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  • 特開-幹細胞の賦活化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087596
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】幹細胞の賦活化剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20220606BHJP
【FI】
C12N5/0735 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199611
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000108672
【氏名又は名称】タカラベルモント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 宗一
(72)【発明者】
【氏名】三宅 智子
(72)【発明者】
【氏名】青池 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 義久
(72)【発明者】
【氏名】島田 幹男
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB16
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
【課題】人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の幹細胞を増殖させて、細胞生存率を向上させることができる幹細胞の賦活化剤を提供することを目的とする。
【解決手段】幹細胞の賦活化剤は、ケルセチン配糖体またはその誘導体を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン配糖体またはその誘導体を含有することを特徴とする幹細胞の賦活化剤。
【請求項2】
前記幹細胞がiPS細胞であることを特徴とする請求項1に記載の幹細胞の賦活化剤。
【請求項3】
前記ケルセチン配糖体またはその誘導体の含有量が、0.5μM以上100μM以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の幹細胞の賦活化剤。
【請求項4】
前記誘導体が、α―グルコシルルチン、トロキセルチン、及びルチニル二硫酸2ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の幹細胞の賦活化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の賦活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療分野において、損傷した組織等の修復のために、増殖能力と、様々な細胞に分化できる能力とを有する人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)等の幹細胞の実用化の可能性が高まってきており、これら幹細胞を増殖する方法が提案されている。
【0003】
例えば、ナツメのエタノール抽出物を有効成分として含有する胚性または体性幹細胞の増殖促進剤が提案されている。そして、このような増殖促進剤を使用することにより、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま、効率よく増殖させることができると記載されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6587899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の増殖促進剤においては、単にナツメのエタノール抽出物が有効成分として使用されているに過ぎず、具体的な有効成分が特定されていないため、未知の具体的な有効成分の含有量や活性(失活)を制御・評価することができず、幹細胞の増殖作用が安定的に得られない場合があるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、iPS細胞等の幹細胞を確実に増殖させて、細胞生存率を向上させることができる幹細胞の賦活化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の幹細胞の賦活化剤は、ケルセチン配糖体またはその誘導体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、幹細胞を増殖させて、細胞生存率を向上させることができる幹細胞の賦活化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例におけるRT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)による遺伝子発現レベルの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の幹細胞の賦活化剤は、ケルセチン配糖体またはその誘導体を含有するものであり、iPS細胞等の幹細胞を活性化させるものである。
【0011】
より具体的には、本発明の賦活化剤を用いて、幹細胞の処理を行ったところ、幹細胞が増殖して、細胞生存率が向上することが確認された。
【0012】
これは、本発明の賦活化剤は、遺伝子(FOSL1遺伝子やJUN遺伝子)の発現を増加させるため、これらの遺伝子発現の増加に起因して、転写因子(AP-1)の形成が促進され、結果として、細胞周期が亢進されるとともに、細胞増殖が促進されたためであると考えられる。
【0013】
なお、本発明においては、後述の実施例に記載された方法により、本発明の賦活化剤を含有する培地で幹細胞を培養することにより、細胞生存率の向上を確認することができる。
【0014】
また、本発明の賦活化剤の全体に対するケルセチン配糖体またはその誘導体の含有量は、0.5μM以上100μM以下が好ましい。これは、0.5μM未満の場合は、上述の細胞生存率を向上させる効果が低下する場合があり、100μMよりも大きい場合は、細胞生存率は高いものの、その濃度依存的な上昇に頭打ちが現れ始め、効率的に幹細胞の賦活を行うことが困難になる場合があるためである。
【0015】
なお、細胞生存率をより一層向上させるとの観点から、ケルセチン配糖体またはその誘導体の含有量は、25μM以上100μM以下であることが好ましい。
【0016】
(ケルセチン配糖体またはその誘導体)
本発明の賦活化剤におけるケルセチン配糖体としては、例えば、ルチン、ケルシトリン、ヒペロシド等が挙げられる。また、ケルセチン配糖体の誘導体としては、α―グルコシルルチン、トロキセルチン、ルチニル二硫酸2ナトリウム等が挙げられる。
【0017】
なお、ケルセチン配糖体またはその誘導体の中でも、特に水(下記実施例においては、水を多量に含む培地)への溶解性に優れているとの観点から、α―グルコシルルチンを使用することが好ましい。
【0018】
(幹細胞)
本発明の賦活化剤が適用される幹細胞としては、上述のiPS細胞やES細胞等が挙げられる。なお、これらの幹細胞は、公知の方法により作製したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。また、これらの幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、及び凍結細胞のいずれの細胞であってもよい。
【0019】
(培養)
培養に用いる器具や装置は、幹細胞やその他細胞の培養が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ディッシュ(培養皿)、培養フラスコ、マルチウェルプレート、マイクロチューブ、遠心管類、メスピペット、マイクロピペット、コールターカウンター、細胞凍結アンプル、炭酸ガスインキュベーター、安全キャビネット、位相差顕微鏡、オートクレーブ、冷却遠心機、液体窒素凍結細胞保存容器等を使用することができる。
【0020】
(溶媒)
また、本発明の賦活化剤において使用される溶媒は特に限定されず、例えば、精製水(蒸留水、イオン交換水、滅菌水など)、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline;リン酸緩衝食塩水)、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、PEG-8(カプリル/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、イソドデカン、流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン等を使用することができる。
【0021】
従って、例えば、上述のケルセチン配糖体またはその誘導体を精製水等の溶媒に溶解したものを、本発明の賦活化剤として使用することができる。
【0022】
(賦活化剤の形態)
本発明の賦活化剤は、液状、乳液状、ミルク状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、水-油二層状、泡状(使用時形状)、霧状(使用時形状)等の形態とすることができ、エアゾール形態とすることもできる。
【0023】
(その他の成分)
本発明の賦活化剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を配合することができる。例えば、pH調整成分(例えば、クエン酸、乳酸、リン酸等)、油性成分(例えば、スフィンゴ脂質、セラミド類、コレステロール誘導体、フィトステロール誘導体、リン脂質、ラノリン、ラノリン脂肪酸誘導体、パーフルオロポリエーテル等)、植物油(例えば、オリーブ油、シア脂、マカデミアナッツ油等)、ロウ類(例えば、ホホバ種子油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ等)、炭化水素(例えば、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、ワセリン、イソヘキサデカン等)、高級脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、分岐脂肪酸(C(炭素数)14~28)、ヒドロキシステアリン酸等)、アルコール類(例えば、セテアリルアルコール、セタノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、水添ナタネ油アルコール、コレステロール、シトステロール、ジグリセリン、1,2-ヘキサンジオール等)、糖及びその誘導体類(例えば、ブドウ糖、ショ糖、D-ソルビトール、マルトース、トレハロース、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド、グリセリルグルコシド等)、エステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、オレイン酸オクチルドデシル、トリイソステアリン酸グリセリル、コハク酸ジエトキシエチル、乳酸セチル、ラノリン脂肪酸オクチルドデシル等)、シリコーン類(例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、環状ジメチルシリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ジメチコノール、PCAジメチコン等)、アミノ酸及びその誘導体類(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、セリン、メチオニン、トリメチルグリシン、ポリアスパラギン酸ナトリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、N-ラウロイル-L-リジン等)、ポリペプチド及びタンパク類(例えば、加水分解シルク、加水分解コムギ、加水分解ダイズ、加水分解コラーゲン、加水分解ケラチン、シリル化加水分解シルク、シリル化加水分解コムギ、カチオン化加水分解シルク、カチオン化加水分解コラーゲン、ケラチン等)、天然高分子類(例えば、アルギン酸塩、マンナン、アラビアゴム、タマリンドガム、キトサン、カラギーナン、ムチン、セラック、ヒアルロン酸塩、カチオン化ヒアルロン酸、キサンタンガム、デキストリン、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロース、グァーガム、カチオン化グァーガム、ハチミツ等)、合成高分子(例えば、アニオン性高分子、カチオン性高分子、非イオン性高分子、両性高分子、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル等)、アニオン性界面活性剤(例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルグルタミン酸、N-アシルメチルタウリン塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、リン酸ジセチル等)、カチオン性界面活性剤(例えば、アルキルアミン塩、脂肪酸アミドアミン塩等)、両性界面活性剤(例えば、グリシン型両性界面活性剤、アミノプロピオン酸型両性界面活性剤、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグルコシド、親油型モノステアリン酸グリセリル等)、染料(例えば、タール色素、天然色素等)、植物エキス類(例えば、カミツレエキス、コンフリーエキス、セージエキス、ローズマリーエキス、カキタンニン、チャ乾留液、銅クロロフィリンナトリウム等)、ビタミン類(例えば、L-アスコルビン酸、DL-α-トコフェロール、D-パンテノール、天然ビタミンE等)、紫外線吸収剤(例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、フェルラ酸等)、防腐剤(例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラベン、フェノキシエタノール等)、酸化防止剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン等)、金属封鎖剤(例えば、エデト酸塩、ポリリン酸ナトリウム、ヒドロキシエタンジホスホン酸、フィチン酸等)、その他無機化合物(例えば、酸化チタン、銀、白金、塩化鉄、酸化鉄等)、その他有機化合物(例えば、尿素、ヒドロキシエチル尿素、dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム、グルコン酸銅等)、溶剤(例えば、ベンジルアルコール等)、噴射剤(例えば、LPG(液化石油ガス)、DME(ジメチルエーテル)、窒素ガス、炭酸ガス等)、香料等の公知の化粧品各成分を配合することができる。
【0024】
(化粧料)
また、本発明の賦活化剤は、化粧品に配合して使用することができ、化粧品としては、例えば、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、頭皮ローション、頭皮ミスト、育毛剤、ボディソープ、化粧水、乳液、美容液、保湿クリーム、ハンドクリーム、ボディクリーム、ボディローション、ボディミスト、ヘアスタイリング剤、ヘアカラー剤、ヘアカーリング料、ヘアストレート料、日焼け止めクリーム、パック、マスク、口紅、リップスティック、リップクリーム、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、マッサージクリーム、浴用剤等が挙げられる。
【実施例0025】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0026】
<賦活化剤の調製>
α-グルコシルルチン(東洋精糖株式會社製、商品名:αGルチンPS-C)を、溶媒である水(精製水)に、50μM、0.5mM、1.25mM、2.5mM、5mM、及び10mMの各濃度で溶解し、α-グルコシルルチンを含有する賦活化剤を調製した。
【0027】
なお、α-グルコシルルチンを含有する賦活化剤は、必要に応じ、孔径が0.2μmのフィルターを用いて、濾過滅菌した後に用いた。
【0028】
<iPS細胞の作製>
ヒト皮膚由来線維芽細胞であるNB1RGBを、RNAリプログラミング法により初期化して、iPS細胞を作製した。なお、RNAリプログラミングには、Stemgent(登録商標) StemRNA-NM Reprogramming Kit(Stemgent社製)を用いた。
【0029】
なお、作製したiPS細胞は、幹細胞のマーカーであるNANOG、OCT4、SSEA4、KLF4の発現、三胚葉への分化、及び神経幹細胞への分化が確認できており、RNAシークエンスによるmRNAの網羅的発現解析も実施した細胞である(M. Shimada, K. Tsukada, N. Kagawa, Y, Matsumoto, Reprogramming and differentiation-dependent transcriptional alteration of DNA damage response and apoptosis genes in human induced pluripotent stem cells, Journal of Radiation Research, Vol. 60, No. 6, 2019 を参照)。
【0030】
<iPS細胞、線維芽細胞、及び表皮角化細胞の増殖(生存率%)に対するα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤の効果の評価>
次に、上述の方法により作製したiPS細胞、NB1RGB細胞(真皮にある線維芽細胞)、及び表皮角化細胞を用いて、作製したα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤が、これらの各細胞の増殖に及ぼす効果について検討した。
【0031】
なお、表皮角化細胞としては、iPS細胞から分化誘導させた表皮角化細胞のほかに、培養表皮角化細胞であるHEKn(Human Epidermal Keratinocytes, neonatal;初代培養表皮角化細胞、Thermo Fisher Scientific社製)、及びHaCaT(不死化表皮角化細胞、コスモ・バイオ株式会社製)を用いた。
【0032】
iPS細胞は、Nutristem(Nutristem XF/FF Culture Medium、Reprocell社製)を用いてディッシュで培養した。継代は、DPBSでの洗浄、TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific社製)処理後、Nutristemで細胞を剥離・懸濁して遠心し、遠心分離後に上澄みを取り除き、NutristemにROCK inhibitor(Rho associated protein kinase inhibitor)であるY27632(WAKO社製)を添加した培地で沈殿した細胞を懸濁・希釈して、さらにiMatrix-511 silkを添加した後、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)で培養した。そして、継代後、24時間後にY27632を含まないNutristemに培地交換し、その後、24時間に1回の頻度で培地交換を行い、60%コンフルエント程度で継代した。
【0033】
また、NB1RGBは、DMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle Medium、Thermo Fisher Scientific社製)を用いてディッシュで培養した。継代は、DPBSでの洗浄、Trypsin/EDTA(Thermo Fisher Scientific社製)処理後、DMEMで細胞を剥離・懸濁して遠心し、遠心分離後に上澄みを取り除き、DMEMで沈殿した細胞を懸濁・希釈して、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)で培養した。その後、1週間に2回の頻度で培地交換を行い、80%コンフルエント程度で継代した。
【0034】
また、HEKnは、EpiLife(Thermo Fisher Scientific社製)にHKGS(Human Keratinocyte Growth Supplement、Thermo Fisher Scientific社製)および塩化カルシウムを添加した培地を用いてディッシュで培養した。継代は、DPBSでの洗浄、TrypLE Select処理後、Defined Trypsin Inhibitor & Trypsin Neutralizer(Invitrogen社製)で細胞を剥離・懸濁して遠心し、遠心分離後上澄みを取り除き、EpiLifeにHKGSおよび塩化カルシウムを添加した培地で沈殿した細胞を懸濁・希釈して、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)で培養した。その後、2~3日おきに培地交換を行い、80%コンフルエント程度で継代した。
【0035】
また、HaCaTは、DMEMを用いてディッシュで培養した。継代は、DPBSでの洗浄、Trypsin/EDTA処理後、DMEMで細胞を剥離・懸濁して遠心し、遠心分離後上澄みを取り除き、DMEMで沈殿した細胞を懸濁・希釈して、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)で培養した。その後、1週間に2回の頻度で培地交換を行い、80%コンフルエント程度で継代した。
【0036】
なお、iPS細胞から表皮角化細胞ケラチノサイトへの分化誘導は、以下の方法により行った。まず、iPS細胞を継代と同様の方法で、NutristemにY27632とiMatrix-511 silkを添加した培地を用いてディッシュで24時間培養した。次に、DKSFM(Defined keratinocyte serum-free medium、Thermo Fisher Scientific社製)にRA(Retinoic acid、Sigma社製)とBMP4(bone morphogenetic protein 4、R&D systems社製)を添加した培地に交換した。さらに、4日目にDKSFMにEGF(Epidermal Growth Factor、R&D systems社製)を添加した培地に交換し、14日目まで培養した。1回目の継代は、DPBSでの洗浄、TrypLE Select処理後、DKSFMで細胞を剥離・懸濁して遠心し、遠心分離後上澄みを取り除き、DKSFMで沈澱した細胞を懸濁・希釈して、ディッシュに播種した。なお、ディッシュは、予めType I collagen(Advanced BioMatrix社製)とFibronectin(Sigma社製)でコートしたものを用いた。そして、1~2時間培養後、DKSFMにY27632とEGFを添加した培地に交換した。なお、2回目の継代は24日目に、3回目の継代は34日目に、1回目の継代と同様に行い、培養は全て、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)の条件で行った。
【0037】
次に、各細胞の生存率をWST-8アッセイにより評価した。WST-8アッセイは、細胞内のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の電子伝達に関連した代謝活性を測定し、細胞の生存率を算出する方法である。
【0038】
より具体的には、まず、各細胞を上述の継代と同様の方法で96ウエルプレートに播種して培養した後、上述の各濃度のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤を培地に添加した。なお、作製した各濃度のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤と培地とを、賦活化剤:培地=1:99の割合で混合し、作製した各濃度のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤を培地で100倍に希釈して使用した。従って、例えば、5mMのα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤は培地により100倍に希釈され、培地中において、50μMのα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤として使用した。
【0039】
そして、賦活化剤を添加した培地中で、各細胞の培養を上述の方法で継続した後、WST-8試薬(和光純薬工業社製)をプレートの各ウエルに添加し、5%のCO存在下、湿潤状態(37℃)で2時間静置した。その後、プレートリーダー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製、商品名:iMark マイクロプレートリーダー)で各ウエルにおける450nmの吸光度を測定し、それぞれ賦活化剤を添加しなかった(すなわち、α-グルコシルルチンを添加しなかった)ウエルの吸光度を比較対照(すなわち、生存率を100%)として、細胞の生存率を算出した。
【0040】
50μM、0.5mM、1.25mM、2.5mM、5mM、及び10mMの各濃度(すなわち、100倍希釈後の濃度が0.5μM、5μM、12.5μM、25μM、50μM、及び100μM)のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤を使用した場合のiPS細胞の増殖(生存率%)に関する結果を表1に示すとともに、0.5mM、2.5mM、及び5mMの各濃度(すなわち、100倍希釈後の濃度が5μM、25μM、及び50μM)のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤を使用した場合のiPS細胞、線維芽細胞、及び表皮角化細胞の増殖(生存率%)に関する結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1に示すように、α-グルコシルルチンの含有量が0.5μM以上100μM以下の場合は、賦活化剤を添加しなかった比較対象に比し、iPS細胞が増殖しており、iPS細胞の生存率が向上することが分かる。
【0044】
また、表2に示すように、iPS細胞、線維芽細胞、及び表皮角化細胞に対して同濃度のα-グルコシルルチンを添加した場合、iPS細胞の生存率が最も向上しており、本発明のα-グルコシルルチンを含有する賦活化剤は、特に、iPS細胞を増殖させる効果を有することが分かる。
【0045】
<RT-PCRによる遺伝子発現レベルの測定>
賦活化剤を添加した培地(α-グルコシルルチン濃度:50μM)中で、iPS細胞を4時間、8時間、及び24時間、培養した後、DPBSで2回洗浄し、FastGene RNA Basic kit(日本ジェネティックス社製)を用いて全RNAを抽出した。そして、全RNAをPrimeScript High Fidelity RT-PCR KitとTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice TP 650(タカラバイオ社製)を用いてRT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を実施し、FOSL1遺伝子、及びJUN遺伝子の遺伝子発現を確認した。
【0046】
なお、FOSL1遺伝子、JUN遺伝子は共に、転写因子AP-1(Activator Protein 1)を構成するサブユニットタンパク質をコードする遺伝子であり、AP-1はサイトカインや成長因子などの様々な刺激に応答して、細胞の分化や増殖、アポトーシスなどにかかわる遺伝子の発現を制御している(J. Hess, P. Angel, M. Schorpp-Kistner, AP-1 subunits: quarrel and harmony among siblings, J. Cell. Sci. 117 (2004)を参照)。
【0047】
アニーリングは65℃で5分間行い、cDNAへの逆転写は42℃で30分間行った。その後、95℃で5分間、処理し酵素反応を止めた。RT-PCRは以下に示したプライマーを用いて、98℃で30秒間、60℃で30秒間、及び72℃で1分間を30サイクル行った。
【0048】
また、RT-PCRの内部標準として、GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase:グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の遺伝子発現も併せて確認した。以上の結果を図1に示す。
【0049】
RT-PCRに用いたプライマーの配列
FOSL1 forward:5‘-AACCGGAGGAAGGAACTGAC-3’(配列番号1)
FOSL1 reverse 5‘-CTGCAGCCCAGATTTCTCAT-3’(配列番号2)
JUN forward 5‘-CCCCAAGATCCTGAAACAGA-3’(配列番号3)
JUN reverse 5‘-CCGTTGCTGGACTGGATTAT-3’(配列番号4)
GAPDH forward 5‘-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3’(配列番号5)
GAPDH reverse 5‘-GGCATGGACTGTGGTCATGAG-3’(配列番号6)
【0050】
図1に示すように、iPS細胞をα-グルコシルルチン(濃度:50μM)で処理した場合、4時間の処理でFOSL1遺伝子とJUN遺伝子の発現増加が観察された。従って、iPS細胞をα-グルコシルルチン(濃度:50μM)で処理することにより、これらの遺伝子発現の増加に起因して、転写因子(AP-1)の形成が促進され、結果として、細胞周期が亢進されるとともに、細胞増殖が促進されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の活用例としては、iPS細胞等の幹細胞を活性化させる幹細胞の賦活化剤が挙げられる。
図1
【配列表】
2022087596000001.app