(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087384
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】脱泡器具と、それを使用した樹脂シールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/12 20060101AFI20220606BHJP
F16J 15/44 20060101ALI20220606BHJP
B29L 31/26 20060101ALN20220606BHJP
B29L 31/60 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
B29C43/12
F16J15/44 A
B29L31:26
B29L31:60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199292
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】岡 航平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】平野 正昭
(72)【発明者】
【氏名】段 祐輔
【テーマコード(参考)】
3J042
4F204
【Fターム(参考)】
3J042AA04
3J042BA03
3J042CA13
3J042DA02
4F204AA36
4F204AA39
4F204AB03
4F204AC05
4F204AD19
4F204AG03
4F204AH13
4F204AH31
4F204AM28
4F204AM32
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB12
4F204EF05
4F204EF27
4F204EF30
4F204EK09
4F204EK23
(57)【要約】
【課題】従来のものよりボイドが少ない樹脂シールを製造するための脱泡器具と、それを使用した樹脂シールの製造方法を提供する。
【解決手段】板厚方向に貫通する複数の中空セルと、隣接する中空セルを仕切るセル壁と、を含み中空セルとセル壁とにより板形状を形成する多セルコアと、中空セルの中空に充填される未硬化樹脂と、から、間隙を流れる気体の流量を低減するための樹脂シールを製造するための脱泡器具20である。この脱泡器具20は、仮想軸Zに平行な内面21aと多セルコアの多孔面より大きい両端部開口21b,21cとを有する筒状の枠材21と、枠材21の一端部開口21bを塞ぐ上面22aを有する土台板22と、枠材21の他端部開口21cを内外の通気性を保ちつつ塞ぐ板蓋23と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚方向に貫通する複数の中空セルと、隣接する中空セルを仕切るセル壁と、を含み前記中空セルと該セル壁とにより板形状を形成する多セルコアと、前記中空セルの中空に充填されるペースト状ないし粘土状の未硬化樹脂と、から、間隙を流れる気体の流量を低減するための樹脂シールを製造するための脱泡器具であって、
仮想軸に平行な内面と前記多セルコアの多孔面より大きい両端部開口とを有する筒状の枠材と、
前記枠材の一端部開口を塞ぐ上面を有する土台板と、
前記枠材の他端部開口を内外の通気性を保ちつつ塞ぐ板蓋と、を備える、脱泡器具。
【請求項2】
前記板蓋は、前記枠材の内外の通気性を保つ通気布を間に挟んで該枠材の前記他端部開口を塞ぐ、請求項1に記載の脱泡器具。
【請求項3】
前記板蓋は、通気性を保ちつつ前記枠材の内面に沿って該枠材の中で往復可能である、請求項1又は請求項2に記載の脱泡器具。
【請求項4】
前記板蓋は、その底面に、弾力性がある弾力シートを有する、請求項3に記載の脱泡器具。
【請求項5】
前記枠材は、前記仮想軸が鉛直になるように前記上面に置いたときの上下に接合部で分割されており、
前記接合部より上方に位置する脱泡枠と、
前記接合部より下方に位置する成型枠と、を有する、請求項1に記載の脱泡器具。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の脱泡器具を使用した樹脂シールの製造方法であって、
(M1)前記上面に前記一端部開口を接触させて前記土台板の上に前記枠材を置き、
(M2)前記中空セルの開口部が前記上面に接するように前記枠材の中に前記多セルコアを入れ、
(M3)硬化前の未硬化樹脂を前記枠材の中の前記多セルコアの上に載せ、
(M4)前記他端部開口を前記板蓋で塞ぎ、
(M5)前記(M4)の前記脱泡器具が入った真空チャンバー内を脱気し、前記未硬化樹脂を脱泡させながら前記脱泡器具の前記内部空間一杯に膨張させることで該未硬化樹脂を前記中空セルの前記中空に充填させ、
(M6)前記多セルコアと前記未硬化樹脂とが一体となった成形前シールを、可撓性のあるバギングフィルムで密閉して脱気する、樹脂シールの製造方法。
【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載の脱泡器具を使用した樹脂シールの製造方法であって、
(N1)前記上面に前記一端部開口を接触させて該土台板の上に前記枠材を置き、前記枠材の中に硬化前の未硬化樹脂を入れ、
(N2)前記板蓋を前記枠材の前記他端部開口に位置させ、
(N3)前記(N2)の前記脱泡器具が入った真空チャンバー内を脱気して前記未硬化樹脂を膨張させながら脱泡させ、
(N4)真空下で前記枠材に対して前記板蓋を前記枠材内へ摺動させて前記未硬化樹脂を押し潰し、
(N5)前記多セルコアを、前記中空セルの開口部が押し潰された前記未硬化樹脂に接するように載せ、その後、該未硬化樹脂の中へ押し込む、樹脂シールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間隙を流れる気体の流量を低減する樹脂シールを製造するための脱泡器具と、それを使用した樹脂シールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間隙を流れる気体の流量を低減するための樹脂シールとして、例えば、ジェットエンジンのタービンのフレームケースの内面に設けられる樹脂シールがある。このような樹脂シールは、例えば、ジェットエンジンの動翼先端とこれを囲むケーシングとの間にある間隙のように、ガスや空気等の気体が流れる隙間に設けられ、間隙を流れる気体の流量を低減する。
ジェットエンジンは、吸入した空気に燃料を混ぜて燃焼させることにより発生させたガスを、高速で噴出し、その反動で推力を得る装置である。ジェットエンジンには、例えばターボジェットエンジン、ターボファンエンジンが該当する。
【0003】
従来からジェットエンジンのタービンのフレームケースの内面には、ハニカムシールが設けられている。このハニカムシールは、動翼の先端とフレームケースとの間の隙間をシールすると共に、熱膨張などによって動翼の先端と接触したときに自らが削られることで、接触による動翼とフレームケースの損傷を防ぐ機能がある。
こうしたジェットエンジン用のハニカムシールとしては、従来は、薄い金属箔からなる中空のハニカム材が使用されていた。このようなハニカムシールは、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
また、ハニカムシールに関する従来技術ではないが、中空のハニカム材にペースト状の断熱材を充填する方法が、特許文献2に開示されている。この断熱材は、シール材ではなく、ジェットエンジンのシール性能には直接寄与しないが、参考のため、ここに記載する。従来、特許文献2において中空のハニカム材にペースト状の断熱材を充填する際には、ハニカム材の各セル内にペースト状の断熱材を、手で充填していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-303204号公報
【特許文献2】特開昭58-67905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献2に開示されているような粘度が100~1000Pa・sのペースト状の断熱材は、ハニカム材への充填時には既に内部にボイドを含んでいる。このような断熱材をハニカム材に手で充填すると、充填する過程でさらに断熱材の中に気泡(ボイド)が入ってしまっていた。
したがって特許文献2の方法を応用しても、樹脂剤の内部にボイドを含まない良質なハニカムシールを製造できなかった。
【0007】
図14は、バギングフィルム60を用いて、ハニカム材61の各セル62にペースト状の樹脂剤63を充填する従来の方法の説明図である。
図14(A)は、バギングフィルム60で密閉して圧縮しているときの図、
図14(B)は、その方法で製造した完成品のハニカムシール64の断面図、
図14(C)は、
図14(B)の部分拡大図である。
例えばこの図で示すように、樹脂剤63を手で押し込む代わりに、大気圧による圧力差によって樹脂剤63をハニカム材61の各セル62に押し込むことも考えられる。この図の例では、ハニカム材61の上に樹脂剤63を載せたものをバギングフィルム60に入れて密封し、内部を真空にすることで、樹脂剤63をハニカム材61の各セル62に押し込んでいる。
しかし、バギングフィルム60が柔らかいため、その内部が真空でも、樹脂剤63を減圧することにはならない。そのため、
図14(C)に示すように、この方法によってもボイド63aを脱泡することができなかった。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、従来のものよりボイドが少ない樹脂シールを製造するための脱泡器具と、それを使用した樹脂シールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、板厚方向に貫通する複数の中空セルと、隣接する中空セルを仕切るセル壁と、を含み前記中空セルと該セル壁とにより板形状を形成する多セルコアと、前記中空セルの中空に充填されるペースト状ないし粘土状の未硬化樹脂と、から、間隙を流れる気体の流量を低減するための樹脂シールを製造するための脱泡器具であって、
仮想軸に平行な内面と前記多セルコアの多孔面より大きい両端部開口とを有する筒状の枠材と、
前記枠材の一端部開口を塞ぐ上面を有する土台板と、
前記枠材の他端部開口を内外の通気性を保ちつつ塞ぐ板蓋と、を備える、脱泡器具が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上述した脱泡器具を使用した樹脂シールの製造方法であって、
(M1)前記上面に前記一端部開口を接触させて前記土台板の上に前記枠材を置き、
(M2)前記中空セルの開口部が前記上面に接するように前記枠材の中に前記多セルコアを入れ、
(M3)硬化前の未硬化樹脂を前記枠材の中の前記多セルコアの上に載せ、
(M4)前記他端部開口を前記板蓋で塞ぎ、
(M5)前記(M4)の前記脱泡器具が入った真空チャンバー内を脱気し、前記未硬化樹脂を脱泡させながら前記脱泡器具の前記内部空間一杯に膨張させることで該未硬化樹脂を前記中空セルの前記中空に充填させ、
(M6)前記多セルコアと前記未硬化樹脂とが一体となった成形前シールを、可撓性のあるバギングフィルムで密閉して脱気する、樹脂シールの製造方法が提供される。
【0011】
または、本発明によれば、前記板蓋が、通気性を保ちつつ液密に前記枠材の内面に沿って該枠材の中で往復可能な脱泡器具を使用した樹脂シールの製造方法であって、
(N1)前記上面に前記一端部開口を接触させて該土台板の上に前記枠材を置き、前記枠材の中に硬化前の未硬化樹脂を入れ、
(N2)前記板蓋を前記枠材の前記他端部開口に位置させ、
(N3)前記(N2)の前記脱泡器具が入った真空チャンバー内を脱気して前記未硬化樹脂を膨張させながら脱泡させ、
(N4)真空下で前記枠材に対して前記板蓋を前記枠材内へ摺動させて前記未硬化樹脂を押し潰し、
(N5)前記多セルコアを、前記中空セルの開口部が押し潰された前記未硬化樹脂に接するように載せ、その後、該未硬化樹脂の中へ押し込む、樹脂シールの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明によれば、脱泡器具の板蓋が、脱泡器具の内外の通気性を保ちながら、枠材の他端部開口を塞ぐので、ペースト状ないし粘土状の未硬化樹脂を脱泡器具の内部空間一杯に膨張させて脱泡させながらも、未硬化樹脂を脱泡器具の内部空間に留めることができる。
したがって、未硬化樹脂を十分に脱泡することができるので、内部にボイドの無い樹脂シールを、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の製造方法によって製造される樹脂シールが設けられたジェットエンジンの縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態の製造方法によって製造される樹脂シールの説明図である。
【
図3】樹脂シールの製造に使用する多セルコアの平面図と斜視図である。
【
図4】樹脂シールの第1実施形態の製造方法で使用する脱泡器具の説明図である。
【
図5】樹脂シールの第1実施形態の製造方法の説明図である。
【
図6】樹脂シールの第1実施形態の製造方法の説明図である。
【
図7】樹脂シールの第2実施形態の製造方法で使用する脱泡器具の説明図である。
【
図8】樹脂シールの第2実施形態の製造方法を示す部分断面図である。
【
図9】樹脂シールの第2実施形態の製造方法を示す部分断面図である。
【
図10】樹脂シールの第2実施形態の製造方法において、多セルコアをバギングフィルムで未硬化樹脂の中に押し込むときの説明図である。
【
図11】多セルコアを未硬化樹脂の中へ押し込む工程における弾力シートの有無を比較した縦断面図である。
【
図12】第1実施形態の製造方法で製造した樹脂シールと、従来例のハニカムシールの比較断面写真である。
【
図13】第1実施形態及び第2実施形態の製造方法で製造した樹脂シールと、従来の製造方法で製造したハニカムシール(従来例)との密度を比較した棒グラフである。
【
図14】バギングフィルムを用いて、ハニカム材の各セルに樹脂剤を充填する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の製造方法によって製造される樹脂シール10が設けられたジェットエンジン40の縦断面図である。
図1(A)は、ジェットエンジン40の全体図である。なお、この図の例のジェットエンジン40は、ターボジェットエンジンだが、樹脂シール10が取り付けられるジェットエンジン40は、ターボファンエンジンであってもよい。
【0016】
ジェットエンジン40は、圧縮機43、燃焼器44、タービン45、空気取り入れ口46、ジェットノズル47を備える。
図1(B)は、
図1(A)のG部分の拡大図である。ジェットエンジン40のタービン45は、動翼41とそれを支持するロータ48とが、図示しない軸受を介して、静止構造体であるケーシング42に支持されている。この図の例の樹脂シール10は、このようなジェットエンジン40の動翼41の先端41aと、これを囲むケーシング42との間隙を流れるガス流量を低減するために用いられるシール部材である。この図の例の樹脂シール10は、タービン45のケーシング42の内面に張り付けられている。
なお、ジェットエンジン40の動翼41の先端41aと、これを囲むケーシング42との間隙は、本発明の実施形態の樹脂シール10が設けられる間隙の一例にすぎない。本発明の実施形態の樹脂シール10は、気体の流量を低減する必要がある間隙であれば、どのような間隙に設けられてもよい。
【0017】
図2は、本発明の実施形態の製造方法によって製造される樹脂シール10の説明図である。
図2(A)は平面図、
図2(B)は
図2(A)のE-E断面図、
図2(C)は
図2(B)の拡大図である。
この樹脂シール10は、多セルコア1と樹脂剤3を備えており、多セルコア1が有する多数の中空セル2の中空2aに、樹脂剤3が充填された板状のシール部材である。樹脂剤3は、多セルコア1の中空2aに隙間なく充填されていることが好ましい。これにより、ハニカム材のみ、又は一部のみに樹脂剤を充填したハニカム材をシール部材として使用するよりも、樹脂シール10のシール性を向上させることができる。
【0018】
樹脂シール10は、後述する製造方法で製造することにより、
図2(C)のように樹脂剤3の内部に含有するボイド63aの発生を抑えることができる。
以下に、この樹脂シール10の製造方法について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
まず、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法について説明する。
はじめに、多セルコア1、未硬化樹脂13、脱泡器具20、真空チャンバー31、バギングフィルム32を用意する。
図3は、樹脂シール10の製造に使用する多セルコア1の平面図(
図3(A))と斜視図(
図3(B))である。
【0020】
多セルコア1は、その板厚方向Xに貫通する複数の中空セル2と、隣接する中空セル2を仕切るセル壁2cと、を含み、その中空セル2とセル壁2cによって板形状を形成する樹脂繊維製又は樹脂紙製の板状構造物であることが好ましい。
【0021】
例えばこの図の多セルコア1は、六角柱形の中空2aをもつ中空セル2が、平板形状に空間充填されている。このため、中空2aの板厚方向両端部に開口した開口部2bの形状は、六角形となっている。しかしこれに限らず、各中空セル2の中空2aの形状は、板厚方向Xに延びる多角柱形、円柱形、多角錘台大形状、円錐台形状、であってもよく、様々な形状の中空2aが組み合わされていてもよい。また、開口部2bの形状は、特に限定されず、例えば三角形、四角形、ランダムな多角形や、円形等であってもよい。
このように、多セルコア1は、この図のように平板形状を形成してもよい。しかしこれに限らず、多セルコア1は、板厚方向Xと交わる面(以下、多孔面1a)が曲面となっている板の形状を形成していてもよい。
【0022】
また、各中空セル2のセル壁2cは、薄い樹脂繊維、樹脂紙、又は薄い金属で形成されている。これにより、平板形状の多セルコア1に力を加えてセル壁2cを撓ませることで、多孔面1aを、任意の曲面に湾曲させることができる。
【0023】
中空セル2の開口部2bの最大径Dは、4mm以上10mm以下であり、多セルコア1の板厚Tは、1cm以上3cm以下であることが好ましい。
また、多セルコア1の形状は、この図の例では多孔面1aの長さLと幅Wに対して板厚Tが小さくなっている。しかし本実施形態の多セルコア1は、多孔面1aの長さL又は幅Wに対して板厚Tが大きくてもよい。
【0024】
未硬化樹脂13は、2液性のエポキシ樹脂であることが好ましい。それにより、未硬化樹脂13を、加熱せずに多セルコア1の中空内で硬化させることができる。しかしそれに限らず、未硬化樹脂13は、その他の熱硬化性樹脂であってもよい。
また、未硬化樹脂13は、エポキシ樹脂に限らず、ポリ酢酸ビニル、ニトリルゴム、アクリル樹脂であってもよい。樹脂シール10の製造方法は、未硬化樹脂13が2液性のエポキシ樹脂である場合を例として説明する。未硬化樹脂13は、例えば粘度が100~1000Pa・sのペースト状、ないし粘土状を想定している。未硬化樹脂13は、硬化することによって、樹脂剤3となる。
【0025】
図4は、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法で使用する脱泡器具20の説明図である。
図4(A)は、枠材21,土台板22,板蓋23の斜視図であり、
図4(B)は、それらを組み立てたときの脱泡器具20の正面図である。この図は、多孔面1aが、タービン45のケーシング42の内面の曲率に合わせて湾曲した樹脂シール10を製造する際に使用する脱泡器具20である。
脱泡器具20は、筒状の枠材21と、枠材21の一端部開口21bを塞げる大きさと形状の上面22aを有する土台板22と、枠材21の他端部開口21cを塞ぐ板蓋23と、を備える。脱泡器具20の内部空間25は、枠材21,土台板22,及び板蓋23に囲まれた空間である。
【0026】
枠材21は、両端部が開口した筒形であり、仮想軸Zに平行な内面21aと、多セルコア1の多孔面1aより大きい両端部開口21b、21cとを有する。
この図の例の枠材21は、水平断面が矩形の中空を有する筒形だが、枠材21の形状はこれに限らない。また、枠材21の両端面21dは、平面でも曲面でもよい。仮想軸Zが延びる方向における枠材21の長さは、脱泡器具20の内部空間25に入れた未硬化樹脂13が十分に膨張して脱泡できるだけの内部空間25の体積を確保できる長さである。枠材21の素材は、金属やプラスチックであってもよい。
【0027】
枠材21は、一つの筒形の枠であってもよいが、この図のように、仮想軸Zが鉛直になるように土台板22の上面22aに置いたときの上下に接合部29で分割されていてもよい。この場合、枠材21は、接合部29より上方に位置する脱泡枠27と、接合部29より下方に位置する成型枠28と、を有する。脱泡枠27と成型枠28は、いずれも、両端部が同じ大きさに開口した筒形であり、重なることで一つの枠材21を構成する。成型枠28は、製造する樹脂シール10の形状に整合する形状の筒状の枠である。
【0028】
土台板22は、その上面22aで、枠材21の一端部開口21b(この図の下端部の開口)を塞ぎ、枠材21と上面22aの間から未硬化樹脂13が漏れるのを防ぐ。土台板22は、例えばゴム製や樹脂製、又は金属製の平板であってもよい。
【0029】
板蓋23は、枠材21の内外の通気性を保つ通気布24を間に挟んで、枠材21の他端部開口21c(この図の上端部の開口)に固定されている。これにより板蓋23は、脱泡器具20の内外の通気性を保ちつつ、他端部開口21cを塞ぐことができる。板蓋23の素材は、金属やプラスチックであってもよく、塩化ビニルであってもよい。
【0030】
図5は、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法の説明図である。なお、
図5(A)~
図5(C)の枠材21は、縦断面図で記載している。
(ステップA1)
まず、
図5(A)のように、上面22aを上向きに置いた土台板22の上、又は土台板22の上面22aに隙間なく固定した成型枠28の上に、枠材21を置く。その際、枠材21の一端部開口21b(図の成型枠28の下方開口)が土台板22の上面22aに接触するようにする。枠材21は、土台板22の上面22aの上端に、隙間なく気密かつ液密に固定されていることが好ましい。また、この図のように、枠材21が脱泡枠27と成型枠28に分かれているときは、土台板22の上に成型枠28を隙間なく気密かつ液密に置き、その上に脱泡枠27を気密かつ液密に重ねることで、脱泡器具20の内部空間25を形成している。そのため、この図の例における一端部開口21bは、成型枠28の下方開口であり、他端部開口21cは、脱泡枠27の上方開口である。成型枠28は、その内面28aが多セルコア1の外周縁1bの全周を隣接しながら取り囲み、完成した樹脂シール10の形状に多セルコア1を保持する形状となっている。また、成型枠28の高さは、多セルコア1の板厚Tと同じか、もしくは板厚Tよりも、僅かに高く設定されている。なお、成型枠28は、コーティングしたアルミニウムであることが好ましい。アルミニウムをコーティングすることにより、成型枠28から樹脂剤3を除去しやすくなるからである。
【0031】
(ステップA2)
次に、
図5(B)のように、内部空間25に多セルコア1を入れる。このとき、中空セル2の延びる方向が上下方向になる向きになるように設置する。これにより、多セルコア1が、中空セル2の開口部2bを上方に向けて、枠材21の底に設置される。
このとき、枠材21の一端部開口21bを、土台板22の上面22aに置く。なお、後述する過程で枠材21に入れる未硬化樹脂13は、液状ではなく、ペースト状、ないし粘土状であるため、枠材21と土台板22の隙間から漏れ出ない。
【0032】
(ステップA3)
次に、
図5(C)のように、硬化前の未硬化樹脂13を枠材21の中の多セルコア1の上に載せる。未硬化樹脂13は、硬化することによって、樹脂剤3となる。樹脂剤3が2液性のエポキシ樹脂である場合は、この工程の直前に2液を混ぜ、すぐにその混合物を枠材内の多セルコア1の上に載せることが好ましい。
【0033】
(ステップA4)
次いで、
図5(D)のように、枠材21の上に板蓋23を載せ、枠材21の他端部開口21c(この図の上端部の開口)を板蓋23で塞ぐ。このとき、板蓋23と枠材21の上端部との間に通気性を保つことができる通気布24を挟み、板蓋23が持ち上がらないようにし、枠材21の他端部開口21cを塞ぐ。これにより、脱泡器具20の内部空間25と外部空間34(真空チャンバー31と脱泡器具20との間の空間)の通気性を保つことができる。通気布24は、枠材21の上端部の一部にのみ設けられていてもよく、枠材21の全周に渡って板蓋23と枠材21の間に挟んでもよい。通気布24の素材は、ブリーザークロスが好ましいが、通気性があればその他の布であってもよい。
また、板蓋23が持ち上がらないようにする方法として、図のように板蓋23を固定してもよく、未硬化樹脂13の膨張では持ち上がらないほど重い蓋を板蓋23として使用してもよい。
なお、ステップA1~ステップA4は、真空チャンバー31の外で行ってもよく、真空チャンバー31の中で行ってもよい。
【0034】
(ステップA5)
図6は、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法の説明図である。
図6(A)は、真空チャンバー31を真空にして脱泡している工程の縦断面図である。
ステップA4で脱泡器具20の組み立てを終えた後に、
図6(A)のように、真空チャンバー31の扉31aを閉め、真空チャンバー内を脱気する。真空チャンバー31の壁面が、大気圧で変形しない硬さの素材で構成されていることにより、真空チャンバー31の内部空間の体積を変えずに、その内部が脱気され、真空に近くなる。
脱泡器具20の外部空間34(真空チャンバー31と脱泡器具20との間の空間)を脱気すると、脱泡器具20の内部に在った空気が通気布24を通って排出され、脱泡器具内が脱気される。
【0035】
これにより脱泡器具内が減圧され、未硬化樹脂13に含まれていた空気が減圧によって膨張し、気泡(ボイド63a)が大きくなる。気泡の膨張に伴って気泡周囲の未硬化樹脂13が伸ばされ、広がる。未硬化樹脂内の気泡が次々と膨張することにより、外側から未硬化樹脂13を見ると、未硬化樹脂自体が膨張しているように見える。気泡が大きくなるにつれて気泡周囲の未硬化樹脂13が薄くなり、隣接する気泡が融合してさらに大きな気泡となる。未硬化樹脂13の表面の近くで気泡が大きくなると、気泡が弾け、気泡内の空気が未硬化樹脂13から排出される。未硬化樹脂13の外に排出された空気は、通気布24を通って真空チャンバー31から排気される。これにより、未硬化樹脂13の脱泡が完了する。
【0036】
本実施形態の製造方法では、通気布24が枠材21と板蓋23の間に挟んであることによって、脱泡器具20の内部空間25は、通気性が確保されながら、閉じられている。気泡が膨張する力は、上下左右のあらゆる方向へ向けて、等しい大きさで、未硬化樹脂13を外側へ向けて押す。樹脂シール10が脱泡器具20の中に収められているため、脱泡器具20の内部空間25には、中空セル2の中空2aも含まれる。
したがって、未硬化樹脂13を、脱泡させながら脱泡器具20の内部空間25一杯に膨張させることで、気泡が膨張しようとする力によって、気泡の表面を形成している未硬化樹脂13を中空セル2の中に押し込むことになる。これにより、本実施形態の樹脂シール10の製造方法では、未硬化樹脂13を中空2aの隅々にまで注入することができる。
【0037】
(ステップA6)
図6(B)は、真空チャンバー31から取り出した成形前シール11の縦断面図であり、
図6(C)は、バギングフィルム32で未硬化樹脂13を多セルコア1に充填するときの正面図である。
脱泡が完了した後には、
図6(B)のように、真空チャンバー31の真空を解除し、多セルコア1と未硬化樹脂13とが一体となった成形前シール11を真空チャンバー31から取り出す。この時点の未硬化樹脂13は、まだ十分に硬化していない硬化途中であることが好ましい。未硬化樹脂13は、脱泡工程により膨張しつつ硬化が進んでいるため、膨張した未硬化樹脂13の内部には、気泡形状の空間が真空状態で残っている可能性がある。また、未硬化樹脂13の中空セル2への注入が、十分でない可能性もある。そのため、取り出した成形前シール11を、
図6(C)に示すように、可撓性のあるバギングフィルム32で密閉し、その内部を脱気することで、バギングフィルム32で未硬化樹脂13に大気圧を加圧し、気泡形状の空間を押し潰す。このとき、
図6(B)、
図6(C)のように多セルコア1を、その板厚Tと同じか、板厚Tよりも僅かに高さが高い成型枠28で囲み、その成型枠28ごとバギングフィルム32で密閉することが好ましい。これにより未硬化樹脂13を充填する前に、多セルコア1がバギングフィルム32に押し潰されるのを防ぐことができる。
図5、
図6では、脱泡枠27と成型枠28の両方を使用してステップA1~ステップA5を行っているが、これに限らず、枠材21だけでステップA1~ステップA5を行い、ステップA6でバギングする際に成型枠28を設置してもよい。
【0038】
(ステップA7)
図6(D)は、完成した樹脂シール10の縦断面図である。ステップA6のバギングフィルム32から取り出すことにより、樹脂シール10が完成する。
脱泡中の未硬化樹脂13の膨張具合は制御できないため、成形前シール11は、
図6(B)に示したように未硬化樹脂13の厚みが不均一になる。そのため、ステップA6で大気圧差を利用して未硬化樹脂13を中空セル2に押し込んだとしても、樹脂剤3が中空セル2に入りきらない部分が生じる。本実施形態の製造方法では、樹脂剤3が多セルコア1からはみ出したままの樹脂シール10をジェットエンジン40の部品に組付け、その後に、多セルコア1の板厚Tに合わせて、収まりきらなかった余分な樹脂剤3を切り取ってもよい。しかしそれに限らず、ジェットエンジン40の部品に組み付ける前に、樹脂シール10の余分な樹脂剤3を切り取ってもよい。
【0039】
これにより、
図2に示したような樹脂剤3の内部にボイド63aがほとんど発生していない品質の良い樹脂シール10を製造することができる。
【0040】
このように、本実施形態の樹脂シール10の製造方法は、脱泡器具20の中であって多セルコア1の上に未硬化樹脂13を載せて脱泡するので、脱泡工程による未硬化樹脂13の膨張を利用して、多セルコア1に未硬化樹脂13を注入することができる。その上、真空下で脱泡しながら多セルコア1に未硬化樹脂13を注入するため、中空セル2に注入された樹脂剤3がボイド63aを含むのを防ぐことができる。
したがって、この方法で製造することにより、内部にボイド63aの無い樹脂シール10を、安定して製造することができる。
また、従来には、樹脂剤のボイド63aを失くすために、温度や圧力を制御可能なオートクレーブに樹脂剤を入れ、例えば3気圧等の高い圧力を樹脂剤にかけ、内部のボイド63aを押し潰す方法がある。これに比べて、本実施形態の製造方法は、オートクレーブ等の大掛かりな装置が不要なため、製造に対する投資が少なく樹脂シール10を量産できる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、樹脂シール10の第2実施形態の製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法では、まず、多セルコア1、未硬化樹脂13、脱泡器具20、真空チャンバー31を用意する。多セルコア1、未硬化樹脂13、及び真空チャンバー31は、第1実施形態と同じものであってもよい。
【0042】
図7は、樹脂シール10の第2実施形態の製造方法で使用する脱泡器具20の説明図である。
図7(A)は、枠材21,土台板22,板蓋23の斜視図であり、
図7(B)は、それらを組み立てたときの脱泡器具20の正面図である。なお、この実施形態の枠材21と土台板22は、第1実施形態と同様であってもよい。
【0043】
本実施形態の板蓋23は、シリンダの中を往復するピストンのように、枠材21の内面21aに沿って枠材21の中で往復可能である点で、第1実施形態とは異なる。しかし板蓋23は、枠材21の内部で往復する際に、枠材21の内面21aとの間の通気性を保ちつつ枠材21の他端部開口21cを塞いでいる点で、一般的なピストンとは異なる。例えば枠材21の他端部開口21cを通気布24で覆いその上に板蓋23を載せたり、板蓋23の側面全周を通気布24で覆ったりすることで、枠材21と板蓋23の間に通気布24を挟み、その間の通気性を確保してもよい。
【0044】
枠材21に対して板蓋23を上下に摺動させる方法は、どのようなものであってもよい。例えば,後述する
図8、
図9のように、板蓋23の上面側と真空チャンバー31の上側内壁との間で鉛直に延びる棒材23aの下端に板蓋23が固定され、真空チャンバー31の下側内壁と土台板22との間に上下方向に伸縮する伸縮装置26が設けられていてもよい。しかし、この構成に限らず、土台板22が真空チャンバー31の下側内壁に置かれ、真空チャンバー31の上側内壁から鉛直に伸びる伸縮装置26の下端に板蓋23が固定されていてもよい。例えば伸縮装置26は、例えば電動シリンダであってもよい。
【0045】
また、この図の例における板蓋23の底面には、弾力性がある弾力シート23bが設けられていることが好ましい。弾力シート23bは、板蓋23の底面に着脱可能に設けられていることが好ましいが、貼り付けられていてもよい。弾力シート23bは、例えばスポンジやゴム、発泡スチロール樹脂等であってもよい。
【0046】
図8、
図9は、樹脂シール10の第2実施形態の製造方法を示す部分断面図である。
図8(A)から
図9(E)へ工程が進行する。
(ステップB1)
まず、樹脂シール10の本実施形態の製造方法では、
図8(A)のように土台板22の上面22aに、脱泡器具20の枠材21の一端部開口21bを向けて、枠材21を隙間なく固定する。枠材21が分割している場合は、成型枠28を土台板22に隙間なく固定し、脱泡枠27を、成型枠28の上に重ねて置き、枠材21と成型枠28とで脱泡器具20の内部空間25を形成する。枠材21が分割している場合で、成型枠28を使用せずに脱泡工程を行う場合には、土台板22の上に直接脱泡枠27を隙間なく固定してもよい。
【0047】
この内部空間25の中に硬化前の未硬化樹脂13を入れる。未硬化樹脂13は、ペースト状ないし粘土状なので、土台板22に置いた枠材21や脱泡枠27と成型枠28との間から、漏れ出ずに枠材21の内部にとどまる。
この作業は、真空チャンバー31の中で行ってもよく、真空チャンバー31の外で行った後に土台板22と枠材21を一緒に真空チャンバー31に入れてもよい。
【0048】
(ステップB2)
次に、板蓋23が枠材21の他端部開口21c(図の上端部の開口)に位置するように、板蓋23を固定する。伸縮装置26の長さを調整することによって、板蓋23が枠材21の他端部開口21cに位置するように固定してもよい。このとき、枠材21の他端部開口21cと板蓋23の間に、通気布24を挟むことが好ましい。これにより、枠材21の内面21aとの間に板蓋23が摺動できる程の隙間を保持しつつ、脱泡時に未硬化樹脂13が脱泡器具20の外部空間34へあふれ出るのを防ぐことができる。
【0049】
(ステップB3)
この状態で
図8(B)のように、真空チャンバー31の扉31aを閉め、真空チャンバー内を脱気する。枠材21の内面21aと板蓋23の側面との間は、通気性を保ちながら塞いでいるので、真空チャンバー31の内部(脱泡器具20の外部空間34)を脱気することにより、脱泡器具20の内部空間25も脱気される。それにより、未硬化樹脂13は、内部空間25いっぱいに膨張しながら脱泡する。未硬化樹脂13がペースト状ないし粘土状であるため、未硬化樹脂13を脱泡器具20の内部に留めることができる。
【0050】
(ステップB4)
ステップB3で未硬化樹脂13の脱泡が完了した後に、
図8(C)に示すように、真空チャンバー31を駆動したまま伸縮装置26を伸ばし、真空下で、枠材21に対する板蓋23の位置を枠材21内から一端部開口側へ移動させる。そして板蓋23を枠材21に対して下方へ摺動させて、未硬化樹脂13が多セルコア1の板厚Tと同じ厚さになるまで未硬化樹脂13を押し潰す。なお、枠材21と板蓋23の間に通気布24を挟んでいたときは、通気布24を挟んだまま枠材21に対する板蓋23の位置を下方へ移動させる。
【0051】
未硬化樹脂13の硬化は脱泡中にも進むため、未硬化樹脂13の内部には、気泡内の空気が抜けたにもかかわらず形状を保っている真空の空洞(ボイド63a)があるものと想定される。本実施形態の樹脂シール10の製造方法では、未硬化樹脂13が完全に硬化する前に、脱泡器具20の内部を真空に保ちながら、未硬化樹脂13を加圧し、押し潰すことで、真空の空洞を圧の上昇によって消失させることができる。
【0052】
(ステップB5)
次に、
図8(D)に示すように、未硬化樹脂13を押し潰したまま真空チャンバー31の真空を解除し、扉31aを開ける。そして
図9(A)のように脱泡器具20の板蓋23を開けて通気布24を取り去り、多セルコア1を枠材21の中に入れ、
図9(B)のように未硬化樹脂13の上に載せる。このとき、中空セル2の開口部2bを下に向け、中空セル2が上下方向に延びる向きになるように、押し潰された未硬化樹脂13の上に多セルコア1を載せる。
【0053】
次いで多セルコア1を、未硬化樹脂13の中へ押し込む。
このとき、
図9(C)、
図9(D)のように、板蓋23を多セルコア1の上側の多孔面1aに押し当てて、多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込むことが好ましい。なお、板蓋23で多セルコア1を未硬化樹脂内に押し込むのであれば、成型枠28を使用せずに、枠材21を土台板22に置いてステップB1~B5を行ってもよい。
【0054】
図10は、樹脂シール10の第2実施形態の製造方法において、多セルコア1をバギングフィルム32で未硬化樹脂13の中に押し込むときの説明図である。
この図に示すように、樹脂シール10の第2実施形態の製造方法では、板蓋23で多セルコア1を押す代わりに、真空チャンバー31の外でバギングフィルム32を使用して、多セルコア1を押し潰された未硬化樹脂13の中に押し込んでもよい。成型枠28は、土台板22に隙間なく固定されている。成型枠28の高さは、押し潰された未硬化樹脂13の厚みよりも僅かに高く設定されている。真空チャンバー31から取り出した未硬化樹脂13に多セルコア1を載せると、
図10(B)のように多セルコア1が成型枠28の上から突出した状態となる。これをバギングフィルム32で覆い、その内部を脱気すると、
図10(C)のように、バギングフィルム32にかかる大気圧で多セルコア1を未硬化樹脂13に押し込むことができる。なお、バギングフィルム32で多セルコア1を押し込むのであれば、成型枠28を使用することが好ましい。成型枠28を使用することによって、バギングフィルム32によって多セルコア1がこの図の横方向に押されて潰されるのを防ぐとともに、樹脂シール10の形状を決めることができる。
【0055】
板蓋23で、多セルコア1を未硬化樹脂13に押し込むのであれば、板蓋23の底面に弾力シート23bを取り付けることが好ましい。
図11は、多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込む工程における弾力シート23bの有無を比較した縦断面図である。
図11(A)~
図11(D)は、弾力シート23bが無い板蓋23で多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込んだときの図であり、
図11(E)~
図11(H)は、弾力シート23bが有る板蓋23で多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込んだときの図である。また、
図11(A)と
図11(E)は、多セルコア1を、未硬化樹脂13の中へ押し込み始めたときの縦断面図であり、
図11(B)と
図11(F)は、多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込みきったときの縦断面図である。
図11(C)と
図11(G)は、完成した樹脂シール10の部分縦断面図である。
図11(D)は、
図11(C)の部分拡大図であり、
図11(H)は、
図11(G)の部分拡大図である。
【0056】
図11(A)~
図11(D)に示すように、多セルコア1を未硬化樹脂13へ押し込むと、未硬化樹脂13の粘度によっては、下方へ押されるセル壁2cに未硬化樹脂13が引っ張られて、壁際の未硬化樹脂13が中空セル2の中央部分より下方へ凹む可能性がある。壁際の未硬化樹脂13が中空セル2の中央部分より下方へ凹むと、板蓋側のセル壁2cと樹脂剤3の間に
図11(D)のような隙間10aが生じる。また、土台板側のセル壁2cと樹脂剤3との間にも隙間10aが生じることもある。
【0057】
このような場合には、板蓋23の底面に弾力シート23bを取り付けて、多セルコア1を押すと良い。そうすることで、多セルコア1を押し込んでいる最中に隙間10aが生じたとしても、多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込みきったときに、中空2aにめり込んだ弾力シート23bで中央部分の未硬化樹脂13に圧を加えることができる(
図11(F))。これにより壁際の未硬化樹脂13が盛り上がって板蓋側の隙間10aを埋め、また、中空2aにめり込んだ弾力シート23bで中央部分の未硬化樹脂13に圧が加わることによって土台板側のセル壁2cと樹脂剤3との間の隙間10aも消失する。したがって板蓋23の底面に弾力シート23bを取り付けて多セルコア1を押すことにより、セル壁2cと樹脂剤3の間に隙間10aが生じていない樹脂シール10を製造することができる。
【0058】
また、弾力シート23bのセル壁2cの端部が当たる部分が潰れ、その他の部分が中空セル2の中空2aにめり込むので、多セルコア1の上面から樹脂剤3がはみ出るのを防ぐこともできる。
【0059】
図9(B)~
図9(D)では、多セルコア1を未硬化樹脂13の中へ押し込む工程を大気中で行っているが、これに限らない。大気中で枠材21の中に多セルコア1を入れた後に再び真空チャンバー31を駆動させ、真空下で伸縮装置26を伸ばして多セルコア1を未硬化樹脂13へ押し込むことが好ましい。これにより、中空セル2の中空2aに空気が無い状態で多セルコア1を未硬化樹脂13に押し込むことができるので、中空セル2のセル壁2cと一緒に空気が未硬化樹脂13へ巻き込まれるのを防ぐことができる。
【0060】
樹脂シール10の本実施形態の製造方法は、真空下で必要な厚みに未硬化樹脂13を潰してから多セルコア1を未硬化樹脂13の中に押し込む。これにより、未硬化樹脂13が脱泡時に均一に膨らまなかったとしても、硬化する前に板蓋23で押し潰すことで全ての中空セル2に均一に樹脂剤3を充填することができる。したがって、たとえ未硬化樹脂13の膨らみ方にむらがあったとしても、一つの樹脂シール10に樹脂剤3が中空セル2からあふれ出ている部分と足りていない部分とが生じることを防ぐことができる。
【0061】
また、硬化する前に板蓋23で押し潰すことで未硬化樹脂13の厚みを均一にするので、部分的に樹脂剤3が足りなくなる心配がない。そのため余分に多めの未硬化樹脂13で充填する必要がないため、使用する未硬化樹脂13の量を減らすことができる。
したがって本実施形態の製造方法は、必要量の未硬化樹脂13さえあれば均一に樹脂剤3が充填された樹脂シール10を製造できるため、内部にボイド63aのない品質のよい樹脂シール10を、材料の無駄がなく、高い歩留まりで、安定して製造することができる。
【0062】
さらに、先に必要な厚み(多セルコア1の板厚T)に未硬化樹脂13を潰してから多セルコア1と一体化させる。これにより、多セルコア1の板厚Tに合わせて、収まりきらなかった余分な樹脂剤3を切り取る際に、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法よりも、切り取るべき樹脂剤3の量を削減することができる。
このように、本実施形態の製造方法で樹脂シール10を製造することにより、脱泡器具20から出した段階で、余肉のない樹脂シール10を得ることができる。
【0063】
以下、
図14に示した従来の製造方法で製造したハニカムシール64(以下、従来例)と第1,第2実施形態の製造方法で製造した樹脂シール10の比較試験の結果について説明する。
【0064】
図12は、上述した第1実施形態の製造方法で製造した樹脂シール10と、従来例のハニカムシール64の比較断面写真である。
図12(A)は、第1実施形態の製造方法で製造した樹脂シール10であり、
図12(B)は、従来例のハニカムシール64である。
これらの写真に示すように、樹脂シール10の第1実施形態の製造方法は、
図14に示した従来の製造方法に比べて、明らかに、ボイド63aを減少させることができることを確認できた。
【0065】
図13は、第1実施形態及び第2実施形態の製造方法で製造した樹脂シール10と、従来の製造方法で製造したハニカムシール64(従来例)との密度を比較した棒グラフである。
本願の発明者は、第1実施形態、第2実施形態、及び従来例について、2つずつサンプルを採り、それらの密度を計測した。
【0066】
その結果、従来の製造方法で製造したハニカムシール64の密度は、どちらも0.49g/cm3であったのに対し、第1実施形態及び第2実施形態の製造方法で製造した樹脂シール10の密度は、いずれも0.54g/cm3以上と有意に高くなっていることが確認できた。これは、樹脂シール10が従来のものよりも高密度化した分、樹脂シール10に含まれるボイド63aが減少したものと考えられる。
【0067】
このように、発明者は、樹脂シール10の第1実施形態及び第2実施形態の製造方法が従来のものよりボイド63aが少ない品質の良い樹脂シール10を製造できることを確認した。
【0068】
上述した本発明によれば、脱泡器具20の板蓋23が、脱泡器具20の内外の通気性を保ちながら、枠材21の他端部開口21cを塞ぐので、ペースト状ないし粘土状の未硬化樹脂13を脱泡器具20の内部空間25一杯に膨張させることで脱泡させながらも、未硬化樹脂13を脱泡器具20の内部空間25に留めることができる。
したがって、未硬化樹脂13を十分に脱泡することができるので、内部にボイド63aの無い樹脂シール10を、安定して製造することができる。
【0069】
さらに、本発明によれば、オートクレーブ等の大掛かりな装置が不要なため、製造に対する投資が少なく樹脂シール10を量産することができる。
【0070】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 多セルコア、1a 多孔面、1b 外周縁、
2 中空セル、2a 中空、2b 開口部、2c セル壁、
3 樹脂剤、10 樹脂シール、10a 隙間、11 成形前シール、
13 未硬化樹脂、20 脱泡器具、
21 枠材、21a 内面、21b 一端部開口、21c 他端部開口、
21d 端面、
22 土台板、22a 上面、
23 板蓋、23a 棒材、24 通気布、
25 内部空間、26 伸縮装置、
27 脱泡枠、28 成型枠、28a 内面、29 接合部、
31 真空チャンバー、31a 扉、
32 バギングフィルム、34 外部空間、
40 ジェットエンジン、41 動翼、41a 先端、
42 ケーシング、43 圧縮機、44 燃焼器、
45 タービン、46 空気取り入れ口、
47 ジェットノズル、48 ロータ、
60 バギングフィルム、61 ハニカム材、62 セル、
63 樹脂剤、63a ボイド、64 ハニカムシール、
D 筒型セルの開口部の最大径、
T 板厚、L 長さ、W 幅、X 板厚方向、Z 仮想軸