(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086910
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】水中油型エマルション消泡剤
(51)【国際特許分類】
B01D 19/04 20060101AFI20220602BHJP
D21H 21/12 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
B01D19/04 B
D21H21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199188
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大木 健司
【テーマコード(参考)】
4D011
4L055
【Fターム(参考)】
4D011CA01
4D011CB01
4D011CB02
4D011CB03
4D011CB04
4D011CB05
4D011CB07
4D011CB08
4D011CB11
4D011CC01
4L055AG34
4L055AG51
4L055AG70
4L055AG71
4L055AH35
4L055EA32
4L055FA30
4L055GA50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】60℃程度の高温においても良好な消泡性能を発揮し、かつ、消泡持続性に優れた高級アルコール系エマルション型消泡剤を提供する。
【解決手段】炭素数12~30のアルコールを含む油相成分(A)と、不飽和ジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリカルボン酸系重合体(B)と、を含有する水中油型エマルション消泡剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12~30のアルコールを含む油相成分(A)と、
不飽和ジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリカルボン酸系重合体(B)と
を含有する水中油型エマルション消泡剤。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸系重合体(B)が、ポリマレイン酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体またはそれらの塩である、請求項1に記載の水中油型エマルション消泡剤。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系重合体(B)が、油相成分(A)100質量部に対し、1~30質量部の割合で含まれる、請求項1又は2に記載の水中油型エマルション消泡剤。
【請求項4】
前記油相成分(A)が、さらに炭化水素系ワックスを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水中油型エマルション消泡剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型エマルション消泡剤に関する。更に詳しくは、高温下での消泡性能を改善し、従来品と比較して長時間消泡効果が持続する水中油型エマルション消泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高級アルコール系の水中油型エマルション消泡剤は、パルプスラリー中に介在する微気泡に対する消泡効果が良好であり、且つ、サイズ効果への影響が殆ど無い等の優れた特徴から、抄紙工程での使用が拡大している(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-113104号公報
【特許文献2】特開2015-54259号公報
【特許文献3】特許3690773号公報
【特許文献4】特許3964965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高級アルコールを主成分として含有する消泡剤においては、60℃以上の高温においても良好な消泡性能を発揮する高温適性が望まれている。しかしながら従来の消泡剤では、性能が十分でなく、多量の消泡剤を添加する必要があった。また、黒液由来の成分を多く含む系や用水循環率が高い製紙工程において消泡性能が持続しないという問題もある。
本発明はこのような状況を考慮してなされたものであり、60℃程度の高温においても良好な消泡性能を発揮し、かつ、消泡持続性に優れた高級アルコール系エマルション型消泡剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示すものである。
[1]炭素数12~30のアルコールを含む油相成分(A)と、
不飽和ジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリカルボン酸系重合体(B)と
を含有する水中油型エマルション消泡剤。
[2]前記ポリカルボン酸系重合体(B)が、ポリマレイン酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体またはそれらの塩である、[1]に記載の水中油型エマルション消泡剤。
[3]前記ポリカルボン酸系重合体(B)が、油相成分(A)100質量部に対し、1~30質量部の割合で含まれる、[1]又は[2]に記載の水中油型エマルション消泡剤。
[4]前記油相成分(A)が、さらに炭化水素系ワックスを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の水中油型エマルション消泡剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水中油型エマルション消泡剤は、60℃程度の高温においても良好な消泡性能を発揮し、かつ、消泡持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水中油型エマルション型消泡剤は、炭素数12~30のアルコールを含む油相成分(A)と、不飽和ジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリカルボン酸系重合体(B)とを含有するものである。
以下、各成分について詳述する。
【0008】
(炭素数12~30のアルコール)
本発明において、炭素数12~30のアルコールとしては、天然アルコールまたはおよび合成アルコールの1種または2種以上が使用できる。天然アルコールとしては、飽和アルコール例えばラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、エイコサノール、ドコサノール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール、トリアコンチルアルコールなどおよび不飽和アルコール例えばオレイルアルコールなどがあげられる。合成アルコールとしては、チーグラー法で合成された直鎖で非分岐状の飽和アルコール、オキソ法で合成された直鎖第1級アルコール或いは分岐第1級アルコールまたはこれらの炭素数の異なるアルコール混合物やパラフィンを空気酸化してつくられる直鎖第2級アルコールなどが挙げられる。
炭素数12~30のアルコールの配合量は、特に限定されないが、油相成分(A)の全量に対し20~80質量%であって良い。消泡効果の面から好ましくは40~60質量%程度である。
【0009】
(炭化水素系ワックス)
本発明の水中油型エマルション消泡剤には、油相成分(A)としてさらにパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、α-オレフィンワックス、マイクロスタリンワックス、ペトロラタム等の炭化水素系ワックスを含んでいてもよい。これらのうち、高温適性の観点から融点が70℃以上であるα-オレフィンワックスが好ましい。
α-オレフィンワックスとしては、炭素数26以上のα-オレフィンが好ましく、具体的には1-ヘキサコセン、1-オクタコセン、1-トリアコンテン、ドドリアコンテン、1-テトラトリアコンテン、1-ヘキサトリアコンテン、1-オクタトリアコンテン、1-テトラコンテン等が挙げられる。
炭化水素系ワックスの配合量は、特に限定されないが、油相成分全量に対し20~80質量%であって良い。消泡効果の面から好ましくは40~60質量%程度である。
【0010】
(その他の油相成分)
本発明の水中油型エマルション消泡剤には、必要に応じさらに液体油脂、固体油脂、ロウ類、鉱物油、高級脂肪酸、高級脂肪酸から誘導される脂肪酸アミド、エステル油、シリコーン油及びポリオキシアルキレンオキサイド等の1種あるいは2種以上を用いることができる。
【0011】
本発明に係る消泡剤は、上記の成分を含有する油相成分(A)が水系媒体中に乳化分散された水中油型エマルションである。油相と水相の混合比率は水中油型エマルションが得られれば特に限定されないが、一般的に油相は消泡剤全量に対し5~40質量%程度である。
【0012】
(ポリカルボン酸系重合体(B))
本発明で用いるポリカルボン酸系重合体(B)は、不飽和ジカルボン酸由来の構造単位を有する。不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸が挙げられる。
ポリカルボン酸系重合体(B)の重量平均分子量は、通常1,000~100,000であるが、好ましくは1,500~50,000、より好ましくは2,000~30,000である。
【0013】
本発明で用いるポリカルボン酸系重合体(B)は、不飽和ジカルボン酸の単独重合体であっても、不飽和ジカルボン酸と共重合可能なその他の単量体との共重合体であってもよいが、中でも不飽和ジカルボン酸と不飽和モノカルボン酸の共重合体が好ましい。不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が挙げられる。不飽和ジカルボン酸由来の構造単位(I)と不飽和モノカルボン酸由来の構造単位(II)のモル比は、(I)/(II)=20/80~80/20が好ましく、(I)/(II)=30/70~70/30がより好ましい。
ポリカルボン酸系重合体(B)の具体例としては、ポリマレイン酸、アクリル酸-マレイン酸共重合体、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-マレイン酸共重合体、無水マレイン酸-エチレン共重合体、無水マレイン酸-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0014】
ポリカルボン酸系重合体(B)はアルカリ性物質で中和された塩であってもよく、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。
【0015】
本発明において、ポリカルボン酸系重合体(B)の配合量は、特に限定されないが、油相成分(A)100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、より好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは5~10質量部の割合で配合できる。
【0016】
本発明の水中油型エマルション消泡剤の製造には、乳化剤として公知のノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤を用いることができる。
【0017】
ノニオン界面活性剤はたとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ソルビタンの脂肪酸エステル、グリセリンの脂肪酸エステル等のものが挙げられる。
【0018】
アニオン界面活性剤は、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルの燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのマレイン酸ハーフエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフエノールエーテルのマレイン酸ハーフエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のものが挙げられる。
【0019】
本発明の水中油型エマルション消泡剤は、公知の乳化方法にて得られる。例えば、容器に油相成分及び乳化剤を仕込み、油相の融点以上に加温し混合後、熱水を加え高速撹拌混合してエマルション化する方法があるが、製造方法について特に限定するものではない。又、エマルション化の設備としてホモミキサー、高圧乳化機、コロイドミル等の乳化機を使用しても良い。ポリカルボン酸系重合体(B)はエマルション化の任意の段階で添加してもよいが、乳化状態の調整のしやすさの観点からエマルション化後に添加することが好ましい。
【0020】
本発明の水中油型エマルション消泡剤は、エマルションの分離防止の目的で増粘剤を用いることができる。増粘剤はたとえば澱粉、セルロース、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、グアーガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ウェランガム、ダイユータンガム、ラムザンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、アガロース、グリコーゲン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリルアミドおよびアクリル酸の共重合物、アクリルアミド及びメタクリル酸の共重合物、メタクリルアミドおよびアクリルアミドの共重合物、メタクリルアミド及びメタクリル酸の共重合物等の水溶性高分子が挙げられる。
さらに必要に応じて粘度安定剤、防腐剤、防かび剤、殺菌剤、防錆剤、皮張り防止剤等を含んでもよい。
【0021】
本発明の水中油型エマルション消泡剤は、水を含む発泡液体等に適用することができ、特に、紙パルプ工業、食品工業、繊維工業、塗料工業、化学工業、排水処理工程用の消泡剤として好適に用いることができる。
【0022】
本発明の水中油型エマルション消泡剤の添加量は、対象とする系の状況や消泡する必要度により異なるが、一般的には発泡する液に対して1~100ppmが目安となる。消泡剤は、発泡している液に直接添加するか、発泡が生じる箇所の手前の工程に添加してもよい。
【実施例0023】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明するが、これによって本発明が何ら限定されるものではない。なお、本実施例においては、特にことわりのない限り%は質量%を意味し、部は質量部を意味する。
【0024】
<消泡剤の製造例>
表1に示す高級アルコール7.0部、炭化水素系ワックス7.0部及び乳化剤0.5部をフラスコに仕込み、85~95℃に昇温後、水中油型エマルションになるように同温の熱水を15部加え撹拌混合した。その後、ディスパーミルに通し、増粘剤を含有する水溶液と混合させ、ポリカルボン酸系重合体を添加後冷却し、水中油型エマルション消泡剤を得た。なお、表1の各成分の配合量は全成分の合計量(100質量%)に対する質量%である。
【0025】
<試験液の作成方法>
製紙工場より入手した黒液を水道水にて揮発残分濃度0.2%まで希釈したものを試験液とした。
【0026】
<消泡剤の性能評価>
内径80mm、高さ540mmのガラス製シリンダーに下記方法で作製した試験液1000mlを入れ60℃に保持する。次に水流ポンプを用いてシリンダー底部から上部へ16L/分の流量で液を循環して発泡させる。一定の発泡量にした後消泡剤を添加する(実施例や比較例は4μL。比較例の内、従来品のみ8μLの添加。)。その後の泡高(mm)の最小値を測定後、循環5分経過時の泡高を測定した。
【0027】
【0028】
【0029】
表2の消泡試験の結果より、本発明による高級アルコール系エマルション型消泡剤は従来品及び比較例と比較して、高温下においても良好な消泡性能を発揮し、かつ、消泡持続性に優れ、実用上非常に有用である。