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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087089
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】抗カーリングフィルム
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/32 20060101AFI20220602BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20220602BHJP
   A61L 15/64 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A61L15/32 100
A61L15/58 310
A61L15/64 100
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021194973
(22)【出願日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】63/119,354
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】110142436
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ウェイ-ホン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チン-メイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,グレイス エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】シェン,シン-シン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ユーチー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ミン-チャ
(72)【発明者】
【氏名】リン,リー-シン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,セン-ルー
(72)【発明者】
【氏名】リー,イー-スァン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジィェン-ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】スー,リィァン-チェン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA04
4C081AA14
4C081BB09
4C081CA051
4C081CA171
4C081CA181
4C081CC06
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD151
4C081DA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フィルムが吸水することで生じるカーリングを解決する、抗カーリングフィルムを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコールジメタクリレートおよび光開始剤を含む第1の部分と、該第1の部分を覆う第2の部分と、を含み、該第2の部分が、ポリカプロラクトン、ゼラチン、ヒアルロン酸、アルギネート、ポリビニルアルコール、またはその組み合わせを含む、抗カーリングフィルムを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate,PEGDMA)および光開始剤を含む第1の部分と、
前記第1の部分を覆う第2の部分と、を含み、前記第2の部分が、ポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid,HA)、アルギネート(alginate,AA)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、またはその組み合わせを含む、抗カーリングフィルム。
【請求項2】
ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)のグラフト率が65%から72%である、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項3】
ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の重量比が0.5:1:1から0.5:1:6である、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項4】
前記第1の部分が第1の層および第2の層を含む、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項5】
前記第1の層がポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を含み、かつポリカプロラクトンとポリエチレングリコールジメタクリレートの重量比が1:6から1:12である、請求項4に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項6】
前記第2の層がポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)およびポリ乳酸(PLA)を含み、かつポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)とポリ乳酸(PLA)の重量比が1:1から3:1である、請求項4に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項7】
ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリ乳酸(PLA)および前記光開始剤の重量比が1:1:0.005から3:1:0.015である、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項8】
ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)および前記光開始剤の重量比が2:1:7:0.03から3:1:12:0.06である、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項9】
前記第2の部分が第1の層および第2の層を含む、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項10】
前記第1の層がポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、アルギネート(AA)、またはその組み合わせを含む、請求項9に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項11】
前記第2の層がポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはその組み合わせを含む、請求項9に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項12】
前記第1の層がポリカプロラクトン(PCL)およびゼラチン(gelatin)を含み、かつポリカプロラクトンとゼラチンの重量比が0.14:1から1:1である、請求項10に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項13】
前記第1の層がポリカプロラクトン(PCL)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトンとアルギネートの重量比が8:1から4:1である、請求項10に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項14】
前記第1の層がポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトン、ゼラチンおよびアルギネートの重量比が1:1:0.1から1:1.85:0.125である、請求項10に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項15】
前記第1の層がアルギネート(AA)を含み、かつアルギネートの重量百分率が1wt%から5wt%である、請求項10に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項16】
前記第2の層がポリカプロラクトン(PCL)およびヒアルロン酸(HA)を含み、かつポリカプロラクトンとヒアルロン酸の重量比が10:1から35:1である、請求項11に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項17】
前記第2の層がポリカプロラクトン(PCL)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトンとポリビニルアルコールの重量比が1:0.1から1:0.16である、請求項11に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項18】
前記第2の層がポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトン、ヒアルロン酸およびポリビニルアルコールの重量比が10:1:0.5から35:1:1である、請求項11に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項19】
前記第2の部分が、ゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含むか、またはゼラチン(gelatin)を含む、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項20】
前記第2の部分がゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつゼラチンとアルギネートの重量比が4:1から14.5:1である、請求項19に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項21】
前記第2の部分がゼラチン(gelatin)を含み、かつゼラチンの重量百分率が10wt%から29.9wt%である、請求項19に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項22】
前記第1の部分と前記第2の部分の面積比が5:100から65:100である、請求項1に記載の抗カーリングフィルム。
【請求項23】
請求項1に記載の抗カーリングフィルムの前記第2の部分を含む抗カーリングフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフィルム材に関し、特に抗カーリングフィルム材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在臨床で用いられている接着性および吸水性を有するフィルムは、通常、大量の組織液を吸収するため材料が溶けて分解する、または体積膨潤によりフィルムがカーリングする、離脱するといった状況が引き起こされることから、臨床使用において不都合が生じ、治療の精度が低下し、ひいては効果を失ってしまう。
【0003】
目下、最も良く見られる解決へのアプローチは、例えば吸水性または疎水性ポリマーを単独で使用する方式である。また、材料自体のカーリングし易い特性から、大多数が特定の臓器にしか使用することができず、臨床上の操作性が悪くなり、かつ製品の製造工程および関連の確認にはいずれも比較的高いコストがかかり、市場に受け入れられにくい。
【0004】
よって、組織に接着する過程でカーリングが生じるのを回避できるフィルムを開発することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床におけるサージカルフィルムは、臨床において創傷を閉じ修復する際に臓器に貼付する過程で大量の組織液を吸収するため、フィルムが膨潤してカールし、臨床上の操作性が低下してしまうことがよくあり、ひいては膨潤後の構造によってフィルムが破損して組織表面から離脱し、治療効果が低減するということさえある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態により、ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate,PEGDMA)および光開始剤を含む第1の部分と、該第1の部分を覆う第2の部分とを含み、該第2の部分が、ポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid,HA)、アルギネート(alginate,AA)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、またはその組み合わせを含む、抗カーリングフィルム(anti-curling film)を提供する。
【0007】
ある実施形態において、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)のグラフト率は65%から72%である。
【0008】
ある実施形態において、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の重量比は0.5:1:1から0.5:1:6である。
【0009】
ある実施形態において、該第1の部分は第1の層および第2の層を含む。ある実施形態において、該第1の層はポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を含み、かつポリカプロラクトン(PCL)とポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の重量比は1:6から1:12である。ある実施形態において、該第2の層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)およびポリ乳酸(PLA)を含み、かつポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)とポリ乳酸(PLA)の重量比は1:1から3:1である。
【0010】
ある実施形態において、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリ乳酸(PLA)および該光開始剤の重量比は1:1:0.005から3:1:0.015である。ある実施形態において、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)および該光開始剤の重量比は2:1:7:0.03から3:1:12:0.06である。ある実施形態では、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の含量が低すぎると、成膜できなくなってしまう。ある実施形態では、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の含量が高すぎると、膜層全体と組織との接着効果に影響が出てしまう。ある実施形態では、該光開始剤の重量比が低すぎると、膜層全体と組織との接着効果に影響が出てしまう。該光開始剤の重量比が高すぎると、毒性が生じて組織が炎症を起こしやすくなってしまう。ある実施形態において、ポリカプロラクトン(PCL)の重量比が低すぎると成膜に影響し、また高すぎると、接着に用いられる官能基がPCLポリマーに覆われてしまうため、接着効果が失われる。
【0011】
ある実施形態において、該第2の部分は第1の層および第2の層を含む。ある実施形態において、該第1の層はポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、アルギネート(AA)、またはその組み合わせを含む。ある実施形態において、該第2の層はポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはその組み合わせを含む。ある実施形態において、該第1の層はポリカプロラクトン(PCL)およびゼラチン(gelatin)を含み、かつポリカプロラクトンとゼラチンの重量比は0.14:1から1:1である。ある実施形態において、該第1の層はポリカプロラクトン(PCL)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトンとアルギネートの重量比は8:1から4:1である。ある実施形態において、該第1の層はポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトン、ゼラチンおよびアルギネートの重量比は1:1:0.1から1:1.85:0.125である。ある実施形態において、該第1の層はアルギネート(AA)を含み、かつアルギネートの重量百分率は1wt%から5wt%である。ある実施形態において、該第2の層はポリカプロラクトン(PCL)およびヒアルロン酸(HA)を含み、かつポリカプロラクトンとヒアルロン酸の重量比は10:1から35:1である。ある実施形態において、該第2の層はポリカプロラクトン(PCL)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトンとポリビニルアルコールの重量比は1:0.1から1:0.16である。ある実施形態において、該第2の層はポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトンとヒアルロン酸とポリビニルアルコールの重量比は10:1:0.5から35:1:1である。ある実施形態では、該第2の部分におけるゼラチン(gelatin)、アルギネート(AA)の含量が低すぎると、組織表面の組織液を高速に吸収することはできるものの、該第2の部分が組織液に容易に溶けてしまい、その安定した構造を維持できなくなってしまう(組織液に流されてしまい、器官表面に留まり修復/貼付している時間が短くなり、保護の作用が失われ、フィルムがよりカールしてしまう)。ある実施形態では、該第2の部分におけるゼラチン(gelatin)、アルギネート(AA)の含量が高すぎると、フィルム形成後にポリマーの含量が高いことにより材質が硬めになり、使用時に、短時間でポリマーに組織液を高速に吸着させることができず(分子間のスペースが比較的緻密であり、組織液のような水分子が進入する時間が比較的長い)、組織液吸収の効果が低下してしまい、組織に貼付する際にフィルムが反り曲がり易くなる、あるいは、ポリマー含量が高いために長時間にわたって組織を吸収すると、過度に膨潤して過度な厚さになってもしまうが、反り曲がりと過度な厚さはいずれも、組織の蠕動時にフィルムを剥離または滑動させ易くして、接着効果を失わせるため、保護効果が達成できなくなってしまう。ある実施形態において、該第2の部分は、組織液を吸着した後、組織表面に24~48時間存在し続けることができ、体液によって流されてしまうことはない。
【0012】
ある実施形態において、該第2の部分は、ゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含むか、またはゼラチン(gelatin)を含む。ある実施形態において、該第2の部分はゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつゼラチンとアルギネートの重量比は4:1から14.5:1である。ある実施形態において、該第2の部分はゼラチン(gelatin)を含み、かつゼラチンの重量百分率は10wt%から29.9wt%である。
【0013】
ある実施形態において、該第1の部分と該第2の部分の面積比は5:100から65:100である。
【0014】
本開示の一実施形態に基づいて、上述した抗カーリングフィルムの該第2の部分を含む抗カーリングフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本開示は、組織への接着性および吸水性(親水)を有するフィルム材(光硬化層、つまり抗カーリングフィルムの第1の部分)に対し、保護の手段を用い(その上を覆う保護層、つまり抗カーリングフィルムの第2の部分)、それと特定の面積比を生じさせることにより、吸水性フィルム材の組織表面(例えば、肝臓、胃腸管等)への貼付時における吸水量を制限するものである。吸水性フィルム材を臨床に使用し、身体内の器官表面に貼付すれば、組織液を大量に吸収することにより吸水したフィルム材の体積が膨潤してカールが生じるという現象を有効に低減することができ、なおかつカールした後にフィルム材が組織表面から離脱するといった状況の発生を有効に回避することも可能である。
【0016】
本開示は主に、フィルムが吸水することで生じるカーリングを解決するものであり、膜層間の特定の面積比を利用することによって、フィルムの吸水の状態を有効に制御し、組織との接着反応の過程における吸水の効率を低下させる。さらに、材料に感光性硬化の設計を取り入れ、固定波長のUV光を照射することで、フィルムと組織表面との接着作用を強化し、フィルムの接着速度をUV光により速めるのと同時に、ポリマー材料の吸水量を減少させる。かかる状況下、分子は再配列し、フィルム中のカーリング応力の発生が低減され、ひいてはカーリングが生じないようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の一実施形態による抗カーリングフィルムの上面図である。
図2】本開示の一実施形態による抗カーリングフィルムの、図1におけるA-A’断面線に沿って得られた断面図である。
図3】本開示の一実施形態による滅菌前と滅菌後の光硬化層(ブタの腸に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2258)である。
図4】本開示の一実施形態による滅菌前と滅菌後の光硬化層(ブタの腸に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2255)である。
図5】本開示の一実施形態による滅菌前と滅菌後の光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2258)である。
図6】本開示の一実施形態による滅菌前と滅菌後の光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2255)である。
図7】本開示の一実施形態による抗カーリングフィルム(ブタの腸に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2258)である。
図8】本開示の一実施形態による抗カーリングフィルム(ブタの腸に貼付)の接着強度の試験分析(ASTM F2255)である。
図9】本開示の一実施形態による光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の吸水膨潤試験分析である。
図10】本開示の一実施形態による光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の膨潤度分析である。
図11】本開示の一実施形態による腸管組織切片のHE染色結果を示している。
図12】本開示の一実施形態による胃組織切片のHE染色結果を示している。
図13】本開示の一実施形態による肝臓組織切片のHE染色結果を示している。
図14】本開示の一実施形態による腸管組織切片のMGT染色結果を示している。
図15】本開示の一実施形態による胃組織切片のMGT染色結果を示している。
図16】本開示の一実施形態による肝臓組織切片のMGT染色結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1、2を参照されたい。本開示の一実施形態により、抗カーリングフィルム10を提供する。図1は抗カーリングフィルム10の上面図である。図2は、図1におけるA-A’断面線に沿って得られた断面図である。
【0019】
図1、2に示されるように、抗カーリングフィルム10は光硬化層12および保護層14を含む。保護層14は光硬化層12を覆っている。ここで「覆う」とは、上面図または断面図でこれを見て、下方の光硬化層12の全てが上方の保護層14の範囲からはみ出ないことをいう。光硬化層12は、ポリ乳酸(polylactic acid,PLA)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone,PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(polyethylene glycol dimethacrylate,PEGDMA)を含む。
【0020】
図1、2で示される実施形態において、光硬化層12は2層である、例えば光硬化層12は第1の層16および第2の層18を含んでいるが、本開示はこれに限定されない。ある実施形態において、第1の層16はポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を含み、かつポリカプロラクトン(PCL)とポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の重量比は約1:6から約1:12である。ポリカプロラクトン(PCL)とポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の重量比が低すぎると(例えば1:6よりも低いと)、第1の層16の構造を構成することができなくなる。重量比が高すぎると(例えば1:12よりも高い)、第1の層16が第2の層18と分離して、両者を有効に結合させることができなくなってしまう。ある実施形態において、第2の層18はポリ乳酸(PLA)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を含み、かつポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)とポリ乳酸(PLA)の重量比は約1:1から約3:1である。ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)とポリ乳酸(PLA)の重量比が低すぎると(例えば1:1よりも低いと)、第2の層18の構造を構成することができなくなり、重量比が高すぎると(例えば3:1よりも高い)、第2の層18と第1の層16とを有効に結合させることができなくなってしまう。
【0021】
ある実施形態において、光硬化層12は単層である、例えば、光硬化層12はポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を含む。ある実施形態において、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の光硬化層12における重量比は約0.5:1:1から約0.5:1:6である。前述の3つの原料の重量比について、PCLを基準とした場合に、PLAとPEGDMAとの比の範囲が上述の比よりも低いと、光硬化層が有効に成膜し得ず、破損が生じるおそれがある。比の範囲が上述の比よりも高いと、光硬化の効果が低下し、ひいては効果が失われるおそれがある。また別の状況としては、光硬化層中においてPEGDMAがPCLとPLAの重量百分率の50%を超えると、光硬化層が有効に成形され得ず、フィルムに破損が生じ、製造プロセスが失敗となるおそれがある。
【0022】
図1、2に示される実施形態において、光硬化層12は光開始剤、例えばIrgacure 2959、Irgacure 819 DW、またはIrgacure 127をさらに含む。ある実施形態において、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリ乳酸(PLA)および光開始剤の重量比は約1:1:0.005から約3:1:0.015である。ある実施形態において、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)および光開始剤の重量比は約2:1:7:0.03から約3:1:12:0.06である。
【0023】
図1、2に示される実施形態において、保護層14は二層である、例えば保護層14は第1の層20および第2の層22を含んでいるが、本開示はこれに限定されない。ある実施形態において、第1の層20は、ポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、アルギネート(AA)、またはその組み合わせを含む。ある実施形態において、第2の層22はポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはその組み合わせを含む。ある実施形態において、第1の層はポリカプロラクトン(PCL)およびゼラチン(gelatin)を含み、かつポリカプロラクトンとゼラチンの重量比は約0.14:1から約1:1である。ある実施形態において、第1の層はポリカプロラクトン(PCL)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトンとアルギネートの重量比は約8:1から約4:1である。ある実施形態において、第1の層はポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつポリカプロラクトン、ゼラチンおよびアルギネートの重量比は約1:1:0.1から約1:1.85:0.125である。ある実施形態において、第1の層はアルギネート(AA)を含み、かつアルギネートの重量百分率は約1wt%から約5wt%である。ある実施形態において、第2の層はポリカプロラクトン(PCL)およびヒアルロン酸(HA)を含み、かつポリカプロラクトンとヒアルロン酸の重量比は約10:1から約35:1である。ある実施形態において、第2の層はポリカプロラクトン(PCL)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトンとポリビニルアルコールの重量比は約1:0.1から約1:0.16である。ある実施形態において、第2の層はポリカプロラクトン(PCL)、ヒアルロン酸(HA)およびポリビニルアルコール(PVA)を含み、かつポリカプロラクトン、ヒアルロン酸およびポリビニルアルコールの重量比は約10:1:0.5から約35:1:1である。
【0024】
ある実施形態において、保護層14は単層である。例えば保護層14はポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid,HA)、アルギネート(alginate,AA)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)、またはその組み合わせを含む。ある実施形態において、保護層14はゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含む。ある実施形態において、保護層14はゼラチン(gelatin)を含む。ある実施形態において、保護層14はゼラチン(gelatin)およびアルギネート(AA)を含み、かつゼラチンとアルギネートの重量比は約4:1から約14.5:1である。ある実施形態において、保護層14はゼラチン(gelatin)を含み、かつゼラチンの重量百分率は約10wt%から約29.9wt%である。
【0025】
ある実施形態において、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)のグラフト率は約65%から約72%である。グラフト率が本開示における最小の百分率よりも低いと、後続の光開始剤との反応の効果が低下し、ひいては後の製造プロセスで成形された後に、反応官能基の露出量が少なすぎるため有効に反応が生じ得ないおそれがある。これに対し、グラフト率が高すぎることで生じるおそれのある問題としては、一つには、余分な反応官能基が生じて後日臨床使用する際に毒性反応が起きてしまい、患者に炎症が生じる可能性があるということ、もう一つには、光硬化反応が過多となり、光硬化層が後日人体に移植される際に必要な柔軟性と密着性が失われ、さらには比較的鋭利な折曲角度が生じて組織と摩擦を起こすことで、例えば炎症または組織の損傷のような有害反応が生じ、治癒後に患者に疼痛が生じる可能性があるということがある。
【0026】
ある実施形態において、光硬化層12と保護層14の面積比は約5:100から約65:100であり、保護層14の面積が固定で、光硬化層12と保護層14の面積比が低すぎる場合、その接着硬化は低下し、漏洩を止める目的を果たせなくなり、また保護層14の面積が固定で、光硬化層12と保護層14の面積比が高すぎる場合、保護層14が組織液を吸着する効果に影響が出(保護効果が低下)、光硬化層12が膨潤してカーリングを生じてしまう。ある実施形態において、保護層14の面積が100平方センチメートルであるとき、光硬化層12は6.25平方センチメートルである。ある実施形態において、保護層14の面積が100平方センチメートルであるとき、光硬化層12は64平方センチメートルである。
【0027】
ある実施形態では、保護層14を単独で使用して実施することができる。
【0028】
本開示は、組織への接着性および吸水性(親水)を有するフィルム材(光硬化層、つまり抗カーリングフィルムの第1の部分)に対し、保護の手段を用い(その上を覆う保護層、つまり抗カーリングフィルムの第2の部分)、それと特定の面積比を生じさせることにより、吸水性フィルム材の組織表面(例えば、肝臓、胃腸管等)への貼付時における吸水量を制限するものである。吸水性フィルム材を臨床に使用し、身体内の器官表面に貼付すれば、組織液を大量に吸収することにより吸水したフィルム材の体積が膨潤してカールが生じるという現象を有効に低減することができ、なおかつカールした後にフィルム材が組織表面から離脱するといった状況の発生を有効に回避することも可能である。
【0029】
本開示は主に、フィルムが吸水することで生じるカーリングの現象を解決するものであり、膜層間(光硬化層12と保護層14)の特定の面積比を利用することによって、フィルムの吸水の状態を有効に制御し、組織との接着反応の過程における吸水の効率を低下させる。さらに、材料に感光性硬化の設計を取り入れ、実施時に固定波長のUV光を照射することで、フィルムと組織表面との接着作用を強化し、フィルムの接着速度をUV光により速めるのと同時に、光硬化層のポリマー(例えば前述したようなポリマー、PCL/PEGDMAまたはPLA/PEGDMAのブレンドして形成されたフィルムであってよい)の吸水量を減少させる。かかる状況下、分子は再配列し、フィルム中のカーリング応力の発生が低減され、ひいてはカーリングが生じないようになる。
【実施例0030】
作製例1
【0031】
ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)の作製
【0032】
(1)ポリエチレングリコール(PEG)(分子量8,000)を50g取り、反応槽に入れ、テトラヒドロフラン(THF)350ミリリットル中に溶解すると共に、高純度窒素ガスを通して水分を除去した。(2)無水メタクリル酸(methacrylic anhydride,MA)を取り、テトラヒドロフラン(THF)100ミリリットル中に溶解し、上述のポリエチレングリコール(PEG)溶液中にゆっくり滴下した。ポリエチレングリコール(PEG)と無水メタクリル酸(MA)との比は1:5とした。(3)引き続き窒素ガスを通し、反応温度を摂氏80℃に維持して8時間反応させた。次いで、元の体積の10倍のジエチルエーテルを加えて沈殿精製を行ってから、沈殿サンプルをろ過した。(4)沈殿サンプルを再度摂氏60℃のテトラヒドロフラン(THF)100ミリリットル中に再溶解し、上述のステップ(3)のとおりに行った後、サンプルをろ過した後、室温22~27℃下で排気キャビネットに入れて加熱乾燥し、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を得た。得られたポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)をNMRで分析したところ、NMRチャート上の5.57ppmおよび6.12ppmにMAの二重構造シグナルが出現したため、ポリエチレングリコール(PEG)と無水メタクリル酸(MA)とからポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)が合成されていることが確認された。収率は約89.02%、合成グラフト率は約68.45%であった。
【0033】
作製例2
【0034】
光硬化層の作製
【0035】
先ず、ポリカプロラクトン(PCL)1gおよびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)10gを含む溶液(溶液1)を調製すると共に、ポリ乳酸(PLA)2gおよびポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)2gを含む溶液(溶液2)を調製した。溶液1および溶液2にはいずれもジクロロメタン(dichloromethane,DCM)を溶媒として使用した。溶液1および溶液2の調製が完了したのと同時に、2つの溶液に開始剤I2959をそれぞれ添加量0.05gおよび0.01gで加え、16~24時間待って2つの溶液を完全に溶解させた。
【0036】
次いで、テフロン平面基板に溶液2を塗布して成膜させた。塗布厚は150マイクロメートルに設定した。溶液2の成膜が完了した後、約10分おき、次いで溶液1を溶液2で形成したフィルム上に流し広げ(先ず溶液2を塗布して成膜してから、溶液2で形成された膜上に、溶液1の塗布を行って堆積し成膜)、溶液1を均一に塗布して成膜させた。厚さは150マイクロメートルに設定した。ジクロロメタン(DCM)を16~24時間かけて揮発させ、光硬化層を得た。
【0037】
作製例3
【0038】
保護層の作製
【0039】
先ず、ポリカプロラクトン(PCL)4gおよびアルギン酸(AA)0.5gを含む溶液を調製した。PCLにはジクロロメタン(dichloromethane,DCM)を溶媒として使用し、AAは、オーブン50℃の環境下で脱イオン水(DDW)に溶解させた。それぞれ調製を完了した後、両者を混合・撹拌し、乳化させて調製を終了した(溶液1)。
【0040】
ポリカプロラクトン(PCL)4gおよびポリビニルアルコール(PVA)0.1gを含む(溶液2)を調製した。PCLには、ジクロロメタン(dichloromethane,DCM)を溶媒として使用し、PVAは、オーブン50℃の環境下で脱イオン水(DDW)に溶解させた。それぞれ調製を完了した後、両者を混合・撹拌し、乳化させて調製を終了した(溶液2)。
【0041】
次いで、テフロン平面基板に溶液2を塗布して成膜させた。塗布厚は150マイクロメートルに設定した。溶液2の成膜が完了した後、約10分おき、次いで溶液1を溶液2で形成したフィルム上に流し広げ(先ず溶液2を塗布して成膜させてから、溶液2で形成された膜上に、溶液1の塗布を行って堆積し成膜)、溶液1を均一に塗布して成膜させた。厚さは150マイクロメートルに設定した。ジクロロメタン(DCM)を16~24時間かけて揮発させ、保護層を得た。
【0042】
作製例4
【0043】
抗カーリングフィルムの作製
【0044】
抗カーリングフィルムは主に、作製例2の光硬化フィルムを、ポリカプロラクトン(PCL)、ゼラチン(gelatin)、ヒアルロン酸(HA)等の成分を含む保護層上に塗布し、保護層と光硬化層とを結合させて1枚の薄膜にすることで形成した。塗布の順序は、予め保護層を準備しておき、次いで作製例2のステップにしたがって光硬化層を保護層上に塗布するものとし、溶媒を16~24時間かけて揮発させ、抗カーリングフィルムを得た。
【0045】
実施例1
【0046】
滅菌前・滅菌後の光硬化層(ブタの腸に貼付)の接着強度試験分析
【0047】
先ず、臨床における無菌の要求を満たすべく、光硬化層に対してエチレンオキサイド(EO)で滅菌を行った。滅菌が済んだら、ASTM F2258およびASTM F2255の要求に従って、サンプルの体外組織接着試験分析を行った。分析前に光硬化層をASTMにおいて要求されるサイズおよび処理手順に従ってカットした後、モジュールおよび腸組織にそれぞれ貼付した。光硬化層の上方1センチメートル離れた場所からUV光を10分間連続照射した。光源強度を毎分記録し、UV光の強度を600mWから520mWまで下げた。使用したUV光の波長は365nmであった(光硬化に必要なUV光の波長範囲は270~400nm)。UV光源照射60秒後に接着試験分析を行った。ASTM F2258の分析結果は図3に示されるとおりである。市販品はTissuemedのTissuePatch(登録商標)であり、メーカーの規格は10×10cm、厚さ約40μmであり、接着強度を分析する際のサイズは本実施例のサンプルと同じとし、いずれもASTMの要求に従って所定のサイズにカットした。未滅菌、滅菌4時間、滅菌8時間、および市販品TissuePatch(登録商標)の接着強度はそれぞれ30.92±5.01mJ、22.96±3.86mJ、26.13±1.32mJ、3.01±1.73mJであった。ASTM F2255の分析結果は図4に示すとおりである。未滅菌、滅菌4時間、滅菌8時間および市販品の接着強度はそれぞれ38.72±17.35mJ、42.49±10.93mJ、49.30±14.43mJ、11.20±1.28mJであった。
【0048】
実施例2
【0049】
滅菌前・滅菌後の光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の接着強度試験分析
【0050】
先ず、臨床における無菌の要求を満たすべく、光硬化層に対してエチレンオキサイド(EO)で滅菌を行った。滅菌が済んだら、ASTM F2258およびASTM F2255の要求に従って、サンプルの体外組織接着試験分析を行った。分析前に光硬化層をブタの肝臓に貼付した。貼付のサイズは上述の実施例1と同じとし、ASTMの要求に準拠したサイズおよび操作手順に従って行った。光硬化層の上方1センチメートル離れた場所からUV光を10分間連続照射した。光源強度を毎分記録し、UV光の強度を600mWから520mWまで下げた。UV光源照射の60秒後に接着試験分析を行った。ASTM F2258の分析結果は図5に示されるとおりである。未滅菌、滅菌後および市販品(TissuePatch(登録商標))を用いて試験を行ったところ、接着強度はそれぞれ78.06±5.02mJ、113.18±35.75mJ、4.43±2.94mJであった。ASTM F2255の分析結果は図6に示すとおりである。未滅菌、滅菌後および市販品の接着強度はそれぞれ47.85±6.97mJ、33.03±8.01mJ、27.61±10.37mJであった。
【0051】
541O4
【0052】
抗カーリングフィルム(ブタの腸に貼付)の接着強度試験分析
【0053】
ASTM F2258およびASTM F2255の要求に従い、作製例4で作製した抗カーリングフィルムに対し体外組織接着試験分析を行った。分析前に抗カーリングフィルムを腸組織に貼付した。抗カーリングフィルムの上方1センチメートル離れた場所からUV光を10分間連続照射した。抗原強度を毎分記録し、UV光の強度を600mWから520mWまで下げた。UV光源照射の60秒後に接着試験分析を行った。ASTM F2258の分析結果は図7に示されるとおりである。作製例3で作製した抗カーリングフィルムおよび市販品TissuePatch(登録商標)の接着強度はそれぞれ19.53±3.74mJおよび3.01±1.73mJであった。ASTM F2255の分析結果は図8に示されるとおりである。作製例4で作製した抗カーリングフィルムおよび市販品の接着強度はそれぞれ17.13±0.15mJおよび19.78±10.97mJであった。上述の分析からわかるように、本開示の抗カーリングフィルムの接着強度はいずれも安定している上、市販品よりも優れている。
【0054】
実施例4
【0055】
光硬化層(ブタの肝臓に貼付)の吸水膨潤試験分析
【0056】
光硬化層(試験サイズはそれぞれ2.5×2.5cmおよび8×8cm)を肝臓に貼付し、UV光を連続照射して硬化させた。照射時間はそれぞれ30秒、60秒、90秒、180秒、240秒および300秒とした。照射が完了したら、固定体積200マイクロリットル(μL)の生理食塩水を用いて吸水膨潤試験を行った。同じ吸水時間、つまり30分が経過した後、顕微鏡で光硬化層の膨潤厚さを観察した。分析結果は図9に示されるとおりである。図9からわかるように、UV光を180秒照射した後、光硬化層の厚さは平衡に達し、顕著な増加は見られなくなり、照射300秒に達したときに、厚さはほぼ変化しなくなった。さらに膨潤度百分率に換算し、(膨潤後Wt-膨潤前W0)/膨潤前W0×100=膨潤度%とし、得られた膨潤度(百分率)の変化曲線を図10にプロットした。図10からわかるように、光照射180~300秒後に、光硬化層の膨潤度は元の厚さのおよそ55.31~58.65%となり、かつ光照射180秒後に変化の度合いが大幅に緩やかとなった。これによっても、UV光照射により光硬化層の膨潤が安定する時間は少なくとも180秒になるということが確認された。
【0057】
実施例5
【0058】
抗カーリングフィルム(豚の肝臓に貼付)の吸水膨潤試験分析
【0059】
作製例4で作製した抗カーリングフィルムに対し吸水膨潤試験分析を行った。試験は、対照群(保護層で覆わない)と実験群(保護層で覆う)とに分けてそれぞれ行った。対照群サンプルを肝臓に貼付し、UV光を60秒照射し、生理食塩水に30分浸漬した。サンプルは保護層で保護されていないため、カールし、組織表面から離脱した。実験群を実験群1と実験群2とに分けた。実験群1で用いた抗カーリングフィルムの保護層の面積は10×10センチメートル、光硬化層の面積は2.5×2.5センチメートルとし、実験群2で用いた抗カーリングフィルムの保護層の面積は10×10センチメートル、光硬化層の面積は8×8センチメートルとした。抗カーリングフィルムを肝臓に貼付し、UV光を照射した。照射時間はそれぞれ60秒、180秒および300秒とした。照射が完了した後、肝臓組織を生理食塩水中に16~18時間浸漬した。試験結果から、実験群1は、UV光を180秒照射してから、16~18時間という長時間浸漬した後も、カーリング、離脱の現象が生じないことがわかった。同様に実験群2も、UV光を60秒照射してから、16~18時間という長時間浸漬した後も、カーリング、離脱の現象は生じなかった。上記試験結果により、光硬化層が保護層により覆われ有効に保護されている場合に(光硬化層の面積が保護層の面積の6.25%~64%を占める)、フィルムが吸水によりカールする状況を有効に取り除けるということが確認された。
【0060】
実施例6
【0061】
抗カーリングフィルムの細胞毒性(生体適合性)分析
【0062】
以下、ISO 10993-5に従い、作製例4で作製した抗カーリングフィルムに対し細胞毒性分析を行った。フィルムを摂氏37℃の培地、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むDulbecco’s modified Minimal Essential Medium(DMEM)に入れて抽出を行い、24時間作用させた後に、抽出液をL929繊維芽細胞と共培養した。共培養の時間は24時間とした。L929繊維芽細胞とサンプル抽出液とを共培養した後の細胞生存率は70%よりも高く、本開示の抗カーリングフィルムに毒性発現がないこと、生体適合性が良好であることが示された。
【0063】
実施例7
【0064】
抗カーリングフィルムのウサギ体内への(肝臓に貼付)移植試験
【0065】
以下、抗カーリングフィルムのウサギ体内への移植の有効性確認を行った。試験は、対照群(保護層で覆わない)と実験群(保護層で覆う)とに分けてそれぞれ行った。対照群で用いた光硬化層の面積は1.5×1.5センチメートルとした。実験群で用いた抗カーリングフィルムの保護層の面積は2.5×2.5センチメートルとし、光硬化層の面積は1.5×1.5センチメートルとした。両群を同時にUV光で180秒照射した後、それぞれパッチの反応を観察した。このとき、対照群は明らかにカールが生じており、かつ局部が組織表面からすでに離脱していた。縫合してから48時間後、犠牲死させて試料採取し観察した。その結果から、対照群のパッチは軽微な癒着の現象があり、手術した肝臓の位置に依然存在してはいるものの、パッチはカールし、折り畳まれてしまっていることがわかった。これに対し、実験群のパッチは癒着の現象はなく、かつ肝臓表面に安定に貼付されており、何らのカールまたは離脱の状況も生じなかった。
【0066】
実施例8
【0067】
抗カーリングフィルムのブタ体内への(腸管に貼付)移植試験
【0068】
以下、抗カーリングフィルムのブタ体内への移植の有効性確認を行った。ステップ1:腸管の損傷部位の位置決めをした。ステップ2:無菌で抗カーリングフィルムを取った。ステップ3:フィルムを丸め、低侵襲手術機器を使用して抗カーリングフィルムを体内に送り入れた。ステップ4:創傷部分に貼付し、創傷が完全に覆われていることを確認した。ステップ5:特定のUV光の波長の光源で照射を行った。ステップ6:照光時間は180秒とした。上記6つのステップを完了した後、一般的な臨床における術後の処置手順にしたがって、腹部の小さな創傷の縫合および消毒を行い、1か月後に動物から試料採取し観察した。
【0069】
1か月経過後に動物を犠牲死させて試料採取した。犠牲死前に、低侵襲手術により内視鏡を用いて創傷部分を観察した。観察の結果、1か月後、抗カーリングフィルムを腸管の創傷に貼付した部分に癒着等の有害反応が生じていないことが判明し、かつ創傷の上方に、不鮮明ではあるがフィルム存在の痕が観察された。このことから、抗カーリングフィルムが腸管の創傷に安定して貼付され得ると共に、カーリング及びその他の有害反応が生じないということが確認できた。上述の結果より、本開示の抗カーリングフィルムは、臨床でよく用いられる吸水性の補強修復フィルムの体内への移植後に生じる吸水膨潤により引き起こされるパッチのカーリング現象を有効に解決できるのみならず、その他起こり得る後遺症をも回避できることが証明された。
【0070】
実施例9
【0071】
抗カーリングフィルムのブタ体内(腸、胃、肝臓に貼付)への移植試験(外観から観察)
【0072】
以下、抗カーリングフィルムのブタ体内への移植について、期間を1か月および3か月として有効性確認を行った。移植する器官はそれぞれ腸、胃、肝臓の3つの部位とした。それぞれ1か月後および3か月後に試料採取して観察するものとした。1か月後に試料採取して観察を行ったところ、各器官に癒着または滲み漏れるといった状況が現れていないことがわかった。3か月後に試料採取して観察を行ったところ、腸管の外観は正常な状態を呈しており、胃と肝臓は組織の癒着が若干生じていたことがわかった。試料採取の過程で、胃部癒着の増生組織は外力を介さなくとも離れた。術後にこのような癒着が生じることは正常な反応であると言え、臨床においてネガティブな癒着の状況ではない。肝臓部位に生じた癒着は、軽く剥がすだけで癒着を取り除くことができ、肝臓はもともと癒着し易い臓器であって、どんな外科手術でも癒着が起こる可能性はあるため、抗カーリングフィルムに起因するものかは、切片の分析をしなければはっきりとした結果は判明しない。まとめると、癒着指数のスコアの上では、本開示の抗カーリングフィルムは腸管器官に対する効果が最も高く、胃と肝臓は、将来の臨床適応症の候補器官および応用の位置付けになると思われる。
【0073】
実施例10
【0074】
抗カーリングフィルムのブタ体内(腸、胃、肝臓に貼付)への移植試験(組織染色により観察)
【0075】
本実施例は、1か月後に試料採取し、組織に対し切片処理および染色観察を行ったものである。腸、胃、肝臓の3つの器官に、HE(ヘマトキシリン・エオジン染色)、MGT(Masson’s Trichrome Stain;Massonトリクローム染色)および免疫組織化学染色(Immunohistochemistry,IHC)のCD45炎症反応の染色を含む染色をそれぞれ行った。腸管組織切片のHE染色の結果(図11に示すとおり)から、創傷が材料に有効に覆われ、かつ創傷部分はすでに修復されて封止効果が達成されていることが示され、試料採取時の外観観察と一致した。胃組織切片のHE染色結果(図12に示すとおり)は腸管組織の染色結果と同じであり、創傷部分が材料にすでに完全に覆われ、かつ創傷部分の組織がすでに修復されてもおり、試料採取時の外観観察と一致し、滲出・漏洩の状況、および癒着・増生した組織はなかった。肝臓組織切片のHE染色結果から(図13に示すとおり)(肝臓は止血しにくいため、複数の変数が実験に影響するのを回避するべく、フィルムを体内に移植して貼付するのみとし、創傷を作ることはしなかった)、フィルムが依然安定に組織表面に存在していることが示された。HE染色の観察から、光硬化パッチは、安定に組織表面に存在し得ると共に、術後の創傷部分を精度よく、安定に封止して漏洩を止めることができ(縫合糸でパッチを固定する、または創傷を縫い合わせることなく)、このことは、光硬化パッチの接着・漏洩防止の有効性を証明している。また、組織切片によりフィルムを上方から観察したところ、有害な組織の増生は観察されず、試料採取時の外観観察と一致しており、光硬化パッチの癒着防止効果がここでも証明されている。
【0076】
光硬化パッチの有効性および組織修復の状態を確認するため、上述した各組織に対してそれぞれMGT染色を行った。MGT染色は主に、結合組織から生じるコラーゲンを観察できるものである。MGT染色により、腸(図14に示すとおり)、胃(図15に示すとおり)、肝臓(図16に示すとおり)の組織切片の状態をそれぞれ観察した。結果は図中の100×写真で示されるとおりで、創傷部分にはすでに青緑色のコラーゲン反応が現れており、このことは、創傷が光硬化パッチにより封止され漏洩が止められた後に、フィルムが修復の仲介的な役目をし、繊維芽細胞に、材料に沿って創傷間の欠損を修復させ、ひいては細胞外基質のコラーゲンを作り出させることができる、ということを示している。また、材料周辺が青緑色の結合組織に包囲され、かつ材料が破損し始めていることも観察することができ、かかる現象から、材料は組織に覆われた後に分解反応を進行し始めるということが推測される。
【0077】
HEおよびMGTの切片分析が完了したら、腸、胃、肝臓の3つの部位の組織に対し免疫組織化学染色(Immunohistochemistry,IHC)のCD45染色を行った。IHCは抗体と抗原間の特異的な結合を利用して、組織または細胞中のターゲットタンパク質の発現量および位置を検出するものである。CD45を褐色に染色(DAB)して区別すると共に、Hematoxylinで細胞核を染めて区別した。CD45は全ての白血球に発現し、成熟した赤血球および血小板以外の全ての造血細胞を区別するのを助けるとも言われている。以下に、腸、胃、肝臓の3つの器官の組織の、10×顕微鏡下でCD45が呈した結果について説明する。10×の視野で観察した結果、材料の周囲にだけ比較的はっきりとした褐色(DAB)の沈殿、免疫反応が現れ、腸および胃の創傷部分には明らかな免疫炎症反応がないことがわかった。さらに100×および400×顕微鏡でその炎症反応を観察した結果、100×下において、腸管にわずかに炎症反応があったのみで、その他の器官に深刻な免疫反応は現れていないことが観察された。このことは、光硬化パッチが移植された1か月後、前半2週間の急性炎症期が過ぎた後に、組織はすでに修復期の段階(M2 phase)に入っていたことを示す。
【0078】
上述の分析をまとめると、本開示の抗カーリングフィルムの体内への移植後のパフォーマンスは、予期した漏洩防止効果を達成しており、かつ癒着のような有害反応はなかった。組織切片の分析結果からわかるように、体内への移植1か月後に、組織はすでに修復に入っており、大型動物体内に対する有効性確認は非常に成功した。
【符号の説明】
【0079】
10…抗カーリングフィルム
12…光硬化層
14…保護層
16…光硬化層の第1の層
18…光硬化層の第2の層
20…保護層の第1の層
22…保護層の第2の層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【外国語明細書】