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特開2022-87041エミュレートされたターゲットからのエコー信号を低減された干渉でエミュレートするシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087041
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】エミュレートされたターゲットからのエコー信号を低減された干渉でエミュレートするシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20220602BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20220602BHJP
   H04B 17/15 20150101ALI20220602BHJP
   H04B 17/29 20150101ALI20220602BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20220602BHJP
【FI】
G01S7/40 169
G01S13/931
H04B17/15
H04B17/29
H04B17/391
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021187921
(22)【出願日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】63/119,360
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514046574
【氏名又は名称】キーサイト テクノロジーズ, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ブールド
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ダグラス・ファンヴィッセレン
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC12
5J070AC13
5J070AE01
5J070AF03
5J070AF06
5J070AK36
(57)【要約】      (修正有)
【課題】レーダ試験のためのターゲットのエミュレーションが望ましい。
【解決手段】被試験レーダ105によって送信されたレーダ信号に応答して、アンテナ108及びI/Qミキサ203を含む試験機器を使用してエコー信号をエミュレートするシステム及び方法が提供される。方法は、被試験レーダ105からレーダ信号を受信することであって、レーダ信号の反射成分は、少なくともアンテナから反射される、受信することと、受信されたレーダ信号を局部発振器(LO)信号としてI/Qミキサ203においてI信号及びQ信号と混合して、混合積を無線周波数(RF)信号として出力することであって、LO信号の漏洩成分は、I/Qミキサ203を通って漏洩する、混合することと、LO信号の漏洩成分を使用して、レーダ信号の反射成分を実質的に相殺することと、RF信号をエミュレートされたエコー信号として被試験レーダ105に送信することとを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験レーダによって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたターゲットから反射されるエコー信号をエミュレートするシステムであって、
前記被試験レーダからオーバー・ジ・エアーで前記レーダ信号を受信するように構成されているプローブアンテナであって、前記レーダ信号の反射成分は少なくとも該プローブアンテナから反射されるものである、プローブアンテナ(108)と、
前記受信されたレーダ信号を局部発振器(LO)信号として入力し、前記LO信号をI信号及びQ信号と混合し、無線周波数(RF)信号を出力するように構成されたI/Qミキサ(203)を備える受信機(110)であって、前記LO信号の漏洩成分は、前記I/Qミキサを通って漏洩する、受信機と、
前記I/Qミキサにおいて前記LO信号と混合される前記I信号及びQ信号を生成するように較正された信号発生器(130)と、
前記RF信号を前記エミュレートされたエコー信号として前記被試験レーダに送信するように構成され、前記エミュレートされたエコー信号は少なくとも前記エミュレートされたターゲットまでのレンジを示す、送信機(110)と
を備え、
前記LO信号の前記漏洩成分の振幅及び位相は、前記レーダ信号の前記反射成分の等しい振幅及び反対の位相に設定され、前記被試験レーダによって受信される前記レーダ信号の前記反射成分が実質的に相殺される、システム。
【請求項2】
前記信号発生器は、前記I/Qミキサにおいて前記LO信号と混合される前記I信号及び前記Q信号のDC値を調整して、前記LO信号の前記漏洩成分の前記振幅及び前記位相を、前記レーダ信号の前記反射成分の前記等しい振幅及び前記反対の位相に設定するように更に構成され、前記被試験レーダによって受信される前記レーダ信号の前記反射成分が実質的に相殺される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プローブアンテナから受信された前記レーダ信号を分割して、前記レーダ信号の分割成分を提供するように構成され、前記レーダ信号の残りの成分は、前記LO信号として前記I/Qミキサに入力されるRFスプリッタ(211)と、
前記レーダ信号の前記分割成分を減衰させて、第1の減衰された信号を提供するように構成された第1の減衰器(213)と、
前記RF信号を減衰させて、第2の減衰された信号を提供するように構成され、前記第1の減衰された信号及び前記第2の減衰された信号は、前記レーダ信号の周波数において減衰される第2の減衰器(214)と、
前記第1の減衰された信号及び前記第2の減衰された信号を結合して、前記RF信号と、前記LO信号の前記漏洩成分とを含む結合された信号を提供するように構成されたRFコンバイナ(212)と、
前記第1の減衰された信号、前記第2の減衰された信号、又は前記結合された信号のうちの少なくとも1つを移相して、前記漏洩成分に、前記レーダ信号の前記反射成分の前記等しい振幅及び前記反対の位相を提供するように構成され、前記被試験レーダによって受信される前記レーダ信号の前記漏洩成分が実質的に相殺される移相器(215)と
を更に備える請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記信号発生器は、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)を含み、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)及びデジタル対アナログ変換器(DAC)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記RF信号は、前記LO信号の周波数シフトされたバージョンである所望の側波帯(DSB)と、不所望の側波帯(USB)とを含み、前記信号発生器は、前記I信号及び前記Q信号の振幅及び位相を調整して、前記RF信号の前記USBを最小化する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
被試験レーダによって送信されたレーダ信号に応答して、アンテナ及びI/Qミキサを含む試験機器を使用してエコー信号をエミュレートする方法であって、
前記被試験レーダから前記レーダ信号を受信することであって、前記レーダ信号の反射成分は、少なくとも前記アンテナから反射される、受信すること(S411)と、
前記受信されたレーダ信号を局部発振器(LO)信号として前記I/QミキサにおいてI信号及びQ信号と混合して、混合積を無線周波数(RF)信号として出力することであって、前記LO信号の漏洩成分は、前記I/Qミキサを通って漏洩する、混合すること(S412)と、
前記LO信号の前記漏洩成分を使用して、前記レーダ信号の前記反射成分を実質的に相殺すること(S413)と、
前記RF信号を、少なくとも前記エミュレートされたターゲットまでのレンジを示す前記エミュレートされたエコー信号として前記被試験レーダに送信すること(S414)と
を含む方法。
【請求項7】
前記レーダ信号の前記反射成分を実質的に相殺することは、前記I/Qミキサに入力される前記I信号及び前記Q信号のDC値を調整して、前記LO信号の前記漏洩成分の振幅及び位相を、前記LO信号の前記反射成分の等しい振幅及び反対の位相に設定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記レーダ信号の前記反射成分を実質的に相殺することは、
前記I/Qミキサの前にRFスプリッタを使用して前記レーダ信号を分割して、前記レーダ信号の分割成分を提供することと、
前記レーダ信号の前記分割成分を減衰させることと、
前記LO信号の前記漏洩成分を減衰させることと、
前記レーダ信号の前記減衰された分割成分と前記LO信号の前記減衰された漏洩成分とを、RFコンバイナを使用して結合して、前記LO信号の結合された漏洩成分を提供することと、
前記レーダ信号の前記減衰された分割成分、前記LO信号の前記減衰された漏洩成分、又は前記LO信号の前記結合された漏れ信号のうちの少なくとも1つを、移相器を使用して移相することであって、それにより、前記LO信号の前記結合された漏洩成分が前記レーダ信号の前記反射成分の等しい振幅及び反対の位相を有する、移相することと
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記RF信号は、前記LO信号の周波数シフトされたバージョンである所望の側波帯(DSB)と、不所望の側波帯(USB)とを含み、
前記I/Qミキサに入力される前記I信号及び前記Q信号の振幅及び位相を調整して、前記エミュレートされたエコー信号として前記被試験レーダに送信される前記RF信号の前記USBを最小化することを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
被試験レーダによって送信されたレーダ信号に応答して、エコー信号をエミュレートするために複数の送受信機を較正する方法であって、前記複数の送受信機は、それぞれ、複数のアンテナと、複数のI/Qミキサとを備え、
前記較正信号の一部分は、前記較正信号の反射成分として、前記複数のアンテナの少なくともそれぞれから反射される、前記複数のアンテナにおいて較正信号を受信すること(S511)と、
前記較正信号をLO信号として前記複数のI/Qミキサのそれぞれに入力されるI信号及びQ信号と混合して、それぞれ混合積を無線周波数(RF)信号として出力することであって、前記RF信号は、異なるRF周波数、異なる所望の側波帯(DSB)、異なる不所望の側波帯(USB)及び異なる高調波を含み、前記LO信号の一部分は、前記LO信号の対応する漏洩成分として、前記複数のI/Qミキサのうちの各I/Qミキサを通過する、混合すること(S512)と、
前記複数のI/Qミキサに入力される前記I信号及び前記Q信号のDC値を順次調整して、それぞれ前記複数のI/Qミキサを通る前記LO信号の前記対応する漏洩成分と、前記LO信号の前記対応する漏洩成分とともに追跡する前記高調波とを最小化すること(S513)と、
前記複数のI/Qミキサに入力される前記I信号及び前記Q信号の振幅及び位相を順次調整して、それぞれ前記複数のI/Qミキサによって出力されるそれぞれの前記RF信号の前記USBを最小化すること(S514)と、
前記複数のI/Qミキサに入力される前記I信号及び前記Q信号のDC値を同時に調整して、前記LO信号の前記対応する漏洩成分から相殺信号を作成することであって、前記相殺信号は、前記LO信号の総反射成分を実質的に相殺するために、前記較正信号の前記総反射成分の等しい振幅及び反対の位相を有する、同時に調整すること(S515)と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
先進運転支援システム(ADAS:Advanced driver-assistance system)及び車両用の自律運転システムは、例えば、ミリメートル波レーダ信号を含む検出及びレンジング(ranging:測距)電磁信号を使用する検出及び測距システムに依拠している。レーダ信号は、前方衝突及び後方衝突を警告するために、例えば適応走行制御(adaptive cruise control)及び自律駐車を実施するために、そして究極的には、街路及び幹線道路上で自律運転を実行するために使用される。ADASは、低コスト、及び夜間又は厳しい天候条件(例えば、霧、降雨、降雪、粉塵)において動作する能力を有するので有望である。
【0002】
従来の自動車レーダシステムは、典型的には、車両上に複数の送信機及び受信機を有する。レーダシステムが配備され得る実際の運転環境は、大きく変動する可能性があり、多くのそのような運転環境は、複雑である場合がある。例えば、実際の運転環境は、多数の物体を含んでいて、実際の運転環境において遭遇する物体の中には、レーダ信号に応答するエコー信号に影響を及ぼす複雑な反射、回折及び多重反射特性を有するものもある。エコー信号を誤って検知及び/又は解釈する直接の結果として、誤警報若しくは不適切な反応がトリガされるか、又はトリガされるべき警告若しくは反応がトリガされない場合があり、これにより、ひいては衝突に至る可能性がある。
【0003】
レーダ試験のためのターゲットのエミュレーションが望ましい。なぜならば、実際の運転環境において車両レーダを運用することは、危険であり、非効率であり、費用が嵩み、そして制御するのが困難である場合があるためである。例えば、路上試験は、問題が多く、かつコスト高である場合がある。いわゆる無人路上試験が許可されている場所は世界的に数箇所しかない。その場合でさえも、これらの場所は、典型的には、万一ADASがエラーを起こしたときのために、運転席に緊急時運転者として人員を必要とする。早期データのうちの多くは、安全運転者がハンドルを能動的に操作してしまうので、特に疑問の余地がある。
【0004】
一般的に、従来のレーダターゲットエミュレータは、問題の物理特性(physics)をエミュレートしようと試みる。例えば、従来のレーダターゲットエミュレータは、被試験レーダから送信されたレーダ信号を受信し、このレーダ信号を、エミュレートされたターゲットまでのレンジに起因して生じる伝播遅延に対応する量だけ遅延させ、このレンジ及びターゲットのレーダ反射断面積(RCS:radar cross section)を考慮するようにレーダ信号の振幅をスケーリングし、その後、スケーリングされかつ遅延された信号を被試験レーダに再送信することができ、それにより、被試験レーダからターゲットまでのレーダ信号の送信、及び対応するエコー信号の反射がエミュレートされる。
【0005】
いくつかの従来のエミュレータシステムは、例えば、周波数変調連続波(FMCW:frequency modulated continuous wave)レーダを試験するために、単側波帯(SSB:single-sideband)変調及び周波数シフトされた信号の反射(再送信)を使用する。そのようなエミュレータシステムは、マイクロ波サーキュレータに接続された送受信プローブアンテナを備えることができ、フィードバック経路内にSSBミキサ及び可変減衰器を有する。従来のエミュレータシステムは、エミュレートされたレーダターゲットからの戻り信号(エミュレートされたエコー信号)及び「ゴーストターゲット(ghost target)」と称される場合がある不所望の信号を生成する。ゴーストターゲットは、外部からの無線周波数(RF)信号、例えば、高調波又は相互変調積(intermodulation product)、局部発振器フィードスルー、及び/又はエミュレータシステムのハードウェア、例えば、プローブアンテナ、マイクロ波サーキュレータ及び/又は他の下流の構成要素(downstream component)からのレーダ信号の反射波に起因する。
【0006】
例示的な実施形態は、添付の図面と併せて読むと、以下の詳細な説明から最も深く理解される。種々の特徴は必ずしも縮尺通りに描かれていないことを強調したい。実際には、検討を明確にするために、寸法が任意に拡大又は縮小される場合がある。適用可能で、実用的な場合にはいつでも、同じ参照番号が同じ要素を指している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートするシステムを示す簡略ブロック図である。
図2】代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートするエコー信号エミュレーションシステムの再照射器デバイスを示す簡略ブロック図である。
図3】別の代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートするエコー信号エミュレーションシステムの再照射器を示す簡略ブロック図である。
図4】代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートする方法を示す簡略フロー図である。
図5】代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートするシステムを較正する方法を示す簡略フロー図である。
図6A】代表的な実施形態による、漏洩成分及びUSBに対する、1つの周波数において周波数オフセット送受信機を較正する影響を示すグラフである。
図6B】代表的な実施形態による、漏洩成分及びUSBに対する、複数の周波数において周波数オフセット送受信機を較正する影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の詳細な説明では、説明のためであり、限定はしないが、本教示による一実施形態を完全に理解してもらうために、具体的な詳細を開示する代表的な実施形態が記述される。代表的な実施形態の説明を不明瞭にするのを避けるために、既知のシステム、デバイス、材料、動作方法及び製造方法の説明は省略される場合がある。それにもかかわらず、当業者の理解の範囲内にあるシステム、デバイス、材料及び方法は、本教示の範囲内にあり、代表的な実施形態に従って使用される場合がある。本明細書において使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものでないことは理解されたい。定義される用語は、定義された用語の科学技術的な意味に加えて、本教示の技術分野において一般に理解され、受け入れられるような意味を有する。
【0009】
種々の要素又は構成要素を説明するために、本明細書において第1の、第2の、第3の等の用語が使用される場合があるが、これらの要素又は構成要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことは理解されたい。これらの用語は、或る要素又は構成要素を別の要素又は構成要素から区別するためにのみ使用される。したがって、以下に論じられる第1の要素又は構成要素は、本開示の教示から逸脱することなく、第2の要素又は構成要素と呼ぶことができる。
【0010】
本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、「一(a、an)」及び「その(the)」という単数形の用語は、文脈上、他の意味として明確に指示される場合を除いて、単数形及び複数形の両方を含むことを意図している。さらに、「備える(comprises、comprising)」という用語及び/又は類似の用語は、本明細書において使用されるときに、言及される特徴、要素及び/又は構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、要素、構成要素及び/又はそのグループの存在又は追加を除外しない。本明細書において使用される場合、「及び/又は(and/or)」という用語は、関連して列挙される項目のうちの1つ以上の項目のありとあらゆる組み合わせを含む。
【0011】
別段の言及がない限り、或る要素又は構成要素が、別の要素又は構成要素に「接続される」、「結合される」又は「隣接する」と言われるとき、その要素又は構成要素を当該別の要素又は構成要素に直接接続又は結合することができるか、又は介在する要素又は構成要素が存在する場合があることは理解されよう。すなわち、これらの用語及び類似の用語は、2つの要素又は構成要素を接続するために、1つ以上の中間にある要素又は構成要素が利用される場合がある事例を含む。しかしながら、或る要素又は構成要素が、別の要素又は構成要素に「直接接続される」と言われるとき、これは、2つの要素又は構成要素が、任意の中間にある又は介在する要素又は構成要素を用いることなく、互いに接続される事例のみを含む。
【0012】
本開示は、それゆえ、その種々の態様、実施形態及び/又は具体的な特徴若しくはサブ構成要素のうちの1つ以上を通して、以下に具体的に言及されるような利点のうちの1つ以上を明らかにすることを意図している。説明のためであり、限定はしないが、本教示による一実施形態を完全に理解してもらうために、具体的な詳細を開示する例示的な実施形態が記述される。しかしながら、本明細書において開示される具体的な詳細から逸脱するが、本開示と矛盾しない他の実施形態も依然として、添付の特許請求の範囲内にある。さらに、例示的な実施形態の説明を不明瞭にしないように、既知の装置及び方法の説明は省略される場合がある。そのような方法及び装置は、本開示の範囲内にある。
【0013】
様々な実施形態によれば、運転エミュレーションシステムは、自動車又は他の移動プラットフォーム等の被試験車両上に配置された被試験レーダからのレーダ信号送信に応答して、エミュレートされたターゲットからのエコー信号をエミュレートすることが可能である。実施形態は、高調波及び相互変調積、試験ハードウェアからのレーダ信号の反射、及び/又はLO漏洩(ミキサを通過する残留レーダ信号)によって引き起こされる、被試験レーダにおいて観測されるゴーストターゲット等の干渉を最小化する。レーダ反射変更デバイスのアレイからのゴーストターゲットは、エミュレータシステム全体の較正を通じて同様に最小化することができる。
【0014】
図1は、代表的な実施形態による、低減された干渉(例えば、ゴーストターゲットの除去)で、被試験レーダのエコー信号をエミュレートするシステムを示す簡略ブロック図である。本開示の利益を享受した当業者であれば理解するように、1つのあり得る車両レーダは、現行の及び来たるべき自動車応用において様々な能力で使用される自動車レーダである。しかしながら、ここで説明されるエコー信号エミュレーションシステムは、自動車レーダシステムに限定されず、例えば、トラック、バス、バイク、自転車、原動機付き自転車(例えば、スクータ)、及び航空機を含む、車両レーダシステムを利用することができる他のタイプの車両に適用することができることが強調される。
【0015】
図1を参照すると、エコー信号エミュレーションシステム100は、被試験レーダ105を試験するように構成され、被試験レーダ105は、FMCWレーダ信号を送信するとともに、シーンエミュレーションにおいてターゲットからのレーダ信号の反射波(エコー)をエミュレートするエミュレートされたエコー信号を含む、戻り信号を受信するように構成することができる。被試験レーダ105は、1つ以上のレーダ送信機及び対応する送信アンテナ、並びに1つ以上のレーダ受信機及び対応する受信アンテナを有する。システム100の全て又は一部を、無響試験室等の試験室に含めることができる。
【0016】
システム100は、複数の再照射器(re-illuminator)106を備え、再照射器106のそれぞれは、少なくとも1つの再照射(re-illumination)アンテナ108と、少なくとも1つの周波数オフセット送受信機110とを備え、周波数オフセット送受信機110は、例えば、被変調反射デバイス(MRD:modulated reflection device)とすることができる。再照射アンテナ108は、例えば、ホーンアンテナ(プローブアンテナ)とすることができる。以下でより詳細に論述されるように、各送受信機110は、一般的に、受信機回路と、送信機回路と、同相(I)-直交(Q)ミキサ(I/Qミキサ)と、I/Qミキサに入力され、局部発振器(LO)信号と混合されるI信号及びQ信号を生成する信号発生器とを備える。I/Qミキサは、受信機回路及び送信機回路の双方の部分とみなすことができる。受信されたレーダ信号は、LO信号としてI/Qミキサに入力され、信号発生器からのI信号及びQ信号は、中間周波数(IF)信号としてI/Qミキサに入力され、LO信号及びIF信号の混合積(mixing product)が、RF信号としてI/Qミキサによって出力される。RF信号は、必要に応じて増幅/減衰され、送信機回路によって、エミュレートされたエコー信号として再照射アンテナ108を介して被試験レーダ105に送信される。一般的に、RF信号の周波数及び振幅は、エミュレートされたターゲットのエミュレートされたレンジ及びRCSを示す。例えば、チャープ信号を使用するFMCWレーダ信号の場合、チャープ信号の線形ランプ(ramp:傾斜)内のRF信号のRF周波数が低くなるほど、エミュレートされたターゲットが被試験レーダ105の近くに見える。
【0017】
代替的な構成において、信号発生器130は、再照射器106のそれぞれに物理的に含めないものとすることができ、その場合、1つの信号発生器130が、本教示の範囲から逸脱することなく、複数の送受信機110にI信号及びQ信号を提供することができる。各信号発生器130は、例えば、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)として実装することができる。
【0018】
シーンエミュレーション内のエミュレートされたターゲットごとに1つの再照射器106が存在することができる。代替的に、1つ以上の散乱性のターゲット及び/又は1つ以上の非散乱性のターゲットを含む複数のエミュレートされたターゲットに1つの再照射器106を使用することができる。一実施形態において、再照射器106は、2Dアレイにおいて配列させることができ、ここで、各再照射器106は、2Dアレイにおける一要素を表す。この場合、エミュレートされたターゲットに対応する空間位置を有する要素は、そのターゲットに対応するエミュレートされたエコー信号を生成することになる。
【0019】
システム100は、コントローラ144を有するコンピュータ140も備える。本明細書において説明されるコントローラ144は、命令を記憶するメモリ146と、本明細書において説明されるプロセスの全て又は一部を実施するために、記憶された命令を実行する例示的なプロセッサ148との組み合わせを備えることができる。データベース120が、1つ以上のターゲットを有する様々な所定のシナリオを含む、ターゲットエミュレーションに使用される情報を記憶することができる。例えば、データベース120は、被試験レーダ105からのレンジ、RCS、速度、加速度等の、ポイントターゲットの所望の特性を記憶することができる。データベース120は、コード、パワー、視野等の、特定の被試験レーダ105のパラメータに関する情報を更に記憶することができる。被試験レーダ105は、様々なタイプの有線及び/又はワイヤレスネットワーク接続によってコンピュータ140に接続することができる。コントローラ144は、破線によって示される制御信号を介して、周波数オフセット送受信機110及び信号発生器130の動作を制御するように構成される。
【0020】
コントローラ144は、コンピュータ又は1つ以上のコンピューティングデバイスの別のアセンブリ等のワークステーション、ディスプレイ/モニタ、及びスタンドアロンコンピューティングシステムの形態の1つ以上の入力デバイス(例えば、キーボード、ジョイスティック及びマウス)、サーバシステムのクライアントコンピュータ、デスクトップ又はタブレット内に収容又はリンクさせることができる。「コントローラ」という用語は、本開示の当該技術分野において理解されるように、及び本開示において例示的に説明されるように、本開示において説明されるような様々な原理のアプリケーションを制御する特定用途向けメインボード又は特定用途向け集積回路の全ての構造的構成を広く包含する。コントローラ144の構造的構成は、以下で論述されるように、プロセッサ(複数の場合もある)、コンピュータ使用可能/コンピュータ可読記憶媒体(複数の場合もある)、オペレーティングシステム、アプリケーションモジュール(複数の場合もある)、周辺デバイスコントローラ(複数の場合もある)、スロット(複数の場合もある)、及びポート(複数の場合もある)を含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
加えて、コンピュータ140及び/又はコントローラ144は、ともにネットワーク接続された構成要素を示しているものの、複数の構成要素は、単一のシステムに統合することができる。例えば、コンピュータ140及び/又はコントローラ144は、ディスプレイ(図示せず)及び/又はシステム100と統合することができる。他方、コンピュータ140及び/又はコントローラ144のネットワーク接続される構成要素は、異なる部屋又は異なる建物に分散させること等によって空間的に分散させることもでき、この場合、ネットワーク接続される構成要素は、データ接続を介して接続することができる。また別の実施形態においては、コンピュータ140及び/又はコントローラ144の構成要素のうちの1つ以上は、データ接続を介して他の構成要素に接続されず、代わりに、メモリスティック又は他の形式のメモリ等によって手動で入力及び/又は出力を与えられる。更に別の実施形態においては、本明細書において説明される機能は、コンピュータ140及び/又はコントローラ144の要素の機能に基づきながらも、システム100の外部で実行することができる。
【0022】
図示された実施形態において、コンピュータ140は、メモリ146、プロセッサ148を備えるコントローラ144と、ユーザ及び/又はネットワークインタフェース(図示せず)及びディスプレイ(図示せず)とを備える。コンピュータ140及び/又はコントローラ144は、処理ユニットとして実装することができる。様々な実施形態において、処理ユニットは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、配線論理回路の任意の組み合わせ、又はこれらの組み合わせを使用して、1つ以上のコンピュータプロセッサ(例えば、プロセッサ148)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、中央処理ユニット(CPU)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、又はこれらの組み合わせを含むことができる。コンピュータ140、コントローラ144及び/又はプロセッサ148のそれぞれが、本明細書において説明される様々な機能の実行を可能にするコンピュータ可読コード(例えば、ソフトウェア、ソフトウェアモジュール)を記憶する、自身の処理メモリ(例えば、メモリ146)を備えることができる。例えば、処理メモリは、図4及び図5を参照して以下で説明される方法の様々なステップを含む、本明細書において説明される方法のいくつかの又は全ての態様を実行するために処理ユニット(例えば、コンピュータプロセッサ)によって実行可能なソフトウェア命令/コンピュータ可読コードを記憶することができる。すなわち、命令/コンピュータ可読コードの実行により、概して、コンピュータ140及び/又はコントローラ144の処理ユニットが、被試験レーダ105によって送信されたレーダ信号に応答して、エミュレートされたレーダターゲットから反射されたエコー信号をエミュレートする。
【0023】
本明細書において説明されるメモリ146、及び他の任意のメモリ(データベース120を含む)は、様々なタイプのランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、リードオンリメモリ(ROM:read only memory)及び/又は他の記憶媒体とすることができ、これらには、フラッシュメモリ、電気的プログラマブルリードオンリメモリ(EPROM:electrically programmable read-only memory)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM:electrically erasable and programmable read only memory)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM:compact disk read only memory)、デジタル多用途ディスク(DVD:digital versatile disk)、レジスタ、ラッチ、フリップフロップ、ハードディスク、リムーバブルディスク、テープ、フロッピィディスク、ブルーレイディスク、若しくはユニバーサルシリアルバス(USB:universal serial bus)ドライバ、又は当該技術において知られている他の任意の形態の記憶媒体が含まれる。これらは(例えば、一時的な伝播信号と比較して)有形かつ非一時的である。メモリは、本教示の範囲から逸脱することなく、揮発性のもの又は不揮発性のもの、セキュアなもの及び/又は暗号化されたもの、非セキュアなもの及び/又は暗号化されていないものとすることができる。メモリ146及びデータベース120は、分散されてネットワーク接続されたメモリ及びデータベースを含めて、1つ以上のメモリ及びデータベース、並びに複数のメモリ及びデータベースを表すことができる。
【0024】
一般的に、動作時、被試験レーダ105は、再照射器106のうちの1つの再照射アンテナ108(有益には、比較的高い利得のアンテナである)のうちのそれぞれ1つにおいて集束されるRFレーダ信号(例示的には、mm波信号)を放出する。再照射アンテナ108は、被試験レーダ105から受信される信号の波長のために選択されたホーンアンテナ(プローブアンテナ)とすることができる。再照射アンテナ108は、可変利得を有することができ、到来角(AoA:angle of arrival)の自由度を調整するレンズ等のビームシェーピング要素に結合することができる。当然ながら、本教示の範囲から逸脱することなく、再照射アンテナ108としてパッチアンテナ又はパッチアンテナアレイ等の他のタイプのアンテナを組み込むことができる。
【0025】
一実施形態において、システム100は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする、2020年5月6日に出願されたGregory S. Leeに対する米国特許出願第16/867804号に記載されているように、レーダ信号をそれぞれ再照射器106に指向させる回折光学要素(DOE:diffractive optical element)を更に備えることができる。DOEは、再照射アンテナ108においてレーダ信号を集束させるように構成される。この実施形態において、放出されたレーダ信号は、DOEの第1の側に入射し、当該DOEは、被試験レーダからの信号を、再照射アンテナ108のうちのそれぞれ1つにおいて集束するように回折させる。したがって、DOEは、入射波を、DOEの第2の側に対して特定の角度をなして回折させ、各回折された波は、再照射アンテナ108のうちのそれぞれ1つの上で集束される。当然ながら、システム100は、本教示の範囲から逸脱することなく、再照射アンテナ108のうちのそれぞれ1つにおいてレーダ信号を集束させる他の手段を備えることができる。とりわけ、再照射アンテナ108のうちの各1つにおけるそれぞれの集束点(代替的に、焦点)は、システム100によってエミュレートされるターゲットを表す。
【0026】
再照射アンテナ108に入射されたレーダ信号は、周波数オフセット送受信機110のうちのそれぞれ1つに提供される。本明細書においてより完全に説明されるように、コントローラ144からの入力に基づいて、入射信号の周波数シフトが、周波数オフセット送受信機110のそれぞれにおいて行われ、有益には、被試験レーダ105からのターゲットの距離、若しくは被試験レーダ105に対するターゲットの速度、又はそれら双方をエミュレートする。加えて、方位角(図1の座標系における+x方向)及び仰角(図1の座標系における+z方向)が再照射アンテナ108によってエミュレートされる。再照射アンテナ108は、再照射器106の電子的操縦可能アンテナアレイの一部とすることができる。代替的に、再照射アンテナ108は、機械的にジンバル支持することもできるし、機械的に移動させることもできるし、機械的ジンバル支持(gimbal)/移動及び電子的エミュレーションの組み合わせを有することもできる。同様に、再照射アンテナ108の代わりに又はこれに加えて、再照射器106を機械的に移動させることができる。周波数オフセット送受信機110によって提供された再照射された信号は、被試験レーダ105に入射する。コンピュータ140は、被試験レーダ105の精度の更なる解析のために、被試験レーダ105から信号を受信する。
【0027】
一般的に、FMCW波形を利用するレーダは、例えば、77GHz帯域においてRFレーダ信号を送信することによって動作する。レーダ信号は、瞬時周波数が所定の期間にわたって第1の周波数から第2の周波数に線形に変化するように変調され、これは、チャープ信号と称される。RF周波数は、所定の期間にわたって線形に上昇することができ(アップチャープ)、ここで、第1の周波数(例えば、77GHz)は、第2の周波数(例えば、78GHz)よりも低く、又は、RF周波数は、所定の期間にわたって線形に低下することができ(ダウンチャープ)、ここで、第1の周波数(例えば、78GHz)は、第2の周波数(例えば、77GHz)よりも高い。周波数におけるこの線形ランプは、レーダから送信される連続波信号を形成するように繰り返される。
【0028】
送信されたレーダ信号は、ターゲットに向かって光の速さで伝播し、ターゲットから反射し、反射されたエコー信号としてレーダに戻り、ここで、エコー信号は、レーダとターゲットとの間のラウンドトリップ時間だけ遅延している。この遅延の長さは、レーダとターゲットとの間の距離に対応する。エコー信号は、次に、レーダにおいて現在送信されているレーダ信号と混合され、この動作は、ホモダイン受信として知られている。結果として得られるIF信号は、受信されたエコー信号の周波数と、レーダにおいて現在送信されているレーダ信号の周波数との間の瞬時差分に等しい周波数を有する。
【0029】
すなわち、受信されたエコー信号における遅延と、所定の期間にわたって送信されるレーダ信号の周波数における線形傾斜とに起因して、現在送信されているレーダ信号(周波数において線形に変化している)と、受信されたエコー信号(当初送信されたレーダ信号の周波数である)との間に周波数差分が存在することになる。したがって、この周波数差分は、ラウンドトリップ遅延とヘルツ毎秒(Hz/s)単位の周波数掃引速度とを乗算した値に比例する。例えば、近接したターゲットは遠隔のターゲットよりも遅延が少ないので、近接したエミュレートされたターゲットは、より小さい周波数差分をもたらし、それゆえ、より遠隔のエミュレートされたターゲットよりも低いIF信号周波数をもたらす。エミュレートされたターゲットがポイントターゲットである場合、結果として得られるIF信号は、単一の周波数における単一のトーンとなる。エミュレートされたターゲットが複数のターゲットを含む場合、結果として得られるIF信号は、それぞれのターゲットまでの瞬時レンジに対応する周波数を有する複数のトーンを有する。N個のターゲットを検討する一般的な場合において、レーダにおけるIF信号は、N個のトーン、対応するターゲットまでのレンジに対応する各トーンの周波数、及びそのターゲットからのエコー信号の相対受信強度に対応する各トーンの振幅を含む。とりわけ、受信強度は、レーダからターゲットまでのレンジ、及びターゲットのRCS当たりのターゲットの反射率の関数である。所与のターゲットRCSについて、強度は、一般的に、関数1/Rに従ってレンジに反比例し、ここで、Rは、レーダとターゲットとの間の距離である。
【0030】
この状況において、本開示の代表的な実施形態は、周波数オフセット送受信機110によって提供される周波数オフセットを利用して、被試験レーダ105からエミュレートされたターゲットまでの範囲をエミュレートする。周波数オフセットを使用して、各エミュレートされたターゲットは、伝播遅延に起因した実効周波数シフトによって示される。しかしながら、レンジを示すためにエコー信号の送信を遅延させるのではなく、遅延自体が、エコー信号に対する所望の遅延に対応する予測周波数シフトを与える周波数オフセット送受信機によってエミュレートされる。例えば、以下でより詳細に論述されるように、被試験レーダ105から送信されたレーダ信号は、単側波帯(SSB:single-sideband)ミキサを使用して周波数オフセット信号によって周波数オフセット送受信機110において混合することができる。周波数オフセット信号は、遅延(又はラウンドトリップ差分)に対応するエコー信号において存在するであろう要求される周波数シフトに等しい周波数(又は周波数のパターン)を有する。実際には、周波数オフセット信号は、厳密には、エコー信号を受信し、これを現在送信されているレーダ信号と混合するときの、被試験レーダ105における所望のIF信号の形態である。それゆえ、第1のレンジにおける単一のエミュレートされたターゲットは、当該単一のターゲットまでのレンジを表す周波数を有する単一のトーンから構成されるIF信号を被試験レーダ105においてもたらすことになる。これは、所望のIF信号を周波数オフセット信号として使用することによって、周波数オフセット送受信機110内のSSBミキサを使用して生成することができる。複数のエミュレートされたターゲットが、複数のトーンから構成されるIF信号をもたらすことになる。それゆえ、このマルチトーンIF信号をオフセット信号として利用することにより、複数のエミュレートされたターゲットをエミュレートするエコー信号がもたらされる。
【0031】
図2は、代表的な実施形態による、低減された反射成分及び漏洩成分でエコー信号をエミュレートする、図1の代表的な再照射器(及び対応する周波数オフセット送受信機)の簡略ブロック図である。この代表的な実施形態に関して説明される再照射器の態様は、全ての再照射器に共通しているものとすることができる。
【0032】
図2を参照すると、再照射器106Aは、上記で説明されたように、再照射アンテナ108と、当該再照射アンテナ108に接続された周波数オフセット送受信機110Aとを備える。当然ながら、実際には、システム内に2つ以上の周波数オフセット送受信機110が存在する場合があり、それゆえ、(例えば、図1の代表的な実施形態に図示されているように)2つ以上の再照射アンテナ108が存在する場合がある。再照射アンテナ108は、被試験レーダ105から無線で(over-the-air,オーバー・ジ・エアー)レーダ信号201を受信するように構成される。周波数オフセット送受信機110Aは、エミュレートされたターゲットを示すレーダ信号に応答して、エミュレートされたエコー信号220を生成するように構成され、ここで、エミュレートされたエコー信号220は、再照射アンテナ108によって送信され、被試験レーダ105によって受信される。エミュレートされたエコー信号220は、例えばデータベース120に記憶されたシーンエミュレーションに基づいて、被試験レーダ105からエミュレートされたターゲットまでのレンジを示す。加えて、レーダ信号の反射成分222が、再照射アンテナ108及び周波数オフセット送受信機110Aによって反射されるとともに、レーダ信号の漏洩成分224が、I/Qミキサ203を通って漏洩する。本明細書において使用される場合、反射成分222は、再照射アンテナ108及び周波数オフセット送受信機110Aの外部構造等のシステムハードウェアから物理的に反射されるレーダ信号の部分、及び、例えばインピーダンス不整合に起因する、非ゼロ反射係数(S11)によって示されるような電力の反射を含む。反射成分222及び漏洩成分224は、被試験レーダ105によって受信される場合があり、それにより、以下で論述される本開示の態様に従って反射成分222及び漏洩成分224が低減及び/又は最小化されない限り、エミュレートされたエコー信号220と干渉する。
【0033】
図示された実施形態において、周波数オフセット送受信機110Aは、サーキュレータ202と、I/Qミキサ203と、信号発生器130とを備える。サーキュレータ202は、周波数オフセット送受信機110Aが、被試験レーダ105からレーダ信号201を受信するとともに、被試験レーダ105にエミュレートされたエコー信号220を送信するために単一の再照射アンテナ108を使用することを可能にする。代替的に、再照射アンテナ108は、本教示の範囲から逸脱することなく、別個の受信アンテナ及び送信アンテナとして実装することができ、この場合、サーキュレータ202は省略することができる。
【0034】
I/Qミキサ203は、例えばレーダ信号の標準的な90度移相を伴うSSBミキサとすることができ、この結果、下側波帯(LSB:lower sideband)を除去した上側波帯(USB:upper sideband)、又はUSBを除去したLSBのいずれかの出力がもたらされる。信号発生器130は、例えば、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS:direct digital synthesizer)、又はFPGA及びデジタル対アナログ変換器(DAC)を使用して実装することができるが、本教示の範囲から逸脱することなく他のタイプの制御可能信号発生器を組み込むことができる。信号発生器130は、例えば、コンピュータ140によって、様々な振幅及び位相のI信号及びQ信号を提供するように制御可能である。信号発生器130は、以下で論述されるように、I信号及びQ信号のDC値(DCオフセット)を別個に調整するようにも制御可能である。
【0035】
図示された実施形態において、I/Qミキサ203は、LOポートと、RFポートと、IFポートとを備え、ここで、LOポートは、LO信号として再照射アンテナ108からレーダ信号201を受信するように構成され、IFポートは、信号発生器130からI信号及びQ信号を受信するように構成される。図示された実施形態において、レーダ信号201は、LO信号とみなし、LOポートに入力することができる。なぜならば、これは、I/Qミキサ203を大きい信号で駆動するために増幅及び/又は制限されるためである。I/Qミキサ203は、レーダ信号を、I信号及びQ信号と混合し、例えば増幅及び/又は減衰の後に、最終的にエミュレートされたエコー信号220として提供されるように、混合積(mixing product)をRFポートからのRF信号として出力する。とりわけ、RF信号は、それぞれI信号及びQ信号に対応する、直交する位相を有する2つの信号を含む。しかしながら、RF信号は、便宜上、本明細書において単数形で称される。図示されていないものの、周波数オフセット送受信機110Aは、レーダ信号201がLO信号としてI/Qミキサに入力される前にレーダ信号201を処理するために、信号処理構成要素、例えば、フィルタ、減衰器及び/又は増幅器を更に備えることができることが理解される。
【0036】
信号発生器130は、出力RF信号の振幅及び位相を調整するために、I/Qミキサ203に入力されるI信号及びQ信号の振幅及び位相を調整する。例えば、I/Qミキサ203によって出力されるRF信号は、所望の側波帯(DSB:desired sideband)及び不所望の側波帯(USB:undesired sideband)を含むことができ、ここで、DSBは、エミュレートされたエコー信号220として被試験レーダ105に送信されるLO信号(レーダ信号201)の周波数シフトされたバージョンである。一実施形態において、信号発生器130は、I信号及びQ信号の振幅及び位相を調整して、RF信号のUSBを最小化する。
【0037】
同様に、信号発生器130は、LO信号の漏洩成分224の振幅及び位相を調整するために、I信号及びQ信号のDC値を調整する。図示された実施形態において、漏洩成分224の振幅及び位相は、レーダ信号201の反射成分222を実質的に相殺するために調整される。すなわち、漏洩成分224は、信号発生器130から入力されるI信号及びQ信号と混合することなくI/Qミキサ203を通過するLO信号(レーダ信号201)の部分である。漏洩成分224は混合プロセスを回避するので、漏洩成分224は、レーダ信号201と同じRF周波数を有し、それゆえ、反射成分222と同じRF周波数を有する。
【0038】
反射成分222及び漏洩成分224はいずれも不所望の信号であり、除去されなければ被試験レーダ105に送信されることになり、干渉を引き起こす。これを防止するために、漏洩成分224の振幅及び位相は、漏洩成分224が反射成分222の同じ振幅及び反対の位相を有するように信号発生器130を使用して調整され、それにより、反射成分222(及び漏洩成分224自体)が実質的に相殺される。「実質的に相殺する」とは、反射成分222及び/又は漏洩成分224のパワーをノイズフロア又は「クラッタ(clutter)」と区別不能なレベルまで低減することを意味する。このようにして反射成分222(及び漏洩成分224)を除去することにより、ゴーストターゲットの出現が防止される。
【0039】
I/Qミキサ203から出力されたRF信号は、可変利得増幅器(VGA)204に提供され、VGA204は、利得制御入力205を備える。上記で示唆されたように、VGA204の利得制御入力205は、コンピュータ140によって制御することができる。VGA204は、再照射アンテナ108における、被試験レーダ105からのレーダ信号201に応答したエコー信号220の適切なエミュレーションを可能にする。とりわけ、再照射アンテナ108からのエミュレートされたエコー信号220のパワーは、エミュレートされたターゲットのRCSのインジケーション、及びエミュレートされたターゲットと被試験レーダ105との間のエミュレートされた距離の示度(indication)である。したがって、VGA204によって提供される利得は、再照射アンテナ108に入射するレーダ信号のパワー、及びエミュレートされたターゲットの所望のエミュレーション距離に基づいて、利得制御入力205において選択される。
【0040】
図3は、代表的な実施形態による、低減された反射成分及び漏洩成分でエコー信号をエミュレートする、図1の別の代表的な再照射器(及び対応する周波数オフセット送受信機)の簡略ブロック図である。この代表的な実施形態に関して説明される再照射器の態様は、上記で説明された全ての再照射器に共通しているものとすることができる。
【0041】
図3を参照すると、再照射器106Bは、上記で説明されたように、再照射アンテナ108と、当該再照射アンテナ108に接続された周波数オフセット送受信機110Bとを備える。再照射アンテナ108は、被試験レーダ105から無線でレーダ信号201を受信するように構成される。周波数オフセット送受信機110Bは、エミュレートされたターゲットを示すレーダ信号に応答して、エミュレートされたエコー信号220を生成するように構成され、ここで、エミュレートされたエコー信号220は、再照射アンテナ108によって送信され、被試験レーダ105によって受信される。加えて、反射成分222が、試験ハードウェアから反射されるとともに、漏洩成分224が、I/Qミキサ203を通って漏洩し、反射成分222及び漏洩成分224は、エミュレートされたエコー信号220と干渉する場合がある。
【0042】
図示された実施形態において、周波数オフセット送受信機110Bは、サーキュレータ202と、I/Qミキサ203と、信号発生器130とを備える。I/Qミキサ203は、LOポートと、RFポートと、IFポートとを備え、ここで、LOポートは、LO信号として再照射アンテナ108からレーダ信号201を受信し、IFポートは、LO信号と混合するために信号発生器130からI信号及びQ信号を受信し、RFポートは、エミュレートされたエコー信号220として使用されるように、混合積をRF信号として出力する。信号発生器130は、I信号及びQ信号を生成するとともに、出力RF信号の振幅及び位相を調整するために、例えば、コンピュータ140の制御下で、I信号及びQ信号の振幅及び位相を調整するように構成される。図示された実施形態において、信号発生器130は、I信号及びQ信号のDC値を調整しない。なぜならば、LO信号の漏洩成分224の振幅及び位相は、反射成分222を実質的に相殺するために、以下で論述される減衰器回路を使用して調整されるためである。
【0043】
特に、周波数オフセット送受信機110Bは、RFスプリッタ211と、RFコンバイナ212と、第1の減衰器213と、第2の減衰器214と、移相器215とを更に備える。RFスプリッタ211は、サーキュレータ202を介して再照射アンテナ108からレーダ信号201を受信し、レーダ信号201を分割して、レーダ信号201の分割成分を提供する。レーダ信号201の残りの成分は、LO信号としてI/Qミキサ203に入力され、I信号及びQ信号と混合されてRF信号が提供される。I/Qミキサ203の出力は、RF信号と、レーダ信号201と同じRF周波数における漏洩成分224とを含む。レーダ信号201の分割成分は、第1の減衰器213に入力されて、第1の減衰された信号が提供され、I/Qミキサ203の出力は、第2の減衰器214に入力されて、第2の減衰された信号が提供され、ここで、第1の減衰された信号及び第2の減衰された信号は、レーダ信号のRF周波数に減衰される。第1の減衰された信号及び第2の減衰された信号は、RFコンバイナ212によって結合されて、エミュレートされたエコー信号220及び漏洩成分224を含む結合された信号が提供され、当該結合された信号は、移相器215によって移相される。
【0044】
第1の減衰器213及び第2の減衰器214による減衰は、例えば、コンピュータ140によって、結合された信号内の漏洩成分224が反射成分222と同じ振幅を有するように、制御される。移相器215による移相は、例えば、コンピュータ140によって、漏洩成分224が反射成分222とは反対の位相を有するように、制御される。したがって、漏洩成分224は、反射成分222を実質的に相殺する。図示されていないものの、図3に示される周波数オフセット送受信機110Bは、本教示の範囲から逸脱することなく、上記で説明されたようにVGAと利得制御入力とを備えることもできる。また、移相器215がRFコンバイナ212に後置されて示されているものの、移相器215は、本教示の範囲から逸脱することなく、それぞれ第1の減衰器213を含む信号経路及び第2の減衰器214を含む信号経路のいずれか又は双方においてRFコンバイナ212に前置することができることが理解される。
【0045】
一般的に、再送信されるパワーの制御は、一貫したRCSをエミュレートするのに使用される。RCSは、例えば、データベース120内のテーブル内のルックアップに記憶することができる。そのために、エミュレートされたターゲットまでの所与の範囲Rについて、戻りエコー信号の振幅(強度)はRCSに比例し、1/Rとして減少することが知られている。車両は、典型的には、10dBsmであるものとして引用され、当該10dBsmは測定面積であり、1平方メートル(s.m.)に対して10dBであり、又は平易な表現では、10平方メートルを意味する。多くの物体が表にまとめられており(車両、歩行者、自転車、建物等)、表にまとめられていない物体は、レイトレーシング(ray tracing)技法によって計算することができる。本教示によって、特定の物体についての距離R(既知の1/Rレーダ減衰則に従う)及びRCSの許容値に相当する被試験レーダ105までの戻りエコー信号強度を提供することに強調が置かれている。代表的な実施形態によれば、信号強度(及びひいてはパワー)は、I信号及びQ信号の強度を調整することによって調整され、I信号及びQ信号が弱くなるほど、比較的に弱いエミュレートされたエコー信号を提供する。とりわけ、或る特定の代表的な実施形態においては、コンピュータ140は、被試験レーダ105において単一の焦点に提供される一貫した戻りエコー信号を事前計算し、コントローラ144は、その後、I信号及びQ信号の強度を調整して、このSSB強度を達成する。代替的に、有益には、VGA204の利得は、戻りエコー信号のSSB強度を制御するように調整することができる。
【0046】
被試験レーダ105がFMCWデバイスである場合、距離/速度は、周波数オフセット送受信機110を使用して電子的にエミュレートされる。そのために、FMCWレーダシステムは、上述されたように、チャープ波形を使用し、それにより、被試験レーダ105からの当初の送信(Tx)波形の、受信(Rx)エコー波形との相関は、ターゲット距離を明らかにする。例えば、±kswのチャープ速度(Hz/s単位で測定される)を有するアップチャープ/ダウンチャープシステムにおいて、距離dにあるとともに、被試験レーダ105を有する自車両に対してゼロ相対速度にあるターゲットは、式(1)によって与えられる周波数シフト(δf)をもたらすことになり、ここで、cは、光の速さであり、2の係数は、被試験レーダ105からの信号のラウンドトリップ伝播に起因したものである。
δf=±(2ksw d/c) 式(1)
【0047】
シフトの符号は、波形のいずれの部分(アップチャープ対ダウンチャープ)が処理されているのかに依存する。対照的に、相対速度に起因したドップラーシフトは、「コモンモード」周波数シフトとして顕現し、例えば、波形の両半分にわたる純粋なアップシフトは、被試験レーダがターゲットに接近していることを示す。被試験レーダのIF/ベースバンドプロセッサにおいて相関が実行され、数MHzの帯域幅が典型的である。
【0048】
FMCWレーダシステムの一般的に配備されるバリエーションは、反復アップチャープ、又は反復ダウンチャープを使用するが、双方(間にデッドタイムがある)は使用しない。したがって、エミュレートされたターゲットまでの距離は、前述の段落のように求められるが、ここで、符号の問題はなくなる。相対速度は、連続フレームIF相関信号同士の間の移相を測定することによって求められ、ここで、フレームは、波形の1周期を指す当該技術分野の用語である。多くのFMCWレーダ応用において、フレーム反復率は、典型的には、数kHz~数十kHzである。
【0049】
サーキュレータ202において増幅/減衰が行われると、周波数オフセット送受信機110A、110Bは、再照射アンテナ108から被試験レーダ105に再送信される増幅/減衰されたSSB信号を提供する。とりわけ、変調I駆動信号及び変調Q駆動信号の強度を低下させると、出力トーン強度が低下し、それゆえ、RCSが低下する。実用時には、この方法は、変調駆動だけではダイナミックレンジの15dB~20dB超を達成しない場合がある。しかしながら、VGA204は、この欠陥を補って所望のRCSダイナミックレンジを達成し、10dB~50dBの可変利得は、可変減衰器及び増幅器バイアス調整の組み合わせによって容易に達成することができる。
【0050】
図4は、代表的な実施形態による、エコー信号エミュレーションシステムを使用して、低減された反射成分及び漏洩成分で、ターゲットからのエコー信号をエミュレートする方法を示す簡略フロー図である。方法は、例えば、コンピュータ140の制御下で、上述されたシステム100によって実施することができる。
【0051】
図4を参照すると、ブロックS411において、被試験レーダから、プローブアンテナ(例えば、再照射アンテナ108)を通して周波数オフセットデバイス(例えば、周波数オフセット送受信機110)においてレーダ信号が受信される。レーダ信号は、例えば、FMCWレーダ信号とすることができる。エコー信号をエミュレートするのに使用されるプローブアンテナ及び周波数オフセットデバイスを含む試験機器から、レーダ信号の一部分(反射成分)が反射される。上記で記述されたように、反射成分は、システムハードウェアからの物理的な反射波、及び、例えば反射係数(S11)によって示されるような反射パワーを含むことができる。補正が行われなければ、反射成分は、被試験レーダによって、例えばゴーストターゲットを示す干渉として受信される場合がある。
【0052】
ブロックS412において、受信されたレーダ信号は、LO信号としてI/Qミキサ(例えば、I/Qミキサ203)においてI信号及びQ信号と混合され、I/Qミキサは、混合積をRF信号として出力する。受信されたレーダ信号は、LO信号としてI/Qミキサに入力される前に、処理、例えば、フィルタリング、減衰及び/又は増幅することができることが理解される。LO信号の一部分(漏洩成分)は、I信号及びQ信号と混合されることなく、I/Qミキサを通って漏洩する。補正が行われなければ、漏洩成分も、被試験レーダによって、例えばゴーストターゲットを示す干渉として受信される場合がある。
【0053】
ブロックS413において、レーダ信号(LO信号)の反射成分は、LO信号の漏洩成分を使用して実質的に相殺される。例えば、I/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号のDC値は、LO信号の漏洩成分の振幅及び位相を、レーダ信号の反射成分の等しい振幅及び反対の位相に設定するように調整することができる。代替的に、レーダ信号は、LO信号をI/QミキサにおいてI信号及びQ信号と混合する前に、RFスプリッタを使用して分割し、レーダ信号の分割成分を提供することができ、レーダ信号の分割成分は、減衰させることができる。レーダ信号の残りの成分は、ブロックS412において説明されたように、LO信号としてI/Qミキサにおいて混合され、LO信号の漏洩成分が同様に減衰される。レーダ信号の減衰された分割成分及びLO信号の減衰された漏洩成分は、RFコンバイナを使用して結合されて、LO信号の結合された漏洩成分が提供される。レーダ信号の減衰された分割成分、LO信号の減衰された漏洩成分、又はLO信号の結合された漏洩成分のうちの少なくとも1つは、LO信号の結合された漏洩成分がレーダ信号の反射成分と同じ振幅及び反対の位相を有するように、移相器を使用して移相される。
【0054】
ブロックS414において、RF信号は、エミュレートされたターゲットを正確に表すように必要に応じて増幅/減衰され、エミュレートされたエコー信号として被試験レーダに送信される。被試験レーダは、レーダ信号の反射成分及び/又はLO信号の漏洩成分によって本来であれば引き起こされる干渉なしで、エミュレートされたエコー信号を受信する。上述されたように、被試験レーダは、受信されたエミュレートされたエコー信号を、被試験レーダから現在送信されているレーダ信号と混合して、対応するレーダIF信号を提供する少なくとも1つのホモダイン受信機を備える。レーダIF信号は、エミュレートされたターゲットまでの距離を示す周波数と、エミュレートされたターゲットのRCSを示す振幅とを有する。
【0055】
ブロックS415において、エミュレートされたエコー信号として被試験レーダに送信されるRF信号におけるUSBは、(任意選択で)I/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号の振幅及び位相を調整することによって最小化することができる。すなわち、RF信号は、LO信号の周波数シフトされたバージョンであるDSBを含み、ここで、周波数シフトの量は、被試験レーダからのエミュレートされたターゲットのレンジに対応する。RF信号は、DSBの高調波において典型的に生じるUSBも含む。
【0056】
図4を参照して説明された方法は、レーダ信号の周波数の狭い範囲にわたって最も効果的である。一般的に、レーダ信号の(及びそれゆえLO信号の)周波数が較正された周波数からドリフトするにつれて、周波数が追跡され、I信号及びQ信号の位相、振幅及びDCレベルは、上述されたように、レーダ信号の反射成分の相殺を維持するように調整され、さもなければ、相殺は最適にならない。これは、LO信号の漏洩成分が、レーダ信号によってカバーされる周波数範囲の中央において最小化されるときに特に効率的である。代替形態においては、レーダ信号を分割することと、分割成分及び出力RF信号を減衰させることと、分割成分及びRF信号を結合することとを含む解決策は、より広範な応用範囲を提供することができる。
【0057】
個々のエミュレートされたターゲットを較正することを回避するために、特に複数の周波数オフセット送受信機によってエミュレートされたそのようなターゲットがいくつか存在する場合に較正を回避するために、かつ依然として反射成分を相殺除去するために、試験室内の同じエコー信号エミュレーションシステムにおいてその場でグループ較正を実行することができる。一般的に、周波数オフセット送受信機は、例えば、試験室が信号発生器又はベクトルネットワークアナライザ(VNA)によって例えば提供される、ソースプローブアンテナからのmm波信号で満たされている間、異なるIF周波数において駆動される。すなわち、各周波数オフセット送受信機は、自身のI/Qミキサから、他の周波数オフセット送受信機からのRF信号とは異なる周波数を有するRF信号を出力し、それにより、異なるDSB、USB及び高調波信号が生成される。その間、LO信号(ソースプローブアンテナからのmm波信号)はそれぞれについて同じであり、各I/Qミキサを通るLO信号の漏洩成分を協調して調整することが可能になる。
【0058】
図5は、代表的な実施形態による、低減された干渉でエコー信号をエミュレートするシステムを較正する方法を示す簡略フロー図である。方法は、例えば、コンピュータ140の制御下で、上述されたシステム100によって実施することができ、ここで、システム100は、複数の再照射器106を備え、再照射器106のそれぞれは、少なくとも1つの再照射アンテナ108と、少なくとも1つの周波数オフセット送受信機110とを備える。
【0059】
図5を参照すると、ブロックS511において、信号発生器から、対応するプローブアンテナ(例えば、再照射アンテナ108)を通して複数の周波数オフセット送受信機(周波数オフセット送受信機110)において、レーダ信号のmm波周波数を有する較正信号が受信される。較正信号は、信号発生器に接続されたソースプローブアンテナを通して試験室を満たすことができる。較正信号の一部分は、再照射器、例えば少なくともアンテナのそれぞれから、その再照射器に対応する較正信号の反射成分として反射される。
【0060】
ブロックS512において、較正信号は、LO信号としてI/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号と混合されて、それぞれ、混合積がRF信号として出力される。異なる周波数オフセット送受信機についてのI信号及びQ信号における差分に起因して、RF信号は、それぞれ、異なる周波数、異なるDSB、異なるUSB及び異なる高調波を含む。I/Qミキサのそれぞれを通過するLO信号の一部分は、そのI/QミキサについてのLO信号の対応する漏洩成分である。LO信号は、FMCWレーダ信号のチャープ周波数範囲の中央にLO周波数を有することができる。例えば、LO周波数は、76.0GHzと77.0GHzとの間でチャープするFMCWレーダ信号について76.5GHzとすることができる。しかしながら、本教示の範囲から逸脱することなく他のLO周波数を選択することができる。
【0061】
ブロックS513において、I/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号のDC値は、それぞれI/Qミキサを通るLO信号の対応する漏洩成分を最小化するとともに、LO信号の対応する漏洩成分とともに追跡する上側高調波等のRF信号の高調波を最小化するように、順次調整される。すなわち、DC値は、個々に、すなわち一度に1つずつ、I/Qミキサについて調整することができる。例えば、LO信号の漏洩成分及びRF信号の高調波は、それぞれの最小値が得られるまで、I信号及びQ信号のDC値を調整する間、VNA又はスペクトルアナライザを使用して監視することができる。一実施形態において、1つの周波数オフセット送受信機内のI/QミキサのDC値が調整されているとき、他の周波数オフセット送受信機の全てがオフにされる。その後、周波数オフセット送受信機のグループについてのI信号及びQ信号のDC値は、それに相応して設定される。LO信号の漏洩成分を初期的に最小化することは、漏洩成分がI/Qミキサの出力で大半を占める場合に特に有用である。
【0062】
ブロックS514において、I/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号の振幅及び位相は、それぞれI/Qミキサによって出力されるそれぞれのRF信号のUSBを最小化するように順次調整される。すなわち、振幅及び位相は、個々に、すなわち一度に1つずつ、I/Qミキサについて調整することができる。例えば、RF信号のUSBは、それぞれの最小のUSBが得られるまで、I信号及びQ信号の振幅及び位相を調整する間、VNA又はスペクトルアナライザを使用して監視することができる。その後、I信号及びQ信号の振幅及び位相は、それに相応して設定される。
【0063】
ブロックS515において、複数のI/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号のDC値は、周波数オフセット送受信機の全てにおけるI/QミキサからのLO信号の対応する漏洩成分から相殺信号を作成するように同時に調整される。すなわち、再照射器並びに対応する再照射アンテナ及び周波数オフセット送受信機は被試験レーダ又はソースプローブアンテナから実質的に同じレンジに位置するので、それらは、較正信号の総反射成分と称される大きい反射信号を集合的に提供する。総反射成分を実質的に相殺するために、相殺信号は、総反射成分の等しい振幅及び反対の位相を有するように作成される。
【0064】
複数のI/Qミキサに入力されるI信号及びQ信号のDC値が設定されると、ブロックS514において以前に設定されたI信号及びQ信号の振幅値及び位相値とともに、被試験レーダを試験するのにエコー信号エミュレーションシステムを使用することができる。試験は、例えば、図4に示された方法に従って実行することができる。
【0065】
上記で説明された較正は、可能なレーダ信号について各関心周波数において実行される場合に特に良好に機能する。これを行うために、チャープの周波数が追跡され、DC値のI/Q設定、並びに振幅及び位相は、チャープにわたる時間の関数として変化する。これは、労働集約的であり得る。代替的に、較正は、チャープの周波数帯域の中心の周波数においてのみ実行することができる。中心周波数のみを使用する較正は、完全性が劣る場合があるものの、依然として、LO信号の漏洩成分及びRF信号のUSBを含む、不要な項の振幅を動的に削減する。
【0066】
比較の目的で、図6Aは、代表的な実施形態による、漏洩成分及びUSBに対する、1つの周波数において周波数オフセット送受信機を較正する影響を示すグラフであり、図6Bは、代表的な実施形態による、漏洩成分及びUSBに対する、複数の周波数において周波数オフセット送受信機を較正する影響を示すグラフである。
【0067】
図6Aにおいては、較正は、76.5GHzである単一の周波数で較正信号を使用して実行されており、この信号周波数は、76.0GHzと77.0GHzとの間でチャープする例示的なFMCWレーダ信号の中心周波数である。トレース611は、RF信号のDSBを示し、トレース612は、LO信号の漏洩成分を示し、トレース613は、較正の結果生じるRF信号のUSBを示す。図6Bにおいては、較正は、76.0GHz、76.1GHz、76.2GHz、76.3GHz、76.4GHz、76.5GHz、76.6GHz、76.7GHz、76.8GHz、76.9GHz、及び77.0GHzを含む、チャープの周波数帯域にわたる複数の周波数で較正信号を使用して実行されている。トレース631は、RF信号のDSBを示し、トレース632は、LO信号の漏洩成分を示し、トレース633は、較正の結果生じるRF信号のUSBを示す。
【0068】
トレース611とトレース631との比較は、RF信号のDSBは較正技法を問わず定常的であることを示す。トレース612とトレース632との比較は、漏れ成分が、較正点として使用される中心周波数から更に約20dB(約-70dBmから約-50dBmに)上昇することを示す。これは、典型的には許容可能な差分である。なぜならば、レーダ信号は、大半の時間、チャープ周波数帯域の中点にあるので、チャープの部分の間にのみ幾分かのDC反射が存在し得るためである。トレース613とトレース633との比較は、USBが単一周波数較正を用いるのと同様に効果的にゼロになることを示す。
【0069】
本発明は、図面及び上記説明に詳細に図示及び説明されてきたが、そのような説明図及び説明は、例示又は模範とみなされるべきであり、限定とみなされるべきではなく、本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、請求項に係る発明を実施する際に、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の検討により、開示される実施形態に対する他の変形形態を理解し、それを行うことができる。特許請求の範囲において、「を含む」という単語は他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「一("a" or "an")」は複数形を排除しない。或る特定の手段が互いに異なる複数の従属請求項に列挙されているだけであれば、それらの手段を組み合わせて有利に使用することができないことは示されていないものとする。
【0070】
本発明の態様は、装置、方法又はコンピュータプログラム製品として具現化することができる。したがって、本発明の態様は、全体がハードウェアの実施形態、全体がソフトウェアの実施形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード等を含む)、又はソフトウェアの態様及びハードウェアの態様を組み合わせた実施形態の形を取ることができる。これらは全て、本明細書において、「回路」、「モジュール」又は「システム」と総称される場合がある。さらに、本発明の態様は、コンピュータ実行可能コードが具現化された1つ以上のコンピュータ可読媒体に具現化されるコンピュータプログラム製品の形を取ることができる。
【0071】
代表的な実施形態が本明細書に開示されているが、当業者であれば、本教示に従った多くの変形形態が可能であり、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが理解される。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることを除いて限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
【外国語明細書】