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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087524
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】粘性流体の乾燥方法および乾燥装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 1/18 20060101AFI20220606BHJP
   F26B 5/04 20060101ALI20220606BHJP
   B01J 2/04 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
B01D1/18
F26B5/04
B01J2/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199501
(22)【出願日】2020-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】磯部 佳成
(72)【発明者】
【氏名】渡部 啓吾
【テーマコード(参考)】
3L113
4D076
4G004
【Fターム(参考)】
3L113AA02
3L113AB10
3L113AC23
3L113AC45
3L113AC46
3L113AC48
3L113AC49
3L113AC65
3L113AC67
3L113AC86
3L113BA36
3L113CB15
3L113DA01
3L113DA24
4D076AA14
4D076BA23
4D076BA50
4D076CA02
4D076CA03
4D076CB02
4D076CB12
4D076CD22
4G004EA02
(57)【要約】
【課題】再分散性が良好で、混合物を含有しない乾燥物を、高効率に得ることのできる粘性流体の乾燥方法と、簡易な構成のために安価に製造可能な乾燥装置を提供する。
【解決手段】乾燥方法は、液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を調整することで、液滴から液体成分の蒸気を発生させ、粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備え、乾燥装置1は、液滴を生成する霧化手段2と、生成された液滴が投入される乾燥筒3と、乾燥筒3の下流に接続されて乾燥筒3の内部における気圧を調整する気圧調整手段4と、乾燥筒3と、気圧調整手段4の間に設置され、粘性流体の乾燥物が回収される回収手段5を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を調整することで、前記液滴から前記液体成分の蒸気を発生させ、前記粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備えることを特徴とする粘性流体の乾燥方法であって、前記乾燥物を生成する際の前記粘性流体の溶液粘度が、JIS Z 8803:2011で規定された振動粘度計による粘度測定方法で測定された粘度において、常温で200mPa・s以下であり、前記乾燥工程が微粒化工程と、蒸発工程を有することを特徴とする粘性流体の乾燥方法。
【請求項2】
前記粘性流体の濃度は、前記液滴の内部から発生する前記蒸気の内部蒸気量が、前記液滴の表面から蒸発する前記蒸気の表面蒸発量以上となる所定の濃度であることを特徴とする請求項1に記載の粘性流体の乾燥方法。
【請求項3】
前記液体成分は、この液体成分以外の他の液体及び気体の少なくともいずれかからなる添加成分が添加されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粘性流体の乾燥方法。
【請求項4】
前記微粒化工程は、前記蒸発工程において単位時間当たりに発生する前記蒸気の蒸気量を制御するために、前記液滴の直径を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の粘性流体の乾燥方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の粘性流体の乾燥方法に使用される乾燥装置であって、
前記液滴を生成する霧化手段と、
生成された前記液滴が投入される乾燥筒と、
前記乾燥筒の下流に接続されて前記乾燥筒の内部における前記気圧を調整する気圧調整手段と、
前記乾燥筒と、前記気圧調整手段の間に設置され、前記粘性流体の前記乾燥物が回収される回収手段を備えることを特徴とする乾燥装置。
【請求項6】
前記回収手段は、前記乾燥物を捕集する集塵板を備える電気集塵機であることを特徴とする請求項5に記載の乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体の乾燥方法および乾燥装置に係り、特に、簡易な工程や構成により、再分散性の良好な粘性流体の乾燥物を得ることができる乾燥方法および乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物繊維を解繊して得られるセルロースナノファイバー(以下、CNFという。)は、高強度性、高保水性、高粘性といった優れた効果が注目されて、プラスチックの補強材や化粧品に混合される水分保持剤、スプレー添加剤等の様々な用途が開発されている。しかし、CNFは、これを含有する水溶液として製造されるため、その内部に微生物が混入することで品質が劣化するといった課題や、運搬時に嵩張るために費用面においても効率的に運搬できないという課題があった。
この課題を解決するために、CNFを含有する水溶液を乾燥して、CNFの乾燥物を得ることができる乾燥方法が開発された。しかし、得られた乾燥物に加水してみると、CNF同士が凝集した状態となっており、乾燥前よりもCNFの分散性が低下してCNF独自の優れた性能が発揮され難いという結果になった。すなわち、従来の乾燥方法では、利用可能なCNFの量的割合が、CNFの再分散性の低下が原因となり相対的に低くなるという新たな課題が発生している。
そこで、最近、CNFの乾燥物の再分散性を向上させて効率的に利用するための技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「セルロースナノファイバー含有乾燥体及びその製造方法並びにセルロースナノファイバー含有乾燥体分散液の製造方法」という名称で、CNFを含有する乾燥体の製造方法等に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示されたCNFを含有する乾燥体の製造方法に関する発明は、CNFの分散液と、再分散剤の水溶液と、再分散促進剤との混合により混合液を得る工程、及びこの混合液を乾燥させる工程を備え、再分散剤がグリセリン又はグリセリン誘導体であり、再分散促進剤が塩類であることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、再分散剤と再分散促進剤により、水に対する乾燥体の再分散性が促進される。また、再分散促進剤を含むことにより、CNF含有乾燥体の再分散性がより向上したため、再分散剤の含有量を軽減することができる。
【0004】
次に、特許文献2には「セルロースナノファイバー濃縮、乾燥品の製造方法とセルロースナノファイバー再分散液の製造方法」という名称で、CNF濃縮、乾燥品の製造方法等に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、CNFの使用に適した所定濃度のCNF分散液を原料として使用し、減圧可能な乾燥室本体内にセットまたは搬入されたCNF分散液に向けてマイクロ波を照射して減圧下で低温乾燥させる濃縮、乾燥工程を実施することを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、CNF分散液に向けてマイクロ波を照射することにより、熱風乾燥のように被乾燥物の表層部の乾燥が過剰になり、被乾燥物の中心部の乾燥が不十分となる不具合が解消される。また、マイクロ波の照射は、減圧下で行う低温乾燥によって実行されるから、CNF濃縮、乾燥品が酸化によって劣化することがなく、乾燥前のCNF分散液と同等程度の高い粘度特性が得られる。すなわち、特許文献2に開示された発明によれば、CNF再分散液の利用効率の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-9134号公報
【特許文献2】特開2020-41142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、CNFの分散液に、再分散剤の水溶液と、再分散促進剤という2種類の薬剤を混合するため、混合の手間が余計にかかるとともに、材料費も嵩むという不利益がある。また、完成品である乾燥体は、CNF以外にもグリセリンや塩類を含有したものであるから、高純度のCNFを利用したい場合にはグリセリン等を除去するための別の工程が必要となり、CNFを利用する製品の製造工程が複雑になってしまうおそれも考えられる。
【0007】
次に、特許文献2に開示された発明においては、CNF分散液の下方に設置されたロードセルがCNF分散液の重量変化を計測し、その計測値からCNF分散液の濃度を求める。そして、濃度が上昇して所定の値に達したときにマイクロ波の照射を停止する。この場合、CNF分散液の濃度上昇に伴い、含まれている液体成分が蒸発し難くなるため、マイクロ波によって加熱されることで、蒸発のし難さが補われているものと考えられる。
しかし、マイクロ波照射装置は、一般的に、減圧下では放電し易い、気体をプラズマ化させ易い、といった特性がある。そのため、CNF分散液に局所的な温度上昇が発生し、均一品質のCNF乾燥物を得ることが困難となるおそれがある。
また、特許文献2に開示された発明においては、一定体積を有した状態のCNF分散液を乾燥するため、ある程度の乾燥時間が必要となる。したがって、特許文献2に開示された発明においては、局所的な温度上昇による品質の不均一性や、一定以上の乾燥時間の必要性を原因として、乾燥物を高効率に得ることができないおそれがある。
さらに、マイクロ波照射装置は、乾燥室本体の他に、これを被覆するシールド構造や、マイクロ波漏洩防止機構が必要であることから、設備が大掛かりとなって製造コストが嵩む懸念もある。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、再分散性が良好で、混合物を含有しない乾燥物を、高効率に得ることのできる粘性流体の乾燥方法と、簡易な構成のために安価に製造可能な乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1の発明は、液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を調整することで、液滴から液体成分の蒸気を発生させ、粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備えることを特徴とする粘性流体の乾燥方法であって、乾燥物を生成する際の粘性流体の溶液粘度が、JIS Z 8803:2011で規定された振動粘度計による粘度測定方法で測定された粘度において、常温で200mPa・s以下であり、乾燥工程が微粒化工程と、蒸発工程を有することを特徴とする。
このような構成の発明において、粘性流体の具体例として、例えば、CNFが水に分散したCNF分散液や、接着剤、塗料、増粘剤等が想定される。また、微粒化工程は、液体の粘性流体を霧化して液滴状の粘性流体を生成可能な霧化手段によって実施される。この微粒化工程は、粘性流体を微細化することでその体積に対する表面積の割合を増加させ、乾燥時間を大きく短縮させるために、蒸発工程の前に行われる。このほか、液滴毎に含まれるCNFの量を減少させることによって、乾燥物を再分散した際にCNF同士が凝集することを抑制することも微粒化工程の目的の一つである。
上記構成の乾燥方法においては、例えば、蒸発工程において、一定温度下で、気体中に分散された粘性流体の液滴の周囲における気圧を減圧すると、粘性流体に含有される液体成分の沸点が下降して液体成分の蒸発が促進される。すなわち、減圧により、粘性流体に含有される液体成分が気化して蒸気が発生し、その結果、粘性流体が固体化して乾燥物が生成される。なお、前述の蒸気は、その発生位置や大きさ、発生数を問わない。
【0010】
次に、第2の発明は、第1の発明において、粘性流体の濃度は、液滴の内部から発生する蒸気の内部蒸気量が、液滴の表面から蒸発する蒸気の表面蒸発量以上となる所定の濃度であることを特徴とする。
このような構成の発明は、粘性流体の濃度によって、液滴の内部から発生する内部蒸気量と、液滴の表面から蒸発する表面蒸発量が異なったものとなるという本願発明者による独自の知見を利用するものである。詳細には、内部蒸気量が表面蒸発量以上になる場合に、破裂型の乾燥物が生成され、内部蒸気量が表面蒸発量よりも少ない場合に、収縮型の乾燥物が生成されるというものである。
このうち、破裂型の乾燥物とは、液滴の内部の液体成分が沸騰してその蒸気が気泡となり、この気泡が液滴の表面へ移動して外部へ放出されることによって、乾燥物の内部に空洞が形成されるとともに、表面に亀裂が発生しているほか、表面自体が破壊されて複数個に分割された乾燥物をいう。
これに対し、収縮型の乾燥物とは、主に表面から蒸気が発生することによって、乾燥物の内部に空洞が形成されることなく液滴自体が全体的に収縮した形状になった乾燥物をいう。
上記構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、液滴を乾燥した際に、破裂型の乾燥物を生成され易くするという作用を有する。そして、液滴の乾燥物が破裂型の乾燥物である場合、その亀裂や破断面に水が浸入し易くなる。そのため、破裂型の乾燥物のほうが収縮型の乾燥物よりも加水した際の分散性(再分散性)が向上すると考えられる。
【0011】
続いて、第3の発明は、第1又は第2の発明において、液体成分は、この液体成分以外の他の液体及び気体の少なくともいずれかからなる添加成分が添加されることを特徴とする。
このような構成の発明において、添加成分は、粘性流体が霧化されるよりも前にこの粘性流体に混合される。そして、添加成分の沸点は、水の沸点よりも低いことが望ましい。具体的には、液体成分以外の他の液体として、例えば、所定濃度のエタノールといった揮発性成分が使用される。
上記構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、上記の添加成分が添加される場合、液滴の内部において添加成分の蒸発が促進されるため、液体成分の蒸発量が増加する。そのため、乾燥物の内部に空洞が生じ、破裂型の乾燥物が一層生成され易くなると考えられる。
【0012】
さらに、第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、微粒化工程は、蒸発工程において単位時間当たりに発生する蒸気の蒸気量を制御するために、液滴の直径を調整することを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1乃至第3のいずれかに記載の発明の作用に加えて、液滴の直径を調整することで、液滴の体積に対する表面積の割合が増減するから、単位時間当たりに発生する蒸気の蒸気量、すなわち液滴の乾燥速度が制御可能となる。
また、液滴の直径を調整するには、例えば、超音波振動によって液滴を生成可能な霧化手段を用いる場合では、超音波の周波数を増減することによる。また、超音波振動式とは異なる霧化手段を用いる場合には、その手段ごとの特性に基づく調整因子を変更するとよい。
【0013】
そして、第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明に使用される乾燥装置であって、液滴を生成する霧化手段と、生成された液滴が投入される乾燥筒と、乾燥筒の下流に接続されて乾燥筒の内部における気圧を調整する気圧調整手段と、乾燥筒と、気圧調整手段の間に設置され、粘性流体の前記乾燥物が回収される回収手段を備えることを特徴とする。
このような構成の発明において、霧化手段は、例えば、超音波振動式、スプレーガン式等、公知のものを用いることができ、それぞれ超音波周波数、スプレーノズルの開口径や、粘性流体の流量、圧力等の設定を変更することで、液滴の直径が調整される。特に、超音波振動子を備えた超音波振動式の場合では、例えば、超音波振動子の個数や配置を工夫することにより、高粘性の液体を霧化可能なものが望ましい。
次に、乾燥筒はオリフィスが用いられ、その直径や、段数、絞りの開口径等の設定を変更することで、乾燥筒の上流と下流間の圧力差が調整される。さらに、気圧調整手段は真空ポンプが用いられ、回収手段として、フィルターや集塵機が用いられる。
上記構成の発明においては、第1乃至第4のいずれかの発明の作用と同様の作用を発揮する。
【0014】
そして、第6の発明は、第5の発明において、回収手段は、乾燥物を捕集する集塵板を備える電気集塵機であることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第5の発明の作用に加えて、乾燥筒の下流から排出された気体に含まれる乾燥物が、電気集塵機の放電極によって帯電し、集塵板に吸着して捕集される。具体的には数100(nm)から100(μm)オーダーの直径を有する乾燥物が捕集される。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、液滴から液体成分の蒸気を発生させることが可能であるため、蒸気の移動によって乾燥物が生成されると考えられる。よって、特に粘性流体がCNFを含有する場合では、生成された微小な空洞に水が浸透し易くなるため、CNFの再分散性を従来よりも向上させることができる。したがって、利用可能なCNFの量的割合が向上するため、効率良くCNFの乾燥物を得ることができる。
また、粘性流体を微小な液滴状に形成したことにより、乾燥時間を大きく短縮可能であるとともに、液滴毎に含まれるCNFの量を減少させるから、上記の再分散性の向上にも寄与可能である。
さらに、粘性流体に薬剤を混合する必要がないため、少ない工程数で高純度の乾燥物を生成することができる。特に、乾燥物がCNFの場合には、不要な成分が混合されていないので、CNFを利用する製品の製造工程を単純化し、その製造コストを廉価とすることが期待できる。
加えて、液滴は、気体中に分散された状態で乾燥されることから、液体成分が単位時間当たりに蒸発する量を、液滴毎に均等化することができる。よって、略均一品質の乾燥物を得ることが可能となる。
そして、第1の発明によれば、微粒化工程で粘性流体を微小な液滴状に形成し、さらに蒸発工程で気圧を調整するという簡易な乾燥工程が実施されて、マイクロ波による加熱工程や、フリーズドライ法における凍結工程が不要である。そのため、乾燥物生成のためのエネルギー消費量も減少させることができる。
したがって、第1の発明によれば、再分散性が良好で、CNF以外の添加物を含有せず、かつ略均一品質の乾燥物を、時間的、費用的に効率良く得ることができる。
【0016】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、粘性流体の濃度を所定の値に設定することで、破裂型の乾燥物、すなわちその内部に気泡の移動による空洞や、表面に亀裂を有する乾燥物を高い確実性をもって生成することができる。そのため、再分散化し得る乾燥物を、容易な方法で効率的に得ることができる。
【0017】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、添加成分が添加されることにより、液体成分全体の蒸発量が増加するため、乾燥時間を短縮することが可能である。また、添加成分の蒸発により、破裂型の乾燥物が生成され易いので、再分散性を一層向上させることができる。さらに、添加物の添加量や種類を調整することで、液体成分の蒸気圧が制御されることになるから、乾燥のための減圧の程度を細かく調整することができる。
【0018】
第4の発明によれば、第1乃至第3のいずれかの発明の効果に加えて、液滴の直径を調整することで、液滴の乾燥速度が制御可能となる。液滴の直径は、例えば霧化手段の稼働条件や、粘性流体の濃度に依存するから、これらの要素を組み合わせることで、液滴の乾燥速度を自在に設定することができる。
【0019】
第5の発明によれば、第1乃至第4のいずれかの発明の効果と同法の効果を発揮できる。加えて、第5の発明は、霧化手段と、乾燥筒等から簡易に構成され、マイクロ波漏洩防止機構等の安全性を確保するための付属装置も不要である。したがって、第5の発明によれば、高品質の乾燥物を効率的に生成可能な乾燥装置を安価に製造可能である。
【0020】
第6の発明によれば、第1乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、数100(nm)から100(μm)オーダーの直径を有する微細な乾燥物が捕集されるため、回収手段を原因とした乾燥物の歩留まり低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1に係る粘性流体の乾燥装置の構成図である。
図2】実施例2乃至実施例7に係る粘性流体の乾燥方法と、この乾燥方法によって生成された乾燥物の特徴を示す一覧表である。
図3】(a)及び(b)は、それぞれ実施例2及び実施例3に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の模式図であって、(a)は収縮型、(b)は破裂型である。
図4】実施例2に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像である。
図5】(a)は実施例3に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像であり、(b)は同乾燥物の集塵板面における電子顕微鏡像である。
図6】(a)及び(b)は、それぞれ実施例4及び実施例5に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、集塵板面における電子顕微鏡像である。
図7】(a)は実施例6に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像であり、(b)は同乾燥物の集塵板面における電子顕微鏡像である。
図8】(a)及び(b)は、それぞれ実施例3及び実施例7に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、集塵板面における電子顕微鏡像である。
図9】(a)乃至(c)は、それぞれ実施例2乃至実施例4に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物に加水し再乾燥させた際の、集塵板における電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0022】
本発明の第1の実施の形態に係る粘性流体の乾燥方法および乾燥装置について、図1を用いて詳細に説明する。図1は、実施例1に係る粘性流体の乾燥装置の構成図である。
図1に示すように、実施例1に係る乾燥装置1は、粘性流体の乾燥方法に使用される乾燥装置であって、粘性流体の液滴を生成する霧化手段2と、生成された液滴が投入される乾燥筒3と、乾燥筒3の下流に接続されて乾燥筒3の内部における気圧を調整する気圧調整手段4と、乾燥筒3と、気圧調整手段4の間に設置され、粘性流体の乾燥物が回収される回収手段5を備える。
また、霧化手段2と、乾燥筒3の間には、霧化手段2によって生成された液滴を乾燥筒3に送出する送出管6と、この送出管6の途中に設けられて液滴の送出を制御するバルブ6aが設けられる。さらに、乾燥筒3と、回収手段5の間には、これらを接続して固定するための環状の接続部材7が設けられ、回収手段5と、気圧調整手段4の間には、これらを接続する接続管8が設けられる。
【0023】
上記乾燥装置1において、霧化手段2は、超音波振動式であって、気密性を有する筐体2aと、この筐体2a中に収容されて粘性流体を貯留する容器体(図示せず)と、同じく筐体2a中に収容され、粘性流体に照射する超音波を発生させる超音波振動子(図示せず)を備える。なお、筐体2aの内部は、約101(kPa)の大気圧に維持されている。
この霧化手段2において、粘性流体に超音波が照射されると、気液界面にキャピラリ波が発生し、その振幅が一定値以上となった場合に、キャピラリ波の波頭が破断して液滴が生成されると考えられる。この場合、液滴の平均の直径d(cm)は、ラングの式(1)によって記述される。ただし、ρは液体の密度(g/cm)、γは液体の表面張力(mN/m)、Fは超音波の振動数(Hz)である。
【0024】
【数1】
【0025】
したがって、同一の成分構成を有する液体においては、超音波振動子から発生する超音波の振動数Fを大とすれば、直径dの小さい液滴が生成される傾向であることがわかる。また、一般に、粘性流体の粘性が高くなると微細な液滴の生成が困難となるが、霧化手段2においては、超音波振動子の個数や配置を工夫することにより、200(mPa・s)の高い溶液粘度を有する粘性流体から、直径dが約100(nm)オーダー程度の微細な液滴を生成させることが可能である。
【0026】
次に、乾燥筒3として、例えば、上流端3aと、下流端3bと、上流端3a及び下流端3bの間に設けられる絞り3cを備えた2段のオリフィスを使用した。より詳細には、乾燥筒3は、下流端3bに近い2段目Nの内部の気圧Pが、上流端3aに近い1段目Nの内部の気圧Pよりも低くなるように設計されている。すなわち、乾燥筒3においては、液滴の周囲における気圧を調整することが可能である。なお、気圧P,Pは、後述する気圧調整手段4によって、いずれも大気圧よりも低くなるよう調整される。
【0027】
上記構成の乾燥筒3においては、液滴は、1段目Nから2段目Nに向かって(図中矢印方向)通過し、2段目Nを通過するときに減圧の作用を強く受ける。これにより、液滴の内部の液体成分が蒸発し、粘性流体の乾燥物が得られる。
具体的には、例えば、粘性流体がCNFを含有するCNF分散液であって、CNFの濃度が0.5~0.01(重量%、以下、wt%と記載する。)を有している場合、上流端3aに近い1段目Nの気圧が約15(kPa)、下流端3bに近い2段目Nの気圧が約5(kPa)、すなわち圧力差が約10(kPa)となるように設定される。なお、粘性流体がCNF分散液の場合、得られた乾燥物がCNFである。また、霧化手段2から1段目Nに噴霧される液滴の温度は、295(K)である。
【0028】
続いて、乾燥筒3の内部における気圧を調整する気圧調整手段4は、具体的には真空ポンプである。この気圧調整手段4は、後述する回収手段5と、接続管8とを介して乾燥筒3と連通し、その内部の気体を吸引可能である。
さらに、回収手段5は、その一端5aが乾燥筒3の下流端3bに接続固定されて、この下流端3bと連通する。具体的には、回収手段5は、負極である放電極5cと、この放電極5cを挟んでそれぞれ配設される正極である集塵板5d,5dを備える電気集塵機である。また、回収手段5の他端5bには、不織布からなるフィルター5eが貼着されている。具体的には、例えば、放電極5cと集塵板5d,5dの間隔をそれぞれ1(cm)とした。また、印加電圧は、25000(V)に設定した。
したがって、回収手段5においては、下流端3bから放出された乾燥物が放電極5cからの放電を受けて負に帯電することにより、集塵板5d,5dへ引き寄せられて回収される。具体的には、100(μm)オーダーの直径を有する乾燥物のうち、重量比で約30%程度を回収手段5によって回収可能である。このほか、フィルター5eにおいても約300(nm)の乾燥物が回収される。
【0029】
上記構成の乾燥装置1によれば、霧化手段2によって、200(mPa・s)の高い溶液粘度を有する粘性流体の液滴を得ることが可能である。しかも、このような高粘度を有する粘性流体であっても、超音波の周波数Fを増大させることで、直径dが約100(nm)オーダー程度の微細な液滴を生成することができる。これにより、液滴が乾燥筒3の内部で乾燥される際に、液体成分の蒸気が液滴の内部から表面に向かって移動し易くなるので、単位時間当たりに発生する蒸気の蒸気量が増加することとなる。すなわち、霧化手段2で生成される液滴の直径dを小さくすることにより、乾燥筒3において液滴の乾燥時間が短縮される結果となる。
したがって、霧化手段2を採用することで、高粘性流体の微細な液滴を生成することが困難であるという従来からの課題を十分に解決できるとともに、乾燥物生成時の時間的効率を向上させることができる。
【0030】
また、乾燥筒3及び気圧調整手段4によって、液滴の周囲における気圧を調整すること、すなわち1段目Nと、2段目Nの圧力差を適切に設定することにより、液滴の内部から液体成分の蒸気を発生させ、粘性流体の乾燥物を生成することが可能である。そのため、加熱手段や、シールド部材を必要とすることなく、簡易な構成で乾燥物を生成できる。
さらに、回収手段5によって、100(μm)オーダーの直径を有する微細な乾燥物が効率良く捕集されるため、回収手段を原因とした乾燥物の歩留まり低下を防止できる。
【実施例0031】
本発明の第2の実施の形態に係る粘性流体の乾燥方法について、図2乃至図8を用いて詳細に説明する。図2は、実施例2乃至実施例7に係る粘性流体の乾燥方法と、この乾燥方法によって生成された乾燥物の特徴を示す一覧表である。
図2に示すように、実施例2乃至実施例7に係る乾燥方法は、いずれも液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を調整することで、液滴から液体成分の蒸気を発生させ、粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備える。また、乾燥工程は、微粒化工程と、蒸発工程を有する。
微粒化工程は、液体成分を含有する粘性流体を、霧化手段2を用いて液滴を生成する工程であって、この液滴の直径を調整する工程である。この微粒化工程は、のちの蒸発工程において、単位時間当たりに発生する液体成分の蒸気の蒸気量を制御可能とすることを目的としている。
また、蒸発工程は、霧化手段2から送出管6を介して送出された液滴の周囲における気圧を乾燥筒3及び気圧調整手段4を用いて調整することで、液滴から液体成分の蒸気を発生させる。その結果、乾燥工程において、粘性流体の乾燥物が生成される。
なお、霧化手段2を用いて液滴を生成する霧化条件と、乾燥筒3を用いて乾燥する乾燥条件は、実施例2乃至実施例7のいずれにおいても同一とした。
【0032】
詳細には、霧化条件の一つとして、霧化手段2における液滴の直径dの調整がある。前述のラングの式(1)によれば、超音波の振動数Fを大とすることにより、液滴の直径dを小さくすることができる。そして、液滴の直径dを小さくすると、液滴の体積に対する表面積の割合が増大するから、単位時間当たりに発生する蒸気の蒸気量、すなわち液滴の乾燥速度を増大させることができる。また、具体的には、筐体2aの内部の温度及び気圧を、それぞれ295(K)、約100(kPa)に設定した。
また、乾燥条件としては、前述したとおり、1段目Nの気圧を約15(kPa)、かつ2段目Nの気圧を約5(kPa)に設定している。これは、2段目Nの気圧を、水が液相から気相に相変化し得る圧力とほぼ一致するように、すなわち気液平衡状態となるように設定したものである。よって、2段目Nの気圧を約5(kPa)とする以外にも、筐体2aの内部の温度に対応した値に設定可能である。具体的には、2段目Nの気圧設定は、バルブ6aの開度を調整することによる。
【0033】
実施例2乃至実施例7において、粘性流体はいずれもCNF分散液の濃度(wt%)、溶液粘度(mPa・s)がそれぞれ異なるCNF分散液である。
このうち、実施例2乃至実施例5におけるCNF分散液の液体成分はいずれも水である。一方、実施例6及び実施例7における液体成分は、実施例2乃至実施例5の液体成分以外の他の液体からなる添加成分が添加されたものである。この添加成分は、エタノールであり、その濃度はいずれも5(wt%)である。
なお、実施例2乃至実施例7における溶液粘度(mPa・s)は、いずれもJIS Z 8803:2011で規定された振動粘度計による粘度測定方法で測定された粘度である。
そして、CNF分散液の液温は、実施例2乃至実施例5の場合が約10~13(℃)であり、実施例6の場合が約23(℃)である。そして、実施例7の場合が約10(℃)である。これらの温度は、いずれも常温(JIS Z 8703:1983に規定される5~35℃の温度範囲)の範囲内である。その結果、図2に示すように、実施例2乃至実施例7における溶液粘度の上限値は、61.40(mPa・s)であり、下限値は1.14(mPa・s)となった。
なお、この上限値は、霧化手段2に設けられる超音波振動子の個数が1対の場合に得られた値であり、霧化手段2の構成を簡単にし得る点で好ましい。しかし、超音波振動子の個数を例えば2対、3対、4対に増加させることにより、溶液粘度の上限値を、常温で、100(mPa・s)、150(mPa・s)、200(mPa・s)と段階的に上昇させることができる。
さらに、実施例2乃至実施例4においては、生成された乾燥物の分散性を確認するために、それぞれ回収手段5の集塵板5d,5d(図1参照)上に捕集された乾燥物へいずれも同一量の蒸留水を滴下し、同一時間を経過させた後、再乾燥物を作成した。
【0034】
次に、上記の乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について説明する。図2に示したように、CNF分散液にエタノールを添加していない実施例2乃至実施例5のうち、実施例2のみに収縮型の乾燥物が生成され、残りは破裂型の乾燥物が生成された。すなわち、CNF分散液の濃度が、0.5(wt%)に達しない場合に、破裂型の乾燥物が生成される結果となった。
【0035】
続いて、形状が異なる乾燥物が生成されるメカニズムについて、図3を用いながら説明する。図3(a)及び図3(b)は、それぞれ実施例2及び実施例3に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の模式図であって、(a)は収縮型、(b)は破裂型である。なお、図1で示した構成要素については、実施例2乃至実施例6においても同一の符号を用い、その説明を省略する。
図3(a)に示すように、実施例2のCNF分散液の濃度が0.5(wt%)である場合、生成された乾燥物は、液体成分の蒸気STが主に液滴の表面Sから発生することに伴い、液滴の表面から内部の中心に向かう力Fが発生すると考えられる。そして、この力Fが作用すると液滴が収縮し、収縮型の乾燥物Dcが生成されるのである。すなわち、収縮型の乾燥物Dcは、液滴の内部蒸気量が表面蒸発量よりも少なくなることで、形成されると考えられる。
【0036】
これに対し、図3(b)に示すように、実施例3のCNF分散液の濃度が0.25(wt%)である場合に生成された乾燥物は、液滴の中心寄りの内部において液体成分が沸騰して蒸気STが発生し、さらにこの蒸気STが表面Sに移動することに伴い、液滴の内部の中心から表面に向かう力Fが発生すると考えられる。そして、この力Fが作用すると液滴が膨張する。
その結果、液滴の表面Sが破裂して、あたかも細かく潰された卵殻のような小片が形成される。このほか、破裂しないまでも液滴の内部に空洞Cを備え、かつ表面Sに亀裂が形成された乾燥物が生成されるものと考えられる。このような小片を形成可能な乾燥物や、亀裂を有する球体状の乾燥物が破裂型の乾燥物Drである。このような破裂型の乾燥物Drにおいては、小片の破断面や、亀裂の箇所に水が浸透し易くなるため、乾燥物の再分散性が向上することが予想できる。
なお、表面に移動した蒸気STは、収縮型の乾燥物Dcと同様に、液滴の表面から外部へ放出される。すなわち、破裂型の乾燥物Drは、液滴の内部蒸気量が表面蒸発量以上になることで形成されると考えられる。
【0037】
続いて、実施例2に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図4を用いながら、詳細に説明する。図4は、実施例2に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像である。
図4に示すように、回収手段5のフィルター5e(図1参照)の細長い繊維fに、重なり合って付着した複数の粒状物(実線円で囲んだ部分)が乾燥物である。この乾燥物は、それぞれ球体が扁平収縮した形状であるように認められる。これは、図3(a)を用いて説明した通り、液滴の表面から蒸発が起こり、液滴が萎んだことによるものと考えられる。
また、このような乾燥物は、いずれも均一な濃淡像を示していることから、その内部に空洞C(図3(b)参照)が形成されていない収縮型の乾燥物Dcであると推定される。
これにより、液滴の内部蒸気量が表面蒸発量よりも少ない場合に、収縮型の乾燥物Dcが生成されることが確認された。また、収縮型の乾燥物Dcは、CNFと水からなるCNF分散液を原材料として生成されることから、高純度のCNFの乾燥物を得ることができる。
【実施例0038】
次に、実施例3に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図5を用いながら、詳細に説明する。図5(a)は実施例3に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像であり、図5(b)は同乾燥物の集塵板面における電子顕微鏡像である。
図5(a)に示すように、フィルター5e(図1参照)の繊維に付着した複数の物体が乾燥物である。この乾燥物は、球体状のもの(実線円で囲んだ部分)や、細かく破損した小片が重なり合った形状のもの(破線円で囲んだ部分)が認められる。
また、図5(b)に示すように、回収手段5の集塵板5d,5d(図1参照)においては、実線で囲んだように、球体が破裂したような形状の乾燥物が認められる。このような乾燥物は、いずれも不均一な濃淡像を示していることから、その内部に空洞C(図3(b)参照)が形成された破裂型の乾燥物Drであると推定される。
加えて、不均一な濃淡像を示す様々なサイズの小片pの存在も認められる。このような小片pは、周縁部が濃く、その内側は薄いという濃淡像を示すものが多い。このことから、小片pは湾曲面を有する薄厚の構造をなしていることが推定される。
以上から、実施例3によって、液滴の内部蒸気量が表面蒸発量以上になる場合に、破裂型の乾燥物Drが生成されることが確認された。
また、破裂型の乾燥物Drも、CNFと水からなるCNF分散液を原材料として生成されることから、高純度のCNFの乾燥物を得ることができる。
【実施例0039】
続いて、実施例4に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図6(a)を用いながら、詳細に説明する。図6(a)は、実施例4に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、集塵板面における電子顕微鏡像である。
図6(a)に示すように、実施例4においては、実線で囲んだ乾燥物は球体が破裂した形状となっているように認められる。よって、このような乾燥物は、破裂型の乾燥物Drであると推定される。そして、図5(b)の実施例3の場合と同様に、小片pも多く認められる。
【実施例0040】
次に、実施例5に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図6(b)を用いながら、詳細に説明する。図6(b)は、実施例5に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、集塵板面における電子顕微鏡像である。
図6(b)に示すように、実施例5においても、実線の円で囲んだ乾燥物は球体が破裂した形状となっており、破裂型の乾燥物Drであると推定される。加えて、小片pも多く認められる。
したがって、図4乃至図6により、破裂型の乾燥物Drは、CNF分散液が0.5(wt%)の濃度を有する場合では生成されず、CNF分散液が0.25~0.01(wt%)の濃度を有する場合に生成されたことが確認された。
【実施例0041】
さらに、実施例6に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図7を用いながら、詳細に説明する。図7(a)は実施例6に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、フィルター面における電子顕微鏡像であり、図7(b)は同乾燥物の集塵板面における電子顕微鏡像である。
図7(a)に示すように、フィルター5e(図1参照)の繊維に付着した複数の物体が乾燥物である。この乾燥物は、球体状のものはほぼ認められず、細かく砕かれた小片が重なり合った形状のもの(実線円で囲んだ部分)や、球体がつぶれたような形状のもの(破線円で囲んだ部分)が認められる。
【0042】
また、図7(b)に示すように、回収手段5の集塵板5d,5d(図1参照)においては、実線円で囲んだように、球体が破裂したような形状の乾燥物が認められる。これらの乾燥物は、図5(b)の場合と同様に、いずれも不均一な濃淡像を示していることから、破裂型の乾燥物Drであると推定される。なお、破裂型の乾燥物Drは、同一のCNF分散液の濃度0.5(wt%)を有するCNF分散液から生成された乾燥物(実施例2、図4参照)においては認められない。
【0043】
したがって、図4図7の比較からわかるように、CNF分散液の濃度が0.5(wt%)の場合、エタノールを液体成分(水)に添加しない場合は、破裂型の乾燥物が生成されない。これに対し、5(wt%)のエタノールを添加すると、破裂型の乾燥物が生成されることが確認された。これは、水の沸点よりも低い沸点を有するエタノールが添加される場合、液滴の周囲の気圧が減圧されることで、その内部においてエタノールの蒸発が促進されるため、エタノールと水からなる液体成分の蒸発量が、水からなる液体成分の蒸発量よりも増加するためであると考えられる。また、エタノールの蒸発により、液滴の内部の圧力が急激に上昇することによって、液滴がより大きく膨張し、破裂型の乾燥物Drが生成され易くなった結果であると考えられる。
なお、エタノールは水よりも低い温度で気化することから、生成された破裂型の乾燥物Drに、エタノールが残存するおそれはない。よって、エタノールを添加しない場合と同様に、高純度のCNFの乾燥物を得ることができる。
また、添加成分は、水の沸点よりも低い沸点を有する限り、例えば、エーテルといったエタノール以外の有機溶媒が使用されても良い。
【実施例0044】
続いて、実施例7に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の形状について、図8を用いながら、詳細に説明する。図8(a)及び図8(b)は、それぞれ実施例3及び実施例7に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物の、集塵板面における電子顕微鏡像である。
図8(a)は、実施例3における乾燥物の、集塵板5d,5d(図1参照)面における電子顕微鏡像であって、すでに図5(b)を用いて説明済であるが、比較のために再び表示したものである。この実施例3においては、球体が破裂した形状の乾燥物Drや、様々なサイズの小片pの存在が認められる。
【0045】
一方、図8(b)に示すように、実施例7においては、実線円で囲んだように、球体が破裂したような形状の破裂型の乾燥物Drや、様々なサイズの小片pが認められる。この点については、実施例7の乾燥物は実施例3の乾燥物と同様である。しかし、実施例7の乾燥物Drの生成数及び直径は、実施例3の乾燥物Drの生成数及び直径よりも明らかに増大していることがわかる。
以上から、CNF分散液の濃度が0.25(wt%)の場合においても、5(wt%)のエタノールを液体成分(水)に添加することにより、破裂型の乾燥物Drが高効率に生成されることが確認された。
【0046】
そして、実施例2乃至実施例4に係る乾燥方法によって生成された乾燥物の分散性について、図9を用いながら、詳細に説明する。図9(a)乃至図9(c)は、それぞれ実施例2乃至実施例4に係る粘性流体の乾燥方法によって生成された乾燥物に加水し再乾燥させた際の、集塵板における電子顕微鏡像である。
図9(a)に示すように、実施例2に係る収縮型の乾燥物Dcに加水して再乾燥させたとき、収縮型の乾燥物Dcの残渣Dcと、その傍らの黒色の領域Rの存在が認められる。
なお、電子線マイクロアナライザー分析により、領域Rは炭素原子を含むことが明らかになった。この結果から、領域Rは、分子式(C10で表されるセルロースが溶解したものであると確認された。したがって、領域Rを、再分散性の指標として扱うことができる。
【0047】
次に、図9(b)に示すように、実施例3に係る破裂型の乾燥物Drに加水して再乾燥させたときにも、黒色の領域Rの存在が認められる。また、同時に白色の物体がわずかに認められるが、これは破裂型の乾燥物Drが溶解した後の残渣Drであると考えられる。
さらに、図9(c)に示すように、実施例4に係る破裂型の乾燥物Drに加水して再乾燥させたときにも、黒色の領域Rの存在や、わずかな残渣Drの存在が認められる。
【0048】
図9(a)乃至図9(c)を比較すると、収縮型の乾燥物Dc(図9(a))と破裂型の乾燥物Dr(図9(b)、図9(c))の双方とも、分散性を示すことが分かった。しかし、収縮型の残渣Dcが多く残っていたのに対し、破裂型の残渣Drはわずかに残るのみであった。このことから、破裂型の乾燥物Drでは、加水した際に乾燥したCNF同士の凝集が抑制され得ることが明確になった。
【0049】
以上説明したように、本願の実施例2乃至実施例7に係る乾燥方法によれば、液滴の直径dを小さくすることができるため、単位時間当たりに発生する蒸気の蒸気量を増大させるとともに、乾燥時間を大きく短縮可能である。
また、実施例3乃至実施例7に係る乾燥方法によれば、破裂型の乾燥物Drを生成できるため、乾燥したCNF同士の凝集が抑制され、再分性を良好なものとすることができる。さらに、実施例2乃至実施例7に係る乾燥方法によれば、乾燥物はCNFのみからなり、添加成分が乾燥物に残留することもない。
したがって、実施例2乃至実施例7に係る乾燥方法によれば、再分散性が良好で、混合物を含有しない乾燥物を、時間的、エネルギー的及び費用的に高効率に得ることができる。
【0050】
なお、本発明に係る粘性流体の乾燥方法および乾燥装置は、実施例に示すものに限定されない。例えば、粘性流体として、CNF乾燥物のほかに、例えば、糊、接着剤、塗料、分散剤、増粘剤、粘結剤が使用されても良い。
そして、乾燥装置において、霧化手段2は、高粘度の粘性流体の霧化が可能である限り、超音波振動式でなくても良い。さらに、乾燥筒3の段数や、圧力差の設定は、実施例に記載した以外に適宜調整されても良い。このほか、回収手段5は、サイクロン式集塵機が使用されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、粘性流体の乾燥方法および乾燥装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…乾燥装置 2…霧化手段 2a…筐体 3…乾燥筒 3a…上流端 3b…下流端 3c…絞り N…1段目 N…2段目 4…気圧調整手段 5…回収手段 5a…一端 5b…他端 5c…放電極 5d…集塵板 5e…フィルター 6…送出管 6a…バルブ 7…接続部材 8…接続管 S…表面 C…空洞 Dc…収縮型の乾燥物 Dr…破裂型の乾燥物 p…小片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を気液平衡状態となるように調整することで、前記液滴から前記液体成分の蒸気を発生させ、前記粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備えることを特徴とする粘性流体の乾燥方法であって、前記乾燥物を生成する際の前記粘性流体の溶液粘度が、JIS Z 8803:2011で規定された振動粘度計による粘度測定方法で測定された粘度において、常温で200mPa・s以下であり、前記乾燥工程が微粒化工程と、蒸発工程を有することを特徴とする粘性流体の乾燥方法。
【請求項2】
液体成分を含有する粘性流体の液滴の周囲における気圧を調整することで、前記液滴から前記液体成分の蒸気を発生させ、前記粘性流体の乾燥物を生成する乾燥工程を備えることを特徴とする粘性流体の乾燥方法であって、前記乾燥物を生成する際の前記粘性流体の溶液粘度が、JIS Z 8803:2011で規定された振動粘度計による粘度測定方法で測定された粘度において、常温で200mPa・s以下であり、前記乾燥工程が微粒化工程と、蒸発工程を有し、
前記粘性流体の濃度は、前記液滴の内部から発生する前記蒸気の内部蒸気量が、前記液滴の表面から蒸発する前記蒸気の表面蒸発量以上となる所定の濃度であることを特徴とする粘性流体の乾燥方法。
【請求項3】
前記液体成分は、この液体成分以外の他の液体及び気体の少なくともいずれかからなる添加成分が添加されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粘性流体の乾燥方法。
【請求項4】
前記微粒化工程は、前記蒸発工程において単位時間当たりに発生する前記蒸気の蒸気量を制御するために、前記液滴の直径を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の粘性流体の乾燥方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の粘性流体の乾燥方法に使用される乾燥装置であって、
前記液滴を生成する霧化手段と、
生成された前記液滴が投入される乾燥筒と、
前記乾燥筒の下流に接続されて前記乾燥筒の内部における前記気圧を調整する気圧調整手段と、
前記乾燥筒と、前記気圧調整手段の間に設置され、前記粘性流体の前記乾燥物が回収される回収手段を備えることを特徴とする乾燥装置。
【請求項6】
前記回収手段は、前記乾燥物を捕集する集塵板を備える電気集塵機であることを特徴とする請求項5に記載の乾燥装置。