(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086937
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】レーザダイオード駆動用電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/00 20060101AFI20220602BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20220602BHJP
H01S 5/06 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
H02M3/00 H
G05B11/36 P
H01S5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204889
(22)【出願日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2020197698
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000144393
【氏名又は名称】株式会社三社電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 健次
【テーマコード(参考)】
5F173
5H004
5H730
【Fターム(参考)】
5F173SE02
5F173SG07
5H004GA01
5H004GB15
5H004HA14
5H004HB14
5H004JA01
5H004KA22
5H004KC38
5H004LB06
5H004MA12
5H730AS02
5H730CC02
5H730DD04
5H730FD31
5H730FD33
5H730FF09
5H730FG05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】駆動電流の電流指令値を適切に補正することで駆動電流のステップ応答特性が常に最適となるレーザダイオード駆動用電源装置を提供する。
【解決手段】レーザダイオードシステムにおいて、LD駆動用電源装置は。駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報と、駆動電流の目標値とを設定する設定部を有し情報に基づいて電流指令値を生成する制御部21を備える。制御部は、電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、目標値になるまで補正する補正部を備え、電流指令値を適正に補正することで切替点から目標値に達するまでの駆動電流の立ち上がり時間の最適化を図る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザダイオードに駆動電流を出力するレーザダイオード駆動用電源装置において
、
前記駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報と、前記駆動電流の目標値とを設定する設定部を備え、前記情報に基づいて電流指令値を生成する制御部と、
前記電流指令値に基づいて前記駆動電流を生成する電力変換部と、を備え、前記制御部は、
前記電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、前記目標値になるまで補正する補正部を備えてなる、レーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項2】
前記切替点は、前記目標値に応じて変更される、請求項1記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記電流指令値を、前記目標値と前記電流指令値との偏差量に基づいて補正する、請求項1または2記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記電流指令値を、前記偏差量に所定の補正増幅率を乗じて補正する、請求項3記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記電流指令値を、一次遅れフィルタを通して補正する、請求項3または4記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【請求項6】
前記情報と前記駆動電流の前記目標値は、上位システムコントローラから送られてくる
、請求項1~5のいずれかに記載のレーザダイオード駆動用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶接、切断などの金属加工プロセスに適用される、高出力で高速駆動するレーザ発振器の駆動用電源装置に関する。例えば、レーザ発振器としてレーザダイオードを用い、レーザビームを対象物に照射するレーザダイオード加工システムの駆動用電源装置(以下、LD駆動用電源)に関する。
【背景技術】
【0002】
LD駆動用電源は、パルスレーザ発振器として使用するレーザダイオードを高速に駆動する。このため、駆動電流の急峻な立ち上がりが要求され、例えば60μs~600 μsの範囲で立ち上がり時間が設定される。また、駆動電流の目標値やパルス特性(DC出力~2kHz)も用途に応じて様々な値に設定される。
【0003】
そこで、LD駆動用電源は、駆動電流が任意の特性となるように、スイッチング素子を含む電力変換部と、フィードバック回路などを備えるPWM制御を含む制御部とを備えている。制御部は、ユーザにより設定された駆動電流の目標値に応じて、PWM信号のパルス幅制御を行うようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の装置では、制御部とフィードバック部を含む制御系の伝達関数で決定される、駆動電流の立ち上がりのステップ応答(過渡応答特性)に起因して、駆動電流の目標値が大きく変動すると、立ち上がり時間が最適な電流波形にならない問題がある。例えば、駆動電流の目標値が定格100%の条件において、立ち上がりのステップ応答が最適であった場合、駆動電流の目標値が定格の25%程度に大きく低下すると、制御系のステップ応答の遅れが大きくなってしまう。ここで立ち上がりのステップ応答が最適とは、駆動電流がオーバーシュート無く目標値の±5%の範囲に落ち着くまでの立ち上がり時間が最速となることをいう。制御系のステップ応答の遅れが大きくなってしまうと、立ち上がり時間が必要以上に遅くなってしまい、目標値に到達するまでの時間も長くなる。これは、目標値が大きく低下すると制御系の伝達経路の増幅率であるループ・ゲイン(以下、ゲイン)が定格の100%に比較して不足するためである。
【0006】
逆に駆動電流の目標値が定格の25%程度でステップ応答が最適となるようゲインを設定すると、目標値が定格100%でのゲインが過剰となり、駆動電流の立ち上がり波形がオーバーシュートを起こしてしまう。
【0007】
このように、目標値が大きく変動する電源装置において制御系のゲインを一義的に設定すると、望ましいステップ応答が得られない可能性があった。
【0008】
この発明の目的は、レーザダイオード駆動電流の電流指令値を適切に補正することで駆動電流のステップ応答が常に最適となるLD駆動用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のLD駆動用電源装置は、駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報と、前記駆動電流の目標値を設定する設定部を備え、前記情報に基づいて電流指令値を生成する制御部と、前記電流指令値に基づいて前記駆動電流を生成する電力変換部を備え、前記制御部は、前記電流指令値を、予め設定した切替点に達したときから、前記目標値になるまで補正する補正部を備えている。
【0010】
制御部は、電流指令値が予め設定した切替点に達するまでは、前記情報に基づいてPWM信号を生成する。電力変換部から出力される駆動電流はレーザダイオードに入力される。
【0011】
補正部は、電流指令値が予め設定した切替点に達したときから、電流指令値を補正する。これにより、前記目標値が変動しても、補正量を目標値に応じた値に設定することで、切替点から目標値に達するまでの駆動電流の上昇波形が適正なものとなる。すなわち、立ち上がり時間が遅くなったり、オーバーシュートが生じたりすることを防ぐことが出来る。
【0012】
前記切替点は前記目標値に応じて変更される。目標値が定格よりも低下するにしたがって、目標値と切替点との偏差が小さくなる。この偏差が一定以上に小さくなると、切替点以降の電流指令値の制御が困難となる。そこで、目標値が定格よりも一定以上に低下すると切替点も変更することが望ましい。
【0013】
前記補正部は、前記目標値と前記電流指令値との偏差量に基づいて前記電流指令値を補正する。
【0014】
補正量の演算は、前記目標値と前記電流指令値との偏差量を求めるだけであるため、演算が簡易であり、制御部の負担も小さい。なお、制御部がCPUによって構成される場合は、前記電流指令値の取得は所定のサンプリング毎に行われる。したがって、上記偏差量の計算もサンプリング毎に行われる。
【0015】
また、前記補正部は、前記偏差量に所定の補正増幅率を乗じて前記電流指令値を補正する。
【0016】
補正量の演算を、前記目標値と前記電流指令値との偏差量を求めることだけでなく、偏差量に所定の補正増幅率を乗じることにより、補正信号のピーク値の調整を行う。
【0017】
また、前記補正部は、前記電流指令値を、一次遅れフィルタを通して補正量の急峻な変化を抑制することが出来る。
【0018】
一次遅れフィルタは、ステップ応答のカーブを緩やかにするため、オーバーシュートを防ぐことが出来る。
【0019】
前記補正増幅率および1次遅れフィルタにより補正量を最適化して駆動電流が目標値に達するまでの上昇波形のカーブの適正化が実現可能である。
【0020】
また、前記情報と前記駆動電流の目標値は、上位システムコントローラから送ることが可能である。
【0021】
例えば、上位システムコントローラから前記情報を間接的に示すSTEP信号を送る。設定部は、STEP信号と傾きを示すパラメータとの対応関係を示すテーブルを備え、上位システムから送られてきたSTEP番号に対応するパラメータをテーブルから取得する。このパラメータが電流指令値を制御するための傾き情報となる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、目標値が変動しても、電流指令値を適正に補正することで、切替点から目標値に達するまでの駆動電流の立ち上がり時間の適正化を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の実施形態のレーザダイオード加工装置の構成図である。
【
図2】LD駆動用電源装置2を含むレーザダイオードシステムの構成図である。
【
図5】電流指令値Dのステップ応答特性を示している。
【
図6】制御部21の動作を示すフローチャートである。
【
図7】補正指令値D´を求める方法を分かりやすく示す図である。
【
図9】補正量Rの調整をさらに実用的にした実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、この発明の実施形態のレーザダイオード加工装置の構成図である。
【0025】
レーザダイオード加工装置は、上位システムコントローラ1と、レーザダイオード駆動用電源装置(以下、LD駆動用電源装置)2と、レーザダイオード(以下、LDと称する)3と、LD3にファイバー接続される加工ヘッド4とで構成される。LD3は複数のレーザダイオードを含んでいる。LD駆動用電源装置2とLD3とでレーザ発振器を構成する。
【0026】
上位システムコントローラ1は、LD駆動用電源装置2に対し、LD3の駆動前に、電流指令値Dの傾きを間接的に示すSTEP信号と駆動電流の目標値Pとを出力する。なお、以下の説明で、演算周期(サンプリング周期)を示す場合、nを付加する。例えば、電流指令値D(n)は今回の演算時の電流指令値、電流指令値D(n-1)は前回の演算時の電流指令値を示す。
【0027】
LD駆動用電源装置2内の制御部21は、テーブルTを参照して上記STEP信号に対応するパラメータCを取得する。制御部21は、サンプリング毎に、電流指令値Dを、後述のパラメータCを用いた演算により制御する。
【0028】
また、上位システムコントローラ1は、LD駆動用電源装置2に対して、駆動電流の目標値Pをアナログ信号で連続的に出力する。LD駆動用電源装置2内の制御部21は、この目標値Pをサンプリング毎に取得する。また、上位システムコントローラ1は、LD駆動用電源装置2に対して起動信号を出力する。
【0029】
LD駆動用電源装置2は、前記起動信号を受けてから、三相交流電源を電力源としてPWM信号で駆動され、LD3の駆動電流を出力する。LD3は、複数のレーザダイオード素子を組み合わせて構成される。LD3は、加工ヘッド4を介して高出力のレーザビーム5をワーク6に照射する。LD駆動用電源装置2は20KWを超える大容量であり、大電流を生成するため、レーザビーム5はワーク6のビームスポットを溶融させるパワーを備える。
【0030】
図2は、LD駆動用電源装置2を含むレーザダイオードシステムの構成図である。
【0031】
LD駆動用電源装置2は、三相交流電圧を整流後にPWM信号でスイッチング素子SW の制御を行い、リアクトルLとコンデンサCを介して出力する電力変換部20を備えている。また、LD駆動用電源装置2は、PWM信号を生成する制御部21と、出力電流を検出して制御部21にフィードバックするホールCT22とを備えている。
【0032】
制御部21は、電流指令値Dの立ち上がりの傾きを制御するための情報(後述するようにこの情報はパラメータC)と電流指令値Dの目標値Pとを設定する設定部21aと、PWM信号を生成して電力変換部20に出力するPWM生成部21bとを備えている。
【0033】
上位システムコントローラ1は、信号線7を介して、LD駆動用電源装置2を起動するための起動信号を出力する。また、制御部21に対しSTEP信号を1度送り、さらに、連続的に目標値Pを出力する。STEP信号は、駆動電流の立ち上がりの傾きを示す情報である。
【0034】
制御部21は、STEP信号を受信すると、設定部21aにあるテーブルTを参照してパラメータCを設定する。パラメータCは、電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行うための値である。後述のように、本実施形態では、上位システムコントローラ1から送られるSTEP信号は立ち上がり時間が60μs~600μsの間の16段階で設定される。電流指令値Dの立ち上がり時間をどの程度にするかは、LD3の定格電流および定格電圧などが参照されて、上位システムコントローラ1においてユーザにより決められる。
【0035】
【0036】
テーブルTは、STEP信号とパラメータCとの対応関係を示している。パラメータCは、電流指令値Dの傾き(ΔI/Δt:サンプリング毎の電流変化率)を表す値である。この例では、STEP信号は1~16の16種類あり、数値が小さいほどパラメータCの値が大きい(傾きが大きい)。例えば、STEP信号=1のときのパラメータCは100であるが、パラメータC=100は電流指令値Dの傾きが最大、すなわち、電流指令値Dの上昇時間が最短であることを表している。また、例えば、STEP信号=16のときのパラメータCは50であるが、パラメータC=50は電流指令値Dの傾きが最小、すなわち、電流指令値Dの上昇時間が最長であることを表している。
【0037】
なお、テーブルTに示しているパラメータCは例示的に示している値である。
【0038】
制御部21は、テーブルTを参照して得られたパラメータCを、電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御の値として設定部21aに設定する。また、制御部21は、上位システムコントローラ1から送られてきた駆動電流の目標値Pも設定部21aに設定する。目標値Pは、最初に1回だけ送られてくるSTEP信号とは異なり、上位システムコントローラ1から連続的に送られてくる。
【0039】
制御部21は、上位システムコントローラ1からSTEP信号、目標値P、起動信号を受けると、設定部21aに格納(設定)されているパラメータCを抽出し、目標値Pをサンプリング周期毎に取得する。制御部21は、取得した目標値Pに基づいて電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行う。PWM生成部21bと後述の誤差増幅器21eは、電流指令値Dに基づいてPWM信号を生成し、電力変換部20に出力する。
【0040】
電力変換部20から出力される駆動電流の大きさはホールCT22で検出され、制御部21にフィードバックされる。PWM生成部21bは、フィードバックされた検出値が電流指令値DとなるようにPWM信号のパルス幅を制御する。
【0041】
【0042】
上位システムコントローラ1から送られてきたSTEP信号は設定部21aで受信される。STEP信号からテーブルTを参照してパラメータCが抽出され、パラメータCは設定部21a内に設定される。また、上位システムコントローラ1から連続的に送られてくる目標値Pも設定部21aに設定される。
【0043】
傾き制御部21cは、設定部21aに設定されているパラメータCをデジタル値として読み出して電流指令値Dの立ち上がりの傾き制御を行う。傾き制御部21cは、補正部21dを備え、電流指令値Dの補正を行う。
【0044】
傾き制御部21cの出力は電流指令値Dとして誤差増幅器21eに出力される。誤差増幅器21eにはホールCT22の出力も入力される。誤差増幅器21eは、電流指令値DとホールCT22の誤差をPWM生成部21bに出力する。PWM生成部21bと誤差増幅器21eは、前記誤差がゼロとなるようにPWM信号のパルス幅を制御する。
【0045】
前記傾き制御部21cと補正部21dは、その機能をCPUとソフトウエアで実現される。CPUでの傾き制御と補正制御の演算周期(CPUのタイマー割り込み周期)は高速(例えば10μs程度)に設定される。
【0046】
次に、上記傾き制御と補正制御について説明する。
【0047】
図5は、電流指令値Dのステップ応答特性を示している。
【0048】
同図で、実線はサンプリング毎に演算で求められる電流指令値Dの軌跡である。電流指令値Dは設定部21aに設定されているパラメータCに基づいて演算によって求められる。電流指令値Dの立ち上がり開始時刻はT1、切替点dの時刻はT2、電流指令値Dが目標値Pに達して安定した時刻をT3とする。また、立ち上がり時間は、電流指令値Dで示す電流値が、目標値Pに対して10%から90%に達するまでの時間である。切替点dは、軽負荷以外の時に電流値が目標値Pの80%の電流となる位置である。この切替点dは、制御部21内で設計者が任意に決定することができ、目標値Pの変動の大きさ(電流の偏差量)に基づいて制御部21内で自動調整される。切替点dは、傾き制御を、T1-T2間の制御(処理1)からT2-T3間の制御(処理2)に切り替えるタイミングとして参照される。
【0049】
なお、目標値Pは、傾き制御部21cにおいてサンプリング周期で設定部21aから読み出される。また、
図5において、ハッチングで示す領域は電流指令値Dに対する補正量Rを示す。補正量Rは、サンプリング毎の補正値Sの積分値である。
【0050】
処理1は、T1―T2間で電流指令値Dの傾き制御をする処理である。この処理1では、補正部21dからのサンプリング毎の補正値Sはゼロである。
【0051】
処理2は、T2―T3間で電流指令値Dの傾き制御をする処理である。処理2では、電流指令値Dがオーバーシュートすることなく緩やかに目標値Pに到達するように制御される。本実施形態では、処理2において、目標値Pが100%の時は電流立ち上がりのステップ応答特性が最適であるので補正量Rをゼロとする。そこから目標値Pが低下するにしたがい電流指令値Dに対する補正量Rを増加していく処理が行われる。例えば、目標値Pが定格の25%であると、電流指令値Dに対し、補正部21dから75%分(100%-25%)の補正量Rが加算される。
【0052】
補正部21dには、補正値Sを得るための固有の数値テーブルが準備されており、上位STEP信号に応じて電流立ち上り時間が緩やかになれば補正値Sを低減もしくはゼロにする処理が行われる。
【0053】
目標値Pが定格より低下すると、処理2では、補正後の電流指令値(以下、補正指令値)D´=電流指令値D+補正値Sの計算が演算周期毎に行われる。補正値Sは、補正値S=(目標値P-電流指令値D)で求められ、
図5のハッチングで示す領域が、T2-T3間において電流指令値Dに対する全体の補正量Rとなる。
【0054】
切替点dから目標値Pに至るT2―T3間の特性カーブは、誤差増幅器21e、PWM生成部21bの一部、ホールCTを含むアナログ制御系の伝達経路の増幅率(ゲイン)に依存する。そこで、通常は、このゲインは、目標値Pが定格100%のときにステップ応答特性のカーブが最適となるように校正される。最適な電流上昇カーブは、電流指令値Dがオーバーシュートすることがなく最速で目標値Pに達して安定するカーブである。一方、ゲインは、目標値Pの大小で最適値が異なってくる、特に、目標値Pが定格よりもかなり低い場合(例えば25%以下)、ゲインが不足してしまう。その結果、
図4の時刻T3までの電流上昇時間が長時間になってしまう。
【0055】
本実施形態では、目標値Pが100%から低下するにしたがって上記のように、処理2において、補正部21dにより、補正指令値D´=電流指令値D+補正値Sの計算を行う。これにより、実質的に上記アナログ制御系のゲインを上げる処理を行う。
図5のT2-T3間のハッチングで示す領域の補正量(面積)Rが実線で示す電流指令値Dに加算される。
【0056】
上記補正は選択的である。例えば、目標値Pが定格100%では補正は行わない。目標値Pが定格以下のときは上記補正を行う。この値は例示的であって、補正を行う目標値Pの設定は、アナログ制御系の伝達経路の特性やLD3の特性などに基づいて実験により求めるのが望ましい。
【0057】
他の実施例として、補正指令値D´=電流指令値D+k(目標値P-電流指令値D)の計算により補正値Sを求めることが出来る。k(目標値P-電流指令値D)が補正値Sであり、係数kは、目標値Pの大きさにより変動させる。例えば、目標値Pが定格100%のときはk=0、目標値Pが定格に対して99%~1%のときは目標値に応じてk=0.01~1.00に変動させて指令値に加算する。
【0058】
図6は、制御部21の動作を示すフローチャートである。
【0059】
このフローチャートで示す動作周期はこの例では10μsであり、この動作周期は、傾き制御部21cが設定部21aから目標値Pなどを取得して電流指令値Dの傾き制御を行う演算周期(CPUのタイマー割り込み周期)である。
【0060】
ST1では、設定部21aから目標値Pのデジタル値を取得する。この値は、急激な変化を避け、精度を高めるために前回実行時(サンプリング時)の取得値と移動平均されデジタル値に変換される。
【0061】
ST2では、目標値Pと前回の電流指令値D(n-1)との偏差量DFを求める。
【0062】
偏差量DFはST4で使用される。
【0063】
ST3では、設定部21aからテーブルTを参照しパラメータCを得る、また、切替点d(
図5参照)を設定する。切替点dは、上述のように軽負荷以外の時に電流値が目標値Pの80%の電流となる位置である。目標値Pが低くなり電流変化量が定格比の2%以下であれば、目標値Pの50%に固定される。具体的には実験などにより予め適切に設定される。切替点dの設定位置を変える理由は、電流変化量が低いと、切替点dと目標値Pとの電流差が小さくなり、処理2が上手く制御できなくなるからである。
【0064】
ST4では、偏差量DFと切替点dとを比較する。ST4での切替点dは、偏差量DFとの比較のため、100%からの差分で示される。すなわち、ST4での切替点dは、切替点dが80%の位置にある時は、100%-80%=20%として表される。そして、偏差量DFが切替点d未満ならT1-T2の期間であるため処理1に進み(ST5)、偏差量DFが切替点d以上ならT2-T3の期間であるため処理2に進む(ST6)。
【0065】
処理1は、
図5のT1-T2間においてステップ信号に応じた電流立ち上り時間で今回の電流指令値D(n)を演算で求める処理である。今回の電流指令値D(n)は下記の計算式で求められる。
【0066】
D(n)=f(C、D(n―1)、DF)
ここで、CはST3で取得したパラメータCであり、D(n-1)は、前回の演算で出力した電流指令値である。DFはST2で得られた、目標値PとD(n-1)との偏差量である。
【0067】
処理2は、
図5のT2-T3間においてオーバーシュートを抑えつつ最速で目標値に到達する補正前の電流指令値Dを演算する処理である。処理1では、電流指令値Dが直線的に傾くように制御され、処理2では補正前の電流指令値Dが適切なカーブで目標値Pに達するように制御される。処理2において、今回の補正前の電流指令値Dは以下の計算式で求められる。
【0068】
D(n)=f´(D(n―1))
なお、上記式において、関数fは直線を表すが、関数f´は目標値Pに適切なカーブで達する対数関数である。
【0069】
次に、ST7以下の補正部21dの補正処理について説明する。
【0070】
ST7~ST10は補正処理である。
【0071】
ST7では、偏差量DFと切替点dとを比較する。ST4と同様に、ST7においても、切替点dは、偏差量DFとの比較のため100%からの差分で示される。そして、偏差量DFが切替点d未満ならST8に進み、偏差量DFが切替点d以上ならST9に進む。
【0072】
ST8では、T1-T2の期間なので、補正値Sはゼロである。
【0073】
ST9では、T2-T3の期間なので、補正値Sを求める。
【0074】
補正値Sは、ST6の処理2で求めた電流指令値D(n)と目標値Pとから求める。簡易的には、補正値S(n)=目標値P-電流指令値D(n)で求めることが可能である。
【0075】
ST7-ST9の補正処理を終えると、ST10において、補正指令値D(n)´をD(n)´=D(n)+Sで求める。補正指令値D(n)´は今回の補正によって得られた電流指令値である。
【0076】
なお、T1-T2の期間ではST8において補正を行わないから、処理2においてのみ補正を行うことになる。
【0077】
ST11は、ST5又はST6の演算で得られた電流指令値D(n)、およびST10の演算で得られた補正指令値D(n)´を、今回の電流指令値D(n)および今回の補正指令値D(n)´に更新する処理である。ST11で更新された電流指令値D(n)は、次回の演算の処理で、D(n-1)として使用される。
【0078】
以上の制御により、電流指令値Dが演算周期で更新される。また、処理2では、目標値P の大きさにより電流指令値Dの補正処理が行われる(補正指令値D´が求められる)。
【0079】
図7は、補正値Sを求める方法を分かりやすく示す図である。
【0080】
補正値Sの積分値である補正量Rの元値はST10の計算を繰り返すことで求められるから、この補正量Rを反転した反転値R´を求め、この反転値R´を切替点d以降の電流指令値Dに加算する。
【0081】
このように、ST10での補正値Sの計算は簡単であるため、ST11での補正指令値D´も簡単に求めることが出来る。このため、傾き制御部21cの負担は軽い。
【0082】
【0083】
図8では、補正量Rを求める際に、アナログ制御系の伝達経路の補正増幅率を操作する。すなわち、偏差量に補正増幅率を乗じて補正値Sを求める。補正増幅率を大きくすると、補正量Rの面積(補正値Sの積分値)が大きくなる。補正増幅率を小さくすると、補正量Rの面積(補正値Sの積分値)が小さくなる。補正増幅率の設定は、補正部21dの増幅器で行い、その値は実験により求められる。
【0084】
図9は、補正量Rの調整をさらに実用的にした実施例である。
【0085】
図9では、補正量Rを求める際に、補正値Sを一次遅れフィルタでフィルタリングする
。補正値Sを一次遅れフィルタでフィルタリング処理することで、補正量Rの立ち上がりが緩やかとなり、操作しやすくなることから、より実用的な補正値Sとなる。
【0086】
一次遅れフィルタは、抵抗とコンデンサ等で簡単に構成される。例えば
図10のようなRC直列回路で構成出来る。フィルタ量の設定は、抵抗やコンデンサの大きさで任意に決めることが可能であり、その値は実験により求められる。一次遅れフィルタは、実際には、CPUからなる傾き制御部21cにおいて、ソフトウエアにより実現される。
【0087】
以上のように、補正増幅率の調整や一次遅れフィルタの挿入により、目標値Pが定格よりも大きく変動した時に補正量Rをより適正な値に出来る。
【符号の説明】
【0088】
1-上位システムコントローラ
2-レーザダイオード駆動用電源装置3-レーザ発振器
21-制御部
21c-傾き制御部
21d-補正部