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特開2022-87372仮撚加工機用ヒーター塗布剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087372
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】仮撚加工機用ヒーター塗布剤
(51)【国際特許分類】
D01F 11/04 20060101AFI20220606BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
D01F11/04
D02J1/22 301C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199276
(22)【出願日】2020-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】坪田 英里
(72)【発明者】
【氏名】早川 秀弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴之
【テーマコード(参考)】
4L036
4L038
【Fターム(参考)】
4L036MA05
4L036MA26
4L036MA33
4L036PA05
4L036PA07
4L036PA14
4L036PA18
4L038AA08
4L038BA13
4L038BA15
4L038DA20
(57)【要約】
【課題】仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れることを抑制し得る、仮撚加工機用ヒーター塗布剤の提供。
【解決手段】脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項2】
前記仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して、前記脂肪酸エステル(A)及び前記鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有する請求項1に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項3】
前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項4】
前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項5】
前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有し、且つ、前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項6】
更に、界面活性剤(C)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を、仮撚加工機のヒーターに塗布することを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
【請求項8】
前記ヒーターが接触型ヒーターである請求項7に記載の仮撚加工糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮撚加工機において糸がヒーターから外れることを抑制することを目的として、ヒーターに塗布する仮撚加工機用ヒーター塗布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣類の多様化、ファッション化の傾向は益々進行し、中でも、適度の伸縮性や嵩高さがあり、良好な風合いにより身体に気持ちよくフィットするスポーツ用衣類や婦人用ファンデーション衣類など機能性ウェアに対する要望が高くなっている。この機能性ウェアの製造には、仮撚加工糸は不可欠なものである。
一般に、仮撚加工糸(Draw Textured Yarn;以下、DTYということがある。)は、合成繊維用処理剤を付与して部分延伸糸(Partially Oriented Yarn;以下、POYということがある。)である合成繊維フィラメント糸条を生産した後、仮撚装置の加熱装置(ヒーター)により合成繊維フィラメント糸条を加熱し、同時にフィラメント糸条に撚りを与えながら延伸することにより得られる。部分延伸糸(POY)に付与される合成繊維用処理剤は、特に乳化剤や制電剤等に工夫がなされ、ヒーター汚れ、毛羽糸切れ、静電気発生を抑制する設計がなされてきた(例えば、特許文献1、2等)。
しかしながら、このような合成繊維用処理剤が付与された部分延伸糸(POY)でも、加熱装置(ヒーター)から合成繊維フィラメント糸条が外れる又はズレてしまい、毛羽糸切れが発生するほか、加熱不足及び糸道のズレにより十分な撚りや延伸が出来ないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-042208号公報
【特許文献2】特開平11-315480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れることを抑制し得る、仮撚加工機用ヒーター塗布剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、仮撚加工機のヒーター部分に特定の成分を塗布することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れることを抑制出来ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
2.前記仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して、前記脂肪酸エステル(A)及び前記鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有する1.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
3.前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有する1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
4.前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
5.前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有し、且つ、前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
6.更に、界面活性剤(C)を含有する1.~5.のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
7.1.~6.のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を、仮撚加工機のヒーターに塗布することを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
8.前記ヒーターが接触型ヒーターである7.に記載の仮撚加工糸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる、すなわち「糸外れ」を抑制し、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られるという効果を発揮する。
また、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、短時間で仮撚加工機のヒーター上に拡がる拡展性にも優れているため、給油作業が短時間で完了するほか、給油直後でも仮撚加工機を稼働させることが出来、しかも、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーター上に均一に付着させて「糸外れ」を抑制する効果を高めることが出来るため、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有する仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<脂肪酸エステル(A)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その1態様として、脂肪酸エステル(A)を必須成分として含有するものである。
本発明における脂肪酸エステル(A)は、脂肪族炭化水素の1価若しくは多価アルコールと、脂肪族炭化水素の1価若しくは多価カルボン酸である脂肪酸のカルボキシル基が、エステル結合した化合物であれば何れでも良い。具体的には、(1)ブチルラウラート、ブチルステアラート、オクチルパルミタート、オクチルステアラート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソペンタコサニルイソステアラート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカノアート、トリメチロールプロパンモノオレアートモノラウラート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオレアート、ひまし油等の天然油脂等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル、(3)アジピン酸ジラウリル、アゼライン酸ジオレイル等の、脂肪族1価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル等が挙げられる。これらを、1種または2種以上併用してもよい。
中でも、本発明における脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」をより抑制することが出来る。
【0010】
<鉱物油(B)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その1態様として、地下資源由来の炭化水素化合物である鉱物油(B)を必須成分として含有するものである。具体的には、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することが出来る。これらを、1種または2種以上併用してもよい。
中でも、本発明における鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」をより抑制することが出来る。ここで、レッドウッド秒は鉱物油の粘度を表し、容器の底部にある細孔を閉じて容器内の一定の高さまで試料を入れ、試験温度である30℃に達したところで孔を開いて試料を落下させ、50cm3の試料が落ちるのに要する時間(秒)を意味する。
【0011】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有すれば良く、脂肪酸エステル(A)を含有する態様、鉱物油(B)を含有する態様、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)を含有する態様、何れの態様でも良い。
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、当該ヒーター塗布剤の全質量に対して、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有することが、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する点において好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、70重量%以上含有することがさらに好ましい。
【0012】
<界面活性剤(C)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、さらに界面活性剤(C)を含有してもよい。含有し得る界面活性剤(C)としては、非イオン性界面活性剤(c1)、アニオン性界面活性剤(c2)、カチオン性界面活性剤(c3)、両性界面活性剤(c4)の何れでも良いが、非イオン性界面活性剤(c1)とアニオン性界面活性剤(c2)から選択される1種以上を含有することが好ましく、中でも、非イオン性界面活性剤(c1)とアニオン性界面活性剤(c2)の両方を含有することがさらに好ましい。
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤における界面活性剤(C)の含有量は、特に制限はないが、当該ヒーター塗布剤の全質量に対して50質量%未満の範囲で含有しても良く、40質量%未満の範囲で含有することが好ましく、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する点において、30質量%未満の範囲で含有することがさらに好ましい。
【0013】
<非イオン性界面活性剤(c1)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、非イオン性界面活性剤(c1)の具体例としては、特に制限はなく、例えば、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアリルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンブロックポリマー、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンランダムポリマー、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル、(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、(ポリ)オキシアルキレン硬化ヒマシ油、(ポリ)アルキレングリコール脂肪酸エステル、(ポリ)アルキレングリコール脂肪酸エーテル等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
<アニオン性界面活性剤(c2)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、アニオン性界面活性剤(c2)の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)アルキルリン酸エステルナトリウム塩、アルキルリン酸エステルカリウム塩、アルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩、アルキルリン酸エステルトリエタノールアミン塩等のアルキル基の炭素数が4~18のアルキルリン酸エステル塩、(2)アルキルスルホン酸ナトリウム塩、アルキルスルホン酸カリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸カリウム塩等の炭素数5~30のスルホン酸塩、(3)アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム等の炭素数5~30の硫酸塩、(4)カルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸カリウム塩等のカルボン酸塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<カチオン性界面活性剤(c3)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、カチオン性界面活性剤(c3)の具体例としては、特に制限はなく、例えばアミン塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリン塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
<両性界面活性剤(c4)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、カチオン性界面活性剤(c3)の具体例としては、特に制限はなく、例えばベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
<その他成分>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その他成分として、シリコーン油、酸化防止剤、防錆剤、防腐剤のほか、「糸外れ」抑制効果を見込みフッ素化合物等を配合することが出来る。その他成分の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することが出来るが、仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して20質量%未満の配合量とすることが好ましい。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することが出来る。
酸化防止剤としては、(1)1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のフェノール系酸化防止剤、(2)オクチルジフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、テトラトリデシル-4,4’-ブチリデン-ビス-(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト等のホスファイト系酸化防止剤、(3)4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート等のチオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0017】
<仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製方法>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製方法としては、特に限定はなく、構成する前記の各成分を任意の順番で添加混合することにより調製することが出来る。
【0018】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を使用する仮撚加工機としては、(1)ヒーター温度150~230℃、ヒーター長150~250cmのヒーターを装着し、合成繊維フィラメント糸条がヒータープレート上を接触しながら走行する接触型ヒーターの仮撚加工機、(2)ヒーター温度300~600℃、ヒーター長20~150cmのヒーターを装着し、合成繊維フィラメント糸条がヒータープレート上を非接触で走行する非接触型ヒーターの仮撚加工機等が挙げられる。
中でも、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する効果を発揮する点において、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、接触型ヒーターの仮撚加工機に適用することが好ましい。
【0019】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤をヒーターに塗布する方法としては、刷毛塗り、流し塗り、スプレー塗布、ローラー塗布あるいは浸漬塗布などの方法を採用出来るが、仮撚加工機用ヒーター上に形成される塗布剤層の平滑性、均一性、ヒーター面との密着性、簡便性などの点から、刷毛、ローラー、布などの塗布具に、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を含浸させて塗布する方法が好ましい。
【実施例0020】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0021】
<仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製>
・実施例1
実施例1は、オクチルパルミタート(質量平均分子量369)(A-1)のみを含有する仮撚加工機用ヒーター塗布剤である。
・実施例19
オクチルパルミタート(質量平均分子量369)(A-1)を30部、鉱物油(レッドウッド秒:800)(B-4)を60部、ポリオキシエチレン(5モル)ドデシルエーテル(c1-1)を9部、イソオクチルリン酸エステルカリウム塩(c2-1)を1部及び、ジメチルポリシロキサン(F-1)を1部、これら全てを均一に混合して実施例19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を調製した。
【0022】
・実施例2~18及び比較例1
実施例2~18の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、下記表1に示した配合で、上記実施例1又は実施例19の調製方法と同様にして調製した。比較例1は、仮撚加工機用ヒーター塗布剤をヒーターに塗布しない例である。
実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の各配合を、下記表1にまとめて示す。
なお、表1中のその他成分の「配合量*」は、脂肪酸エステル(A)、鉱物油(B)、界面活性剤(C)の合計100質量部に対する質量部を意味する。
【0023】
【0024】
表1中の各記号は、下記成分を表す。
<脂肪酸エステル(A)>
A-1:オクチルパルミタート(質量平均分子量369)
A-2:ジラウリルアジパート(質量平均分子量483)
A-3:トリメチロールプロパントリオレアート(質量平均分子量928)
A-4:ブチルラウラート(質量平均分子量256)
A-5:ペンタエリスリトールテトラオレアート(質量平均分子量1194)
上記A-1~A-3は、本発明における質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)に相当する成分である。
<鉱物油(B)>
B-1:鉱物油(レッドウッド秒:80)
B-2:鉱物油(レッドウッド秒:500)
B-3:鉱物油(レッドウッド秒:40)
B-4:鉱物油(レッドウッド秒:800)
上記B-1、B-2は、本発明における60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)に相当する成分である。
<界面活性剤(C)>
・非イオン性界面活性剤
c1-1:ポリオキシエチレン(5モル)ドデシルエーテル
・アニオン性界面活性剤
c2-1:イソオクチルリン酸エステルカリウム塩
c2-2:2-ヘキサデシルリン酸エステルトリエタノールアミン塩
c2-3:オレイン酸カリウム塩
c2-4:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩
<その他の成分>
F-1:ジメチルポリシロキサン
G-1:1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(酸化防止剤)
【0025】
<仮撚加工試験>
接触型ヒーター仮撚加工機(TMTマシナリー社製の商品名ATF-21)を使用して、下記の合成繊維用処理剤A(油剤付与量(OPU):0.4%)を付与した酸化チタン含有量0.2%のポリエチレンテレフタラートの128デシテックス36フィラメントの部分延伸糸(POY)に対し、加工速度=650m/分、延伸倍率=1.70、施撚方式=3軸デイスク外接式摩擦方式(入り側ガイドデイスク1枚、出側ガイドデイスク1枚、硬質ポリウレタンデイスク4枚)、デイスク速度/糸速度(D/Y)=1.7、加撚側ヒーター=長さ2mで表面温度180℃、解撚側ヒーター=なし、の条件で仮撚加工を行なった。
なお、仮撚加工前に、上記接触型ヒーター仮撚加工機のヒーターに、実施例1~19の各仮撚加工機用ヒーター塗布剤を含侵させた布を使用して、ヒーター全面を塗布出来る最低限量を用いて塗布した。
<合成繊維用処理剤A>
ブチルアルコールにエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とをEO/PO=50/50(質量比)の割合でランダム状に付加した質量平均分子量2000のポリエーテルモノオールを45部、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とをEO/PO=70/30(質量比)の割合でランダム状に付加した質量平均分子量1500のポリエーテルモノオールを42部、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド(EO)を10モル付加したポリエーテルモノオールを12部、デカンスルホン酸ナトリウム塩を0.5部、ラウリルリン酸エステルカリウム塩を0.5部、これらを均一に混合して合成繊維用処理剤Aを調整した。
<糸外れ防止性の評価>
前記条件で、12錘(仮撚加工機1装置での同時仮撚加工数:12)にて10分間の仮撚加工を行い、発生した糸外れの錘数を計測した。
[評価基準]
◎:発生錘数が0~1回
○:発生錘数が2~4回
×:発生錘数が5回以上
<拡展性評価>
実施例1~19の各サンプル0.15gを45°の角度で傾斜した表面温度180℃の仮撚加工機のヒーターに垂らし、10秒間でサンプルが進んだ距離を測定した。
[評価基準]
◎:30cm以上
○:30cm未満
実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤と、比較例1に関する、「糸外れ防止性の評価」と「拡展性評価」結果を表2にまとめて示した。
【0026】
【0027】
表2に示すとおり、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の具体例である実施例1~19は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を良好に抑制することが、さらに、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られることも確認された。
また、実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、短時間で仮撚加工機のヒーター上に拡がる拡展性にも優れていることも、明らかとなった。
これに対して、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布せず、合成繊維用処理剤を付着した部分延伸糸(POY)を用いた場合には、「糸外れ」を抑制することが出来ず、「糸外れ」による毛羽糸切れが発生することも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制し、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られるため非常に有用である。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)(ただし、ミネラルスピリットを除く。)から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項2】
前記仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して、前記脂肪酸エステル(A)及び前記鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有する請求項1に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項3】
前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項4】
前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項5】
前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有し、且つ、前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する請求項1又は2に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項6】
更に、界面活性剤(C)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を、仮撚加工機のヒーターに塗布することを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
【請求項8】
前記ヒーターが接触型ヒーターである請求項7に記載の仮撚加工糸の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮撚加工機において糸がヒーターから外れることを抑制することを目的として、ヒーターに塗布する仮撚加工機用ヒーター塗布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣類の多様化、ファッション化の傾向は益々進行し、中でも、適度の伸縮性や嵩高さがあり、良好な風合いにより身体に気持ちよくフィットするスポーツ用衣類や婦人用ファンデーション衣類など機能性ウェアに対する要望が高くなっている。この機能性ウェアの製造には、仮撚加工糸は不可欠なものである。
一般に、仮撚加工糸(Draw Textured Yarn;以下、DTYということがある。)は、合成繊維用処理剤を付与して部分延伸糸(Partially Oriented Yarn;以下、POYということがある。)である合成繊維フィラメント糸条を生産した後、仮撚装置の加熱装置(ヒーター)により合成繊維フィラメント糸条を加熱し、同時にフィラメント糸条に撚りを与えながら延伸することにより得られる。部分延伸糸(POY)に付与される合成繊維用処理剤は、特に乳化剤や制電剤等に工夫がなされ、ヒーター汚れ、毛羽糸切れ、静電気発生を抑制する設計がなされてきた(例えば、特許文献1、2等)。
しかしながら、このような合成繊維用処理剤が付与された部分延伸糸(POY)でも、加熱装置(ヒーター)から合成繊維フィラメント糸条が外れる又はズレてしまい、毛羽糸切れが発生するほか、加熱不足及び糸道のズレにより十分な撚りや延伸が出来ないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-042208号公報
【特許文献2】特開平11-315480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れることを抑制し得る、仮撚加工機用ヒーター塗布剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、仮撚加工機のヒーター部分に特定の成分を塗布することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れることを抑制出来ることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)(ただし、ミネラルスピリットを除く。)から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
2.前記仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して、前記脂肪酸エステル(A)及び前記鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有する1.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
3.前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有する1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
4.前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する
1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
5.前記脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有し、且つ、前記鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有する1.又は2.に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
6.更に、界面活性剤(C)を含有する1.~5.のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤。
7.1.~6.のいずれか一項に記載の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を、仮撚加工機のヒーターに塗布することを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
8.前記ヒーターが接触型ヒーターである7.に記載の仮撚加工糸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる、すなわち「糸外れ」を抑制し、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られるという効果を発揮する。
また、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、短時間で仮撚加工機のヒーター上に拡がる拡展性にも優れているため、給油作業が短時間で完了するほか、給油直後でも仮撚加工機を稼働させることが出来、しかも、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーター上に均一に付着させて「糸外れ」を抑制する効果を高めることが出来るため、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有する仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<脂肪酸エステル(A)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その1態様として、脂肪酸エステル(A)を必須成分として含有するものである。
本発明における脂肪酸エステル(A)は、脂肪族炭化水素の1価若しくは多価アルコールと、脂肪族炭化水素の1価若しくは多価カルボン酸である脂肪酸のカルボキシル基が、エステル結合した化合物であれば何れでも良い。具体的には、(1)ブチルラウラート、ブチルステアラート、オクチルパルミタート、オクチルステアラート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソペンタコサニルイソステアラート等の脂肪族1価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカノアート、トリメチロールプロパンモノオレアートモノラウラート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオレアート、ひまし油等の天然油脂等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル、(3)アジピン酸ジラウリル、アゼライン酸ジオレイル等の、脂肪族1価アルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル等が挙げられる。これらを、1種または2種以上併用してもよい。
中でも、本発明における脂肪酸エステル(A)として、質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)を含有することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」をより抑制することが出来る。
【0010】
<鉱物油(B)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その1態様として、地下資源由来の炭化水素化合物である鉱物油(B)を必須成分として含有するものである。具体的には、芳香族系
炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することが出来る。これらを、1種または2種以上併用してもよい。
中でも、本発明における鉱物油(B)として、60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)を含有することにより、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」をより抑制することが出来る。ここで、レッドウッド秒は鉱物油の粘度を表し、容器の底部にある細孔を閉じて容器内の一定の高さまで試料を入れ、試験温度である30℃に達したところで孔を開いて試料を落下させ、50cm3の試料が落ちるのに要する時間(秒)を意味する。
【0011】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを含有すれば良く、脂肪酸エステル(A)を含有する態様、鉱物油(B)を含有する態様、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)を含有する態様、何れの態様でも良い。
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、当該ヒーター塗布剤の全質量に対して、脂肪酸エステル(A)及び鉱物油(B)から選ばれる少なくとも1つを、少なくとも50質量%以上含有することが、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する点において好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、70重量%以上含有することがさらに好ましい。
【0012】
<界面活性剤(C)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、さらに界面活性剤(C)を含有してもよい。含有し得る界面活性剤(C)としては、非イオン性界面活性剤(c1)、アニオン性界面活性剤(c2)、カチオン性界面活性剤(c3)、両性界面活性剤(c4)の何れでも良いが、非イオン性界面活性剤(c1)とアニオン性界面活性剤(c2)から選択される1種以上を含有することが好ましく、中でも、非イオン性界面活性剤(c1)とアニオン性界面活性剤(c2)の両方を含有することがさらに好ましい。
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤における界面活性剤(C)の含有量は、特に制限はないが、当該ヒーター塗布剤の全質量に対して50質量%未満の範囲で含有しても良く、40質量%未満の範囲で含有することが好ましく、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する点において、30質量%未満の範囲で含有することがさらに好ましい。
【0013】
<非イオン性界面活性剤(c1)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、非イオン性界面活性剤(c1)の具体例としては、特に制限はなく、例えば、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアリルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンブロックポリマー、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンランダムポリマー、(ポリ)オキシエチレン-(ポリ)オキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル、(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、(ポリ)オキシアルキレン硬化ヒマシ油、(ポリ)アルキレングリコール脂肪酸エステル、(ポリ)アルキレングリコール脂肪酸エーテル等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
<アニオン性界面活性剤(c2)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、アニオン性界面活性剤(c2)の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)アルキルリン酸エステルナトリウム塩、
アルキルリン酸エステルカリウム塩、アルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩、アルキルリン酸エステルトリエタノールアミン塩等のアルキル基の炭素数が4~18のアルキルリン酸エステル塩、(2)アルキルスルホン酸ナトリウム塩、アルキルスルホン酸カリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸カリウム塩等の炭素数5~30のスルホン酸塩、(3)アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸カリウム等の炭素数5~30の硫酸塩、(4)カルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸カリウム塩等のカルボン酸塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<カチオン性界面活性剤(c3)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、カチオン性界面活性剤(c3)の具体例としては、特に制限はなく、例えばアミン塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、イミダゾリン塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
<両性界面活性剤(c4)>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤に配合し得る、カチオン性界面活性剤(c3)の具体例としては、特に制限はなく、例えばベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
<その他成分>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、その他成分として、シリコーン油、酸化防止剤、防錆剤、防腐剤のほか、「糸外れ」抑制効果を見込みフッ素化合物等を配合することが出来る。その他成分の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することが出来るが、仮撚加工機用ヒーター塗布剤の全質量に対して20質量%未満の配合量とすることが好ましい。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することが出来る。
酸化防止剤としては、(1)1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ハイドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のフェノール系酸化防止剤、(2)オクチルジフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、テトラトリデシル-4,4’-ブチリデン-ビス-(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト等のホスファイト系酸化防止剤、(3)4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート等のチオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0017】
<仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製方法>
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製方法としては、特に限定はなく、構成する前記の各成分を任意の順番で添加混合することにより調製することが出来る。
【0018】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を使用する仮撚加工機としては、(1)ヒーター温度150~230℃、ヒーター長150~250cmのヒーターを装着し、合成繊維フィラメント糸条がヒータープレート上を接触しながら走行する接触型ヒーターの仮撚加工機、(2)ヒーター温度300~600℃、ヒーター長20~150cmのヒーターを装着し、合成繊維フィラメント糸条がヒータープレート上を非接触で走行する非接触型ヒーターの仮撚加工機等が挙げられる。
中でも、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制する効果を発揮する点において、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、接触型ヒーターの仮撚加工機に適用することが好ましい。
【0019】
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤をヒーターに塗布する方法としては、刷毛塗り、流し塗り、スプレー塗布、ローラー塗布あるいは浸漬塗布などの方法を採用出来るが、仮撚加工機用ヒーター上に形成される塗布剤層の平滑性、均一性、ヒーター面との密着性、簡便性などの点から、刷毛、ローラー、布などの塗布具に、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を含浸させて塗布する方法が好ましい。
【実施例0020】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0021】
<仮撚加工機用ヒーター塗布剤の調製>
・実施例1
実施例1は、オクチルパルミタート(質量平均分子量369)(A-1)のみを含有する仮撚加工機用ヒーター塗布剤である。
・実施例19
オクチルパルミタート(質量平均分子量369)(A-1)を30部、鉱物油(レッドウッド秒:800)(B-4)を60部、ポリオキシエチレン(5モル)ドデシルエーテル(c1-1)を9部、イソオクチルリン酸エステルカリウム塩(c2-1)を1部及び、ジメチルポリシロキサン(F-1)を1部、これら全てを均一に混合して実施例19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を調製した。
【0022】
・実施例2~18及び比較例1
実施例2~18の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、下記表1に示した配合で、上記実施例1又は実施例19の調製方法と同様にして調製した。比較例1は、仮撚加工機用ヒーター塗布剤をヒーターに塗布しない例である。
実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の各配合を、下記表1にまとめて示す。
なお、表1中のその他成分の「配合量*」は、脂肪酸エステル(A)、鉱物油(B)、界面活性剤(C)の合計100質量部に対する質量部を意味する。
【0023】
【0024】
表1中の各記号は、下記成分を表す。
<脂肪酸エステル(A)>
A-1:オクチルパルミタート(質量平均分子量369)
A-2:ジラウリルアジパート(質量平均分子量483)
A-3:トリメチロールプロパントリオレアート(質量平均分子量928)
A-4:ブチルラウラート(質量平均分子量256)
A-5:ペンタエリスリトールテトラオレアート(質量平均分子量1194)
上記A-1~A-3は、本発明における質量平均分子量が300~1000の脂肪酸エステル(a1)に相当する成分である。
<鉱物油(B)>
B-1:鉱物油(レッドウッド秒:80)
B-2:鉱物油(レッドウッド秒:500)
B-3:鉱物油(レッドウッド秒:40)
B-4:鉱物油(レッドウッド秒:800)
上記B-1、B-2は、本発明における60~600レッドウッド秒の鉱物油(b1)に相当する成分である。
<界面活性剤(C)>
・非イオン性界面活性剤
c1-1:ポリオキシエチレン(5モル)ドデシルエーテル
・アニオン性界面活性剤
c2-1:イソオクチルリン酸エステルカリウム塩
c2-2:2-ヘキサデシルリン酸エステルトリエタノールアミン塩
c2-3:オレイン酸カリウム塩
c2-4:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩
<その他の成分>
F-1:ジメチルポリシロキサン
G-1:1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(酸化防止剤)
【0025】
<仮撚加工試験>
接触型ヒーター仮撚加工機(TMTマシナリー社製の商品名ATF-21)を使用して、下記の合成繊維用処理剤A(油剤付与量(OPU):0.4%)を付与した酸化チタン含有量0.2%のポリエチレンテレフタラートの128デシテックス36フィラメントの部分延伸糸(POY)に対し、加工速度=650m/分、延伸倍率=1.70、施撚方式=3軸デイスク外接式摩擦方式(入り側ガイドデイスク1枚、出側ガイドデイスク1枚、硬質ポリウレタンデイスク4枚)、デイスク速度/糸速度(D/Y)=1.7、加撚側ヒーター=長さ2mで表面温度180℃、解撚側ヒーター=なし、の条件で仮撚加工を行なった。
なお、仮撚加工前に、上記接触型ヒーター仮撚加工機のヒーターに、実施例1~19の各仮撚加工機用ヒーター塗布剤を含侵させた布を使用して、ヒーター全面を塗布出来る最低限量を用いて塗布した。
<合成繊維用処理剤A>
ブチルアルコールにエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とをEO/PO=50/50(質量比)の割合でランダム状に付加した質量平均分子量2000のポリエーテルモノオールを45部、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とをEO/PO=70/30(質量比)の割合でランダム状に付加した質量平均分子量1500のポリエーテルモノオールを42部、ラウリルアルコールにエチレンオキサイド(EO)を10モル付加したポリエーテルモノオールを12部、デカンスルホン酸ナトリウム塩を0.5部、ラウリルリン酸エステルカリウム塩を0.5部、これらを均一に混合して合成繊維用処理剤Aを調整した。
<糸外れ防止性の評価>
前記条件で、12錘(仮撚加工機1装置での同時仮撚加工数:12)にて10分間の仮撚加工を行い、発生した糸外れの錘数を計測した。
[評価基準]
◎:発生錘数が0~1回
○:発生錘数が2~4回
×:発生錘数が5回以上
<拡展性評価>
実施例1~19の各サンプル0.15gを45°の角度で傾斜した表面温度180℃の仮撚加工機のヒーターに垂らし、10秒間でサンプルが進んだ距離を測定した。
[評価基準]
◎:30cm以上
○:30cm未満
実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤と、比較例1に関する、「糸外れ防止性の評価」と「拡展性評価」結果を表2にまとめて示した。
【0026】
【0027】
表2に示すとおり、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤の具体例である実施例1~19は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を良好に抑制することが、さらに、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られることも確認された。
また、実施例1~19の仮撚加工機用ヒーター塗布剤は、短時間で仮撚加工機のヒーター上に拡がる拡展性にも優れていることも、明らかとなった。
これに対して、本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布せず、合成繊維用処理剤を付着した部分延伸糸(POY)を用いた場合には、「糸外れ」を抑制することが出来ず、「糸外れ」による毛羽糸切れが発生することも明らかとなった。
本発明の仮撚加工機用ヒーター塗布剤や、この仮撚加工機用ヒーター塗布剤を仮撚加工機のヒーターに塗布する仮撚加工糸の製造方法は、仮撚加工機において合成繊維フィラメント糸条がヒーターから外れる「糸外れ」を抑制し、「糸外れ」による毛羽糸切れや合成繊維フィラメント糸条の加熱不足を防止して、良好に撚り延伸された仮撚加工糸が得られるため非常に有用である。