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特開2022-87591電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
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  • 特開-電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087591
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20220606BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/028 G
H01G9/00 290A
H01G9/00 290H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199600
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄樹
(57)【要約】
【課題】漏れ電流を低減させた電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】弁金属からなる電極箔の表面に設けられたエッチング層と、エッチング層の表面に形成された誘電体酸化皮膜層と、誘電体酸化皮膜層の上に電解重合により形成されたチオフェンまたはその誘導体を含む固体電解質層と、を備え、固体電解質層は、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む。チオフェンまたはその誘導体が、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁金属からなる電極箔の表面に設けられたエッチング層と、
前記エッチング層の表面に形成された誘電体酸化皮膜層と、
前記誘電体酸化皮膜層の上に電解重合により形成されたチオフェンまたはその誘導体を含む固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記繊維状ポリマーは、エッチング層の表層側から1/3以内の領域に形成されている請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記チオフェンまたはその誘導体が、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体である、請求項1又は2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
表面にエッチング層が設けられた弁金属からなる電極箔に、誘電体酸化皮膜層を形成する化成処理工程と、
前記誘電体酸化皮膜層が形成された前記電極箔にチオフェン又はその誘導体を含む固体電解質層を形成する電解重合工程と、を含み、
前記電解重合工程において、チオフェンまたはその誘導体および非水系溶媒を含む重合液に前記電極箔を浸漬し、-32℃以下で電解重合を行う、電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記チオフェンまたはその誘導体が、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体である、請求項4記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記非水系溶媒が、アセトニトリルである、請求項4又は5記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記重合液が、支持電解質をさらに含み、前記支持電解質が四級アンモニウム塩である請求項4~6いずれか一項記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記化成処理工程の前に、前記電極箔を温水にて前処理する工程をさらに含む、請求項4~7いずれか一項記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記化成処理工程の後に、前記電極箔を電気炉にて熱処理する工程をさらに含む、請求項4~8いずれか一項記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
前記電解重合工程の後に、前記誘電体酸化皮膜層に生じた欠陥部に誘電体酸化皮膜を形成する修復化成工程をさらに含む、請求項4~9いずれか一項記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタル、アルミニウム等の弁作用金属からなるとともに微細孔やエッチングピットを備える陽極電極の表面に、誘電体酸化皮膜層を形成し、この誘電体酸化皮膜層から電極を引き出した構成からなる。そして、誘電体酸化皮膜層からの電極の引出しは、導電性を有する電解質層により行っている。
【0003】
電解質層は、誘電体酸化皮膜層との密着性、緻密性、均一性などが求められる。特に、陽極電極の微細孔やエッチングピットの内部における密着性が電気的な特性に大きな影響を及ぼしており、従来数々の電解質層が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-173313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ポリピロールに代表される導電性高分子は、主に化学的酸化重合法(化学重合)や電解酸化重合法(電解重合)により生成されるが、化学重合では、強度の強い皮膜を緻密に生成することは困難であった。一方、電解重合により固体電解質層を形成した場合においては、コンデンサの電気化学特性を向上させることが望まれていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものである。その目的は、漏れ電流を低減させた電解コンデンサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の電解コンデンサは、弁金属からなる電極箔の表面に設けられたエッチング層と、前記エッチング層の表面に形成された誘電体酸化皮膜層と、前記誘電体酸化皮膜層の上に電解重合により形成されたチオフェンまたはその誘導体を含む固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む。
【0008】
(2)前記繊維状ポリマーは、エッチング層の表層側から1/3以内の領域に形成されていても良い。
【0009】
(3)前記チオフェンまたはその誘導体が、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体であっても良い。
【0010】
また、前記のような電解コンデンサを製造するための方法も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、漏れ電流を低減させた電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電極箔のSEM像を示す図であり、(a)は実施例のSEM像、(b)は比較例のSEM像を示す。
図2】電極箔のSEM像を示す図であり、(a)は実施例のSEM像、(b)~(d)は比較例のSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1.構成]
本実施形態の電解コンデンサは、電極箔を含む。電極箔は、電解コンデンサの陽極箔または陰極箔に用いることができ、陽極箔および陰極箔の双方に用いても良い。電解コンデンサは、電解質が固体である固体電解コンデンサ、および電解質として液体と固体を備えたハイブリッド型電解コンデンサとすることができる。また、電解コンデンサは、積層型コンデンサに加え、陽極箔と陰極箔をセパレータを介して積層し、巻回したコンデンサ素子を含む巻回型のコンデンサであっても良い。
【0014】
電極箔は弁金属を材料とする箔体である。弁金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましく、陰極箔に関して99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。
【0015】
この電極箔はエッチング処理により電極箔両面が拡面化されている。すなわち、電極箔の表面には、塩化物を含む水溶液中で電気化学的なエッチング処理を行い粗面化することで、表面積が拡大されたエッチング層が形成されている。エッチング層は、トンネル状のピットや海綿状のピットを含み、これらのピットにより層内に空隙が形成されていると捉えることもできる。なお、電極箔はエッチング処理が到達しない残芯部を有する。さらに、電極箔のエッチング層の表面には、用途に応じて化成処理により誘電体酸化皮膜層が形成されている。誘電体酸化皮膜は、電極箔の表面をエッチング層の内壁面を含めて酸化させて成る。
【0016】
電極箔には、固体電解質層が形成されている。本実施形態の固体電解質層は、チオフェンまたはその誘導体を用いて電解重合を行うことで、エッチング層の誘電体酸化皮膜層の上に均一に形成されている。すなわち、固体電解質層は、チオフェン又はその誘導体を含む。ただし、固体電解質層は、電極箔のエッチング層に存在する空隙を全て埋めてしまうことはなく、エッチング層の内壁面に沿って形成されているため、エッチング層には空隙が残されている。
【0017】
さらに、エッチング層に残された空隙において、固体電解質層は、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む。具体的には、繊維状ポリマーは、エッチング層の内部において、エッチング層の表面に形成された固体電解質層を結ぶように形成されている。したがって、エッチング層内の空隙には、繊維状ポリマーが網目状に張り巡らされた状態となっている。繊維状ポリマーは、エッチング層の表層側から1/3以内の領域に形成されていることが好ましい。以上の通り、エッチング層において繊維状ポリマーが存在するということは、固体電解質層内に空隙があることを意味する。
【0018】
固体電解質層が形成された電極箔には、修復化成が行われていても良い。誘電体酸化皮膜層に欠陥部が生じている可能性があるが、この修復化成により、この欠陥部に誘電体酸化皮膜が形成され修復される。上記のように、固体電解質層に空隙があると、皮膜欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進される。そのため、電解コンデンサの漏れ電流が低減される。
【0019】
以上のような電極箔を用いて積層形のコンデンサ素子や巻回型のコンデンサ素子が形成される。コンデンサ素子は、金属製の外装ケースに収容され、封口体で封止される。外装ケースの材質は、アルミニウム、アルミニウムやマンガンを含有するアルミニウム合金、又はステンレスが挙げられる。封口体はゴムや硬質基板が挙げられる。封止は、ラミネートフィルムによってコンデンサ素子を被覆することによって行ってもよい。また、コンデンサ素子を耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂でモールドすることで封止してもよく、コンデンサ素子に当該樹脂をディップコートや印刷などの手法を用いて薄膜状に形成することで封止してもよい。電極箔には、それぞれの電極を外部に接続するためのリードが形成されている。リードは、電極箔において外部との電気的な接続を行う電極引き出し手段である。このリードの形状や形成方法は、電解コンデンサにより適宜設計可能である。その後、エージング工程を経て、電解コンデンサの作製が完了する。
【0020】
[2.電解コンデンサの製造方法]
上記のような本実施形態の電解コンデンサの製造方法は、以下の工程を含む。
(1)温水にて電極箔を前処理する工程
(2)前処理した電極箔に誘電体酸化皮膜層を形成する化成処理工程
(3)化成処理を行った電極箔を熱処理する工程
(4)熱処理を行った電極箔にチオフェン又はその誘導体を含む固体電解質層を形成する電解重合工程
【0021】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)温水にて電極箔を前処理する工程
電解コンデンサの製造においては、まず、アルミニウムなどの平板状の弁作用金属箔をエッチング処理し、次いで化成処理を行い、誘電体酸化皮膜層を形成する。誘電体酸化皮膜層は、典型的には、ハロゲンイオン不在の化成液中で電極箔を陽極にして電圧印加する化成処理を行うことで形成される。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。化成処理における化成液の温度は、10~95℃とすることが好ましい。
【0022】
その後、レーザーで所定の形状に切断して電極箔を得る。この電極箔を、温水に浸して前処理を行う。温水の温度は、80~100℃とすることが好ましい。また、温水に電極箔を浸す時間は、10~600秒とすると良い。この温水を用いた前処理により、電極箔の切断面に水和酸化物の層が鱗片状に形成されると考えられる。温水処理において電極箔の切断面に水和酸化物が形成されることにより、次の端面化成処理により均一な誘電体酸化皮膜層が形成され、ひいては均一な固体電解質層の形成に寄与する。
【0023】
(2)前処理した電極箔に化成処理を行い誘電体酸化皮膜層を形成する工程
次に、前処理済みの電極箔の切断面について、端面化成処理を行って電極箔の切断面に誘電体酸化皮膜層を形成する。誘電体酸化皮膜層は、化成処理と同様の条件にて実施することができる。端面化成処理後の電極箔については、必要に応じて絶縁レジストを印刷後乾燥し、レジスト層を形成しても良い。また、絶縁レジスト層の形成は、端面化成処理前に行ってもよい。なお、上記の説明では、電極箔に対して誘電体酸化皮膜層を形成した後に切断し、温水による前処理を行った上で電極箔の切断面に対してさらに誘電体酸化皮膜層を形成した。ただし、予め切断した電極箔に対し、温水による前処理を行い、その後電極箔の端面を含めて化成処理を一度行い誘電体酸化皮膜を形成しても良い。
【0024】
(3)化成処理を行った電極箔を熱処理する工程
化成処理後の電極箔を電気炉に入れ、熱処理を行う。熱処理の温度は、250~500℃とすると良い。また、処理時間は、1~60分とすると良い。この熱処理により、電極箔表面の誘電体酸化皮膜の状態が一様となるため、均一な固体電解質層の形成に寄与する。
【0025】
(4)熱処理を行った電極箔に電解重合にて固体電解質層を形成する工程
熱処理後の電極箔に電解重合を行い、固体電解質層を形成する。固体電解質層は、電極箔を重合液に浸漬後、所定の温度にて電解重合を行うことにより形成することができる。必要に応じて、重合液への浸漬・電解重合を複数回繰り返し行っても良い。重合液は、モノマーと支持電解質と溶媒とを少なくとも含む溶液である。モノマーとしてはチオフェンまたはその誘導体を用いると良い。
【0026】
チオフェンまたはその誘導体としては、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェンなどが挙げられる。そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。この中でも、特に3,4-エチレンジオキシチオフェンを用いると、熱安定性に優れた固体電解質層を形成することができるため好ましい。また、チオフェンまたはその誘導体として、EDOTのエチレン基にアルキル基を有する側鎖が結合している化合物であってもよい。例えば、2-エチル-3,4-エチレンジオキシチオフェン(Et-EDOT)、2-ブチル-3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。その中でも、Et-EDOTを用いると、漏れ電流特性がさらに向上して良い。
【0027】
また、重合液の溶媒は、非水系溶媒であり、有機溶媒を用いることができる。特に、溶媒としてアセトニトリルを用いると、固体電解質層が均一に形成されてよい。アセトニトリルは、電解重合時に形成されるモノマーのオリゴマー体の溶解性が低いため、生成したオリゴマー体が溶媒中に拡散するのを抑制し、生成したオリゴマー体を効率的に固体電解質層の形成に用いることが可能となるため、固体電解質層が電極箔上に均一に形成されると考えられる。
【0028】
重合液は、支持電解質をさらに含む。支持電解質として、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩からなる群から選択された少なくとも一種の化合物が含まれる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。支持電解質としては、四級アンモニウム塩を用いることが好ましい。四級アンモニウム塩は導電率が高く、電解重合時の電極箔に対する電流分布が均一になるため、固体電解質層がより均一に形成されることにより、漏れ電流の低減につながる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。例えば、支持電解質としては、テトラエチルアンモニウムボロジサリチレート(TeEA-BS)、テトラメチルアンモニウムボロジサリチレート(TeMA-BS)などを用いることができる。
【0029】
電解重合における重合温度は、-32℃以下とすることが好ましい。重合温度を-32℃以下とすることで、電解コンデンサの漏れ電流が低減される。また、重合温度の下限値の決定は、溶媒の凝固点に基づいて行うことが考えられる。例えば、溶媒としてアセトニトリルを用いた場合には、-45℃にてアセトニトリルが凝固するため通電ができず、固体電解質層を形成することができない。したがって、溶媒としてアセトニトリルを用いた場合には、重合温度を-32~-44℃とすることが好ましい。また、電解重合における電流の条件は、電極箔の形状により異なるが、例えば4×5mmの平板状の電極箔に対して電解重合を行う場合には、5~10mAcm-2とすることができる。
【0030】
固体電解質層が形成された電極箔には、修復化成が行われていても良い。この修復化成は、誘電体酸化皮膜層に生じた欠陥部に誘電体酸化皮膜を形成する修復を行う。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液、ホウ酸とクエン酸などのジカルボン酸を混合した化成液を用いることができる。修復化成処理は、化成液中に固体電解質層が形成された電極箔を浸漬し、定電圧を印加することで行われる。修復化成処理における印加電圧は電極箔の化成電圧によって適宜設定されるが、例えば、化成電圧に対して0.1~1.2倍の値を修復化成時の印加電圧とすることが好ましい。修復化成処理における化成液の温度は、10~95℃とすることが好ましい。また、処理時間は、1~60分とすると良い。
【0031】
以上のようにして得られた電極箔には、それぞれの電極を外部に接続するためのリードを形成する等の処理を、電解コンデンサの設計に合わせて適宜行うことができる。また、得られた電解コンデンサについて、電圧印加によってエージング処理をさらに行うと良い。
【0032】
[3.作用効果]
(1)本実施形態の電解コンデンサは、弁金属からなる電極箔の表面に設けられたエッチング層と、前記エッチング層の表面に形成された誘電体酸化皮膜層と、前記誘電体酸化皮膜層の上に電解重合により形成されたチオフェンまたはその誘導体を含む固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む、電解コンデンサである。
【0033】
チオフェンまたはその誘導体を含む固体電解質層を電解重合で形成することにより、網目状の繊維状ポリマーを形成することができるため、エッチング層の空隙を残した状態で固体電解質層を形成することができる。上述の通り、固体電解質層において繊維状ポリマーが存在するということは、固体電解質層内に空隙があることを意味する。固体電解質層に空隙があると、誘電体酸化皮膜層の欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進される。そのため、電解コンデンサの漏れ電流を低減することができる。
【0034】
(2)前記繊維状ポリマーは、エッチング層の表層側から1/3以内の領域に形成されている。
【0035】
繊維状ポリマーがエッチング層の深部に至るように形成されているため、固体電解質層に多くの空隙が残されている状態となる。そのため、誘電体酸化皮膜層の欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進される。よって、電解コンデンサの漏れ電流をさらに低減することができる。
【0036】
(3)前記チオフェンまたはその誘導体が、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体である。
【0037】
チオフェンまたはその誘導体として、3,4-エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体を用いることにより、漏れ電流を大幅に低減することが可能となる。
【0038】
(4)本実施形態の電解コンデンサの製造方法は、表面にエッチング層が設けられた弁金属からなる電極箔に、誘電体酸化皮膜層を形成する化成処理工程と、前記誘電体酸化皮膜層が形成された前記電極箔にチオフェン又はその誘導体を含む固体電解質層を形成する電解重合工程と、を含み、前記電解重合工程において、チオフェンまたはその誘導体および非水系溶媒を含む重合液に前記電極箔を浸漬し、-32℃以下で電解重合を行う。
【0039】
以上のような製造方法により、網目状に形成された繊維状ポリマーを含む固体電解質層を形成することが可能となる。特に、チオフェンまたはその誘導体および非水系溶媒を含む重合液を用いて、重合温度を-32℃以下とすることで、繊維状ポリマーを含む固体電解質層を形成することが可能となる。このようにして製造された電解コンデンサにおいては、漏れ電流が低減されるため、電解コンデンサの性能を向上することができる。
【0040】
(5)前記非水系溶媒が、アセトニトリルである。
【0041】
アセトニトリルは、電解重合時に形成されるモノマーのオリゴマー体の溶解性が低いため、生成したオリゴマー体が溶媒中に拡散するのを抑制し、生成したオリゴマー体を効率的に固体電解質層の形成に用いることが可能となることから、電極箔上に固体電解質層が均一に形成されると考えられる。したがって、確実に漏れ電流を低減させることができる。
【0042】
(6)前記重合液が、支持電解質をさらに含み、前記支持電解質が四級アンモニウム塩である。
【0043】
例えば、支持電解質が3級アミン塩の場合、固体電解質層の形成は可能であるが、導電率が低いため、電解重合時に電極箔の表面のうち電流の集中しやすいところに固体電解質層が集中して形成される可能性があり、漏れ電流の上昇を招く可能性が否定できない。一方、導電率の高い四級アンモニウム塩を用いることで、電極箔の表面における電流集中が緩和され、電極箔に固体電解質層が均一に形成され、電解コンデンサの漏れ電流特性を向上することができる。
【0044】
(7)前記化成処理工程の前に、前記電極箔を温水にて前処理する工程をさらに含む。
【0045】
電極箔の切断面に対する化成処理工程の前に、温水を用いた前処理を行うことにより、電極箔の切断面に水和酸化物の層が鱗片状に形成されると考えられる。温水による前処理において電極箔の切断面に水和酸化物が形成されることにより、次の化成処理により均一な誘電体酸化皮膜層を形成することができる。したがって、均一な固体電解質層を形成することが可能となる。
【0046】
(8)前記化成処理工程の後に、前記電極箔を電気炉にて熱処理する工程をさらに含む。
【0047】
化成処理工程の後に、電気炉にて熱処理を行うことにより、電極箔表面の誘電体酸化皮膜層の状態を一様とすることができる。そのため、均一な固体電解質層を形成することができる。さらに、電解コンデンサの静電容量を向上することが可能となる。
【0048】
(9)前記電解重合工程の後に、前記誘電体酸化皮膜層に生じた欠陥部に誘電体酸化皮膜を形成する修復化成工程をさらに含む。
【0049】
電解重合工程の後に、誘電体酸化皮膜の修復化成を行うと、繊維状ポリマーが形成された固体電解質層の空隙部分を介して、皮膜欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進される。そのため、電解コンデンサの漏れ電流を低減することができる。
【実施例0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
エッチング処理および化成処理を施したアルミニウムからなる電極箔(公称化成電圧:8V)を所定の形状にレーザーで切断し、95℃の純水中に120秒間浸す前処理工程を施した。この前処理工程の後に、電極箔のレーザー切断面に誘電体酸化皮膜層を形成する化成処理工程を行った。具体的には、90℃のリン酸二水素アンモニウム水溶液を用い、電流密度200μAcm-2で600秒間通電を行った。その後、絶縁レジスト層を印刷し、150℃で20分間乾燥させた。
【0052】
絶縁レジスト層形成後の電極箔を、300℃の電気炉に20分間入れて熱処理を行った。熱処理後の電極箔を重合液に浸漬し、電解重合にて固体電解質層を形成した。重合液は、480mMのEt-EDOTおよびアセトニトリルを含み、支持電解質として260mMのテトラエチルアンモニウムボロジサリチレート(TeEA-BS)を含む。電極箔を、この重合液に浸漬後、-44℃にて、5mAcm-2の電流を585秒間流して電解重合を行った。その後、固体電解質層が形成された電極箔について、修復化成を行った。具体的には、30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液を用い、8Vの電圧を10分間印加した。
【0053】
以上のようにして得られた電極箔について、カーボンペーストを印刷後120℃で10分間乾燥し、次に銀ペーストを印刷後150℃で30分間乾燥して陰極端子を形成した。また、レーザーにて所定箇所の絶縁レジスト層および誘電体酸化皮膜層を剥離し、電極箔を露出させ、この露出部分に陽極端子を形成した。陽極端子の形成は、めっき前処理とめっき処理を含む。なお、絶縁レジスト層および誘電体酸化皮膜層の剥離は、レーザーによる方法のほかに治具を押し当てて機械的に剥離させる方法が可能である。
【0054】
めっき前処理としては、以下の処理を順番に行った。
・スマット処理としてのアルカリエッチング(処理液:K-130水溶液(日本カニゼン株式会社)、処理温度:55℃、処理時間:60秒間)
・デスマット処理(処理液:30%硝酸水溶液、処理温度:室温、処理時間:60秒間)
・第1のZn置換処理(処理液:K-102水溶液(日本カニゼン株式会社)、処理温度:室温、処理時間:20秒間)
・Zn剥離処理(処理液:30%硝酸水溶液、処理温度:室温、処理時間:30秒間)
・第2のZn置換処理(処理液:K-102水溶液(日本カニゼン株式会社)、処理温度:室温、処理時間:30秒間)
【0055】
めっき処理としては、以下の処理を順番に行った。
・電解Niめっき(処理液:watt浴、処理温度:50℃、電流密度:-100mAcm-2、処理時間:10分間)
・電解Sn/Agめっき(処理液:中性Snめっき浴、処理温度:50℃、電流密度:-10mAcm-2、処理時間:10分間)
なお、watt浴は、300g/L硫酸ニッケル・6水和物、50g/L塩化ニッケル・6水和物、および40g/Lホウ酸を含む。また、中性Snめっき浴は、0.1M硫酸すず、0.01M硝酸銀、0.2Mピロリン酸ナトリウムを含む。
【0056】
以上のようにして陰極端子および陽極端子を形成してコンデンサ素子とし、レーザーにて個片化して電解コンデンサとした。電解コンデンサの定格電圧は4Vであった。また、得られた電解コンデンサについて、125℃において、電流密度1mA/1素子で、4.6Vの電圧を60分間印加してエージング処理を行った。
【0057】
(実施例2)
電解重合温度を-40℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(実施例3)
電解重合温度を-35℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
【0058】
(実施例4)
モノマーをEDOTとし、支持電解質を400mMのテトラエチルアンモニウムボロジサリチレートとし、電解重合温度を-42℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(実施例5)
電解重合温度を-35℃としたこと以外は、実施例4と同様に作成した。
(実施例6)
電解重合温度を-32℃としたこと以外は、実施例4と同様に作成した。
【0059】
(比較例1)
電解重合温度を-30℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(比較例2)
電解重合温度を-20℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(比較例3)
電解重合温度を-10℃としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
【0060】
(比較例4)
モノマーをEDOTとし、支持電解質を400mMのテトラエチルアンモニウムボロジサリチレートとしたこと以外は、比較例1と同様に作成した。
(比較例5)
モノマーをEDOTとし、支持電解質を400mMのテトラエチルアンモニウムボロジサリチレートとしたこと以外は、比較例2と同様に作成した。
【0061】
(比較例6)
モノマーをピロールとしたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(比較例7)
モノマーをピロールとしたこと以外は、実施例2と同様に作成した。
(比較例8)
モノマーをピロールとしたこと以外は、実施例3と同様に作成した。
(比較例9)
モノマーをピロールとしたこと以外は、比較例1と同様に作成した。
(比較例10)
モノマーをピロールとしたこと以外は、比較例2と同様に作成した。
(比較例11)
モノマーをピロールとしたこと以外は、比較例3と同様に作成した。
【0062】
(比較例12)
溶媒を水としたこと以外は、実施例1と同様に作成した。
(比較例13)
溶媒をγ-ブチロラクトン(GBL)としたこと以外は、実施例3と同様に作成した。
(比較例14)
溶媒をプロピレンカーボネート(PC)としたこと以外は、実施例3と同様に作成した。
(比較例15)
支持電解質をトリエチルアミンボロジサリチレート(TEA-BS)としたこと以外は、実施例3と同様に作成した。
【0063】
(比較例16)
電極箔の切断面に対する化成処理工程の前に、電極箔を温水にて前処理する工程を行わなかったこと以外は、実施例5と同様に作成した。
(比較例17)
電極箔の切断面に対する化成処理工程の前に、電極箔を温水にて前処理する工程を行わなかったこと以外は、比較例15と同様に作成した。
(比較例18)
化成処理工程の後に、電極箔を電気炉にて熱処理する工程を行わなかったこと以外は、実施例5と同様に作成した。
【0064】
<電極箔のSEM像>
以上の実施例および比較例のうち、実施例3、比較例1~3および9について、SEM像(25000倍)を撮像し、観察を行った。まず、実施例3のSEM像を図1(a)に、比較例9のSEM像を図1(b)に示す。導電性高分子としてEt-EDOTを用い、-35℃で電解重合を行った実施例3では、図中実線の丸で囲んだように、固体電解質層の空隙に繊維状ポリマーが網目状に形成されていることが確認できた。すなわち、前述の温度条件において、チオフェン又はその誘導体を導電性高分子として用いると、モノマーおよび電解重合により生成したオリゴマー体の拡散性が低いことから、エッチング層において、電解重合時の固体電解質層の形成が制限される。そのため、エッチング層においては、誘電体酸化皮膜層の表面近傍において固体電解質層が形成される一方で、エッチング層の空隙には固体電解質層が形成されにくくなる。更に、エッチング層の空隙が維持されることで、エッチング層内の誘電体酸化皮膜層上に形成された固体電解質層から繊維状に重合膜が形成される。
【0065】
一方、モノマーとしてピロールを用い、-35℃で電解重合を行った比較例9では、図中点線の丸で囲んだように、エッチング層の空隙を埋めるように固体電解質層が形成され、固体電解質層に空隙は存在していなかった。そのため、比較例9では、繊維状ポリマーの存在が確認できなかった。ピロールをモノマーとして用いると、モノマーの拡散性が高く、エッチング層において重合膜が密に形成されるため空隙が存在しないことが明らかとなった。
【0066】
次に、モノマーとしてEt-EDOTを用いた実施例3および比較例1~3のSEM像(25000倍)図2(a)~(d)にそれぞれ示す。図2(a)に示す実施例3の電解重合温度は―35℃であり、上述の通り繊維状ポリマーが網目状に形成されている。一方、図2(b)~(d)に示す比較例1~3は、いずれも電解重合温度が-32℃を超えている。このような比較例1~3においては、固体電解質層は形成されているものの、エッチング層の空隙を埋めるように形成されていた。そのため、繊維状ポリマーの存在が確認できなかった。電解重合温度が-32℃を超えると、モノマーおよび電解重合により生成したオリゴマーの拡散性が向上し、電解重合時の誘電体酸化皮膜層近傍における固体電解質層の形成速度が向上する。そうすると、重合反応点の生成が促進され、エッチング層の空隙を充填するように重合膜が形成される。
【0067】
<電気化学特性の測定>
以上のような実施例1~6、および比較例1~18について、漏れ電流、容量、およびESRを測定した。容量は120Hzの交流を加えて測定し、ESRは100Hzの交流を加えて測定した。測定結果を以下の表に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
まず、比較例12では、溶媒として水を用いたため、固体電解質層が形成されなかった。そのため、電気的特性の測定は不可能であった。水が溶媒に含まれる場合、例えば電極箔に使用しているアルミニウムの化成反応が支配的となる結果、モノマーの電気的な酸化が劣勢となり、固体電解質層の形成が阻害されると考えられた。重合液の溶媒として、非水系溶媒を用いた実施例1~6および比較例1~11および15~18では、固体電解質層が形成できていることより、溶媒は非水系溶媒とすべきことが分かった。
【0070】
次に、溶媒としてγ-ブチロラクトンを用いた比較例13、および溶媒としてプロピレンカーボネートを用いた比較例14について検討する。アセトニトリル以外の溶媒を用いた比較例13および14では、固体電解質層が形成されるに至らず、電気的特性の測定は不可能であった。一方、重合液の溶媒としてアセトニトリルを用いた非水系溶媒を用いた実施例1~6および比較例1~11および15~18では、固体電解質層が形成されていた。アセトニトリルは、電解重合時に形成されるモノマーのオリゴマー体の溶解性が低いことから、電解重合時に生成したオリゴマー体を固体電解質層の形成に効率的に利用できる。そのため、電極箔上に均一に形成されたためと考えられる。重合液の溶媒として、γ-ブチロラクトンやプロピレンカーボネートを用いた場合、電解重合時に生成したオリゴマー体の溶解性が高いことから、電解重合反応の過程において生成したオリゴマー体が電極箔上で固体電解質層として析出しにくくなるため、固体電解質層が形成するに至らなかったと推察される。
【0071】
続いて、固体電解質層が形成された実施例1~6および比較例1~11および15~18についてそれぞれ検討する。まず、実施例1~3と比較例1~3はモノマーとしてEt-EDOTを用いて作製された。ここで、実施例1~3は電解重合温度を-35℃以下であり、比較例1~3は電解重合温度が-35℃より高温であった。実施例1~3と比較例1~3を比較すると、モノマーとしてEt-EDOTを用い、電解重合温度を-35℃以下とした実施例1~3では、固体電解質層に網目状の繊維状ポリマーが形成されているため、誘電体酸化皮膜層の欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進されていると考えられる。よって、電解コンデンサの漏れ電流が低減されることが分かった。
【0072】
また、実施例4~6と比較例4および5はモノマーとしてEDOTを用いて作製された。ここで、実施例4~6は電解重合温度を-32℃以下であり、比較例4および5は電解重合温度が-32℃より高温であった。実施例4~6と比較例4および5を比較すると、電解重合温度が-32℃以下の実施例4~6では、固体電解質層に網目状の繊維状ポリマーが形成されているため、誘電体酸化皮膜層の欠陥部に修復化成液が浸透しやすく、欠陥部の修復が促進されていると考えられる。よって、漏れ電流が顕著に低減することが明らかとなった。
【0073】
実施例1~3および実施例4~6では、いずれも漏れ電流特性が顕著に向上していることが明らかとなった。ここで、実施例3と実施例5を比較すると、電解重合温度が同一の-35℃である場合、モノマーとしてEt-EDOTを用いた実施例3の方が、モノマーとしてEDOTを用いた実施例5よりも、漏れ電流が低減されていることが分かった。すなわち、モノマーとしてEt-EDOTを用いると、漏れ電流特性がさらに向上することが明らかとなった。
【0074】
比較例6~11から明らかな通り、モノマーとしてピロールを用いた場合には、固体電解質層は形成されるものの各特性において顕著な効果は表れなかった。実施例3、5および比較例8を比較すると、電解重合温度が同一の-35℃である場合、モノマーとしてチオフェンまたはその誘導体を用いた実施例3および5では、漏れ電流特性およびESR特性が顕著に向上することが分かった。
【0075】
さらに、支持電解質を、260mMの3級アミン塩であるトリエチルアミンボロジサリチレート(TEA-BS)とした比較例15について検討する。支持電解質をテトラエチルアンモニウムボロジサリチレート(TeEA-BS)とした実施例3と比較例15を比較すると、重合温度が同一の-35℃であったとしても、比較例15は、漏れ電流が上昇することが明らかとなった。これは、実施例3では、導電性が高い四級アンモニウム塩が用いられていることから、固体電解質層がより均一に形成されたためと考えられる。
【0076】
上記に加え、実施例5とは製造方法を異ならせて比較例16を作製した。具体的には、比較例16では、電極箔を95℃の純水中に120秒間浸す工程を行わなかった。比較例16では、実施例5と比較して、漏れ電流が2倍程度上昇していた。同様に、比較例15とは製造方法を異ならせて比較例17を作製した。具体的には、比較例17では、電極箔を95℃の純水中に120秒間浸す工程を行わなかった。比較例17では、比較例15と比較して、漏れ電流が3倍程度上昇していた。以上の結果より、電極箔の切断面に対する化成処理工程の前に、電極箔を温水にて前処理する工程を行うことで、漏れ電流特性を大幅に向上できることが明らかとなった。
【0077】
また、実施例5とは製造方法を異ならせて比較例18を作製した。具体的には、比較例18では、電極箔を300℃の電気炉に20分間入れて行う熱処理を行わずに、重合液に浸漬して、電解重合にて固体電解質を形成した。比較例18では、実施例5と比較して、漏れ電流が3倍程度上昇していた。以上の結果より、化成処理工程の後に、電極箔を電気炉にて熱処理する工程を行うことで、漏れ電流特性を大幅に向上できることが明らかとなった。
図1
図2