IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立病院機構の特許一覧 ▶ ダイニチ工業株式会社の特許一覧

特開2022-87703ウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置
<>
  • 特開-ウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置 図1
  • 特開-ウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置 図2
  • 特開-ウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087703
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】ウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/16 20060101AFI20220606BHJP
   F24F 1/0071 20190101ALI20220606BHJP
   F24F 3/16 20210101ALI20220606BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20220606BHJP
   F24F 7/003 20210101ALI20220606BHJP
【FI】
A61L9/16
F24F1/0071
F24F3/16
F24F3/14
F24F7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199790
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(71)【出願人】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】西村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
(72)【発明者】
【氏名】阪田 総一郎
【テーマコード(参考)】
3L051
3L053
4C180
【Fターム(参考)】
3L051BC10
3L053BB01
3L053BB02
3L053BD05
4C180AA07
4C180DD08
4C180HH05
4C180KK01
4C180LL01
4C180LL11
4C180MM08
(57)【要約】
【課題】室内全体を高温に加熱したり長時間の高温暴露などをおこなわなくても、さらに特殊な装置や特殊材料を用いなくても、浮遊ウイルスを短時間で効率的よく不活化できる実用性に優れたウイルス不活化装置を提供すること。
【解決手段】ウイルスを含み得る空気を導入しこの導入空気を処理し排出する空気流路部に設けられた加熱処理部1は、ウイルスを不活化させる所定の閾値の温度および滞留時間以上で導入空気を加熱保持させる熱源2と熱保持処理空間3とが設けられた構成であるウイルス不活化装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスを含み得る空気を導入しこの導入空気を処理し排出する空気流路部に、この導入空気を加熱処理する加熱処理部が設けられた構成とされ、
この加熱処理部は、ウイルスを不活化させる所定の閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を加熱する熱源と、この閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を前記熱源により加熱保持する熱保持処理空間とが設けられた構成とされていることを特徴とするウイルス不活化装置。
【請求項2】
前記加熱処理部での加熱処理条件となる前記閾値の温度および滞留時間は、温度は100℃以上、滞留時間は0.5秒以下であり、この加熱処理条件を満たす温度および滞留時間以上で前記導入空気が加熱処理されるように前記熱源および前記熱保持処理空間が構成されていることを特徴とする請求項1記載のウイルス不活化装置。
【請求項3】
前記加熱処理部での加熱処理条件となる前記閾値の温度および滞留時間は、温度が高い程滞留時間は短くなる予め知得された温度と滞留時間との組み合わせ加熱処理条件で、この加熱処理条件を満たす温度および滞留時間以上で前記導入空気が加熱処理されるように前記熱源および前記熱保持処理空間が構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス不活化装置。
【請求項4】
前記熱保持処理空間は、前記導入空気が通過する流路部であり、前記熱源により加熱された高温状態が保持される滞留経路長を有する加熱空気滞留部に構成され、この加熱空気滞留部である熱保持処理空間の前記導入空気の導入部から排出部までの流路距離を長く設定することで、この熱保持処理空間内の前記導入空気を前記加熱処理条件の温度以上で加熱保持させる前記滞留時間を長く設定可能な構成とされていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置。
【請求項5】
前記熱源は、暖房または加湿を行うための熱源にも用いられている構成とされていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置。
【請求項6】
前記熱源の加熱能力または前記導入空気を前記加熱処理部に導入させる送風装置の送風能力を制御することで、前記加熱処理部でのウイルス不活化能力を一時的に高める加熱処理制御部が備えられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置。
【請求項7】
前記加熱処理部の前記熱保持処理空間に、放熱を減じる断熱構造が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置。
【請求項8】
室内の暖房、冷房、空調、空気清浄、加湿、除湿、送風、撹拌、換気または外気導入などの空気処理をおこなう空気処理部の空気流路部に前記加熱処理部が設けられて、前記請求項1~7のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置が備えられていることを特徴とするウイルス不活化装置付き空気処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、空気中のウイルスを加熱して不活化させるウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付きの暖房装置などの空気処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浮遊ウイルスの不活化は、加熱、紫外線、オゾン、光触媒、湿度など様々な手法によりおこなうことが検討、研究されている。
たとえば、室温下であれば湿度制御により不活化する研究がなされている。
【0003】
また、加熱により不活化できることは一般的知見として予想できるが、先行技術としてたとえば100℃未満の温度で30分や1時間など比較的低温で長時間加熱すれば不活化できることが報告されている研究事例もある。
【0004】
またたとえば、ウイルスを捕捉することなく、加熱空間および放電空間を通過させることで、ウイルスを不活化させる装置も提案されている(特許文献1特許第5683247号公報)。
【0005】
また、本発明者により、人が立ち入る閉鎖空間内で室温と湿度を制御することによりこの空間全体のウイルスをこの空間全体を高温に加熱することなく不活化させる装置も提案されている(特許文献2特開2019-92835号公報)。
【0006】
しかしながら、たとえば室内を高温にすることなく自動的に効率よく短時間で浮遊ウイルスを不活化できる装置の実現・実用化には至っていない。また100℃以上の高温での不活化のための温度、その温度での不活化に必要な加熱保持時間(滞留時間)について調査、研究した事例も多くはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5683247号公報
【特許文献2】特開2019-92835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、室内全体を高温に加熱したり長時間の高温暴露などをおこなわなくても、さらに特殊な装置や特殊材料を用いなくても、浮遊ウイルスを短時間で効率的よく不活化できる実用性に優れたウイルス不活化装置並びにウイルス不活化装置付き空気処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
ウイルスを含み得る空気を導入しこの導入空気を処理し排出する空気流路部に、この導入空気を加熱処理する加熱処理部1が設けられた構成とされ、この加熱処理部1は、ウイルスを不活化させる所定の閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を加熱する熱源2と、この閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を前記熱源2により加熱保持する熱保持処理空間3とが設けられた構成とされていることを特徴とするウイルス不活化装置に係るものである。
【0010】
また前記加熱処理部1での加熱処理条件となる前記閾値の温度および滞留時間は、温度は100℃以上、滞留時間は0.5秒以下であり、この加熱処理条件を満たす温度および滞留時間以上で前記導入空気が加熱処理されるように前記熱源2および前記熱保持処理空間3が構成されていることを特徴とする請求項1記載のウイルス不活化装置に係るものである。
【0011】
また前記加熱処理部1での加熱処理条件となる前記閾値の温度および滞留時間は、温度が高い程滞留時間は短くなる予め知得された温度と滞留時間との組み合わせ加熱処理条件で、この加熱処理条件を満たす温度および滞留時間以上で前記導入空気が加熱処理されるように前記熱源2および前記熱保持処理空間3が構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のウイルス不活化装置に係るものである。
【0012】
また前記熱保持処理空間3は、前記導入空気が通過する流路部であり、前記熱源2により加熱された高温状態が保持される滞留経路長を有する加熱空気滞留部に構成され、この加熱空気滞留部である熱保持処理空間3の前記導入空気の導入部から排出部までの流路距離を長く設定することで、この熱保持処理空間3内の前記導入空気を前記加熱処理条件の温度以上で加熱保持させる前記滞留時間を長く設定可能な構成とされていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置に係るものである。
【0013】
また前記熱源2は、暖房または加湿を行うための熱源にも用いられている構成とされていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置に係るものである。
【0014】
また前記熱源2の加熱能力または前記導入空気を前記加熱処理部に導入させる送風装置4の送風能力を制御することで、前記加熱処理部1でのウイルス不活化能力を一時的に高める加熱処理制御部が備えられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置係るものである。
【0015】
また前記加熱処理部1の前記加熱処理空間3に、放熱を減じる断熱構造5が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置に係るものである。
【0016】
また室内の暖房、冷房、空調、空気清浄、加湿、除湿、送風、撹拌、換気または外気導入などの空気処理をおこなう空気処理部の空気流路部に前記加熱処理部1が設けられて、前記請求項1~7のいずれか1項に記載のウイルス不活化装置が備えられていることを特徴とするウイルス不活化装置付き空気処理装置に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、不活化のための温度とその温度に加熱保持する滞留時間の閾値以上、すなわち見出した閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で導入空気を加熱処理して導入空気中のウイルスを不活化し排出することで、たとえば室内全体を高温に加熱したり長時間の高温暴露などをおこなわなくても、さらに特殊な装置や特殊材料を用いなくても、浮遊ウイルスを短時間で効率的よく不活化できる実用性に優れたウイルス不活化装置となる。
【0018】
また、この装置を室内の暖房、冷房、空調、空気清浄、加湿、除湿、送風、撹拌、換気または外気導入などの空気処理をおこなう暖房装置などの空気処理装置に設ければ、たとえば室内の暖房などをおこないながら同時に室内の浮遊ウイルスを不活化でき、その室内のほぼすべての空気が本装置に導入されれば、暖房しながら比較的短時間(所定時間)で室内の浮遊ウイルスをほぼ不活化できることとなる実用性に優れたウイルス不活化装置付き空気処理装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施例の概略構成説明斜視図である。
図2】本実施例の概略構成説明断面図である。
図3】本実施例の閾値を見出すためのウイルス不活化試験装置(シュミレーター)の概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の最適な実施形態を図面に基づいて本発明の作用を示し簡単に説明する。
【0021】
たとえば図1,2に示すように、ウイルスを含み得る空気は、たとえば送風装置4により空気流路部に設けられている加熱処理部1に導入され、加熱処理されて排出されるが、この導入空気は、前記加熱処理部1でウイルスを不活化させる所定の閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で加熱処理される。
【0022】
たとえばこの熱保持処理空間3は、送風装置4により取り込まれた前記導入空気が通過する流路部であり、前記熱源2により加熱された高温状態が所定時間保持される滞留経路長を有する加熱空気滞留部に構成され、たとえばこの加熱空気滞留部である熱保持処理空間3の前記導入空気の導入部から排出部までの流路距離を設定することで、この熱保持処理空間3内の前記導入空気を前記加熱処理条件の温度以上で所定時間加熱保持させることができる。
【0023】
したがって、導入空気は、加熱処理部1の熱源2によりウイルスを不活化させる所定の温度と滞留時間の組み合わせである閾値のその温度以上で加熱されるが、さらに加熱処理部1の熱保持処理空間3を通過することでこの閾値の滞留時間以上その温度に加熱保持されることになり、導入空気内のウイルスは不活化され排出されることとなる。
【0024】
ゆえに、たとえば本装置を室内に設置し運転を継続すれば、室内全体の浮遊ウイルスを自動的に比較的短時間に不活化でき、室内を高温に加熱することでしばらくその室内を利用できなくなるようなことはなく、また長時間の高温暴露などをおこなわなくてもよく、さらに特殊な装置や特殊材料を用いなくてもよいから、たとえば室内に居ながらにしてあるいはその室内を利用したまま室内の浮遊ウイルスを自動的に短時間で効率的よく不活化できる実用性に優れたウイルス不活化装置を容易に実現できることとなる。
【0025】
言い換えると、本発明は、実験、研究、考察を重ね、このように不活化できる適切な閾値、すなわち不活化できる温度および滞留時間の組み合わせ条件を見出したことで、加熱処理部1の前記熱源2と熱保持処理空間3を、この条件で加熱処理が実現できるように設計して加熱処理部1を構成し、この加熱処理部1を空気流路部に設けることで、導入空気中の浮遊ウイルスを比較的短時間で効率的よく不活化できる本装置を実現できるものである。
【0026】
またたとえば、本装置を室内の暖房、冷房、空調、空気清浄、加湿、除湿、換気、撹拌、送風または外気導入などの空気処理をおこなう暖房装置などの空気処理装置に設ければ、たとえば室内の暖房などをおこないながら同時に室内の浮遊ウイルスを徐々に不活化でき、その室内のほぼすべての空気が本装置に導入されれば、暖房しながら比較的短時間(所定時間)で室内の浮遊ウイルスをほぼ不活化できることとなる実用性に優れたウイルス不活化装置付き空気処理装置を安価に実現できることとなる。
【実施例0027】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0028】
本実施例では、ウイルスを含み得る空気を送風装置4により導入し排出する空気流路部に、この導入空気を加熱処理する加熱処理部1を設けた構成としているが、たとえば浮遊ウイルスを除去したい空間に本装置を配置または別の目的の暖房装置などの空気処理装置に本装置を設けて、その室内の空気を取り込む運転を継続することでその空間内の浮遊ウイルスを徐々に不活化していき、その室内のほぼすべての空気が本装置に導入されれば、所定時間後にはその空間の浮遊ウイルスをほぼすべて不活化できるように構成している。
【0029】
具体的には、この加熱処理部1に、ウイルスを不活化させる所定の閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を加熱する熱源2と、この閾値の温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、流路空間内の前記導入空気を前記熱源2により加熱保持する熱保持処理空間3とを設けた構成としている。
【0030】
すなわち、この導入空気は送風装置4により加熱処理部1に導入され、熱源2によりウイルスを不活化させる所定の温度および滞留時間の組み合わせである閾値のその温度以上で加熱されるが、さらに加熱処理部1の熱保持処理空間3を通過させることで、この熱保持処理空間3の加熱温度、流路断面積、流路長(流路距離)、断熱構造5の構成によりこの閾値の温度でこの滞留時間以上自動的に(通過するだけで)加熱保持されてウイルスは不活化され排出されるように構成している。
【0031】
また本実施例の前記熱保持処理空間3は、前述のように導入空気が通過する流路部であり、前記熱源2により加熱された高温状態が保持される流路長(滞留経路長)を有する加熱空気滞留部に構成され、この加熱空気滞留部である熱保持処理空間3の前記導入空気の導入部から排出部までの流路距離を長く設定することで、この熱保持処理空間3内の前記導入空気を前記加熱処理条件の温度以上で加熱保持させる前記滞留時間を長く設定可能な構成としている。
【0032】
したがって、送風装置4により筐体内に取り込まれた導入空気が熱源2により加熱されつつ熱保持処理空間3を通過することで、導入空気のすべてがこの加熱処理条件を満たすように自動的に加熱保持される構成としたため、たとえば室内の空気が順次導入され順次その導入空気内のウイルスが不活化され排出される運転を継続し、その室内のほぼすべての空気が本装置に導入されれば、ほぼすべての浮遊ウイルスが不活化されることとなるように構成している。
【0033】
また本実施例では、後述する試験装置(シミュレーター)により予め前記加熱処理部1での加熱処理条件を見出したもので、この加熱処理条件となる前記閾値の温度および滞留時間は、温度は100℃以上、滞留時間は0.5秒以下で、温度が高い程滞留時間は短くなる温度と滞留時間との組み合わせ加熱処理条件としている。具体的には、たとえばインフルエンザウイルスの場合、180℃の温度で滞留時間0.17秒以上とした場合はウイルスの失活率は99%以上、またたとえば同じ温度で滞留時間0.06秒以上ならば失活率90%以上、またたとえば150℃の温度の場合は滞留時間0.10秒で失活率90%以上、130℃の温度の場合でも滞留時間0.17秒で失活率90%以上、で室内のウイルスを不活化できることが確認できた。さらには、このような試験結果を基にウイルスの不活化能力を発揮できるポイントを推定した結果、100℃以上、0.5秒以下という閾値を見出すことができた。
【0034】
すなわち、この試験結果からも、この程度の高温な熱源2の実装は容易であり、またその温度に加熱保持させる滞留時間が0.5秒以下ならば実用化は可能であるから、熱保持処理空間3の構造や断熱構造の設計により前記不活化能力を発揮できる閾値以上の加熱処理部1の実用化は可能であることが確認できたといえる。
【0035】
この試験結果から本実施例では、99%以上ウイルスを不活化できる温度180℃、滞留時間0.17秒を閾値として見出し、この閾値以上に加熱保持できる加熱処理条件を満たす加熱処理部1に構成している。
【0036】
具体的には、図示したように、筐体(外装体)にこの筐体内に空気(外気)を取り込む送風装置4を設け、この送風装置4により取り込まれた導入空気の空気流路部に、この閾値の180℃以上に導入空気を加熱できるヒーターなどを採用した熱源2と、この熱源2で180℃以上に加熱された高温状態を通過するだけで0.17秒以上保持する流路距離(滞留経路長)を有する熱保持処理空間3とで構成した加熱処理部1を設けた構成としている。
【0037】
さらに説明すると、図2に図示した本実施例は、筐体(外装体)内に断熱材で囲んで断熱構造5を施した加熱処理筐体を加熱処理部1として設け、この加熱処理部1の導入口に送風装置4を設けるとともに熱源2を配設し、排出口までの間に邪魔板などを設け左右複数の分岐路としたりして、迂回、蛇行、螺旋などにより滞留経路長を長く設計した滞留流路部を形成し、この滞留流路部を通過する導入空気が熱源2で180℃以上に加熱され且つ断熱構造5で冷却を防ぎつつその温度に保持される流路長が長く確保される流路となる熱保持処理空間3を形成し、この断熱状態にして熱源2による高温状態が保持されるように構成した熱保持処理空間3を送風装置4により導入空気が導入、通過、排出することで、この導入空気はすべて180℃以上で0.17秒以上保持されて排出されるように構成している。
【0038】
すなわち本実施例は、このような加熱条件を満たす加熱領域となる熱保持処理空間3を空気流路部に設け、たとえばこの流路断面積を小さく、長さを蛇行、迂回路などに形成して流路長を長くし、さらに断熱構造5を施すことで、この加熱領域(熱保持処理空間3)での温度が容易に180℃以上に保持されて導入空気のすべてが180℃以上で0.17秒以上加熱保持され、浮遊ウイルスをほぼすべてこの熱により不活化できるように構成している。
【0039】
したがって、繰り返しとなるが、本実施例の加熱処理部1の熱保持処理空間3は、このように構成することで、ウイルスを含み得る空気を取り込んで通過させることで、この導入空気を180℃以上に加熱するだけでなく、この180℃以上で0.17秒以上加熱保持できる長さの加熱領域(加熱空気滞留部)に構成している。
【0040】
またこの加熱領域を断熱構造5で囲めば、放熱が抑えられるため省エネルギーも図れ、またその長さも短く設計できたり、また風量を上げても閾値以上の加熱処理条件を満たすことができるため、不活化能力が向上し一層短時間で不活化できることとなる。
【0041】
このように実験、研究、考察をおこなうことにより、対象となるウイルスが所定の失活率で不活化できる温度および滞留時間の閾値が見出され、この閾値以上の温度および滞留時間、すなわちこの組み合わせの温度および滞留時間以上の加熱処理条件で、前記導入空気が加熱処理されるように前記熱源2と前記熱保持処理空間3を構成することとなる。
【0042】
また、本実施例では、前記熱源2の加熱能力または前記導入空気を前記加熱処理部1に導入させる送風装置4の送風能力を制御することで、前記加熱処理部1でのウイルス不活化能力を一時的に高める加熱処理制御部を備えている。
【0043】
たとえば具体的には、実験・試験で取得した閾値以上の温度および滞留時間以上の加熱処理条件を維持した状態で、風量を上げることで、不活化性能を一時的に高めることができるように送風装置4に送風量制御装置を設けた構成としている。
【0044】
同様に熱源2による加熱温度を上げる既存の熱源制御装置を用いて不活化性能を調整してさらに一時的に熱源2の調整によっても高めることができるように構成している。
【0045】
また、たとえば導入空気や室内の空気の浮遊ウイルス量を測定するウイルス検知装置を備えて、この検知装置によりウイルスが浮遊している状況と検知したら、前記制御装置の作動により不活化性能を高めるように(強モードに)自動制御する構成としてもよい。
【0046】
また、たとえば室温の部屋内で相対湿度が40%RH以下の乾燥状態ではウイルスが失活しにくくなっているので(空気中の感染価が高い状態)、湿度センサーを設けて、この湿度センサーで室内の相対湿度が所定値以下、たとえば40%RH以下となり室内乾燥状態を検知した場合に、強モードに自動制御する構成としてもよい。
【0047】
また、たとえばパーティクルカウンタを設けて、このパーティクルカウンタで所定値以上の塵埃濃度となり人が密な状態であると検知した場合に、強モードに自動制御する構成としてもよい。
【0048】
また室内の暖房、冷房、空調、空気清浄、加湿、除湿、送風、撹拌、換気または外気導入などの空気処理をおこなう空気処理部への空気流路部に前記加熱処理部1を設けて、この空気処理装置に図示したような本装置を設けてもよい。
【0049】
この場合たとえば前記熱源2は、暖房を行うための熱源を用い、送風装置4も暖房のための送風装置を用いた構成とし、室内の暖房を行う暖房装置などの空気処理装置の空気流路部に本装置を設けて、室内の暖房をおこないながら同時に室内の浮遊ウイルスを徐々に不活化していき、暖房しながら比較的短時間(所定時間)で室内のウイルスを効率よく不活化できるウイルス不活化装置付き暖房装置を安価に実現できることとなる。
【0050】
以上のように本実施例では、失活率99%以上の浮遊ウイルス不活化効果を期待できる閾値以上の加熱処理条件を満足する熱源2と熱保持処理空間3を設けた加熱処理部1に構成することで、たとえば暖房などしながら室内浮遊ウイルスを自動的に比較的短時間で99%以上不活化でき、特殊な部品や薬剤などを用いないため、加熱と送風のみの単純な構成でも実現可能で、製造コストを抑え低価格で実現可能であり、またこのように閾値以上の温度および滞留時間を確保できれば、それ以上の加熱は不要で、省エネルギーも可能な構成である。
【0051】
またたとえば、前述のように暖房装置に採用した場合、閾値以上の温度および滞留時間で導入空気を加熱処理できる構造とすれば、ヒーターなどの熱源2の種類は問わなく実現可能であるから、様々な既存の方式の暖房装置に採用でき、また様々な空気処理装置に搭載でき、その処理をおこないながら、ウイルス不活化性能を発揮できることとなる。
【0052】
また一時的に閾値以上の温度および滞留時間に加熱処理できる構成であれば、本来の機器機能とは別に一時的にウイルス不活化モードにして不活化装置として使用することもできる構成で、様々な空気処理装置に適用できる。
【0053】
また、ウイルス感染者のいる冬の部屋で診療行為をする場合の感染リスクを避けるには、換気による外気取り入れ量を増やしたいところではあるが、室温が低下し快適性を著しく損ない、患者の症状悪化を招く。これを解決するため、たとえば本装置で室内空気を循環処理(不活化処理)しつつ、継続使用による温度の上りすぎに対しては、部屋の換気装置を連動制御して部屋の外気取り入れ量を増やすように調節し、感染リスクを最小化しつつ、快適温度も維持し続けることができるように構成してもよい。すなわち、新鮮外気または同じ建物内であっても浮遊ウイルスがない(感染リスクが小さい)室外の空気を取り入れて本装置による温度上昇を抑えるように調節するように換気装置を制御する構成とすれば、浮遊ウイルスを失活させつつ暖房させることで快適な室温環境で診療することができることとなる。
【0054】
また、前述したように、閾値は温度と滞留時間の組み合わせ加熱処理条件で、温度を上げれば滞留時間は短くて済む。たとえば、風量を増やすことで同じ条件であれば滞留時間は短くなってしまうが、この滞留時間が閾値以下とならないように熱保持処理空間3をたとえば一層長く設計すれば済む。またこのような設計変更をしなくても、風量を上げて不活化能力を上げる場合、熱源2の温度を上げることでも閾値の滞留時間は短くなるので滞留時間がなお閾値以上を確保できるから、風量を上げても同等の不活化効果を得られ、そのため一層短時間で不活化できることとなる。言い換えると風量を増やしても熱保持処理空間3で閾値以上の温度および滞留時間以上の加熱処理条件を維持でき同等の不活化効果が得られていれば、より短時間で不活化が可能となる。
【0055】
このように、風量と熱源温度を制御することで、一時的に不活化性能を上げたり、短時間で不活化できたり、すぐに最高温度に達する熱源2を採用することで、ウイルスを検知したらすぐに不活化できるようにすることもできる。
【0056】
次に本実施例を構成するにあたり、あらかじめ前記加熱処理条件となる温度および滞留時間の閾値を見出すための試験手法について説明する。
【0057】
図3に図示したように、本実施例での試験装置(シミュレーター)は、ウイルスを含む空気を導入する導入口にファン(送風装置)を設け、この取り込んだ導入空気を整流する整流板を抜けた後、この導入空気を加熱するヒーター(熱源)により所定温度以上で加熱保持される加熱領域(熱保持処理空間)を設け、熱交換器で冷やした後この不活化した空気の失活率を測定する(ウイルスの残存率を測定する)ウイルス測定装置へ排出する構成としている。
【0058】
この試験装置(シミュレーター)を用いて、ウイルスの残存率を測定算出しウイルスの失活率を算出することで、前述したような試験結果から最適な閾値を見出した。
【0059】
この加熱領域の温度は、ヒーターへの印加電圧を可変して調整し、滞留時間はヒーターを配置した加熱位置(熱源位置)をヒーター可動領域内でスライドさせて調整して、断熱構造で囲んだ前記排出口付近の熱交換器までの加熱領域(熱保持処理空間)の長さが可変できるように構成して、この温度と加熱領域の長さを変えて試験し、適切な温度および滞留時間の組み合わせを見出して閾値を見出した。
【0060】
さらに説明すると、温度は熱交換器の入り口手前で測定した平均値で、ウイルスの残存率を測定する都合上この熱交換器では水冷により28℃以下まで冷却しているが、ヒーターを配置した加熱位置から熱交換器までの長短自在なヒーター加熱領域を熱保持処理空間とし、この体積と風量から滞留時間を算出している。
【0061】
また固定パラメータとしては、ファンの風量を0.4m/分、部屋の室温20℃、湿度30%RHとしている。またこの部屋に見立てた25mのチャンバー内でインフルエンザウイルス(H3N2型)をネブライザーにより噴霧し、この雰囲気中の感染性を有したウイルスの数と前記シミュレーター通過後の感染性を有したウイルスの数からウイルス残存率を算出し、これを1から減じた値を失活率として算出している。
【0062】
具体的には、プラークアッセイ法で感染力のあるウイルスがどれくらいいるか個数測定するもので、その空間のウイルスの数(感染力のあるウイルスの数に相当する感染価)と、シミュレーター通過後のウイルスの数(前記感染価)とをそれぞれ測定して、その相対比であるウイルス残存率を測定算出する構成としている。
【0063】
さらに説明すると、まず、シミュレーターを熱源作動させず送風のみで運転し、ウイルスがシミュレーター内に物理的に付着してその空間内とシミュレーター通過後のウイルス数に差が生じないことを確認する。シミュレーター運転開始後、チャンバー内でウイルスをネブライザーで2分30秒間噴霧し、30秒間チャンバー内を浮遊させ濃度を均一化してから、シミュレーター上流側の空気の一定量をサンプリングし、シミュレーター下流側の空気の一定量をサンプリングする。なお、サンプリング時間およびサンプリング周期などについては適宜設定されるものである。このとき測定された結果が本発明装置を不活化運転する際に得られる結果の基準となる。
【0064】
次に、送風と加熱の組み合わせによる不活化運転試験をおこなう。不活化運転をする場合にはあらかじめシミュレーターを10分間暖機運転することでシミュレーター内部の温度を安定させておき、その後にチャンバー内でウイルスをネブライザーで2分30秒間噴霧し、30秒間チャンバー内を浮遊させ濃度を均一化してからシミュレーター上流側の室温20℃前後の空気の一定量をサンプリングし、加熱後に熱交換器で28℃以下に冷却されたシミュレーター下流側の空気の一定量をサンプリングする。
【0065】
その不活化運転の測定結果として1からウイルス残存率を減じたウイルス失活率が90%以上、さらには99%以上となる温度と滞留時間を測定し、その相関を考察し、その組み合わせの閾値を見出した。
【0066】
すなわち、このシミュレーターを用いた試験により、温度180℃以上滞留時間0.17secの条件で99%以上の失活率が得られた。このようにごく短時間で実用化可能な0.5秒未満のワンパス条件でもウイルスを高温暴露することで、高いウイルス失活効果が得られた。
【0067】
この結果からこれを実現する閾値を見出しこれ以上の加熱処理条件を満たす加熱処理がおこなえる容易に製作可能な前記本装置を構成した。
【0068】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものであり、閾値の算出手法も本実施例に限られるもではない。
【符号の説明】
【0069】
1 加熱処理部
2 熱源
3 熱保持処理空間
4 送風装置
5 断熱構造
図1
図2
図3