(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087423
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】温熱懐炉
(51)【国際特許分類】
A61F 7/08 20060101AFI20220606BHJP
【FI】
A61F7/08 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199349
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】519211797
【氏名又は名称】合同会社MATUBA
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田恵理子
【テーマコード(参考)】
4C099
【Fターム(参考)】
4C099AA01
4C099EA08
4C099GA02
4C099GA03
4C099HA02
4C099JA03
4C099LA09
(57)【要約】
【課題】 ほどよいぬくもりで身体になじみ、そのぬくもりが長時間持続し、内容物の異常加熱による外被の焦げが生じにくい温熱懐炉を提供する。
【解決手段】塩化ナトリウムと、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のケイ酸塩含有成分、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来の炭酸カルシウム含有成分、および、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のリン酸カルシウム含有成分から選択される1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物が炭化繊維を含むフェルトで包囲された温熱懐炉、又は、組成物中の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料の粒子直径が2mm未満であって、綿袋若しくは麻袋と綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材とで包囲された温熱懐炉である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムと、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のケイ酸塩含有成分、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来の炭酸カルシウム含有成分、および、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のリン酸カルシウム含有成分から選択される1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物がJIS A 1323難燃性試験方法でいずれかの種類の難燃性を示すシートで包囲された温熱懐炉。
【請求項2】
前記シートが、炭化繊維を含むフェルト、ウレタンゴム、ガラス繊維シート、グラスフェルト、シリコーンゴム、シリコーンゴムと麻布との複合材、シリコーンゴムとアラミド繊維シートとの複合材、ポリエステルシートからなる群より選択される1種または2種以上を含む請求項1に記載の温熱懐炉。
【請求項3】
前記シートが、炭化繊維を含むフェルトである請求項1又は請求項2に記載の温熱懐炉。
【請求項4】
塩化ナトリウムと、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のケイ酸塩含有成分、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来の炭酸カルシウム含有成分、および、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のリン酸カルシウム含有成分から選択される1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物が綿袋若しくは麻袋と綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材とで包囲された温熱懐炉であって、廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料の粒子直径が2mm未満である温熱懐炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温熱懐炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の懐炉は、鉄粉と活性炭との間で食塩水を介して起こる酸化還元反応により生じた反応熱を利用するものと、食塩結晶に含まれる結晶水を電子レンジ等により励起して遠赤外線の放射を利用するものとに大別されるが、前者は、急激な化学反応等による低温火傷の問題があり、高齢者、障害者、乳幼児、糖尿病患者等が使用する際には特に注意する必要がある。また、使い捨てが多く不経済で、資源の無駄であるうえ、多様性に欠ける問題もある。
【0003】
グリセリン、モンモリロナイト、炭酸カルシウム、食塩を加えて製造した保温体をポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のフィルムの一又は二以上で包み、身体の熱発散を伴う部分に宛てがい該部分からの熱の発散を防止するようにした保温具が開示されている(特許文献1)。しかしながら、この保温具は、使用者から出る熱を熱源とするものであり、温熱懐炉として使用するものではない。
【0004】
吸湿加熱物質として岩塩を、遠赤外線放射物質としてケイ素を主成分とする粒状多孔質安山岩および玄武岩からなる砂礫を含む遠赤外線温熱帯が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この遠赤外線温熱帯は、シリカハイグレーという特殊な砂礫を使用しており、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分を使用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭61-24248号公報
【特許文献2】特開平11-197175号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国際連合広報センター2030アジェンダ(URL: https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/)
【非特許文献2】AdverTimesコラム、「モノからコトへ」の本当の意味~体験ブランディングの背景にあるもの(後半)(URL:https://www.advertimes.com/20180406/article266418/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、今日の日用品には、背景技術で上記したような商品が提案されてきた時代とは異なり、昨今顕在化してきた多種多様な社会問題に向き合う姿勢(SDGs;持続可能な開発目標。非特許文献1)やモノではなくコトを売るといった新たな視点が求められている。懐炉もその例外ではなく、たとえば、工業上排出される廃材を有効活用する視点、高齢者や乳児へのいたわりや慈しみの心を育んだり、旅や故郷を思い出したり、死別した大切なヒトやペットを思い起こすきっかけを得たりすることができる等、その商品を購入するヒトの思いに寄り添い、記憶を呼び起こし、癒やし、しばしの幸福感を与える視点である(非特許文献2)。これらの視点なくして、今後の消費者の消費行動への理解は不十分となり、また産業の発展は期待できない。
【0008】
従来の懐炉は、いずれも昨今顕在化してきた多種多様な社会問題に向き合う姿勢、ヒトのこころに寄り添う姿勢が決定的に欠落している。
【0009】
以上のような現状に鑑み、本発明は、ほどよいぬくもりで身体になじみ、そのぬくもりが長時間持続し、内容物の異常加熱による外被の焦げが生じにくい温熱懐炉、さらに好ましくは使用者の思いに寄り添い、記憶を呼び起こし、癒やし、しばしの幸福感を与える効果を有する温熱懐炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、塩化ナトリウムと、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のケイ酸塩含有成分、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来の炭酸カルシウム含有成分、および、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のリン酸カルシウム含有成分から選択される1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物がJIS A 1323難燃性試験方法でいずれかの種類の難燃性を示すシートで包囲された温熱懐炉である。上記構成によれば、廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料を使用することで、廃材の有効活用の視点、亡くなったヒトやペットのメモリアルの視点、旅や故郷の思い出を形にする視点を温熱懐炉に取り入れることで、使用者の思いに寄り添い、記憶を呼び起こし、癒やし、しばしの幸福感を与えることができる。また、上記1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料として適切なものを選択し、または適宜組み合わせることにより、外被に使用される袋の材質や厚みに応じて加熱直後の温度や冷めにくさを調整できることから、ほどよいぬくもりで身体になじみ、そのぬくもりが長時間持続する温熱懐炉を得ることができ、就寝時の自宅使いにも使用可能となる。さらにJIS A 1323難燃性試験方法でいずれかの種類の難燃性を示すシートを使用することにより、焦げ等が生じにくいものとなる。本明細書において、外被とは、組成物を直接的または間接的に包囲するあらゆるものを指し、外袋に限定されず、非透水性袋、透水性素材を包括的に指す用語である。本明細書において、「包囲した」には、1枚又は2枚以上のシートで包むことだけでなく、2枚のシートで挟んで周囲を縫い合わせること、3枚以上のシートで囲んで相互に縫い合わせることが含まれる。
【0011】
上記温熱懐炉におけるシートは、炭化繊維を含むフェルト、ウレタンゴム、ガラス繊維シート、グラスフェルト、シリコーンゴム、シリコーンゴムと麻布との複合材、シリコーンゴムとアラミド繊維シートとの複合材、ポリエステルシートからなる群より選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。これらのシートは、繰り返し使用によっても加熱した珊瑚等の接触による焦げ等が生じにくく、難燃性が高いものとなる。
【0012】
上記温熱懐炉におけるシートは、炭化繊維を含むフェルトであることが好ましい。炭化繊維を含むフェルトは、保温性が高くて皮膚刺激が少なく、繰り返し使用によっても加熱した珊瑚等の接触による焦げ等が生じにくく特に難燃性が高いものとなる。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、塩化ナトリウムと、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のケイ酸塩含有成分、海砂、陶磁器粉砕物または宝石クズから選択される廃棄物由来もしくは自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来の炭酸カルシウム含有成分、および、廃棄物由来、自然由来もしくは動物由来のリン酸カルシウム含有成分から選択される1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物が綿袋若しくは麻袋と綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材とで包囲された温熱懐炉であって、廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料の粒子直径が2mm未満である温熱懐炉である。綿袋若しくは麻袋と綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材との2重構造で包囲することで、保温性を向上し、廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料の粒子直径を2mm未満とすることで外被の焦げを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃材の有効活用の視点、亡くなったヒトやペットのメモリアルの視点、旅や故郷の思い出を形にする視点を温熱懐炉に取り入れることで、使用者の思いに寄り添い、記憶を呼び起こし、癒やし、しばしの幸福感を与えることができる。また、本発明の温熱懐炉によれば、加熱直後の温度は高すぎず、保温性が比較的高いことから、低温火傷を防止することができ、就寝時の自宅使いにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】塩に対して珊瑚砂、珪砂、リン酸カルシウムの割合を一定にしたときの深部の放熱グラフ。
【
図2】塩に対して珊瑚砂の割合を変えたときの深部の放熱グラフ。
【
図3】4辺を融着させた不織布製の温熱懐炉の写真。
【
図4】外側にラミネート布、内側にジッパー袋を重ねた温熱懐炉の写真。
【
図5a】ジッパー袋と外袋との融着しろを示した温熱懐炉の写真。
【
図5b】外袋とジッパー袋との間にフェルトを挟んだ温熱懐炉の内側写真。
【
図5c】非透水性袋とフェルトの積層状態を切開して示した温熱懐炉の内側写真。
【
図5d】ジッパー袋とフェルトと外袋との融着を示した温熱懐炉の写真。
【
図6】不織布に各種組成物を入れた放熱実験の様子を示した写真。
【
図7】ビーカーに各種組成物を入れた放熱実験の測定の様子を示した写真。
【
図8】食品棚クッションシートを4回巻き付けたビーカーの正面写真。
【
図9】食品棚クッションシートを4回巻き付けたビーカーの平面写真。
【
図10】不織布表面温度と深部温度の関係を測定した実験の様子を示した写真。
【
図11】不織布深部温度と体感の関係を測定した実験の様子を示した写真。
【
図12】多層温熱懐炉に温熱懐炉と耐熱性素材で包囲した珊瑚を入れた状態の写真。
【
図13】多層温熱懐炉の各要素を分離した状態の写真。
【
図15】耐熱性の透水性素材で組成物を包囲した温熱懐炉。
【
図16】炭化繊維製温熱懐炉を覆っていたピンストライプタオルの焦げ写真。
【
図17】柄付き赤色のラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図18】薄いグリーンのラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図19】デニムのような紺色のラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図20】デニムのような紺色の小型ラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図21】デニムのような紺色の小型ラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図22】ピンクの小型ラミネート布を使用した温熱懐炉の長期使用後の写真。
【
図23】綿袋又は麻袋と綿素材、麻素材又は綿麻混素材とを組み合わせた温熱懐炉の表面温度と深部温度の関係を測定した実験の様子を示した写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について以下に図面を参照して説明する。
本発明に係る温熱懐炉は、塩化ナトリウムと1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料とを含む組成物を含む。なお、本明細書においては、特に断らない限り、温熱懐炉といえば、温熱懐炉を2個以上組み合わせた多層温熱懐炉を含む。
【0017】
塩化ナトリウムは、岩塩または海水由来の塩のいずれであってもよいが、1重量%程度の湿気に相当する水分を含んでいることがより好ましい。このようなものとしては、海水由来の塩が好ましく使用され、このようなものとしては、例えば、天日塩、天塩、あら塩等として市販されているものが挙げられる。なお、海水由来の塩は、微量のにがり成分や不純物を含んでいてもよい。塩化ナトリウムは、気孔率が50%~90%程度の嵩高いものが好適に使用される。塩化ナトリウムの安息角の好ましい範囲は、40°~70°である。
【0018】
1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料としては、例えば、シーグラス、珪砂、水晶等の廃棄物由来、自然由来又は動物由来のケイ酸塩含有成分、世界または日本各地の海辺の砂(海砂)、陶磁器粉砕物またはクズ宝石から選択される廃棄物由来又は自然由来のアルミノケイ酸塩含有成分、珊瑚砂、珊瑚片、貝殻、クズ(真)珠、パールパウダー等の廃棄物由来、自然由来又は動物由来の多孔性もしくは非多孔性の炭酸カルシウム含有成分、および、人または動物の骨(粉)、歯(粉)、角(粉)等の廃棄物由来、自然由来又は動物由来のリン酸カルシウム含有成分からなる群より選択される1種または2種以上を選択・混合して使用することができる。なお、本明細書において、アルミノケイ酸塩含有成分は、ケイ酸塩中にあるケイ素原子の一部をアルミニウム原子に置き換えた構造を持つ化合物を含む成分であり、ケイ酸塩含有成分とは概念上区別されるものである。ただし、ケイ酸塩含有成分は、組成式に影響を与えない限度で微量のアルミニウムを含んでいてもよい。
【0019】
上記組成物は、特に温熱懐炉に使用する場合、組成物の全重量に対して塩化ナトリウムを70~85重量%、1種または2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料を合計で15~30重量%含むものであることが好ましい。塩化ナトリウムのより好ましい下限は、73重量%である。
【0020】
上記組成物の成分の具体的な組み合わせとしては特に限定されず、塩/珊瑚片/珊瑚砂、塩/珊瑚砂/骨粉(骨灰)、塩/水晶/骨粉、塩/シーグラス/貝粉/骨粉、塩/パールパウダー/珊瑚砂、塩/珊瑚砂/珪砂、塩/珊瑚砂/珪砂/骨粉、塩/クズ宝石等が挙げられ、なかでも保水性と保温性の観点から、塩と珊瑚砂とを含む2成分系組成物、3成分系組成物または4成分系組成物が好ましい。なお、海砂や珊瑚、珊瑚片を入れる場合は、異常加熱によると考えられる外被の焦げを生じにくくするために、粒子の直径が大体2mm以下、好ましくは1mm以下の星の砂程度の大きさのもののみとし、ごく少量入れる程度が好ましいと思われる。ここで粒子直径は、画像解析法により得られる粒子画像の円形換算直径の平均値である。
【0021】
塩化ナトリウムと1種又は2種以上の廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料の気孔率は、熱伝導率が低い空気層の含有率の指標といえるが、水を噴霧して加熱使用する場合、水が蓄える熱の方が保温性に大きく影響することから、保温性にそれほど影響しない。したがって、気孔率の範囲としては、特に限定されないが、50%~90%とすることができる。好ましい下限は、60%、好ましい上限は、88%であり、上限は80%以下とすることもできる。複数の成分を使用する場合、混合性を高める観点では、各成分の気孔率は同程度であることが好ましい。なお、本明細書の気孔率は、かさ密度と真の密度との比によって算出される値である。
【0022】
あら塩(塩化ナトリウム)と骨灰(リン酸カルシウム含有成分)、珪砂(ケイ酸塩含有成分)または珊瑚砂(炭酸カルシウム含有成分)との混合物を電子レンジ加熱して取り出し直後の温度や冷めにくさを比較すると、条件によっては以下の傾向が観察されることがある。
(1)同じ混合割合での冷めにくさの観点では、リン酸カルシウム>>珪砂>珊瑚砂の傾向があり、同混合割合でのレンジ取り出し直後の温度は、概ね珊瑚砂>珪砂>リン酸カルシウムの傾向がある(
図1)。
(2)塩化ナトリウムと珪砂の混合物は、珪砂の混合割合にして10重量%~25重量%という比較的広範囲で、冷めにくさに変わりがない傾向がある。
(3)塩化ナトリウムと珊瑚砂の混合物は、塩80珊瑚20または塩75珊瑚25の混合割合が特に冷めにくい性質がある(
図2)。
(4)塩化ナトリウムとリン酸カルシウムの混合物は、リン酸カルシウムの割合が増えるにつれ、冷めにくくなる傾向がある。
【0023】
上記組成物は、上述のような廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料に限定されず、組成物の全重量に対して塩化ナトリウムを70~85重量%、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムおよびケイ酸塩から選択される1種または2種以上の成分を合計で15~30重量%含むものであってもよい。3成分または4成分の場合、好ましくは、組成物の全重量に対して塩化ナトリウムを70~85重量%、多孔性の炭酸カルシウムを10~18重量%、リン酸カルシウムおよび/またはケイ酸塩を5~12重量%である。ここでケイ酸塩の割合を増やすと、加熱直後の温度が高くなり、リン酸カルシウムの割合を増やすと冷めにくくなる傾向があるため、外被によって調整することが好ましい。
【0024】
本発明の温熱懐炉は、一実施態様において、上述した組成物をJIS A 1323難燃性試験方法でいずれかの種類の難燃性を示すシートで包囲したものである。斯かるシートとしては、炭化繊維を含むフェルト、カーボンクロス、ウレタンゴム、ガラス繊維シート、グラスフェルト、シリコーンゴム、シリコーンゴムと麻布との複合材、シリコーンゴムとアラミド繊維シートとの複合材、ポリエステルシートを採用することができる。一実施態様において、シートは、無機質または耐熱性の樹脂でコーティングしたものであってもよい。一実施態様において、シートは、透水性素材であることが好ましい。透水性素材は、電子レンジや温熱器等による加熱・保温条件に耐え、湿気(水分)を内容物である組成物の表面付近に供給可能なものである。一実施形態では、透水性素材としての炭化繊維を含むフェルトを使用する。このような温熱懐炉は、大きめの2枚のフェルトの間に上述した組成物をはさみ、ロックミシンを用いてフェルトの4辺を縁かがり縫いで縫い合わせることによって製造することができる。
【0025】
より好ましい態様における透水性素材は、例えば、JIS S 2029に準拠して測定した耐熱温度100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上であって、更に好ましくは、なおかつ許容限度の時間で霧吹きにより、組成物総重量に対して0.8重量%~5重量%の湿気(水分)を内容物である組成物の表面付近に供給可能なものである。
【0026】
透水性素材で包んで得られた温熱懐炉は、密閉可能な非透水性袋に収納したものであると有用である。密閉可能な非透水性袋としては、柔軟性がある点、外袋との一体化が可能である点等から、プラスチック製のジッパー袋を採用しうる。代表的なものとしては、ジップロック(登録商標)が挙げられる。ただし、温熱器に入れて3~4ヶ月といった長期間保存したり、電子レンジ等での繰り返し加熱には耐熱性を要する。したがって、とりわけ電子レンジ等での繰り返し加熱には透水性素材で包んだ温熱懐炉を取り出して加熱し、袋に戻して使用することや、ポリプロピレン製、シリコーンゴム製等の他の耐熱性非透水性袋を使用することが推奨される。
【0027】
図4に示す温熱懐炉10は、上述した組成物を透水性素材2で包み、密閉部位(ジッパー)3で密閉可能な非透水性袋4に収納しており、非透水性袋4は外袋6に入っている。外袋6とは、一般に袋と称されるものに限定されず、外側を包むものであれば足り、ぬいぐるみ、腹巻き、お守り、枕カバー等が含まれる。外袋の材質としては、特に限定されないが、非透水性袋としてプラスチック製のジッパー袋を使用する場合、ジッパー袋に融着可能なラミネート布が好適に使用される。このとき、ラミネート布の外側には汚れ防止のため、撥水加工が施されているとよい。そのほか、肌触りの柔らかさを重視する場合、シルク、ガーゼ、ダブルガーゼ等を使用することもできる。
【0028】
外袋6と密閉可能な非透水性袋4とは、一体化していても、していなくてもよいが、一体化する場合、密閉部位(ジッパー)を閉じた状態で、両面をラミネート布で覆い、
図5aに示すように、密閉部位の開口辺5を除く3辺について、密閉部位の端部5mm~10mm幅ほどを融着しろ7として、ラミネート布ごと熱融着させることによって製造することができる。
【0029】
外袋6と密閉可能な非透水性袋4との間には、
図5bおよび
図5cに示すように保温性素材8を備えたものであってもよい。保温性素材8としては、フェルト、ダブルガーゼ、食品棚用のプラスチック製クッションシート等が挙げられる。
【0030】
外袋6と密閉可能な非透水性袋4との間に保温性素材8を挟み込む場合、保温性素材8ごと熱融着させれば、保温性素材8の位置ずれがなくなることから好ましい。熱融着の結果、
図5dに示すような状態になる。本実施形態においては、熱融着する際に使用するシーラーとして、卓上型シーラー(富士インパルスシーラー社製、T-130形)を使用している。
【0031】
本発明の温熱懐炉の使用方法は、上記透水性素材で包んだ温熱懐炉の中心部が湿らない程度に表面に水を噴霧することと、電子レンジまたは温熱器で加熱または保温することとを含む。ここで水の噴霧量は、組成物の合計重量に対して0.5~5重量%とするとよい。より好ましい上限は、3重量%、さらに好ましい上限は、2.5重量%である。電子レンジの加熱は、組成物の総重量が100g弱の場合、500Wで1分30秒~2分、900Wで40秒~1分30秒が目安になる。温熱器としては、一般にホットキャビ、タオルウオーマーと称されるおしぼり温熱器が好適に使用される。
【0032】
本発明の多層温熱懐炉11は、
図12及び
図13に示すように、内部に2枚の間仕切り布14a,14bを設けて3つのポケットを形成した布製収納袋12の第1ポケット13と第3ポケット15に温熱懐炉20を収納し、第2ポケット17に耐熱性素材18で包囲した珊瑚22を収納したものである。
図14に示す耐熱性素材とは、電子レンジで加熱された珊瑚が高温になると、周囲を焦がしたりするおそれがあるため、これを防ぐために使用される珊瑚の包装材のことであり、本実施形態では、炭化繊維製の養生用のスパッタシートを採用している。その他の耐熱性素材としては、例えば、ウレタンゴム、ガラス繊維シート、シリコーンゴム、シリコーンゴムと麻布との複合材、シリコーンゴムとアラミド繊維シートとの複合材、ポリエステルシートを採用することができる。なお、間仕切り布は、珊瑚を包囲した耐熱性素材を温熱懐炉で挟んだ状態を安定化できれば必須ではない。
【実施例0033】
実施例1(食塩)
タッパー(縦12cm×横8cm×高さ3cm)に食用塩を220g、すりきり一杯、タッパー内での高さにして約3cm(かさ密度0.76g/cm3、真密度:2.16g/cm3、気孔率:64.8%)になるまで敷き詰め、表面に霧吹きで50回水を噴霧した(噴霧量にして10cc、食用塩重量に対して4.5重量%)のち、900Wの電子レンジで2分加熱した。その後、タッパーの蓋を開けた状態で、表面から約2cmの深さを中心部温度とし、表面から約1cmの深さを表面温度とみなして市販のデジタル温度計(ドリテック DRETEC O-274IV クッキング温度計)で温度の時間変化を計測した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例2(珊瑚砂1)
塩に代えて炭酸カルシウムを主成分とする珊瑚砂を220g、タッパー内での高さにして約2.6cm(かさ密度0.88g/cm3、真密度:2.7~2.9g/cm3、気孔率:67.4%~70.0%)になるまで敷き詰め、水を50回(噴霧量にして10cc、珊瑚砂重量に対して4.5重量%)噴霧したほかは実施例1と同様にして温度の時間変化を計測した。結果を表1に示す。
【0035】
実施例3(珊瑚砂2)
塩に代えて珊瑚砂を220g、タッパー内での高さにして約2.6cmになるまで敷き詰め、水を200回以上噴霧して全体を湿らせたほかは実施例1と同様にして温度の時間変化を計測した。結果を表1に示す。
【0036】
実施例4(ケイ砂)
塩に代えて与論島で採取した海辺の砂を220g、タッパー内での高さにして約2.8cm(かさ密度0.82g/cm3、真密度:2.5g/cm3、気孔率:67.2%)になるまで敷き詰め、水を噴霧したほかは実施例1と同様にして温度の時間変化を計測した。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1からわかるように、実施例1の塩は、中心部と表面の温度にそれほど開きがないことがわかった。また、実施例2の珊瑚1は、中心部の温度が測定開始5分で一気に36度も低下したが、その後の温度低下の速度が3種類の中では一番緩やかであった。実施例4の砂は、珊瑚1と同じように中心部の温度が測定開始5分で一気に39度も低下し、3種類の中では一番低い温度であった。また実施例2と実施例3との比較で、しっかり水分を保持した状態の珊瑚砂2を電子レンジにかけたら当然温度が上昇すると予想していたが、予想したほどに上昇せず、ほぼ乾いているはずの珊瑚1の内部の方が高い結果が出た。また、実施例2(珊瑚1)と実施例4(ケイ砂)との比較で、乾燥状態での気孔率がほぼ同程度であるにもかかわらず、保温性に大きく違いが出たことから、気孔率よりも、材質やそれに由来する保水性の影響が大きいことが推測された。
【0039】
性状を目視観察したところ、塩は水分を保持した状態で加熱したものの温度が一番高くでるが、温度を持ちすぎると固まるため、水を含ませすぎても懐炉には適さないことがわかった。
【0040】
実施例5
霧吹きではなく、直接水を通してから水を切ることによって得られた、含水率としては実施例3の珊瑚砂2よりも高い「雨の砂浜状」の珊瑚砂3を使用し、900Wの電子レンジによる加熱時間を変えて、レンジ取り出し直後の温度を測ってみた。結果を表2に示す。
【0041】
【0042】
表2によれば、加熱時間によらず、珊瑚砂3の深層部の方が表層より温度が高く、深層部から表層に伝熱していることがわかった。また、珊瑚砂3の深部温度は、1分30秒以降は、水の沸点付近で頭打ちになっており、加えられたエネルギーは、重力で深層に落ちた水が蒸発する際の潜熱に利用されていることがわかった。
実施例2,実施例3の結果と表2から、珊瑚砂は、水分を含ませすぎると温度が上がりにくく、水分がなくなるとそれ以上上昇しない傾向があり、温熱懐炉の中心部が湿らない程度に表面に水を噴霧することが重要であることがわかった。この結果は、噴霧回数が少ない方が簡便であるので好都合である。
実施例5の結果に鑑み、実施例2において、レンジ取り出し直後に表面が水の沸点付近に達している一方、深層部が水の沸点を超えて上昇した理由は、深層部の水がほとんどない状態では、水の比熱(4189J/Kg/℃)に比べて、炭酸カルシウムや空気の比熱(石灰岩の値で920J/Kg/℃、空気は1000J/Kg/℃程度)が約4分の1程度と低いことにより、急激に温度上昇したものと考えられる。
【0043】
以上の検討を総合すると、表面が湿っている状態の内部の塩と、表面が湿っている状態の珊瑚1の内部温度が高いことから、少し湿った程度の水分を保持した、塩と珊瑚砂との混合物が懐炉に適しているのではないかと推測された。
【0044】
実施例6-1(リン酸カルシウム)
リン酸カルシウム含有成分として、市販の天然骨灰(メーカー名:株式会社竹昇精工、品番:商品コードTO804013)をタッパー(縦12cm×横8cm×高さ3cm)に110g、タッパー内での高さにして約2.5cm(かさ密度0.46g/cm3、真密度:3.14g/cm3、気孔率:85.4%)まで敷き詰め、表面に霧吹きで50回(実施例6-1)または230回(実施例6-2)水を噴霧したのち、900Wの電子レンジで2分加熱した。その後、タッパーの蓋を開けた状態で、中心部辺りと表面付近に市販のデジタル温度計(ドリテック DRETEC O-274IV クッキング温度計)を差し込み、温度Tの時間変化を計測し、性状を目視観察した。結果を表3に示す。なお、温度の時間変化は、暫定的に以下のモデル式でT0およびBを変数として最小二乗法によりカーブフィッティングした。(以下、特に断らない限り、T0はレンジ取り出し直後の深層温度値,T∞は、一定に管理された室内温度、Bは下記式の係数を意味し、σ2は誤差分散である)。なお、Bは冷めにくさの指標として使用した。
T=T∞+(T0-T∞)exp(-Bt)
実施例6-2
表面に霧吹きで230回水を噴霧し、深層部まで湿らせたほかは実施例6-1と同様にして、温度の時間変化を計測し、性状を目視観察した。結果を表3に示す。
実施例6-3
表面に霧吹きしなかったほかは実施例6-1と同様にして、温度の時間変化を計測し、性状を目視観察した。結果を表3に示す。
【0045】
【0046】
表3によれば、実施例6-2は、前半20分の深層温度が一番高かった一方、実施例6-3は、後半20分以降の深層温度が一番高いことがわかった。また実施例6-1は、表面温度の低下が速かった一方、実施例6-2は、前半20分の表面温度が一番高いことがわかった。全体として、加熱直後の温度は水分を保持した実施例6-2の温度が高いが、パウダー状の実施例6-3は温度が若干冷めにくい傾向があることがわかった。
【0047】
一般に、一番保温効果が高いのは空気層(熱伝導率0.025~0.030W/m/K)であり、魔法瓶はその空気層も排除して真空状態を作り出すことで断熱効果を生み出し、保温している。これに鑑みれば、乾燥していて気孔率が高い方が、粒子間に空気が含まれることで空気層が出来、保温性が高い、すなわち中心部の温度は高い一方、空気層で保温されて外に熱が伝わりにくく、体感に感じる温度が熱くないことが予想されるが、実施例6-3は、まさにその特徴が出ていた。
【0048】
一方、実施例6-2で水分を多く含むと前半20分の深層温度が一番高い理由は、実施例6-3とは異なり、材質固有の保水性と水が熱を蓄える性質を利用して保温しているためと考えられる。表3で実施例6-1の結果を見ると、珊瑚や砂よりも気孔率が高いにもかかわらず、深層の熱散逸が著しい結果となり、水を噴霧して加熱する場合、材質や保水性等の要因の方が気孔率よりも大きく影響しているのではないかと推測された。
【0049】
なお、リン酸カルシウムは、水分を含ませると固まるため、配合する場合はその点も考慮すべきであることがわかった。
【0050】
実施例7(塩とリン酸カルシウムとの配合比率を変えた測定)
縦約17cm×横約11.5cmの不織布にあら塩(産地:瀬戸内のあら塩、メーカー名:ソルトカンパニー株式会社)とリン酸カルシウムとを合計100gになるように入れて、縦真半分に折り(縦約8.5cm×横約11.5cm)、900Wの電子レンジで1分間、加熱した。
図6に示すように、取り出して新聞紙の上に置き、縦半分に折り曲げた所を再び戻し、温度計を指し込んだ。温度の経時変化の測定結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
表4から、リン酸カルシウムの割合が85%のとき、レンジ取り出し直後の温度および保温性が最も高くなった。このことから、複数の成分の組成物とする場合、適切な配合比率が存在する可能性を検討すべきことが示唆された。また加熱直後、不織布から水分が滲み出ていたため、温熱懐炉として使用する際は、組成物を入れた不織布の袋を、さらに他の撥水性かつ耐熱性の袋に入れて使用することが適していると示唆された。
【0053】
実施例8(塩と珊瑚との配合比率を変えた測定)
縦約17cm×横約11.5cmの不織布に塩と珊瑚とを合計100gになるように入れて、50回霧吹きをかけ、縦真半分に折り(縦約8.5cm×横約11.5cm)、500Wの電子レンジで1分30秒間、加熱した。
図6に示すように、取り出して新聞紙の上に置き、縦半分に折り曲げた所を再び戻し、温度計を指し込んだ。温度の経時変化の測定結果を表5に示す。なお、周囲環境は、室温25度、湿度51%であった。
【0054】
【0055】
表5から、珊瑚の割合が増えるにつれて冷めにくくなる一方、レンジ取り出し直後の温度は低くなっていくことがわかった。全体傾向として、前半30分間についてみれば、珊瑚3割の場合よりも珊瑚1割の方が保温性に優れた結果となった。実施例7と実施例8とを総合して、表面が固まらない複数の成分の組成物とする場合、材質や気孔率によらず、廃棄物由来、自然由来又は動物由来材料を5~20重量%含む領域内に適切な配合比率が存在する可能性が示唆された。
【0056】
実施例9(ビーカー/珊瑚)
150ccビーカーに純粋な珊瑚砂100g、または、あら塩と珊瑚砂とを所定の割合でよく混合して得られた組成物を合計100gになるように入れ、紙皿を2枚重ねで敷いた900Wの電子レンジで1分間加熱した。加熱後、
図7に示すように中心部に料理温度計(DAISO製C008、ガラス製、指示液:ケロシン)を立てて差し込み、ビーカーの注ぎ口部分にはめるように倒した。温度計を倒した際にできる内容部の隙間はかぶせて埋めた。このような操作により、温度計の位置が変わらず、温度計の位置がほぼ同じにセットでき、不織布に水分がにじんだりせず、一ミリも動かさないで観察できる状態となった。温度の経時変化の測定結果を表6に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%とした。
【0057】
【0058】
表6から、塩80珊瑚20または塩75珊瑚25の混合割合が特に冷めにくい性質があることがわかった。この傾向は不織布を使用した実施例8においても見られたことから、外側の容器を不織布にするかビーカーにするかによらず、混合組成物由来の性質であることが示唆された。
【0059】
実施例10(ビーカー/リン酸カルシウム)
珊瑚砂に代えてリン酸カルシウム粉末を使用した他は実施例9と同様にして、温度の経時変化を観察した。結果を表7に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0060】
【0061】
表7から、リン酸カルシウムの割合が増えるにつれ、冷めにくくなる傾向が見られた。
【0062】
実施例11(ビーカー/珪砂)
リン酸カルシウム粉末に代えて珪砂を使用した他は実施例9と同様にして、温度の経時変化を観察した。結果を表8に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0063】
【0064】
表8から、塩と珪砂の混合物は、珪砂の混合割合にして10重量%~25重量%という比較的広範囲で、冷めにくさに変わりがない一方、珪砂の割合が多い方がレンジ取り出し直後の温度が低下する傾向があることがわかった。しかしながら、珪砂のみ(11)とすると、レンジ取り出し直後の温度が劇的に低下することがわかった。これは、珪砂自体に水分がないことに起因すると考えられる。
【0065】
あら塩の持つ水分条件で実施した実施例9乃至実施例11の結果を総合すると、同じ混合割合での冷めにくさの観点では、リン酸カルシウム>>珪砂>珊瑚砂の傾向があり、同混合割合でのレンジ取り出し直後の温度は、概ね珊瑚砂>珪砂>リン酸カルシウムの傾向があることがわかった。
【0066】
実施例12(ビーカー/3、4成分)
上記実施例9ないし11の検討結果に基づき、表9に記載した3成分系および4成分系の組成で実施例9と同様の条件の放熱試験を行った。結果を表9に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0067】
【0068】
表9から、(23)(24)は冷めにくさの点では、いずれも甲乙つけがたいものであったが、取り出し直後の温度の違いにより1時間後の温度に差が出た。(23)と(25)との比較により、リン酸カルシウムを全量珪砂に置き換えることでレンジ取り出し直後の温度が飛躍的に高くなることがわかった。
【0069】
実施例13(クッション包囲ビーカー/3、4成分)
図8および
図9に示すように、ポリエチレン製の食品棚クッションシートを4回巻き付けた他は、実施例12と同様の条件で放熱試験を行った。結果を表10に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0070】
【0071】
表10から、クッションで包囲する前の実施例12の表9と比べて軒並みσ2の値が小さくなり、ビーカーガラスからの放熱を遮断したことで実験がより理想的な環境に近づいていることがわかった。(27)(28)(29)(31)の3成分、4成分ではレンジ取り出し直後の温度は低いもののいずれも冷めにくい傾向がある一方、あら塩・珊瑚・珪砂の組成物(30)ではレンジ直後の温度が高いが若干冷めやすいという実施例12と同様の傾向がみられた。また、表9のB値との比較から、全般により冷めにくくなっていることがわかった。
【0072】
実施例14(あら塩の性能が失われるまでの水分量の検討)
150ccビーカーに合計100gのあら塩を入れた普通のビーカー1と、周りをポリエチレン製の食品棚クッションシートで包んだビーカー2の2パターンを使い、紙皿を2枚重ねで敷いた900Wの電子レンジで1分間加熱した。加熱後、
図7に示すように中心部に料理温度計(DAISO製C008、ガラス製、指示液:ケロシン)を立てて差し込み、ビーカーの注ぎ口部分にはめるように倒した。温度計を倒した際にできる内容部の隙間はかぶせて埋め、温度の経時変化を測定した。ここで、「湿っている」ものとしては、何も手を加えないあら塩を使用し、「乾いている」ものとしては、900Wで1分電子レンジ加熱する操作を4回繰り返した結果、水分が1%抜けて99gになったものを使用した。結果を表11に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0073】
【0074】
表11で(34)(35)のビーカー2のB値を比較すると、あら塩から水が1%抜けても、冷めにくさには大きな変化はないと考えられるが、レンジ取り出し直後の温度は著しく低下し、懐炉として満足いく特性を得られなくなることがわかった。逆に塩成分が常に水分1%を保持している限り、十分な特性を維持できることが示唆された。
【0075】
実施例15(あら塩の性能が復活するまでの水分量の検討)
いずれも乾いているあら塩99gを150ccのビーカー1,2に入れ、霧吹きを5回(1cc相当)した場合と10回(2cc相当)した場合とでレンジ取り出し直後の温度を比較した。結果を表12に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0076】
【0077】
表12から、霧吹き5回であら塩の特性が回復できるが、これを10回にしてもレンジ取り出し直後の温度にはほとんど変化がないことがわかった。このことから、あらかじめ非透水性袋に懐炉を入れておき、余剰量の霧吹きをしておけば、レンジ加熱を数回程度繰り返して使用することが可能であることが示唆された。
【0078】
実施例16(クッション包囲ビーカー/3、4成分)
実施例13と同様の条件で放熱試験を行った。結果を表13に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0079】
【0080】
表13から、(40)より(41)の方が直後の温度が低いが、5分後からは大差がないため、(41)の方がより安全に使用できるものと考えられる。
【0081】
実施例17(不織布表面温度と深部温度との温度変化の比較)
不織布でできた袋に塩・珊瑚砂・リン酸カルシウム・珪砂を合計100gになるように詰め、紙皿を2枚重ねで敷いた900Wの電子レンジで1分間加熱した。加熱後、取り出したら直ちに
図10に示すように料理温度計(DAISO製C008、ガラス製、指示液:ケロシン)を不織布内の中心部に差し込むとともに、もう1つの温度計を不織布の表面に当て、ガムテープで固定し、表面の温度計の上に不織布をかけておき、放熱試験を行った。結果を表14に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0082】
【0083】
表14から、5分後の方がじわりじわりと中から温度が不織布に伝わり、表面温度が高くなることがわかった。直後の表面温度は44℃~58℃となっているが、もっと高いものと思われる。諸文献によれば、低温火傷は、44℃の物体に3~4時間、46℃の物体に30分~1時間、50℃の物体に2~3分触れることで発症すると言われる。その観点からすると、珪砂を含む(46)(47)(49)(50)は、いずれも放熱初期の段階で直接触れることは好ましくなく、布カバー等で温度調整が必要だとわかったが、珪砂を含まないものについては低温火傷のおそれは少ないことがわかった。
【0084】
実施例18(深部温度と体感温度との比較)
不織布でできた袋に塩・珊瑚砂・リン酸カルシウム・珪砂を合計100gになるように詰め、紙皿を2枚重ねで敷いた900Wの電子レンジで1分間加熱した。加熱後、取り出したら直ちに袋を手に持ち、
図11に示すように料理温度計(DAISO製C008、ガラス製、指示液:ケロシン)を袋内の中心部に差し込み、袋の口の部分と温度計とを一緒に手で握って閉じ、混合物の入っている部分を触り、何度でどんな体感かを記録した。なお、触れる際は、左右の手でなるべく暖まっていないほうの手を使用した。結果を表15に示す。なお、周囲環境は、エアコンの設定温度が22度、湿度35%であった。
【0085】
【0086】
表15から、実施例17の深部温度と表面温度の実験で出た温度と比較すると、表面触感でぬるいと感じる深部温度が20分~30分程度持続することがわかった。
【0087】
実施例19(耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるフェルトで組成物を包んだ温熱懐炉)
イオン交換膜法で精製した塩化ナトリウムと珊瑚砂とを重量比7:3で配合して耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるフェルト(品番:カーボンフェルトPC-400、(株)大阪製作所製、JIS A-1323 A種合格品)2枚で挟み、周囲をロックミシン(baby lock 衣縫人special550、使用糸:高耐熱メタ系アラミド繊維#50/3000(コーネックス、帝人社製)、縫い方:2本針4本糸縁かがり)で縫い合わせた。得られた
図15の温熱懐炉に対して軽く霧吹きした後、ガーゼタオルで包み、電子レンジ600Wで2分間加熱して取り出した。直後はタオル表面が湿っており、このままの温度が持続すると低温やけどをするような熱さを感じたものの、5分経過してタオル表面が乾くと温度は適温になり、表面触感でぬるいと感じる状態が20分~30分程度持続した。縫い合わせをほどいて開封し、内部の状態を確認したところ、焦げ等は観察されなかった。
【0088】
実施例20(耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるフェルトで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
実施例19で使用した耐炎化ポリアクリロニトリル繊維からなるフェルトでできた袋に粒子の直径が2mm~4mm程度の小さなサンゴ石と塩を入れ、タオルで巻き、霧吹きした後に電子レンジで加熱し、使用することを繰り返した。その結果、粒子の直径が2mm~4mm程度の小さなサンゴ石がフェルト内で塩と一緒に加熱され、サンゴ石が高温になり、炭化繊維は焦げず、炭化繊維を介してタオルの一点に触れ続け、
図16のようにタオルを焦がした。よってフェルト単体で包囲した場合の焦げは確認できなかったが、フェルトの外被の素材如何によっては、粒子の直径が2mm~4mm以上のサンゴ石は使用を避けるか、加熱時間を短くすることが好ましいと思われる。
【0089】
実施例21(綿袋と綿素材とで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
さらし程度の厚さの綿でできた袋に粒子の直径が2mm以下の小さなサンゴ砂と塩を入れ、厚目の帆布綿素材で包み、乾燥時に適宜霧吹きした後に電子レンジで600W1分加熱し、使用することを繰り返した。その結果、1年を経過しても綿袋や綿素材を焦がすことはなかった。
【0090】
実施例22(綿袋と麻素材とで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
さらし程度の厚さの綿でできた袋に粒子の直径が2mm以下の小さなサンゴ砂と塩を入れ、麻素材で2重に包み、乾燥時に適宜霧吹きした後に電子レンジで600W1分加熱し、使用することを繰り返した。その結果、1年を経過しても綿袋や麻素材を焦がすことはなかった。
【0091】
実施例23(麻袋と綿素材とで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
さらし程度の厚さの麻でできた袋に粒子の直径が2mm以下の小さなサンゴ砂と塩を入れ、厚目の帆布綿素材で包み、乾燥時に適宜霧吹きした後に電子レンジで600W1分加熱し、使用することを繰り返した。その結果、1年を経過しても麻袋や綿素材を焦がすことはなかった。
【0092】
実施例24(麻袋と2重麻素材とで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
さらし程度の厚さの麻でできた袋に粒子の直径が2mm以下の小さなサンゴ砂と塩を入れ、麻素材で2重に包み、乾燥時に適宜霧吹きした後に電子レンジで600W1分加熱し、使用することを繰り返した。その結果、1年を経過しても麻袋や麻素材を焦がすことはなかった。
【0093】
実施例25(麻袋と麻素材と綿麻混素材とで珊瑚石を含む組成物を包んだ温熱懐炉)
さらし程度の厚さの麻でできた袋に粒子の直径が2mm以下の小さなサンゴ砂と塩を入れ、さらし程度の厚さの麻素材とさらし程度の厚さの綿麻混素材で包み、乾燥時に適宜霧吹きした後に電子レンジで600W1分加熱し、使用することを繰り返した。その結果、1年を経過しても麻袋や麻素材、綿麻混素材を焦がすことはなかった。
【0094】
実施例26(各種包装を用いた温熱懐炉の耐久試験)
イオン交換膜法で精製した塩化ナトリウムと珊瑚砂とを重量比7:3で配合したものに対して適宜珪砂または珊瑚石を加えてPP製不織布およびPP製ビニール袋に入れ、ジップロック(登録商標)で包装した。6ヶ月~1年4ヶ月ホットキャビに入れて繰り返し使用した後、内容物の状態を確認した。結果を表16および
図17~
図22に示す。
【0095】
【0096】
PP製不織布およびPP製ビニール袋は、内容物の組成如何によらず、1年以上にわたりホットキャビ中での保温と使用とを繰り返すことにより、熱劣化で崩壊した。日本製のホットキャビの方が、使用していて温度感が丁度よいことから、メーカーの保温機内の設定温度と実際の温度との差も劣化の早さに関係するように思われた。四辺を圧着した(4)(5)については、水に触れることがないので比較的耐久性がよかったものと考えられる。
【0097】
実施例27(綿袋又は麻袋を用いた温熱懐炉の耐久試験)
塩化ナトリウム85gに珊瑚砂15gを混合した組成物を綿袋又は麻袋に入れ、さらに綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材に包んで電子レンジ600W1分で加熱を行った。取り出してすぐ、
図23に示すように、綿素材、麻素材若しくは綿麻混素材の表面温度と組成物の深部温度の経時変化を測定した。結果を表17および表18を示す。2回目、3回目、4回目の手順は、表に説明する通りで、加熱直後の温度計測のみとした。
【表17】
【表18】
【0098】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。
本発明の温熱懐炉は、腹巻きに入れて自宅で就寝時に使用することはもちろん、おしぼり温熱器等に保温しておいてシャンプー時の首まくらとして美容院で、顔剃り時の首まくらとして理髪店で、待ち時間や治療時の首まくらや腹当てとして歯科医院で、客に提供し使用させることができる。また、電子レンジで加熱し、学校の保健室でも使用することができる。そのほか、鍼灸院、エステ、整体、カイロプラクティックでの施術への応用も期待できる。また温熱懐炉自体の製造工程が簡単であるので、授産所での仕事にすることで雇用を生み出し、産業上有用となる。本発明の温熱懐炉は、ペットの骨、人骨を成分とすることで、亡くしたペット、故人に対する手元供養の新しい形態を提供する。