(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087735
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】固結用薬液組成物及び補強方法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/66 20060101AFI20220606BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20220606BHJP
C08G 59/08 20060101ALI20220606BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220606BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20220606BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20220606BHJP
【FI】
C08G59/66
C08G59/50
C08G59/08
E02D3/12 101
C09K17/18 P
C09K17/14 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199862
(22)【出願日】2020-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】本村 勇太
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
4J036
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040CA09
2D040CB03
2D040CC00
4H026CB08
4H026CC05
4J036AA01
4J036AF06
4J036DC05
4J036DD02
4J036FA09
4J036FA12
4J036HA12
4J036JA15
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】水の影響を受け難い性質を有しながら、硬化時間が短い固結用薬液組成物、及び、このような固結用薬液を用いた補強方法を提供する。
【解決手段】本発明の固結用薬液組成物は、エポキシ化合物を主成分とするA液と、チオール化合物を主成分とするB液と、A液及びB液のうちの少なくとも一方に含まれる3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。本発明の補強方法は、対象物へ固結用薬液を注入して固結させることによって対象物を補強する補強方法であって、固結用薬液が、エポキシ化合物と、チオール化合物と、3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物を主成分とするA液と、
チオール化合物を主成分とするB液と、
前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方に含まれる3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする固結用薬液組成物。
【請求項2】
前記エポキシ化合物及び前記チオール化合物が、多官能基を有する請求項1に記載の固結用薬液組成物。
【請求項3】
前記A液に含まれる前記エポキシ化合物全体のエポキシ当量をEAとした場合に、100≦EA≦700である請求項1又は2に記載の固結用薬液組成物。
【請求項4】
前記B液に含まれる前記チオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合に、前記EA及び前記EBが、0.2≦EB/EA≦1.5を満たす請求項3に記載の固結用薬液組成物。
【請求項5】
前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方が、更に、有機発泡剤を含む請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項6】
前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方が、更に、難燃剤を含む請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項7】
前記A液の温度25℃における粘度をPAとし、前記B液の温度25℃における粘度PBとした場合に、PA≦5000mPa・s且つPB≦5000mPa・sである請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項8】
前記エポキシ化合物として、ノボラック型エポキシプレポリマーを含む請求項1乃至7のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項9】
前記有機発泡剤が、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボン及びハロゲン化オレフィンのうちの少なくとも1種を含む請求項1乃至8のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項10】
前記難燃剤が、リン含有難燃剤を含む請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の固結用薬液組成物。
【請求項11】
対象物へ固結用薬液を注入して固結させることによって前記対象物を補強する補強方法であって、
前記固結用薬液が、エポキシ化合物と、チオール化合物と、3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする補強方法。
【請求項12】
前記エポキシ化合物及び前記チオール化合物が、多官能基を有する請求項11に記載の補強方法。
【請求項13】
前記固結用薬液に含まれる前記エポキシ化合物全体のエポキシ当量をEAとした場合に、100≦EA≦700である請求項11又は12に記載の補強方法。
【請求項14】
前記固結用薬液に含まれる前記チオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合に、前記EA及び前記EBが、0.2≦EB/EA≦1.5を満たす請求項13に記載の補強方法。
【請求項15】
前記エポキシ化合物は、主成分としてA液に含有され、
前記チオール化合物は、主成分としてB液に含有され、
前記3級アミン化合物は、前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方に含まれ、
前記A液の温度25℃における粘度をPAとし、前記B液の温度25℃における粘度PBとした場合に、PA≦5000mPa・s且つPB≦5000mPa・sである請求項11乃至14のうちのいずれかに記載の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固結用薬液組成物及び補強方法に関する。更に詳しくは、エポキシ化合物とチオール化合物とを含み、対象物の補強に用いる固結用薬液組成物、及び、固結用薬液を用いた補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、地山等の対象物へ注入し、その内部で固結させることによって地山を補強する技術が知られている。例えば、セメントを利用する方法が知られている。セメントは、高強度を得ることができるものの、硬化に1日~数日という時間を要することや、水の影響を受けやすいという課題がある。これに対して、下記特許文献1に開示されるように、ウレタン系材料を用いる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-172777号公報
【特許文献2】特開2020-023867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のウレタン系材料を用いる技術は、高強度な硬化物を得ることができるうえ、数十秒~数分の非常に短い硬化時間を得ることができるという利点を有する。しかしながら、ウレタン形成には、水と反応し易いポリイソシアネートを要する。ポリイソシアネートは水と反応して発泡する性質を有している。一方で、土木工事では湧水を生じることがあり、特に多量の湧水を生じる場合には、ウレタン系材料を用いると発泡倍率をコントロールすることが難しくなり、注入量を設計することが難しくなるという課題がある。
【0005】
他方、ポリイソシアネートを用いない技術として、例えば、エポキシ樹脂の選択が考えられる。エポキシ樹脂は、水の影響を受け難いものの、ウレタンに比較して、硬化に時間を要するという課題がある。
この点、上記特許文献2には、充填後に硬化反応を起こす熱硬化性樹脂を含み、かつ硬化後の圧縮強度が10N/mm2以上である間詰体を用いる技術が開示されている。しかしながら、エポキシ樹脂を利用する場合の課題、特に、硬化時間の問題について言及はなく、また、どのように硬化時間を短縮できるかについてはなんら開示がない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、水の影響を受け難い性質を有しながら、硬化時間が短い固結用薬液組成物、及び、このような固結用薬液を用いた補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
本発明の固結用薬液組成物は、エポキシ化合物を主成分とするA液と、
チオール化合物を主成分とするB液と、
前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方に含まれる3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。
本発明の固結用薬液組成物では、前記エポキシ化合物及び前記チオール化合物が、多官能基を有するものとすることができる。
また、本発明の固結用薬液組成物では、前記A液に含まれる前記エポキシ化合物全体のエポキシ当量をEAとした場合に、100≦EA≦700とすることができる。
更に、本発明の固結用薬液組成物では、前記B液に含まれる前記チオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合に、前記EA及び前記EBは、0.2≦EB/EA≦1.5を満たすものとすることができる。
また、本発明の固結用薬液組成物では、前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方が、更に、有機発泡剤を含むことができる。
更に、本発明の固結用薬液組成物では、前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方が、更に、難燃剤を含むことができる。
また、本発明の固結用薬液組成物では、前記A液の温度25℃における粘度をPAとし、前記B液の温度25℃における粘度PBとした場合に、PA≦5000mPa・s且つPB≦5000mPa・sとすることができる。
更に、本発明の固結用薬液組成物では、前記エポキシ化合物として、ノボラック型エポキシプレポリマーを含むことができる。
また、本発明の固結用薬液組成物では、前記有機発泡剤が、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボン及びハロゲン化オレフィンのうちの少なくとも1種を含むことができる。
更に、本発明の固結用薬液組成物では、前記難燃剤が、リン含有難燃剤を含むことができる。
【0008】
本発明の補強方法は、対象物へ固結用薬液を注入して固結させることによって前記対象物を補強する補強方法であって、
前記固結用薬液が、エポキシ化合物と、チオール化合物と、3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。
本発明の補強方法では、前記エポキシ化合物及び前記チオール化合物が、多官能基を有することができる。
また、本発明の補強方法では、前記固結用薬液に含まれる前記エポキシ化合物全体のエポキシ当量をEAとした場合に、100≦EA≦700とすることができる。
更に、本発明の補強方法では、前記固結用薬液に含まれる前記チオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合に、前記EA及び前記EBは、0.2≦EB/EA≦1.5を満たすことができる。
また、本発明の補強方法では、前記エポキシ化合物は、主成分としてA液に含有され、
前記チオール化合物は、主成分としてB液に含有され、
前記3級アミン化合物は、前記A液及び前記B液のうちの少なくとも一方に含まれ、
前記A液の温度25℃における粘度をPAとし、前記B液の温度25℃における粘度PBとした場合に、PA≦5000mPa・s且つPB≦5000mPa・sであるものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固結用薬液組成物及び補強方法によれば、水の影響を受け難い性質を有しながら、短い硬化時間を得ることができる。
即ち、例えば、ウレタンを用いた固結用薬液組成物を土木建築工事等において利用する場合には、ポリイソシアネートと水との接触を排除することが難い場合もあり、、発泡倍率の正確なコントロールが難しい。これに対して、エポキシ化合物とチオール化合物とを利用する本発明の固結用薬液組成物では、水との接触を生じても、発泡倍率への影響がない。このため、発泡させたい場合は、別途に発泡剤を配合することで、水の影響を排除して、発泡倍率を正確にコントロールできる。即ち、本発明の固結用薬液組成物では、注入量の設計が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構成的な詳細を示すことを意図しておらず、本説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
[1]固結用薬液組成物
本発明の固結用薬液組成物(以下、単に「本組成物」ともいう)は、エポキシ化合物を主成分とするA液と、チオール化合物を主成分とするB液と、A液及びB液のうちの少なくとも一方に含まれる3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明では、固結用薬液組成物は、A液及びB液以外の他液を含んでもよいが、例えば、A液とB液とのみを有する場合は、二液型の固結用薬液組成物であるといえる。また、A液とB液とは、その共存により反応が開始されるため、保存時は、A液とB液とが別々に分離されることが好ましい。しかしながら、A液とB液とが反応されなければ、固結用薬液組成物内において両者は共存されてもよい。従って、本発明では、A液とB液とが別々に分離された状態も、A液とB液とが反応することなく混在された状態も、同様に固結用薬液組成物という。
【0013】
(1)A液
A液は、エポキシ化合物を主成分とする液状物である。即ち、流動性を有する組成物である。具体的な粘度は限定されないが、A液の25℃における粘度をPA(mPa・s)とした場合に、例えば、その上限値は100,000mPa・s以下とすることができ、50,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましく、6,000mPa・s以下が更に好ましく、5,000mPa・s以下が特に好ましく、3,000mPa・s以下がとりわけ好ましい。
また、例えば、下限値は20mPa・s以上にすることができ、100mPa・s以上が好ましく、300mPa・s以上がより好ましく、500mPa・s以上が更に好ましい。
【0014】
上述の各好ましい範囲では、B液と混合した場合に、注入に適した性状を得ることができる。そして、上述の各々の好ましい範囲では、水に希釈され難く、また、排水の白濁等の問題が誘発し難い固結用薬液組成物にすることができる。更に、固結用薬液組成物としての使用時の適度な注入圧力を得ることができる。この時の注入圧力は低い方が注入機器への負荷を低減するので好ましく、注入圧力を低減するためにPA≦5000mPa・sであることが好ましい。
尚、この粘度は、JIS K7117-1に準拠して、25℃において、B型粘度測定装置により測定される値である。また、上述した粘度は、例えば、加熱により低下させて使用することもできる。このため、使用時の粘度とは異なってもよい。
【0015】
(2)エポキシ化合物
エポキシ化合物は、エポキシ基(グリシジル基、-C2H3O)を有する化合物である。エポキシ化合物としては、チオール化合物と架橋可能な化合物、及び、エポキシ化合物同士で架橋可能な化合物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、エポキシ化合物は、エポキシ基を1つのみ有してもよいが、2つ以上を有することが好ましい。即ち、エポキシ化合物は、多官能基(2つ以上のエポキシ基)を有する多官能エポキシ化合物であることが好ましい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0016】
更に、エポキシ化合物としては、架橋可能なエポキシ基を有するプレポリマー(以下、単に「エポキシプレポリマー」ともいう)、及び、架橋可能なエポキシ基を有するモノマー(以下、単に「エポキシモノマー」ともいう)、が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。エポキシ化合物は、エポキシモノマーのみからなってもよく、エポキシプレポリマーのみからなってもよく、エポキシモノマーとエポキシプレポリマーとの混合物であってもよいが、エポキシプレポリマーを含むことが好ましい。
上述のうち、エポキシプレポリマーは、エポキシモノマーを重合して得ることができる。通常、エポキシプレポリマーは分子内に2つ以上の架橋可能なエポキシ基を有するが、この分子内に有するエポキシ基数は限定されず、例えば、2以上10以下とすることができる。
【0017】
上述のうち、エポキシプレポリマーには、エポキシオリゴマー及び未硬化エポキシ樹脂等が含まれる。より具体的には、グリシジルエーテル型エポキシプレポリマー、グリシジルエステル型エポキシプレポリマー、グリシジルアミン型エポキシプレポリマー、脂環式エポキシプレポリマー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。尚、これらのエポキシプレポリマーには、上述の各種エポキシプレポリマーのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等も含まれる。
このうち、グリシジルエーテル型エポキシプレポリマーとしては、ビスフェノールA型エポキシプレポリマー、ビスフェノールF型エポキシプレポリマー、フェノールノボラック型エポキシプレポリマー、クレゾールノボラック型エポキシプレポリマー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
エポキシプレポリマーを用いる場合、そのエポキシ当量EP(g/eq)は限定されないが、例えば、150以上550以下とすることができる。この範囲では、得られる硬化物の機械的強度を大きくしながら、未硬化状態では、エポキシプレポリマーのみで液状を維持し易く、溶剤を利用することなく本組成物に適した流動性を得ることができる。このエポキシ当量EPは、更に、155以上250以下が好ましい。この範囲では、適した注入圧力で利用できる流動性を得やすくすることができる。このエポキシ当量EPは、更には、160以上210以下がより好ましく、165以上190以下が特に好ましい。尚、エポキシ当量EE1は、JIS K7236に準拠して測定される。
【0019】
上述のうち、エポキシモノマーとしては、各種グリシジルエーテル化合物、とりわけ、炭素数3以上20以下のアルキルグリシジルエーテルが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。より具体的には、ブチルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、o-クレジルグリシジルエーテル等の1価のアルキルグリシジルエーテルや、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の2価のアルカンジグリシジルエーテルや、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシトリデカン、1,2-エポキシテトラデカン等のエポキシアルカン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
更には、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレート等のグリシジルエステル化合物、前述の各種エポキシプレポリマーを構成することとなる各種モノマーが挙げられる。即ち、ビスフェノールA型エポキシプレポリマー、ビスフェノールF型エポキシプレポリマー、フェノールノボラック型エポキシモノマー、クレゾールノボラック型エポキシモノマー等のグリシジルエステル型エポキシモノマー、グリシジルアミン型エポキシモノマー、脂環式エポキシモノマー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
エポキシモノマーを用いる場合、そのエポキシ当量EM(g/eq)は限定されないが、例えば、80以上450以下とすることができる。この範囲では、得られる硬化物の機械的強度を大きくしながら、より短い硬化時間を与えることができるとともに、本組成物に対して適した流動性を与えることができる。このエポキシ当量EMは、更に、90以上350以下が好ましく、更には、100以上250以下がより好ましく、120以上180以下が特に好ましい。尚、エポキシ当量EMは、JIS K7236に準拠して測定される。
【0022】
本組成物のA液は、上述のエポキシ化合物のなかでも、得られる硬化物において優れた機械的強度及び耐水性を得ることができるという観点から、芳香族エポキシ化合物を用いることが好ましい。即ち、芳香族エポキシプレポリマー及び/又は芳香族エポキシモノマーを用いることが好ましい。特にA液に含まれるエポキシ化合物全体100質量%に対して、芳香族エポキシ化合物は、50質量%以上、更には60質量%以上含まれることが好ましい。この割合は100質量%であってもよい。即ち、A液に含まれるエポキシ化合物の全量が芳香族エポキシ化合物であってもよい。
【0023】
また、A液は、上述のエポキシ化合物のうち、エポキシプレポリマーを含むことが好ましい。なかでも、フェノールノボラック型エポキシプレポリマーを含むことが好ましい。フェノールノボラック型エポキシプレポリマーの含有により、硬化時間を短縮することができるとともに、高強度の硬化物を得ることができる。更に、A液は、フェノールノボラック型エポキシプレポリマーとビスフェノールF型エポキシプレポリマーとの両方を含むことが好ましい。これにより、硬化時間を短縮しつつ、高強度の硬化物を得ることができるとともに、優れた流動性を得ることができる。
また、上述のエポキシ化合物のうち、エポキシモノマーは、A液の希釈剤として利用することができる。即ち、エポキシモノマーの配合により、A液の粘度より精度よくコントロールすることができる。また、エポキシモノマーの配合により、硬化時間を短縮することができる。
【0024】
A液に含まれるエポキシ化合物全体のエポキシ当量をEA(g/eq)とした場合、エポキシ当量EAは限定されないが、100以上700以下であることが好ましい。この範囲では、良好な架橋構造を得やすく、得られる硬化物において優れた機械的強度を得ることができる。更には、優れた耐水性及び耐薬品性を得ることができる。更に、エポキシ当量EAの上限値は限定されないが、500以下が好ましく、350以下がより好ましく、250以下が更に好ましい。また、エポキシ当量EAの下限値も限定されないが110以上が好ましく、125以上がより好ましく、135以上が更に好ましい。尚、エポキシ当量EAは、A液に含まれるエポキシ化合物のエポキシ当量の加重平均である。
【0025】
A液に含まれるエポキシ化合物は主成分であるが、その具体的な量は限定されず、上述のエポキシ当量EAが満たされることが好ましいが、例えば、A液全体を100質量%とした場合に、エポキシ化合物を35質量%以上含むことができる。また、A液全体に対してエポキシ化合物は100質量%であってもよい。即ち、A液はエポキシ化合物のみからなってもよい。A液におけるエポキシ化合物の好ましい含有量は限定されないが、例えば、その下限は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。一方、その上限は、前述の通り、100質量%であってもよいが、例えば、95質量%以下とすることができ、90質量%以下とすることができる。
【0026】
(3)B液
B液は、チオール化合物を主成分とする液状物である。即ち、流動性を有する組成物である。具体的な粘度は限定されないが、B液の25℃における粘度をPA(mPa・s)とした場合に、例えば、その上限値は100,000mPa・s以下とすることができ、50,000mPa・s以下が好ましく、10,000mPa・s以下がより好ましく、6,000mPa・s以下が更に好ましい。5,000mPa・s以下が特に好ましく、3,000mPa・s以下がとりわけ好ましい。
また、例えば、下限値は20mPa・s以上にすることができ、100mPa・s以上が好ましく、300mPa・s以上がより好ましく、500mPa・s以上が更に好ましい。上述の範囲では、A液と混合した場合に、注入に適した性状を得ることができる。
【0027】
上述の各好ましい範囲では、水に希釈され難く、また、排水の白濁等の問題が誘発し難い固結用薬液組成物にすることができる。更に、固結用薬液組成物としての使用時の適度な注入圧力を得ることができる。この時の注入圧力は低い方が注入機器への負荷を低減するので好ましく、注入圧力を低減するためにPB≦5000mPa・sであることが好ましい。更には、PA≦5000mPa・s且つPB≦5000mPa・sであることがより好ましい。
尚、この粘度は、JIS K7117-1に準拠して、25℃において、B型粘度測定装置により測定される値である。また、上述した粘度は、例えば、加熱により低下させて使用することもできる。このため、使用時の粘度とは異なってもよい。
【0028】
尚、前述したA液の粘度PA(mPa・s)、並びに、上述したB液の粘度PB(mPa・s)は、各々先に記載した好ましい範囲であればよいが、更に、その差が小さいことが好ましい。即ち、例えば、PA/PBは、0.1≦PA/PB≦65が好ましく、0.2≦PA/PB≦60がより好ましく、0.3≦PA/PB≦50が更に好ましく、0.4≦PA/PB≦20が特に好ましく、0.5≦PA/PB≦7.0がとりわけ好ましい。上述の好ましい範囲では、硬化速度をより高めることができる。
【0029】
(4)チオール化合物
チオール化合物は、チオール基(-SH)を有する化合物である。チオール化合物としては、エポキシ化合物と架橋可能な化合物が挙げられる。
また、チオール化合物は、チオール基を1つのみ有してもよいが、2つ以上を有することが好ましい。即ち、チオール化合物は、多官能基(2つ以上のチオール基)を有する多官能チオール化合物であることが好ましい。チオール化合物が多官能チオール化合物である場合、そのチオール基数は限定されないが、例えば、2以上10以下とすることができる。更に、そのチオール基数の上限値は6以下とすることができ、更に4以下とすることができる。また、分子内のチオール基数の下限値は2以上とすることができ、更に3以上とすることができる。
【0030】
尚、チオール化合物が多官能チオール化合物である場合、分子内にチオール基を2つ以上有することによって多官能化されていてもよいが、エポキシ基と架橋し得るチオール基以外の架橋基を有して多官能化されていてもよい。チオール基以外のエポキシ基と架橋可能な官能基としては、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
上述したチオール化合物のうち、分子内にチオール基を複数有することによって多官能化された多官能チオール化合物(ポリチオール化合物)としては、ジチオール化合物、トリチオール化合物、テトラチオール化合物、ペンタチオール化合物、ヘキサチオール化合物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、多官能チオール化合物の基本骨格は限定されず、例えば、脂肪族系多官能チオール化合物、芳香族系多官能チオール化合物、エーテル系多官能チオール化合物、シアヌル酸系チオール化合物、トリアジンン系チオール化合物及びこれら以外の多官能チオール化合物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
上述のうち、脂肪族系多官能チオール化合物は、鎖状炭化水素骨格を有する多官能チオール化合物である。脂肪族系多官能チオール化合物としては、例えば、アルカンジチオール化合物、アルカントリチオール化合物、アルカンテトラチオール化合物、アルカンペンタチオール化合物、アルカンヘキサチオール化合物等が挙げられる。このうち、例えば、アルカンジチオール化合物としては、炭素数2以上20以下のアルカンジチオール化合物を好適に用いることができる。より具体的には、エタンジチオール、プロパンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ペンタンジチオール、ヘキサンジチオール、オクタンジチオール、デカンジチオール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、芳香族系多官能チオール化合物は、芳香環骨格を有する多官能チオール化合物である。芳香族系多官能チオール化合物としては、例えば、ベンゼンジチオール化合物、ベンゼントリチオール化合物、ベンゼンテトラチオール化合物、ベンゼンペンタチオール化合物、ベンゼンヘキサチオール化合物等のベンゼンポリチオール化合物;トルエンジチオール化合物、トルエントリチオール化合物、トルエンテトラチオール化合物、トルエンペンタチオール化合物等のトルエンポリチオール化合物;ナフタレンジチオール化合物、ナフタレントリチオール化合物、ナフタレンテトラチオール化合物、ナフタレンペンタチオール化合物、ナフタレンヘキサチオール化合物等のナフタレンポリチオール化合物などが挙げられる。より具体的には、ベンゼンジチオール、ジクロロベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、チオビスベンゼンチオール、トルエンジチオール、ナフタレンジチオール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
更に、エーテル系多官能チオール化合物は、多価の炭化水素基に結合する2つ以上のエーテル結合を挟んで各末端にチオール基を有する化合物である。エーテル系多官能チオール化合物としては、多価アルコールをベースとしてエーテル結合により複数のチオール基を導入したポリチオール化合物が挙げられる。上記の多価アルコールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。具体的には、
エチレングリコールをベースとするエーテル系多官能チオール化合物としては、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、エチレングリコールビス(2-メルカプトエチル)エーテル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
ブタンジオールをベースとするエーテル系多官能チオール化合物としては、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
トリメチロールプロパンをベースとするエーテル系多官能チオール化合物としては、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
ペンタエリスリトールをベースとするエーテル系多官能チオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、シアヌル酸系チオール化合物は、シアヌル酸に複数のチオール基が導入されたシアヌル酸系誘導体である。シアヌル酸系チオール化合物としては、例えば、トリス[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、トリアジンン系チオール化合物は、トリアジンに複数のチオール基が導入されたトリアジン系誘導体である。トリアジンン系チオール化合物としては、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
その他、例えば、ジメルカプトジエチルスルフィド、1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、1,2-ビス[(2-メルカプトエチル)チオ]-3-メルカプトプロパン、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、及び、各種ビフェニル誘導体が挙げられる。ビフェニル誘導体としては、1,1-ビス・4-(2-メルカプトプロポキシ)フェニルアルカン、ビス・2-(2-メルカプトプロポキシ)-5-メチルフェニルアルカン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリチオール化合物のチオール当量ET(分子量/分子内チオール基数)は限定されないが、例えば、50以上350以下とすることができる(特定の1種のポリチオール化合物のチオール当量ETである)。この範囲では、得られる硬化物の機械的強度を大きくしながら、より短い硬化時間を与えることができるとともに、本組成物に対して適した流動性を与えることができる。このチオール当量ETは、更に、70以上300以下が好ましく、更には、90以上250以下がより好ましく、100以上220以下が特に好ましい。尚、チオール当量ETは、チオール化合物の分子量を、分子内に含まれるチオール基の数で除した値である。
【0039】
本組成物のB液に含まれる上述のチオール化合物は限定されないが、上述のなかでも、エーテル系多官能チオール化合物、特に、多価アルコールをベースとしてエーテル結合により複数のチオール基を導入したポリチオール化合物、更には、トリメチロールプロパンをベースとするエーテル系多官能チオール化合物及びペンタエリスリトールをベースとするエーテル系多官能チオール化合物を好適に利用できる。更に、シアヌル酸に複数のチオール基が導入されたシアヌル酸系誘導体を好適に利用できる。更に、芳香族系多官能チオール化合物を好適に利用できる。これらは、3官能以上のポリチオール化合物を得ることができ、硬化速度を高めることができるという観点から好ましい。
【0040】
また、B液に含まれるチオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合、エポキシ当量EAとチオール当量EBとの相関は限定されないが、例えば、0.1≦EB/EA≦2.0とすることができる。この比は、更に、0.2≦EB/EA≦1.5であることが好ましく、0.2≦EB/EA≦1.3であることがより好ましく、0.3≦EB/EA≦1.2であることが特に好ましい。
尚、B液に含まれるチオール化合物全体のチオール当量は限定されないが、このチオール当量をEBとした場合に、例えば、50以上350以下とすることができる。この範囲では、得られる硬化物の機械的強度を大きくしながら、より短い硬化時間を与えることができるとともに、本組成物に対して適した流動性を与えることができる。このチオール当量EBは、更に、70以上300以下が好ましく、更には、90以上250以下がより好ましく、100以上220以下が特に好ましい。尚、チオール当量EBは、B液に含まれるチオール化合物のチオール当量の加重平均である。
【0041】
B液に含まれるチオール化合物は主成分であるが、その具体的な量は限定されず、上述のチオール当量EBが満たされることが好ましいが、例えば、B液全体を100質量%とした場合に、チオール化合物を30質量%以上含むことができる。また、B液全体に対してチオール化合物は100質量%であってもよい。即ち、B液はチオール化合物のみからなってもよい。B液におけるチオール化合物の好ましい含有量は限定されないが、例えば、その下限は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。一方、その上限は、前述の通り、100質量%であってもよいが、例えば、99質量%以下とすることができ、98質量%以下とすることができる。
【0042】
B液は、上述したチオール化合物以外に、他の活性水素基含有化合物を含むことができる。他の活性水素基含有化合物は、エポキシ化合物と架橋されてもよいが、架橋されなくてもよい。即ち、エポキシ化合物に対する架橋性の有無は限定されない。
他の活性水素基含有化合物は、限定されないが、例えば、ポリアミン化合物、ポリオール化合物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、ポリアミン化合物(活性水素を含んだ複数のアミノ基を有する化合物)としては、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基を含有するポリアミン化合物が挙げられる。より具体的には、脂肪族アミン化合物等が挙げられる。即ち、例えば、エチレンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。その他、アミノエチルピペラジン、ポリエチレンイミン、又は、ダイマー酸ポリアミドアミン等のポリアミドアミン等もポリアミン化合物として用いることができる。
【0043】
B液にポリアミン化合物を含む場合、ポリアミン化合物全体のアミン当量をECとした場合、アミン当量ECと他の化合物の当量との相関は限定されないが、例えば、0.2≦(EB+EC)/EA≦1.5とすることができる。この比は、更に、0.3≦(EB+EC)/EA≦1.4であることが好ましく、0.4≦(EB+EC)/EA≦1.3であることがより好ましく、0.5≦(EB+EC)/EA≦1.2であることが特に好ましい。
尚、アミン当量ECは、B液に含まれる各ポリアミン化合物のアミン当量の加重平均である。また、各ポリアミン化合物のアミン当量は、ポリアミン化合物の分子量を、分子内に含まれる活性水素を有するアミノ基の数で除した値である。
【0044】
更に、他の活性水素基含有化合物としてのポリオール化合物(活性水素を含んだ複数のヒドロキシ基を有する化合物)としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールが挙げられる。更に、エタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。更には、これらの化合物を出発原料として、これらとアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)との付加反応により製造されたもの等が挙げられる。
尚、B液にポリオール化合物を含む場合であっても、エポキシ化合物とポリオール化合物との反応は考慮する必要はなく、前述したEB/EAや、(EB+EC)/EAの好ましい範囲が維持されることが好ましい。
【0045】
(5)3級アミン化合物
本組成物には、更に、3級アミン化合物が含まれる。3級アミン化合物は、アンモニアを構成する全ての水素が他基で置換された構造を有する化合物であり、本組成物内では、エポキシ化合物とチオール化合物との架橋反応を誘発する触媒として寄与させることができる化合物である。
この3級アミン化合物は、A液及びB液のうちの少なくとも一方に含まればよい。即ち、A液に3級アミン化合物が含まれて、且つ、B液に3級アミン化合物が含まれない態様、A液に3級アミン化合物が含まれず、且つ、B液に3級アミン化合物が含まれた態様、A液とB液との両方に3級アミン化合物が含まれた態様、が挙げられる。
【0046】
3級アミン化合物としては、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N,N’-トリエチルアミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン型3級アミン化合物;トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、N,N,N’,N",N"-ペンタメチルジエチレントリアミン等のトリアルキルアミン型3級アミン化合物;シクロヘキシルジメチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、トリシクロヘキシルアミン等のトリシクロアルキルアミン型3級アミン化合物;N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン等のジアミノアルカン型3級アミン化合物;N,N,N’-トリメチルアミノエチルピペラジン、Nメチル-N’-ヒドロキシエチルピペラジン、N-メチルモルフォリン、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、N,N’,N"-トリス(ジメチルアミノプロピル)-ヘキサヒドロ-s-トリアジン等の複素環型3級アミン化合物;アニリン、ジエタノールアニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、2-メチルアニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン、4-ニトロアニリン、2,6-ジメチルアニリン、2,6-ジイソプロピルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ナフチルアミン、1,3-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼンテトラメチレンジアミン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2-(4-アミノフェニル)-2-(3-ヒドロキシフェニル)プロパン、2-(4-アミノフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,4-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン、1,3-ビス[1-(4-アミノフェニル)-1-メチルエチル]ベンゼン等の芳香族型3級アミン化合物;トリエチレンジアミン;などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0047】
3級アミン化合物の配合量は限定されないが、エポキシ化合物100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下を配合することが好ましく、0.5質量部以上20質量部以下とすることがより好ましい。上述の範囲では、優れた硬化速度を得ることができるとともに、得られる硬化物において優れた機械的強度を得ることができる。
【0048】
尚、本組成物には、上述した3級アミン化合物以外にも他の触媒として寄与し得る成分を配合することができる。他の触媒としては、金属触媒、第四アンモニウム塩、3級ホスフィン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
このうち、金属触媒の種類は限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、錫、鉛、ビスマス、亜鉛、鉄、ニッケル、ジルコニウム、コバルト等の有機酸金属塩や有機金属錯体が挙げられる。また、このうち、有機酸金属塩を構成する有機酸としては、酢酸、オクチル酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、ロジン酸等が挙げられる。また、有機金属錯体としては、アセチルアセトン等と上記金属との錯体が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、オクチル酸ビスマス、オクチル酸鉛、オクチル酸鉄、オクチル酸錫、オクチル酸カルシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ネオデカン酸鉛、ネオデカン酸コバルト、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウリレート;アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンジルコニウム、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン錫等が挙げられる。これらの金属塩や金属錯体は、ミネラルスピリット、有機酸、グリコール類、エステル類等の希釈剤に溶解させることにより、取扱い性を向上させて用いることができる。
【0049】
一方、第四アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、プロピルトリメチルアンモニウム、ブチルトリメチルアンモニウム、ペンチルトリメチルアンモニウム、ヘキシルトリメチルアンモニウム、ヘプチルトリメチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、ノニルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ウンデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド等の脂肪族アンモニウム化合物;(2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウム、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム、トリメチルアミノエトキシエタノール等のヒドロキシアンモニウム化合物;1-メチル-1-アザニア-4-アザビシクロ[2,2,2]オクタニウム、1,1-ジメチル-4-メチルピペリジニウム、1-メチルモルホリニウム、1-メチルピペリジニウム、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラフェニルホスホニムブロマイド等の脂環式アンモニウム化合物;などが挙げられる。
【0050】
更に、3級ホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリトリルホスフィン等のトリアリールホスフィン;トリシクロヘキシルホスフィン等のトリシクロアルキルホスフィン;トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィンなどが挙げられる。
【0051】
(6)A液及び/又はB液に含まれ得る他成分
A液及びB液には、上述した各種成分以外にも他の成分を配合することができる。他の成分としては、発泡剤、整泡剤、難燃剤、減粘剤、無機充填剤等の添加剤が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは、A液及びB液のいずれか一方の液に配合してもよいし、A液及びB液の両方に配合してもよい。例えば、発泡剤、難燃剤及び減粘剤をA液に配合することができる。また、例えば、整泡剤をB液に配合することができる。
【0052】
A液に添加剤を配合する場合、例えば、エポキシ化合物100質量部に対して0.1質量部以上60質量部以下の割合で配合することができる。この割合は、更に、0.5質量部以上50質量部以下とすることができ、更には1質量部以上35質量部以下とすることができる。また、B液に添加剤を配合する場合、例えば、エポキシ化合物(A液に含まれる)100質量部に対して0.05質量部以上70質量部以下の割合で配合することができる。この割合は、更に、0.1質量部以上50質量部以下とすることができ、0.5質量部以上30質量部以下とすることができる。
【0053】
上記添加剤のうち発泡剤は、得られる硬化体(硬化物)を発泡させることができる成分である。発泡剤を用いる場合、発泡剤の種類は限定されないが、例えば、有機発泡剤、無機発泡剤等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、有機発泡剤が好ましく、更には、非フロン系発泡剤及び/又はその発生源が好ましくは、具体的には、ハイドロカーボン(HC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)と称されるハロゲン化オレフィン(ハロゲン化アルケン)等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0054】
このうちハイドロカーボンとしては、プロパン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ブタン、イソブタン、ヘキサン、イソヘキサン、ネオヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン等が挙げられる。また、ハイドロフルオロカーボンには、具体的には、ジフルオロメタン(HFC32)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC125)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、及び1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC4310mee)、ジクロロエタン、プロピルクロリド、イソプロピルクロリド、ブチルクロリド、イソブチルクロリド、ペンチルクロリド、イソペンチルクロリド等が挙げられる。更に、ハロゲン化オレフィンとしては、例えば、フッ素及び/又は塩素のハロゲン置換基を有する炭素数2以上6以下の不飽和炭化水素誘導体等が挙げられ、更には、フッ素及び/又は塩素のハロゲン置換基を有する炭素数3以上6以下のアルケン(プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等)が挙げられる。具体的には、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン、フルオロクロロプロペン、トリフルオロモノクロロプロペン、フルオロクロロブテン等が挙げられる。
【0055】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)としては、例えば、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)等のペンタフルオロプロペン;1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ye)等のテトラフルオロプロペン;3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)等のトリフルオロプロペン;テトラフルオロブテン異性体(HFO1354)類;ペンタフルオロブテン異性体(HFO1345)類;1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzz)等のヘキサフルオロブテン異性体(HFO1336)類;ヘプタフルオロブテン異性体(HFO1327)類;ヘプタフルオロペンテン異性体(HFO1447)類;オクタフルオロペンテン異性体(HFO1438)類;ノナフルオロペンテン異性体(HFO1429)類等が挙げられる。
【0056】
また、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)としては、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、ジクロロトリフルオロプロペン(HCFO1223)、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)、1-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zb)、2-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xe)、2-クロロ-2,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xc)、3-クロロ-1,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233ye)、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yc)等が挙げられる。
【0057】
発泡剤を用いる場合、発泡剤の配合量は限定されないものの、例えば、本組成物全体100質量%に対して0.5質量%以上40質量%以下とすることができ、更には、1質量%以上30質量%以下とすることができる。本発明では、水の影響を受けて発泡倍率が変化しないため、発泡剤の添加量によって設計通りの発泡倍率に調整することができる。尚、調整する発泡倍率は10倍以下が好ましい。
【0058】
上記添加剤のうち整泡剤は、本組成物を発泡させる場合に、得られる硬化発泡体を構成するセルの均一性を向上させることができる成分である。整泡剤を用いる場合、整泡剤の種類は限定されないが、例えば、シリコーン、非イオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ラウリル脂肪酸エチレンオキシド付加物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。整泡剤のなかでは、例えば、シリコーン系整泡剤が好ましく、更には、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体等を好適に用いることができる。
【0059】
上記添加剤のうち難燃剤は、得られる硬化体の難燃性を向上させることができる成分である。難燃剤を用いる場合、難燃剤の種類は限定されないが、例えば、有機系難燃剤、無機系難燃剤等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。難燃剤は、有機系難燃剤及び無機系難燃剤に関わらず、例えば、リン含有難燃剤、塩素含有難燃剤、臭素含有難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。更に具体的には、リン含有難燃剤としては、リン酸エステル(ハロゲンを含まないリン酸エステル)、ハロゲン化リン酸エステル、赤リン等を挙げることができる。
これらのなかでは、環境負荷が少なく、発泡性組成物の減粘剤としても機能させることができる点において、リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステル等が好ましい。このうち、リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。また、ハロゲン化リン酸エステルとしては、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、テトラキス(2クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスフェート等が挙げられる。
【0060】
上記添加剤のうち減粘剤は、本組成物、A液及びB液のいずれか又は複数の液の粘度を低下させることができる成分である。通常、減粘剤は、本組成物、A液及びB液において溶解される。減粘剤を用いる場合、減粘剤の種類は限定されないが、例えば、アルコール類、エーテル類、エステル類、石油系炭化水素類等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのうち、アルコール類としては、メタノール、エタノール等が挙げられる。エーテル類としては、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。エステル類としては、プロピレンカーボネート等の環状エステル類;ジカルボン酸メチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類(非環状エステル類)等が挙げられる。
【0061】
上記添加剤のうち無機充填剤は、得られる硬化体(硬化物)の体積を大きくする作用や、得られる硬化体の強度を大きくする作用を有する成分である。無機充填剤を用いる場合、無機充填剤の種類は限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、クレー、タルク、ホワイトカーボン(珪藻土)等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
無機充填剤を用いる場合、無機充填剤の配合量は限定されないものの、例えば、本組成物全体100質量%に対して0.5質量%以上40質量%以下とすることができ、更には、1質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0062】
(7)A液とB液との混合
A液とB液とは、どのように混合してもよく、従来用いられている方法・装置を利用できる。例えば、A液を流通させるA管と、B液を流通させるB管と、を合流させて合流管へと導き、この合流管内で混合することができる。また、この合流管から吐出することにより、吐出混合すること等ができる。このとき、合流管内にスタティックミキサを設置しても良い。
また、A液とB液との混合比は、限定されない。基本的には、前述したA液のエポキシ当量EAとB液のチオール当量EBとの比(EB/EA)の好ましい範囲に収まるように混合されればよいが、例えば、質量比においては、A液を100質量部とした場合に、B液を10質量部以上150質量部以下の範囲で用いることができ、更には、20質量部以上105質量部以下とすることができ、更に25質量部以上95質量部以下とすることができ、更に30質量部以上90質量部以下とすることができ、更に35質量部以上90質量部以下とすることができる。
【0063】
(8)本組成物の反応時間
A液とB液とを混合したときの反応時間(混合から硬化するまでの時間)は、20分以下であることが好ましい。反応時間が20分以下である場合には、冬季等の低温時にも、十分な硬化速度と、得られる硬化体において十分な機械的強度を得ることができる。更に、この反応時間は、1分以上15分以下がより好ましく、1.5分以上8分以下が更に好ましい。上記の好ましい範囲では、注入管の閉塞をより確実に防止するとともに、注入後に注入箇所への十分な浸透時間を与えることができる。
【0064】
(9)本組成物の用途
本組成物は、どのような用途に利用してもよいが、その性質から特に、土木建築分野(土木分野及び建築分野)等において好適に利用される。即ち、本組成物は、例えば、土木建築固結用薬液組成物として利用できる。このうち、例えば、土木分野においては、地山、地中、土壌、地盤、岩盤、これらと構造物(建築構造物)との間隙、更には、構造物内の間隙等へ本組成物を注入し、硬化させることにより、注入箇所の補強することができる。即ち、地山固結用薬液組成物、土壌固結用薬液組成物、地盤固結用薬液組成物、岩盤固結用薬液組成物、構造物固結用薬液組成物等として利用できる。また、建築分野においては、構造物製造時のコンクリート補強、内部間隙の充填、経時劣化した構造物の補強等に利用することができる。
より具体的には、例えば、トンネル工事における補強や、傾斜地、斜面等の法面の補強等に利用できる。即ち、トンネル工事における補強としては、トンネル工事における地山補強、トンネル工事における注入裏込め工法等におけるトンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙の補強や充填、覆工厚の確保や、覆工に掛る土圧の均一化に供することができる。
【0065】
[2]補強方法
本発明の補強方法は、対象物へ固結用薬液を注入して固結させることによって対象物を補強する補強方法であって、
固結用薬液が、エポキシ化合物と、チオール化合物と、3級アミン化合物と、を含むことを特徴とする。
【0066】
上記エポキシ化合物、上記チオール化合物、上記3級アミン化合物については、前述した固結用薬液組成物における各々をそのまま適用できる。また、固結用薬液組成物におけると同様に、固結用薬液には、上記以外の成分(添加剤等)を必要に応じて配合できる。
本方法においては、固結用薬液は、前述の本組成物において、A液とB液とが混合されてなる薬液といえる。但し、本方法では、エポキシ化合物を主成分とするA液と、チオール化合物を主成分とするB液と、以外に、例えば、3級アミン化合物を含むC液を用い、これら3液を混合して得られる固結用薬液を用いることができる。即ち、固結用薬液に含まれるエポキシ化合物、チオール化合物及び3級アミン化合物の各々由来は問わないものである。
【0067】
本方法では、固結用薬液に含まれるエポキシ化合物全体のエポキシ当量をEAとした場合に、エポキシ当量EAは、前述したA液におけるエポキシ当量EAと同様の好ましい値とすることができる。
また、固結用薬液に含まれるチオール化合物全体のチオール当量をEBとした場合に、チオール当量EBについても、前述したB液におけるチオール当量EBと同様の好ましい値とすることができる。
更に、固結用薬液におけるエポキシ当量EAとチオール当量EBとは、前述した固結用薬液組成物における比EB/EAと同様の好ましい値とすることができる。
【0068】
本発明の補強方法において、補強を行う対象物及び注入を行う対象物は限定されないが、特に土木建築分野(土木分野及び建築分野)における対象物が好適である。具体的には、地山、地中、土壌、地盤、岩盤、並びに、これらと構造物(建築構造物)との間隙、更には、構造物内の間隙等が対象物として挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
以下の実施例及び比較例において用いるA液及びB液の特性(粘度)、これらA液及びB液の混合によって固結用薬液組成物を反応させた際の反応時間、反応させて得られる反応生成物(硬化物、固結物)の圧縮強度、反応させて得られる反応生成物(硬化物、固結物)の発泡倍率については、下記手法に従って、測定乃至は評価を行った。
【0071】
(1)粘度の測定
実施例1~18及び比較例1~4の各A液及び各B液の25℃における粘度を、JIS K7117-1に準拠し、B型粘度測定装置(東機産業株式会社製、型式「BII型粘度計(BHII/BLII)」、ロータタイプ:Hロータ/Mロータ)を用いて測定した。得られた値を表1~3に示した。
【0072】
(2)反応時間の測定
25℃の温度に調整した実施例1~18及び比較例1~4の各A液と各B液とを、表1~表2に示す割合(A液を100質量部とした場合のB液の混合量を質量部換算で示した)で混合して固結用薬液組成物とした。
そして、混合した時を反応開始時間とし、得られる反応生成物に串を刺し、内部まで刺さらなくなる時間を反応終了時間として反応時間を計測した。この結果を表1~表2に示した。
【0073】
(3)圧縮強度の測定
25℃の温度に調整した実施例1~18及び比較例1~4の各A液と各B液とを、表1~表2に示す割合(A液を100質量部とした場合のB液の混合量を質量部換算で示した)で、尚且つ、得られる混合物の全量が100mlとなるよう計量したうえで、混合して固結用薬液組成物とした。
この混合状態とした固結用薬液組成物を、混合後、直ちに、内径50mm×高さ120mmの有底円筒型内に投入した。
上記投入の後、蓋をして2時間以上養生したうえで脱型し、得られた脱型物を直径50mm×高さ100mmに切り出して25℃の環境下で24時間以上養生して、反応生成物を得た。得られた反応生成物を、JIS K7220:2006に準拠して圧縮強度の測定を行い、その結果を表1~表2に示した。
【0074】
(4)砂内発泡倍率の測定
(4-1)水なし状態における発泡倍率
25℃の温度に調整した実施例1、3、6、7、9、10、15、16及び18、並びに、比較例4の各A液と各B液とを、表3に示す割合(A液を100質量部とした場合のB液の混合量を質量部換算で示した)で、尚且つ、得られる混合物の全量が100mlとなるよう計量したうえで、混合して固結用薬液組成物とした。
一方で、1号珪砂を詰め込んだ40A(VU直管、旭有機材株式会社製)の樹脂パイプを、注入用パイプとした。そして、上記の混合状態とした固結用薬液組成物を、混合後、直ちに、注入用パイプへ注ぎ込み、珪砂内に固結用薬液組成物を圧入した。その後、25℃の環境下で24時間養生した後、得られた反応生成物(発泡生成物)を脱型し、固結用薬液組成物の注入量と、珪砂の空隙率とから、砂内発泡倍率(水なし)を算出した。この結果は表3に示した。
【0075】
(4-2)水あり状態における発泡倍率
25℃の温度に調整した実施例1、3、6、7、9、10、15、16及び18、並びに、比較例4の各A液と各B液とを、表3に示す割合(A液を100質量部とした場合のB液の混合量を質量部換算で示した)で、尚且つ、得られる混合物の全量が100mlとなるよう計量したうえで、混合して固結用薬液組成物とした。
一方で、1号珪砂を詰め込んだ40A(VU直管、旭有機材株式会社製)の樹脂パイプを用意し、この樹脂パイプ内へ更に水を注ぎ込んで、余分な水を水切りして、注入用パイプとした。そして、上記の混合状態とした固結用薬液組成物を、混合後、直ちに、注入用パイプへ注ぎ込み、珪砂内に固結用薬液組成物を圧入した。その後、25℃の環境下で24時間養生した後、得られた反応生成物(発泡生成物)を脱型し、固結用薬液組成物の注入量と、珪砂の空隙率とから、砂内発泡倍率(水あり)を算出した。この結果は表3に示した。
【0076】
(5)A液及びB液の調製
下記の各成分を利用し、それぞれ、下記表1~表3に示す組合せ及び配合割合で混合して、実施例1~18及び比較例1~4の各A液を得た。
同様に、下記の各成分を利用し、それぞれ、下記表1~表3に示す組合せ及び配合割合で混合して、実施例1~18及び比較例1~4の各B液を得た。
【0077】
(5-1)エポキシ化合物
エポキシ(1):ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名「エポトート YDF-170」
エポキシ(2):フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量180、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名「エポトート YDPN-638」
エポキシ(3):ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量470、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、品名「エポトート YDF-2001」
エポキシ(4):1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ当量150、四日市合成株式会社製、品名「エポゴーセー HD(M)」
【0078】
(5-2)難燃剤・減粘剤・発泡剤
難燃剤(1):トリス(クロロプロピル)ホスフェート、大八化学工業株式会社製、品名「TMCPP」
難燃剤(2):赤燐、燐化学工業株式会社製、品名「ノーバエクセル140」
減粘剤:プロピレンカーボネート、東京化成工業株式会社製、品名「PC」
発泡剤:1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、Honeywell社製、品名「HCFO1233zd」
【0079】
(5-3)ポリイソシアネート
イソシアネート:ポリメリックMDI、万華化学集団株式会社製、品名「PM200」
【0080】
(5-4)チオール化合物
チオール(1):ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、チオール当量130.51、SC有機化学株式会社製、品名「DPMP」
チオール(2):トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、チオール当量175.54、SC有機化学株式会社製、品名「TMMP」
チオール(3):トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、チオール当量132.85、SC有機化学株式会社製、品名「TEMPIC」
【0081】
(5-5)3級アミン化合物
3級アミン(1):トリエチレンジアミン(33%)+ジプロピレングリコール(67%)、花王株式会社製、品名「カオーライザー No.31」
3級アミン(2):N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、花王株式会社製、品名「カオーライザー No.26」
【0082】
(5-6)ポリアミン化合物・ポリオール化合物・整泡剤
ポリアミン:トリエチレンテトラミン、アミン当量25.84、アミン価1450mgKOH/g
ポリオール:ポリエーテルポリオール、分子量2000、水酸基価56mgKOH/g、株式会社アデカ製、品名「アデカポリエーテル BPX-2000」
整泡剤:シリコーン系整泡剤、エボニック・ジャパン株式会社製、品名「テゴスターブ B8450」
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
表1~2の結果から、実施例1~18の固結用薬液組成物では、20分以内(1分50秒~17分30秒)の硬化時間(反応時間)を達することができるうえ、1.1~6.1MPaの優れた圧縮強度を得ることができた。
これに対し、比較例1~3の組成物では、比較例2において固化させることができず、また、比較例1及び3では反応時間が30分以上となったうえ、1MPaの圧縮強度を得ることができなかった。
【0087】
また、表3の結果から、実施例1、3、6、7、9、10、15及び16の各固結用薬液組成物では、水の有無に関わらず、砂内発泡倍率を正確に1倍にコントロールすることができた。即ち、本発明の固結用薬液組成物は、水の存在の有無に関わらず、正確な発泡倍率が得られ、水の影響を受けないものであることが分かる。また、実施例18では、水なし時における砂内発泡倍率が2.4倍であるのに対して、水あり時における砂内発泡倍率は2.2倍となったものの、その差は、0.2倍と小さく、実施例1、3、6、7、9、10、15及び16の各固結用薬液組成物と同等の性能を有するといえる。
これに対し、比較例4の組成物では、水なし時における砂内発泡倍率が1倍であるのに対して、水あり時における砂内発泡倍率が3.6倍となった。即ち、水の影響を受けていることが分かる。
本発明は、土木建築分野(土木分野及び建築分野)等において好適に利用される。このうち、例えば、土木分野においては、地山、地中、土壌、地盤、岩盤、これらと構造物との間隙、更には、構造物内の間隙等へ本組成物を注入し、硬化させることにより、注入箇所の補強することができる。また、建築分野においては、構造物製造時のコンクリート補強、内部間隙の充填、経時劣化した構造物の補強等に利用することができる。
より具体的には、例えば、トンネル工事における補強や、傾斜地、斜面等の法面の補強等に利用できる。即ち、トンネル工事における補強としては、トンネル工事における地山補強、トンネル工事における注入裏込め工法等におけるトンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙の補強や充填、覆工厚の確保や、覆工に掛る土圧の均一化に供することができる。