(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087415
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】耐火ケーブル、及び、耐火ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20220606BHJP
H01B 13/26 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B13/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199337
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭一
【テーマコード(参考)】
5G315
5G327
【Fターム(参考)】
5G315CA01
5G315CB01
5G315CD02
5G315CD11
5G327CA08
5G327CA15
5G327CA16
5G327CC04
(57)【要約】
【課題】耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、耐火性能が低下することがない耐火ケーブル、及び、この耐火ケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】耐火ケーブル1は、導体2と、導体2の外周に端部同士が重なり合うように巻き付けられる耐火テープ3と、耐火テープ3の外周に被覆される絶縁体5と、を備える2本の耐火電線6と、各耐火電線6の外側に設けられるシース9と、を備える。耐火テープ3は、耐火層と、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材からなる耐熱接着層と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の外周に端部同士が重なり合うように巻き付けられる耐火テープと、該耐火テープの外周に被覆される絶縁体と、を備える1又は2本以上の耐火電線と、
該耐火電線の外側に設けられるシースと、
を備え、
前記耐火テープは、耐火層と、該耐火層に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材からなる耐熱接着層と、を備える
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火ケーブルにおいて、
前記耐火テープを前記導体の外周に巻き付けた状態にて、前記耐熱接着層が前記耐火層の外側に配置される
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐火ケーブルにおいて、
前記耐火テープは、前記導体の外周に縦添え巻きにて巻き付けられている
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の耐火ケーブルにおいて、
前記耐火テープの前記端部同士が重なり合う部分は、重ね合わせ部として形成され、
該重ね合わせ部は、前記接着材にて接着されている
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の耐火ケーブルにおいて、
前記接着材は、100°C~150°Cに達すると接着硬化するものである
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5に記載の耐火ケーブルにおいて、
当該耐火ケーブルは、前記耐火テープの外周に所定のピッチ間隔で巻き付けられる耐火糸を備える
ことを特徴とする耐火ケーブル。
【請求項7】
導体の外周に端部同士が重なり合うように耐火テープを巻き付け、該耐火テープの外周に絶縁体を押出成形にて形成することにより、1又は2本以上の耐火電線を製造する耐火電線製造工程と、
前記耐火電線の外側にシースを押出成形にて形成するシース形成工程と、
を含み、
前記耐火電線製造工程では、前記耐火テープとして、耐火層と、該耐火層に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材からなる耐熱接着層と、を備えるものを用いる
ことを特徴とする耐火ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1本又は2本以上の耐火電線を備える耐火ケーブル、及び、この耐火ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、火災時に消火設備等への電源供給をできる限り長時間にわたって維持する等の目的から、耐火性能を高めた耐火ケーブルが提案されている。耐火ケーブルは、平成9年消防庁告示第10号で定められたJIS C 1304の温度曲線にしたがって30分間に840°Cまで昇温させたときに、規定の耐電圧特性及び絶縁抵抗特性を有することが要求されている。このような耐火ケーブルとしては、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示された耐火ケーブルを
図6及び
図7に図示する。
図6及び
図7に図示する従来技術に係る耐火ケーブル100は、2本の撚り合わされた耐火電線101と、2本の耐火電線101の外周に配置された介在物102と、介在体102及び2本の耐火電線101の外周に巻き付けされた押さえ巻きテープ103と、押さえ巻きテープ103の外周に被覆されるシース104と、を備えている。
【0004】
図6及び
図7に図示するように、耐火電線101は、導体105と、導体105の外周に重ね巻き(端部が重なり合うよう螺旋巻き)した耐火テープ106と、耐火テープ106の外周に被覆される絶縁体107と、を備えている。
【0005】
図8に図示するように、耐火テープ106は、耐火層108と、耐火層108に積層されるフィルム109と、を備えている。耐火層108は、無機物である雲母の鱗片を隙間なく配置された層である。フィルム109は、例えば、ポリエチレンからなるフィルムである。
図8に図示するように、耐火テープ106は、耐火層108が導体105側として巻き付けられている。従来技術では、耐火テープ106は、耐火性能を考慮した場合、特に図示しないが、導体105の外周に2枚巻き付けられることが主流である。
【0006】
従来技術では、例えば、火災等により耐火ケーブル100が燃焼した場合、最終的にはシース104、絶縁体107等が燃え尽き、耐火層108(
図8参照)が残存することになる。このように、耐火ケーブル100は、耐火層108が残存することにより、火災時であっても、一時的に電気性能を機能させ、消火設備等への電源供給を維持できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来技術では、耐火ケーブル100の電気性能を機能させるために、耐火層108の雲母の鱗片が破損(亀裂、欠落)無く均一な状態で残存することが必要となっている。これは、耐火層108に破損が生じてしまうと、耐火性能が低下してしまう他、絶縁性能が低下してしまう虞や、破損部分からの炭化物等の導電性物質が侵入する虞があるためである。
【0009】
しかしながら、従来技術では、耐火ケーブル100に外力が加えられることにより(例えば、耐火ケーブル100の配索時に、耐火ケーブル100を極度に曲げてしまう等により)、
図9に図示するように、耐火層108に亀裂110が生じてしまう虞があった。このため、従来技術では、耐火層108に亀裂110等の破損が生じてしまった場合であっても、耐火ケーブル100としての性能が低下しないようにする必要があった。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、耐火性能が低下することがない耐火ケーブル、及び、この耐火ケーブルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の耐火ケーブルは、導体と、該導体の外周に端部同士が重なり合うように巻き付けられる耐火テープと、該耐火テープの外周に被覆される絶縁体と、を備える1又は2本以上の耐火電線と、該耐火電線の外側に設けられるシースと、を備え、前記耐火テープは、耐火層と、該耐火層に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材からなる耐熱接着層と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記(1)のような特徴を有する本発明によれば、耐火層に耐熱接着層が積層されることから、耐火層に亀裂等の破損が生じてしまった場合であっても、火災等の熱により接着硬化する接着材からなる耐熱接着層が耐火層の代わりとなり、破損が生じた耐火層を補うため、破損が生じた耐火層の耐火性能が補われる。また、本発明によれば、破損が生じた耐火層の耐火性能が耐熱接着層によって補われることにより、耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、絶縁性能が確保されるとともに、破損部分から導体側への炭化物等の導電性物質の侵入が防止される。
【0013】
(2)請求項2記載の本発明の耐火ケーブルは、請求項1に記載の耐火ケーブルにおいて、前記耐火テープを前記導体の外周に巻き付けた状態にて、前記耐熱接着層が前記耐火層の外側に配置されることを特徴とする。
【0014】
上記(2)のような特徴を有する本発明によれば、耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、耐熱接着層が耐火層の外側に配置されることにより、耐熱接着層が耐火層の外面を覆って破損が生じた耐火層を補うため、破損が生じた耐火層の耐火性能が、より確実に補われる。また、本発明によれば、耐熱接着層が耐火層の外面を覆って破損が生じた耐火層を補うため、絶縁性能が、より確実に確保され、また、破損部分から導体側への炭化物等の導電性物質の侵入が、より確実に防止される。
【0015】
(3)請求項3記載の本発明の耐火ケーブルは、請求項1又は2に記載の耐火ケーブルにおいて、前記耐火テープは、前記導体の外周に縦添え巻きにて巻き付けられていることを特徴とする。
【0016】
上記(3)のような特徴を有する本発明によれば、耐火テープが縦添え巻きにて巻き付けられていることから、従来技術のように導体の外周に重ね巻きにて巻き付ける場合に比べて、耐火テープの巻き付け作業における作業性が良好になる。
【0017】
(4)請求項4記載の本発明の耐火ケーブルは、請求項1、2又は3に記載の耐火ケーブルにおいて、前記耐火テープの前記端部同士が重なり合う部分は、重ね合わせ部として形成され、該重ね合わせ部は、前記接着材にて接着されていることを特徴とする。
【0018】
上記(4)のような特徴を有する本発明によれば、重ね合わせ部が、火災等の熱により接着硬化する接着材にて接着されることにより、耐火性能が、さらに向上するとともに、重ね合わせ部の開きによる導体側への導電性物質の侵入が防止される。
【0019】
(5)請求項5記載の本発明の耐火ケーブルは、請求項1、2、3又は4に記載の耐火ケーブルにおいて、前記接着材は、100°C~150°Cに達すると接着硬化するものであることを特徴とする。
【0020】
上記(5)のような特徴を有する本発明によれば、耐熱接着層を構成し、また、重ね合わせ部の接着に用いられる接着材は、100°C~150°Cで接着硬化することから、例えば、火災等の熱のような高温が加わることにより硬化する。ここで、耐火テープの外周に絶縁体を押出成形にて形成する際、絶縁体の材料は180°C付近の温度で押し出されているが、絶縁体の押出成形直後に冷却するため、耐火テープにかかる温度は100°C未満である。このように、絶縁体の押出成形時に耐火テープにかかる温度は、接着材が接着硬化する温度(100°C~150°C)に達することはない。したがって、本発明によれば、絶縁体の押出成形による接着材の硬化は生じない。
【0021】
(6)請求項6記載の本発明の耐火ケーブルは、請求項1、2、3、4又は5に記載の耐火ケーブルにおいて、当該耐火ケーブルは、前記耐火テープの外周に所定のピッチ間隔で巻き付けられる耐火糸を備えることを特徴とする。
【0022】
上記(6)のような特徴を有する本発明によれば、耐火糸を所定のピッチ間隔で巻き付けることにより耐火テープの開きが、より確実に抑制されるため、耐火テープが隙間の無いように巻き付けられる。これにより、耐火テープの開きによる導体側への導電性物質の侵入が、より確実に防止される。
【0023】
(7)上記課題を解決するためになされた請求項7記載の本発明の耐火ケーブルの製造方法は、導体の外周に端部同士が重なり合うように耐火テープを巻き付け、該耐火テープの外周に絶縁体を押出成形にて形成することにより、1又は2本以上の耐火電線を製造する耐火電線製造工程と、前記耐火電線の外側にシースを押出成形にて形成するシース形成工程と、を含み、前記耐火電線製造工程では、前記耐火テープとして、耐火層と、該耐火層に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材からなる耐熱接着層と、を備えるものを用いることを特徴とする。
【0024】
上記(7)のような特徴を有する本発明によれば、耐火層に耐熱接着層が積層されることから、耐火層に亀裂等の破損が生じてしまった場合であっても、火災等の熱により接着硬化する接着材からなる耐熱接着層が耐火層の代わりとなり、破損が生じた耐火層を補うため、破損が生じた耐火層の耐火性能が補われる耐火ケーブルが製造される。また、本発明によれば、破損が生じた耐火層の耐火性能が耐熱接着層によって補われることにより、耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、絶縁性能が確保されるとともに、破損部分から導体側への炭化物等の導電性物質の侵入が防止される耐火ケーブルが製造される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐火層に破損が生じてしまった場合であっても、耐火ケーブルの耐火性能が低下することがないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る耐火ケーブルの実施例を示す一部破断斜視図である。
【
図3】
図2における矢印Bの指示する部分の拡大断面図である。
【
図4】
図3における仮想線Cにて囲まれた部分の拡大断面図である。
【
図6】従来技術に係る耐火ケーブルを示す一部破断斜視図である。
【
図8】
図7における矢印Eの指示する部分の拡大断面図である。
【
図9】従来技術において耐火テープの耐火層に亀裂が生じた状態における
図7における矢印Fの指示する部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、
図1-
図5を参照しながら、本発明に係る耐火ケーブルの実施例について説明する。
【実施例0028】
図1は本発明に係る耐火ケーブルの実施例を示す一部破断斜視図、
図2は
図1におけるA-A間断面図、
図3は
図2における矢印Bの指示する部分の拡大断面図、
図4は
図3における仮想線Cにて囲まれた部分の拡大断面図、
図5は、耐火電線を示す一部破断斜視図である。
【0029】
図1及び
図2において、引用符号1は、本発明に係る耐火ケーブルの実施例を示している。本実施例における耐火ケーブル1は、多心の耐火ケーブルの場合である。耐火ケーブル1は、導体2、耐火テープ3、耐火糸4、及び、絶縁体5を有する複数本(本実施例においては、2本)の耐火電線6と、介在物7と、押さえ巻きテープ8と、シース9と、を備えている。なお、耐火ケーブル1のサイズは、14sq以上、且つ、400sq以下であるものとする(上記サイズは、一例であるものとする)。以下、耐火ケーブル1の各構成について説明する。
【0030】
まず、耐火電線6について説明する。
図1及び
図2に図示する耐火電線6は、先に説明した通り、複数本備えている。本実施例では、耐火ケーブル1は、耐火電線6を2本備えて構成されているが、これに限定されるものではない。その他、詳細な説明や図示を省略するが、耐火電線6を1本備えて構成されるものであってもよいものとする。このように、耐火電線6を1本備える構成の耐火ケーブルには、介在物7、押さえ巻きテープ8を備えていないものとする。また、詳細な説明や図示を省略するが、耐火電線6を3本以上備えて構成されるものであってもよいものとする。
【0031】
図1及び
図2に図示する耐火電線6は、先に説明した通り、導体2と、耐火テープ3と、耐火糸4と、絶縁体5と、を有している。
図1及び
図2に図示する導体2は、電流供給を行うものであり、本実施例では、断面円形の単芯導体である。導体は、銅、又は、銅合金、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等により形成されている。
【0032】
図1及び
図2に図示する耐火テープ3は、長尺の帯状に形成されている。耐火テープ3は、耐火テープ3の長手方向の幅が導体2の長手方向を覆うことが可能な幅に形成され、且つ、耐火テープ3の短手方向の幅が導体2の外周を覆うことが可能な幅に形成されている。
【0033】
図1及び
図2に図示する耐火テープ3は、導体2の外周に隙間が無いように巻き付けられる。
図3に図示するように、耐火テープ3は、導体2の外周に耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とが重なり合うように(導体2の外周に耐火テープ3の端部同士が重なり合うように)巻き付けられている。
【0034】
ここで、本実施例における耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とは、特許請求の範囲に記載される「端部」に相当するものである。
【0035】
図4に図示するように、耐火テープ3は、耐火層13と、耐火層13に積層される耐熱接着層14と、耐火層13及び耐熱接着層14を、この積層方向から挟むフィルム15、16と、を備えている。
【0036】
図4に図示する耐火層13は、耐火性能を有する層であり、無機物である雲母(マイカ)の鱗片を隙間なく配置された層である。したがって、耐火層13は、「雲母層」と呼んでもよいものとする。
【0037】
図4に図示する耐熱接着層14は、耐火層13の一方の外面18を覆うように配置されている。耐熱接着層14は、耐火ケーブル1の屈曲等の外力が加えられることにより、耐火層13に亀裂等の破損が生じてしまった場合において、耐火層13を補い、破損が生じた耐火層13の耐火性能を補強する層として設けられている。また、耐熱接着層14は、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、耐火層13を補い、絶縁性能を確保するとともに、破損部分から導体2側への炭化物等の導電性物質の侵入を防止するための層としても設けられている。
【0038】
図4に図示する耐熱接着層14は、耐熱性能に優れた接着材17からなる層である。接着材17は、アルミナ(酸化アルミニウム)、及び、シリカを主成分として含有し、一定の温度に達すると接着硬化することを特長とする耐熱接着材(熱硬化性接着材)である。耐熱接着層14は、「熱硬化性接着層」と呼んでもよいものとする。
【0039】
接着材17が接着硬化する上記「一定の温度」は、本実施例においては、100°C~150°Cであるものとする。接着材17は、アルミナ、及び、シリカを主成分として含有することで、上記のような高温で接着硬化を開始する。このような性質を有する接着材17は、例えば、火災等の熱のような高温が加わることにより硬化する。このような接着材17からなる耐熱接着層14によれば、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、破損部分を補い耐火ケーブル1としての特性を満足することができる。
【0040】
なお、接着材17は、後述するように、重ね合わせ部12(耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11と)の接着にも用いられる(
図3参照)。
【0041】
ここで、耐火テープ3の外周に絶縁体5を押出成形にて形成する際、絶縁体5の材料(樹脂材料)が180°C付近の温度で押し出されているが、絶縁体5の押出成形直後に冷却するため、耐火テープ3にかかる温度は100°C未満である。したがって、絶縁体5の押出成形時に耐火テープ3にかかる温度は、上記の接着材17が接着硬化する温度(100°C~150°C)に達しないため、絶縁体5の押出成形による接着材17の硬化は生じない。
【0042】
図4に図示するフィルム15、16は、例えば、ポリエチレンからなるフィルムである。フィルム15、16は、耐火性能を付与するため、粉末状の雲母(粉末状マイカ)を含有させてもよいものとする。フィルム15は、「第一フィルム」、フィルム16は、「第二フィルム」と、それぞれ、呼んでもよいものとする。
【0043】
上記耐火テープ3は、導体2の外周に、所謂、「縦添え巻き」にて巻き付けられている。ここで、「縦添え巻き」とは、導体2の長手方向に耐火テープ3の長手方向を沿わせた状態で導体2の外周に耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とが重なり合うように巻き付ける巻き方である。
【0044】
図3に図示する耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とが重なり合う部分は、重ね合わせ部12として形成されている。重ね合わせ部12は、上記接着材17にて接着されている(
図3参照)。
【0045】
耐火テープ3を導体2の外周に巻き付ける際、
図4に図示するように、導体2から視て耐熱接着層14が耐火層13の外側に配置されるように巻き付けるものとする。
【0046】
図1及び
図5に図示する耐火糸4は、耐火テープ3の重ね合わせ部12が開いてしまうのを押さえるために、耐火テープ3の外周に巻き付けられる耐火性能を有する糸である。耐火糸4は、例えば、ガラスヤーン(ユニチカ株式会社製)等の燃焼し難い糸であるものとする(その他の無機繊維であってもよいものとする)。
【0047】
図5に図示するように、耐火糸4は、耐火テープ3を導体2の外周に縦添え巻きにて巻き付けた後、耐火テープ3の外周に、所定のピッチ間隔Pで螺旋状に巻き付けるものとする。上記「所定のピッチ間隔P」は、本実施例においては、3mm以上、且つ、6mm以下であるものとする。
【0048】
図1及び
図2に図示する絶縁体5は、一般的な耐火ケーブルに用いられる樹脂材料を耐火テープ3も外周に押し出し成形することにより所定の厚みで形成されている。上記樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂が挙げられる。
【0049】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレンプロピレン共重合体等が挙げられる。また、上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル樹脂が挙げられる。
【0050】
つぎに、介在物7について説明する。
図1及び
図2に図示する介在物7は、2本の耐火電線6間に存在するものである。介在物7は、耐火電線6を2本撚り合わせる際に、各耐火電線6間に添えて耐火ケーブル1が断面円形になるようにするためのものである。介在物7の材料としては、例えば、紙、ジュート、PP解繊糸等が採用されている。
【0051】
つぎに、押さえ巻きテープ8について説明する。
図1及び
図2に図示する押さえ巻きテープ8は、2本の耐火電線6を撚り合わせた耐火電線6間に介在物7を充填して一体に形成した上から巻き付けられるものである。押さえ巻きテープ8としては、例えば、ポリエステル不織布、ナイロン不織布、ポリプロピレンテープ、ポリエステルテープ、ガラステープ、紙テープ、セラミックス紙等が採用されている。
【0052】
つぎに、シース9について説明する。
図1及び
図2に図示するシース9は、一般的な耐火ケーブルに用いられる樹脂材料を押さえ巻きテープ8の外周に押し出し成形することにより所定の厚みで形成されている。上記樹脂材料は、絶縁体5と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0053】
なお、ポリオレフィン系樹脂として単独で使用することも、複数種類を併用することも可能である。例えば、EEAやEVAに比べて機械的特性は良いが難燃剤を多く添加することができないポリエチレンと、難燃剤を多く添加することのできるEEAやEVAとを併用することで、機械的特性と難燃剤の受容性の良い材料を構成することが可能になる。
【0054】
つぎに、本発明に係る耐火ケーブル1の製造方法について説明する。
耐火ケーブル1の製造方法は、耐火電線6を製造する工程である「耐火電線製造工程」と、複数本の耐火電線6の撚り合わせを行う工程である「耐火電線撚り合わせ工程」と、撚り合わせた複数本の耐火電線6の上から押さえ巻きテープ8を巻き付ける工程である「押さえ巻きテープ巻き付け工程」と、押さえ巻きテープ8の外周にシース9を形成する工程である「シース形成工程」と、を含んでいる。以下、耐火ケーブル1の製造方法の各工程について説明する。
【0055】
まず、耐火電線製造工程について説明する。
耐火電線製造工程では、まず、導体2の外周に、耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とが重なり合うように縦添え巻きにて巻き付ける(
図3参照)。ここで、耐火テープ3を導体2の外周に巻き付ける際、導体2から視て耐熱接着層14が耐火層13の外側に配置されるように巻き付けるものとする(
図4参照)。
【0056】
しかる後、耐火テープ3の短手方向の一端10と他端11とが重なり合う重ね合わせ部12を接着材17にて接着する(
図3参照)。しかる後、耐火テープ3の外周に、耐火糸4を所定のピッチ間隔P(3mm以上、且つ、6mm以下)で螺旋状に巻き付ける(
図5参照)。
【0057】
しかる後、樹脂材料を耐火テープ3の外周に押し出し成形することにより絶縁体5を形成する(
図1及び
図2参照)。
【0058】
なお、絶縁体5の押出成形直後に、耐火電線6を冷却水に浸漬させる等して、絶縁体5を冷却する。絶縁体5を押出成形する際、絶縁体5の材料(樹脂材料)が180°C付近の温度で押し出されるが、上記の通り、押出成形直後に冷却するため、耐火テープ3にかかる温度は100°C未満である。したがって、絶縁体5の押出成形による耐熱接着層14(
図4参照)や重ね合わせ部12における接着材17(
図3参照)の硬化は生じない。以上で、耐火電線6の製造が完了する。
【0059】
つぎに、耐火電線撚り合わせ工程について説明する。
耐火電線撚り合わせ工程では、複数本(本実施例においては、2本)の耐火電線6の撚り合わせを行う。当該工程では、上記撚り合わせの際に、各耐火電線6間に介在物7を添えて、耐火ケーブル1が断面円形になるようにする(
図1及び
図2参照)。
【0060】
つぎに、押さえ巻きテープ巻き付け工程について説明する。
押さえ巻きテープ巻き付け工程では、撚り合わせた2本の耐火電線6の上から、押さえ巻きテープ8の巻き付けを行う(
図1及び
図2参照)。
【0061】
つぎに、シース形成工程について説明する。
シース形成工程では、樹脂材料を押さえ巻きテープ8の外周に押し出し成形することによりシース9を形成する(
図1及び
図2参照)。なお、シース9の押出成形直後に、耐火ケーブル1を冷却水に浸漬させる等して、シース9を冷却する。以上で、耐火ケーブル1の製造が完了する。
【0062】
以上の本実施例によれば、耐火層13に耐熱接着層14が積層されることから、耐火層13に亀裂等の破損が生じてしまった場合であっても、火災等の熱により接着硬化する接着材17からなる耐熱接着層14が耐火層13の代わりとなり、破損が生じた耐火層13を補うため、破損が生じた耐火層13の耐火性能が補われる。また、本実施例によれば、破損が生じた耐火層13の耐火性能が耐熱接着層14によって補われることにより、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、絶縁性能が確保されるとともに、破損部分から導体2側への炭化物等の導電性物質の侵入が防止される。
【0063】
また、本実施例によれば、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、耐熱接着層14が導体2から視て耐火層13の外側に配置されることにより、耐熱接着層14が耐火層13の外面18を覆って破損が生じた耐火層13を補うため、破損が生じた耐火層13の耐火性能が、より確実に補われる。また、本実施例によれば、耐熱接着層14が耐火層13の外面18を覆って破損が生じた耐火層13を補うため、絶縁性能が、より確実に確保され、また、破損部分から導体2側への炭化物等の導電性物質の侵入が、より確実に防止される。
【0064】
また、本実施例によれば、耐火テープ3が縦添え巻きにて巻き付けられていることから、
図6に図示する従来技術に係る耐火ケーブル100のように導体105の外周に耐火テープ106を重ね巻きにて巻き付ける場合に比べて、耐火テープ3の巻き付け作業における作業性が良好になる。
【0065】
また、本実施例によれば、重ね合わせ部12が、火災等の熱により接着硬化する接着材17にて接着されることにより、耐火性能が、さらに向上するとともに、重ね合わせ部12の開きによる導体2側への導電性物質の侵入が防止される。
【0066】
また、本実施例によれば、耐熱接着層14を構成し、また、重ね合わせ部12の接着に用いられる接着材17は、100°C~150°Cで接着硬化することから、例えば、火災等の熱のような高温が加わることにより硬化する。ここで、耐火テープ3の外周に絶縁体5を押出成形にて形成する際、絶縁体5の材料は180°C付近の温度で押し出されているが、絶縁体5の押出成形直後に冷却するため、耐火テープ3にかかる温度は100°C未満である。このように、絶縁体5の押出成形時に耐火テープ3にかかる温度は、接着材17が接着硬化する温度(100°C~150°C)に達することはない。したがって、本実施例によれば、絶縁体5の押出成形による接着材17の硬化は生じない。
【0067】
また、本実施例によれば、耐火糸4を所定のピッチ間隔Pで巻き付けることにより耐火テープ3(重ね合わせ部12)の開きが、より確実に抑制されるため、耐火テープ3が隙間の無いように巻き付けられる。これにより、耐火テープ3(重ね合わせ部12)の開きによる導体2側への導電性物質の侵入が、より確実に防止される。
【0068】
つぎに、本実施例の効果について説明する。
以上、
図1-
図5を参照しながら説明してきたように、本実施例によれば、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、耐火ケーブル1の耐火性能が低下することがないという効果を奏する。
【0069】
つぎに、特許請求の範囲に記載以外の特徴について説明する。
特許請求の範囲に記載された本発明は、耐火ケーブル1、及び、この耐火ケーブル1の製造方法として特徴づけられているが、これを耐火電線6の発明、及び、この耐火電線6の製造方法の発明に書き換えれば、下記(1)~(11)のような内容を特徴とする。
【0070】
(1)耐火電線6は、「導体2と、該導体2の外周に端部同士(一端10と他端11と)が重なり合うように巻き付けられる耐火テープ3と、該耐火テープ3の外周に被覆される絶縁体5と、を備え、
前記耐火テープ3は、耐火層13と、該耐火層13に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材17からなる耐熱接着層14と、を備える」ことを特徴とする。
【0071】
(2)耐火電線6は、「上記(1)に記載の耐火電線6において、前記耐火テープ3を前記導体2の外周に巻き付けた状態にて、前記耐熱接着層14が前記耐火層13の外側に配置される」ことを特徴とする。
【0072】
(3)耐火電線6は、「上記(1)又は(2)に記載の耐火電線6において、前記耐火テープ3は、前記導体2の外周に縦添え巻きにて巻き付けられている」ことを特徴とする。
【0073】
(4)耐火電線6は、「上記(1)、(2)又は(3)に記載の耐火電線6において、前記耐火テープ3の前記端部同士(一端10と他端11と)が重なり合う部分は、重ね合わせ部12として形成され、該重ね合わせ部12は、前記接着材17にて接着されている」ことを特徴とする。
【0074】
(5)耐火電線6は、「上記(1)、(2)、(3)又は(4)に記載の耐火電線6において、前記接着材は、100°C~150°Cに達すると接着硬化するものである」ことを特徴とする。
【0075】
(6)耐火電線6は、「上記(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)に記載の耐火電線6において、当該耐火電線6は、前記耐火テープ3の外周に所定のピッチ間隔Pで巻き付けられる耐火糸4を備える」ことを特徴とする。
【0076】
(7)耐火電線6の製造方法は、「導体2の外周に端部同士(一端10と他端11と)が重なり合うように耐火テープ3を巻き付ける耐火テープ巻き付け工程と、
前記耐火テープ3の外周に絶縁体5を押出成形にて形成する絶縁体形成工程と、
を含み、
前記耐火テープ3として、耐火層13と、該耐火層13に積層され、且つ、アルミナ及びシリカを含有し一定の温度で接着硬化する接着材17からなる耐熱接着層14と、を備えるものを用いる」ことを特徴とする。
【0077】
(8)耐火電線6の製造方法は、「上記(7)に記載の耐火電線6の製造方法において、前記耐火テープ巻き付け工程では、前記耐火テープ3を前記導体2の外周に巻き付ける際、前記耐熱接着層14が前記耐火層13の外側に配置されるように巻き付ける」ことを特徴とする。
【0078】
(9)耐火電線6の製造方法は、「上記(7)又は(8)に記載の耐火電線6の製造方法において、前記耐火テープ巻き付け工程では、前記耐火テープ3を前記導体2の外周に縦添え巻きにて巻き付ける」ことを特徴とする。
【0079】
(10)耐火電線6の製造方法は、「上記(7)、(8)又は(9)に記載の耐火電線6の製造方法において、前記耐火テープ巻き付け工程では、前記耐火テープ3の前記端部同士(一端10と他端11と)を重ね合わせて重ね合わせ部12を形成し、該重ね合わせ部12は、前記接着材17にて接着する」ことを特徴とする。
【0080】
(11)耐火電線6の製造方法は、「上記(7)、(8)、(9)又は(10)に記載の耐火電線6の製造方法において、前記耐火テープ3の外周に耐火糸4を所定のピッチ間隔Pで巻き付ける耐火糸巻き付け工程を、さらに含む」ことを特徴とする。
【0081】
以上の(1)~(6)に記載の耐火電線6、及び、(7)~(11)に記載の耐火電線6の製造方法の効果について説明する。
すなわち、上記(1)~(6)に記載の耐火電線6、及び、上記(7)~(11)に記載の耐火電線6の製造方法によれば、耐火層13に破損が生じてしまった場合であっても、耐火電線6の耐火性能が低下することがないという効果を奏する。
【0082】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
1…耐火ケーブル、 2…導体、 3…耐火テープ、 4…耐火糸、 5…絶縁体、 6…耐火電線、 7…介在物、 8…押さえ巻きテープ、 9…シース、 10…一端(端部)、 11…他端(端部)、 12…重ね合わせ部、 13…耐火層、 14…耐熱接着層、 15、16…フィルム、 17…接着材、 18…外面、 P…ピッチ間隔