(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087559
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】温熱具
(51)【国際特許分類】
A61F 7/03 20060101AFI20220606BHJP
【FI】
A61F7/08 334B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199548
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】316004240
【氏名又は名称】株式会社ミヤオカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秦 久裕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 志津恵
【テーマコード(参考)】
4C099
【Fターム(参考)】
4C099AA01
4C099CA01
4C099EA09
4C099GA02
4C099HA02
4C099JA20
(57)【要約】
【課題】人の身体を温めるために適切な温度に容易に調節可能な温熱具を提供することを目的とする。
【解決手段】温熱具1は、中袋3と、中袋3の内部に収容されるセラミックス粒状体5と、を備え、セラミックス粒状体5が、マイクロ波の照射により発熱する発熱性セラミックス粒状体5Aを含み、発熱性セラミックス粒状体5Aが、マイクロ波の照射により発熱する炭化ケイ素と、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス組成物とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋体と、
前記袋体の内部に収容され、マイクロ波の照射により発熱する発熱性セラミックス粒状体と、を備え、
前記発熱性セラミックス粒状体が、マイクロ波の照射により発熱する炭化ケイ素と、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス組成物とを含む、温熱具。
【請求項2】
前記非発熱性セラミックス組成物が、コーディエライトまたはスポジューメンを含む、請求項1に記載の温熱具。
【請求項3】
前記袋体の内部に収容され、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス粒状体をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の温熱具。
【請求項4】
前記非発熱性セラミックス粒状体が、コーディエライトまたはスポジューメンを含む、請求項3に記載の温熱具。
【請求項5】
前記袋体の内部に収容される前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量が300質量g以下である場合に、前記発熱性セラミックス粒状体の含有比率が、前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量に対して50質量%以上75%質量未満である、請求項3または請求項4のいずれか1項に記載の温熱具。
【請求項6】
前記袋体の内部に収容される前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量が300質量gを超える場合に、前記発熱性セラミックス粒状体の含有比率が、前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量に対して75質量%以上である、請求項3または請求項4のいずれか1項に記載の温熱具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、温熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジを用いてマイクロ波を照射することで加熱され、人の身体を温めるために使用される温熱具として、袋体に、炭を粉末化しカルシウムやシリカ等を結合材として混合し、ペレット状に加工された炭体を充填した温熱パックが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような温熱具は、人の身体に接触するものであるため、火傷を生じさせるほど高温ではないが人の身体を温めるために充分な温度に加熱されることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される温熱具は、袋体と、前記袋体の内部に収容され、マイクロ波の照射により発熱する発熱性セラミックス粒状体と、を備え、前記発熱性セラミックス粒状体が、マイクロ波の照射により発熱する炭化ケイ素と、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス組成物とを含む。
【0006】
上記の構成によれば、炭化ケイ素と非発熱性セラミックス組成物との配合比を適切に調節することにより、人体に接する温熱具として適切な発熱温度に制御することができる。
【0007】
本明細書によって開示される温熱具は、以下の構成であってもよい。
【0008】
(1)上記の温熱具が、前記袋体の内部に収容され、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス粒状体をさらに備えていても構わない。
【0009】
このような構成によれば、発熱性セラミックス粒状体と、非発熱性セラミックス粒状体との配合比を適切に調節することにより、人体に接する温熱具として適切な発熱温度に制御することが、さらに容易となる。
【0010】
(2)前記非発熱性セラミックス組成物が、コーディエライトまたはスポジューメンを含んでいても構わない。また、前記非発熱性セラミックス粒状体が、コーディエライトまたはスポジューメンを含んでいても構わない。
【0011】
熱膨張率が小さいコーディエライトおよびスポジューメンが含まれていることにより、マイクロ波照射による急加熱に起因するセラミックス粒状体の割れを回避できる。
【0012】
(3)前記袋体の内部に収容される前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量が300質量g以下である場合に、前記発熱性セラミックス粒状体の含有比率が、前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量に対して50質量%以上75%質量未満であることが好ましい。
【0013】
また、前記袋体の内部に収容される前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量が300質量gを超える場合に、前記発熱性セラミックス粒状体の含有比率が、前記発熱性セラミックス粒状体と前記非発熱性セラミックス粒状体の合計質量に対して75質量%以上であることが好ましい。
【0014】
発熱性セラミックス粒状体の含有比率を上記の比率とすることにより、人体に接する温熱具として適切な発熱温度に制御できる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書によって開示される技術によれば、人の身体を温めるために適切な温度に容易に調節可能な温熱具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態の温熱具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
実施形態を、
図1を参照しつつ説明する。本実施形態の温熱具1は、例えば、人の目の周りを温めるためのホットアイマスク、首や腰、お腹を温めるためのウォーマー、湯たんぽとして使用される。
図1には、温熱具1の一例として、ホットアイマスクを示す。温熱具1は、外袋2と、外袋2の内部に収容される中袋3(袋体の一例)と、中袋3の内部に収容されたセラミックス粒状体5とを含む。
【0018】
外袋2および中袋3は、側生地を袋状に縫製したものである。側生地としては、加熱によって融けない綿などの天然繊維製の布地が好ましい。中袋3は外袋2よりも一回り小さく、外袋2の内部に収容可能となっている。中袋3の内部には、セラミックス粒状体5が封入されている。中袋3は、内部に封入されるセラミックス粒状体5の片寄りを防ぐために、2か所の縫い目4によって3つの区分3A、3B、3Cに分けられている。各区分3A、3B、3Cの内部には、セラミックス粒状体5が均等に封入されている。外袋2と中袋3とに用いられる側生地は、互いに同種の布地であってもよく、異種の布地であっても構わない。
【0019】
セラミックス粒状体5は、セラミックス組成物により形成された粒状の焼結体である。「粒状」とは、例えば、ビーズ状、ペレット状、チップ状であってもよい。セラミックス粒状体5は、マイクロ波の照射により発熱する発熱性セラミックス粒状体5Aと、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス粒状体5Bとを含む。
【0020】
発熱性セラミックス粒状体5Aは、マイクロ波の照射により発熱する炭化ケイ素(SiC)と、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス組成物とを含む。非発熱性セラミックス組成物は、マイクロ波の照射により発熱しないセラミックス組成物であれば特に制限はなく、例えば、ムライト、コーディエライト、スポジューメンなどであってもよい。特に、コーディエライト、スポジューメンが用いられることが好ましい。コーディエライトやスポジューメンは、熱膨張率が小さいため、発熱性セラミックス粒状体5Aがこれらを含むことにより、マイクロ波照射による急加熱に起因する割れを回避できる。
【0021】
コーディエライトは、MgO・Al2O3・SiO2系の焼結体であり、2MgO・2Al2O3・5SiO2の結晶を含んでいる。非発熱性セラミックス組成物としてコーディエライトを含む発熱性セラミックス粒状体5Aは、粘土、カオリン、滑石(タルク)、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、シャモット、珪石などから選ばれる材料を含み、必要により焼結助剤等を含む原料であってコーディエライトを生成する原料(コーディエライト系原料という)と、炭化ケイ素とを混合し、公知の成形方法により成形したのち、その成形体を1200℃~1300℃で焼成することで得られる。焼結助剤としては、長石、石灰及びペタライトなどから選ばれる材料を用いることができる。
【0022】
スポジューメンは、Li2O・Al2O3・4SiO2系の焼結体であり、一般的なペタライト(Li2O・Al2O3・8SiO2)を焼成することで得られる。非発熱性セラミックス組成物としてスポジューメンを含む発熱性セラミックス粒状体5Aは、ペタライトと、炭化ケイ素とを含み、必要に応じて成形性の確保を目的とした粘土等が添加された材料を混合し、公知の成形方法により成形したのち、その成形体を1200℃~1300℃で焼成することで得られる。
【0023】
炭化ケイ素の含有比率は、発熱性セラミックス粒状体5Aの全質量に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。5質量%以上であると、充分な発熱性を得ることができる。30質量%以下であると、製造の際の成形性が良い。
【0024】
非発熱性セラミックス粒状体5Bは、マイクロ波の照射により発熱しない非発熱性セラミックス組成物を含み、マイクロ波の照射により発熱する組成物を含まない。非発熱性セラミックス組成物は、発熱性セラミックス粒状体5Aの場合と同様に、マイクロ波の照射により発熱しないセラミックス組成物であれば特に制限はなく、例えば、ムライト、コーディエライト、スポジューメンなどを使用することができる。特に、コーディエライト、スポジューメンが用いられることが好ましい。
【0025】
コーディエライトを含む非発熱性セラミックス粒状体5Bは、上記のコーディエライト原料を混合し、公知の成形方法により成形したのち、その成形体を1200℃~1300℃で焼成することで得られる。
【0026】
スポジューメンを含む非発熱性セラミックス粒状体5Bは、ペタライトを含み、必要に応じて成形性の確保を目的とした粘土等が添加された材料を、公知の成形方法により成形したのち、その成形体を1200℃~1300℃で焼成することで得られる。
【0027】
発熱性セラミックス粒状体5Aおよび非発熱性セラミックス粒状体5Bには、本発明の目的を損なわない範囲で、分散剤、着色剤等の添加剤が添加されていても構わない。
【0028】
発熱性セラミックス粒状体5Aに含まれる非発熱性セラミックス組成物と、非発熱性セラミックス粒状体5Bに含まれる非発熱性セラミックス組成物とは、同種の組成物であってもよく、異種の組成物であっても構わない。
【0029】
外袋2および中袋3の大きさや、中袋3の内部に封入されるセラミックス粒状体5の量、および、発熱性セラミックス粒状体5Aと非発熱性セラミックス粒状体5Bとの混合比率は、温熱具1の用途により異なる。中袋3の内部に封入されるセラミックス粒状体5の量(発熱性セラミックス粒状体5Aと非発熱性セラミックス粒状体5Bとの合計質量)は、例えば、温熱具1がホットアイマスクや首用ウォーマーである場合には、200質量gから300質量g程度が適量である。中袋3に収容されるセラミックス粒状体5の総質量が300質量g以下である場合には、発熱性セラミックス粒状体5Aの含有比率が、発熱性セラミックス粒状体5Aと非発熱性セラミックス粒状体5Bとの合計質量に対して50質量%以上75質量%未満であることが好ましい。50質量%以上であると、温熱具1が、30秒から1分程度の短時間のマイクロ波の照射により、十分に温まる。75質量%未満であると、温熱具1が熱くなりすぎることが回避される。
【0030】
また、中袋3の内部に封入されるセラミックス粒状体5の量は、例えば、温熱具1が腰・お腹用ウォーマーや湯たんぽである場合には、400質量gから500質量g程度が適量である。中袋3に収容されるセラミックス粒状体5の総質量が300質量gを超える場合には、発熱性セラミックス粒状体5Aの含有比率が、発熱性セラミックス粒状体5Aと非発熱性セラミックス粒状体5Bとの合計質量に対して75質量%以上であることが好ましい。75質量%以上であると、温熱具1が、30秒から1分程度の短時間のマイクロ波の照射により、十分に温まる。
【0031】
上記のような温熱具1は、電子レンジを用いて加熱することにより、人の身体を温めるために適切な温度に容易に調節可能である。また、耐久性に優れ、使用回数が限定されないこと、一度使用してから次に使用するまでに一定の時間を空けるなどの必要がなく、連続使用できること、蓄熱性があり冷めにくいこと、などの利点を有する。
【0032】
<試験例>
1.セラミックス粒状体の総質量と、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比との関係を調べる試験
1)発熱性セラミックス粒状体の作成
タルク32質量部、粘土・カオリン25質量部、長石9質量部、およびアルミナ14質量部を含むコーディエライト原料と、炭化ケイ素20質量部とを粉砕混合し、真空土練成型機(株式会社石川時鐵工所社製 SY11)を用いてペレット状に成形し、1250℃で焼成して、発熱性セラミックス粒状体を得た。この発熱性セラミックス粒状体は、炭化ケイ素と、非発熱性セラミックス組成物としてのコーディエライトとを含む。
【0033】
2)非発熱性セラミックス粒状体の作製
ペタライト60質量部、粘土40質量部を混合し、真空土練成型機(株式会社石川時鐵工所社製 SY11)を用いてペレット状に成形し、1250℃で焼成して非発熱性セラミックス粒状体を得た。この非発熱性セラミックス粒状体は、非発熱性セラミックス組成物としてのスポジューメンを含む。
【0034】
3)発熱試験
上記1)の発熱性セラミックス粒状体と、上記2)の非発熱性セラミックス粒状体とを混合した。この混合物を、電子レンジ(アイリスオーヤマ株式会社製「かんたん両面焼きレンジ」IMGY-T171)を用いて、出力600Wで30秒または1分加熱した。加熱後のセラミックス粒状体の混合物の表面温度を測定した。
【0035】
4)結果
発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との合計質量、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比、電子レンジによる加熱時間、および、加熱後のセラミックス粒状体の表面温度を、表1に示した。表面温度が60℃以上70℃以下である場合に、適温と判定した。表面温度がこの範囲内であると、セラミックス粒状体を袋体に収容した場合の袋体の表面温度が55℃程度となり、人の身体を温めるのに適している。
【0036】
【0037】
表1より、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との合計質量が200gおよび300gである場合には、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比が50:50であるときに、適温と判定された。発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との合計質量が400gである場合には、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比が75:25であるときに、適温と判定された。発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との合計質量が500gである場合には、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比が75:25または100:0であるときに、適温と判定された。
【0038】
2.ホットアイマスクの加熱試験
1)試験方法
発熱性セラミックス粒状体および非発熱性セラミックス粒状体として、上記1.と同様のものを用いた。上記実施形態と同様のホットアイマスク用の内袋における3つの区分の内部に、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合物を60gずつ、合計180g封入した。封入後の内袋を、上記1.と同種の電子レンジを用いて、出力600Wで30秒加熱した。加熱後の内袋の表面温度を測定した。
【0039】
2)結果
発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比、および、加熱後の内袋の表面温度を、表2に示した。
【0040】
【0041】
表2より、発熱性セラミックス粒状体と非発熱性セラミックス粒状体との混合比が50:50である場合に、内袋の表面温度が55℃となり、適温と判定された。
【0042】
<他の実施形態>
(1)上記実施形態では、セラミックス粒状体5が収容された中袋3が、さらに外袋2に収容されていたが、外袋はなくても構わない。
(2)上記実施形態では、セラミックス粒状体5が、発熱性セラミックス粒状体5Aと非発熱性セラミックス粒状体5Bとを含んでいたが、セラミックス粒状体が発熱性セラミックス粒状体のみで構成されていても構わない。
(3)上記実施形態では、中袋3が縫い目4によって3つの区分に分けられていたが、縫い目および区分の数は任意である。また、袋体が複数の区分に分けられていなくても構わない。
【符号の説明】
【0043】
1:温熱具
3:中袋(袋体)
5A: 発熱性セラミックス粒状体
5B: 非発熱性セラミックス粒状体