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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087445
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】熱成形用樹脂シート及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220606BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220606BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20220606BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220606BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/04
C08L23/12
C08L53/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199377
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】396000422
【氏名又は名称】リスパック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 佳慶
(72)【発明者】
【氏名】早川 涼人
(72)【発明者】
【氏名】陸浦 至
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA16
4F071AA20
4F071AA20X
4F071AA75X
4F071AA88
4F071AB30
4F071AE09
4F071AE17
4F071AF20
4F071AF23Y
4F071AH05
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002BB03W
4J002BB12X
4J002BP02Y
4J002DA006
4J002DA016
4J002DA096
4J002DE076
4J002DE077
4J002DE107
4J002DE136
4J002DE137
4J002DE146
4J002DE147
4J002DE186
4J002DE236
4J002DE296
4J002DG026
4J002DG047
4J002DH046
4J002DH047
4J002DJ006
4J002DJ007
4J002DJ016
4J002DJ017
4J002DJ036
4J002DJ037
4J002DJ046
4J002DJ047
4J002DJ056
4J002DL006
4J002DM006
4J002FA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD207
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】剛性、耐熱性、及び耐寒性に優れる熱成形用樹脂シート及び容器を提供する。
【解決手段】本発明の熱成形用樹脂シートは、高密度ポリエチレン、ブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレン、及び無機系充填剤を含有し、前記高密度ポリエチレンは、JIS K7210に準拠し測定したフローレイト比が10~13の範囲である高密度ポリエチレン(I)を含有し、前記高密度ポリエチレンの含有量は、全材料配合の20~55重量%であり、前記高密度ポリエチレン(I)の含有量は、全材料配合の10~30重量%であり、-30℃におけるデュポン衝撃強度が0.5J以上である。また、本発明の成形品は、本発明の熱成形用樹脂シートを成形することにより得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度ポリエチレン、ブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレン、及び無機系充填剤を含有する熱成形用樹脂シートであって、
前記高密度ポリエチレンは、JIS K7210に準拠し測定したフローレイト比が10~13の範囲である高密度ポリエチレン(I)を含有し、
前記高密度ポリエチレンの含有量は、全材料配合の20~55重量%であり、
前記高密度ポリエチレン(I)の含有量は、全材料配合の10~30重量%であり、
前記熱成形用樹脂シートの-30℃におけるデュポン衝撃強度が0.5J以上であることを特徴とする、熱成形用樹脂シート。
【請求項2】
前記高密度ポリエチレンは、植物原料由来高密度ポリエチレンを含み、且つ前記植物原料由来高密度ポリエチレンの含有量は、全材料配合の3~20重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項3】
前記ホモポリプロピレンは造核剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項4】
前記ブロックポリプロピレンと前記ホモポリプロピレンとの重量比が、50~75:50~25であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項5】
JIS K7210に準拠し測定したフローレイト比が10~13の範囲である高密度ポリエチレン(I)を含有する高密度ポリエチレン、ブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレン、及び無機系充填剤を含有し、前記高密度ポリエチレンの含有量が全材料配合の20~55重量%であり、前記高密度ポリエチレン(I)の含有量が全材料配合の10~30重量%である基材シートの少なくとも片側に、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする他の層が1層以上積層された積層シートである、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱成形用樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱成形用樹脂シートを熱成形して得られる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び剛性に優れると共に、耐寒性に優れる熱成形用樹脂シート及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(以下、「PE」という。)及びポリプロピレン(以下、「PP」という。)等のポリオレフィン系樹脂シートは、物理的特性に優れることから、各種成形品、例えば、飲食品用容器として広く使用されている。例えば、特許文献1には、PP系樹脂、高密度ポリエチレン、及びタルクからなるポリオレフィン系樹脂シートが記載されている。
【0003】
これまで加熱調理用食品を収納する樹脂製容器は、剛性に加えて、電子レンジ加熱時における耐熱性が重視されていた。しかし、近年、フードロス低減のため、電子レンジで加熱調理される食品は、冷凍温度帯で貯蔵及び輸送されることが一般的である。飲食品用容器の冷凍又はチルド温度帯での使用が増加するにつれ、低温度でも容器に外部から衝撃が加わった際に容器に割れが発生しないような耐寒性も要求されるようになってきている。特許文献2には、ポリプロピレン系重合体、エチレン系重合体、及び造核剤からなる組成物を積層することにより、積層体の耐寒衝撃強度が向上することが開示されている。
【0004】
近年、プラスチックが大量に使用、廃棄されるにつれ、その埋め立て処理や焼却処理に伴う問題が問題視されている。プラスチックの燃焼処理は、燃焼時の有害ガスの発生及び大量の燃焼熱量による地球温暖化等の環境負荷を与える原因となっている。かかる環境負荷を低減するために、非石油由来の樹脂材料として、バイオポリエチレンを使用することが知られている。しかし、特許文献3には、バイオポリエチレンに単にポリプロピレンをブレンドしただけでは、得られる成形体の耐久性等に乏しく、落下等によって比較的簡単に破損することが指摘されている。この問題を解決するために、特許文献3には、バイオポリエチレンと、ポリプロピレンと、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びαオレフィン系共重合体のうち少なくとも一方からなる樹脂成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3-45744号公報
【特許文献2】特許第6480472号公報
【特許文献3】特開2013-227462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、近年、成形品及びそれを製造するための樹脂シートには、耐熱性及び剛性に優れると共に、耐寒性に優れることが求められている。しかし、特許文献1は、PP系樹脂シートにおける熱成形時のドローダウン等の欠点の克服を目的としており、耐寒性に関する技術的知見について言及はない。また、特許文献2では、エチレン系重合体の密度が高いと耐寒衝撃強度に劣ることが開示されており、高密度PE(HZ5000H)を使用した樹脂シートは、直鎖状低密度PE又はエチレンエラストマーを配合した樹脂シートと比較し、耐寒衝撃強度に劣ることが示されている。
【0007】
本発明は、耐熱性及び剛性に優れると共に、耐寒性に優れる熱成形用樹脂シート及び成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱成形用樹脂シートは、高密度ポリエチレン、ブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレン、及び無機系充填剤を含有する熱成形用樹脂シートであって、前記高密度ポリエチレンは、JIS K7210に準拠し測定したフローレイト比が10~13の範囲である高密度ポリエチレン(I)を含有し、前記高密度ポリエチレンの含有量は、全材料配合の20~55重量%であり、前記高密度ポリエチレン(I)の含有量は、全材料配合の10~30重量%であり、前記熱成形用樹脂シートの-30℃におけるデュポン衝撃強度が0.5J以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の成形品は、本発明の熱成形用樹脂シートを熱成形することにより得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱成形用樹脂シート及び成形品は、耐熱性及び剛性に優れると共に、低温衝撃強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(1)熱成形用樹脂シート
本発明の一実施形態の熱成形用樹脂シート(以下、単に「本シート」という。)は、高密度PEを含有する。ここで、「高密度PE」とは、密度が0.94g/cm以上、好ましくは0.942~0.970g/cmのPEである。
【0013】
前記高密度PEは、JIS K7210に準拠し測定したフローレイト(FR)比が10~13の範囲である高密度PE(I)を含み、前記高密度PE(I)の含有量は、全材料配合の10~30重量%である。前記高密度PE(I)を含むことにより、剛性及び耐熱性に優れると共に、樹脂シート及び成形品の低温衝撃強度を向上させることができる。前記含有量が10重量%未満であると、樹脂シート及び成形品の剛性及び低温衝撃強度が低下するので好ましくない。前記含有量が30重量%を超えると、耐熱性が低下するので好ましくない。ここで、「全材料配合」とは、高密度PE、ブロックPP、ホモPP、及び無機系充填剤の合計を意味する。
【0014】
前記FR比は、実施例の項に記載の方法、即ち、JIS K7210に準拠し、条件1及び2で高密度PEのMFR値(単位;g/10分)を測定し、条件2のMFR値を条件1のMFR値で除すことにより算出される。前記FR比が小さいことは、PEの分子量分布が狭いことを表わし、FR比が大きいことは、PEの分子量分布が広いことを表わしている。前記FR比が前記範囲外であると、樹脂シート及び成形品の低温衝撃強度が低下するので好ましくない。
【0015】
前記高密度PEは、前記高密度PE(I)のみを含んでいてもよく、あるいは他の高密度PEを1種又は2種以上含んでいてもよい。該他の高密度PEとして、例えば、非石油由来エチレン、例えば植物由来エチレンの重合(単独重合又は共重合)により得られるPE(植物由来高密度PE)が好ましく挙げられる。植物由来高密度PEを用いることにより、燃焼時に化石由来原料のCO発生を抑制することができ、環境負荷を低減することができるので好ましい。原料となる植物由来エチレンは、例えば、植物原料(サトウキビ及びトウモロコシ等)から抽出する糖の発酵物又はセルロース発酵物からアルコール成分、特にエチルアルコールを蒸留分離し、その脱水反応により得ることができる。当該植物由来エチレンを通常の重合法により単独で、あるいは他の単量体と共重合することにより、植物由来高密度PEを得ることができる。
【0016】
前記高密度PEが植物由来高密度PE等の非石油由来エチレンを含む場合、その含有量には特に限定はなく、適宜決定することができる。前記植物原料由来高密度PEの含有量は、全材料配合の3~20重量%とすることができる。前記非石油由来エチレンの含有量が前記範囲であると、剛性及び低温衝撃強度に優れると共に、環境負荷を低減することができるので好ましい。
【0017】
前記高密度PEの含有量は、全材料配合の20~55重量%、好ましくは25~55重量%である。前記含有量が20重量%未満であると、樹脂シート及び成形品の低温衝撃強度及び剛性が低下するので好ましくない。前記含有量が55重量%を超えると、樹脂シート及び成形品の耐熱性が低下するので好ましくない。
【0018】
前記ブロックPP及び前記ホモPPに対する前記高密度PEの含有割合には特に限定がなく、適宜決定することができる。前記高密度PEと前記ブロックPP及び前記ホモPPの合計との重量比は(0.2~1.5):1、好ましくは(0.2~1):1、更に好ましくは(0.3~0.8):1とすることができる。前記重量比が前記範囲であると、樹脂シート及び成形品の剛性、低温衝撃強度、及び耐熱性に優れるので好ましい。
【0019】
本シートは、ブロックPPを含有する。前記ブロックPPは、プロピレンを主成分とする直鎖ポリマーの中に、エチレンを主成分とするポリマー及びエチレン-プロピレン・ゴム状共重合体が分散し、海島構造を形成しているプロピレン-エチレンブロック共重合体である。前記ブロックPPは通常、ホモPPを重合し、引き続きホモPPの存在下にプロピレンとエチレンとを共重合することにより得ることができる。前記ブロックPPの具体的物性には特に限定はない。例えば、前記ブロックPPとして、MFR値が0.5~1g/10分であるブロックPPを用いることができる。前記ブロックPPは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0020】
本シートは、ホモPPを含有する。プロピレンの単独重合体である限り、具体的物性には特に限定はない。前記ホモPP樹脂として、例えば、MFR値が0.4~3.0g/10分であるホモPP樹脂を用いることができる。前記ホモPPは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0021】
前記ホモPPとして、造核剤を含むホモPPを用いてもよい。前記ホモPPとして造核剤を含むホモPPを用いることにより、剛性及び低温衝撃強度を高めることができるので好ましい。前記ホモPP中の前記造核剤の含有量については特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。前記造核剤の含有量が多くすると、剛性及び低温衝撃強度を高めることができる。
【0022】
前記造核剤は、ホモPPの結晶化を促進することができる限り、その種類には特に限定はない。前記造核剤として、樹脂の技術分野において公知の造核剤を用いることができる。前記造核剤は、有機系造核剤及び無機系造核剤のいずれでもよい。前記有機系造核剤として具体的には、例えば、アセタール系(ソルビトール系)、リン系、カルボン酸若しくはその金属塩、ポリマー系、アミド化合物、及び糖類が挙げられる。前記無機系造核剤として具体的には、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、アルミナ、シリカ、クレー等が挙げられる。前記造核剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記ブロックPP及びホモPPのMFR値は、JIS K7210の方法に基づいてPP樹脂が測定温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定された値である。
【0024】
前記ブロックPP及び前記ホモPPの含有量には特に限定がなく、必要に応じて適宜決定することができる。本シートにおいて、前記ブロックPP及び前記ホモPPの含有量の合計は、全材料配合中、15~50重量%とすることができる。前記含有量の合計が前記範囲内であると、低温衝撃強度及び剛性のバランスに優れるので好ましい。
【0025】
前記ブロックPPと前記ホモPPとの割合には特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。前記ブロックPPの割合が多いと低温衝撃強度が向上し、前記ホモPPの割合が多いと剛性が向上する。前記ブロックPPと前記ホモPPとの重量比は、好ましくは50~75:50~25である。前記重量比が前記範囲内であると、低温衝撃強度及び剛性のバランスに優れるので好ましい。
【0026】
本シートは前記無機充填剤を含む。これにより、剛性を向上させることができる。前記無機充填剤の含有量には特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。前記無機充填剤の含有量は、全材料配合中10~45重量%、好ましくは20~40重量%とすることができる。
【0027】
前記無機充填材の種類には特に限定はない。前記無機系充填材として具体的には、例えば、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、ガラスビーズ、ベントナイト、ガラスフレーク、ガラス繊維、カーボンファイバー、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、ハイドロタルサイト、炭素繊維、軽石粉、雲母、リン酸カルシウム、及びリン酸アルミニウムが挙げられる。前記無機充填材は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本シートにおいて、-30℃におけるデュポン衝撃強度は0.5J以上である。前記デュポン衝撃強度が前記範囲であることから、本シートは低温衝撃強度に優れている。前記デュポン衝撃強度は、-30℃の条件でJIS K7124に従って測定された値である。前記デュポン衝撃強度は、例えば、ブロックPPとホモPPの重量比を調節すること、具体的には前記ホモPPに対する前記ブロックPPの割合を多くすることにより、前記ホモPPとして、前記の造核剤を含有するホモPPを用いることにより、あるいはエラストマー類を添加することにより、高めることができる。
【0029】
本シートの層構造には特に限定はない。本シートは単層構造でもよく、2層以上の積層シートでもよい。2層以上の積層シートである本シートとして、例えば、前記高密度PE(I)を含有する前記高密度PE、前記ブロックPP、前記ホモPP、及び無機系充填剤を含有し、前記高密度PEの含有量が全材料配合の20~55重量%であり、前記高密度PE(I)の含有量が全材料配合の10~30重量%である基材シートの少なくとも片側に、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする他の層が1層以上積層された積層シート、より具体的には、前記基材シートの両側に前記他の層が1層以上積層された積層シートが挙げられる。前記他の層が2以上ある場合、前記他の層はそれぞれ同じ層でもよく、種類又は物性が異なる層でもよい。
【0030】
前記他の層は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする限り、種類及び物性には特に限定はない。前記ポリオレフィン系樹脂の種類及び物性には特に限定はない。前記ポリオレフィン系樹脂は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。前記ポリオレフィン系樹脂として具体的には、例えば、PE樹脂及びPP樹脂が挙げられる。前記PP樹脂はホモPP樹脂及びブロックPP樹脂のいずれでもよい。また、PE樹脂は、高密度PE樹脂、低密度PE(LDPE;密度0.910~0.930g/cm)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE;密度0.910~0.925g/cm)が挙げられる。前記ポリオレフィン系樹脂は1種単独でもよく、2種以上を用いてもよい。尚、「主成分」は、前記他の層を構成する全樹脂100重量%中、前記ポリオレフィン系樹脂の割合が50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上であることを意味する。
【0031】
前記積層シートの製造方法に限定はない。前記積層シートは、共押出法、射出成形法、及び加熱成形等の一般的な積層成形法により製造することができる。共押出法では、任意の単軸押出機及び二軸押出機を使用できる。前記共押出法では、前記基材シート及び前記他の層をダイスより押し出す直前に、これらの層を溶融状態で積層する方法であれば、具体的手法に限定はない。共押出法として具体的には、例えば、前記基材シート及び前記他の層の原料を押出機で溶融混錬した後、ダイス内で積層するマルチマニホールド方式、並びに発泡層及び非発泡層をダイスに流入させる直前に積層するフィードブロック方式(コンバイニングアダプター方式)が挙げられる。前記ダイスは、T型ダイス、コートハンガー型、又は環状ダイスのいずれも使用できる。共押出法において、ダイスより押し出された発泡樹脂積層シートは、公知の方法、例えばポリシングロール、エアーナイフ、又はマンドレル等により冷却固化される。その後、巻き取り機にて巻き取られ、又は裁断機にて所定の寸法にカットされる。
【0032】
前記積層シートの製造において、必要に応じて冷却固化後に後処理をしてもよい。該後処理には特に制限はない。該後処理として具体的には、例えば、コロナ処理、火炎処理、フレーム処理、プラズマ処理等の極性基付与処理工程、コーターロールによる防曇剤又は帯電防止剤等のコーティング工程、フィルム張り合わせ、印刷、及び塗装が挙げられる。特に、フィルム貼合は、二次成形時前に貼合する熱成形前ラミ法、発泡樹脂積層シート成形時の冷却時に貼合する熱ラミ法、一旦発泡樹脂積層シートを冷却した後、再度加熱ロール等で加温して貼合する方法等あるが、いずれの公知の方法によっても貼合することが可能である。貼合するフィルムの種類も、CPPフィルム、及びその印刷フィルム、EVOHなどを積層したフィル等、特に限定はないがポリオレフィン系と接着し易い、貼合面にポリオレフィン系樹脂を配したフィルム、又は塩素化ポリプロピレンや低分子量のポリオレフィンを混合したインク、接着剤等を塗布したフィルムを用いることが好ましい。
【0033】
本シートの具体的形状には特に限定はなく、必要に応じて適宜決定することができる。よって、前記「シート」の用語には、フィルム状も含まれる。本シートの厚みは、例えば、0.1~3mm、あるいは0.5~2mmとすることができる。
【0034】
本シートは、性能を著しく損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分として具体的には、例えば、公知の樹脂シートに用いられている添加剤、例えば、難燃剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、及び抗菌剤が挙げられる。上記のように、本シートが前記積層シートである場合、前記他の成分は、前記積層シートを構成する各層の全てに含まれていてもよく、いずれかに含まれていてもよい。
【0035】
本シートの具体的用途には特に限定はない。後述のように、本シートは、種々の成形法により、容器等の成形品を得るために用いることができる。
【0036】
(2)成形品
本成形品は、本シートを熱成形することにより得られる。該熱成形の具体的方法には特に限定はなく、公知の熱成形方法、例えば、熱盤成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、両面真空成形、プラグ成形、又はプレス成形を用いることができる。また、熱成形の条件も特に限定はない。成形条件は必要に応じて適宜決定することができる。
【0037】
本成形品の形状、寸法、及び具体的用途には特に限定はない。本成形品の用途としては、包装用容器等の容器、例えば、飲食品包装用容器、例えば加熱料理用飲食品を収納する包装用容器が挙げられる。本シートは上記のように、低温衝撃強度に優れていることから、前記飲食品包装用容器として、低温で貯蔵又は輸送される飲食品のための包装用容器が好ましく挙げられる。尚、前記「容器」は、容器全体だけでなく、容器の一部も含む。例えば、前記「容器」には、容器の本体のみならず、容器の蓋体も含まれる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0039】
1.熱成形用樹脂シートの製造
原料として、以下の各成分を用いた。
【0040】
<ブロックPP>
日本ポリプロ社製「EC9GD」(MFR;0.5g/10分)
<ホモPP>
日本ポリプロ社製「EA9」(MFR;0.5g/10分)
<造核剤含有ホモPP>
日本ポリプロ社製「EA9FTD」(無機系造核剤含有、MFR;0.4g/10分)
<高密度PE(HDPE)>
京葉ポリエチレン社製「E8040」(化石原料由来HDPE、190℃/2.16kgで測定時のMFR:0.35g/10分、FR比:11.4)
京葉ポリエチレン社製「B5803」(化石原料由来HDPE、190℃/2.16kgで測定時のMFR:0.3g/10分、FR比:20.0)
<植物由来HDPE>
Braskem社製「SGM9450F」(190℃/5kgで測定時のMFR:0.33g/10分)
<無機系充填剤含有HDPE>
三協化学工業社製「HFS60-5R」(化石原料由来HDPE40.0重量部及びタルク60.0重量部を含む。)
<着色材>
DIC株式会社製「PEONY F-33000MMR」
【0041】
前記化石原料由来HDPEのMFR値は、JIS K7210に準拠し、下記条件で測定した。そして、条件2のMFR値を条件1のMFR値で除すことにより、前記化石原料由来HDPEのFR比を算出した。
条件1:190℃、2.16kg荷重で測定したMFR値(単位;g/10分)
条件2:190℃、10.0kg荷重で測定したMFR値(単位;g/10分)
【0042】
前記ブロックPP及びホモPPのMFR値は、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0043】
基材シートを構成する原料として、前記の各原料を表1~5に示す割合でドライブレンドして押出機に供給した。また、表層を構成する原料として、ホモPP「FY6C」(日本ポリプロ社製、MFR;2.4g/10分)を押出機に供給した。各押出機でドライブレンドされた原料を加熱溶融し、溶融混合した樹脂を共押出することにより、実施例及び比較例の熱成形用樹脂シート(厚さ:0.35mm、積層構造:表層/基材シート/表層)を得た。尚、表1~5において、ポリオレフィン(PP及びPE)の配合量は重量%である。また、着色剤の配合量は、ポリオレフィン全体に対する重量部である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
2.樹脂シートの性能試験
実施例及び比較例の樹脂シートについて、以下の方法により性能試験を行った。その結果を表1~5に併記する。
【0050】
(1)デュポン衝撃強度
実施例及び比較例の樹脂シートから、縦50mm×横50mmの試験片を作成した。該試験片について、デュポン衝撃試験機(株式会社マイズ試験機製)を用いて、JIS K7124に従い、50%破壊エネルギー(E50、単位;J)を測定した。
(2)曲げ弾性率
「オートグラフAGS-X」(株式会社島津製作所製)を用いて、JIS K7171に準じて、支点間距離:30mm、曲げ速度:20mm/分の条件にて測定した。
【0051】
3.容器の製造
真空圧空成形装置(浅野研究所製)を用いて、上ヒーター435℃、下ヒーター425℃の条件で、実施例及び比較例の樹脂シートを真空圧空成形することにより、実施例及び比較例の矩形容器(上部;232mm×195mm×深さ34mm)を製造した。
【0052】
4.容器の性能試験
実施例及び比較例の容器について、以下の方法により性能試験を行った。その結果を表1~5に併記する。
【0053】
(1)容器落下割れ試験
実施例及び比較例の容器に250gのおもりを入れ、別途熱成形して得た蓋体(長側232mm×短側195mm×深さ17mmの矩形形状)を被せた。次いで、該容器を5段積みし、段ボール箱内に2列(合計10個)収納し、設定した温度(-20℃又は-30℃)で24時間保管した。その後、その雰囲気下で、高さ40cmから段ボールを落下させ、容器の割れを目視し、割れた個数を数えた。
(2)容器腰強度(g)
「テンシロン万能試験機RTC-1310A」((株)オリエンテック製)を用いて、容器を短手方向に立てた状態で挟持し、容器の長辺側側壁部全体を、幅方向に18mm圧縮し(圧縮速度;400mm/分)、この時の最大応力を腰強度とした。
(3)容器レンジたわみ(mm)
容器本体に米飯250gを収納し、容器の長側を95mm固定した状態での電子レンジ加熱(500W、5分間)前後の容器のたわみ量の変化を測定した。
(4)容器耐熱試験
エスペック社の「ギアオーブンGPH-100」に容器本体を伏せて載置し、その上に170gのおもりを乗せた。各設定温度(120℃、130℃、140℃)で1分間保管し、容器変形の具合を目視で確認した。
【0054】
5.樹脂シート及び容器の性能評価
上記の性能試験の結果に基づいて、以下の基準により、樹脂シート及び容器の性能評価を行った。その結果を表1~5に併記する。
【0055】
(1)シート評価基準
実施例及び比較例の樹脂シートについて、条件1(-30℃のデュポン衝撃強度が0.5J以上)及び条件2(曲げ弾性率が2700MPa以上)のいずれも満たすものを「〇」と評価した。また、条件1及び2のいずれか一方を満たすものを「△」、条件1及び2のいずれも満たさないものを「×」と評価した。
(2)容器評価基準
実施例及び比較例の容器について、条件1(-30℃の容器落下割れ試験で容器の割れ数が2個以下)及び条件2(容器耐熱試験において130℃で変形がない)のいずれも満たすものを「〇」と評価した。また、条件1及び2のいずれか一方を満たすものを「△」、条件1及び2のいずれも満たさないものを「×」と評価した。
(3)総合評価基準
前記シート評価及び容器評価が共に「〇」であるものを「〇」とし、それ以外のものを「×」とした。
【0056】
6.結果
表1(組成比;PP/PE/無機充填材=20/50/30(実施例1~12)、30/40/30(実施例13及び14))より、実施例の樹脂シートはいずれも-30℃のデュポン衝撃強度が0.5J以上であり、曲げ弾性率が2700MPa以上であることから、剛性及び低温衝撃強度に優れている。また、実施例の容器はいずれも、-30℃での容器の割れ数が2個以下であり、130℃で変形が認められなかったことから、耐寒性及び耐熱性に優れている。
【0057】
表2(組成比;PP/PE/無機充填材=40/30/30)より、PPとしてホモPPのみを用いた場合(比較例2-1~2-5)は、曲げ弾性率が高く、剛性に優れているが、-30℃のデュポン衝撃強度が低く、十分な低温衝撃強度が得られていない。また、-30℃での容器の割れ数も多く、耐寒性が十分ではない。一方、PPとしてブロックPPのみを用いた場合(比較例2-6~2-10)は、-30℃のデュポン衝撃強度は改善するものの、十分な低温衝撃強度が得られておらず、また、曲げ弾性率が低下し、剛性も十分でない。更に、容器の割れ数も減少しているが、依然として多く、耐寒性も十分ではない。高密度PEとして、「E8040」(FR比;11.4)及び「B5803」(FR比;20.0)を用いた場合のいずれでも、同様の傾向が認められる。
【0058】
表3(組成比;PP/PE/無機充填材=30/40/30)より、PEの含有量を増加させた場合でも、表2と同様の傾向が認められた。即ち、PPとしてホモPPのみを用いた場合(比較例3-1~3-4)は、曲げ弾性率が高く、剛性に優れている。一方、-30℃のデュポン衝撃強度は、表2よりも改善傾向が認められるものの、依然として低く、十分な低温衝撃強度が得られていない。ホモPPとして造核剤含有ホモPPを用いた場合(比較例3-5~3-8)も、-30℃のデュポン衝撃強度は改善傾向が認められるものの、やはり十分な低温衝撃強度が得られていない。また、PPとしてブロックPPのみを用いた場合(比較例3-9~3-14)は、-30℃のデュポン衝撃強度は改善するものの、やはり十分な低温衝撃強度が得られておらず、また、曲げ弾性率が低下し、剛性も十分でない。高密度PEとして、「E8040」(FR比;11.4)及び「B5803」(FR比;20.0)を用いた場合のいずれでも、同様の傾向が認められる。
【0059】
表4(組成比;PP/PE/充填剤=30/40/30)より、高密度PE、ブロックPP、ホモPP、及び無機系充填剤を含有し、且つ高密度PE及び高密度PE(I)の含有量が特定の範囲内であっても、-30℃のデュポン衝撃強度が低く、本願発明の要件を満たすとは限らないことが分かる。
【0060】
しかし、比較例4-1及び4-2と実施例13及び14とを対比すると、ホモPPとして造核剤を含むホモPPを用いることにより、-30℃のデュポン衝撃強度は向上し、本願発明の要件を満たすことができることが分かる。また、比較例4-7及び4-8と実施例13及び14とを対比すると、ブロックPPの配合量を増加させ、ブロックPPとホモPPの重量比を調節することにより、-30℃のデュポン衝撃強度は向上し、本願発明の要件を満たすことができることが分かる。これらの結果は、本願発明の-30℃のデュポン衝撃強度は、ホモPPとして造核剤を含むホモPPを用いること、あるいはブロックPPの配合量を増加させ、ブロックPPとホモPPの重量比を調節することにより、適宜調節することができることを示している。
【0061】
表5(組成比;PP/PE/充填剤=10/60/30)より、高密度PEの割合が高すぎると、130℃での変形が認められ、耐熱性に劣ることが分かる。高密度PEとして、「E8040」(FR比;11.4)を用いた場合(比較例5-7~5-9)、「B5803」(FR比;20.0)を用いた場合(比較例5-1~5-6)よりも低温衝撃強度が改善しているが、耐熱性は改善していない。「E8040」(FR比;11.4)の含有量が本願発明の範囲内の場合(比較例5-8及び5-9)と、範囲外の場合(比較例5-7)のいずれでも同様の傾向が認められた。