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特開2022-87139ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087139
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】ハイブリッドロケット用グレイン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/14 20060101AFI20220602BHJP
   C10L 5/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
F02K9/14
C10L5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022052948
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】西尾 潤
(57)【要約】
【課題】製造の容易性を維持しつつ燃焼時の推力を向上させたハイブリッドロケット用グレインを提供する。
【解決手段】ハイブリッドロケット用グレイン10は、グレイン10の断面円における半径方向に向かって複数層に亘って積層された固体燃料11と、固体燃料12の各層を隔てる可燃性の隔壁12を含み、隔壁12は、平板状シートと波状シートが両者の接触点において接合された片段シートにより構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドロケット用グレインであって、
前記グレインの断面円における半径方向に向かって複数層に亘って積層された固体燃料と、
前記固体燃料の各層を隔てる可燃性の隔壁を含み、
前記隔壁は、平板状シートと波状シートが両者の接触点において接合された片段シートにより構成されている
グレイン。
【請求項2】
前記隔壁は、前記波状シートが内向きとなるように配置されている
請求項1に記載のグレイン。
【請求項3】
前記隔壁は、前記片段シートを巻回することにより構成されたものである
請求項1に記載のグレイン。
【請求項4】
前記隔壁は、円筒状の前記片段シートを複数層に亘って配置することにより構成されたものである
請求項1に記載のグレイン。
【請求項5】
前記グレインの周方向に前記固体燃料の収納空間を区画するために前記半径方向に沿って形成された可燃性の仕切り壁をさらに含む
請求項1に記載のグレイン。
【請求項6】
前記固体燃料は、前記隔壁の間に充填されたものである
請求項1に記載のグレイン。
【請求項7】
前記固体燃料は、棒状であり、
前記片段シートのうち、前記平板状シートと波状シートの接合部分を谷部、前記波状シートが前記平板状シートから乖離した部分を山部とした場合に、前記固体燃料は、2つの前記山部の間の前記谷部に挿入されている
請求項1に記載のグレイン。
【請求項8】
前記グレインの最も内側に位置する前記固体燃料の層よりも、前記グレインの最も外側に位置する前記固体燃料の層の方が酸素含有率が高い
請求項1に記載のグレイン。
【請求項9】
前記グレインは、その中心軸方向に沿って延びるように一又は複数の燃焼空間が形成されている
請求項1に記載のグレイン。
【請求項10】
ハイブリッドロケット用グレインの製造方法であって、
平板状シートと波状シートを両者の接触点において接合した可燃性の片段シートを製造する工程と、
固体燃料を巻き込みながら前記片段シートを巻回するか、又は、前記片段シートを巻回した後に当該片段シートがなす層内に前記固体燃料を挿入することにより、前記グレインの半径方向に向かって複数層に亘って固体燃料を積層する工程と、を含む
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドロケット用のグレイン(固体燃料製品)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロケットエンジンの方式として、主に液体燃料ロケット、固体燃料ロケット、及びハイブリッドロケットの3種が知られている。ロケットが酸素濃度の低い空間で推力を得るためには、燃料とそれを燃焼させる酸化剤が必要となる。液体燃料ロケットは燃料と酸化剤が共に液体のものであり、固体燃料ロケットは燃料と酸化剤が共に個体のものであり、ハイブリッドロケットは燃料が固体で酸化剤が液体のものである。本願明細書では、この固体燃料製品全体を「グレイン」と呼ぶ。
【0003】
ハイブリッドロケット用のグレインには一又は複数の燃焼空間が形成されている。ハイブリッドロケットは、グレインの燃焼空間に液体酸化剤を供給してグレインを燃焼させ、その燃焼現象により発生したガスをノズルから噴射することによって推力を得ることができる。ハイブリッドロケットは、固体燃料と液体酸化剤が構造的に分離されているため、液体燃料ロケットや固体燃料ロケットに比べて製造が容易であるとともに、固体燃料と液体酸化剤の管理がし易いことから、安全性が高く燃焼の制御も容易であるというメリットがある。一方で、ハイブリッドロケットは、例えば液体燃料ロケットと比べて比推力(単位重量の推進剤を使って得られる推力の力積)が低く、推力が出にくいというデメリットがある。このように、ハイブリッドロケットは、製造が容易で安全性と管理性に優れている反面、推力が低いものであることから、例えば弾道飛行中にデータを測定する観測ロケットのエンジンとして用いられることが多い。
【0004】
上記のようにハイブリッドロケットには推力が低いというデメリットがあるが、これを補うための工夫としては、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されているように、固体燃料自体を渦巻状に巻成するとともに各層の間に空隙を形成することが知られている。このように、渦巻状に巻成された固体燃料の層の間に空隙を設けることで、固体燃料の燃焼効率を高めることができ、大きな推力を発生させることが可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-144494号公報
【特許文献2】特開昭55-144495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の発明は、平板の固体燃料の片面に波板の固体燃料を重ねて一体化したものを渦巻状に巻成することとしているが、ある程度の厚み(例えば1mm)のある固体燃料自体を波板状に加工して平板と一体化することは困難を伴うものであり、製造が容易であるというハイブリッドロケットのメリットが損なわれるという問題がある。例えば平板と波板の接触部を低温の接着剤等で接着しなければならないが、このような接着剤を用いる場合には、接着剤が完全に固化するまで波板の形状を維持しなければならず、平板と波板が一体化したグレインを効率良く連続的に生産することが難しいという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の発明は、平板状の固体燃料の片面に突起状のスペーサを形成し、その固体燃料を渦巻状に巻成することとしているが、このような突起では固体燃料の各層の空隙を十分に確保することができないという問題がある。実際、特許文献2のように固体燃料の表面に形成された突起状のスペーサを形成しただけでは、特許文献1のように各層の空隙を維持することができない。その結果、特許文献2の構造では、燃焼効率向上の効果は限定的なものに留まると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、ハイブリッドロケット用のグレインにおいて、製造の容易性を維持しつつ、グレインの燃焼効率を高めて、燃焼時の推力を向上させることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、従来発明の問題を解決する手段について鋭意検討した結果、平板状シートと波状シートを接合した簡易な片段シートにより隔壁を構成し、この隔壁によって固体燃料の層間に空隙を形成することにより、製造が容易で燃料効率の高いグレインを提供することができる知見を得た。そして、本発明者は、上記知見に基づけば従来発明の問題を解決できることに想到し、本発明を完成させた。具体的に説明すると、本発明は以下の構成又は工程を含む。
【0010】
本発明の第1の側面は、ハイブリッドロケット用のグレイン10に関する。本発明に係るグレイン10は、固体燃料11と隔壁12を含む。このグレイン10は、略円柱形であり、その中心軸Aに沿って一又は複数の燃焼空間Sが形成されている。「略円柱形」とは、外周が閉じた断面円となっている円柱形(図6参照)に加えて、シートが渦巻状に巻回された実質的な円柱形(図2等参照)を含む。固体燃料11は、グレインの断面円における半径方向Rに向かって複数層に亘って積層されている。固体燃料は、一体化されたものであってもよいし、複数に分離されたものであってもよい。隔壁12は、固体燃料11の各層をグレイン10の半径方向Rに隔てる可燃性のものである。この隔壁12は、平板状シート13と波状シート14が両者の接触点15において接合された片段シートにより構成されている。なお、固体燃料11と隔壁12は、異なる材料で形成されていてもよいし、同じ材料で形成されていてもよい。
【0011】
上記構成のように、本発明に係るグレイン10は、固体燃料11に加えて、片段シートにより構成された可燃性の隔壁12を備える。この点において、本発明に係るグレイン10は、固体燃料自体が平板と波板とを一体化した片段構造のみからなる特許文献1に記載のグレインとは異なる。本発明において、片段構造の隔壁12は、平板状シート13と波状シート14とが乖離した部分に空隙Vが形成されているため、この隔壁12を固体燃料11の間に差し込むことで、固体燃料11の間の燃焼効率を向上させることができる。すなわち、グレイン10の燃焼時の推力を向上させるには、グレイン10の中心から外周に向かって固体燃料11の燃焼表面が後退していく速度を上げることが重要となる。このとき、片段構造により空隙Vが形成された隔壁12を固体燃料11の層間に配置しておくことで、固体燃料11の後退速度を上昇させることができる。また、この隔壁12を構成する平板状シート13と波状シート14は、厚みを持たせる必要がないことから、それぞれ比較的薄いシート状にすることができる。このため、平板状シート13と波状シート14を接合した片段シートは、例えば公知の段ボール用のコルゲーターを利用して容易に加工及び製造することができる。さらに、隔壁12を構成する片段シートは、渦巻状に巻回させたり、断面円形、断面四角形、その他断面多角形状など様々な形状に加工したりし易いものである。このように製造及び加工が容易な片段シートによって固体燃料11を隔てる隔壁12を構成することにより、グレイン10の製造の容易性を維持しつつ、燃焼時の推力を向上させることが可能となる。
【0012】
本発明に係るグレイン10において、隔壁12は、波状シート14が内向きとなるように配置されていることが好ましい。波状シート14が内向きであることとは、すなわち、隔壁12を構成する平板状シート13と波状シート14のうち、波状シート14がグレイン10の中心を向いている状態を意味する。このように、波状シート14を内向きにして隔壁12を配置することで、波状シート14によって固体燃料11を保持しやすくなる。また、この配置の場合、グレイン10の外周面が平板状シート13となる。これにより、グレイン10の外周面がロケットエンジン100のモーターケース20(シリンダー)の内周面に密着しやすくなり、燃焼時に発生するガスがグレイン10内を効率的に通過するようになる。特に、隔壁12は片段構造であることから、その構造自体の圧縮回復力によってグレイン10の外周面をモーターケース20の内周面に密着させることができる。
【0013】
本発明に係るグレイン10において、隔壁12は、片段シートを渦巻状に巻回することにより構成されたものであってもよい。これにより、一枚の片段シートを用意すれば、簡単に隔壁12を形成することができる。また、片段シートは容易に渦巻状に巻回することが可能である。
【0014】
本発明に係るグレイン10において、隔壁12、円筒状の片段シートを複数層に亘って配置することにより構成されたものであってもよい。すなわち、直径の異なる円筒状の片段シートを複数用意して、直径の大きい円筒の中に直径の小さい円筒を収めるように配置すればよい。このような構造によっても、簡単に隔壁12を形成することが可能である。
【0015】
本発明に係るグレイン10は、可燃性の仕切り壁16をさらに含んでいてもよい。仕切り壁16は、グレイン10の周方向Cに固体燃料11の収納空間を区画するために、グレイン10の半径方向Rに沿って形成されている。このように仕切り壁16を設けることで、固体燃料11の位置ずれを防止できる。また、仕切り壁16を設けることでグレイン10の強度も向上する。仕切り壁16は、前述した片段シートを渦巻状に巻回することにより隔壁12を形成した実施形態と、円筒状の片段シートを複数層に亘って配置することにより隔壁12を形成した実施形態のどちらにも適用することができる。また、仕切り壁16は、単純な平板状であってもよいし、隔壁12と同様に片段シート(片段構造)で構成されていてもよい。また、仕切り壁16は、2枚の平板状シートにより一枚の波状シートを挟み込んで各シートの接触点を接合したトラス構造であってもよい。
【0016】
本発明に係るグレイン10において、固体燃料11は、隔壁12の間に充填されたものであってもよい。充填とは、ある隔壁12の波状シート14とこれに対向する別の隔壁12の平板状シート13との間に固体燃料11が実質的に隙間なく配置されている状態を意味する。例えば、片段シートの片面に固体燃料11を載せて、その後固体燃料11を巻き込みながら片段シートを巻回して隔壁12を形成することにより、固体燃料11は隔壁12の間に充填された状態となる。あるいは、片段シートを巻回して隔壁12を形成した後に、隔壁12の間に固体燃料11の材料を流し込んで固化させることによって、隔壁12の間に固体燃料11を充填することとしてもよい。このように隔壁12の間に固体燃料11を充填した場合であっても、隔壁12自体が空隙Vを内包する片段構造であるため、固体燃料11を効率良く燃焼させることができる。
【0017】
本発明に係るグレイン10において、固体燃料11は、棒状であってもよい。棒状には、円柱状の他、四角柱状、五角柱状、その他多角柱状が含まれる。この場合、片段シートのうち、平板状シート13と波状シート14の接合部分を谷部14a、波状シート14が平板状シート13から乖離した部分を山部14bとした場合に、固体燃料11は、2つの山部14bの間の谷部14aに挿入されていることが好ましい。なお、棒状の固体燃料11は、片段シートの谷部14aの全てに挿入されている必要はなく、固体燃料11が挿入されていない谷部14aが存在していても問題はない。例えば、片段シートの谷部14aに固体燃料11を載せて、その後固体燃料11を巻き込みながら片段シートを巻回して隔壁12を形成することとしてもよい。あるいは、片段シートを巻回して隔壁12を形成した後に、片段シートの谷部14a間に固体燃料11を挿入することとしてもよい。このように、片段シートの谷部14aの間に棒状の固体燃料11を挿入することで、固体燃料11同士の間の空隙Vを維持できるため、各固体燃料11を効率良く燃焼させることができる。また、棒状の固体燃料11を挿入する場合でも、グレイン10内における固体燃料11の位置ずれを防止できる。さらに、固体燃料11を棒状することで、固体燃料11全体の表面積が増えるため、固体燃料11の燃焼速度を速めることができる。
【0018】
本発明に係るグレイン10は、グレイン10の最も内側に位置する固体燃料11の層よりも、グレイン10の最も外側に位置する固体燃料11の層の方が酸素含有率が高いこととしてもよい。グレイン10の燃焼が進むと固体燃料11に対して酸化剤が不足する場合があるが、外側の層の固体燃料11の酸素含有率を高く調整することで、酸化剤不足を補うことができる。
【0019】
本発明に係るグレイン10は、その中心軸A方向に沿って延びるように一又は複数の燃焼空間Sが形成されている。なお、グレイン10の燃焼空間Sが一つである場合、その燃焼空間Sはグレイン10の中心軸A上に形成されていることが好ましい。一方、グレイン10の燃焼空間Sが複数ある場合、それらの燃焼空間Sはグレイン10の中心軸Aと平行であればよく、必ずしも中心軸A上に形成されている必要はない。また、別の実施形態では、燃焼空間Sは、グレイン10内に螺旋状に形成されていてもよい。
【0020】
本発明の第2の側面は、ハイブリッドロケット用グレインの製造方法に関する。本発明に係る製造方法では、まず、平板状シート13と波状シート14を両者の接触点15において接合した可燃性の片段シートを製造する(第1工程)。次に、固体燃料11を巻き込みながら片段シートを巻回するか、又は、片段シートを巻回した後に当該片段シートがなす層内に固体燃料11を挿入することにより、グレイン10の半径方向Rに向かって複数層に亘って固体燃料11を積層する(第2工程)。これにより、固体燃料11の層の間には、片段シートにより構成された隔壁12が形成されることとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造の容易性を維持しつつ、燃焼時の推力を向上させたハイブリッドロケット用グレインを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、グレインを搭載したハイブリッドロケットの構造を模式的に示している。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係るグレインの断面構造を示している。
図3図3は、図2に示したグレインの隔壁の断面構造を示している。
図4図4は、図3に示した隔壁の斜視図を示している。
図5図5は、第2の実施形態に係るグレインであって、図3に示した隔壁に複数の棒状の固体燃料を挿入したグレインの断面構造を示している。
図6図6は、本発明の第3の実施形態に係るグレインの隔壁の断面構造を示している。
図7図7は、本発明の第4の実施形態に係るグレインの隔壁の斜視図を示している。
図8図8は、本発明の第5の実施形態に係るグレインの隔壁の断面構造を示している。
図9図9は、図8に示した隔壁により形成可能な燃焼空間の例を模式的に示している。図9(a)は2つの燃焼空間が直線状に形成された例を示しており、図9(b)は燃焼空間が2つの燃焼空間が二重螺旋状に形成された例を示している。
図10図10は、グレインの変形例を示している。図10(a)は、グレインの内周面に固体推進剤を積層した例を示しており、図10(b)は、グレインを構成する固体燃料の酸素含有率を変化させた例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
【0024】
図1は、ハイブリッドロケット100の主要な構成要素を示している。図1に示されるように、ハイブリッドロケット100は、グレイン10、モーターケース20、酸化剤タンク30、噴射ノズル40、及び火薬50を含む。グレイン10は、一般的に円筒状に形成されており、その内部に燃焼空間Sが形成されている。モーターケース20は、グレイン10を収容するための容器であり、グレイン10燃焼時に発生する高圧ガスに耐え得る強度に設計されている。酸化剤タンク30は、液状酸化剤が充填された容器であり、モーターケース20の前端側に接続されており、グレイン10の燃焼空間S内に液状酸化剤を供給する。液状酸化剤の例は、液体酸素及び亜酸化窒素である。噴射ノズル40は、グレイン10の燃焼により発生したガスの噴射口として機能するものであり、モーターケース20の後端側に接続されている。火薬50は、グレイン10の燃焼空間S内に配置されている。
【0025】
ハイブリッドロケット100を打ち上げる際には、酸化剤タンク30内の液状酸化剤をグレイン10の燃焼空間Sに供給すると共に火薬50に着火する。これにより、火薬50を最初の熱源、液状酸化剤に含まれる酸素を支燃物として、グレイン10(可燃物)が燃焼を開始する。グレイン10が燃焼するとモーターケース20内にガスが発生し、モーターケース20内の圧力が所定以上となると燃焼ガスが噴射ノズル40から噴射される。これによりハイブリッドロケット100に推力が与えられる。グレイン10の燃焼は、燃焼空間Sが徐々に広がるように、中心から外周に向かって進行する。グレイン10が全て燃焼するか、酸化剤タンク30内の液状酸化剤がなくなると、グレイン10の燃焼は終了する。なお、酸化剤タンク30からグレイン10への液状酸化剤の供給を停止することによっても、グレイン10の燃焼を停止させることができる。
【0026】
本発明は、主に上記ハイブリッドロケット100内に含まれるグレイン10に関するものである。ただし、本発明の範囲をグレイン10を備えたハイブリッドロケット100に広げることも可能である。その場合、前述したモーターケース20、酸化剤タンク30、液体酸化剤、噴射ノズル40、及び火薬50についてはそれぞれ公知のものを採用できる。以下では、グレイン10について詳細に説明する。
【0027】
図2から図4は、本発明の第1の実施形態に係るグレイン10を示している。図2に示されるように、グレイン10は、固体燃料11と隔壁12を含む。図2から図4に示されるように、グレイン10は、略円柱状に形成され、その中心に燃焼空間Sが設けられている。また、図4では、円柱状のグレイン10の中心軸を符号Aで示し、半径方向を符号Rで示し、周方向を符号Cで示している。
【0028】
固体燃料11は、グレイン10の半径方向Rに見たときに、複数層に亘って積層されている。そして、この半径方向Rにおける固体燃料11の各層を隔てるために隔壁12が設けられている。本発明に係るグレイン10は、このような隔壁12により隔てられた固体燃料11の多層構造を基本的構成とするものである。
【0029】
固体燃料11の材料は、例えばハイブリッドロケットで一般的に用いられている炭化水素系ポリマー等を採用すればよい。例えば、固体燃料11としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。その他、固体燃料11としては、例えば、末端水酸基ポリブタジエン及び末端カルボキシル基ポリブタジエン等のポリブタジエン系樹脂; ポリエステル型ポリウレタン及びポリエーテル型ポリウレタン等のポリウレタン系樹脂; ポリ乳酸及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂; アクリロニトリルホモポリマー及びアクリロニトリルコポリマー等のポリアクリロニトリル系樹脂; ポリ塩化ビニル樹脂; ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂; ポリイソブチレン; エポキシ樹脂; パラフィンなどを用いることも可能である。また油脂とアミノ酸系ゲル化剤との組み合わせ、エタノールと酢酸カルシウムとの組み合わせを使用することもできる。
【0030】
固体燃料11の各層の厚みは、適宜調整することが可能であるが、後述する平板状シート13や波状シート14よりは厚くすることが好ましい。例えば、固体燃料11の各層の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.25mm以上、0.5mm以上、又は1mm以上であってもよい。また、固体燃料11の各層の厚みの上限は、200mm以下であることが好ましく、150mm以下、20mm以下、15mm以下、5mm以下又は3mm以下であってもよい。詳細には、固体燃料11の形態によって好ましい厚みは異なり、例えば固体燃料11がシート状の場合、各層の厚みは0.1mm以上であることが好ましく、0.25mm以上がより好ましい。また片段シートと共に巻回しやすいことから、固体燃料11の各層の厚みの上限は5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。固体燃料11が棒状の場合、細すぎる棒状燃料を多数使用せずに済むことから、各層の厚みは0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上がより好ましい。また固体燃料11の各層の厚みの上限は20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましい。一方、流動性のある固体燃料11の材料を隔壁12の間に流し込んだ後、固化させて使用する場合、各層の厚みは0.1mm以上であることが好ましく、0.25mm以上がより好ましい。また固体燃料11の各層の厚みの上限は200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがより好ましい。
【0031】
隔壁12の構造は、図3に詳細に示している。隔壁12は、片段シートにより構成されている。この片段シートは、平板状シート13と波状シート14を両者の接触点15において接合した構造を持つ。接触点15では、接着剤を塗布することにより平板状シート13と波状シート14を接合することとしてもよいし、ヒートシール加工により平板状シート13と波状シート14を局所的に加熱することによって溶融させて接合することとしてもよい。
【0032】
隔壁12を構成する片段シートにおいて、平板状シート13と波状シート14は、その接触点15において接合されているものの、それ以外の部分的では乖離している。このため、平板状シート13と波状シート14の間には空隙Vが形成されることとなる。また、波状シート14は、周期的に起伏を繰り返しており、その片面に平板状シート13が貼り合わされている。このため、片段シートは、平板状シート13と波状シート14の接触点15(接合部分)に谷部14aが形成され、平板状シート13と波状シート14が剥離している部分に山部14bが形成されたものとなる。
【0033】
また、図3では、平板状シート13の厚みを符号Tで示し、波状シート14の厚みを符号Tで示している。平板状シート13の厚みTと波状シート14の厚みTは、片段シートに固体燃料11の間の隙間を維持できる程度の十分な強度を与えることを考慮すると、それぞれ、例えば0.05mm以上、0.07mm以上、0.1mm以上、0.15mm以上、0.2mm以上、又は0.25mm以上であることが好ましい。一方、各シート13,14が厚すぎると片段シートの加工や製造が難しくなることから、各シート13,14の厚みT,Tは、それぞれ1mm未満であることが好ましく、具体的には0.9mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、0.6mm以下、又は0.5mm以下であることが好ましい。なお、平板状シート13と波状シート14の厚みは同じでもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0034】
また、図3では、波状シート14と平板状シート13の接触点15(接合部分)の間隔を符号Pで示している。波状シート14は、一定の周期で起伏していることから、間隔Pも基本的には一定である。間隔Pは、特に制限されず、グレイン10やそれを搭載するハイブリッドロケット100のサイズに応じて適宜調整すればよい。例えば、間隔Pは、1mm以上、2mm以上、又は3mm以上とすることができ、その上限は10mm以下、8mm以下、又は6mm以下とすればよい。
【0035】
また、図3では、波状シート14と平板状シート13の間に形成された空隙Vの高さを符号Hで示している。空隙Vの高さHも、特に制限されず、グレイン10やそれを搭載するハイブリッドロケット100のサイズに応じて適宜調整すればよい。例えば、空隙Vの高さHは、0.3mm以上、0.5mm以上、又は1mm以上とすることができ、その上限は10mm、5mm以下、又は3mm以下とすればよい。
【0036】
片段シートを構成する波状シート14と平板状シート13は、それぞれ可燃性材料で形成される。各シート13,14の材料としては、例えば可燃性の紙や熱可塑性樹脂を選択できる。紙の原材料としては、広葉樹及び針葉樹等の木材や、古紙、その他麻、コウゾ、ミツマタ、竹等の植物性繊維を用いることができる。また、各シート13,14を形成する熱可塑性樹脂としては、前述した固体燃料11と同様に、ポリオレフィン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリイソブチレン、エポキシ樹脂、及びパラフィン等の炭化水素系ポリマーを用いればよい。なお、波状シート14と平板状シート13は、同種の材料からなるものであってもよいし、異なる材料からなるものであってもよい。また、隔壁12を構成する片段シートと固体燃料11を同じ材料で形成することも可能であるが、異なる材料で形成してもよい。
【0037】
このような片段シートは、公知の段ボールのコルゲーター(例えば特開昭58-153631号公報)を利用して容易に加工及び製造することができる。例えば平板状シート13と波状シート14を共に熱可塑性樹脂製とする場合、加熱された段ロールに樹脂製原板を掛けて波状に熱成型することにより波状シート14を得るとともに、この加熱された段ロールと平坦なプレスロールとの間に平板状シート13と波状シート14を導入して両シート13,14を熱圧着すればよい。これにより、接着剤を用いずに、平板状シート13と波状シート14が接合された片段シートを工業的に生産できる。ただし、接着剤を用いて平板状シート13と波状シート14を接着する手法を採用することも可能である。
【0038】
図2図4に示した第1の実施形態では、片段シートを巻回することにより渦巻状の隔壁12が形成されている。この隔壁12は、波状シート14が内向きとなり、平板状シート13が外向きとなるように配置されたものである。そして、この渦巻状の隔壁12の間に、固体燃料11が充填されている。これにより、グレイン10の半径方向にRに向かって、固体燃料11の層が複数形成される。本実施形態において、各層では、ある隔壁12の層の平板状シート13と次の隔壁12の層の波状シート14とに固体燃料11が密着することとなる。ただし、片段シートの波状シート14が具備する高さ方向の圧縮回復力より、固体燃料11の層間の隙間を維持できるため、固体燃料11の燃焼効率を高めて燃焼時に大きい推力を得ることができる。
【0039】
図2に示した実施形態では、固体燃料11の層は3層又は4層となっているが、固体燃料11の層の数は、グレイン10やそれを搭載するハイブリッドロケット100のサイズに応じて適宜調整することができる。例えば、固体燃料11の層の数に特に制限はないが、例えば3層以上とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るグレイン10は、例えば、巻回前の片段シート上に固体燃料11を載せて、その後、この固体燃料11を巻き込みながら片段シートを渦巻状に巻回することにより製造することができる。別の方法としては、片段シートを渦巻状に巻回した後に、片段シートがなす隔壁12の間に流動性のある固体燃料11の材料を流し込んで、その後固体燃料11の材料を固化させることによってもグレイン10を製造することができる。
【0041】
また、図4の斜視図に示されているように、本実施形態に係るグレイン10では、隔壁12をなす片段シートの平板状シート13と波状シート14の接触点15(接合部分)は、グレイン10の中心軸Aと平行に延びるように直線状に形成されている。このように接触点15をグレイン10の中心軸Aと平行にすることが、片段シートの構造上、片段シートを渦巻状に最も加工しやすい方法である。
【0042】
続いて、本発明に係るグレイン10の別の実施形態について説明する。別の実施形態に関しては、前述した第1の実施形態と異なる点を中心に説明を行う。別の実施形態には、前述した第1の実施形態と同じ要素には同じ符号を付すことでその詳細については割愛する。
【0043】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るグレイン10の断面構造を示している。第2の実施形態に係るグレイン10は、隔壁12の構造は第1の実施形態と共通しているが、固体燃料11の層構造が第1の実施形態と異なる。すなわち、図2に示されるように、第2の実施形態では、複数の棒状(特に円柱状)の固体燃料11を採用している。このような棒状の固体燃料11を隔壁12の間に挿入して並べることで、固体燃料11の層を形成している。
【0044】
より具体的に説明すると、棒状の固体燃料11は、隔壁12をなす片段シートのうち、2つの山部14bの間の谷部14aに配置されている(図3参照)。このように、片段シートの谷部14aに固体燃料11を差し込むことで、グレイン10完成後に固体燃料11の位置にずれが生じることを防止できる。
【0045】
なお、図5に示した実施形態では、片段シートのほぼ全ての谷部14aに棒状の固体燃料11を配置しているが、必ずしもそのようにする必要はない。例えば、固体燃料11を配置した谷部14aと固体燃料11が配置されていない谷部14aが交互となるようにしてもよい。また、層ごとに、固体燃料11を配置する谷部14aの割合を変化させることも可能である。例えば、グレイン10の中心寄りの層では固体燃料11を配置する谷部14aの割合を高くし、グレイン10の外周寄りの層では固体燃料11を配置する谷部14aの割合を低くすることもできる。
【0046】
図6は、本発明の第3の実施形態に係るグレイン10の隔壁12の断面構造を示している。なお、図6では、固体燃料11の図示を省略しているが、第3の実施形態では、図2に示した隔壁12の間に固体燃料11を充填する方法と、図5に示した隔壁12の間に棒状の複数の固体燃料11を差し込む方法のどちらを採用することとしてもよい。
【0047】
図6に示されるように、第3の実施形態では、片段シートを渦巻状に巻回するのではなく、まず、片段シートによって構成された複数の円筒を用意する。複数の円筒は、それぞれ直径が異なっており、大きい直径の円筒の中に小さい直径の円筒を配置する。このとき、片段シートにより構成された複数の円筒は同心円状に配置される。このようにして、複数の筒状の片段シートにより複数層に渡る隔壁12を形成することができる。
【0048】
さらに、第3の実施形態では、グレイン10の周方向Cに固体燃料11の収納空間を区画するために、半径方向Rに沿って形成された可燃性の仕切り壁16がさらに設けられている。このような仕切り壁16を設けることで、円筒状の隔壁12同士の間隔も保つことができる。図6に示した例において、各仕切り壁16は、単純な平板状に形成されている。ただし、仕切り壁16は、隔壁12と同様に片段シートにより形成することも可能である。仕切り壁16の可燃性材料としては、例えば片段シートをなす平板状シート13や波状シート14と同様の材料を採用すればよい。
【0049】
なお、図6に示した例では、5つの円筒状の片段シート(隔壁12)により固体燃料11を収納するための層が4層形成されおり、各層に配置された仕切り壁16が一直線上に並んでいる。ただし、各層の仕切り壁16の配置はこれに限定されず、例えば、仕切り壁16は層ごとに左右にずらして配置されていてもよい。また、図6に示した例では、各層に配置された仕切り壁16の数が同じ(具体的には12枚)であるが、各層の仕切り壁16の数は異なっていてもよい。例えば、固体燃料11の収納空間の大きさを統一するために、内側の層では仕切り壁16の数を少なくし、外側の層では仕切り壁16の数を多くすることも可能である。
【0050】
図7は、本発明の第4の実施形態に係るグレイン10の隔壁12の斜視図を示している。なお、図7でも、固体燃料11の図示を省略しているが、第4の実施形態では、図2に示した隔壁12の間に固体燃料11を充填する方法と、図5に示した隔壁12の間に棒状の複数の固体燃料11を差し込む方法のどちらも採用することができる。
【0051】
図7図4を比較すると分かり易いが、図7に示した第4の実施形態では、図4に示した第1の実施形態と異なり、隔壁12をなす片段シートの平板状シート13と波状シート14の接触点15(接合部分)が、グレイン10の中心軸Aに対して所定角度θで傾いている。中心軸Aに対して接触点15が傾斜する角度θは、5~35度とすることが好ましい。このように接触点15を傾斜させることで、平板状シート13と波状シート14の間の空隙Vも接触点15と平行に傾斜する。これにより、固体燃料11の燃焼時に燃焼空間S内に燃焼ガスの旋回流を発生させることができ、固体燃料11を均一に燃焼させることができる。また、燃焼ガスを旋回させることで、燃焼ガスの噴射方向が安定し、得られる推力も安定する。
【0052】
また、図7に示した第4の実施形態において、隔壁12の間に棒状の複数の固体燃料11を差し込む場合には、この棒状の固体燃料11は、平板状シート13と波状シート14の接触点15に沿って配置することが好ましい。すなわち、棒状の固体燃料11も、接触点15とともに、グレイン10の中心軸Aに対して所定角度θで傾斜した状態で隔壁12の間に差し込まれることとなる。
【0053】
図8は、本発明の第5の実施形態に係るグレイン10の隔壁12の断面構造を示している。図8でも、固体燃料11の図示を省略しているが、第5の実施形態では、図2に示した隔壁12の間に固体燃料11を充填する方法と、図5に示した隔壁12の間に棒状の複数の固体燃料11を差し込む方法のどちらも採用することができる。
【0054】
図8に示されるように、第5の実施形態における隔壁12は、略円筒状のグレイン10に、第1の燃焼空間S1と第2の燃焼空間S2を形成するように設計されている。すなわち、図8に示した例において、隔壁12は、第1から第5の片段シート12(a)~12(e)により構成されている。第1の片段シート12(a)は、グレイン10の外周を形成するように渦巻状に巻回される。第2の片段シート12(b)は、第1の片段シート12(a)の内側に配置され、第1の燃焼空間S1を形成するように渦巻状に巻回される。第3の片段シート12(c)は、第1の片段シート12(a)の内側に配置され、第2の燃焼空間S2を形成するように渦巻状に巻回される。なお、図示した例では、第1の燃焼空間S1と第2の燃焼空間S2はほぼ等しい直径とされているが、これらの空間S1,S2の直径を異ならせることもできる。また、第4及び第5の片段シート12(d),12(e)は、第1の片段シート12(a)の内側に配置され、第1の片段シート12(a)と第2及び第3の片段シート12(b),12(c)との間の隙間を埋めるように、適当な部位で折り曲げたり湾曲させたりした形状となっている。このように、複数の片段シート12(a)~12(e)を用いて、隔壁12を形成することも可能である。
【0055】
なおここまで、片段構造の隔壁12を使用して、固体燃料11の層間に空隙Vを形成することにより、固体燃料11の燃焼効率を高めたグレイン10について説明してきたが、固体燃料の選択の仕方によっては、空隙V中にも固体燃料が充填されているにも関わらず、高い燃焼効率を有するグレインを得ることができる。具体的には、例えば図3、6、7及び8に記載の、片段シート巻回物または円筒状物の組合せに、流動性のある固体燃料11の材料を含浸させ、その後固体燃料11の材料を固化させることにより、グレイン10を製造する。この場合には、図3に示した空隙Vに相当する領域にも、固体燃料が充填される。
【0056】
流動性のある固体燃料としては、前述した固体燃料11のうち、例えばエポキシ樹脂、ワックスに代表されるパラフィン、油脂とアミノ酸系ゲル化剤との組み合わせ、エタノールと酢酸カルシウムとの組み合わせ等が挙げられる。これらのうち、ワックスに代表されるパラフィン、油脂とアミノ酸系ゲル化剤との組み合わせ、及びエタノールと酢酸カルシウムとの組み合わせは、いずれも波状シート14及び平板状シート13の材料として前述したものより低い融点を有する。例えば片段シートとして熱可塑性樹脂からなるシートを用い、固体燃料11として、片段シートより低い融点を有する可燃性材料を使用した場合、グレイン10の燃焼時に片段シートが溶融して穴が空き、そこから可燃性ガス、すなわち液状化した固体燃料11が燃焼空間に噴出することにより、燃焼を促進し、後退速度が上昇する。またエポキシ樹脂、油脂とアミノ酸系ゲル化剤との組み合わせ、及びエタノールと酢酸カルシウムとの組み合わせは、いずれも波状シート14及び平板状シート13の材料として前述したものより酸素含有量が多い。例えば片段シート中の酸素含有量より固体燃料11中の酸素含有量が高い場合は、燃焼が進むことによりグレイン11中の酸素供給量が増加することになるので、後退速度がより上昇するため好ましい。酸素含有量については後述する。
【0057】
なお、流動性のある固体燃料11の材料を隔壁12の間に含浸させた後、固化させて使用する場合、固体燃料11層の厚みは0.1mm以上であることが好ましく、0.25mm以上がより好ましい。また固体燃料11の各層の厚みの上限は200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがより好ましい。
【0058】
図9は、2つの燃焼空間S1,S2が設けられたグレイン10を模式的に示している。図9(a)に示した例では、2つの燃焼空間S1,S2が、それぞれグレイン10の中心軸と平行に直線状に延びている。一方、図9(b)に示した例では、2つの燃焼空間S1,S2が、それぞれ螺旋状に伸びており、これらの燃焼空間S1,S2によって二重螺旋が形成されている。なお、図9(b)では、グレイン10の天面と下面における燃焼空間S1,S2の位置関係に加えて、それらの間の2つの切断面における燃焼空間S1,S2の位置関係を模式的に表している。このように、グレイン10の燃焼空間S1,S2は直線状に限らず、螺旋状であってもよい。グレイン10の燃焼空間S1,S2を螺旋状とすることで、燃焼ガスの旋回流を発生させることができる。
【0059】
図10は、本発明に係るグレイン10の変形例を示している。図10に示した変形例は、前述した第1から第5の実施形態のいずれにも適用することができる。図10(a)及び図10(b)は、グレイン10の断面構造を示している。
【0060】
図10(a)に示した変形例では、前述したグレイン10(固体燃料11と隔壁12を含むもの)の内周面に固体推進剤60がさらに積層されている。前述したとおり、グレイン10は、液体酸化剤を支燃物として燃焼するものであるが、固体推進剤60は、固体燃料と固体酸化剤をバインダーで結着させたものであり、それ単独で燃焼する。固体推進剤60を構成する固体燃料、固体酸化剤、及びバインダーはそれぞれ公知のものを採用すればよい。
【0061】
このように略円筒状のグレイン10の内周面に固体推進剤60を積層しておくことで、ロケットは2段階で推力を得ることができる。すなわち、第1段階では、固体推進剤60を単独で燃焼させることでロケットに推力を与える。固体推進剤60が燃焼し終えると、ロケットは一旦推力を失う。なお、グレイン10は単独では燃焼しないため、固体推進剤60からグレイン10に延焼することはない。その後、第2段階では、酸化剤タンク30(図1参照)からグレイン10の燃焼空間Sに液体燃料を供給し、燃焼空間Sで再び着火することで、グレイン10は燃焼を開始する。これにより、ロケットに再び推力を与えることができる。このため、例えば、地上からの打ち上げ時には固体推進剤60を燃焼させ、宇宙空間又は大気圏からの帰還時には液体酸化剤を供給してグレイン10を燃焼させるといったように、ロケットの往路と復路で燃料を切り替えることができる。
【0062】
図10(b)に示した変形例では、前述したグレイン10において、固体燃料11の各層における酸素含有率を、グレイン10の中心から外周に向かって徐々に大きくしている。図10(b)の例では、グレイン10の中心から順に、第1層10(a)、第2層10(b)、第3層10(c)、及び第4層10(d)に分けている。この場合に、各層の酸素含有率は、第1層10(a)、第2層10(b)、第3層10(c)、及び第4層10(d)の順で大きくなる。ハイブリッドロケットにおいては、グレイン10の中心の燃焼空間Sに液体酸化剤を供給してグレイン10を構成する固体燃料11を燃焼させるが、グレイン10の外周に向かうにつれて、液体酸化剤の供給量が低下する。そこで、グレイン10の外周に向かうにつれて酸素含有率を大きくすることで、液体酸化剤の不足を補うことができる。
【0063】
ここにいう「酸素含有率」とは、燃料を構成する物質中に含まれる酸素原子の含有率を質量%で表したものである。酸素原子を含む物質としては、ジグリシジル・アジド・ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタフタレート、エポキシ樹脂、セルロース、エタノール、油脂等が挙げられる。酸素含有率は元素分析法で求めることができる。元素分析法としてはたとえば1050℃、ヘリウムキャリア中の無酸素状態下で試料を燃焼させ、発生した一酸化窒素を定量する方法が挙げられる。
【0064】
以上、本願明細書では、本発明の内容を表現するために、図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0065】
10…グレイン 11…固体燃料
12…隔壁 13…平板状シート
14…波状シート 14a…谷部
14b…山部 15…接触点
16…仕切り壁 20…モーターケース
30…酸化剤タンク 40…噴射ノズル
50…火薬 100…ハイブリッドロケット
S…燃焼空間 S1…第1の燃焼空間
S2…第2の燃焼空間 V…空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10