(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087712
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】電磁波変調素子、空間電磁波変調器及び空間電磁波変調システム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/19 20190101AFI20220606BHJP
G02F 1/29 20060101ALI20220606BHJP
G02F 1/167 20190101ALI20220606BHJP
G02F 1/1675 20190101ALI20220606BHJP
G02F 1/1676 20190101ALI20220606BHJP
G02F 1/1679 20190101ALI20220606BHJP
【FI】
G02F1/19
G02F1/29
G02F1/167
G02F1/1675
G02F1/1676
G02F1/1679
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199810
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】520473306
【氏名又は名称】榑林 哲也
(71)【出願人】
【識別番号】520473317
【氏名又は名称】井上 碩
(74)【代理人】
【識別番号】100218970
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 肇
(72)【発明者】
【氏名】榑林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井上 碩
【テーマコード(参考)】
2K101
2K102
【Fターム(参考)】
2K101AA04
2K101BA03
2K101BB05
2K101BB10
2K101BB35
2K101BB40
2K101BC02
2K101BC26
2K101BC28
2K101BC30
2K101BE09
2K101BE32
2K101EA41
2K101EA56
2K101EB13
2K101EC02
2K101EC22
2K101EF11
2K101EJ21
2K101EK12
2K102AA21
2K102BA07
2K102BC04
2K102BD08
2K102BD09
2K102DC09
2K102DD01
2K102DD10
2K102EA02
2K102EA14
2K102EA16
2K102EA21
2K102EB06
2K102EB20
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】高深度な電磁波の位相や角度を変調することができる電磁波変調素子を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、電磁波変調素子が提供される。この電磁波変調素子は、液層と、電極とを備える。液層は、微粒子と分散媒とを含む電気泳動液の層である。電極は、少なくとも2つであり、液層の内部に電場を発生可能に構成される。電場の発生中に、液層を通過した電磁波の位相又は角度が変調されるように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波変調素子であって、
液層と、電極とを備え、
前記液層は、微粒子と分散媒とを含む電気泳動液の層で、
前記電極は、少なくとも2つであり、前記液層の内部に電場を発生可能に構成され、
前記電場の発生中に、前記液層を通過した電磁波の位相又は角度が変調されるように構成される、
もの。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波変調素子において、
保護層をさらに備え、
前記保護層は、前記電極と前記液層の間に配置される、
もの。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電磁波変調素子において、
前記微粒子の直径が200nm以下である、
もの。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記微粒子の素材は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化銅、又は酸化クロムの少なくとも一つを含む、
もの。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記微粒子の形状は、球、桿形、又は柱体である、
もの。
【請求項6】
請求項1~請求項5の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記微粒子の表面が有機分子によって修飾されている、
もの。
【請求項7】
請求項6に記載の電磁波変調素子において、
前記有機分子はアルキル基、アリル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ピリジル基、トシル基のうち少なくとも一つを有する、
もの。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記微粒子の屈折率の、前記分散媒の屈折率に対する比が1.3以上である、
もの。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
複数の前記電極のうち少なくとも1つは、透明電極である、
もの。
【請求項10】
請求項1~請求項9の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
第1の板及び第2の板をさらに備え、
前記第1の板及び前記第2の板は、前記液層の両側において、前記電磁波の進行方向の軸に対して垂直にそれぞれ並べて配置され、
前記電場の発生中に、前記第1の板及び前記第2の板の一方に入射した前記電磁波の位相又は角度が変調されて、他方から前記電磁波が射出されるように構成される、
もの。
【請求項11】
請求項10に記載の電磁波変調素子において、
前記第1の板又は前記第2の板の材質は、ガラス、石英、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートである、
もの。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の電磁波変調素子において、
前記第1の板又は前記第2の板の透過率は、90%以上である、
もの。
【請求項13】
請求項10~請求項12の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記第1の板と前記第2の板の厚さは、20μm以上かつ1cm以下である、
もの。
【請求項14】
請求項10~請求項13の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記液層は、前記第1の板と前記第2の板の一方を上面とし、前記一方に対する他方を下面とする柱体状又は錐台状のセルに内包されている、
もの。
【請求項15】
請求項14に記載の電磁波変調素子において、
前記セルの前記上面から前記下面までの高さは、50μm以上かつ1cm以下である、
もの。
【請求項16】
請求項14又は請求項15に記載の電磁波変調素子において、
前記セルの前記下面の面積は、1cm2以下である、
もの。
【請求項17】
請求項1~請求項16の何れか1つに記載の電磁波変調素子において、
前記電磁波は、光である、
もの。
【請求項18】
空間電磁波変調器であって、
請求項1~請求項17の何れか1つに記載の電磁波変調素子と、素子選択手段と、電圧印加手段とを備え、
前記素子選択手段は、複数の前記電磁波変調素子から1つ以上の前記電磁波変調素子を選択可能に構成され、
前記電圧印加手段は、前記素子選択手段によって選択可能となった複数の前記電磁波変調素子に所定の電圧を印加可能に構成される、
もの。
【請求項19】
請求項18に記載の空間電磁波変調器において、
前記電磁波変調素子は、面上に二次元配列される、
もの。
【請求項20】
請求項19に記載の空間電磁波変調器において、
面とは平面である、
もの。
【請求項21】
空間電磁波変調システムであって、
請求項19又は請求項20に記載の空間電磁波変調器と、電磁波発生装置又は電磁波検出器とを備え、
前記電磁波発生装置は、前記空間電磁波変調器の外側に配置され、前記電磁波変調素子に電磁波を射出し、
前記電磁波検出器は、前記空間電磁波変調器の外側に配置され、前記電磁波の位相又は角度が変調されて前記電磁波変調素子から射出された変調波を検出する、
もの。
【請求項22】
請求項21に記載の空間電磁波変調システムにおいて、
前記電磁波発生装置は、光源であり、
前記電磁波検出器は、光検出器である、
もの。
【請求項23】
請求項21又は請求項22に記載の空間電磁波変調システムにおいて、
カラーフィルタを有する、
もの。
【請求項24】
請求項21~請求項23の何れか1つに記載の空間電磁波変調システムにおいて、
前記電磁波発生装置又は前記電磁波検出器と前記電磁波変調素子との間にコリメータを有する、
もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波変調素子、空間電磁波変調器及び空間電磁波変調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学結晶と、電気光学結晶内に電位勾配を発生させる電極2対により結晶の屈折率を変化させ、光の進行方向を変えたり、光の位相を変えることができる素子が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電気光学結晶を用いた先行技術は、偏角深度が限られている。例えば、特許文献1
図16に依れば、100mradの偏角に250Vの電圧を必要とする。これは、高周波ノイズが発生し、周辺機器へのノイズの混入が懸念される。
【0005】
本発明では上記事情を鑑み、高深度な電磁波の位相や角度を変調することができる電磁波変調素子を提供することとした。
【0006】
本発明の一態様によれば、電磁波変調素子が提供される。この電磁波変調素子は、液層と、電極とを備える。液層は、微粒子と分散媒とを含む電気泳動液の層である。電極は、少なくとも2つであり、液層の内部に電場を発生可能に構成される。電場の発生中に、液層を通過した電磁波の位相又は角度が変調されるように構成される。
【0007】
このような態様によれば、光等の電磁波に対して高深度な電磁波の位相や角度を変調することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは電磁波の位相及び方向の変調機構として、電圧印加による電気泳動液内の微粒子の濃度勾配を適用できることを見出した。電気泳動液内の微粒子は分散媒の中で反発し合い均一に分散しているが、電圧を印加することで電場に従って泳動し濃度勾配が生じる。同時に電気泳動液内に屈折率の勾配が生じ、入射した電磁波の屈折や位相変化が起こる。
【0009】
また、電極の個数や配置方法によっては三次元的に電圧の印加方向を制御することができ、単一の電磁波変調素子で広範囲にわたる変調が可能となる。
【0010】
すなわち、本発明に係る電磁波変調素子は、液層と、電極とを備え、前記液層は、微粒子と分散媒とを含む電気泳動液の層で、前記電極は、少なくとも2つであり、前記液層の内部に電場を発生可能に構成され、前記電場の発生中に、前記液層を通過した電磁波の位相又は角度が変調されるものである。
【0011】
かかる構成により、電磁波変調素子は、印加する電圧の向きや大きさによって電気泳動液内の屈折率分布を自在に制御することが可能となり、単一の素子で連続的かつ広範囲にわたって電磁波を変調することを可能にする。
【0012】
また、本発明に係る空間電磁波変調器は、電磁波変調素子と、素子選択手段と、電圧印加手段とを備え、前記素子選択手段は、複数の前記電磁波変調素子から1つ以上の前記電磁波変調素子を選択可能に構成される空間電磁波変調器である。
【0013】
かかる構成により、空間電磁波変調器は、高精細に電磁波を変調することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電磁波変調素子によれば、電圧印加によって微粒子の濃度勾配をつくることで連続的かつ広範囲に電磁波を変調できる。また、本発明に係る空間電磁波変調器によれば、高精細に電磁波を変調できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】電気泳動液内の微粒子の状態を示した模式図である。
図2Aは、電圧非印加時の電気泳動液内の微粒子の状態を示した模式図である。
図2Bは、電圧印加時の電気泳動液内の微粒子の状態を示した模式図である。
【
図3】セル、第1の板、第2の板を含む電磁波変調素子の斜視図である。
【
図4】
図3で示した電磁波変調素子の分解図である。
【
図5】錐体上のセルを含む電磁波変調素子の斜視図である。
【
図6】完全に閉じていないセルを含む電磁波変調素子の断面図である。
【
図8】電磁波発生装置、コリメータを含む電磁波変調器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電磁波変調素子7及び空間電磁波変調器を実現するための形態について図を参照して説明する。
【0017】
[電磁波変調素子7]
図1は本発明による電磁波変調素子7を示した模式図である。
図1を含め、以下に示す各図は発明の理解を容易にするために各部の大きさや形状、配置を適宜誇張して示している。また、以下の説明では、具体的な形状、材料等を示すが、これらは適宜変更することができる。
【0018】
図1は本発明に係る電磁波変調素子7を端的に表した斜視図である。電磁波変調素子7は、
図1に示すように液層と、電極2とを備え、前記液層は、微粒子1bと分散媒1aとを含む電気泳動液1の層で、前記電極2は、少なくとも2つであり、前記液層の内部に電場を発生可能に構成される。
図2に示すように、電磁波変調素子7は、電圧を印加することで微粒子1bが電気泳動して偏り、屈折率の勾配が生じることで電磁波10を変調して射出する。製造工程におけるダメージや電極2の腐食防止のため、電極2と電気泳動液1との間に保護層が設けられても良い。
【0019】
図3は液層、電極2に加え、透明な第1の板3、透明な第2の板4、セル5を加えた電磁波変調素子7を分解した斜視図である。
図3のように、本発明にかかる電磁波変調素子7は電磁波10の進行方向の軸に対して垂直な第1の板3、第2の板4を前記液層の両側に配置しても良い。さらには、前記液層は前記第1の板3と前記第2の板4の一方を上面とし、前記一方に対する他方を下面とする柱体状又は錐台状(
図4参照)のセル5に内包されても良い。
【0020】
前記液層は少なくとも微粒子1bと分散媒1aを含む電気泳動液1からなる層である。電気泳動液1に電圧を印加することで微粒子1bの濃度勾配が形成され、入射した電磁波10が変調されて射出される。
【0021】
前記微粒子1bを構成する素材は特に限定はされないが、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化クロム、酸化スズ、シリカ、酸化モリブデン、酸化タングステン、チタン酸バリウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、銀、金、チタン、アルミニウム等が挙げられる。なかでも、屈折率が高く電磁波10を変調しやすいため酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化銅、酸化クロムが好ましく、吸収が少ないという観点から酸化チタン、酸化ジルコニウムがさらに好ましい。また、複数種類の材料を組み合わせて構成されても良い。
【0022】
前記微粒子1bの形状は特に限定されず、球体、桿形、柱体、錐体、多面体等のいずれでもよい。分散性や泳動速度の観点から球、桿形、柱体が好ましく、球体がより好ましい。
【0023】
前記微粒子1bの大きさは特に限定されないが、200nm以下が好ましい。200nm以下であれば微粒子1bによる入射光の散乱が少なく、入射光を損なわずに射出することができる。また、微粒子1bを高濃度で安定的に分散させるためには3nm以上が好ましい。3nm以下の微粒子1bでは表面の電荷による反発よりもファンデルワールス力による凝集エネルギーの方が大きくなってしまい、安定的に分散させることが困難である。
前記微粒子1bの大きさは、具体的には、例えば、3,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
前記微粒子1bの表面は修飾されても良い。表面修飾をすることにより微粒子1bの分散維持、凝集防止及び電荷数制御、電解液の粘度調整をすることができる。表面処理の種類としては、例えば鍍金による金属皮膜や金属アルコキシドを用いた無機処理、シランカップリング材や界面活性剤等を用いた有機処理などがある。有機処理により修飾する官能基は、例えば、アルキル基、アリル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ピリジル基、トシル基が選択される。これらの官能基は単独で修飾しても良いし、いくつかを組み合わせて修飾しても良い。
【0025】
前記電気泳動液1の分散媒1aの種類は特に限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチレンクロライド、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、N-メチルピロリドン、ピリジン、アニリン、安息香酸、ヘキサン、オクタン、ジエチルエーテル、ジオキサン等が用いられる。微粒子1bの分散性及び電荷量制御の観点からプロトン性極性溶媒である水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノールが好ましい。また、複数種類の溶媒を混合して用いても良い。
【0026】
前記分散媒1aには微粒子1bの他に添加剤を入れても良い。添加剤を入れることにより微粒子1bの分散維持、凝集防止及び電荷数制御、電解液の粘度調整をすることができる。添加剤としてはポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリスルホン酸、ポリアミン、ポリイミン等の高分子化合物やドデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸、パラトルエンスルホン酸、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、オクチルトリメチルアンモニウム塩等の低分子化合物が用いられる。
【0027】
前記電気泳動液1の粘度の好ましい上限は100cPである。粘度が100cP以下であることで電圧印加時に速やかに濃度勾配を形成し、電磁波10を効率よく変調することができる。前記電気泳動液1の粘度のより好ましい上限は50cPであり、さらに好ましい上限は10cPである。具体的には、例えば、0.1,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100cPであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
前記電気泳動液1の微粒子1bと分散媒1aの屈折率の比は1.3以上であることが好ましい。屈折率の比が大きいことで電圧印加時の屈折率勾配が大きくなり、効率よく電磁波10を変調することができる。
【0029】
前記分散媒1aの屈折率は臨界角法を用いて測定される。臨界角法は屈折率既知のプリズム上に試料を乗せ、その界面すれすれに光を入射した時の臨界角から屈折率を測定する方法である。一方、微粒子1bの屈折率は外挿法を用いる。異なる濃度で微粒子1bが分散している分散液の屈折率から外挿して算出する。本願において屈折率とは、589.3nmの光における屈折率をいう。
【0030】
前記電極2は前記液層に電圧を印加し濃度勾配を生じさせる役割を持つ。電極2は少なくとも2つ以上形成され、それぞれに印加された電圧に応じた電位を液層内に与える。例えば、前記第1の板3及び第2の板4に1つずつ形成した場合には電磁波10の進行方向と平行な勾配が、前記第1の板3と垂直でかつ互いに平行な2つの電極2を形成した場合には電磁波10の進行方向と垂直な勾配が生じる。
【0031】
前記電極2を2つのみ形成した場合には2つの電極間に電圧が印加されるため、濃度勾配の向きは不変となり、電磁波10の変調も一次元的なものとなる。3つの電極2を形成した場合、濃度勾配の向きも制御できるようになり、二次元的な電磁波10の変調が可能となる。さらに4つ以上の電極2を形成することでより複雑な制御が可能となる。
【0032】
前記電極2を構成する素材は特に限定されず、例えばアルミニウム、チタン、金、銀、銅、クロム、モリブデン、タングステン、鉛、スズ、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化亜鉛スズ、ポリエチレンジオキシチオフェン、グラフェンなどが用いられる。また、複数の素材を複合して用いても良い。各電極2を構成する素材はすべて同じでもよいし、それぞれ異なってもよい。
【0033】
前記第1の板3又は第2の板4に平行に形成する電極2は透明電極である方が好ましい。第1の板3及び第2の板4に対して垂直に電磁波10が侵入するため、透明電極であることで入射光を損なわずに射出することができる。なお、本発明において透明電極とは360nmから830nmまでの透過率の積分が50%以上の電極のことをいう。
【0034】
前記電極2は導電材料のみからなる緻密材料でもよいし、絶縁材料と導電材料とを混合したペースト材料でもよい。例えば、UV硬化樹脂に銀粒子を高濃度で分散させたペーストを塗布成膜した後UV照射及び焼成処理を施した膜を電極2として用いてもよい。
【0035】
前記セル5を設ける場合、前記電極2はセル5の外側に形成されてもよいし、セル5と電気泳動液1の間に形成されても良い。
【0036】
本電磁波変調素子7においては、前記保護層を電極2と液層の間に設けてもよく、電極2の電気泳動液1による酸化や、電気泳動液1の電圧印加による電気分解を防ぐ役割を持つ。
【0037】
前記保護層を構成する素材は特に限定されないが、絶縁材料が好ましい。前記保護層を構成する素材としては、例えばアクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ塩化ビニル等の有機材料や二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の無機材料が好ましい。
【0038】
前記保護層の厚みの好ましい下限は10nmであり、上限は1mmである。厚みが10nm以上であれば電極2の酸化や電気泳動液1の電気分解を防ぐことができる。また、1mm以下であれば電気泳動液1内に効率よく電圧を印加することができる。前記保護層の膜厚のより好ましい下限は20nm、上限は500μmであり、さらに好ましい下限は30nm、上限は100μmである。具体的には、例えば、10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000nm、2,3,4,5,6,7,8,9,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000μmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
本電磁波変調素子7は液層の両側に電磁波10の進行方向の軸に対して垂直に前記第1の板3及び第2の板4を設けても良い。前記第1の板3及び第2の板4を設けることで、入射光をより高精細に変調することが可能となる。第1の板3及び第2の板4はリジッドでも良いし、フレキシブルでもよい。
【0040】
前記第1の板3及び第2の板4を構成する素材は特に限定されないが、透過率が90%以上である方が好ましい。透過率が高いことで入射光を損なうことなく効率よく射出することができる。素材としては、例えばガラス、石英、シリコン、酸化アルミニウム、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネートなどが用いられ、これらの素材を組み合わせて構成されても良い。透過率が高く、強度も高いことから、ガラス、石英、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートが好ましい。また、第1の板3及び第2の板4は同じ素材から構成されても良いし、それぞれ異なる素材から構成されてもよい。
【0041】
前記第1の板3及び第2の板4の厚みの好ましい下限は20μm、上限は1cmである。前記第1の板3及び第2の板4の厚みが20μm以上であれば安定して電磁波変調素子7を形成するために十分な強度を得る。また、1cm以下であれば十分な電磁波透過率、放熱性が得られる。より好ましい下限は50μm、上限は5mmであり、さらに好ましい下限は100μm、上限は3mmである。具体的には、例えば、20,30,40,50,60,70,80,90,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000μm、2,3,4,5,6,7,8,9,10mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0042】
本電磁波変調素子7において液層はセル5に内包されても良い。本発明においてセル5とは前記第1の板3と前記第2の板4の一方を上面とし、前記一方に対する他方を下面とする柱体又は錐台状の構造体を指す。セル5を設けることにより前記電気泳動液1のより精細な濃度勾配の形成が可能となり、また本電磁波変調素子7を基板等に密に敷き詰めることが可能となる。
【0043】
セル5を構成する素材は特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ABS樹脂、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、ポリ塩化ビニル等の有機材料や二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ等の無機材料、さらにはシリコン、チタン、アルミニウム、モリブデン、ステンレス、鋼、クロムモリブデン鋼、ジュラルミン、白銅等の金属・合金材料等が用いられる。セル5は一つの材料から構成されても良いし、複数の材料からなる複合材料で構成されても良い。ただし、セル5を構成する材料として導電性材料を用いる場合は前記電極2との短絡を防止するために絶縁材料を組み合わせて用いる。
【0044】
セル5を形成する方法は特に限定されないが、例えばインプリント法が挙げられる。アクリルモノマーやエポキシモノマー等を塗布した基板に対して柱体又は錐台状に加工されたモールドを押し付けて加熱し、樹脂を硬化させる。その後モールドを剥離し、さらにフィルムやガラス板等をラミネートすることでセル5を形成する。また別の方法として、フォトリソグラフィを用いた方法が挙げられる。基板にポジ型のフォトレジストを塗布して固化、露光、現像の手順で柱体又は錐台状の窪みをつくる。さらにフィルムやガラス板等をラミネートすることでセル5を形成する。
【0045】
前記柱体又は錐台状のセル5の底面の形状は特に限定されないが、三角形、四角形、六角形、円形が好ましい。また、セル5は完全に閉じた構造でもよいし、
図5に示すように、一方の底面が一部分もしくは全面開いても良い。
【0046】
前記セル5の好ましい高さの下限は50μm以上であり、好ましい高さの上限は1cmである。高さが50μm以上あれば電磁波10を変調するために十分な光路長を確保できる。また、1cm以下であれば電気泳動液1による入射光の拡散や吸収を防ぎ、効率よく射出することができる。より好ましい高さの下限は75μm、上限は5mmであり、さらに好ましい高さの下限は100μm、上限は1mmである。具体的には、例えば、50,60,70,80,90,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000μm、2,3,4,5,6,7,8,9,10mmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0047】
前記柱体又は錐台状のセル5の大きい方の底面を内包する最小の長方形の面積の好ましい上限は1cm2である。前記面積が1cm2以下であることで電解液の対流を抑え、電気泳動の効率を高めることができる。より好ましい上限は10mm2、さらに好ましい上限は1mm2である。具体的には例えば、0.001,0.002,0.003,0.004,0.005,0.006,0.007,0.008,0.009,0.01,0.05,0.1,0.15,0.2,0.25,0.3,0.35,0.4,0.45,0.5,0.55,0.6,0.65,0.7,0.75,0.8,0.85,0.9,0.95,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70,71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96,97,98,99,100mm2であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0048】
[電磁波変調器]
図6は本発明の実施形態に係る電磁波変調器を示した模式図である。電磁波変調器は、電磁波変調素子7と、素子選択手段と、電圧印加手段とを備え、前記素子選択手段は、複数の前記電磁波変調素子7から1つ以上の前記電磁波変調素子7を選択可能に構成され、前記電圧印加手段は、前記素子選択手段によって選択可能となった複数の前記電磁波変調素子7に所定の電圧を印加可能に構成される。
【0049】
前記電磁波変調器は、電磁波変調素子7と素子選択手段と電圧印加手段とを併せ持つことで、それぞれの電磁波変調素子7を個別に制御することが可能になる。素子選択手段は前記電磁波変調素子7を一つずつ選択しても良いし、複数の電磁波変調素子7を同時に選択しても良い。
【0050】
前記電圧印加手段により印加される電圧は一定の電圧でも良いし、周期的又は非周期的な変化を伴ってもよい。周期的な変化としては、例えば正弦波や矩形波、三角波、鋸歯状波などが用いられる。印加する電圧はすべての素子で同じでも良いし、それぞれ異なっても良い。
【0051】
前記電磁波変調素子7を選択して電圧を印加する手段としては、例えばフォトレジストを用いて基板上にあらかじめ取り出し電極11回路を形成し、前記電磁波変調素子7の電極2と電圧印加装置9の端子とを接続する方法などがある。
【0052】
本電磁波変調器において、前記電磁波変調素子7は面上に二次元配列されても良い。二次元配列することにより偏光制御が容易になる。さらに、平面に二次元配列されても良い。平面に二次元配列されることにより、より簡易かつ高精度に電磁波変調器を製造することができる。実施に当たっては、平面又は曲面を持つ基材12等に電磁波変調素子7を置く等の方法により二次元配列を行う。
【0053】
前記電磁波変調素子7の二次元配列の方法は特に限定されず、規則的に配列しても良いし、不規則に配列してもよい。形成の簡易さ、制御の容易さから三角形、四角形、六角形を敷き詰めた模様に配列するのが好ましい。
【0054】
平面上に前記電磁波変調素子7を配列する際には、電磁波変調素子7同士が接触するよう密に配列しても良いし、それぞれが接触しないよう疎に配列しても良い。密に配列した場合は電磁波変調器の解像度が向上し、疎に配列した場合は透過率が向上する。
【0055】
本発明の電磁波変調器は電磁波発生装置8を含んでいても良い。電磁波発生装置8は電磁波変調素子7の外に配置され、電磁波変調素子7に電磁波10を入射し、これを変調させて電磁波変調器外に射出する。電磁波発生装置8を含むことにより、任意の位置から任意の角度で電磁波10を射出することが可能となり、表示装置や加工装置等として使用することができる。
【0056】
本発明の電磁波変調器は電磁波検出器を含んでいても良い。電磁波検出器は電磁波変調素子7の外に配置され、電磁波変調素子7から射出される電磁波10を検出することができる。電磁波検出器を含むことにより、任意の位置から任意の角度で入射する電磁波10を検出することが可能となり、カメラやセンサー等として使用することができる。
【0057】
前記電磁波発生装置8及び電磁波検出器の波長域としては可視光、紫外線、赤外線、マイクロ波、X線などが用いられるが、なかでも可視光が好ましい。可視光源又は可視光検出器を用いることで、ライトフィールドディスプレイやライトフィールドカメラへの応用が可能となる。
【0058】
前記電磁波発生装置8は可干渉性の高いレーザー等を用いても良いし、可干渉性の低い発光ダイオード等を用いても良い。また、電磁波発生装置8及び電磁波検出器と前記電磁波変調素子7との間にはコリメータ6を設けても良い。
図7は電磁波発生装置8、コリメータ6を含む電磁波変調器の断面図である。このようにコリメータ6を設けることで電磁波10の向きが絞られ、より精密に偏光を制御することができる。
図7は、電磁波発生装置8を電磁波検出器とし、電磁波10の進行方向を逆向きにしても成り立つ。
【0059】
さらに、前記電磁波発生装置8又は電磁波検出器と前記電磁波変調素子7との間にはカラーフィルタを設けても良い。カラーフィルタとは入射した電磁波10のうち特定の波長のみを良く透過させるものをいう。カラーフィルタを設けることで電磁波10を波長分解することができ、より高精細な制御が可能となる。
【0060】
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記電磁波変調素子において、保護層をさらに備え、前記保護層は、前記電極と前記液層の間に配置される、もの。
前記電磁波変調素子において、前記微粒子の直径が200nm以下である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記微粒子の素材は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化銅、又は酸化クロムの少なくとも一つを含む、もの。
前記電磁波変調素子において、前記微粒子の形状は、球、桿形、又は柱体である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記微粒子の表面が有機分子によって修飾されている、もの。
前記電磁波変調素子において、前記有機分子はアルキル基、アリル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、ピリジル基、トシル基のうち少なくとも一つを有する、もの。
前記電磁波変調素子において、前記微粒子の屈折率の、前記分散媒の屈折率に対する比が1.3以上である、もの。
前記電磁波変調素子において、複数の前記電極のうち少なくとも1つは、透明電極である、もの。
前記電磁波変調素子において、第1の板及び第2の板をさらに備え、前記第1の板及び前記第2の板は、前記液層の両側において、前記電磁波の進行方向の軸に対して垂直にそれぞれ並べて配置され、前記電場の発生中に、前記第1の板及び前記第2の板の一方に入射した前記電磁波の位相又は角度が変調されて、他方から前記電磁波が射出されるように構成される、もの。
前記電磁波変調素子において、前記第1の板又は前記第2の板の材質は、ガラス、石英、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートである、もの。
前記電磁波変調素子において、前記第1の板又は前記第2の板の透過率は、90%以上である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記第1の板と前記第2の板の厚さは、20μm以上かつ1cm以下である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記液層は、前記第1の板と前記第2の板の一方を上面とし、前記一方に対する他方を下面とする柱体状又は錐台状のセルに内包されている、もの。
前記電磁波変調素子において、前記セルの前記上面から前記下面までの高さは、50μm以上かつ1cm以下である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記セルの前記下面の面積は、1cm2以下である、もの。
前記電磁波変調素子において、前記電磁波は、光である、もの。
空間電磁波変調器であって、前記電磁波変調素子と、素子選択手段と、電圧印加手段とを備え、前記素子選択手段は、複数の前記電磁波変調素子から1つ以上の前記電磁波変調素子を選択可能に構成され、前記電圧印加手段は、前記素子選択手段によって選択可能となった複数の前記電磁波変調素子に所定の電圧を印加可能に構成される、もの。
前記空間電磁波変調器において、前記電磁波変調素子は、面上に二次元配列される、もの。
前記空間電磁波変調器において、面とは平面である、もの。
空間電磁波変調システムであって、前記空間電磁波変調器と、電磁波発生装置又は電磁波検出器とを備え、前記電磁波発生装置は、前記空間電磁波変調器の外側に配置され、前記電磁波変調素子に電磁波を射出し、前記電磁波検出器は、前記空間電磁波変調器の外側に配置され、前記電磁波の位相又は角度が変調されて前記電磁波変調素子から射出された変調波を検出する、もの。
前記空間電磁波変調システムにおいて、前記電磁波発生装置は、光源であり、前記電磁波検出器は、光検出器である、もの。
前記空間電磁波変調システムにおいて、カラーフィルタを有する、もの。
前記空間電磁波変調システムにおいて、前記電磁波発生装置又は前記電磁波検出器と前記電磁波変調素子との間にコリメータを有する、もの。
もちろん、この限りではない。
【0061】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 :電気泳動液
1a :分散媒
1b :微粒子
2 :電極
3 :第1の板
4 :第2の板
5 :セル
6 :コリメータ
7 :電磁波変調素子
8 :電磁波発生装置
9 :電圧印加装置
10 :電磁波
11 :取り出し電極
12 :基材