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特開2022-87590不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087590
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20220606BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20220606BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20220606BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20220606BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20220606BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C09D11/328
C09D11/38
C09D11/36
B41J2/01 501
B41J2/045
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199597
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】會田 航平
(72)【発明者】
【氏名】前島 倫子
(72)【発明者】
【氏名】荻野 雅彦
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA05
2C056FC01
2C056FD07
2C057DB02
2C057DC03
2H186AA18
2H186BA08
2H186DA10
2H186FB03
2H186FB15
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB53
4J039AD06
4J039AD08
4J039BC28
4J039BC29
4J039BC33
4J039BE02
4J039BE12
4J039CA04
4J039CA11
4J039EA01
4J039EA29
4J039EA46
4J039GA01
4J039GA02
4J039GA03
4J039GA09
4J039GA10
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】帯電制御式インクジェットプリンタで印字でき、印字して形成した印字ドットが所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に変色できる不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る不可逆性感熱顕色インクは、ロイコ染料、顕色剤、消色剤および溶剤を含み、前記ロイコ染料、前記顕色剤および前記消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されておらず、揮発性が、前記溶剤>前記消色剤>前記ロイコ染料および前記顕色剤の関係を満たしており、前記消色剤が揮発することで有色に顕色する構成とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ染料、顕色剤、消色剤および溶剤を含み、
前記ロイコ染料、前記顕色剤および前記消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されておらず、
揮発性が、前記溶剤>前記消色剤>前記ロイコ染料および前記顕色剤の関係を満たしており、
前記消色剤が揮発することで有色に顕色する
ことを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項2】
請求項1において、
バインダ材をさらに含み、
前記揮発性が、前記溶剤>前記消色剤>前記ロイコ染料および前記顕色剤>前記バインダ材の関係を満たす
ことを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項3】
請求項1において、
前記不可逆性感熱顕色インクをインクジェットプリンタで印字して形成した印字ドットが、前記消色剤が揮発する温度になることで有色に顕色する
ことを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項4】
請求項3において、
前記インクジェットプリンタが、帯電制御式インクジェットプリンタであることを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項5】
請求項1において、
前記消色剤がアミノ化合物であることを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項6】
請求項1において、
前記消色剤の沸点が80~370℃であることを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項7】
請求項1において、
前記溶剤が、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項8】
請求項1において、
導電剤、レベリング剤および可塑剤のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする不可逆性感熱顕色インク。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のうちのいずれか1項に記載の不可逆性感熱顕色インクを用いて印刷する印刷装置であり、
前記不可逆性感熱顕色インクを収容したインク容器を保持する第1容器保持部と、
前記第1容器保持部に隣接して設けられ、前記第1容器保持部を冷却する冷却部と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項8のうちのいずれか1項に記載の不可逆性感熱顕色インクを用いて印刷する印刷装置であり、
前記ロイコ染料、前記顕色剤および前記溶剤を含む混合液を収容した混合液容器を保持する第2容器保持部と、
前記消色剤を収容した消色剤容器を保持する第3容器保持部と、
前記混合液容器から供給された前記混合液および前記消色剤容器から供給された前記消色剤を混合して前記不可逆性感熱顕色インクにするメイン容器と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の品質管理ニーズに伴い、生産、輸送、消費の流通過程の中で、途切れることなく温度管理することが求められている。例えば、食品や医薬品等の生産段階では、必要な加熱処理(例えば、60℃前後の熱処理)や殺菌処理(例えば、110℃前後の殺菌処理)などが適切に行われているか否かを把握するために温度管理が行われている。また、輸送、消費の段階では、例えば、製品が途切れることなく低温に保つ(コールドチェーン)ために温度管理が行われている。
【0003】
生産、輸送時の温度を絶えず測定・記録するため、時間と温度を連続的に記録可能なデータロガーが搭載される場合が多い。これにより、必要な加熱処理や殺菌処理が行われていなかったり、製品にダメージがあったりした場合などにその責任の所在を明らかにすることができる。しかし、データロガーはその価格およびサイズから製品の個別管理には不向きである。
【0004】
製品個別の品質を管理する場合は、データロガーではなく、比較的安価な温度インジケータを使用する場合がある。温度インジケータはデータロガーほどの記録精度はないものの、製品個別に貼付け可能であり、あらかじめ設定された温度を上回るか、下回るかした場合に表面が染色されるため、温度環境の変化を知ることが可能である。しかしながら、温度インジケータについても、大量生産品に適用するためには、価格や貼付速度の観点から不向きである場合が多い。
【0005】
一方、賞味期限、使用期限、製造番号などの印刷のため、食品、電子部品など幅広い分野で帯電制御式のインクジェットプリンタが用いられている。帯電制御式のインクジェットプリンタにより、温度変化に対して不可逆的に変色するインクを印刷することができれば、価格や印刷速度の観点から、温度インジケータよりも大量生産品の温度管理に好適である。
【0006】
特許文献1には、高濃度の画像を形成できるとともに、十分に不可視な状態まで消去される消去可能インクジェットインクが開示されている。具体的に、特許文献1には、ロイコ色素と非水溶性顕色剤とアルコールおよび水を含む溶媒とを含有し、前記水の量は前記溶媒の7質量%以上25質量%以下であることを特徴とする消去可能インクジェットインクが開示されている。
【0007】
特許文献2には、ロイコ染料と顕色剤との間の発色反応を利用した感熱記録材料において、感度向上剤として所定の一般式で表される無水安息香酸誘導体を使用したことを特徴とする感熱記録材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-224789号公報
【特許文献2】第2729253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
帯電制御式インクジェットプリンタが、温度変化に対して不可逆的に変色するインクを大量生産品に高速に印刷するためには、次のような複数の問題を解決する必要がある。例えば、インクジェットにより印刷されたインクが迅速に乾燥し、印字ドットを形成できることが挙げられる。また、その印字ドットが大量生産品に対して高密着性を有することが挙げられる。さらに、インクジェットプリンタが高精細に印字するために、小さな口径のインクジェットノズルからインクを吐出できることが挙げられる。
【0010】
また、温度インジケータとして印字ドットを活用するためには、温度変化に対して変色した際、その変化をはっきりと視認できることが好ましい。そのため、インクの色として、有色から有色に変化がわかりやすく変色するか、無色から有色に変色するインクであることが求められる。
【0011】
また、生鮮食品やバイオ医薬品など、温度と時間に依存して品質が劣化する製品を管理する場合は、時間と温度の積算で色が変化する時間温度インジケータ(Time-Temperature Indicator)が使用される。このような時間温度インジケータとして印字ドットを活用するためには、温度変化に対して時間と温度の積算で色が変化するインクであることが求められる。
【0012】
このような状況下、特許文献1に開示された消去可能インクジェットインクは、水を含む溶媒を主成分としている。そのため、この消去可能インクジェットインクには、高速に印刷する場合に乾燥速度が十分ではないことや、大量生産品によく使われるプラスチックなどに対して高密着性が得られないことが想定される。また、この消去可能インクジェットインクは加熱により有色から無色に変色するインクであることから、温度インジケータとしての使用が難しい。さらに、この消去可能インクジェットインクは、時間と温度の積算による色の変化も考慮されていないことから、時間温度インジケータとしての使用も難しい。
【0013】
特許文献2に開示された感熱記録材料は、材料中に溶媒成分に完全に溶解していない固体材料を含んでいる。そのため、この感熱記録材料には、帯電制御式インクジェットプリンタに適用した場合に、小さな口径のインクジェットノズルからインクを安定的に吐出することが難しいことが想定される。また、この感熱記録材料は発色速度が高速であることが特徴であり、時間と温度の積算で色が変化する時間温度インジケータとして使用することは難しい。
【0014】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、帯電制御式インクジェットプリンタで印字でき、印字して形成した印字ドットが所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に変色できる不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明に係る不可逆性感熱顕色インクは、ロイコ染料、顕色剤、消色剤および溶剤を含み、前記ロイコ染料、前記顕色剤および前記消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されておらず、揮発性が、前記溶剤>前記消色剤>前記ロイコ染料および前記顕色剤の関係を満たしており、前記消色剤が揮発することで有色に顕色する構成とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、帯電制御式インクジェットプリンタで印字でき、印字して形成した印字ドットが所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に変色できる不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】帯電制御式インクジェットプリンタのインクジェットヘッドを模式的に示す模式図である。
図2A】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを帯電制御式インクジェットプリンタで印字して形成した印字ドットを所定の温度以下の環境においた場合の模式断面図である。
図2B】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを帯電制御式インクジェットプリンタで印字して形成した印字ドットを所定の温度を超える環境においた場合の模式断面図である。
図3】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印刷装置の一例を説明する模式図である。
図4】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印刷装置の他の一例を説明する模式図である。
図5】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印刷装置の他の一例を説明する模式図である。
図6】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印刷装置の他の一例を説明する模式図である。
図7】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた筆記装置の一例を説明する模式図である。
図8】本実施形態に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた筆記装置の他の一例を説明する模式図である。
図9A】実施例1に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で1分経過後の様子を示している。
図9B図9Aの模式図である。
図9C】実施例1に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で10分経過後の様子を示している。
図9D図9Cの模式図である。
図10A】実施例2に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で2分経過後の様子を示している。
図10B図10Aの模式図である。
図10C】実施例2に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で20分経過後の様子を示している。
図10D図10Cの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0019】
<不可逆性感熱顕色インク>
本発明の一実施形態に係る不可逆性感熱顕色インク(以下、単に「インク」ということがある)は、ロイコ染料、顕色剤、消色剤および溶剤を含んでいる。
また、本実施形態に係るインクは、ロイコ染料、顕色剤および消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されていない。
さらに、本実施形態に係るインクは、揮発性が、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤の関係を満たすものである。
そして、本実施形態に係るインクは、消色剤が揮発することで有色に顕色する。
はじめに、本実施形態に係るインク中のロイコ染料、顕色剤、消色剤、溶剤について説明する。
【0020】
<ロイコ染料>
ロイコ染料は、電子供与性化合物である。ロイコ染料は、従来、感圧複写紙用の染料や感熱記録紙用染料として公知のものを利用できる。ロイコ染料は、例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系などを用いることができる。ロイコ染料の具体例としては、2’-メチル-6’-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-[9H]キサンテン]-3-オン、9-(N-エチル-N-イソペンチルアミノ)スピロ[ベンゾ[a]キサンテン-12,3’-フタリド]、2-メチル-6-(Np-トリル-N-エチルアミノ)-フルオラン6-(ジエチルアミノ)-2-[(3-トリフルオロメチル)アニリノ]キサンテン-9-スピロ-3’-フタリド、3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(p-ジエチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、2’-アニリノ-6’-(ジブチルアミノ)-3’-メチルスピロ[フタリド-3,9’-キサンテン]、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、1-エチル-8-[N-エチル-N-(4-メチルフェニル)アミノ]-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロスピロ[11H-クロメノ[2,3-g]キノリン-11,3’-フタリド]、3-(1-エチル-2メチルインドール-3-イル)-3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-4-アザフタリドなどが挙げられる。
ロイコ染料は、前記例示化合物から任意に選択したいずれか1種を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
<顕色剤>
顕色剤は、電子供与性のロイコ染料と接触することで、ロイコ染料の構造を変化させて呈色させるものである。顕色剤は、感熱記録紙や感圧複写紙などで用いられている公知のものを用いることができる。顕色剤の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’-ビフェノール、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、パラオキシ安息香酸エステル、没食子酸エステル(例えば、没食子酸オクチル)などのフェノール類などが挙げられる。顕色剤は、これらに限定されるものではなく、電子受容体であり、ロイコ染料を変色させることができる化合物であればどのようなものも用いることができる。また、顕色剤は、カルボン酸誘導体の金属塩、サリチル酸およびサリチル酸金属塩、スルホン酸類、スルホン酸塩類、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル類、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、亜リン酸金属塩類などを用いることができる。特に、顕色剤は、ロイコ染料や後述する消色剤に対する相溶性が高いものが好ましく、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,2’-ビスフェノール、4,4’-シクロヘキシリデンビス(2-シクロヘキシルフェノール)、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(2-ヒドロキシ-5-ビフェニルイル)プロパン、4,4’-シクロヘキシリデンビス(o-クレゾール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビスフェノールP、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールM、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールS、4,4’-ビフェノール、4,4’-オキシジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ジフェノール、4,4’-(2-エチルヘキシリデン)ジフェノール、4,4’-エチリデンビスフェノール(ビスフェノールE)、4,4’-(2-ヒドロキシベンジリデン)ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、1,1’-メチレンビス(2-ナフトール)、テトラブロモビスフェノールA、没食子酸エステル類などの有機系顕色剤が好ましい。
顕色剤は、前記例示化合物から任意に選択したいずれか1種を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。顕色剤は、2種以上を組み合せることによりロイコ染料の呈色時の色濃度を調整できる。顕色剤の使用量は所望される色濃度に応じて選択する。顕色剤の使用量は、例えば、ロイコ色素1質量部に対して、0.1~100質量部程度の範囲内で選択できる。
【0022】
<消色剤>
消色剤は、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な化合物であり、ロイコ染料と顕色剤との呈色温度および時間を制御できる化合物である。印字ドット形成直後のロイコ染料が消色状態となる温度範囲では、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させる機能が発揮された状態である。一方、例えば、インクをインクジェットプリンタなどの印刷装置で印字して形成した印字ドットが一定の温度以上に曝露されたり、加熱されたりして消色剤が揮発(蒸発)する温度になると、消色剤が揮発して印字ドット内からなくなるため、ロイコ染料が呈色した状態を示す(有色に顕色する)。これにより、管理温度を超えたことを把握することができる。そのため、消色剤の状態変化温度が印字ドットの温度制御に対して重要になる。なお、本明細書において、「有色に顕色する」とは、例えば、可視光領域において無色透明の状態から有色に変色すること、および、可視光領域において特定の有色状態から他の有色状態に変色することをいう。ここで、前記したインクジェットプリンタとしては後述するように帯電制御式インクジェットプリンタであることが好ましい。このように、帯電制御式インクジェットプリンタを用いると、価格や印刷速度の観点から大量生産品の温度管理に好適な温度インジケータを具現できる。
【0023】
例えば、本実施形態に係るインクを管理温度以下において正常とみなし、管理温度を超えた温度に一定の時間曝露すると異常とみなす製品の品質管理に使用する場合、本実施形態に係るインクを用いて形成した印字ドットは、管理温度以下において長時間顕色しない必要がある。このような場合、印字ドット中の消色剤は、管理温度以下では長時間揮発せず、管理温度を超えた温度において一定時間で揮発する必要がある。本実施形態に係るインクに含まれている消色剤の揮発は、管理温度以下である場合、印字ドット形成前の印刷装置内でも生じてはならない。そのため、本実施形態で用いる消色剤は、常圧(例えば、101kPa程度)環境下、室温程度の温度で殆ど蒸発しない程度に沸点が高いことが好ましい。対象製品の使用環境や管理温度次第ではあるが、顕色温度、すなわち、印字ドットから消色剤が揮発する温度は、例えば、常圧の場合に40~180℃程度であることが挙げられる。より具体的には、顕色時間は、常圧で40℃の場合は数時間から数日程度、常圧で100℃の場合は数分から数時間程度であることが好ましい。これらの顕色温度および顕色時間を実現する消色剤として、常圧で80~370℃程度の沸点であるものを好ましく用いることができる。このようにすると、例えば、食品や医薬品等の生産段階において、必要な加熱処理(例えば、60℃前後の熱処理)や殺菌処理(例えば、110℃前後の殺菌処理)などが適切に行われているか否かを把握することができる。
【0024】
なお、印字前のインク中の消色剤の揮発が抑制できれば、沸点が常圧で40~80℃程度である消色剤を用いることができ、それにより、インクの顕色温度を低くすることができる。従って、管理温度が低い製品の温度管理に本実施形態に係るインクを用いることができる。印字前のインク中の消色剤の揮発の抑制は、例えば、インクジェットプリンタなどの印刷装置のインクタンク(インク容器・インクカートリッジ)を保持する保持部に隣接して冷却を行う機構を設けたり、印字直前にロイコ染料、顕色剤および溶剤を含む混合液に消色剤を混合する機構を設けたりすることで行える。これらの態様については後述する。
【0025】
消色剤としては、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることが可能な材料であれば幅広く用いることができる。極性が低くロイコ染料に対して顕色性を示さず、ロイコ染料と顕色剤とを溶解させる程度に極性が高ければ、様々な材料が消色剤になり得る。消色剤としては、代表的には、ヒドロキシ化合物、エステル化合物、ペルオキシ化合物、カルボニル化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ハロゲン化合物、アミノ化合物、イミノ化合物、N-オキシド化合物、脂肪族アミン化合物、ヒドロキシアミン化合物、ニトロ化合物、アゾ化合物、ジアゾ化合物、アジ化合物、エーテル化合物、油脂化合物、糖化合物、ペプチド化合物、核酸化合物、アルカロイド化合物、ステロイド化合物などの多様な有機化合物を用いることができる。
消色剤は、これらのうち、常圧で沸点が80~370℃程度であり、揮発性の高いものを好ましく用いることができる。消色剤としては、具体的には、エチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、ビス(2-メトキシエチル)アミン、1,4-ブタンジオールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジデシルメチルアミン、N,N-ジドデシルメチルアミン、ジ-n-オクチルアミン、イソホロンジアミン、ジベンジルアミンなどの脂肪族アミン化合物や、エタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミンなどのヒドロキシアミン化合物などを用いることができる。消色剤は、ロイコ染料および顕色剤との相溶性の観点から、これらの化合物を含むことが好ましい。勿論、消色剤はこれらの化合物に限定されるものではなく、ロイコ染料と顕色剤との結合を解離させることができる材料であればどのようなものでもよい。
消色剤は、前記例示化合物から任意に選択したいずれか1種を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消色剤を組合せることにより、揮発速度や顕色温度および顕色時間に対する変色の仕方を調整することができる。
【0026】
<溶剤>
本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタに適用し、大量生産品の印字に用いることを想定の一つとしているため、乾燥速度が高い溶剤を用いることが好ましい。また、帯電制御式インクジェットプリンタに用いるインクは、粘度が数mPa・s程度である必要がある。さらに、本実施形態に係るインクには少なくともロイコ染料、顕色剤、消色剤を含む必要があり、これらの材料を溶解する必要がある。これらを同時に満足する溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。
【0027】
また、大量生産品として広く用いられるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラートなどの汎用プラスチックへの高密着性を付与するために極性の低い樹脂(バインダ材)をインク中に溶解させる場合がある。その場合、溶剤としては極性の低い有機溶剤が好ましい。そのような有機溶剤としては、例えば、ブタノール、ペンタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るインクは、前記したように、ロイコ染料、顕色剤および消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されていない。マイクロカプセル化されると粒子の粒径が大きくなる。そのため、インクがマイクロカプセル化された粒子を多く含むほど、インク滴に電荷を付与して印刷を行う帯電制御式インクジェットプリンタでは粒子が狙い通りに飛び難くなり、高精細な文字を印字することが困難になる傾向がある。本実施形態に係るインクは、ロイコ染料、顕色剤および消色剤のうち少なくとも1つはマイクロカプセル化されていないので、これらの全てがマイクロカプセル化されている場合と比較すると帯電制御式インクジェットプリンタで印刷したときに高精細な文字を印字できる。帯電制御式インクジェットプリンタでさらに高精細な文字の印字を行う観点からは、ロイコ染料、顕色剤および消色剤の全てがマイクロカプセル化されていないことが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態に係るインクに含まれているロイコ染料、顕色剤および消色剤のうちの1つまたは2つがマイクロカプセル化されている場合であっても、例えば、DOD(Drop On Demand)式のインクジェットプリンタで当該インクを使用する場合などにおいては高精細な文字の印字を行うことができる。DOD式のインクジェットプリンタは、ノズルに設けられたピエゾ素子(圧電素子)が通電により体積変化することにより、または、ノズルに設けられたソレノイドバルブが通電により開閉することにより、インク滴の噴射・停止を制御して印刷を行う。つまり、DOD式のインクジェットプリンタはインク滴に電荷を付与せずに印刷を行うことができる。そのため、DOD式のインクジェットプリンタは、前記したように、ロイコ染料、顕色剤および消色剤のうちの1つまたは2つがマイクロカプセル化されている場合であっても高精細な文字の印字を行うことができる。
【0030】
また、本実施形態に係るインクは、前記したように、揮発性が、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤の関係を満たすものである。このようにすると、溶剤の揮発性が最も高いので、帯電制御式インクジェットプリンタなどの印刷装置でインクを対象製品に印字した後、速やかに溶剤が揮発して印字ドットを形成することができる。そして、消色剤の揮発性がロイコ染料および顕色剤の揮発性よりも高いので、印字ドットが一定の温度以上に暴露されたり、加熱されたりした場合に、消色剤がロイコ染料および顕色剤よりも先に揮発して印字ドット内からなくなる。そのため、印字ドット内に残ったロイコ染料および顕色剤により印字ドットが温度と時間の積算により有色に顕色する。印字ドットの顕色について詳しくは後述する。
【0031】
<顔料・染料>
前記したように、本実施形態に係るインクは、少なくともロイコ染料、顕色剤、消色剤および溶剤を含むが、インクの顕色特性を損なわない範囲で、これら以外の材料を含ませることができる。
例えば、本実施形態に係るインクは、インクの顕色特性を損なわない範囲で顔料や染料を含んでいてもよい。顔料や染料を含んでいると、顕色前のインクの色(印字ドットの色)や顕色後のインクの色(印字ドットの色)を任意に変更できる。顔料および染料は、印刷用のインクに用いられるものであればどのようなものも用いることができるが、インクジェットプリンタで用いる場合は粒径が細かいものほど好ましい。顔料の大きさは500nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。また、染料の大きさは50nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。
【0032】
<バインダ材>
本実施形態に係るインクは、バインダ材を含んでいてもよい。バインダ材を含んでいると、印字ドットの形成する印字対象物が汎用プラスチック、金属、ガラス、フィルムなどである場合に印字ドットの密着性を高めることができる。
バインダ材は、インクの顕色特性を損なわない範囲で、インキ、塗料、接着剤などの分野で一般的に使用される溶剤に対して溶解性のある樹脂であればどのようなものも使用することができる。本実施形態の場合、例えば、大量生産品として広く用いられる汎用プラスチックへの高密着性を付与する目的から、バインダ材の主材料として極性の低い樹脂を用いることが好ましい。そのような極性の低い樹脂としては、例えば、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂、末端封鎖エポキシ樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ブチラール樹脂、各種ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、各種セルロース樹脂などが挙げられる。バインダ材は、本実施形態に係るインクの粘度が数mPa・s程度に収まるように、前記した樹脂を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本実施形態に係るインクは、汎用プラスチック、金属、ガラス、フィルム以外にも、不織布や紙など種々の印字対象物に適用することができる。本実施形態に係るインクは、それぞれの印字対象物に対して高密着性を有するバインダ材を適宜選択して用いることができる。
【0033】
本実施形態に係るインクがバインダ材を含む場合、揮発性は、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤>バインダ材の関係を満たすことが好ましい。このようにすると、バインダ材の揮発性が最も低く最後まで残るため、印字ドットが除去されるのを防止できる。
【0034】
<揮発性の測定>
なお、本明細書において、溶剤、消色剤、ロイコ染料および顕色剤、バインダ材の各揮発性は、例えば、圧力計等を用いて蒸気圧を測定する手法や、エブリオメータや示差走査熱量計を用いて沸点を測定する手法や、加熱乾燥式水分計などにより蒸発量を手法などにより測定することができるが、これらに限定されない。
【0035】
<添加剤>
本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタ用インクとして使用する場合において、導電性の高いロイコ染料および顕色剤を用いることができる場合は、導電剤は不要である。一方、ロイコ染料および顕色剤によってインクに十分な導電性を付与できない場合は、導電剤を添加することで導電性を付与することができる。導電剤としては、錯体を用いることが好ましい。導電剤は溶剤に溶解することが必要で、色調に影響を与えないことも重要である。また、導電剤は一般的には塩構造のものが用いられる。これは分子内に電荷の偏りを有するので、高い導電性が発揮できるものと推定される。
【0036】
以上のような観点で検討した結果、導電剤は塩構造であるものが好ましい。
塩構造の導電剤は、陽イオンがテトラアルキルアンモニウムイオン構造であるものが好適である。アルキル鎖は直鎖、分岐どちらでもよく、炭素数が大きいほど溶剤に対する溶解性は向上する。しかし、炭素数が小さいほど、僅かの添加率で抵抗を下げることができる。インクに使う際の現実的な炭素数は2~8程度である。
塩構造の導電剤は、陰イオンがヘキサフルオロホスファートイオン、テトラフルオロボラートイオンなどが溶剤に対する溶解性が高い点で好ましい。
【0037】
好ましい導電剤としては、例えば、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラペンチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラヘキシルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラオクチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボラート、テトラプロピルアンモニウムテトラフルオロボラート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボラート、テトラペンチルアンモニウムテトラフルオロボラート、テトラヘキシルアンモニウムテトラフルオロボラート、テトラオクチルアンモニウムテトラフルオロボラートなどが挙げられる。
【0038】
また、溶剤乾燥後の印字ドットにおいて、ドットの表面が平滑ではなく、印字された文字やマークの顕色状態について、均一な色濃度が発現しない場合がある。そのような場合、レベリング剤を添加剤として好適に用いることができる。レベリング剤は印字ドットを平坦化する、またはドットが広がらないようにすることにより、平坦で小型の印字ドットを形成するのに効果がある。レベリング剤としては、例えば、一般的に使用される界面活性剤、潤滑剤、モダーフローなどを用いることができる。また、レベリング剤としては、例えば、シリコーンオイルおよびその変性誘導体、フッ素系滑剤、ラノリン、パーム油、カルナバワックスなどを用いることができる。
【0039】
この他、本実施形態に係るインクには、さらに、印字ドットの顕色速度および基材との密着性などを補うため、インクの顕色特性を損なわない範囲で、可塑剤、界面活性剤、滑剤、各種接着剤、粘着剤、軟化剤などを添加してもよい。
前記したように、本実施形態に係るインクは帯電制御式インクジェットプリンタ用インクとしての使用を想定しているが、ペン、スタンプなどのインクや、スクリーン印刷などの印刷用の塗料に適用することもできる。
【0040】
<帯電制御式インクジェットプリンタ用インク>
前記したように、本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタに適用することを想定の一つとしている。すなわち、本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタ用インクとして使用される。
ここで、図1は、帯電制御式インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド11を模式的に示す模式図である。
図1に示すように、帯電制御式インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド11は、ノズル12と、帯電電極13と、偏向電極14と、ガター15と、を備えている。ノズル12は、ピエゾ素子が通電により体積変化することでインクの溶液を微小なインク滴16として吐出する装置である。帯電電極13は、吐出されたインク滴16に電荷を付与する電極である。偏向電極14は、電荷が付与されたインク滴16の飛翔方向を制御して印字対象物17に着弾させる電極である。
【0041】
本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタ用インクとして用いる場合、溶液時の抵抗率が高いと帯電制御式インクジェットプリンタ10のインクジェットヘッド11において、インク滴16がまっすぐ飛ばず、曲がる傾向がある。そのため、帯電制御式インクジェットプリンタ用インクは、溶液時の抵抗率が概ね2kΩ・cm以下であることが好ましい。
【0042】
また、インク滴16が着弾した後の印字ドット2が文字やコードを表現するため、ノズル12の直径40~100μm程度の口径の吐出口からインク滴16を規則的に吐出する必要がある。その際、インク中に不純物など直径数μm程度の固体材料が存在すると、インク滴16がまっすぐ飛ばず、高精細な文字を印字することが困難になる。そのため、インク中の材料が溶剤中に均一に溶解していることが好ましい。インクが顔料を含む場合は、可能な限り直径の小さい顔料を用いることが好ましい。前記したように、顔料の大きさは500nm以下が好ましい。
【0043】
<印字ドット>
本実施形態に係るインクは、インクジェットプリンタ(特に、帯電制御式インクジェットプリンタ)で印字対象物17に印字されて印字ドット2を形成した後、消色剤5(図2A図2B参照)が揮発する所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に顕色する。
【0044】
図2Aは、本実施形態に係るインクを帯電制御式インクジェットプリンタ10で印字して形成した印字ドット2を所定の温度(管理温度)以下の環境においた場合の模式断面図である。図2Bは、本実施形態に係るインクを帯電制御式インクジェットプリンタ10で印字して形成した印字ドット2を所定の温度(管理温度)を超える環境においた場合の模式断面図である。
【0045】
図2Aに示すように、本実施形態に係るインク(図示せず)は、帯電制御式インクジェットプリンタ10で基材1(印字対象物17)に印字後、主成分である溶剤(図示せず)が揮発することで印字ドット2が形成される。形成された印字ドット2は、ロイコ染料3、顕色剤4および消色剤5を含んでいる。なお、本実施形態に係るインクがバインダ材を含む場合は、印字ドット2中にバインダ材(図示せず)が含まれる。印字ドット2は、バインダ材である樹脂を含むことで、プラスチックなどの基材1に対して高い密着性で密着できる。
【0046】
印字ドット2は、電子供与性化合物であるロイコ染料3と、電子受容性化合物である顕色剤4とを含むことで、ロイコ染料3の構造に起因した色に顕色する。その一方で、印字ドット2は、ロイコ染料3と顕色剤4との結合を解離させることが可能な化合物である消色剤5を一定量含む場合、消色する特徴がある。
【0047】
図2Aに示すように、印字ドット2は、所定の温度(管理温度)以下の環境においた場合、消色剤5を一定量含んでいるのでロイコ染料3と顕色剤4との結合が解離しており、消色状態にある。
この状態から、印字ドット2を消色剤5が揮発する所定の温度(管理温度)を超える環境においた場合、消色剤5が揮発を開始し、その温度において一定の時間が経過すると、図2Bに示すように、ロイコ染料3と顕色剤4とが結合し、ロイコ染料3の構造に起因した色に顕色する。
【0048】
このとき、印字ドット2が含むロイコ染料3、顕色剤4および消色剤5が無色や白色材料であれば(バインダ材を含む場合はバインダ材も無色や白色材料であれば)、インクジェットにより形成した印字ドット2は、印字直後は無色や白色である。そして、加熱などにより消色剤5が揮発する所定の温度以上となると、ロイコ染料3に依存した色に顕色する。このように、本実施形態に係るインクを用いて形成された印字ドット2は、温度インジケータのように、温度変化に対して不可逆的に無色から有色に変色する機能を発現できる。
【0049】
また、このとき、印字ドット2が含むロイコ染料3、顕色剤4、消色剤5のうちの少なくとも1つが有色の材料であったり(バインダ材を含む場合はバインダ材が有色の材料であったり)、染料などの有色の材料がインクに添加されていたりすると、形成直後の印字ドット2は有色となる。そして、加熱などにより消色剤5が揮発する所定の温度以上となると、ロイコ染料3に依存した色に顕色し、有色の印字ドット2を他の有色に変えることができる。
【0050】
印字ドット2が顕色する温度および時間は、消色剤5の揮発温度および速度に依存する。消色剤5の揮発速度は温度が高いほど速くなることから、この印字ドット2は時間と温度の積算で色が変化する時間温度インジケータとして使用できる。
【0051】
印字ドット2中の消色剤5の揮発温度は、ロイコ染料3や顕色剤4などからも影響を受ける(バインダ材を含む場合はバインダ材からも影響を受ける)。また、印字ドット2中の消色剤5の揮発温度は、消色剤5の沸点および飽和蒸気圧に大きく依存する。そのため、印字対象物17の品質管理に適した温度および時間条件に対し、適した沸点および飽和蒸気圧の消色剤5をインクに用いることで、印字ドット2の顕色する温度および速度を調整することができる。
【0052】
<印刷装置>
本実施形態に係るインクは、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、活版印刷、スクリーン印刷、オンデマンド印刷などに使用されている一般的な印刷装置であればどのようなものにも適用できる。
しかし、前記したように、本実施形態に係るインクは消色剤が揮発することにより顕色する。不必要な顕色を防止し、管理温度の適切な監視を行うため、本実施形態に係るインクを使用する印刷装置は、装置内にある印刷前のインクから消色剤が揮発するのを防止する構成を採用することが好ましい。
そこで、図3から図6を参照して本実施形態に係るインクを用いて印刷する印刷装置について説明する。図3から図6はいずれも本実施形態に係るインクを用いた印刷装置の一例を説明する模式図である。図3から図6はいずれも消色剤が揮発するのを防止する構成を採用した印刷装置を示している。なお、各態様で共通する構成に対しては同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0053】
<印刷装置の第1態様>
図3に示すように、第1態様に係る印刷装置30は、帯電制御式インクジェットプリンタ10に、第1容器保持部31と、冷却部32と、を備えたものである。第1容器保持部31および冷却部32は、印刷装置本体33内に設けられている。
第1容器保持部31は、本実施形態に係るインクを収容したインク容器Aを保持するものである。また、冷却部32は、第1容器保持部31に隣接して設けられ、第1容器保持部31を冷却するものである。
【0054】
印刷装置本体33は、インクの混合を行うとともにノズル12へのインクの供給を行うメイン容器34と、溶剤を収容した溶剤容器35と、を備えている。
メイン容器34と第1容器保持部31に保持されたインク容器Aとは、インク補給路36で接続されており、インク補給路36を通じてインク容器A内のインクをメイン容器34に補給できるようになっている。
また、メイン容器34とインクジェットヘッド11内のガター15とは、回収路37で接続されており、回収路37を通じてガター15で回収されたインク滴16をメイン容器34に供給できるようになっている。
また、メイン容器34と溶剤容器35とは、溶剤補給路38で接続されており、溶剤補給路38を通じて溶剤容器35内の溶剤をメイン容器34に補給できるようになっている。
メイン容器34内のインクは、濃度や粘度などが管理されており、それぞれ所定の範囲内になるよう、適宜、インク容器Aからインクを補給したり、溶剤容器35から溶剤を供給したりしている。
そして、メイン容器34とノズル12とは、インク供給路39で接続されており、インク供給路39を通じてメイン容器34内のインクがノズル12に供給できるようになっている。
インクが供給されたノズル12は、吐出口からインク滴16を吐出する。
【0055】
印刷装置30は、前記したように、第1容器保持部31を冷却する冷却部32を備えているので、冷却部32で第1容器保持部31を冷却することにより、第1容器保持部31に保持されたインク容器A内のインクを冷却できる。そのため、インク容器A内の溶剤や消色剤の揮発を防止できる。
なお、印刷装置30は、メイン容器34を冷却する冷却装置(図示せず)を備えていることがより好ましい。このようにすると、インクの冷却がより好適に行われるので、溶剤や消色剤の揮発をさらに防止できる。
【0056】
<印刷装置の第2態様>
図4に示すように、第2態様に係る印刷装置40は、帯電制御式インクジェットプリンタ10に、第2容器保持部41と、第3容器保持部42と、メイン容器34と、を備えたものである。第2容器保持部41、第3容器保持部42およびメイン容器34は、印刷装置本体33内に設けられている。
第2容器保持部41は、ロイコ染料、顕色剤および溶剤を含む混合液を収容した混合液容器Bを保持するものである。第3容器保持部42は、消色剤を収容した消色剤容器Cを保持するものである。また、メイン容器34は、混合液容器Bから供給された混合液および消色剤容器Cから供給された消色剤を混合して本実施形態に係るインクにする容器である。
【0057】
メイン容器34と第2容器保持部41に保持された混合液容器Bとは、混合液補給路43で接続されており、混合液補給路43を通じて混合液容器B内の混合液をメイン容器34に補給できるようになっている。
また、メイン容器34と第3容器保持部42に保持された消色剤容器Cとは、消色剤補給路44で接続されており、消色剤補給路44を通じて消色剤容器C内の消色剤をメイン容器34に補給できるようになっている。
【0058】
印刷装置40は、前記したように、混合液容器Bから供給された混合液および消色剤容器Cから供給された消色剤をメイン容器34で混合する。このように、印刷装置40は、ノズル12にインクを供給する直前に混合液と消色剤とを混合するため、メイン容器34内の消色剤の揮発を防止できる。
【0059】
<印刷装置の第3態様>
図5に示すように、第3態様に係る印刷装置50は、第1態様に係る印刷装置30の帯電制御式インクジェットプリンタ10に替えて、DOD式インクジェットプリンタ51とした点で印刷装置30と異なっている。より詳しくは、印刷装置50は、第1態様に係る印刷装置30のインクジェットヘッド11に替えて、DOD式インクジェットヘッド52とした点で印刷装置30と異なっている。それ以外は、印刷装置50と印刷装置30とは共通した構成となっている。
【0060】
DOD式インクジェットヘッド52は、ノズル12に設けられたピエゾ素子が通電により体積変化することにより、または、ノズル12に設けられたソレノイドバルブが通電により開閉することにより、インク滴16の噴射・停止を制御して印刷を行う。つまり、DOD式インクジェットプリンタ51はインク滴16に電荷を付与せずに印刷を行う。
【0061】
印刷装置50も第1容器保持部31を冷却する冷却部32を備えているので、冷却部32で第1容器保持部31を冷却することにより、第1容器保持部31に保持されたインク容器A内のインクを冷却できる。そのため、印刷装置50は、インク容器A内の溶剤や消色剤の揮発を防止できる。
なお、印刷装置50もメイン容器34を冷却する冷却装置(図示せず)を備えていることがより好ましい。このようにすると、インクの冷却がより好適に行われるので、溶剤や消色剤の揮発をさらに防止できる。
【0062】
<印刷装置の第4態様>
図6に示すように、第4態様に係る印刷装置60は、第2態様に係る印刷装置40の帯電制御式インクジェットプリンタ10に替えて、DOD式インクジェットプリンタ51とした点で印刷装置40と異なっている。より詳しくは、第2態様に係る印刷装置40のインクジェットヘッド11に替えて、DOD式インクジェットヘッド52とした点で印刷装置40と異なっている。それ以外は、印刷装置60と印刷装置40とは共通した構成となっている。
【0063】
印刷装置60も混合液容器Bから供給された混合液および消色剤容器Cから供給された消色剤をメイン容器34で混合する。このように、印刷装置60もノズル12にインクを供給する直前に混合液と消色剤とを混合するため、メイン容器34内の消色剤の揮発を防止できる。
【0064】
このように、本実施形態に係るインクは、帯電制御式インクジェットプリンタ10で印字できるが、DOD式インクジェットプリンタ51でも印字できる。
また、印刷装置の第1態様から第4態様で説明したインク容器A、混合液容器Bおよび消色剤容器Cは、交換可能なカートリッジ式とすることができる。
【0065】
<筆記装置>
次に、図7および図8を参照して本実施形態に係るインクを用いて筆記できる筆記装置について説明する。図7および図8はいずれも本実施形態に係るインクを用いた筆記装置の一例を説明する模式図である。
前記したように、本実施形態に係るインクは消色剤が揮発することにより顕色する。不必要な顕色を防止し、管理温度の適切な監視を行うため、本実施形態に係るインクを使用する筆記装置は、装置内にある印刷前のインクから消色剤が揮発するのを防止する構成を採用することが好ましい。図7および図8はいずれも消色剤が揮発するのを防止する構成を採用した筆記装置を示している。なお、各態様で共通する構成に対しては同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0066】
<筆記装置の第1態様>
図7に示すように、第1態様に係る筆記装置70は、略円筒状の外ケース71内にインクケース72と、筆記装置用冷却部73と、を備えたものである。
インクケース72は、本実施形態に係るインクを収容している。筆記装置用冷却部73は、外ケース71内においてインクケース72の外周を覆うように設けられており、インクケース72を冷却する。筆記装置用冷却部73としては、例えば、あらかじめ冷却や凍結させた冷却剤(保冷剤)を用いることができる。外ケース71およびインクケース72は任意の樹脂で形成したものであればよい。
【0067】
インクケース72は、ペン先部74と接続されており、インクケース72内のインクをペン先部74に供給できるようになっている。外ケース71には観察窓75を設けることができる。このようにすると、インクケース72を透明な素材で形成した場合に、インクケース72内のインクの残量を確認することができる。
【0068】
筆記装置70は、前記したように、インクケース72を冷却する筆記装置用冷却部73を備えているので、筆記装置用冷却部73でインクケース72を冷却することにより、インクケース72内のインクを冷却できる。そのため、筆記装置70は、インクケース72内の溶剤や消色剤の揮発を防止できる。
【0069】
<筆記装置の第2態様>
図8に示すように、第2態様に係る筆記装置80は、略円筒状の外ケース71内に混合液ケース81と、消色剤ケース82と、メインケース83と、を備えたものである。
混合液ケース81は、ロイコ染料、顕色剤および溶剤を含む混合液を収容している。消色剤ケース82は、消色剤を含む混合液を収容している。メインケース83は、混合液ケース81および消色剤ケース82とそれぞれ接続されている。メインケース83は、混合液ケース81から供給された混合液と消色剤ケース82から供給された消色剤とを混合して本実施形態に係るインクとし、当該インクをペン先部74に供給する。
混合液ケース81、消色剤ケース82およびメインケース83はいずれも任意の樹脂で形成したものであればよい。
【0070】
筆記装置80は、混合液ケース81から供給された混合液と消色剤ケース82から供給された消色剤とをメインケース83で混合する。このように、筆記装置80は、ペン先部74にインクを供給する直前に混合液と消色剤とを混合するため、メインケース83内の消色剤の揮発を防止できる。
【0071】
次に、実施例および比較例を示しながら、不可逆性感熱顕色インクをさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0072】
<不可逆性感熱顕色インクの作製>
ロイコ染料として2’-メチル-6’-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-[9H]キサンテン]-3-オン(山田化学工業製RED520)を4重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを8重量部、消色剤として沸点162℃のN,N-ジエチルエタノールアミンを8重量部、バインダ材として数平均分子量(Mn)10000のポリビニルアルコールとポリ酢酸ビニルの共重合物(ポリビニルアルコールユニットの繰り返し数:ポリ酢酸ビニルユニットの繰り返し数≒36:64、水酸基価は285)を10重量部、溶剤としてメチルエチルケトンを70重量部用いた。これらの材料を、約1時間混合することにより不可逆性感熱顕色インクを作製した。
【0073】
溶剤の揮発性、消色剤の揮発性、ロイコ染料および顕色剤の揮発性、ならびにバインダ材の揮発性を、加熱乾燥式水分計MS-70により、それぞれの材料1gを110℃にて1分間加熱した際の蒸発量を測定することで検証した。
その結果、溶剤の揮発性は99%、消色剤の揮発性は20%、ロイコ染料および顕色剤の揮発性は0.01wt%、バインダ材の揮発性は0wt%であった。
揮発性は、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤>バインダ材の関係であることが確認された。
【0074】
<温度と時間の検知機能の評価>
作製したインクを株式会社日立産機システム製インクジェットプリンタUX型に充填し、白色のポリプロピレン基材に印字した。基材に印字された印字ドットは初期状態において、無色であった。
20℃の環境に1週間静置したところ、無色状態を保持することが確認された。
印字ドットを印字した基材を常圧下、110℃の環境に静置したところ、1分後より緩やかに赤色に顕色しはじめ(図9A図9B参照)、10分後に完全に赤色に顕色することが確認された(図9C図9D参照)。この顕色は消色剤が揮発したために生じたと考えられる。なお、図9Aは、実施例1に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で1分経過後の様子を示している。図9Bは、図9Aの模式図である。図9Cは、実施例1に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で10分経過後の様子を示している。図9Dは、図9Cの模式図である。その後、印字ドットを印刷した基材を再び20℃の環境に静置したが、一度赤色に顕色した印字ドットは元の無色には戻らず、赤色を保持することが確認された。
他方、前記と同様、印字ドットを印字した基材を常圧下、60℃の環境に静置したところ、1日後より緩やかに赤色に顕色しはじめ、1週間後に完全に赤色に顕色することが確認された(図示省略)。
【0075】
以上より、実施例1に係る不可逆性感熱顕色インクは、帯電制御式インクジェットプリンタで基材上に印字できることが確認された。また、そのようにして印字して形成した印字ドットは、所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に変色できることが確認された。さらに、一度有色に変色した印字ドットはその変色が不可逆的であることが確認された。
【実施例0076】
<不可逆性感熱顕色インクの作製>
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を4重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを8重量部、消色剤として沸点335℃のトリエタノールアミンを8重量部、バインダ材として数平均分子量(Mn)10000のポリビニルアルコールとポリ酢酸ビニルの共重合物(ポリビニルアルコールユニットの繰り返し数:ポリ酢酸ビニルユニットの繰り返し数≒36:64、水酸基価は285)を10重量部、溶剤としてメチルエチルケトンを70重量部用いた。これらの材料を、約1時間混合することにより不可逆性感熱顕色インクを作製した。
【0077】
実施例1と同様、溶剤の揮発性、消色剤の揮発性、ロイコ染料および顕色剤の揮発性、ならびにバインダ材の揮発性を、加熱乾燥式水分計MS-70により、それぞれの材料1gを110℃にて1分間加熱した際の蒸発量を測定することで検証した。
その結果、溶剤の揮発性は99%、消色剤の揮発性は10%、ロイコ染料および顕色剤の揮発性は0.01wt%、バインダ材の揮発性は0wt%であった。
揮発性は、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤>バインダ材の関係であることが確認された。
【0078】
<温度と時間の検知機能の評価>
作製したインクを株式会社日立産機システム製インクジェットプリンタUX型に充填し、白色のポリプロピレン基材に印字した。基材に印字された印字ドットは初期状態において、無色であった。
20℃の環境に1週間静置したところ、無色状態を保持することが確認された。
印字ドットを印字した基材を常圧下、110℃の環境に静置したところ、2分後より緩やかに青色に顕色しはじめ(図10A図10B参照)、20分後に完全に青色に顕色することが確認された(図10C図10D参照)。この顕色は消色剤が揮発したために生じたと考えられる。なお、図10Aは、実施例2に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で2分経過後の様子を示している。図10Bは、図10Aの模式図である。図10Cは、実施例2に係る不可逆性感熱顕色インクを用いた印字ドットの時間-温度依存性を示す写真である。同図は、常圧下、110℃で20分経過後の様子を示している。図10Dは、図10Cの模式図である。その後、印字ドットを印字した基材を再び20℃の環境に静置したが、一度青色に顕色した印字ドットは元の無色には戻らず、青色を保持することが確認された。
他方、前記と同様、印字ドットを印字した基材を常圧下、60℃の環境に静置したところ、3日後より緩やかに青色に顕色しはじめ、2週間後に完全に青色に顕色することが確認された(図示省略)。
【0079】
以上より、実施例2に係る不可逆性感熱顕色インクについても、帯電制御式インクジェットプリンタで基材上に印字できることが確認された。また、このようにして印字して形成した印字ドットは、所定の温度以上となることで温度と時間の積算により有色に変色できることが確認された。さらに、一度有色に変色した印字ドットはその変色が不可逆的であることが確認された。
また、実施例2と実施例1の結果から、沸点の異なる消色剤を不可逆性感熱顕色インクに用いることで、帯電制御式インクジェットプリンタで形成した印字ドットの変色温度と時間が調整可能であることが確認できた。
【実施例0080】
<不可逆性感熱顕色インクの作製>
ロイコ染料として3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(山田化学工業製CVL)を4重量部、顕色剤として東京化成工業製没食子酸オクチルを8重量部、消色剤として沸点335℃のトリエタノールアミンを8重量部、溶剤としてメチルエチルケトンを80重量部用いた。これらの材料を、約1時間混合することにより不可逆性感熱顕色インクを作製した。
揮発性は、実施例2と同様に、溶剤>消色剤>ロイコ染料および顕色剤の関係である。
【0081】
<温度と時間の検知機能の評価>
作製したインクを株式会社日立産機システム製インクジェットプリンタUX型に充填し、白色のポリプロピレン基材に印字した。基材に印字された印字ドットは初期状態において、無色であった。
20℃の環境に1週間静置したところ、無色状態を保持することが確認された。
印字ドットを印字した基材を常圧下、110℃の環境に静置したところ、2分後より緩やかに青色に顕色しはじめ、20分後に完全に青色に顕色することが確認された(写真・模式図は図10Aから図10Dと同様であった)。この顕色は消色剤が揮発したために生じたと考えられる。その後、印字ドットを印字した基材を再び20℃の環境に静置したが、一度青色に顕色した印字ドットは元の無色には戻らず、青色を保持することが確認された。
他方、前記と同様、印字ドットを印字した基材を常圧下、60℃の環境に静置したところ、3日後より緩やかに青色に顕色しはじめ、2週間後に完全に青色に顕色することが確認された(図示省略)。
上記より、バインダ材を含まないインクにおいても、温度と時間に依存し、印字ドットが発色する性能が確認された。
【0082】
以上、本発明に係る不可逆性感熱顕色インクおよびこれを用いた印刷装置について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 基材
2 印字ドット
3 ロイコ染料
4 顕色剤
5 消色剤
6 バインダ材
10 帯電制御式インクジェットプリンタ
11 インクジェットヘッド
12 ノズル
13 帯電電極
14 偏向電極
15 ガター
16 インク滴
17 印字対象物
30、40、50、60 印刷装置
31 第1容器保持部
32 冷却部
33 印刷装置本体
34 メイン容器
35 溶剤容器
41 第2容器保持部
42 第3容器保持部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D