態であっても、車両10側の検出条件に応じて伝達関数が変わり、結果として検出される車両挙動情報が異なるため、車両挙動情報に基づいて路面状態を適切に推定できない場合がある。従って、車両10側の検出条件が異なる場合でも、言い換えれば車両10側の検出条件を問わずに、路面状態を適切に推定することが求められている。それに対し、本実施形態に係る演算装置14は、複数の車両挙動情報から伝達関数を推定することにより、車両10側の検出条件を問わず、路面状態を適切に検出することを可能としている。以下、演算装置14について具体的に説明する。
【0026】
(演算装置)
図4は、演算装置の模式的なブロック図である。図4に示すように、演算装置14は、例えばコンピュータであり、通信部20と、記憶部22と、制御部24とを含む。通信部20は、外部の装置と通信を行う通信モジュールであり、例えばアンテナなどである。記憶部22は、制御部24の演算内容やプログラムなどの各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAMと、ROMのような主記憶装置と、フラッシュメモリやHDDなどの不揮発性の記憶装置のうち、少なくとも1つを含む。なお、記憶部22が保存する制御部24用のプログラムは、演算装置14が読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
【0027】
制御部24は、演算装置、すなわちCPUである。制御部24は、車両挙動情報取得部30と路面状態情報取得部32とを含む。制御部24は、記憶部22からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、車両挙動情報取得部30と路面状態情報取得部32とを実現して、それらの処理を実行する。なお、制御部24は、1つのCPUによってこれらの処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、車両挙動情報取得部30と路面状態情報取得部32との少なくとも一部を、ハードウェアで実現してもよい。
【0028】
(車両挙動情報取得部)
車両挙動情報取得部30は、複数の挙動センサ10Bによって検出された車両挙動情報を取得する。すなわち、車両挙動情報取得部30は、車両10内で互いに異なる位置で検出された、複数の車両挙動情報を取得する。本実施形態の例では、車両挙動情報取得部30は、挙動センサ10B1が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B2が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B3が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B4が検出した車両挙動情報とを取得する。さらに言えば、車両挙動情報取得部30は、車両挙動情報と共に、その車両挙動情報に関連付けられた車両位置情報を取得する。すなわち、車両挙動情報取得部32は、複数の挙動センサ10Bによって検出された車両挙動情報と、それらの車両挙動情報が検出された際の車両位置情報とを、取得する。車両挙動情報取得部30は、車両10によって逐次検出された車両挙動情報と車両位置情報を、取得する。
【0029】
車両挙動情報取得部30は、車両挙動情報と車両位置情報とを、通信部20を介して、測定データ取得装置12から取得する。ただし、測定データ取得装置12を設けない場合は、車両挙動情報取得部30は、車両挙動情報と車両位置情報とを、車両10の測定装置10Cから直接取得してもよい。
【0030】
(路面状態情報取得部)
路面状態情報取得部32は、車両挙動情報取得部30が取得した複数の車両挙動情報に基づいて、入力信号としての路面状態と出力信号としての車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、路面状態を示す路面状態情報を取得する。上述のように、伝達関数は車両側の検出条件によって異なり、検出条件毎の伝達関数は通常未知であるため、検出条件毎の伝達関数を予め算出することなく、車両挙動情報を用いて路面情報を算出することは難しい。それに対し、路面状態情報取得部32は、複数の車両挙動情報に基づいて伝達関数を推定することで、検出条件毎の伝達関数を予め算出することなく、路面情報を算出することを可能としている。具体的には、本実施形態においては、路面状態情報取得部32は、ブラインド信号源分離の原理を用いて、複数の車両挙動情報に基づき、伝達関数を推定して路面状態を算出する。以下、具体的に説明する。
【0031】
路面状態情報取得部32は、路面状態に応じたタイヤTR1~TR4への信号(例えば振動)のそれぞれが、車両挙動情報のそれぞれに影響を及ぼすと仮定して、車両挙動情報に基づいて伝達関数を推定し、タイヤTRが接触する道路R上の位置毎の路面状態を算出する。すなわち、路面状態情報取得部32は、それぞれのタイヤTRへの信号が全ての挙動センサ10Bに伝わると仮定して、伝達関数を推定して路面状態を算出する。本実施形態の例では、路面状態情報取得部32は、タイヤTR1、TR2、TR3、TR4への信号(タイヤTR1、TR2、TR3、TR4の振動)が、挙動センサ10B1が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B2が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B3が検出した車両挙動情報と、挙動センサ10B4が検出した車両挙動情報とに影響を及ぼすと仮定して、伝達関数を推定し、タイヤTR1、TR2、TR3、TR4が接触する位置の路面状態を算出する。なお、タイヤTR1、TR2、TR3、TR4は、それぞれ異なる位置で道路Rと接触する。そのため、路面状態情報取得部32は、異なる位置に入力される路面状態に応じた信号のそれぞれが、車両挙動情報のそれぞれに影響を及ぼすと仮定して、伝達関数を推定して路面状態を算出するともいえる。
【0032】
また、路面状態情報取得部32は、路面状態に応じたタイヤTRへの信号と車両挙動情報との組み合わせ毎に(タイヤTRへの信号と車両挙動情報との1:1の組み合わせ毎に)、伝達関数を推定して、タイヤTRが接触する道路R上の位置毎の路面状態を算出する。言い換えれば、路面状態情報取得部32は、道路Rのそれぞれの位置の路面状態とそれぞれの車両挙動情報との組み合わせ毎に(路面状態と車両挙動情報の1:1の組み合わせ毎に)、伝達関数を推定して、道路Rの位置毎の路面状態を算出する。すなわち、路面状態情報取得部32は、信号が挙動センサ10Bに伝わる際の変調度合いが、タイヤTRと挙動センサ10Bの組み合わせ毎に異なるとして、タイヤTRの信号と車両挙動情報との組み合わせ毎に、言い換えれば道路Rの位置の路面状態と車両挙動情報との組み合わせ毎に、伝達関数を推定する。本実施形態の例では、路面状態情報取得部32は、タイヤTR1と挙動センサ10B1の組み合わせ、タイヤTR1と挙動センサ10B2の組み合わせ、タイヤTR1と挙動センサ10B3の組み合わせ、タイヤTR1と挙動センサ10B4の組み合わせ、タイヤTR2と挙動センサ10B1の組み合わせ、タイヤTR2と挙動センサ10B2の組み合わせ、タイヤTR2と挙動センサ10B3の組み合わせ、タイヤTR2と挙動センサ10B4の組み合わせ、タイヤTR3と挙動センサ10B1の組み合わせ、タイヤTR3と挙動センサ10B2の組み合わせ、タイヤTR3と挙動センサ10B3の組み合わせ、タイヤTR3と挙動センサ10B4の組み合わせ、タイヤTR4と挙動センサ10B1の組み合わせ、タイヤTR4と挙動センサ10B2の組み合わせ、タイヤTR4と挙動センサ10B3の組み合わせ、タイヤTR4と挙動センサ10B4の組み合わせの、合計16個の伝達関数を推定する。
【0033】
より詳しくは、路面状態情報取得部32は、車両挙動情報と、位置毎の路面状態と、路面状態と車両挙動情報との伝達関数との関係を示す方程式が、車両挙動情報毎に成立するとし、かつ、車両挙動情報同士が独立するとして、車両挙動情報毎の連立方程式を解くことで、伝達関数と路面状態とを算出する。車両挙動情報同士が独立するとは、車両挙動情報同士が互いに影響を及ぼさないことを意味する。図5は、路面状態の算出を説明する模式図である。図5に示すように、挙動センサ10B1が検出した車両挙動情報をX1とし、挙動センサ10B2が検出した車両挙動情報をX2とし、挙動センサ10B3が検出した車両挙動情報をX3とし、挙動センサ10B4が検出した車両挙動情報をX4とし、タイヤTR1に接触する道路R上の位置での路面状態をS1とし、タイヤTR2に接触する道路R上の位置での路面状態をS2とし、タイヤTR3に接触する道路R上の位置での路面状態をS3とし、タイヤTR4に接触する道路R上の位置での路面状態をS4とする。また、路面状態S1を入力信号とし車両挙動情報X1を出力信号とする伝達関数をA11とし、路面状態S1を入力信号とし車両挙動情報X2を出力信号とする伝達関数をA12とし、路面状態S1を入力信号とし車両挙動情報X3を出力信号とする伝達関数をA13とし、路面状態S1を入力信号とし車両挙動情報X4を出力信号とする伝達関数をA14とし、路面状態S2を入力信号とし車両挙動情報X1を出力信号とする伝達関数をA21とし、路面状態S2を入力信号とし車両挙動情報X2を出力信号とする伝達関数をA22とし、路面状態S2を入力信号とし車両挙動情報X3を出力信号とする伝達関数をA23とし、路面状態S2を入力信号とし車両挙動情報X4を出力信号とする伝達関数をA24とし、路面状態S3を入力信号とし車両挙動情報X1を出力信号とする伝達関数をA31とし、路面状態S3を入力信号とし車両挙動情報X2を出力信号とする伝達関数をA32とし、路面状態S3を入力信号とし車両挙動情報X3を出力信号とする伝達関数をA33とし、路面状態S3を入力信号とし車両挙動情報X4を出力信号とする伝達関数をA34とし、路面状態S4を入力信号とし車両挙動情報X1を出力信号とする伝達関数をA41とし、路面状態S4を入力信号とし車両挙動情報X2を出力信号とする伝達関数をA42とし、路面状態S4を入力信号とし車両挙動情報X3を出力信号とする伝達関数をA43とし、路面状態S4を入力信号とし車両挙動情報X4を出力信号とする伝達関数をA44とする。この場合、車両挙動情報X1~X4は、挙動センサ10Bで検出されるため既知となり、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4は未知であるため、路面状態情報取得部32は、車両挙動情報X1~X4に基づいて、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を算出するといえる。
【0034】
この場合、路面状態情報取得部32は、以下の式(1)~(4)の全てが成立するような、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を算出する。なお、E1、E2、E3、E4は、係数であり、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4の算出に合わせて設定される。
【0035】
X1=A11・S1+A21・S2+A31・S3+A41・S4+E1 ・・・(1)
X2=A12・S1+A22・S2+A32・S3+A42・S4+E2 ・・・(2)
X3=A13・S1+A23・S2+A33・S3+A43・S4+E3 ・・・(3)
X4=A14・S1+A24・S2+A34・S3+A44・S4+E4 ・・・(4)
【0036】
例えば、路面状態情報取得部32は、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4に、値を変えながら数値を代入する回帰計算を用いて、式(1)~(4)が成立するような、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を算出する。なお、路面状態情報取得部32は、式(1)~(4)の左辺と右辺が厳密に同じ値となる場合に、式(1)~(4)が成立すると判断することに限られず、式(1)~(4)の左辺と右辺との差分が所定の範囲内となる場合に、式(1)~(4)が成立するとして、式(1)~(4)の左辺と右辺との差分を所定の範囲内とするような、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を算出してよい。
【0037】
路面状態情報取得部32による、式(1)~(4)が成立するような、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4の算出方法の具体例を以下で説明する。
【0038】
路面状態情報取得部32は、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4について任意の値を当てはめて、式(1)~(4)の右辺を算出する計算を実行して、式(1)~(4)の全てで、左辺(車両挙動情報の計測値)と右辺(車両挙動情報を伝達関数や路面状態から算出した計算値)との差が所定値以内となるかを判断する。そして、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4の値を変えながら同様の計算を行い、式(1)~(4)の全てで、左辺と右辺との差が所定値以内となった際の伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4の算出結果として取得する。すなわち、路面状態情報取得部32は、最尤推定の手法を用いて、伝達関数A11~A44及び路面状態S1~S4を算出するといえる。なお、係数であるE1~E4については、例えば確率分布などを利用して、計算の度にランダムに設定してよい。
【0039】
また、計算に用いる路面状態S1~S4の候補を、次のように抽出してもよい。すなわち、時系列で連続した車両挙動情報X1~X4の測定値の波形である時間波形と、路面状態S1~S4及び伝達関数A11~A44として任意の値を代入して算出した車両挙動情報X1~X4の算出値(すなわち式(1)~(4)の右辺)の時間波形とを作成して、それらの時間波形を比較する。そして、それらの時間波形の形状の差異が小さい場合に、その時間波形に用いた路面状態S1~S4を、計算に用いる路面状態S1~S4の候補とする。時間波形の形状の差異が小さいかの判断は、任意の判断基準を用いてよい。
【0040】
また、以上の説明では、路面状態S1~S4が未知であり、路面状態と伝達関数の両方を算出する場合を例にしたが、既知の路面状態S1~S4を用いて、伝達関数A11~A44を予め算出しておいてもよい。すなわちこの場合、車両10に、路面状態が既知の道路上を走行させて、車両挙動情報X1~X4を取得させる。そして、取得した車両情報X1~X4を式(1)~(4)の左辺に代入し、既知の路面状態S1~S4を式(1)~(4)の右辺に代入して、例えば上述のような最尤推定の手法を用いて、伝達関数A11~A44を算出する。その後、路面状態が未知の道路を走行させて車両情報X1~X4を取得したら、車両情報X1~X4及び伝達関数A11~A44が既知となるので、式(1)~(4)により、路面状態が未知の道路の路面状態S1~S4を算出できる。このように既知の路面状態S1~S4を用いて、伝達関数A11~A44を予め算出することで、計算負荷を低減できる。
【0041】
また、以上の説明では、タイヤの数が4つの場合を例に説明していたが、タイヤの数をn個として一般化した場合には、以下の式(A1)から式(An)の全てが成立するような、伝達関数A11~Ann及び路面状態S1~Snを算出するといえる。算出方法としては上記の説明と同様である。なお、nは2以上の整数であり、例えば、伝達関数A1nは、路面状態S1を入力信号とし車両挙動情報Xnを出力信号とする伝達関数である。
【0042】
X1=A11・S1+・・・+An1・Sn+E1 ・・・(A1)
・・・
Xn=A1n・S1+・・・+Ann・Sn+En ・・・(An)
【0043】
以上の説明では、タイヤTR及び挙動センサ10Bが4つである場合を例に説明していたが、路面状態情報取得部32は、タイヤTR及び挙動センサ10Bが2つ以上である場合に、次のようにして路面状態を算出すると言い換えることができる。すなわち、路面状態情報取得部32は、第1路面状態(例えば路面状態S1)と第2路面状態(例えば路面状態S2)とが第1車両挙動情報(例えば車両挙動情報X1)に影響を及ぼし、かつ、第1路面状態と第2路面状態とが第2車両挙動情報(例えば車両挙動情報X2)に影響を及ぼすと仮定することで、第1路面状態と第1車両挙動情報との関係を示す第1伝達関数(例えば伝達関数A11)と、第2路面状態と第1車両挙動情報との関係を示す第2伝達関数(例えば伝達関数A21)と、第1路面状態と第2車両挙動情報との関係を示す第3伝達関数(例えば伝達関数A12)と、第2路面状態と第2車両挙動情報との関係を示す第4伝達関数(例えば伝達関数A22)とを推定して、第1路面状態及び第2路面状態を算出する。
【0044】
路面状態情報取得部32は、車両10によって逐次検出された一群の車両挙動情報毎に、上述の処理を実行して、路面状態を算出する。一群の車両挙動情報とは、複数の挙動センサ10Bによって同じタイミングで検出された車両挙動情報であり、同じ車両位置情報に関連付いた車両挙動情報といえる。すなわち上記の例では、車両挙動情報X1、X2、X3、X4は、同じタイミングで検出された(同じ車両位置情報に関連付けられた)車両挙動情報である。路面状態情報取得部32は、一群の車両挙動情報毎に路面状態を算出することで、車両10の進行方向に沿った道路Rの位置毎の路面状態を算出することができる。ただし、路面状態情報取得部32は、異なるタイミングで検出された車両挙動情報を用いて(異なる車両位置情報に関連付けられた複数の車両挙動情報を用いて)、路面状態を算出してもよい。すなわち、車両挙動情報X1、X2、X3、X4は、異なるタイミングで検出された(異なる車両位置情報に関連付けられた)車両挙動情報であってもよい。
【0045】
なお、伝達関数を推定して路面状態を算出する方法は、以上の説明に限られず、路面状態情報取得部32は、複数の車両挙動情報を用いて、任意の方法で伝達関数を推定して路面状態を算出してよい。
【0046】
(処理フロー)
次に、以上説明した路面状態の算出方法のフローを、フローチャートに基づいて説明する。図6は、本実施形態に係る路面状態の算出フローを説明するフローチャートである。図6に示すように、演算装置14は、車両挙動情報取得部30により、複数の挙動センサ10Bによって検出された車両挙動情報を取得する(ステップS10)。そして、演算装置14は、車両挙動情報取得部30が取得した複数の車両挙動情報に基づいて、車両挙動情報と路面状態との関係を示す伝達関数を推定し、路面状態を算出する(ステップS12)。演算装置14は、一群の車両挙動情報毎にこれらの処理を実行して、車両10の進行方向に沿った道路Rの位置毎の路面状態を算出する。
【0047】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る演算装置14は、車両挙動情報取得部30と路面状態情報取得部32とを含む。車両挙動情報取得部30は、道路Rを走行する車両10の異なる位置に設けられる複数の挙動センサ10B(センサ)によって検出された、車両10の挙動を示す車両挙動情報を取得する。路面状態情報取得部32は、複数の車両挙動情報に基づいて、入力としての道路Rの路面状態と、出力としての車両挙動情報との関係を示す伝達関数を推定することで、道路Rの路面状態を示す路面状態情報を取得する。ここで、路面状態が同じ道路を走行する場合であっても、車両10側の検出条件が異なる場合には、伝達関数が異なるために、車両挙動情報が変化する。そのため、車両10側の検出条件を問わずに、車両挙動情報に基づいて路面状態を検出することは難しい。それに対し、本実施形態に係る演算装置14は、複数の車両挙動情報に基づいて伝達関数を推定するため、車両10側の検出条件が異なる場合にも、推定した伝達関数を用いて、路面状態を適切に検出することができる。すなわち、本実施形態に係る演算装置14は、複数の車両挙動情報に基づいて伝達関数を推定するため、伝達関数を事前に把握していなくても、車両10側の検出条件を問わずに、適切に路面状態を検出することが可能となる。
【0048】
また、路面状態情報取得部32は、道路Rの異なる位置の路面状態がそれぞれの車両挙動情報に影響を及ぼすと仮定することで伝達関数を推定することで、道路Rの位置毎の路面状態情報を取得する。路面状態情報取得部32は、このように仮定することで、それぞれの位置の路面状態に基づく信号(振動など)が全ての挙動センサ10Bに伝わることを条件として、伝達関数及び路面情報を算出する。これにより、演算装置14は、伝達関数をより高精度に推定して、車両10側の検出条件を問わずに、高精度に路面状態を検出することが可能となる。
【0049】
また、路面状態情報取得部32は、道路Rのそれぞれの位置の路面状態と車両挙動情報との組み合わせ毎に、伝達関数を推定して、道路Rの位置毎の路面状態情報を取得する。路面状態情報取得部32は、組み合わせ毎に伝達関数を推定することで、路面状態に基づく信号が挙動センサ10Bに伝わる際の信号の変調度合いを個別に設定することが可能となる。そのため、演算装置14は、伝達関数をより高精度に推定して、車両10側の検出条件を問わずに、高精度に路面状態を検出することが可能となる。
【0050】
また、異なる挙動センサ10Bが検出した車両挙動情報を、第1車両挙動情報及び第2車両挙動情報とし、異なる位置における路面状態を、第1路面状態及び第2路面状態とした場合に、路面状態情報取得部32は、第1路面状態(例えば路面状態S1)と第2路面状態(例えば路面状態S2)とが第1車両挙動情報(例えば車両挙動情報X1)に影響を及ぼし、かつ、第1路面状態と第2路面状態とが第2車両挙動情報(例えば車両挙動情報X2)に影響を及ぼすと仮定することで、第1路面状態と第1車両挙動情報との関係を示す第1伝達関数(例えば伝達関数A11)と、第2路面状態と第1車両挙動情報との関係を示す第2伝達関数(例えば伝達関数A21)と、第1路面状態と第2車両挙動情報との関係を示す第3伝達関数(例えば伝達関数A12)と、第2路面状態と第2車両挙動情報との関係を示す第4伝達関数(例えば伝達関数A22)とを推定して、第1路面状態及び第2路面状態を路面状態情報として取得する。演算装置14は、このように路面状態を算出することで、伝達関数をより高精度に推定して、車両10側の検出条件を問わずに、高精度に路面状態を検出することが可能となる。
【0051】
また、車両挙動情報取得部30は、車両10のサスペンションSUよりも車両10のタイヤTRとは反対側(Z方向側)に設けられた挙動センサ10Bによって検出された車両挙動情報を取得する。演算装置14は、サスペンションSUよりもZ方向側のセンサで検出された車両挙動情報を用いることで、伝達関数をより高精度に推定して、車両10側の検出条件を問わずに、高精度に路面状態を検出することが可能となる。
【0052】
また、車両挙動情報取得部30は、車両挙動情報として、少なくとも車両10の加速度の情報を取得する。車両挙動情報として加速度を用いることで、伝達関数をより高精度に推定して、車両10側の検出条件を問わずに、高精度に路面状態を検出することが可能となる。
【0053】
また、路面状態とは、道路Rの路面の凹凸度合いを示す指標である。路面状態として路面の凹凸度合いを示す指標を用いることで、路面の状態を適切に判定することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、これら実施形態等の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態等の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 検出システム
10 車両
10B 挙動センサ(センサ)
12 測定データ取得装置
14 演算装置
30 車両挙動情報取得部
32 路面状態情報取得部
R 道路
TR タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6