IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

特開2022-87387船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法
<>
  • 特開-船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法 図1
  • 特開-船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法 図2
  • 特開-船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法 図3
  • 特開-船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087387
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20220606BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199295
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉光 亮
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌憲
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB20
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181LL01
5H181LL04
(57)【要約】
【課題】周囲の障害物との衝突を回避しつつ効率よく航行するための船舶の航路情報を生成する船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法を提供する。
【解決手段】船舶航路情報生成システムは、航路情報生成対象の船舶外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した障害物の種別を特定するとともに、前記障害物の将来の予測軌道情報および前記予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する障害物情報生成部と、前記障害物情報生成部で生成された前記障害物の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度情報と、障害物の種別ごとに予め設定された接近可能な最小距離とに基づいて、前記障害物の将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する侵入不可範囲算出部と、前記侵入不可範囲算出部で算出された侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、前記船舶の航路情報を生成する航路情報生成部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航路情報生成対象の船舶外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した障害物の種別を特定するとともに、前記障害物の将来の予測軌道情報および前記予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する障害物情報生成部と、
前記障害物情報生成部で生成された前記障害物の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度情報と、障害物の種別ごとに予め設定された接近可能な最小距離とに基づいて、前記障害物の将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する侵入不可範囲算出部と、
前記侵入不可範囲算出部で算出された侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、前記船舶の航路情報を生成する航路情報生成部と
を備えた船舶航路情報生成システム。
【請求項2】
前記船舶に設置されたレーダ装置による計測結果を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と、当該障害物の速度ベクトルの情報とを取得するレーダ解析情報取得部と、
前記船舶およびその周囲を撮影した撮像情報を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物の方向および当該障害物の大きさの情報を取得する撮像解析情報取得部とをさらに備え、
前記障害物情報生成部は、前記レーダ解析情報取得部で検出された障害物と前記撮像解析情報取得部で検出された障害物とのうち、前記船舶からの方向が一致するものを同一の障害物と判断して対応する情報を取得し、取得した障害物に関する前記船舶からの距離情報、速度ベクトルの情報、および大きさの情報に基づいて当該障害物の種別を特定し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と当該障害物の速度ベクトルの情報とに基づいて、当該障害物の将来の予測軌道情報および精度情報を生成する、請求項1に記載の船舶航路情報生成システム。
【請求項3】
航路情報生成対象の船舶外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した障害物の種別を特定するとともに、前記障害物の将来の予測軌道情報および前記予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する障害物情報生成ステップと、
前記障害物情報生成ステップで生成された前記障害物の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度情報と、障害物の種別ごとに予め設定された接近可能な最小距離とに基づいて、前記障害物の将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する侵入不可範囲算出ステップと、
前記侵入不可範囲算出ステップで算出された侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、前記船舶の航路情報を生成する航路情報生成ステップと
を有する船舶航路情報生成方法。
【請求項4】
前記船舶に設置されたレーダ装置による計測結果を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と、当該障害物の速度ベクトルの情報とを取得するレーダ解析情報取得ステップと、
前記船舶およびその周囲を撮影した撮像情報を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物の方向および当該障害物の大きさの情報を取得する撮像解析情報取得ステップとをさらに備え、
前記障害物情報生成ステップは、前記レーダ解析情報取得ステップで検出された障害物と前記撮像解析情報取得ステップで検出された障害物とのうち、前記船舶からの方向が一致するものを同一の障害物と判断して対応する情報を取得し、取得した障害物に関する前記船舶からの距離情報、速度ベクトルの情報、および大きさの情報に基づいて当該障害物の種別を特定し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と当該障害物の速度ベクトルの情報とに基づいて、当該障害物の将来の予測軌道情報および精度情報を生成する、請求項3に記載の船舶航路情報生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は、他の船舶やブイなどの障害物に衝突しないようにして航行する必要がある。障害物を回避して航行するために例えば、衝突の恐れがある障害物を検知すると、自船舶を減速させて衝突を回避する技術がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、自船舶の発着地点および発着時刻と、周辺の他船舶の航路を予測した予測マップとから他船舶との干渉を回避する自船舶の航路を算出し、算出した航路を航行することで他船舶との衝突を回避する技術がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6608553号公報
【特許文献2】特開2016-60454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術を用いた場合、衝突を回避する手段は減速、停船、または後進のみであるため、多数の船舶が輻輳する中でこれらの手段を採用すると複数の船舶で減速、停船、および後進が頻発して航行時間が長くなってしまう。また、この技術では航路の最適性については考慮されていないため、移動効率が低下して無駄なエネルギー消費が発生する可能性がある。
【0006】
また特許文献2に記載の技術では、周辺の他船舶の航路を予測する予測マップを生成する際に、他船舶に搭載されているAIS(Automatic Identification System/船舶自動識別装置)の情報および衛星から得られる画像情報、すなわちレーダ情報を用いて各船舶の航海ルートを予測している。このAISは、大型船舶への取り付けは義務付けられている一方で、小型船舶は非搭載の場合が多い。また、小型船舶では、AISが搭載されていてもその電源が投入されていない場合がある。また、ブイなどの船舶以外の障害物には、AISが搭載されていない。そのため、AISを搭載していない障害物やAISの電源が投入されていない船舶については、AIS情報を取得することができない。
【0007】
AIS情報を取得できない障害物に関して、特許文献2の技術では、衛星から得られるレーダ情報を用いて他船舶の航路を予測している。しかし、このレーダ情報の更新は30分に1回であり頻度が低いため、航路の予測精度が低くなってしまう。特に、小型船舶は移動方向や速度の変化が大きいため、レーダ情報の更新頻度が低いと航路の予測精度が大きく低下する。他船舶の航路の予測精度が低下すると、自船舶の航路の情報が、保守的で大回りな経路や衝突リスクの高い経路で生成されてしまう。自船舶の航路が大回りな経路で生成されると、自船舶の航行において移動時間が長くなるとともに、燃料等の消費エネルギーが増加するという問題がある。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、周囲の障害物との衝突を回避しつつ効率よく航行するための船舶の航路情報を生成する船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る船舶航路情報生成システムは、航路情報生成対象の船舶外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した障害物の種別を特定するとともに、前記障害物の将来の予測軌道情報および前記予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する障害物情報生成部と、前記障害物情報生成部で生成された前記障害物の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度情報と、障害物の種別ごとに予め設定された接近可能な最小距離とに基づいて、前記障害物の将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する侵入不可範囲算出部と、前記侵入不可範囲算出部で算出された侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、前記船舶の航路情報を生成する航路情報生成部とを備える。
【0010】
上記船舶航路情報生成システムは、前記船舶に設置されたレーダ装置による計測結果を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と、当該障害物の速度ベクトルの情報とを取得するレーダ解析情報取得部と、前記船舶およびその周囲を撮影した撮像情報を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物の方向および当該障害物の大きさの情報を取得する撮像解析情報取得部とをさらに備え、前記障害物情報生成部が、前記レーダ解析情報取得部で検出された障害物と前記撮像解析情報取得部で検出された障害物とのうち、前記船舶からの方向が一致するものを同一の障害物と判断して対応する情報を取得し、取得した障害物に関する前記船舶からの距離情報、速度ベクトルの情報、および大きさの情報に基づいて当該障害物の種別を特定し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と当該障害物の速度ベクトルの情報とに基づいて、当該障害物の将来の予測軌道情報および精度情報を生成するようにしてもよい。
【0011】
本開示に係る船舶航路情報生成方法は、航路情報生成対象の船舶外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した障害物の種別を特定するとともに、前記障害物の将来の予測軌道情報および前記予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する障害物情報生成ステップと、前記障害物情報生成ステップで生成された前記障害物の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度情報と、障害物の種別ごとに予め設定された接近可能な最小距離とに基づいて、前記障害物の将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する侵入不可範囲算出ステップと、前記侵入不可範囲算出ステップで算出された侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、前記船舶の航路情報を生成する航路情報生成ステップとを有する。
【0012】
上記船舶航路情報生成方法は、前記船舶に設置されたレーダ装置による計測結果を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と、当該障害物の速度ベクトルの情報とを取得するレーダ解析情報取得ステップと、前記船舶およびその周囲を撮影した撮像情報を解析して前記船舶から所定範囲内にある障害物を検出し、前記船舶から当該障害物の方向および当該障害物の大きさの情報を取得する撮像解析情報取得ステップとをさらに備え、前記障害物情報生成ステップで、前記レーダ解析情報取得ステップで検出された障害物と前記撮像解析情報取得ステップで検出された障害物とのうち、前記船舶からの方向が一致するものを同一の障害物と判断して対応する情報を取得し、取得した障害物に関する前記船舶からの距離情報、速度ベクトルの情報、および大きさの情報に基づいて当該障害物の種別を特定し、前記船舶から当該障害物までの距離および方向の情報と当該障害物の速度ベクトルの情報とに基づいて、当該障害物の将来の予測軌道情報および精度情報を生成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の船舶航路情報生成システムおよび船舶航路情報生成方法によれば、周囲の障害物との衝突を回避しつつ効率よく航行するための船舶の航路情報を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る船舶航路情報生成システムの構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る船舶航路情報生成システムの動作を示すシーケンス図である。
図3】一実施形態に係る船舶航路情報生成システムで算出された、(a)大型船の予測位置情報および精度情報を模式的に示した図、(b)小型船の予測位置情報および精度情報を模式的に示した図、(c)固定障害物の予測位置情報および精度情報を模式的に示した図である。
図4】一実施形態に係る船舶航路情報生成システムで算出された、各障害物の予測位置情報および侵入不可範囲と、自船舶の航路情報とを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、船舶航路情報生成システムの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
〈一実施形態による船舶航路情報生成システムの構成〉
本実施形態の船舶航路情報生成システム1は航路情報生成対象の船舶Aに搭載され、図1に示すように、レーダ装置10と、レーダ情報解析装置11と、カメラ装置20と、撮像情報解析装置21と、障害物情報生成装置30と、航路情報生成装置40とを備える。
【0017】
レーダ装置10は、電波を発射して船舶A外の物標を捕捉することで周囲の測距範囲内の所定方向にある障害物までの距離を計測する。レーダ情報解析装置11は、レーダ装置10による計測結果を解析して、船舶Aから測距範囲内にある各障害物までの距離Dおよび方向(方位角)E1と、当該障害物の速度ベクトルVとを算出する。このレーダ情報解析装置11の機能は、船舶に設置されるARPA(Automatic Radar Plotting Aids,自動衝突予防援助装置)やTT(Target Tracking)に搭載されている。船舶A外の障害物には、船舶のような移動障害物の他に、ブイ等の固定障害物も含まれる。
【0018】
カメラ装置20は、船舶Aおよびその周囲を撮影する。撮像情報解析装置21は、カメラ装置20で撮影された撮像情報を解析して撮影範囲内にある船舶A以外の船舶等を障害物として検出し、船舶Aから各障害物の方向(方位角)E2および当該障害物の大きさSを算出する。
【0019】
障害物情報生成装置30は、レーダ解析情報取得部31と、撮像解析情報取得部32と、障害物情報生成部33とを有する。レーダ解析情報取得部31は、レーダ情報解析装置11で算出された情報を取得する。撮像解析情報取得部32は、撮像情報解析装置21で算出された情報を取得する。
【0020】
障害物情報生成部33は、レーダ解析情報取得部31で取得された情報および撮像解析情報取得部32で取得された情報に基づいて、船舶A外の所定範囲内にある障害物を検出し、検出した各障害物の種別を特定する。また障害物情報生成部33は、これらの情報に基づいて、各障害物の将来の予測軌道情報および当該予測軌道情報の精度を示す精度情報を生成する。
【0021】
航路情報生成装置40は、接近可能距離情報記憶部41と、侵入不可範囲算出部42と、航路情報生成部43とを有する。接近可能距離情報記憶部41は、障害物の種別ごとに予め設定された、接近可能な最小距離の情報(最小接近可能距離情報)を記憶する。侵入不可範囲算出部42は、障害物情報生成装置30で生成された各障害物の予測軌道情報およびその精度情報と、接近可能距離情報記憶部41に記憶された情報に基づいて、検出された障害物ごとおよび将来の経過時間ごとの侵入不可範囲を算出する。航路情報生成部43は、侵入不可範囲算出部42で算出した各障害物の侵入不可範囲に侵入せずに進行するように、船舶Aの航路情報を生成する。
【0022】
〈一実施形態による船舶航路情報生成システムの動作〉
船舶航路情報生成システム1の動作の例として、船舶Aが現在位置Bから目的地Cに移動するための航路情報を生成する場合について、図2図4を参照して説明する。船舶航路情報生成システム1の稼動中、レーダ装置10は所定時間間隔(例えば1秒間隔)で船舶A外の所定の測距範囲内にある障害物を検出し、当該障害物までの距離および検出方向の情報を取得する。レーダ情報解析装置11は、レーダ装置10で取得された情報を解析して、船舶Aの現在位置Bから各障害物までの距離Dおよび方向(方位角)Eaと、各障害物の速度ベクトルVとを算出する。レーダ情報解析装置11は、算出した情報を障害物情報生成装置30に送信する。
【0023】
また、船舶航路情報生成システム1の稼動中、カメラ装置20は船舶Aおよびその周辺を撮影する。撮像情報解析装置21は、カメラ装置20で撮影された撮像情報を解析して撮影範囲内にある障害物を検出し、船舶Aの現在位置Bから各障害物の方向Ebおよび各障害物の大きさSを算出する。撮像情報解析装置21は撮像情報の解析処理に、画像処理技術、またはSSD(Single Shot MultiBox Detector)やYOLO(You only Look Once)といった深層学習ベースの物体検出技術を用いることができる。
【0024】
深層学習ベースの物体検出技術を用いる場合、撮像情報解析装置21は、撮像情報上に障害物の位置を、該当するサイズのバウンティングボックスで示す。そして、撮像情報解析装置21は、船舶Aの中心位置からバウンティングボックスの中心位置への方向を、船舶Aの現在位置Bから当該障害物までの方向Ebとして算出する。また撮像情報解析装置21は、バウンティングボックスのサイズから、障害物の大きさSを算出する。撮像情報解析装置21は、算出した情報を障害物情報生成装置30に送信する。
【0025】
レーダ情報解析装置11から送信された情報、および撮像情報解析装置21から送信された情報に基づいて、障害物情報生成装置30が実行する処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0026】
レーダ情報解析装置11から送信された各障害物までの距離Dおよび方向(方位角)Eaと、各障害物の速度ベクトルVとは、障害物情報生成装置30のレーダ解析情報取得部31で取得される(S1)。また、撮像情報解析装置21から送信された各障害物の方向Ebおよび各障害物の大きさSの情報は、障害物情報生成装置30の撮像解析情報取得部32で取得される(S2)。
【0027】
次に、障害物情報生成部33が、レーダ解析情報取得部31で検出された障害物と撮像解析情報取得部32で検出された障害物とのうち、船舶Aからの方向が一致するものを同一の障害物と判断する。つまり、レーダ解析情報取得部31で取得された方向Eaと、撮像解析情報取得部32で取得された方向Ebとが一致する障害物を、同一の障害物として抽出する(S3)。そして障害物情報生成部33は、抽出した障害物について、レーダ解析情報取得部31で取得された距離Dと、撮像解析情報取得部32で取得された速度ベクトルVと、大きさSとに基づいて、種別(大型船舶、小型船舶、または固定障害物)を特定する(S4)。
【0028】
障害物の種別を特定するために、障害物情報生成部33は、自船からの距離に応じた撮像情報内の各障害物の大きさSをプロットすることで生成した分類用マップを保持しておく。この分類用マップは例えば、予め自船から所定距離(例えば100m)離れるごとに撮影した大型船舶、小型船舶、および固定障害物の撮像情報に基づいて生成される。障害物情報生成部33は、ステップS3で抽出した障害物について、保持した分類用マップを用いて種別を特定する。このとき障害物情報生成部33は、速度が0の障害物を固定障害物として特定する。
【0029】
上述した処理により、障害物情報生成部33は、船舶Aの周辺にある障害物として、大型船舶P、小型船舶Q、および固定障害物Rを検出したものとする。障害物情報生成部33は、大型船舶Pまでの距離Dおよび方向Ea、Ebに基づいて位置F1を特定するとともに、その速度ベクトルV1を取得する。また障害物情報生成部33は、同様にして小型船舶Qの位置F2とその速度ベクトルV2、および固定障害物Rの位置F3の情報を取得する。
【0030】
次に、障害物情報生成部33は、取得した情報に基づいて、大型船舶Pについての将来の予測軌道情報として、所定時間経過ごとの位置、速度、角度、および旋回速度の情報を含む状態量X1を、下記式(1)に基づいて算出する。
【0031】
【数1】

ここでf1は大型船舶Pの運動モデル、kは時刻、X1 kは時刻kの大型船舶Pの状態量(位置、速度、角度、旋回速度)、Nは予測ステップ数を示す。なお、大型船舶Pの運動モデルの方程式f1は等速運動を仮定してもよいし、AIS情報があればそれに基づいた運動モデルでもよい。
【0032】
また、障害物情報生成部33は、大型船舶Pについて、算出した状態量の不確かさを示す精度情報を、下記式(2)に基づいて共分散行列CovX1として求める。
【0033】
【数2】

ここで、dτは刻み時間、N1 procは大型船舶Pのプロセスノイズを示す。プロセスノイズとは、運動モデルの不確かさを意味する。大型船舶の場合、速度および旋回速度の変化が小さいため、プロセスノイズは比較的小さい値を定める。プロセスノイズの値は実際の大型船舶Pの動作データから決めることができる。
【0034】
図3(a)は、三角印で示す大型船舶Pについて算出された予測位置情報X1 k+1~X1 k+5に対応する位置を点で示し、これらの予測位置情報X1 k+1~X1 k+5それぞれの精度情報を円で示した図である。精度情報は、精度が低い(不確かさが高い)ほど、大きな円で示される。大型船舶は航行中の速度の変化が小さくほぼ等速で移動するため、連続する予測位置同士の間隔はほぼ同等である。また、大型船舶は航行中の速度および旋回速度の変化が小さいため精度情報の変化が少なく、時間が経過しても各予測位置における円の大きさはほぼ変わらない。
【0035】
また、障害物情報生成部33は、小型船舶Qについても大型船舶Pの場合と同様に将来の予測軌道情報として、所定時間経過ごとの状態量X2を下記式(3)に基づいて算出する。
【0036】
【数3】

ここで、f2は小型船舶Qの運動モデル、X2 kは時刻kの小型船舶Qの状態量(位置、速度、角度、旋回速度)である。
【0037】
また、障害物情報生成部33は、小型船舶Qについても同様に、式(3)で算出した状態量の不確かさを示す精度情報を、下記式(4)に基づいて共分散行列CovX2として求める。
【0038】
【数4】

ここで、N2 procは小型船舶Qのプロセスノイズを示す。小型船舶は速度および旋回速度の変化が大きいため、プロセスノイズは、大型船舶Pの場合と比べて大きな値を設定する。プロセスノイズの値は実際の小型船舶Qの動作データから決めることができる。
【0039】
図3(b)は、三角印で示す小型船舶Qについて算出された予測位置情報X2 k+1~X2 k+5に対応する位置を点で示し、これらの予測位置情報X2 k+1~X2 k+5それぞれの精度情報を円で示した図である。小型船舶Qは航行中の速度および旋回速度の変化が大きいため、時間が経つに連れて各予測位置の精度情報が低くなり円の大きさが大きくなっている。
【0040】
また、障害物情報生成部33は、固定障害物Rについても大型船舶Pおよび小型船舶Qの場合と同様に将来の予測軌道情報として、所定時間経過ごとの状態量X3を下記式(5)に基づいて算出する。
【0041】
【数5】

ここで、f3は固定障害物Rの運動モデル、X3 kは時刻kの固定障害物の状態量(位置、速度、角度、旋回速度)である。
【0042】
また、障害物情報生成部33は、固定障害物Rについても同様に、算出した状態量の不確かさを示す精度情報を、下記式(6)に基づいて共分散行列CovX3として求める。
【0043】
【数6】

ここで、N3 procは固定障害物Rのプロセスノイズである。固定障害物Rは自律移動しないため、プロセスノイズは0やそれに近い値としてよい。
【0044】
図3(c)は、四角印で示す固定障害物Rについて算出された予測位置情報X3 k+1~X3 k+5に対応する位置を点で示し、これらの予測位置情報X3 k+1~X3 k+5の精度情報を円で示した図である。固定障害物Rは移動がないため、時間が経過しても予測位置および精度情報は変わらない。
【0045】
上述したように、船舶Aの周辺にある大型船舶P、小型船舶Q、および固定障害物Rの将来の予測軌道情報および予測軌道情報の精度情報を取得すると、障害物情報生成部33は、これらの情報を航路情報生成装置40に送信する(S5)。
【0046】
航路情報生成装置40は、下記式(7)を運動モデルとするモデル予測制御により最適な航路情報を生成する。式(7)において、Xkは船舶Aの時刻kの状態量を示しUkは船舶Aの時刻kの制御量を示し、XK+1は時刻K+1の船舶Aの状態量を示す。
【数7】
【0047】
まず侵入不可範囲算出部42においてモデル予測制御の制約として、障害物情報生成装置30から取得した情報と、接近可能距離情報記憶部41に記憶された情報とに基づいて、検出された障害物ごとおよび経過時間ごとの侵入不可範囲が算出される。障害物ごとの侵入不可範囲の算出処理について、以下に説明する。
【0048】
侵入不可範囲算出部42は、各大型船舶Pについて、下記式(8)に基づいて、不確かさを考慮した最小接近可能距離h1を経過時間(i)ごとに算出する。
【0049】
【数8】
【0050】
ここで、Uiとは以下のような制御量の時間経過を並べた行列である。
【数9】

また、g1,i (Xk, Ui) は、下記式(10)で算出される。
【数10】
【0051】
上記式(10)において、D1 minは、接近可能距離情報記憶部41から取得した、大型船舶Pに対する最小接近可能距離である。また、|Xk+i - X1 k+i|は、経過時間(i)における船舶Aと該当する大型船舶Pとの状態量の差分、つまり船舶Aと当該大型船舶Pとの間の距離を示す。
【0052】
侵入不可範囲算出部42は式(8)により、式(10)で算出されたg1,I (Xk, Ui) の値に大型船舶Pの精度情報に対応する値(式(8)の右辺第2項)を加算して、大型船舶Pについて不確かさを考慮した最小接近可能距離h1,iを算出する。
【0053】
また侵入不可範囲算出部42は、小型船舶Qについても同様に、下記式(11)に基づいて、不確かさを考慮した最小接近可能距離h2を経過時間(i)ごとに算出する。
【0054】
【数11】
【0055】
ここで、g2,i (Xk, Ui) は、下記式(12)で算出される。
【数12】
【0056】
上記式(12)において、D2 minは、接近可能距離情報記憶部41から取得した、小型船舶Qに対する最小接近可能距離である。また、|Xk+i - X2 k+i|は、経過時間(i)における船舶Aと該当する小型船舶Qとの状態量の差分、つまり船舶Aと当該小型船舶Qとの間の距離を示す。
【0057】
侵入不可範囲算出部42は式(12)により、式(11)で算出されたg2,i (Xk, Ui) の値に小型船舶Qの精度情報に対応する値(式(11)の右辺第2項)を加算して、小型船舶Qについて不確かさを考慮した最小接近可能距離h2,iを算出する。
【0058】
また侵入不可範囲算出部42は、固定障害物Rについても同様に、下記式(13)に基づいて、不確かさを考慮した最小接近可能距離h3を経過時間(i)ごとに算出する。
【0059】
【数13】
【0060】
ここで、g3,i (Xk, Ui) は、下記式(14)で算出される。
【数14】
【0061】
上記式(14)において、D3 minは、接近可能距離情報記憶部41から取得した、固定障害物Rに対する最小接近可能距離である。また、|Xk+i - X3 k+i|は、経過時間(i)における船舶Aと該当する固定障害物Rとの状態量の差分、つまり船舶Aと当該固定障害物Rとの間の距離を示す。
【0062】
侵入不可範囲算出部42は式(14)により、式(13)で算出されたg3,i (Xk, Ui) の値に固定障害物Rの精度情報に対応する値(式(13)の右辺第2項)を加算して、固定障害物Rについて不確かさを考慮した最小接近可能距離h3,iを算出する。
【0063】
船舶Aが、各障害物に対して最小接近可能距離以下に近づかないようにするためには、算出された最小接近可能距離h1,i、h2,i、およびh3,iは、下記式(15)で示されるように負の値となる必要がある。
【0064】
【数15】
【0065】
そして侵入不可範囲算出部42は、経過時間(i)における大型船舶Pの位置を中心とし、算出された最小接近可能距離h1,iを半径とする円で示す範囲を、経過時間(i)における当該大型船舶Pの侵入不可範囲Paとして算出する。また侵入不可範囲算出部42は、経過時間(i)における小型船舶Qの位置を中心とし、算出された最小接近可能距離h2,iを半径とする円で示す範囲を、経過時間(i)における当該小型船舶Qの侵入不可範囲Qaとして算出する。また侵入不可範囲算出部42は、固定障害物Rの位置を中心とし、算出された最小接近可能距離h3,iを半径とする円で示す範囲を、経過時間(i)における当該固定障害物Rの侵入不可範囲Raとして算出する(S6)。
【0066】
ここで、大型船舶Pは、上述したように速度および旋回速度の変化が小さくプロセスノイズが小さいため精度情報CovX1 k+1は小さいが、最小接近可能距離D1 minは大きく設定される。これにより、大型船舶Pに関する侵入不可範囲Paは大きいが、時間経過による変化は少ない。
【0067】
また、小型船舶Qは、速度および旋回速度の変化が大きくプロセスノイズが大型船舶Pよりも大きいため精度情報CovX2 k+1は大きいが、最小接近可能距離D2 minは小さく設定される。これにより、小型船舶Qに関する侵入不可範囲Qaは大型船舶の侵入不可範囲Paよりも小さいが、時間が経過するごとに広がっていく。
【0068】
また、固定障害物Rは、精度情報CovX3 k+1および最小接近可能距離D3 minのいずれも小さく設定されるため侵入不可範囲Raは最も小さい。
【0069】
次に、航路情報生成部43が、各障害物を回避しつつ船舶Aが目的地Cまで航行するための最適な制御量を算出する。最適な制御量を算出するためには,上述した制約と、評価関数J(U)を必要とする。ここでUとは以下のような制御量の時間経過を並べた行列である。
【数16】
【0070】
モデル予測制御では、制約条件を満たしつつ評価関数J(U)を最小にするような制御量UOPTを算出することで最適な制御量を算出する。ここでUOPTとは式(17)のような行列を意味する。
【数17】
【0071】
UOPTを算出するためには、例えば内点法やSQP法などに代表されるような制約付き非線形最適化問題の解法を利用すればよい。最適な制御量とはUOPTのうちの一番初めの要素UOPT Kであり、これを船舶Aの制御量として算出する。
【0072】
評価関数の設定方法は、モデル予測制御で用いられる一般的な方法、例えば2次形式を用いることができる。また、本実施形態においては説明を簡単にするために評価関数の予測ホライズンと制御ホライズンとを同値のNとし、終端制約も設けていないが、これらを一般的なモデル予測制御の場合と同様に与えてもよい。また制約付き非線形最適化問題の解法に、モデル予測制御の実時間計算手法であるC/GMRES法に代表されるようなモデル予測制御専用ソルバーを適用することも可能である。
【0073】
このようにして取得された情報に基づいて、航路情報生成部43は、船舶Aが周囲の各障害物の侵入不可範囲に侵入せずに現在位置Bから目的地Cまで移動する最適な航路情報Mを生成する(S8)。
【0074】
生成した航路情報Mは、図4に示すように船舶A内の表示装置(図示せず)に表示される。図4において、大型船舶Pの経過時間i=1~5それぞれの侵入不可範囲Pa1~Pa5、小型船舶Qの経過時間i=1~5それぞれの侵入不可範囲Qa1~Qa5、および固定障害物Rの経過時間i=1~5それぞれの侵入不可範囲Ra1~Ra5を、実線の円で示している。また、船舶Aの航路情報Mを、点線で示している。生成された航路情報Mは、船舶Aの操縦の制御に用いられる。
【0075】
以上の実施形態によれば、航路情報生成対象の船舶の周囲にある障害物の種別を判断し、種別ごとの特性に基づいて算出される制約条件を考慮してこれらへの接近を回避することで、障害物との衝突を回避しつつ効率よく航行可能な航路情報を生成することができる。
【0076】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 船舶航路情報生成システム
10 レーダ装置
11 レーダ情報解析装置
20 カメラ装置
21 撮像情報解析装置
30 障害物情報生成装置
31 レーダ解析情報取得部
32 撮像解析情報取得部
33 障害物情報生成部
40 航路情報生成装置
41 接近可能距離情報記憶部
42 侵入不可範囲算出部
43 航路情報生成部
図1
図2
図3
図4