(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087164
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】微生物固定化担体
(51)【国際特許分類】
C12N 11/084 20200101AFI20220602BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20220602BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220602BHJP
C02F 3/10 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
C12N11/084
C12N11/02
C12N1/20 F
C12N1/20 D
C02F3/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057625
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2017238690の分割
【原出願日】2017-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】善木 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】東城 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】竹下 昌利
(72)【発明者】
【氏名】中薗 智哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 愛
(57)【要約】
【課題】微生物が微生物固定化担体に付着し易く、且つ、微生物固定化担体の製造コストや微生物固定化担体を用いた装置のランニングコストを低減することができる微生物固定化担体を提供する。
【解決手段】炭素成分と樹脂とを含み、ゼータ電位が-25mV以上0mV以下であり、且つ、表面および/または内部に微生物が付着されていることを特徴とするものであり、上記微生物が硝化菌群であることが望ましく、上記炭素成分の粒度が1μm以上1000μm以下であることが望ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素成分と樹脂とを含み、ゼータ電位が-25mV以上0mV以下であり、且つ、表面および/または内部に微生物が付着されていることを特徴とする微生物固定化担体。
【請求項2】
上記微生物が硝化菌群である、請求項1に記載の微生物固定化担体。
【請求項3】
上記炭素成分の粒度が1μm以上1000μm以下である、請求項1又は2に記載の微生物固定化担体。
【請求項4】
上記炭素成分は黒鉛である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微生物固定化担体。
【請求項5】
上記黒鉛が等方性黒鉛である、請求項4に記載の微生物固定化担体。
【請求項6】
上記炭素成分の割合が50重量%以上75重量%以下であり、上記樹脂の割合が20重量%以上40重量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微生物固定化担体。
【請求項7】
内部に連続した気孔を有し、この気孔の径が1μm以上1000μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の微生物固定化担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素成分と樹脂を含む微生物固定化担体に関し、特に生化学的に排水処理を行う際に微生物を付着させた微生物固定化担体として用いるものである。
【背景技術】
【0002】
生活排水、産業排水、農業排水に含まれる窒素及び燐(りん)が自然界の閉鎖水域に滞留することで富栄養化の原因となっている。全国に約2200箇所存在する下水処理場のうち窒素処理が十分に行えているのは約100箇所ほどである(非特許文献1参照)。
【0003】
排水中に含まれる窒素の処理法としては触媒分解法、直接燃焼法、次亜塩素酸注入法、生物分解法などがあるが、とりわけ1~1000ppmレベルのアンモニア態窒素の分解にはコスト的にも生物分解法が活用される場合が多い。この生物分解法による排水処理は、固定化担体(以下、単に、担体と称することがある)に微生物を付着させ、排水中に含まれる有機物や窒素を微生物が分解することにより浄化する方法である。
【0004】
上記微生物を付着させる担体には、プラスチック材、無機材料、包括ゲル材料、親水性ゲル材料などが用いられている。また、上記の材料に他の材料を混合することによって、微生物固定量の増加、比重の調整、強度の向上、汎用材を用いた価格の低減などが検討されてきた。
【0005】
ところで、担体に微生物が早く付着すれば、微生物の初動分解速度が早くなるので、微生物が付着し易い担体を用いる必要がある。このため、微生物と親和性の高い材料や微生物とのエネルギー障壁の小さい材料、担体表面に親水基の多い材料などが望まれている。
【0006】
また、流動床担体は軽い材料が望まれている。担体を軽量化させることにより水中での流動性が向上し、攪拌、曝気動力を低減させることが可能だからである。さらに、気孔率の高い材料を担体に用いれば、微生物の固定化部位が多くなり、微生物数の増加も期待できる。
【0007】
加えて、生物分解による排水処理は担体を多量に使用するため、その製造コストも充分に考慮する必要がある。そのためできるだけ安価な汎用材料や廃棄材料を用いることが望ましい。
【0008】
下記特許文献1では、熱可塑性樹脂(特に、ポリプロピレン)を主成分とし、炭素、ガラスをフィラーとして0.1~5%含むものであって、フィラーサイズが50~3000μmのものが開示されている。
【0009】
また、下記特許文献2では、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンファイバー、コークス、カーボンブラック及びこれらの前駆体の中から選ばれる一種もしくは二種以上を骨材とした成形体が炭素化されてなる微生物固定化担体であり、成形体の表面積が400m2/g以下であるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-71157号公報
【特許文献2】特開昭62-296878号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日経ビジネス(2015年12月28日/2016年1月4日合併号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の微生物固定化担体では、樹脂が70質量%以上含有することが好ましいことが記載されており、樹脂リッチであることから微生物が付着しにくいという課題がある。また、炭素繊維、活性炭素繊維は担体に用いる材料としては高価であるという課題もある。
【0013】
また、特許文献2の微生物固定化担体は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンファイバー、コークス、カーボンブラック及びこれらの前駆体の中から選ばれる一種もしくは二種以上を骨材とした成形体が炭素化・黒鉛化されてなるため、担体の嵩密度は少なくとも1.3以上になると考えられ、槽内で流動させる際に大きなエネルギーが必要となり、ランニングコストが高くなるという課題がある。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、微生物が微生物固定化担体に付着し易く、且つ、微生物固定化担体の製造コストや微生物固定化担体を用いた装置のランニングコストを低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は炭素成分と樹脂とを含み、ゼータ電位が-25mV以上0mV以下であり、且つ、表面および/または内部に微生物が付着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微生物が微生物固定化担体に付着し易く、且つ、微生物固定化担体の製造コスト等を低減することができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
炭素成分と樹脂とを含み、ゼータ電位が-25mV以上0mV以下であり、且つ、表面および/または内部に微生物が付着されていることを特徴とする。
本発明において、炭素成分とはカーボンナノ材料および炭素繊維以外の炭素材料をいう。 上記構成の如く、ゼータ電位が-25mV以上0mV以下であれば、微生物のゼータ電位(例えば硝化菌群のゼータ電位は約-22~-27mV)との乖離が小さいため、相互作用し易くなって、微生物固定化担体に多数の微生物を付着することができる。また、炭素成分と樹脂との混合物であるので、微生物付着担体の製造コスト(原材料コスト)を削減できる。特に、大量の微生物付着担体を用いる排水処理プラントでは、コスト低減効果が極めて高い。
また、炭素成分は樹脂と比べて物理的強度、化学的安定性が高い。したがって、炭素成分がフィラー等として添加されていれば、水中での微生物付着担体の強度が向上する。なお、上記微生物には、下記硝化菌群等を含んでいるが、アナモックス菌群は含まれていない。
【0019】
上記微生物としては好気性のものが望ましい。好気性の微生物では曝気が必要であるが、本発明の微生物固定化担体は上記の通り、物理的強度および化学的安定性が高いことから、その利点をより発揮できる。
好気性の微生物のうち、硝化菌群であることがより望ましい。硝化菌群を用いることにより、排水処理等を円滑に達成できる。この硝化菌群としては、アンモニア酸化細菌や、亜硝酸酸化細菌が例示される。
【0020】
上記炭素成分の粒度が1μm以上1000μm以下であることが望ましく、特に、2μm以上500μm以下であることが望ましい。
このように広い粒度分布をもつ炭素成分をフィラー等として添加することでより、水中での担体の強度が向上する。また担体表面に大きさの異なる気孔が多く存在することで多種の微生物が生物膜を効率よく形成することが可能となる。炭素成分の粒度分布は2μm以上500μm以下が好ましいが、この範囲に限定するものではなく、3μm以上600μm以下、4μm以上700μm以下、1μm以上400μm以下等、1μm以上1000μm以下の範囲で幅広く分布していれば、本発明の効果を発揮できる。なお、炭素成分を幅広く分布させるためには、粒度の下限は10μm以下(上記記載をも考慮すると、粒度の下限は1μm以上10μm以下)であることが望ましく、粒度の上限は300μm以上(上記記載をも考慮すると、粒度の上限は300μm以上1000μm以下)であることが望ましい。
【0021】
上記炭素成分は黒鉛であることが望ましく、特に、等方性黒鉛であることが望ましい。炭素成分としては黒鉛、特に、等方性黒鉛であることが望ましいのは、上述した作用、効果が円滑に発揮され、且つ、安価であるので、微生物付着担体の製造コストを低減できるからである。炭素成分としては、黒鉛、活性炭、カーボンブラックなどが挙げられる。さらに黒鉛としては人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられ、前記人造黒鉛としては等方性黒鉛、異方性黒鉛が挙げられる。前記天然黒鉛としては土状黒鉛、鱗片状黒鉛等が挙げられる。なお、これらの炭素成分を粉末状あるいはペースト状として用いることが好適である。
【0022】
上記炭素成分の割合が50重量%以上75重量%以下であり、上記樹脂の割合が20重
量%以上40重量%以下であることが望ましい。
上記割合であれば、連続気孔が形成され易く、しかも水中での強度が向上するからである。このようなことを考慮すれば、炭素成分を55重量%以上70重量%以下とし、樹脂を25重量%以上35重量%以下とすることが一層好ましい。なお、炭素成分及び樹脂以外の成分としては後述する架橋剤がある。
【0023】
内部に連続した気孔を有し、この気孔の径が1μm以上1000μm以下であることが望ましい。
上記構成であれば、微生物の固定化部位が多くなるので、微生物固定化担体により多数の微生物を付着させることができる。
【0024】
(その他の事項)
(1)樹脂としては熱可塑性樹脂等であることが好ましく、この熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、塩化ビニルから選択されるいずれか1種以上のものが例示される。熱可塑性樹脂の中でも水酸基を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。水酸基を有することで親水性が高くなり、水とのなじみがよくなる。さらに、気孔形成が容易となる。水酸基を有する親水性樹脂としてはポリビニルアルコールが挙げられる。
【0025】
(2)上記水酸基を有する熱可塑性樹脂の架橋剤としてカルボキシル基および/またはアルデヒド基を有する化合物を用いることができる。当該化合物を用いることにより、熱可塑性樹脂の架橋反応が進み、より強固な成形体を作製することが可能になる。上記カルボキシル基を有する化合物としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸が好ましく、上記アルデヒド基を有する化合物としては、ホルムアルデヒドが好ましい。これらの化合物は、大量且つ安価に製作することができるからである。架橋剤を用いることにより、耐摩耗性が向上する。
【0026】
(3)微生物固定化担体は、板状、筒状、波板状、球状、中空管状、円柱状、立方体、直方体、シート状の形状を取り得る。これら形状とすることにより、微生物の付着量が十分な担体となる。
【実施例0027】
以下、第1実施例及び第2実施例について説明する。但し、以下の実施例は単なる例示であって、本発明を以下の実施例に限定するものではない。
(第1実施例)
【0028】
(実施例1)
先ず、濃度30重量%のポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社製:重合度500、けん化度86モル%以上90モル%以下であって、微生物固定化担体作製後に、担体総量に対するポリビニルアルコールの割合が30重量%となるように量的規制がなされたもの)に、炭素成分として等方性黒鉛粉末(人造黒鉛の一種、東洋炭素株式会社製、粒度:2μm以上500μm以下)65重量%、架橋剤としてのクエン酸(和光純薬工業株式会社製)5重量%を添加しペーストを得た。次に、このペーストを離型紙に厚み2mmで塗布し乾燥させた後、パンチ、金型を用いて直径5mm、厚み2mmのペレット状の成形体を得た。最後に、この成形体を150℃で18時間加熱処理して、微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体A1と称する。
【0029】
(実施例2)
炭素成分として、天然黒鉛(粒度2μm以上10μm以下)を用いた他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体A2と称する。
【0030】
(実施例3)
炭素成分として、カーボンナノチューブ(直径5μm以上100μm以下、長さ1μm以上10μm以下)を用いた他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体A3と称する。
【0031】
(比較例1)
炭素成分として、等方性黒鉛粉末(東洋炭素株式会社製、粒度:最も小さな粉末の直径が500μmを超える)を用いた他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体Z1と称する。
【0032】
(比較例2)
炭素成分として、等方性黒鉛粉末(東洋炭素株式会社製、粒度:最も大きな粉末の直径が2μm未満)を用いた他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体Z2と称する。
【0033】
(比較例3)
ポリビニルアルコールの割合を85重量%とする一方、等方性黒鉛粉末の割合を10重量%とした他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体Z3と称する。
【0034】
(比較例4)
ポリビニルアルコールの割合を10重量%とする一方、等方性黒鉛粉末の割合を85重量%とした他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体Z4と称する。
【0035】
(比較例5)
架橋剤としてリン酸を用いた他は、上記実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体Z5と称する。
【0036】
(実験)
上記担体A1~A3、Z1~Z5を用い、下記(1)水中での強度~(5)微生物固定量に関する実験を行ったので、それらの実験結果を下記表1に示す。
【0037】
(1)水中での強度
1.5Lの容器に水1Lと担体を100mLとを加えて、回転数600rpmで24時間連続して攪拌した。そして、攪拌終了後の担体の重量を測ることにより摩耗量を測定あし、下記(A)式から担体の重量減少率を算出した。そして、担体の重量減少率が0.1%未満のものを◎、0.1%以上0.3%未満のものを○、0.3%以上0.5%未満のものを△、0.5%以上のものを×とした。
【0038】
重量減少率=
[(実験後の担体重量-実験前の担体重量)/実験前の担体重量]×100・・・(A)
【0039】
(2)水中での浮遊性
担体の水中での浮遊性は目視で確認した。容器内に均一に分散した場合は◎、大方浮遊している場合を○、一部浮遊している場合を△、全て浮遊し容器内に封じ込められなかった場合を×とした。
【0040】
(3)連続気孔の観察
上記の方法で作製した成形体(担体)を走査型顕微鏡で担体表面及び断面の観察を行った(
図1参照)。連続気孔が多数存在していた場合は◎、連続気孔がある程度存在していた場合は○、連続気孔が存在していない場合は×とした。
【0041】
(4)ゼータ電位の測定
下記(i)~(iv)に示した手順で、ゼータ電位を測定した。
(i)成形体(担体)を乳鉢で粉状にした後、水50mlに当該粉状物(凝集体)1gを加えた。
(ii)薬匙で1分間攪拌後、超音波洗浄機(アズワン製超音波洗浄機ASU-10)を用いて周波数40Hz、出力240Wで5分間攪拌した。
【0042】
(iii)攪拌後すぐにディップセルに上澄み液を1ml充填し、ゼータ電位測定装置(Malvern社製Ztasizer Nano-ZS90)を用いて、波長633nmの赤色レーザーで測定した。なお、測定時のpHは7であった。また、測定は3回行い、その平均値を担体のゼータ電位とした 。
【0043】
(5)微生物固定量(担体1g当たりの標的遺伝子のコピー数)の測定
1Lの容器に無機合成排水(NH4-N 40mg/L)を原水として連続流入させて処理を行った。担体を10mL添加し、曝気しながら150日間処理運転した担体を用いて、標的菌群をアンモニア酸化細菌としたリアルタイムPCR解析を行った。その際、アンモニア酸化酵素遺伝子amoA、亜硝酸酸化細菌Nitrobacter属の有する亜硝酸酸化還元酵素遺伝子norBを標的として、担体1gあたりの菌のコピー数を調べた。DNA抽出は、MORA-EXTRACT kit(Kyokuto Pharmaceutical,Tokyo)を用いて行った。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応測定)では、プライマーをそれぞれamoA:amoA-F1,amoA-2R, norB:NxrBF1, NxrB1Rとし、スタンダードDNANitrosonas europium NBRC14298(amoA遺伝子コピー数測定用)、Nitrobacter winogradskyi SYBR(R)Premix Ex TaTM II(Takara,Shiga)、MightyAmp(R)for Real Time(Takara,Shiga)を用い、リアルタイムPCR装置はRotor-GeneTMQ (QIAGEN,Germany)を用いた。
【0044】
【0045】
(実験結果)
上記表1から明らかように、担体A1~A3のゼータ電位は-10.1mV~-9.1mVと高いのに対して、担体Z1~Z4のゼータ電位は-25mV未満と低くなっていることが認められた。
【0046】
また、担体A1~A3では、担体の表面及び断面に1~1000μmの連続した気孔が存在することが認められ、特に、担体A1では当該気孔が多数存在することが認められた。これに対して、担体Z1~Z4では、担体の表面及び断面に連続した気孔が存在しないことが認められた。
【0047】
以上のように、担体A1~A3では硝化菌とのゼータ電位の乖離が小さいため、微生物(アンモニア酸化細菌)が担体に固定化され易くなると共に、連続した気孔が多数存在するので、微生物の固定化部位が多くなる。これらのことから、担体A1~A3では、微生物固定量(担体1g当たりの標的遺伝子のコピー数)が1.9×109であって、多数の微生物が固定化されていることがわかった。これに対して、担体Z1~Z4では硝化菌とのゼータ電位の乖離が比較的大きい為、微生物が担体に固定化され難くなると共に、連続した気孔が存在しないので、微生物の固定化部位が少なくなる。これらのことから、担体Z1~Z3では、微生物固定量が1.9×108であって、微生物が余り固定化されていないことがわかった。なお、担体Z4、Z5では、強度が低いために崩壊してしまい、微生物固定量が測定できなかった。
【0048】
更に、担体A1~A3では強度(水中での接触強度)が高く、特に、担体A1では強度が極めて高くなっていることが認められた。これに対して、担体Z3では強度が高いものの、担体Z1、Z2、Z4、Z5では強度が低く、特に、担体Z4、Z5では強度が極めて低くなっていることが認められた。
加えて、担体A1~A3では浮遊性が高く、特に、担体A1では浮遊性が極めて高くなっていることが認められた。これに対して、担体Z1~Z3では浮遊性が高いものの、担体Z4では浮遊性が低くなっていることが認められた。
【0049】
ここで、担体Z2で用いた天然黒鉛は金属不純物の量が多く、また、担体Z3で用いたカーボンナノチューブは人造黒鉛と比べると非常に高価である。したがって、担体に用いる炭素成分としては、担体Z1で用いた等方性黒鉛(人造黒鉛)が最適である。ただし、単に等方性黒鉛を用いるだけではなく、以下のことも考慮すべきである。等方性黒鉛を用いても、全ての等方性黒鉛の粒径が大き過ぎたり、小さ過ぎたりすると、強度や浮遊性が低下し、連続気孔が形成されず、しかも微生物が担体に固定化され難くなる(担体A1と担体Z1、Z2との比較)。したがって、全ての等方性黒鉛の粒径が大き過ぎたり、小さ過ぎたりするのは好ましくない。
【0050】
また、親水基の多いポリビニルアルコールの割合が多くなり過ぎると、強度は向上するものの、ゼータ電位が低下し、連続気孔が形成されず、しかも、微生物が担体に固定化され難くなる(担体Z3参照)。一方、ポリビニルアルコールの割合が少なくなり過ぎると、ゼータ電位は若干高くなるものの、強度や浮遊性が著しく低下し、連続気孔が形成されなかった。また、水中に投入後すぐに崩壊したため、微生物固定量を測定できなかった(担体Z4参照)。以上のことを考慮すれば、ポリビニルアルコールの割合は、20~40重量%であることが望ましい。
なお、架橋剤にリン酸を使用すると、架橋反応が充分に進んでいなかったため、強度が小さいこと以外は実験で判明しなかった。
【0051】
(第2実施例)
(実施例1)
前記第1実施例の実施例1に示したペーストを、泡立て器で混合した後、絞りで棒状に絞出し、150℃で18時間加熱処理を行った。その後、5~10mm角サイズのペレット状に切断して、微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体B1と称する。
【0052】
(実施例2)
ペースト作製時に、造孔剤としてでんぷん(和光純薬製 型番196-13185)を、ポリビニルアルコール:でんぷん=5:1の重量比となるように添加すること、および、ペレット状に切断した後に、90℃のお湯で5時間洗浄し、造孔剤であるでんぷんを除去したこと以外は、上記第2実施例の実施例1と同様にして微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体B2と称する。
【0053】
(実施例3)
第1実施例の実施例1に示したペーストにおいて、架橋剤であるクエン酸に変えてホルムアルデヒド(和光純薬製 型番064-00406)をポリビニルアルコール:ホルムアルデヒド=2:1の重量比で用い、さらに造孔剤としてでんぷんをポリビニルアルコール:でんぷん=5:1の重量比となるように添加してペーストを得た。次に、このペーストをビーカーに入れ、60℃で22時間硬化処理した後、試料を蒸留水で洗浄した。さらに90℃のお湯で5時間洗浄し、造孔剤であるでんぷんを除去した。その後、5~10mm角サイズのペレット状に切断して、微生物固定化担体を作製した。
このようにして作製した微生物固定化担体を、以下、担体B3と称する。
【0054】
(実験)
前記担体A1及び上記担体B1~B3を用い、下記(1)ゼータ電位の測定~(7)担体1g当たりの標的遺伝子のコピー数の測定に関する実験を行ったので、それらの実験結果を下記表2に示す。
【0055】
(1)嵩密度
乾燥したサンプル30gを秤量し、これを500mLのビーカーに投入した後、100回タッピングを行った。このタッピング後に体積を測定することにより、嵩密度を算出した。
【0056】
(2)吸水率
乾燥したサンプル(各担体)30gを秤量して500mLのビーカーに投入した後、当該ビーカーに水を300mL投入した。次に、ビーカー内で両者をよく撹拌した後、24時間静置し、さらに、軽く水切りをして重量を測定した。そして下記(B)式から吸水率を算出した。
吸水率=[(実験後の担体重量-実験前の担体重量)/実験前の担体重量]×100・・・(B)
【0057】
(3)膨潤率
吸水率測定後のサンプルを500mLのビーカーに投入し、100回タッピングした後の体積を測定した。そして下記(C)式から膨潤率を算出した。
膨潤率=[1+(実験後の担体体積-実験前の担体体積)/実験前の担体体積]×100・・・(C)
【0058】
(4)耐久性
膨潤率測定後のサンプルを3Lのビーカーに投入した後、ビーカーに水を2.5L投入した。次に、攪拌翼を2Lの高さ(ビーカーの底壁から約2/3の高さの部位)に設置し、300rpmで24時間攪拌した。攪拌前後の重量を測定し、下記(D)式から耐久性(重量維持率)を算出した。
重量維持率=(撹拌後の重量/撹拌前の重量)×100・・・(D)
【0059】
(5)沈降性
乾燥したサンプル(各担体)を水中に24時間静置後、ビーカーの底に沈んでいるサンプルの割合を調べた。具体的には、下記(E)式から算出した。
沈降性=(ビーカーの底に沈んでいるサンプル重量/全サンプル重量)×100・・・(E)
(6)ゼータ電位
前記第1実施例の実験で示した方法と同様の方法で測定した。
(7)担体1g当たりの標的遺伝子のコピー数の測定
前記第1実施例の実験で示した方法と同様の方法で測定した。
【0060】
【0061】
上記表2から明らかように、担体B1は担体A1に比べて、嵩密度が小さくなると共に、吸水率が高くなっていることが認められる。これは、担体B1の作製で示したように、ペーストを泡立て器で混合した後、絞りでペレットを作れば、担体内に孔が多数形成されることによると考えられる。但し、担体B1では膨潤率が低く、耐久性が低下した。また、沈降性が低くなった。
【0062】
また、担体B1に対して造孔剤であるでんぷんを使用した担体B2では、担体B1に比べて、嵩密度、膨潤率、耐久性、沈降性が高くなった。また、吸水率は低下した。
【0063】
更に、担体B2に対して架橋剤をホルムアルデヒドに変更するとともに架橋剤の添加量を増量(PVA及び等方性黒鉛粉末は減量)させた担体B3では、担体B2に比べて、吸水率が非常に高くなっていることが認められる。なお、担体B2に比べて嵩密度は若干低くなるものの、膨潤率、柔軟性、沈降性は同等であった。
更に、担体B2に対して架橋剤をホルムアルデヒドに変更するとともに架橋剤の添加量を増量(PVA及び等方性黒鉛粉末は減量)させた担体B3では、担体B2に比べて、吸水率が非常に高くなっていることが認められる。なお、担体B2に比べて嵩密度は若干低くなるものの、膨潤率、耐久性、沈降性は同等であった。