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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087444
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】セロビオース分解能を有する酵母
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220606BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20220606BHJP
   C12P 7/10 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12P7/06
C12P7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199376
(22)【出願日】2020-12-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度~令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業「ASEANバイオマス活用に向けた耐熱性微生物を利用するバイオ燃料等変換プロセスの開発」委託研究、及び平成24年~令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「発酵微生物のゲノム育種およびゲノム工学的「耐熱化」」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】507380182
【氏名又は名称】株式会社ジェイコム
(71)【出願人】
【識別番号】300073414
【氏名又は名称】ケア・ルートサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】山田 守
(72)【発明者】
【氏名】村田 正之
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】長 武志
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC03
4B064CA02
4B064CA21
4B064CB01
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BA17
4B065BA18
4B065BB18
4B065CA06
4B065CA54
(57)【要約】      (修正有)
【課題】DNA組換え技術によらない育種法により、本来備えていた糖化のための酵素が機能するように変異した耐熱性酵母を提供する。特に、セロビオースの分解能力を有する耐熱性変異株を提供する。
【解決手段】セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスに属する変異株であって、少なくとも40℃の条件下で生育可能である変異株を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株。
【請求項2】
請求項1に記載の変異株であって、
野生株と比較して、増大したセロビオース分解能を有する、変異株。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変異株であって、
クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株とした変異により得られた株であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株と比較して、増大したセロビオース分解能を有する株である、変異株。
【請求項4】
請求項3に記載の変異株であって、前記クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株に紫外線照射処理、および、アセトアルデヒド阻害剤、エリゴステロール合成阻害剤もしくは成長抑制剤の少なくとも一つを含む培地を用いた培養処理により得られる、変異株。
【請求項5】
SY13-1-4株(受託番号:P-03284)、SY15-2-12株(受託番号:P-03286)、SY15-1-43株(受託番号:P-03285)、もしくは、SY15-1-19株(受託番号:P-03253)、または、それらの変異株である、請求項1~4のいずれか一項に記載の変異株。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異株またはその溶解物を含む、セロビオース分解用組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異株または請求項6に記載のセロビオース分解用組成物を用いる、セロビオースの分解方法。
【請求項8】
エタノールを生産する方法であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載の変異株または請求項6に記載のセロビオース分解用組成物を用いてセロビオースを糖化する工程を含む、エタノールの生産方法。
【請求項9】
請求項8に記載のエタノールを生産する方法であって、
前記セロビオースを糖化する工程において、グルコース資化エタノール発酵微生物をさらに用いる、エタノールの生産方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載のエタノールを生産する方法であって、
セルラーゼ産生菌または、セロビオハイドロラーゼもしくはエンドグルカナーゼを用いて、セルロースをセロビオースに糖化する工程をさらに含む、エタノールの生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロビオース分解能を有する酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の影響が顕在化する中、バイオエタノールは再生可能で環境に優しい代替エネルギー源として注目されている。しかしながら、コスト面や原料となるバイオマス不足等から我が国ではその生産はほとんど行われていない。海外においても第2世代バイオマスを原料とするには採算性の点から超大規模な施設が必要と考えられている。SDGs達成のためにも低コスト化ができる革新的な技術開発が求められている。
【0003】
第2世代バイオマスであるセルロースからエタノールを生産する場合には、セルラーゼの一種であるセロビオハイドロラーゼ(CBH)、エンドグルカナーゼ(EG)、およびβ-グルコシダーゼ(BGL)の3種分解酵素が必須である。CBHはセルロース鎖の末端から加水分解するセルラーゼであり、EGはセルロース鎖を内部から加水分解するセルラーゼである。一方、BGLは、CBHやEGの分解により生じたセロビオース(グルコースが二つ結合したもの)などのセロオリゴ糖を加水分解し、グルコースを生成する。
これらセルロース分解酵素は第1世代バイオマスのデンプン分解酵素と比べて数倍高価であり、また糖化反応に用いるセルラーゼがデンプン系バイオマスの酵素糖化反応に用いるアミラーゼと比べて大量に必要であることから、酵素コストが高く実用化に至っていない。このように、第2世代バイオマスであるセルロース系バイオマスからのエタノール生産においては、特に加水分解酵素経費の低減化が求められている。
【0004】
セルロース系バイオマスからのエタノール生産における上記の課題を解決するために、仮に、市販セルラーゼであるBGLの使用量を削減すると、生成物であるグルコースによってBGLが阻害され、セロビオースが蓄積する。蓄積したセロビオースはCBHやEGを阻害し、結果として糖化反応が強く阻害される。また、コスト削減のために自家生産のセルラーゼを使用した場合、糸状菌(主にTrichoderma reesei)のセルラーゼは、BGLの活性が弱いことからセルロース糖化率が低く、最終的なエタノール生産量が下がる。これらの問題の共通点は、セロビオースの蓄積にある。
これまで、サッカロマイセス・セレビシエにおいて糖化酵素をDNA組換えによって生産する多くの試みが行われているが(例えば、特許文献1)、DNA組換えであることから組換え酵母拡散防止のために封じ込めの設備費や生産後の廃棄処理経費がかかることからこれまでエタノール発酵生産には使われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/146540号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、DNA組換え技術によらない育種法により、セルロース系バイオマスを用いたエタノール生産に利用可能な、糖化酵素が機能するように変異した酵母の提供を課題とする。本発明は特に、セロビオース分解能を有する変異株の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これまでに本発明者らは高温発酵に不可欠な耐熱性酵母の開発を進めてきた(Lertwattanasakul, et al, Biotechnol Biofuels, 8:47. doi:10.1186/s13068-015-0227-x, 2015)。耐熱性酵母は40~43℃で効率的にエタノール発酵ができ、世界的にエタノール生産に利用されている酵母(サッカロマイセス・セレビシエ:Saccharomyces・cerevisiae)と比べておよそ10℃高温で安定に発酵が可能であることが示されてきた。発酵では発酵熱によって発酵槽の温度が上昇し、その温度上昇はサッカロマイセス・セレビシエの生育や発酵能力を抑制することから冷却が不可欠となる。しかしながら耐熱性酵母を用いる場合そのような冷却は不要となることから、冷却エネルギー(コスト)削減ひいてはCO削減につながる。また、糖化発酵を同時に行う並行複発酵において耐熱性酵母は約10℃高い温度で発酵できるためサッカロマイセス・セレビシエと比べて糖化酵素量を1/2に減量でき、経費を削減できる。
耐熱性酵母もサッカロマイセス・セレビシエと同様にセルロース系バイオマスを用いる場合、セロビオハイドロラーゼ(CBH)、エンドグルカナーゼ(EG)、およびβ-グルコシダーゼ(BGL)の3種の糖化反応用の酵素が必要であるが、その酵素を耐熱性酵母が生産できればエタノール生産コストをさらに削減することができる。
【0008】
本発明者らは、当該耐熱性酵母を用いて紫外線照射処理、場合により特定の薬剤を含有する培地を用いた培養により、セロビオースを分解可能な酵母の変異株を得ることができ、セロビオース分解能を有する酵母の育種法の確立に成功した。当該変異株はセロビオース資化エタノール発酵も可能であった。本発明は上記知見に基づき完成された発明であり、以下の態様を含む:
すなわち、本発明の一態様は、
〔1〕セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株に関する。
ここで本発明の変異株は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の変異株であって、
野生株と比較して、増大したセロビオース分解能を有することを特徴とする。
また本発明の変異株は一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の変異株であって、
クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株とした変異により得られた株であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株と比較して、増大したセロビオース分解能を有する株であることを特徴とする。
また本発明の変異株は一実施の形態において、
〔4〕上記〔3〕に記載の変異株であって、前記クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株に紫外線照射処理、および、アセトアルデヒド阻害剤、エリゴステロール合成阻害剤もしくは成長抑制剤の少なくとも一つを含む培地を用いた培養処理により得られることを特徴とする。
また本発明の変異株は一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の変異株であって、
SY13-1-4株(受託番号:P-03284)、SY15-2-12株(受託番号:P-03286)、SY15-1-43株(受託番号:P-03285)、もしくは、SY15-1-19株(受託番号:P-03253)、または、それらの変異株であることを特徴とする。
また本発明は別の態様において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の変異株またはその溶解物を含む、セロビオース分解用組成物に関する。
また本発明は別の態様において、
〔7〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の変異株または上記〔6〕に記載のセロビオース分解用組成物を用いる、セロビオースの分解方法に関する。
また本発明は別の態様において、
〔8〕エタノールを生産する方法であって、
上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の変異株または上記〔6〕に記載のセロビオース分解用組成物を用いてセロビオースを糖化する工程を含む、エタノールの生産方法に関する。
ここで本発明のエタノールを生産する方法は一実施の形態において、
〔9〕上記〔8〕に記載のエタノールを生産する方法であって、
前記セロビオースを糖化する工程において、グルコース資化エタノール発酵微生物をさらに用いることを特徴とする。
また本発明のエタノールを生産する方法は一実施の形態において、
〔10〕上記〔8〕または〔9〕に記載のエタノールを生産する方法であって、
セルラーゼ産生菌または、セロビオハイドロラーゼもしくはエンドグルカナーゼを用いて、セルロースをセロビオースに糖化する工程をさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るセロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株によれば、セルロース系バイオマスの糖化反応時における加水分解酵素経費の低減化やセロビオース蓄積によるBGL阻害の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、耐熱性発酵酵母を用いたセルロース系バイオマスからのエタノール生産に関する一実施の形態の概要図を示す。セルロースは、セルラーゼ産生菌、たとえば糸状菌のCBH酵素およびEG酵素によりセロビオースに分解される。セロビオースは、BGL酵素によりグルコースに分解され、耐熱性発酵酵母のエタノール生産の資源として利用される。一方、本発明により提供されるセロビオース分解能を有する耐熱性発酵酵母の変異株を用いる場合には、セロビオースを直接の資源としてエタノール生産を可能とする。
図2図2は以下の実施例において クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株として紫外線照射および薬剤含有培地を用いた培養による育種法により、セロビオース分解能を有する耐熱性変異酵母を単離した過程を示すフロー図である。
図3図3は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の変異株であるSY13-1-4株の細胞生育試験、セロビオース分解能試験、および、エタノール生産試験のそれぞれの結果を示すグラフである。対照として、親株であるDMKU3-1042株を用いた。
図4図4は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の変異株であるSY14-3-7株の細胞生育試験、セロビオース分解能試験、および、エタノール生産試験のそれぞれの結果を示すグラフである。対照として、親株であるDMKU3-1042株を用いた。
図5図5は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の変異株であるSY15-1-19株の細胞生育試験、セロビオース分解能試験、および、エタノール生産試験のそれぞれの結果を示すグラフである。対照として、親株であるDMKU3-1042株を用いた。
図6図6は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の変異株であるSY15-1-43株の細胞生育試験、セロビオース分解能試験、および、エタノール生産試験のそれぞれの結果を示すグラフである。対照として、親株であるDMKU3-1042株を用いた。
図7図7は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の変異株であるSY15-2-12株の細胞生育試験、セロビオース分解能試験、および、エタノール生産試験のそれぞれの結果を示すグラフである。対照として、親株であるDMKU3-1042株を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces・marxianus)またはクルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces・lactis)の変異株を提供する。
本発明に係る変異株はセロビオース分解能を有するため、セロビオースの糖化反応を可能とする。また本発明に係る変異株は、セルロース系バイオマスを用いたエタノール生産において、セロビオース資化エタノール発酵を可能とする。
【0012】
「セロビオース」とはグルコース2分子がβ1、4結合でつながった二糖をいう。セルロース系バイオマスを利用したエタノール生産において、セロビオースは、セロビオハイドロラーゼ(CBH)およびエンドグルカナーゼ(EG)の作用によりセルロースの分解物として生産される。本明細書における「セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株」とは、培養液中に含まれるセロビオースをグルコースに分解する能力を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株をいう。クルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティス属に属する菌体は実質的にセロビオース分解能を有しない。よって、本発明に係るセロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株は、セロビオース分解能が増大した変異体である。一実施の形態において、セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株は、野生株と比較して、増大したセロビオース分解能を有するものである。クルイベロマイセス・マルシアヌスの野生株としては、DMKU3-1042株を挙げることができ、また、クルイベロマイセス・ラクティスの野生株としては、NBRC 0433株を挙げることができる。
また「セロビオース分解能を有するクルイベロマイセス・マルシアヌスまたはクルイベロマイセス・ラクティスの変異株」の一実施の形態は、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株とした変異により得られた株であり、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株と比較して、増大したセロビオース分解能を有するものである。また「セロビオース分解能を有する変異株」とは、より具体的な例示として、以下に限定されないが、セロビオース含有培地(例えば、0.17% Yeast Nitrogen base (アミノ酸不含有)、0.08% Ammonium sulfate、0.5% yeast extract、および、3% cellobioseの混合培地)100mlに懸濁度(OD660)=0.1となるように変異株含有培養液を移し、40℃の温度条件下で一定時間(例えば、48~60時間)振とう培養(160rpm)した場合に、前記培地に含有するセロビオースの30%以上、好ましくは40%以上、50%以上、60%以上、より好ましくは90%以上のセロビオースを分解する変異株を例示することができる。また例えば、3%セロビオースを含有する上記セロビオース含有培地100mlに懸濁度(OD660)=0.1となるように菌体培養液を移し、40℃の温度条件下で一定時間(例えば、20~40時間)振とう培養(160rpm)した場合に、1%(W/V)以上、好ましくは2%(W/V)以上、より好ましくは2.5%(W/V)以上のセロビオースを分解しうる変異株を例示することができる。
上記のように、セロビオース含有培地で変異株を一定期間培養した後、培養後の培地に残るセロビオースの濃度を測定することによりセロビオース分解能を評価することができる。培地中のセロビオース濃度の測定方法は公知の手法を採用することができ、例えば、下記実施例に示すジニトロサリチル酸法(DNSA法)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)を用いることができる。
【0013】
また本発明に係る変異株は、セロビオース資化エタノール発酵が可能である。本発明に係る変異株は、セロビオースをグルコースに糖化反応により分解することができ、得られたグルコースをエタノール発酵に利用することができる。本発明に係る変異株は一実施の形態において、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株と比較して、増大したセロビオース資化エタノール発酵を有するものということができる。「セロビオース資化エタノール発酵ができる変異株」とは、より具体的には、以下に限定されないが、セロビオース含有培地(例えば、0.17% Yeast Nitrogen base(アミノ酸不含有)、0.08% Ammonium sulfate、0.5% yeast extract、および、3% cellobioseの混合培地)100mlに懸濁度(OD660)=0.1となるように変異株含有培養液を移し、40℃の温度条件下で一定時間(例えば、48~60時間)振とう培養(160rpm)した場合に、1%(W/V)以上、好ましくは2%(W/V)以上、より好ましくは2.5%(W/V)以上のエタノールを生産しうる変異株を例示することができる。
上記のように、セロビオース含有培地で変異体を一定期間培養した後、培養後の培地に生産されたエタノールの濃度を測定することによりセロビオース資化エタノール発酵におけるエタノール生産能を評価することができる。エタノールの濃度の測定方法は公知の手法を採用することができ、例えば、下記実施例に示す高速液体クロマトグラフィーを用いることができる。
【0014】
本明細書において「変異株」とは、親株から所与の形質が変化した株をいい、以下に限定されないが、親株が有しない形質を新たに獲得した変異株や親株が有する形質の機能が向上または変化した変異体を含む。また「変異体」は自然突然変異体、紫外線照射、X線照射、変異誘発剤(例えば、N-メチル-N-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなど)などを用いた突然変異誘発処理体、薬剤含有培地を用いたスクリーニングにより得られる変異体、外来遺伝子の導入などを含むDNA組換え技術により形質が変化した変異体、および、倍数化体を含む。好ましい実施の形態において、変異株は、紫外線照射及び/または薬剤含有培地を用いた培養により選択され得る変異株である。紫外線照射または薬剤含有培地を用いた培養により選択された変異株は、DNA組換え技術を用いて作製された変異株と異なり、酵母拡散防止のための封じ込めの設備費や生産後の廃棄処理を不要とできる点において好ましい。
【0015】
上記に列挙する変異株の作製方法は公知の手法に準じて行うことができる。例えば、酵母の変異株を作製するための紫外線処理方法は公知であり、微生物育種用の紫外線照射装置などを用いて菌体に紫外線を照射することができる。紫外線照射量は、対象の菌株の約1割が生存する条件とすることが好ましい。具体的には、クリーンベンチ内で外径10cmのガラスシャーレーに細胞濁度がOD660 = 1.0となるように細胞を加えて殺菌ランプ(GL-15、株式会社ホタルクス製、波長=250nm)を距離20cmから5分間照射のようにして紫外線照射を行うことができる。
【0016】
また薬剤含有培地を用いた変異株の作製方法は例えば、以下のようにして行うことができる。薬剤含有培地に用いることのできる薬剤としては、アセトアルデヒド阻害剤、エリゴステロール合成阻害剤もしくは成長抑制剤を挙げることができる。これらの薬剤は、単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
アセトアルデヒド阻害剤としては、以下に限定されないが、Disulfiram(DSF)を挙げることができる。培地中のアセトアルデヒド阻害剤の濃度は、用いる薬剤などの条件により適宜設定することができる。アセトアルデヒド阻害剤としてDSFを用いる場合、以下に限定されないが、例えば0.1μM~10μMの範囲とすることができる。
エリゴステロール合成阻害剤としては、以下に限定されないが、Clotrimazole(CTZ)およびMiconazole(MCZ)を挙げることができる。培地中のエリゴステロール合成阻害剤の濃度は、用いる薬剤などの条件により適宜設定することができる。エリゴステロール合成阻害剤としてCTZまたはMCZを用いる場合、以下に限定されないが、例えばCTZの場合0.4μg/mL~4μg/mL、MCZの場合5μM~50μMの範囲とすることができる。
成長抑制剤としては、以下に限定されないが、グルコースアナログである2-deoxyglucose(2-DG)を挙げることができる。培地中の成長抑制剤の濃度は、用いる薬剤などの条件により適宜設定することができる。成長抑制剤として2-DGを用いる場合、以下に限定されないが、例えば0.01%(w/v)~0.5%(w/v)の範囲とすることができる。
上記に挙げる薬剤に加え、細胞膜の透過性を亢進させるAmphotericin B(AMB)やその他の薬剤なども用いてもよい。
薬剤を添加する培地は酵母の培養に適した公知の培地であればよく、セロビオースを含有していることが好ましい。以下に限定されないが、0.17% Yeast Nitrogen base (アミノ酸不含有)、0.08% Ammonium sulfate、0.5% yeast extract、および、3% cellobioseの混合培地を挙げることができ、当該混合培地に対して所望の薬剤を好ましい濃度となるように添加して用いることができる。
【0017】
薬剤含有培地を用いて変異株を選択する手法は、薬剤含有培地を用いて一定期間、菌体を培養すればよい。培養条件は、以下に限定されないが、30~41℃で48~60時間とすることができる。
【0018】
また紫外線照射処理後や薬剤含有培地を用いた培養後に、セロビオース含有培地を用いた長期間の継代培養を行うことも好ましい。長期間の継代培養を行うことによりセロビオース分解能またはセロビオース資化に適応した変異を定着させることができる。継代培養の例としては、変異を定着させることができる限り限定されないが、例えばセロビオース含有培地を用いた平板培地に培養後の変異株をまいて、37℃の条件下、24時間間隔、48時間間隔、74時間間隔、または、96時間間隔の継代培養を、240~432時間行うことができる。
【0019】
紫外線照射や薬剤含有培地を用いた培養などの変異処理後の変異株または変異処理後の長期培養を経た変異株は、平板培養により形成したコロニーの大きさ、生育能、セロビオース分解能、または、エタノール生産能を評価することで好ましい変異株を選択することができる。
【0020】
紫外線照射処理して変異株を単離する工程、または、薬剤含有培地を用いて菌株を培養し、変異株を単離する工程は、所望の性質を有する変異株が得られるまで複数回繰り返してもよい。
【0021】
本発明の変異株は、一実施の形態において耐熱性を有する変異株である。本明細書において耐熱性を有するとは少なくとも40℃の条件下で生育可能であることを意味する。「少なくとも40℃の条件下で生育可能である」とは、40℃以上の高温条件下においても変異株が良好に生育することができることをいう。より具体的には40℃の条件下、好ましくは43℃の条件下、より好ましくは45℃の条件下で変異株が生育することができることをいう。
好ましい実施の形態において、本発明の変異株は少なくとも40℃の条件下において、セロビオース分解能、または、セロビオース資化エタノール発酵能を有する。
【0022】
セロビオース分解能に加えて、少なくとも40℃の条件下で生育可能である変異株を得るためには、セロビオース分解能を有する変異株を得るための育種に用いる親株として、少なくとも40℃の条件下で生育可能な耐熱性株を用いればよい。少なくとも40℃の条件下で生育可能な耐熱性株は公知の菌株を用いることができ、例えば、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を用いることができる。
【0023】
本発明の変異株は一実施の形態において、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株とした変異により得られた株である。より具体的には、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株に紫外線照射処理と、アセトアルデヒド阻害剤、エリゴステロール合成阻害剤もしくは成長抑制剤の少なくとも一つを含む薬剤含有培地を用いた培養を行うことにより得られる、変異株である。なお、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株は、耐熱性酵母株として特許第5051727号公報に開示されている株である(受託番号:NITE BP-291)。
本発明の変異株は一実施の形態において、SY13-1-4株、SY15-2-12株、SY15-1-43株、もしくは、SY15-1-19株、または、それらより誘導される変異株である。上記SY13-1-4株、SY15-2-12株、SY15-1-43株およびSY15-1-19株はそれぞれ順に受託番号NITE P-03284、NITE P-03286、NITE P-03285、およびNITE P-03253として、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室に所在するNITE独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センターにおいて2020年8月5日又は2020年9月15日に寄託されており、一定の条件下で分譲可能である。
【0024】
本発明は別の態様において、上記本発明の変異株またはその溶解物を含む、セロビオース分解用組成物を提供する。
本発明のセロビオース分解用組成物は、セロビオースの分解に用いることができる。本発明のセロビオース分解用組成物は、一実施の形態において、上記本発明の変異株の溶解物を含むことができ、これにより本発明の変異株由来のセロビオース分解酵素を含むことができる。上記溶解物を調製するための溶解方法としては特に制限されないが、微生物や植物などから得られる酵素製剤を加えて可溶化する酵素分解法や、酸やアルカリにより可溶化する加水分解法のほか、超音波処理等により物理的に細胞壁を壊してセロビオース分解酵素を菌体外に溶出させる方法を挙げることができる。
本発明のセロビオース分解用組成物は、変異株や酵素を維持するための培養液、安定剤などの添加剤をさらに含んでもよい。
【0025】
本発明の別の態様は、上記本発明の変異株または上記本発明のセロビオース分解用組成物を用いる、セロビオースの分解方法を提供する。
本発明のセロビオース分解能を有する変異株または本発明のセロビオース分解用組成物を用いる限り、セロビオースの分解方法は限定されない。また本発明の変異株またはセロビオース分解用組成物を用いたセロビオースの分解方法は、セロビオースからグルコースの生成方法も含むものである。
例えば、セロビオースを含有する溶媒に本発明のセロビオース分解能を有する変異株または本発明のセロビオース分解用組成物を添加し、一定期間培養または反応させればよい。溶媒は、変異株またはセロビオース分解用組成物によるセロビオースの分解を可能とするものである限り限定されない。変異株を用いてセロビオースを分解する際、例えば、YPD培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)、YPAD培地(2%バクトペプトン、1%酵母エキス、2%グルコース、40μl/ml硫酸アデニン)、SD培地(2%グルコース、0.67%Lアミノ酸不含イーストニトロジェンベース)、YM培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽抽エキス、0.5%ペプトン、1%グルコース)などの酵母培養液を用いることができる。
変異株を用いてセロビオースを分解する際、培養させる温度としては好ましくは30℃以上であり、より好ましくは30℃~45℃を例示することができる。また、培養方法としては、振とう培養、撹拌培養、振とう撹拌培養、連続培養静置培養、またはこれらの組み合わせを例示することができ、振とう培養または撹拌培養を好適に例示することができる。また培養時間としては、1~10日を例示することができ、2~7日を好適に例示することができ、2~3日をより好適に例示することができる。
【0026】
上記態様で得られたセロビオースに由来するグルコースは、別の発酵工程と組み合わせるための原料としてもよい。また、本発明の変異株は、セロビオース資化エタノール発酵も可能な株である。
よって本発明の別の態様は、エタノールを生産する方法であって、上記本発明の変異株または上記本発明のセロビオース分解用組成物を用いて、セロビオースを糖化する工程を含む、エタノールの生産方法を提供する。本発明のセロビオース分解能を有する変異株または本発明のセロビオース分解用組成物を用いてセロビオースからグルコースを糖化処理する過程が含まれる限り、エタノールの生産方法は限定されない。
本態様において、本発明のセロビオース分解能を有する変異株は、セロビオースの糖化処理により得られたグルコースを利用してエタノール発酵をすることができるため、セロビオースを含有する培地で当該変異株を培養することでエタノールの生産までも可能とする。一実施の形態においては、グルコースからエタノールを生産するアルコール発酵を促進するために、グルコース資化エタノール発酵が可能な微生物をさらに用いてもよい。このようなグルコース資化エタノール発酵が可能な微生物は公知のものを利用することができ、サッカロマイセス属酵母、クルイベロマイセス属酵母などの酵母や、ザイモモナス属、ザイモバクター属などの細菌を挙げることができ、好ましくは耐熱性酵母(例えば、クルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株)、耐熱性ザイモモナス・モビリス(Zymomonas・mobilis)などを挙げることができる。
【0027】
また本発明のエタノールの生産方法は、一実施の形態において、セルラーゼ産生菌、または、セロビオハイドロラーゼもしくはエンドグルカナーゼを用いてセルロースをセロビオースに糖化する工程をさらに含む。
本発明のエタノールを生産する方法において、当該セルロースをセロビオースに分解する工程は、セロビオースを糖化する工程の前に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
本発明に用いることのできるセルラーゼ産生菌は、セルロースをセロビオースに糖化できる限りにおいて限定されず、例えば、糸状菌、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus・licheniformis)などのバチルス属細菌、を用いることができる。
セロビオハイドロラーゼもしくはエンドグルカナーゼを用いてセルロースをセロビオースに糖化する場合、好ましい実施の形態は、セロビオハイドロラーゼおよびエンドグルカナーゼを用いてセルロースをセロビオースに糖化する形態である。
【0028】
本発明におけるエタノールの生産方法において、培地から生産されたエタノールを回収する方法としては、従来公知のいかなる方法も適用することができ、例えば、固液分離操作によってエタノールを含む液層と、酵母や固形成分を含有する固層とを分離し、その後、液層に含まれるエタノールを蒸留法によって分離・精製することで回収する方法を例示することができる。
【実施例0029】
(セロビオース分解能を有する耐熱性変異酵母の取得)
本実施例では、耐熱性酵母であるクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株を親株として育種を行った。
1割の耐熱性酵母細胞が生存する条件で、DMKU3-1042株に対してクリーンベンチ内で外径10cmのガラスシャーレーに細胞濁度がOD660=1.0となるように細胞を加えて殺菌ランプ(GL-15、株式会社ホタルクス製、波長=250nm)を距離20cmから5分間照射のようにして紫外線照射(変異処理)を行った後、変異処理した酵母を10mLのセロビオース含有培地(0.17% Yeast Nitrogen base(アミノ酸不含有)、0.08% Ammonium sulfate、0.5% yeast extract、および、3% cellobioseの混合培地)に植菌し、40℃、160rpm、24時間振とう培養した。その後、上記セロビオース含有培地を用いた平板培地に培養後の変異株をまいて、37℃、48~72時間培養した。出現したコロニーのうち、大きいコロニー(96~144個)を選択し、さらにセロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択した(SY5-1-17)。
なお、変異株培養後の培地中のセロビオース濃度およびエタノール濃度の測定は、HPLCを使用して行った。具体的には、培養液を遠心分離(1,400rpm、1分)し、上清をメンブレンフィルター(日本ポール社製)でろ過して検液とし、高速液体クロマトグラフィー(日立ハイテクノロジーズ社製)で測定することで求めた。培地中のエタノール濃度の測定における高速液体クロマトグラフィーの分析条件として、カラムはGelpack(登録商標)GL-C610-S(日立ハイテクノロジーズ社製)を使用し、計測時のオーブン温度は60℃、カラム内の流速は0.3ml/分とし、移動相にはイオン交換水を用いた。
【0030】
次いで、SY5-1-17株に対して上記と同様の紫外線照射による変異処理とそれに続く上記セロビオース含有培地を用いた振とう培養、および、平板培養を経て、セロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択した(SY5-1-17-3-40株)。さらに得られたSY5-1-17-3-40株を対象に上記と同様の紫外線照射による変異処理と、それに続く上記セロビオース含有培地を用いた長期間の継代培養(48時間間隔384~432時間の継代培養)を行う工程を複数回繰り返し、セロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択した(SY12-2-35株)。SY12-2-35株に上記の紫外線照射による変異処理をさらに行い、その後1μM DSF(ジスルフィラム)をさらに含有するセロビオース含有培地を用いた振とう培養、および、平板培養を行った。出現したコロニーのうち、大きいコロニーを選択し、さらにセロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択することで、最終的にセロビオース分解能に加えてセロビオース資化エタノール生産能を有する株(SY13-1-4株)の単離に成功した(図2)。
【0031】
上記で得られたSY13-1-4株から、さらにセロビオース分解能またはセロビオース資化エタノール生産能が向上した株を得るため下記操作を行った。
SY13-1-4株に対して上記紫外線照射による変異処理をさらに行い、その後1μM DSFおよび0.1% 2DG(2-デオキシグルコース)をさらに含有するセロビオース含有培地を用いた振とう培養、および、平板培養を行った。出現したコロニーのうち、大きいコロニーを選択し、さらにセロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択することで、セロビオース分解能に加えてセロビオース資化エタノール生産能が向上した株(SY14-3-7株)の単離に成功した(図2)。
さらに、SY14-3-7株に対して上記紫外線照射による変異処理をさらに行った。変異処理後の振とう培養および平板培養には、3つの培地((i)1μM DSFおよび0.5% 2DGをさらに含むセロビオース含有培地、(ii)1μM DSFおよび0.5% 2DG、4μg CTZをさらに含むセロビオース含有培地、および、(iii) 10μM DSFおよび0.1% 2DGをさらに含むセロビオース含有培地)のそれぞれを用いて実施した。出現したコロニーのうち、大きいコロニーを選択し、さらにセロビオース消費およびエタノール生産の大きい株を選択することで、セロビオース分解能に加えてセロビオース資化エタノール生産能がより向上した株(SY15-2-12株、SY15-1-43株、SY15-1-19株)の単離に成功した(図2)。
【0032】
(生育試験、ならびに、セロビオース分解試験およびエタノール生産試験)
上述のようにして得られたセロビオース分解能を有する熱耐性変異酵母(SY13-1-4株、SY14-3-7株、SY15-2-12株、SY15-1-43株、SY15-1-19株)の生育能、セロビオース分解能、および、エタノール生産能を測定するために、以下の培養および測定を行った。変異株に対する対照としてクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株(親株)を用いた。また生育試験の培養および測定と、セロビオース分化およびエタノール生産試験の培養および測定とはそれぞれ独立に行った。
SY13-1-4株、SY14-3-7株、SY15-2-12株、SY15-1-43株、SY15-1-19株、および、DMKU3-1042株のそれぞれを三角フラスコ中のセロビオース含有培地10mlに一白金耳植菌して、37℃の温度条件下、18時間振とう培養(160rpm)して前培養液を得た。次に、三角フラスコ中のセロビオース含有培地(セロビオースの含有量は、約3~4%(w/v))30mlに懸濁度(OD660)=0.1となるように前培養液を移し、40℃の温度条件下で振とう培養(160rpm)した。
【0033】
培養開始から12時間、24時間、36時間、48時間後のセロビオース分化能を有する耐熱性変異酵母及びクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042株の増殖、ならびに、培地中のセロビオースおよびエタノール濃度を測定した。セロビオース分化能を有する耐熱性変異酵母及びクルイベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042の増殖は、培養液の懸濁度(OD660)を分光光度計で測定することで求めた。培地中のセロビオース濃度は、下記のようにエタノール濃度と同時に測定した。培地中のエタノール濃度は、培養液を遠心分離(1,400rpm、1分)し、上清をメンブレンフィルター(日本ポール社製)でろ過して検液とし、高速液体クロマトグラフィー(日立ハイテクノロジーズ社製)で測定することで求めた。培地中のエタノール濃度の測定における高速液体クロマトグラフィーの分析条件として、カラムはGelpack(登録商標)GL-C610-S(日立ハイテクノロジーズ社製)を使用し、計測時のオーブン温度は60℃、カラム内の流速は0.3ml/分とし、移動相にはイオン交換水を用いた。
【0034】
SY13-1-4株の培養液の懸濁度(OD660)の測定結果、セロビオース濃度、および、エタノール濃度の測定結果を図3に示す。
SY13-1-4株は、DMKU3-1042株と比較して、培養約10時間目以降の生育がより優れていた。また、SY13-1-4株はセロビオースの分化能を示した。一方で、DMKU3-1042株はセロビオースを実質的に分解していなかった。さらに、SY13-1-4株はエタノールの生産も示した。一方、DMKU3-1042株はエタノールの生産を示さなかった。これらの結果は、SY13-1-4株はDMKU3-1042株と比較して優れた生育能を有しており、さらにセロビオース分解能およびセロビオース資化エタノール生産能を有することを示す。
【0035】
SY14-3-7株の培養液の懸濁度(OD660)の測定結果、セロビオース濃度、および、エタノール濃度の測定結果を図4に示す。細胞生育のグラフにおいて縦軸はOD660を示し、横軸は時間(hour)を示す。図4中、セロビオース濃度のグラフにおいて、縦軸は培地中のセロビオース濃度(% w/v)、横軸は時間を示す。エタノール濃度のグラフにおいて、縦軸は培地中のエタノール濃度(% w/v)、横軸は時間を示す。図5~7の縦軸および横軸も同様の単位を示す。
SY14-3-7株は、DMKU3-1042株と比較して、培養約10時間目以降の生育がより優れていた。また、SY13-3-7株はセロビオースの分化能を示した。セロビオース分解能はSY13-1-4株よりも向上していた。さらに、SY14-3-7株はエタノールの生産も示した。これらの結果は、SY14-3-7株はDMKU3-1042株と比較して優れた生育能を有しており、さらにSY13-1-4株よりも向上したセロビオース分解能とセロビオース資化エタノール生産能とを有することを示す。
【0036】
SY15-1-19株、SY15-1-43株、および、SY15-2-12株の培養液の懸濁度(OD660)の測定結果、セロビオース濃度、および、エタノール濃度の測定結果をそれぞれ図5~7に示す。
SY15-1-19株、SY15-1-43株、および、SY15-2-12株のいずれも、DMKU3-1042株と比較して、培養開始時より生育がより優れていた。また、SY15-1-19株、SY15-1-43株、および、SY15-2-12株のいずれもセロビオースの分化能を示し、セロビオース分解能はSY13-1-4株およびSY14-3-7株よりも向上していた。さらに、SY15-1-19株、SY15-1-43株、および、SY15-2-12株のいずれもエタノールの生産も示した。エタノールの生産は培養開始直後より観察することができ、これはSY13-1-4株およびSY14-3-7株よりも優れたエタノール生産能を有することを示す。これらの結果は、SY15-1-19株、SY15-1-43株、および、SY15-2-12株のいずれもDMKU3-1042株と比較して優れた生育能を有しており、さらにSY13-1-4株およびSY14-3-7株よりも向上したセロビオース分解能とセロビオース資化エタノール生産能とを有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0037】
近年、非食糧性セルロース系バイオマスの利用を目的とした技術開発が国内外で行われているが、製造コストが高くなることから実用にいたっていない。本発明酵母によるセルロース発酵はセルラーゼの糖化率向上並びにコスト削減が期待できることから、廃棄セルロース系バイオマスを用いたバイオエタノール生産(バイオリファイナリー技術)に利用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7