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特開2022-87646角層水分量が低下した脂性肌に対する肌荒れ改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087646
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】角層水分量が低下した脂性肌に対する肌荒れ改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220606BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20220606BHJP
   A61K 36/716 20060101ALI20220606BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20220606BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220606BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61P17/16
A61K36/716
A61K36/752
A61P43/00 121
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199702
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】木村 彩映子
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 美登里
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 浩子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C088AB32
4C088AB62
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088CA03
4C088CA08
4C088MA07
4C088MA17
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】角層水分量が低下している脂性肌に対する肌荒れを改善することができる成分を提供する。
【解決手段】サキシマボタンヅル抽出物及び/又はコブミカン葉抽出物をを有効成分として含む、オレイン酸に起因する表皮角化亢進抑制剤、並びに、サキシマボタンヅル抽出物及び/又はコブミカン葉抽出物を有効成分として含む、皮膚表面は皮脂過剰であり角層水分量は低下した部位の肌荒れ改善剤を提供する。
【効果】外部からの保湿成分の供給に頼ることなく、角層水分量が低下している脂性肌に特有の現象に作用することで、当該肌質における肌荒れの改善が可能となる。さらに、上記の成分は正常状態である皮膚の角化には影響を及ぼさないものであり、顔の部位により異なる肌質が混在している場合でも、当該肌質の肌荒れ部位に対してのみ効果を発揮することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サキシマボタンヅル(Clematis chinensis Osbeck)抽出物及び/又はコブミカン(Citrus hystrix DC.)葉抽出物を有効成分として含む、オレイン酸に起因する表皮角化亢進抑制剤。
【請求項2】
サキシマボタンヅル(Clematis chinensis Osbeck)抽出物及び/又はコブミカン(Citrus hystrix DC.)葉抽出物を有効成分として含む、皮膚表面は皮脂過剰であり角層水分量は低下した部位の肌荒れ改善剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面の皮脂量は極めて多く、角層水分量は低下している肌状態に対する肌荒れ改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肌質により肌悩みは様々であるが、皮膚表面の皮脂分泌量が多い脂性肌では、テカりやギラつきといった見た目の問題や、ニキビや毛穴の開きといったトラブルを抱えやすい。従来、脂性肌への対処としては、皮脂分泌を抑制する成分を配合した化粧料の使用や、吸脂性の紙を用いた皮脂の除去が提案されてきた(特許文献1)。
【0003】
脂性肌の中には、角層水分量が多く潤っている肌と、角層水分量が少なく乾燥している肌が存在する(非特許文献1)。後者では、テカりやニキビといった脂性肌に共通する肌悩みに加えて、表皮バリア機能が低下することによる、かゆみや肌荒れといった敏感肌のような症状が出る。また、顔全体が、角層水分量が低下した脂性肌となっている場合もあれば、顔の一部が当該肌質になっている場合もある。
【0004】
一方、皮脂成分の1つであるオレイン酸には表皮細胞の角化亢進作用があり、表皮バリア機能を低下させること、またリノール酸によって表皮細胞内へのオレイン酸の取り込みが阻害されることが報告されている(非特許文献2、3)。しかしながら、実際の皮膚において皮脂中のリノール酸含有率が低下することにより、オレイン酸が表皮に及ぼす作用が強まり、肌荒れが生じることは全く知れられていない。
【0005】
角層水分量が多い脂性肌に対しては、皮脂分泌抑制や皮脂除去といった脂性肌向けの一般的な対処方法は有効であるが、角層水分量が少ない脂性肌に対しては、上記の対処方法ではさらなる乾燥と、乾燥による皮脂分泌を招き、逆効果となる。
そのため、角層水分量が少ない脂性肌に対しては、保湿効果の高い化粧料の使用により、乾燥の防止と、過剰な皮脂分泌の改善が試みられてきた。
しかしながらこれらの対処方法では、保湿のしすぎによるテカりや油分過剰によりニキビを促進してしまう場合があり、皮膚に与える油水分量のコントロールが困難であった。
【0006】
サキシマボタンヅルについては、サキシマボタンヅルと同属のコボタンヅルのリパーゼ活性抑制効果(特許文献2)や、プロテアーゼ活性(特許文献3)が知られている。また、コブミカンについては、ミカン(Citrus)属に属する植物の角層剥離およびデスモソーム分解促進効果(特許文献4)や、フィラグリン蛋白産生促進効果(特許文献5)が知られている。
【0007】
しかしながら、リパーゼ活性抑制効果により、遊離脂肪酸総量を減らすことは可能であるが、オレイン酸など特定の脂肪酸の含有率を低下させる効果は期待できない。また、プロテアーゼ活性やデスモソーム分解により角層剥離を促進する効果は、オレイン酸による角化亢進を抑制できるものではない。また、フィラグリン蛋白の産生促進効果により、一時的に角層水分量を増加することは可能であるが、オレイン酸による角化亢進を抑制しない限り、持続的な効果は見込めない。
そのため、いずれの抽出物も、角層水分量が低下している脂性肌に対する肌荒れに効果を発揮することは全く想像できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010-505800号公報
【特許文献2】特開2003-119151号公報
【特許文献3】特開2003-226613号公報
【特許文献4】特開2004-010480号公報
【特許文献5】特開2001-261568号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本化粧品技術者会誌 第19巻第1号,9-19,1985
【非特許文献2】Archives of Dermatological Research,291,405-412,1999
【非特許文献3】Journal of Investigative Dermatology,124(5),1008-1013,2005
【発明の概要】
【0010】
本願発明者らは、後述するとおり、角層水分量が少ない脂性肌では、何らかの原因で皮脂中のリノール酸含有率が低下し、オレイン酸による角化亢進作用が増強されることで肌荒れが起こることを突きとめた。本知見によれば、角層水分量が低下した脂性肌のように、皮脂中のリノール酸含有率が低下した皮膚においては、オレイン酸による皮膚への角化亢進を抑制することにより肌荒れの改善が期待できるとの確信に至った。本願発明は、上記知見に基づくものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、角層水分量が低下している脂性肌に対する肌荒れを改善することができ、且つ外部からの保湿成分の供給によってではなく、当該肌質特有の原因に作用して改善する成分の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
サキシマボタンヅル抽出物及び/又はコブミカン葉抽出物を用い、角層水分量が低下した脂性肌における肌荒れの原因となる、オレイン酸に起因する角化亢進を抑制することで上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部からの保湿成分の供給に頼ることなく、角層水分量が低下している脂性肌に特有の現象に作用することで、当該肌質における肌荒れの改善が可能となる。さらに、いずれの抽出物も正常状態である皮膚の角化には影響を及ぼさないものであり、顔の部位により異なる肌質が混在している場合でも、当該肌質の肌荒れ部位に対してのみ効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】肌測定結果を用いたクラスター分析により得られた樹形図
図2】正常肌及び2種類の脂性肌における皮脂量、角層水分量、経表皮水分蒸散量の比較
図3】皮脂中に占めるリノール酸及びオレイン酸量を肌質ごとに比較した図
図4】脂肪酸組成の異なる試料が角層水分量、経表皮水分蒸散量に及ぼす影響を示す図
図5】脂肪酸組成の異なる試料が角層細胞面積に及ぼす影響を示す図
図6】各種植物抽出物添加による、オレイン酸添加表皮細胞の角化亢進の抑制度を示す図
図7】各種植物抽出物添加による、オレイン酸未添加表皮細胞の角化への影響を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いるサキシマボタンヅル抽出物は、サキシマボタンヅル(Clematis chinensis Osbeck)を抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。また、抽出原料として使用する部位は特に限定されず、葉、茎、根、種子等或いは、全草であり、いずれの部位も生のまま或いは乾燥したものを用いることができる。これらのうち特に根を抽出原料として用いることが好ましい。
【0016】
本発明で用いるコブミカン葉抽出物には、コブミカン(Citrus hystrix DC.)を抽出原料として得られる抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。また、抽出原料として使用する部位は葉であり、葉は生のまま或いは乾燥したものを用いることができる。
【0017】
本発明で用いるサキシマボタンヅル抽出物、及びコブミカン葉抽出物の抽出溶媒は特に限定されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の低級アルコール或いは、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、等の多価アルコール等があげられるが、特に水、エタノール及び1,3-ブチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上を選択することが好ましい。
【0018】
本願発明で用いるサキシマボタンヅル抽出物、及びコブミカン葉抽出物の抽出方法は、特に限定されない。例えば、乾燥植物1質量部に対して1~100質量部の抽出溶媒を用い、加熱抽出したものでも、あるいは低温または常温抽出したものでもよい。抽出後は、ろ過を行い、そのままの状態でも利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色などの精製処理を行うことも出来る。更には、凍結乾燥等をして粉末の状態で用いることも出来る。
【0019】
サキシマボタンヅル抽出物及びコブミカン葉抽出物の各剤の組成物全体に対する配合量は、有効であれば特に限定されないが、単独で配合する場合、併用して配合する場合においても、乾燥質量に換算して0.001~10質量%が好ましく、更に0.001~0.1質量%が好ましい。
【0020】
本発明の肌荒れ改善剤には、上記必須成分のほか、化粧品、医薬部外品、医薬品に用いられる水性成分、油性成分、植物性抽出物、動物抽出物、粉未、界面活性剤、油剤、アルコール、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、香料等を必要に応じて本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合することが出来る。本発明の皮膚外用剤の剤型としては、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー・軟膏、分散液、洗浄料等種々の剤型とすることができる。
【実施例0021】
以下、本願発明の実施例について具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例により限定されるものでは無い。
【0022】
〔実験1:クラスター分析によるパネラーの肌質分類〕
はじめに、パネラーの肌質を分類するため肌測定を行った。20~40代女性15名を対象に、顔面を洗顔料で洗浄後、22±1℃、湿度50±2%の環境下で10分間順化した後、頬部の皮脂量、角層水分量、経表皮水分蒸散量を測定した。なお、皮脂量の測定にはSebumater SM815(Courage+Khazaka社)、角層水分量の測定にはCorneometer CM825(Courage+Khazaka社)、経表皮水分蒸散量の測定にはVapometer(Delfin社)を用いた。特に言及しない限り他の実験でも同じ機械を使用した。
【0023】
上記3種の測定結果をパラメーターとしてウォード法によるクラスター分析を行い、図1に示す樹形図を得た。図に示す点線部分にてパネラーの肌質を4群に分け、皮脂量、角層水分量、経表皮水分蒸散量(図中ではTEWLと表記)の傾向から、図の上から順に角層水分量が多い脂性肌(図中では水分量+と表記)、正常肌、乾性肌、角層水分量が低下した脂性肌(図中では水分量-と表記)に分類した。
【0024】
図2は、クラスター分析により分類した正常肌および2種の脂性肌の皮脂量、角層水分量、経表皮水分蒸散量を比較した結果である。2種の脂性肌はいずれも、正常肌より皮脂量が多くなっていた。また、角層水分量が低下している脂性肌は、角層水分量が多い脂性肌よりも角層水分量が低く、経表皮水分蒸散量が高くなっており、肌質の特徴が反映されていたことから、クラスター分析の結果は妥当であったと判断した。以降の実験では、ここで得られた肌質分類を用いた。
【0025】
〔実験2:角層水分量が少ない脂性肌に特徴的な皮脂組成の確認〕
次に、以下の手順で、皮脂中の脂肪酸量を分析した。
被験者の頬内側に脂取りフィルム(9cm×5.5cm)を押し当て、皮脂の採取を行った。皮脂が付着したテープを、ジエチルエーテルが入ったチューブに混合し、皮脂を溶出したのち、40℃でジエチルエーテルを乾固することで皮脂を得た。採取した皮脂1mgあたり100μlのクロロホルムを加え、70℃で溶媒を乾固させたものを皮脂サンプルとし、脂肪酸分析に用いた。皮脂サンプルおよび脂肪酸標品は、脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク製)にてメチル化を行ったのち、ガスクロマトグラフィー分析法(カラム:3.2mmφ×1.1m パックドカラム、充填剤:DEGS、15%クロモソルブW、カラム温度:175℃)により皮脂に含まれる各脂肪酸量を検出した。
【0026】
図3は、正常肌、角層水分量が多い脂性肌、角層水分量が少ない脂性肌における、皮脂中におけるリノール酸およびオレイン酸の含有率を示したものである。今回の検討により、各肌質によってオレイン酸含有率の差はほとんどないが、角層水分量が低下している脂性肌では、総皮脂量に対するリノール酸の含有率が大幅に低下していることが分かった。
本結果より、角層水分量が少ない脂性肌における肌荒れは、皮脂中のリノール酸含有率が低下することにより、オレイン酸の角化亢進作用が顕著になっていることが原因であると予想された。
【0027】
〔実験3:皮脂中のリノール酸含有率の変化が皮膚状態へ与える影響の検証〕
実際に、皮脂中のリノール酸含有率が低下すると、角層水分量が少ない脂性肌と同様の特徴を示すのか、及び、オレイン酸による角化亢進作用が増強されるのかを検証するため、皮膚への脂肪酸塗布試験を行った。
表1に各試料の組成を示す。95v/v%エタノールを溶媒とし、オレイン酸を10v/v%、及びリノール酸をそれぞれ0.3、0.06、0v/v%の割合で混合した。
【0028】
【表1】
【0029】
30~40代男性7名を対象に、前腕内側を試験部位とし、各試料を2週間塗布した。試験開始日および試験開始2週間後に、経表皮水分蒸散量、角層水分量の測定および角層細胞面積測定用の角層採取を行った。
【0030】
〔角層細胞面積の計測方法〕
角層チェッカー(プラスチックプレートタイプ プロモツール社製)を用いて、試験部位の角層細胞を採取した。角層チェッカーをエタノールに2分間浸漬後、水気をとり、ヘマトキシリン-エオシン染色を行った。蛍光顕微鏡(BZ-X700、KEYENCE、400倍)にて上記処理後の角層画像を取得し、プリントアウトした画像上の細胞の輪郭をなぞり、スキャナー(Docucenter-V C4476,富士ゼロックス)で取り込んだ。画像解析ソフト上で細胞の輪郭を抽出後、輪郭内の面積を計測した。
【0031】
図4は、それぞれの試料を塗布した部位での、2週間の角層水分量、経表皮水分蒸散量変化を比較したものである。試料1~3を塗布した群間では、試料中のリノール酸含有率が低下するにしたがい、角層水分量の低下、経表皮水分蒸散量の上昇が見られ、角層水分量が少ない脂性肌の特徴と一致していた。したがって、当該肌質における角層内の乾燥は、皮脂中のリノール酸含有率の低下が原因であることが分かった。
また、図5に示すように試料1~3を塗布した群間での2週間の角層細胞面積変化を比較すると、試料中のリノール酸含有率が低下するにしたがい、角層細胞面積の縮小が顕著になっていた。なお、角化が亢進すると表皮細胞が十分に扁平化できないことが知られており、角層細胞面積の縮小は角化亢進を示すと考えられる。したがって、皮脂中のリノール酸含有率が低下すると、オレイン酸による角化亢進作用が増強されることが分かった。
【0032】
これまで角層水分量が少ない脂性肌で肌荒れが生じる原因は明確でなかったが、上記の知見を踏まえると、当該肌質では皮脂中のリノール酸含有率が低下することで、オレイン酸が皮膚に及ぼす影響を抑制しきれず、角化亢進作用が顕著になり肌荒れが生じると言える。
したがって当該肌質のように、皮脂中のリノール酸含有率が低下することで、オレイン酸の悪影響が強くなった皮膚に対しては、その悪影響を抑制することが肌荒れの改善に繋がると期待されたため、オレイン酸による角化亢進を抑制する有効成分をスクリーニングした。
【0033】
<実施例1>オレイン酸添加表皮細胞の角化亢進度を指標としたスクリーニング
以下の手順で、オレイン酸を添加した表皮細胞の角化亢進度を指標とした、角層水分量が低下している脂性肌に対する肌荒れ改善剤のスクリーニングを行った。なお、角化亢進度は、表皮細胞の角化に伴い発現量が増加するタンパク質であるトランスグルタミナーゼ1(TGM1)をコードする遺伝子の発現量変化を指標とした。
〔被験物質の調製〕
乾燥したサキシマボタンヅル(Clematis chinensis Osbeck)の根20gに精製水を500mL加え、80℃にて8時間抽出して得られた成分を、1.5w/v%となるように50v/v%1,3-ブチレングリコール溶液に溶かし、サキシマボタンヅル抽出物を得た。乾燥したコブミカン(Citrus hystrix DC.)の葉20gに80v/v%エタノールを200mL加え、80℃にて2時間抽出して得られた成分を、1.0w/v%となるように70v/v%1,3-ブチレングリコール溶液に溶かし、コブミカン葉抽出物を得た。
乾燥したウメ(Prunus mume)の果実、レモン(Citrus Limon Burmann fil.)の果実各20gにそれぞれ50v/v%エタノールを100mL加え、室温(約25℃)にて1週間抽出して得られた成分を、それぞれ1.5w/v%、1.0w/v%、となるように50v/v%1,3-ブチレングリコール溶液に溶かし、ウメ抽出物、レモン抽出物を得た。
【0034】
〔細胞の培養〕
正常ヒト表皮角化細胞(Passage2、Invitrogen)を4.0×10cells/mLの濃度で培地(Epilife、Invitrogen)に分散し、24well plate(True Line)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO下で1日間培養後、培地を除き、カルシウムイオン濃度が0.03mMのEpilife培地および0.25v/v%の被験物質を加えた。さらに1日間インキュベートした後、エタノールに溶解したオレイン酸(富士フィルム和光純薬)を20μMとなるように各ウェルに添加した。1日間培養後にRNA抽出キット(Total RNA Purification Kit、Jena Bioscience)を用いてRNAを抽出した。
【0035】
〔cDNA合成およびリアルタイムPCR〕
その後、PrimeScript RT Reagent Kit(TaKaRa)を用いて逆転写を行い、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、トランスグルタミナーゼ1(TGM1)およびGAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ;ハウスキーピング遺伝子として使用)の発現量を以下のプライマー及び酵素を用いて、リアルタイムPCR(7500 Real Time PCR System、アプライドバイオシステムズ)にて測定した。プライマーには、TGM1用センスプライマー(5’-TCCGAGAGGGCATGCTAGTAG-3’)、アンチセンスプライマー(5’-GCACTATCAGCTCGTCGTACTCA-3’)、GAPDH用センスプライマー(5’-CCACATCGC TCAGACACCAT-3’)、アンチセンスプライマー(5’-TGACCAGGC GCCCAATA-3’)を用いた。PCRの反応にはPower SYBR Green Master Mix(アプライドバイオシステムズ)を使用し、遺伝子発現の解析は比較Ct法にて行った。つまり、被験物質添加による遺伝子発現量の変化は、オレイン酸未添加のコントロール群のTGM1のCt値をGAPDHのCt値で補正した値を1とし、それに対する相対量として求めた。
【0036】
図6に示すように、オレイン酸の添加により増加した表皮細胞の角化関連遺伝子TGM1の発現量は、サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物を添加した群では減少しており、サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物はオレイン酸による表皮細胞の角化亢進作用を抑制できることが示された。一方、レモン抽出物、ウメ抽出物には保湿作用、皮膚バリア機能向上作用が報告されているが、オレイン酸の添加により増加したTGM1の発現量は減少せず、むしろ増加していた。そのため、保湿作用および皮膚バリア機能向上作用は、オレイン酸による角化亢進抑制作用とは連動しないものであると考えられた。
【0037】
<実施例2>オレイン酸未添加表皮細胞の細胞分化度への影響の検討
以下の手順で、<実施例1>にてオレイン酸による表皮細胞の角化亢進作用を抑制したサキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物が角化関連遺伝子TGM1の発現量へ及ぼす影響を確認した。
〔被験物質の調製〕
<実施例1>と同様に調製したサキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物を用いた。
〔被験物質における角化関連遺伝子TGM1発現量への影響の検討〕
正常ヒト表皮角化細胞(Passage2、Invitrogen)を4.0×10cells/mLの濃度で培地(Epilife、Invitrogen)に分散し、24well plate(True Line)に500μLずつ播種した。37℃、5%CO下で1日間培養後、培地を除き、カルシウム濃度が0.03mMのEpilife培地および0.25v/v%の被験物質を加えた。さらに2日間培養後にTotal RNAを抽出し、<実施例1>と同様の方法でTGM1の遺伝子発現量を測定した。
【0038】
図7に示すように、サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物は、オレイン酸未添加の表皮細胞の角化関連遺伝子TGM1の発現量にほとんど変化を与えないことが確認された。つまり、サキシマボタンヅル抽出物とコブミカン葉抽出物そのものは表皮細胞の角化を抑制する作用は保持しておらず、図6で確認された効果はオレイン酸による角化亢進に特異的な作用であったことが確認された。
【0039】
〔実験3〕にて、オレイン酸を皮膚に塗布すると、その角化亢進作用により、角層水分量の低下、経表皮水分蒸散量の上昇、角層細胞面積の縮小が起こり、角層水分量が低下している脂性肌と同様の特徴が現れることがわかった。
サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物は、オレイン酸による角化亢進を抑制する作用を有するため、皮膚に塗布することで、角層水分量が低下している脂性肌における角化亢進を抑制し、当該肌質における肌荒れを防ぐことが期待できる。
【0040】
本発明によると、サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物を用いることで、オレイン酸に起因する角化亢進を抑制し、皮膚表面が皮脂過剰であり角層水分量が低下した部位における肌荒れを改善することができる。
また、抽出物そのものに表皮細胞の角化を抑制する作用は無いため、正常状態である部位へは何ら影響を与えない。そのため、顔の部位により肌質が異なる場合でも、サキシマボタンヅル抽出物、コブミカン葉抽出物を配合した化粧料によるスキンケアを全顔に行うことで、皮膚表面が皮脂過剰であり角層水分量は低下している部位に特異的に作用し、肌荒れを改善することができる。





図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7