(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087684
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】合成ポリイソプレン共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 6/08 20060101AFI20220606BHJP
C08C 2/04 20060101ALI20220606BHJP
C08F 279/02 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C08F6/08
C08C2/04
C08F279/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199750
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】岩地 大輝
【テーマコード(参考)】
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J026AA69
4J026BA05
4J026DB08
4J026DB15
4J026EA01
4J026GA02
4J100GA19
(57)【要約】
【課題】加硫ゴムの機械強度を向上することができる合成ポリイソプレン共重合体を提供する。
【解決手段】実施形態に係る合成ポリイソプレン共重合体の製造方法では、合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーがグラフト共重合体された合成ポリイソプレン共重合体と当該グラフト共重合のための重合開始剤を含むラテックスを乾燥し、得られた固形物を前記合成ポリイソプレン共重合体は溶解しないが前記重合開始剤は溶解する溶媒に浸漬し、その後、前記溶媒から前記固形物を取り出す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーがグラフト共重合された合成ポリイソプレン共重合体と当該グラフト共重合のための重合開始剤を含むラテックスを乾燥すること、
得られた固形物を前記合成ポリイソプレン共重合体は溶解しないが前記重合開始剤は溶解する溶媒に浸漬すること、及び、
前記溶媒から前記固形物を取り出すこと、
を含む合成ポリイソプレン共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合開始剤がテトラエチレンペンタミンを含む、請求項1に記載の合成ポリイソプレン共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒がアセトン、メタノール、エタノール及び水からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の合成ポリイソプレン共重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法により合成ポリイソプレン共重合体を製造すること、
得られた合成ポリイソプレン共重合体と充填剤を乾式混合すること、及び、
得られた混合物を加硫すること、
を含む加硫ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ポリイソプレン共重合体の製造方法、および該方法を用いた加硫ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムを改質する技術として、ゴムラテックスにスチレン系モノマーやアクリル系モノマーなどのビニルモノマーをグラフト共重合させることが知られている。例えば、特許文献1には、天然ゴムラテックスにアルコシキシランを有するビニルモノマーを添加しグラフト共重合させることで、グラフト鎖により形成された連続相中に天然ゴム粒子が相分離した状態で分散したナノマトリックス構造を持つ天然ゴムグラフト共重合体を得ることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、脱タンパク質化天然ゴムラテックスにスチレン系ビニルモノマーを添加しグラフト共重合させることで、グラフト鎖によりナノマトリックス構造を形成したナノマトリックス分散天然ゴムを合成することが開示されている。
【0004】
一方、特許文献3には、合成ポリイソプレンゴムラテックスを用いて、これにビニルモノマーをグラフト共重合させることにより、ナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレン共重合体を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-170268号公報
【特許文献2】特開2008-214481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3には、ナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレン共重合体の未加硫フィルムについて機械強度が向上することが開示されている。しかしながら、該合成ポリイソプレン共重合体をゴム成分として用いて充填剤とともに混合し加硫ゴムを作製したところ、加硫ゴムでは機械強度が向上せず、むしろ低下する場合もあることがわかった。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、加硫ゴムの機械強度を向上することができる合成ポリイソプレン共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る合成ポリイソプレン共重合体の製造方法は、合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーがグラフト共重合された合成ポリイソプレン共重合体と当該グラフト共重合のための重合開始剤を含むラテックスを乾燥すること、得られた固形物を前記合成ポリイソプレン共重合体は溶解しないが前記重合開始剤は溶解する溶媒に浸漬すること、及び、前記溶媒から前記固形物を取り出すこと、を含むものである。
【0009】
本発明の実施形態に係る加硫ゴムの製造方法は、上記方法により合成ポリイソプレン共重合体を製造すること、得られた合成ポリイソプレン共重合体と充填剤を乾式混合すること、及び、得られた混合物を加硫すること、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、加硫ゴムの機械強度を向上することができる合成イソプレングラフト共重合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】合成例1で得られたゴム膜の透過型電子顕微鏡写真
【
図2】合成例1で得られたゴム膜の引張試験における歪み-応力曲線のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本発明者は、合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーをグラフト共重合して得られた合成ポリイソプレン共重合体が、加硫ゴムにしたときに機械強度が向上しないとの課題に鑑みて鋭意検討する中で、グラフト共重合に使用する重合開始剤が加硫阻害を引き起こし、これにより加硫ゴムの機械強度を低下させることを見出した。そこで、合成ポリイソプレン共重合体ラテックスから乾燥により合成ポリイソプレンゴムの固形物を取り出した後に、当該固形物から重合開始剤を溶媒で抽出することとし、これにより上記課題を解決するに至った。
【0014】
実施形態に係る合成ポリイソプレン共重合体の製造方法は、以下の工程を含む。
(A)合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーがグラフト共重合された合成ポリイソプレン共重合体と当該グラフト共重合のための重合開始剤を含むラテックスを乾燥する工程、
(B)得られた固形物を合成ポリイソプレン共重合体は溶解しないが重合開始剤は溶解する溶媒に浸漬する工程、及び、
(C)溶媒から固形物を取り出す工程。
【0015】
より詳細には、工程(A)~(C)に先立ち、(D)合成ポリイソプレンゴムラテックスにビニルモノマーを添加して重合開始剤の存在下でグラフト共重合させる工程を含んでもよい。すなわち、合成ポリイソプレン共重合体の製造方法は、工程(D)、工程(A)、工程(B)及び工程(C)をこの順で含んでもよい。
【0016】
また、一実施形態において、工程(D)に先立ち、(E)合成ポリイソプレンゴムラテックス(以下、単にIRラテックスということがある。)を50℃以上の加熱条件下で攪拌し、遠心分離することにより精製する工程を含んでもよい。すなわち、合成ポリイソプレン共重合体の製造方法は、工程(E)、工程(D)、工程(A)、工程(B)及び工程(C)をこの順で含んでもよい。
【0017】
[工程(E)]
工程(E)は、IRラテックスがロジン系界面活性剤を含む場合に、当該ロジン系界面活性剤をゴム粒子表面から除去するために行う工程であり、次の工程(D)のグラフト共重合を進行しやすくすることができる。工程(E)は任意工程であり、例えばIRラテックスがロジン系界面活性剤を含まない場合、実施しなくてもよい。
【0018】
出発原料とするIRラテックスとしては、シス-1,4-ポリイソプレンゴムを含むゴムラテックスを用いることができ、市販品を用いてもよい。市販のIRラテックスに乳化剤として含まれるロジン系界面活性剤としては、ロジン酸石鹸、不均化ロジン酸石鹸などが例示される。
【0019】
工程(E)において、IRラテックスを攪拌する際の加熱温度は50℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上70℃以下、又は、85℃以上100℃未満であり、更に好ましくは85℃以上95℃以下である。IRラテックスを攪拌する際の攪拌時間は、特に限定されず、例えば10~200分間でもよく、20~120分間でもよい。
【0020】
IRラテックスを攪拌する際のIRラテックスの濃度は、特に限定されず、例えば、ゴム濃度(DRC:Dry Rubber Content)で10~60質量%でもよく、20~50質量%でもよい。
【0021】
IRラテックスを攪拌する際には、ビニルモノマーとの共重合反応を阻害しない界面活性剤をIRラテックスに添加しておいてもよい。そのような界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤を用いることができる。アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩型、アルキルアミン誘導体型およびそれらの第4級化物、ならびにイミダゾリニウム塩型等が挙げられる。界面活性剤の添加量としては、IRラテックス中での濃度で0.01~3質量%でもよく、0.05~2質量%でもよい。
【0022】
このように加熱攪拌した後、遠心分離を行うことにより、合成ポリイソプレンゴムが含まれるクリーム分と漿液であるセラム分とに分離する。得られたクリーム分に水を加えて再分散させることにより、精製合成ポリイソプレンゴムラテックス(精製IRラテックス)が得られる。
【0023】
加熱攪拌と遠心分離は複数回繰り返して実施してもよい。すなわち、IRラテックスを加熱攪拌し、遠心分離した後、クリーム分を再分散させる際にクリーム分に水と界面活性剤を加えて上記加熱条件下で攪拌し、次いで遠心分離を行い、この操作を複数回繰り返すようにしてもよい。繰り返し回数は特に限定されず、例えば、加熱攪拌及び遠心分離を2~5回実施してもよい。
【0024】
精製IRラテックスの濃度は、特に限定されず、例えば、ゴム濃度(DRC)で10~60質量%でもよく、20~50質量%でもよい。また、精製IRラテックスには、ビニルモノマーとの共重合反応を阻害しない界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加量としては、精製IRラテックス中での濃度で0.01~3質量%でもよく、0.05~2質量%でもよい。
【0025】
[工程(D)]
工程(D)は、IRラテックスにビニルモノマーをグラフト共重合させる工程である。IRラテックスとしては、工程(E)で得られた精製IRラテックスを用いてもよく、工程(E)の精製を行っていないIRラテックスを用いてもよい。
【0026】
ビニルモノマーとしては、合成ポリイソプレンゴム粒子表面にグラフト可能なものであれば特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ペンチルスチレン等のアルキルスチレンなどのスチレン系モノマー; ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシランなどのビニルアルコキシシランモノマー; (メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸系モノマー; (メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド系モノマー; 酢酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー; アクリロニトリルなどのニトリル系ビニルモノマー; ビニルピロリドン等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味し、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド及びメタクリルアミドのうちの一方又は両方を意味する。
【0027】
ビニルモノマーの添加量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレンゴム100質量部に対して5~30質量部であることが好ましく、より好ましくは10~20質量部である。このような添加量とすることで、ビニルモノマーのグラフト量を確保して改質効果を高めるとともに、ホモポリマーの生成を抑制してグラフト効率を高めることができる。
【0028】
IRラテックスには、ビニルモノマーをグラフト共重合させるために重合開始剤が添加される。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸カリウムなどの過酸化物と、テトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸などの還元剤とを組み合わせてなるレドックス系開始剤を用いることが好ましく、より好ましくはtert-ブチルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシドとテトラエチレンペンタミンなどのアミンとの組合せである。重合開始剤の添加量は、特に限定されず、例えば、ビニルモノマー100モルに対して0.3~10モル%でもよい。
【0029】
IRラテックス、ビニルモノマー及び重合開始剤を反応容器に仕込み、25~80℃で1~10時間反応を行うことにより、合成ポリイソプレンゴム粒子表面にビニルモノマーをグラフト共重合してなる合成ポリイソプレン共重合体を含むラテックスが得られる。該ラテックスには、更に重合開始剤が含まれる。
【0030】
反応終了後に、未反応のビニルモノマーを減圧除去してもよい。その際にビニルモノマーとともに除去される重合開始剤があってもよいが、以下の工程では、この段階でも除去されない重合開始剤が含まれる合成ポリイソプレン共重合体のラテックスを処理対象とする。
【0031】
[工程(A)]
工程(A)では、合成ポリイソプレン共重合体と重合開始剤を含むラテックスを乾燥する。詳細には、上記ラテックスから水を気化させて乾燥することにより、合成ポリイソプレン共重合体の固形物が得られる。
【0032】
このようにラテックスを乾燥させて固形物を得ることにより、グラフト鎖により形成された連続相中に合成ポリイソプレンゴム粒子が相分離した状態で分散したナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレンゴム共重合体を有利に得ることができる。すなわち、例えば、メタノールを用いてラテックスを凝固させることで固形状の合成ポリイソプレン共重合体を回収することもできるが、そのようにして得られた合成ポリイソプレン共重合体では、上記ナノマトリックス構造を形成しにくいことが分かった。乾燥により水を気化させて固形物を得ることで、より有利にナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレン共重合体を得ることができる。
【0033】
乾燥方法としては、加熱乾燥でもよく、真空乾燥でもよい。加熱乾燥の場合、乾燥温度は、ラテックスから水を気化させることができれば、特に限定されず、例えば30~100℃でもよく、50~70℃でもよい。
【0034】
乾燥に際しては、次工程の工程(B)において溶媒に接触する面積を大きくして重合開始剤の抽出効率を向上するため、乾燥後の固形物の表面積が大きくなる形状に成形することが好ましい。そのため、例えばキャスト成形等により、合成ポリイソプレン共重合体のシートを上記固形物として成形することが好ましい。合成ポリイソプレン共重合体のシートの厚みは、特に限定されず、例えば、0.5~10mmでもよく、1~5mmでもよい。なお、ここでいうシートは、一般にフィルムと称される薄い膜を含む概念である。
【0035】
ラテックスを乾燥されることにより、気化ないし分解して除去される重合開始剤があってもよいが、乾燥工程では取り除かれない重合開始剤がある。そのため、得られた固形物には、合成ポリイソプレン共重合体とともに重合開始剤が含まれている。そのような固形物に含まれる重合開始剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミン、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0036】
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)で得られた固形物、即ち合成ポリイソプレン共重合体とともに重合開始剤が含まれる固形物を、溶媒に浸漬する。
【0037】
溶媒としては、合成ポリイソプレン共重合体は溶解しないが、重合開始剤は溶解する溶媒を用いる。これにより、固形物から重合開始剤が抽出される。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、水等が挙げられる。これらの溶媒はいずれか1種単独で又は2種以上併用してもよい。
【0038】
固形物を溶媒に浸漬する際の溶媒温度は、特に限定されず、例えば0~50℃でもよく、20~30℃でよい。浸漬時間も、特に限定されず、例えば12~240時間でもよく、72~120時間でもよい。浸漬方法も、特に限定されず、溶媒中に固形物を静置浸漬してもよく、攪拌や振盪等を加えながら浸漬してもよく、溶媒を入れた浴槽にシート状の固形物を連続的に入れ浴槽内を走行させて浸漬してもよい。
【0039】
[工程(C)]
工程(C)では、工程(B)で溶媒に浸漬した固形物を溶媒から取り出す。これにより、重合開始剤が抽出によって除去ないし低減された合成ポリイソプレン共重合体が得られる。そのため、重合開始剤による加硫阻害が抑制され、加硫ゴムの機械強度の低下を抑えることができる。
【0040】
工程(C)では、固形物を溶媒から取り出した後、通常は乾燥を行う。乾燥方法としては、加熱乾燥でもよく、真空乾燥でもよい。加熱乾燥の場合、乾燥温度は、特に限定されず、例えば30~100℃でもよく、50~70℃でもよい。
【0041】
なお、溶媒から取り出した固形物は、そのまま加硫ゴムを製造するためのゴム成分として用いてもよい。ゴム組成物の混練時における加熱により溶媒を気化して取り除くことができるためである。
【0042】
[合成ポリイソプレン共重合体]
上記製造方法により得られる合成ポリイソプレン共重合体は、合成ポリイソプレンゴム粒子の表面にビニルモノマーがグラフト共重合されたものであり、合成ポリイソプレングラフト共重合体とも称される。該合成ポリイソプレン共重合体は、グラフト鎖により形成された厚さ1~100nmの連続相中に合成ポリイソプレンゴム粒子が相分離した状態で分散したナノマトリックス構造を有する。
【0043】
該合成ポリイソプレン共重合体は、ナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレン共重合体のみからなるものでもよいが、上記ビニルモノマーからなるホモポリマーを含んでもよい。すなわち、グラフト共重合に際しては、グラフト共重合体だけでなく、ビニルモノマーからホモポリマーも通常生成されるので、そのようなホモポリマーを混在した状態で含む混合物でもよい。
【0044】
かかるナノマトリックス構造を有する合成ポリイソプレン共重合体において、合成ポリイソプレンゴム粒子の粒径は、原料のIRラテックスの粒径に依存し、特に限定するものではないが、平均粒径が0.01~20μmでもよく、0.04~3.0μmでもよい。ここで、平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から、無作為抽出された100個の粒子の直径を計測することにより、その相加平均として求められる。粒子の直径は、例えば、Media Cybernetics社の画像処理ソフト「Image-Pro Plus」を用いて、粒子の外周の2点を結び、かつ重心を通る径を、2度刻みに測定した値の平均値とすることができる。なお、原料であるIRラテックスを用いて合成ポリイソプレンゴム粒子の粒径を測定する場合、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定したD50の値を用いればよい。
【0045】
上記ナノマトリックス構造において、ビニルモノマーの重合体であるグラフト鎖は、厚さ1~100nmの連続相(即ち、マトリックス相)を形成している。連続相は、合成ポリイソプレンゴム粒子の粒子間に介在してこれらゴム粒子を相分離するものであり、ゴム粒子の間に層状に形成されている。連続相の厚さは、より好ましくは5~50nmである。ここで、連続相の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像から、無作為抽出された100組のゴム粒子間に形成されたグラフト鎖の厚さを計測することにより、その相加平均として求められる。
【0046】
合成ポリイソプレン共重合体において、ビニルモノマーからなるグラフト鎖の含有率は、特に限定されず、例えば3~30質量%でもよく、5~25質量%でもよく、8~20質量%でもよい。ここで、グラフト鎖の含有率は、合成ポリイソプレン共重合体全体の質量に対するグラフト鎖部分の質量の比率である。
【0047】
[加硫ゴムの製造方法]
一実施形態に係る加硫ゴムの製造方法は、上記のようにして合成ポリイソプレン共重合体を製造した後、(F)得られた合成ポリイソプレン共重合体と充填剤を乾式混合する工程と、(G)得られた混合物を加硫する工程と、を含む。
【0048】
[工程(F)]
工程(F)では、合成ポリイソプレン共重合体をゴム成分として用いて、これに充填剤等を乾式混合して未加硫ゴム組成物を調製する。
【0049】
ゴム成分は、合成ポリイソプレン共重合体のみでもよいが、合成ポリイソプレン共重合体とともに他のジエン系ゴムを併用してもよい。他のジエン系ゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0050】
充填剤としては、例えばカーボンブラック、シリカ等が挙げられる。充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して、1~150質量部でもよく、3~100質量部でもよく、10~50質量部でもよい。
【0051】
未加硫ゴム組成物には、上記成分の他に、例えば、亜鉛華、ステアリン酸、オイル、ワックス、老化防止剤、加硫剤(例えば硫黄)、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができ、充填剤とともに乾式混合してもよい。
【0052】
乾式混合には、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いることができ、常法に従い混練すればよい。例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ゴム成分に対し、充填剤とともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合する。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合することにより、未加硫ゴム組成物を調製することができる。
【0053】
[工程(G)]
工程(G)では、工程(F)により得られた混合物、即ち未加硫ゴム組成物を加硫することにより加硫ゴムを得る。
【0054】
加硫に際しては、未加硫ゴム組成物をその用途に応じた形状に成形して加熱する。例えば、該未加硫ゴム組成物を空気入りタイヤなどのタイヤの一部に用いる場合、当該一部に未加硫ゴム組成物を用いた未加硫タイヤを作製し、該未加硫タイヤを加硫成形することにより、該未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴムを含むタイヤが得られる。防振ゴム、コンドームやゴム手袋などの医療分野や家庭用品等の各種ゴム製品に用いる場合も、上記未加硫ゴム組成物を単独で又は他の部材と組み合わせて所定形状に加硫成形することにより、上記未加硫ゴム組成物からなる加硫ゴムを含むゴム製品を得ることができる。
【0055】
未加硫ゴム組成物を加硫する際の温度(加硫温度)は、特に限定されず、例えば、100~200℃でもよく、130~180℃でもよい。加硫時間も、特に限定されず、例えば、5~100分でもよく、10~50分でもよい。
【実施例0056】
以下、実施例により本実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[使用試薬]
・原料IRラテックス:BST Specialty Co., Ltd.製「IRL701」
・ドデシル硫酸ナトリウム:富士フィルム和光純薬(株)製
・tert-ブチルヒドロペルオキシド:東京化成工業(株)製
・テトラエチレンペンタミン:東京化成工業(株)製
・スチレンモノマー:ナカライテスク(株)製
・アセトン:ナカライテスク(株)製
・ポリイソプレンゴム:JSR(株)製「JSR IR2200」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339 シーストKH」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤1:大内新興化学興業(株)製「ノクセラーCZ」
・加硫促進剤2:大内新興化学興業(株)製「ノクセラーNS-P」
【0058】
[IRラテックスの精製]
原料IRラテックスに、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とイオン交換水を加えて、SDSの濃度を1質量%かつTSC(ラテックスの全固形分)を30質量%に調製した。得られたTSC30質量%のIRラテックスに対し、攪拌温度を90℃に設定した上で、攪拌機を用いて、常圧、200rpmで60分攪拌した。その後、IRラテックスを遠心分離(12000G、30℃、30分)してクリーム分とセラム分に分離した。このクリーム分に対し、蒸留水とSDSを加えて、SDSの濃度が0.5質量%かつDRCが30質量%となるように再分散させ、得られたIRラテックスに対し、常圧、90℃、200rpmで60分攪拌した後、遠心分離(12000G、30℃、30分)を行った。この再分散、加熱攪拌及び遠心分離をもう一回繰り返した後、最後の遠心分離によって得られたクリーム分に、蒸留水とSDSを加えて、SDSの濃度が0.1質量%かつDRCが30質量%となるように再分散させて、精製IRラテックスを得た。
【0059】
[グラフト共重合]
精製IRラテックスを30℃かつ200rpmで撹拌しながら1時間窒素置換した。その後、重合開始剤としてtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHPO)及びテトラエチレンペンタミン(TEPA)を、それぞれ表1に示す量を順次滴下した。更に、表1に示す量のスチレンモノマーを滴下した後、30℃かつ400rpmで2時間重合反応を行った。反応終了後のラテックスに対してロータリーエバポレーターを用いて90℃で未反応のスチレンモノマーを取り除き、合成ポリイソプレン共重合体を含む合成例1~3のラテックスを得た。その際、未反応のスチレンモノマーとともに重合開始剤TBHPOは分解ないし気化してラテックスから除去される。その後、合成ポリイソプレン共重合体を含むラテックスをトレイにキャストし、3日間真空乾燥させ、厚さ2mm程度のアズキャストフィルムを得た。表1中の量は、IRラテックス中のゴム1kgに対するモル量(mol/kg)である。
【0060】
表1中のスチレン含有率の計算式は以下の通りである。
【数1】
【0061】
【0062】
[アズキャストフィルムのモルフォロジー観察]
合成例1のラテックスから得られたアズキャストフィルムをOsO4にて染色してからクライオミクロトーム(Leica製Leica EM FC6/UC6)を用いて超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM,FEI製Talos F200X、加速電圧200kV)にて相分離構造を観察した。
【0063】
その結果、合成ポリイソプレンゴム粒子はグラフトしているポリスチレンと相分離しており、厚さ数nm~数十nmのグラフトスチレン連続相中に直径約1μm程度の合成ポリイソプレンゴム粒子が分散し、グラフトスチレン連続相と合成ポリイソプレンゴム粒子分散相との相分離状態が観察された。
図1は、上記アズキャストフィルムの透過型電子顕微鏡写真であり、黒い相が合成ポリイソプレンゴム粒子、白い相がポリスチレンをそれぞれ示す。
【0064】
[アズキャストフィルムの引張試験]
合成例1のラテックスから得られたアズキャストフィルムと、原料IRラテックスから得られたアズキャストフィルムについて、JIS K6251に準じて引張試験を行った。引張試験は、アズキャストフィルムをダンベル状3号形で打ち抜き、室温下、引張速度500mm/分で実施した。原料IRラテックスのアズキャストフィルムは、合成例1と同様、原料IRラテックスをトレイにキャストし、3日間真空乾燥させて、厚さ2mm程度のフィルムとして作製した。
【0065】
引張試験の結果として、
図2に歪み-応力曲線を示す。原料IRラテックスから得られたフィルムの破断応力が0.23MPaであるのに対して、合成例1のラテックスから得られた合成ポリイソプレン共重合体のフィルムの破断応力は2MPa程度まで上昇した。この結果よりナノマトリックス構造の形成により、破断強度が大きくなることがわかる。
【0066】
[実施例1~3]
合成例1~3で得られた合成ポリイソプレン共重合体を含むラテックス(これには重合開始剤TEPAが含まれている。)を、トレイにキャストし風乾させた後、真空下50℃で2日間真空乾燥させることで、厚さ2mmのアズキャストフィルムを得た。
【0067】
得られたアズキャストフィルム80gを500mLのアセトンに25℃で3日間浸漬させてTEPAをアセトンに抽出させた。その後、アズキャストフィルムをアセトンから取り出し、1日間真空乾燥させることにより、実施例1~3の合成ポリイソプレン共重合体を得た。
【0068】
[比較例1]
合成例1で得られた合成ポリイソプレン共重合体を含むラテックスを、トレイにキャストし風乾させた後、真空下50℃で2日間真空乾燥させることで、厚さ2mmのアズキャストフィルムを得て、これを比較例1の合成ポリイソプレン共重合体とした。
【0069】
[実施例4~8、比較例2~5]
バンバリーミキサーを用いて、下記表2及び表3に示す配合(質量部)に従い、未加硫ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ゴム成分に対し硫黄及び加硫促進剤を除く配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練した(排出温度=90℃)。なお、表中、実施例1~3及び比較例1の共重合体は、それぞれ実施例1~3及び比較例1の合成ポリイソプレン共重合体を示す。
【0070】
得られた未加硫ゴム組成物を150℃で25分間加硫し、加硫後のゴム試料について引張応力の評価を行った。詳細には、加硫ゴム試料に対して、JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状7号形)を行い、300%伸長時の応力を求めた。そして、表2の比較例3及び実施例4~6については、比較例2の値を100とした指数で表示し、表3の比較例5及び実施例7,8については、比較例4の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど破壊特性(機械強度)に優れることを示す。
【0071】
【0072】
【0073】
表2に示されるように、アセトン抽出した実施例1~3の合成ポリイソプレン共重合体を用いた実施例4~6では、グラフト共重合していないポリイソプレンゴムを用いた比較例2に対して破壊特性が向上した。特に、スチレン含有率が高い実施例1の合成ポリイソプレン共重合体を用いた実施例4では、大幅に破壊特性が向上していた。
【0074】
これに対し、アセトン抽出していない比較例1の合成ポリイソプレン共重合体を用いた比較例3では、スチレン含有率が高い合成ポリイソプレン共重合体を用いているにもかかわらず、破壊特性の向上幅は小さかった。スチレン含有率が同じ実施例4と比較例3とを対比すると明らかなように、アズキャストフィルムに対してアセトン抽出を行うことにより、アセトン抽出を行っていないものに比べて、破壊特性が顕著に向上していた。比較例3では、残存するTEPAにより加硫阻害が引き起こされているためと考えられる。
【0075】
表3に示すように、カーボンブラックの配合量を30質量部と増量した場合でも、実施例1,2の合成ポリイソプレン共重合体を用いた実施例7,8では、グラフト共重合していないポリイソプレンゴムを用いた比較例4に対して破壊特性が向上しており、特に、スチレン含有率が高い実施例7では向上幅が大きかった。比較例5では、スチレン含有率が高い合成ポリイソプレン共重合体を用いているにもかかわらず、破壊特性は未変性の比較例4に対して低下していた。すなわち、カーボンブラックを増量した場合、加硫阻害による破壊特性低下の影響が大きくなる傾向があり、実施例7と比較例5とを対比すると明らかなように、アセトン抽出により破壊特性に顕著な向上効果がみられた。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。