IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特開2022-87809渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置
<>
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図1
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図2
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図3
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図4
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図5
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図6
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図7
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図8
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図9
  • 特開-渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087809
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】渦流探傷用プローブ、探傷方法および渦流探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/904 20210101AFI20220606BHJP
【FI】
G01N27/904
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180033
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020199386
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 智敏
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DB02
2G053DB03
2G053DB04
(57)【要約】
【課題】リフトオフノイズの影響を受けず、装置の小型化可能な渦流探傷技術を提供する。
【解決手段】検査対象物の検査対象面に密着または近接させて前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行うために、電気絶縁性を有する基板と、基板の一の面に配置され、磁場を発生させて検査対象物に渦電流を生じさせる複数の励磁コイルと、基板の他の面に配置され、励磁コイルとの直交部位を有する複数の検出コイルと、を備え、励磁コイルどうし、および、検出コイルどうしが重なることなく、励磁コイルと検出コイルとは直交部位を除いて平面視にて重なる部分がないように配置されている渦流探傷用プローブである。渦流探傷用プローブを検査対象面に密着させ、または、近接させて探傷検査を行う方法である。信号を増幅するプリアンプを有する渦流探傷用プローブと、マルチプレクサおよび渦流探傷ユニットを有する探傷器と、を備える渦流探傷装置である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の検査対象面に密着または近接させ、前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行う渦流探傷用プローブであって、
電気絶縁性を有する基板と、
前記基板の一の面に配置され、磁場を発生させて前記検査対象物に渦電流を生じさせる複数の励磁コイルと、
前記基板の他の面に配置され、前記励磁コイルとの直交部位を有する複数の検出コイルと、を有し、
前記励磁コイルどうし、および、前記検出コイルどうしが重なることなく、前記励磁コイルと前記検出コイルとは前記直交部位を除いて平面視にて重なる部分がないように配置されていることを特徴とする渦流探傷用プローブ。
【請求項2】
前記電気絶縁性を有する基板が、可撓性を持つことを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷用プローブ。
【請求項3】
一の前記励磁コイルと一の前記検出コイルを一対とし、走査方向にずらして配置すると共に、走査方向に直交する方向に前記励磁コイルと前記検出コイルの一対を複数対並べて整列配置することを特徴とする請求項1または2に記載の渦流探傷用プローブ。
【請求項4】
前記励磁コイルと前記検出コイルを走査方向および走査方向に直交する方向に交互に配置することを特徴とする請求項3に記載の渦流探傷用プローブ。
【請求項5】
前記励磁コイルおよび前記検出コイルの巻き数は1周以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の渦流探傷用プローブ。
【請求項6】
さらに、前記検査対象物側に保護シートと、前記検査対象物に対し背面側に弾性体を充填したケースと、を有していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の渦流探傷用プローブ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の渦流探傷用プローブを検査対象面に押し当て密着させて、前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行うことを特徴とする探傷方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の渦流探傷用プローブを検査対象面の形状に変形させ、検査対象面に近接させて、非接触で前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行うことを特徴とする探傷方法。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の渦流探傷用プローブと、探傷器と、を備えた渦流探傷装置であって、
前記渦流探傷用プローブが、さらに、信号を増幅するプリアンプを有し、
前記探傷器が、前記励磁コイルの信号と前記検出コイルの信号とを切り替え可能に構成されたマルチプレクサと、得られた信号を探傷情報データに変換する渦流探傷ユニットと、を有することを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項10】
さらに、渦流探傷ユニットが、キズの位置情報を把握可能に構成されているとともに、前記探傷情報データを出力可能に構成されていることを特徴とする請求項9に記載の渦流探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管や金属板などに発生した腐食や亀裂を非破壊で検出する渦流探傷用のプローブおよびそれを用いた探傷方法、渦流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、渦流探傷用プローブに用いられるコイルは銅線を複数回巻いて円筒状もしく角筒状にしたものが用いられている(図10(a1))。そのコイルに電流を流して磁界を作り、検査対象物に磁界を通す事で検査対象物内に渦電流を発生させ、その渦電流によって発生した磁界による反発を用いて検査対象物の欠陥を検査するものである。図10に渦電流の発生原理を示す。図10(a1)の斜視図および図10(a2)の上面図に示すように、円筒に銅線を巻いたコイル41に電流40を流した時、発生した磁束42が試験材100を通過して、試験材100に電流40とは逆向きの渦電流21が流れる。また、図10(b1)の斜視図および図10(b2)の上面図に示すように、平面状に形作ったコイルを試験材100の検査対象面に沿わせた場合、コイルに流した電流40とは逆の方向に渦電流21が発生する。
【0003】
たとえば、特許文献1には、探傷コイルを可撓性プリント基板の表裏面にマトリックス状に配置する探傷コイルアレイに対し、マトリックス状コイル一つ一つに電流を流すため、縦の走査線を表、横の走査線を裏に通し、表と裏のコイルを1回路として使う技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、平面渦巻状の長方形や楕円形コイルを直交方向に配置し、その複数個を直線状や千鳥状に配置する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、励磁用コイルと検出用コイルを分け、一様な渦電流を流して、キズにより発生する渦電流を検出し、リフトオフノイズの影響を受けない構造の探傷装置が開示されている。
【0006】
特許文献4および5には、互いに逆方向の渦巻き状に成形された一対のコイル部を接続してなる励磁コイルを基板上に形成するとともに、一方向の渦巻き状に成形された検出コイルを基板上に形成して、これらの基板を上下に積層してコイル対とする渦流探傷プローブが開示されている。
【0007】
特許文献6には、基板上に形成された渦巻状の励磁コイルと検出コイルとの配置位置を合わせた状態で基板を積層したセンサ素子が開示されている。このセンサ素子は、励磁コイルと検出コイルとのコイル形状が略同一のものである。個々のコイルは略矩形状の基板に、対角線を対称軸として一対の渦巻状コイルとして形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-51905号公報
【特許文献2】特開平11-64294号公報
【特許文献3】特開2004-205212号公報
【特許文献4】特開2000- 2689号公報
【特許文献5】特開2002- 62280号公報
【特許文献6】特開2008-197016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1や特許文献2に記載の技術では、渦流探傷用プローブとして、検査面を広範囲に検査するために、マトリックス状に配置したプローブや平面状のコイルを使用している。しかしながら、それぞれのコイルが励磁と検出を兼ねているとき、リフトオフによって変化した渦電流の大きさも測定してしまうなど、リフトオフノイズの影響を受ける問題があった。また、特許文献1に記載の技術では、励磁コイルと検出コイルとを異なるコイルアレイとする必要があり、複雑な構成となる問題があった。
【0010】
特許文献3に記載の技術のように、リフトオフノイズの影響を受けにくくするために、一様に流れる渦電流を用いた場合、一様に流れる電流方向と直交方向のキズに対しては感度良く検出ができる。一方で、電流の方向と同じ方向のキズに対しては渦電流の変化が少なくなり、検出ができない問題があった。また、一様渦電流を用いた励磁コイルと直交方向に配置した検出コイルを用いてキズからの渦電流を検出する特許文献3の装置は、コイルを立体的に配置しないといけないため、装置(プローブ)を小型化できない問題があった。
【0011】
特許文献4~6に記載の渦流探傷用プローブは、励磁コイルと検出コイルとの一部が平面視で交差しているものの、同じ方向に重なっている部分もあり、プローブ内のリフトオフの影響を完全に回避できているとはいえない。特許文献4や5に記載の技術では、リフトオフノイズの位相角を特定の周波数で回避するものであり、リフトオフノイズそのものを低減できていない。特許文献6に記載の技術では、対角線以外のコイル部分が、平面視でほぼ平行に重なってしまう問題がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リフトオフによるノイズの影響を受けずに検査物表面のキズを探傷し、小型化可能な渦流探傷用プローブを提供し、そのプローブを用いた探傷方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決し上記の目的を達成する本発明の渦流探傷用プローブは、検査対象物の検査対象面に密着または近接させ、前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行う渦流探傷用プローブであって、電気絶縁性を有する基板と、前記基板の一の面に配置され、磁場を発生させて前記検査対象物に渦電流を生じさせる複数の励磁コイルと、前記基板の他の面に配置され、前記励磁コイルとの直交部位を有する複数の検出コイルと、を有し、前記励磁コイルどうし、および、前記検出コイルどうしが重なることなく、前記励磁コイルと前記検出コイルとは前記直交部位を除いて平面視にて重なる部分がないように配置されていることを特徴としている。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の探傷方法は、上記渦流探傷用プローブを検査対象面に押し当て密着させて、前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行うこと、または、上記渦流探傷用プローブを検査対象面の形状に変形させ、検査対象面に近接させて、非接触で前記検査対象物に発生した渦電流の変化を検出して探傷検査を行うことを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の渦流探傷装置は、上記渦流探傷用プローブと、探傷器と、を備えた渦流探傷装置であって、前記渦流探傷用プローブが、さらに、信号を増幅するプリアンプを有し、前記探傷器が、前記励磁コイルの信号と前記検出コイルの信号とを切り替え可能に構成されたマルチプレクサと、得られた信号を探傷情報データに変換する渦流探傷ユニットと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の渦流探傷用プローブは、電気絶縁性を有する基板の異なる面に配置した励磁コイルと検出コイルの直交部位で渦電流を検出するようにし、励磁コイルと検出コイルとは直交部位を除いて平面視にて重なる部分がないようにしたので、リフトオフによるノイズの影響を受けずに検査物表面のキズを探傷できるようになった。また、直交部位を複数か所にしたことで全方位の欠陥を検出できる。さらに基板の両面に平面状コイルを配置することで、渦流探傷用プローブを小型化することができた。
【0017】
また、本発明の渦流探傷用プローブは、基板として可撓性を持つものを用い、励磁コイルや検出コイルを配置することが好ましい。検査対象物の形状に沿って変形させたり、密着させたりできるようになり、渦電流の変化を感度よく検知できるようになるからである。
【0018】
また、本発明の渦流探傷用プローブは、励磁コイルと検出コイルを一対とし、走査方向にずらして配置すると共に、走査方向に直交する方向に励磁コイルと検出コイルの一対を複数対並べて整列配置することが好ましい。加えて、励磁コイルと前記検出コイルを走査方向および走査方向に直交する方向に交互に配置することが好ましい。そうすることで、少ないコイル数で、検出部を広範囲に配置することが可能となり、一度に広い面積の探傷を効率よく行うことができるようになるからである。加えて、渦流探傷用プローブの小型化にも寄与する。
【0019】
また、本発明の渦流探傷用プローブは、励磁コイルおよび検出コイルの巻き数は1周以上であることが好ましい。直交部位をより多く構成することができるからである。
【0020】
なお、本発明の渦流探傷用プローブにおいては、検査対象物側に保護シートと、前記検査対象物に対し背面側に弾性体を充填したケースと、を備えていることが好ましい。厳しい環境下での探傷試験に耐え、かつ、複雑な形状の検査対象面にも密着して測定できるようになるからである。
【0021】
また、本発明の探傷方法は、上記渦流探傷プローブを用いて、検査対象面に密着させて探傷検査し、または、検査対象面に合わせて変形させて近接させ、非接触で探傷検査するので、精度よく、キズを見つけることができる。
【0022】
また、本発明の渦流探傷装置は、上記渦流探傷プローブを用いることで、装置を小型化でき、マルチプレクサにより、複数の検知部を用いて、探傷試験できるので、広範囲に精度よく、キズを見つけることができる。
【0023】
さらに、本発明の渦流探傷装置は、渦流探傷ユニットが、キズの位置情報を把握可能に構成されるとともに、前記探傷情報データを出力可能に構成されていることが好ましい。キズの位置を精確に把握するとともに、出力したデータを蓄積して解析し、その後の補修などの判断に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブに用いるコイル配置の一例を示す概略図であって、(a)は平面図を表し、(b)は側面図を表す。
図2】渦流探傷検査における渦電流の方向とキズの検出原理を表す概念図であって、(a1)および(a2)は、プローブの走査方向と直交する方向に延伸したキズの場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示し、(b1)および(b2)は、プローブの走査方向と45°傾斜した方向に延伸したキズの場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示し、(c1)および(c2)は、プローブの走査方向と平行な方向に延伸したキズの場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示す。
図3】本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブに用いるコイル配置の一例を示す概略平面図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブの構成を示す概略図であって、(a)は、斜視図を表し、(b)は、断面概略図を表す。
図5】本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いた配管検査例を示す斜視図であって、(a)は、周方向の一部を検査する例を表し、(b)は、全周を検査する例を表す。
図6】(a)は、本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いたボイラーチューブ検査例を示す断面図であり、(b)は、その部分拡大図である。
図7】(a)~(e)は、上記実施形態にかかる渦流探傷用プローブの他のコイル配置を示す平面図である。
図8】上記実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いた渦流探傷試験のための機器構成を表すブロック図である。
図9】上記実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いて渦流探傷試験を行った一例を示すグラフである。
図10】渦電流の発生概念を表す概念図であって、(a1)および(a2)は、円筒コイルを用いた例の斜視図および上面図をそれぞれ表し、(b1)および(b2)は、平面四角形状コイルを用いた例の斜視図および上面図をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる渦流探傷用プローブに用いるコイル配置の一例を示す概略平面図(a)および側面図(b)である。この実施形態の渦流探傷用プローブ1では、電気絶縁性を有するフィルム状基板2の一の面に励磁コイル3を配置する。この実施形態の励磁コイル3は配置面の平面上に略正方形の渦巻状に巻かれ、中心のスルーホール6から他の面に抜けて、渦巻状の他端とともに、端子5に接続される。また、フィルム状基板2の他の面には、検出コイル4が配置される。検出コイル4は励磁コイル3と同様、配置面の平面上に略正方形の渦巻状に巻かれ、中心のスルーホール6から一の面に抜けて、渦巻状の他端とともに、端子5に接続される。この実施形態では、一の面に配置した励磁コイル3と他の面に配置した検知コイル4は、直交部位7で重なっている。ここで、直交部位とは、平面視で励磁コイル3と検知コイル4とが略直角に交差し、互いに平行な部分が近接しない領域のことをいう。この直交部位7でキズによる渦電流の変化を検知でき、以降、検知部7ともいう。直交部位7は、略正方形に構成され、ほぼ同じ大きさの励磁コイル3および検出コイル4のもっとも外側のコイルの一頂点を挟み直角に延在する両辺のそれぞれ約1/3以上の長さの位置で直角に交差するように構成することが好ましい。直交部位7を広くするほうが渦流探傷用プローブを小型化できる。一方、それぞれの辺の1/2以上の長さの位置で交差するように直交部位7を構成すると、スルーホール6から延びる、他方のコイル用の配線に重なるおそれがあるので好ましくない。図1の例では、一枚のフィルム状基板2の表裏に各コイル3、4を配置しているが、2枚のフィルム状基板2にそれぞれのコイル3、4を配置し、それぞれのコイル3、4が外側になるように貼り合わせてもよい。また、本実施形態では、略正方形の渦巻状にコイルを形成したが、直交部位を形成できれば、コイルの一方、または、両方を略楕円や略長方形、角の面取りなどで構成してもよい。その場合、交差部のコイルが曲線のときには、接線どうしまたは接線と直線とのなす角度を略直角となるようにする。検査対象物の大きさにもよるが、励磁コイル3および検知コイル4は、略正方形のもっとも外側の辺が、5mm程度であることが好ましい。
【0026】
フィルム状基板2は、屈曲性を持つ絶縁材料のフィルムからなるベース層と、必要に応じて接着剤層とをもつことが好ましい。ベース層は、ポリイミド樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド紙基材エポキシ樹脂、ガラス布基材エポキシ樹脂、ガラス基材BTレジンなどを用いることができる。それぞれのコイル3、4は、フィルム状基板2にプリントされた導線であってもよい。フィルム状基板2の厚みは、0.1mm程度が好ましい。
【0027】
図2は、渦流探傷検査における渦電流21の方向とキズ23の検出原理を表す概念図である。図2(a1)および(a2)は、プローブの走査方向22に直交する(90°)方向に延伸したキズ23の場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示す。図2(b1)および(b2)は、プローブの走査方向と45°傾斜した方向に延伸したキズ23の場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示す。図2(c1)および(c2)は、プローブの走査方向と平行な方向に延伸したキズ23の場合の、それぞれ検出前の位置関係と検出時の位置関係を示す。図10(b1)および(b2)に示すように、渦電流21は、励磁コイル3に沿う方向に発生する。この実施形態では、検知部7には、略正方形状の渦電流21の一頂点を挟んで直角に延在する2辺が複数存在する。したがって、どの方向のキズ23が検出部7を通過しても渦電流21の変化を検知することができる。
【0028】
図3は、本実施形態にかかる渦流探傷用プローブ1に用いるコイル配置の一例を示す概略平面図である。図3の例では、図1に示す励磁コイル3と検知コイル4を一対として、プローブ1の走査方向22に直交する方向に16対(チャンネル)一列に配置している。一の面側には、走査方向22にずらして、交互に(千鳥状に)励磁コイル3を配置している。同様に、他の面側には、走査方向22にずらして、交互に(千鳥状に)検知コイル4を配置している。走査方向および走査方向に直交する方向に、隣り合う励磁コイル3と検知コイル4には、直交部位としての検知部7を配している。図3のように、走査方向22とそれに直交する方向に複数のコイル3、4を配置し、隣りあう励磁コイル3および検知コイル4に直交部位7を構成すれば、一対一列に整列して、走査方向22について、全面もれなく検査することができる。図3に示すように励磁コイル3どうし、および、検出コイル4どうしが重なることなく、励磁コイル3と検出コイル4とは直交部位7を除いて平面視にて重なる部分がないように配置することで、リフトオフノイズの影響を受けることなく、キズを検出できる。
【0029】
加えて、複数のコイル3、4をマルチプレクサによって高速に切り替えるマルチ渦流探傷器(ECT)とすることもできる。その構成では、励磁コイル301に対し、検出コイル401だけでなく、検出コイル402でも検出できる。また、励磁コイル302では、検出コイル401、402および403を用いて検出できる。したがって、測定回数が増加し、検出精度の向上が期待できる。
【0030】
図4は、本実施形態にかかる渦流探傷用プローブ1の構成の一例を示す概念図である。図4(a)は、渦流探傷用プローブ1の使用状態の一例を示す斜視図であり、図4(b)は、その渦流探傷用プローブ1の断面図である。渦流探傷用プローブ1の検査対象物100側には、フィルムコイル10の保護シート11として、樹脂シートを備えている。樹脂シートの材質としてはポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ゴム、ナイロンなどの耐摩耗性を有する電気絶縁性材料が好ましい。励磁コイル3または検出コイル4が直接検査対象物100に接触して、擦れて、損傷するのを防ぐことができる。
【0031】
また、検査対象物100に対しフィルムコイル10の背面側には、弾性体9を充填したケース8を備えている。弾性体9の材質としては、ウレタンゴム、ネオプレンゴム、天然ゴムなどや発泡ウレタン、発泡ポリエチレンなどの発泡樹脂、低反発素材などを用いることができる。ケース8の材質としては、硬質プラスチック、金属板が好ましい。渦流探傷用プローブ1を検査対象面に押し付ける際、弾性体9が変形して検査対象物100の検査対象面の形状に倣うことができる。渦流探傷用プローブ1の一端には、フィルムコイル10の端子5に接続したリード線12を接続している。
【0032】
図5は、本実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いた、円筒状配管101の探傷検査方法を示す概念斜視図である。図5(a)は、検査対象物である円筒状配管101の周方向の一部を検査する例を示す。図5(b)は、検査対象物である円筒状配管101の全周を検査する例を示す。配管の形状に沿って、渦流探傷用プローブ1を曲げて密着させ、または、近接させることができ、また、帯状に一周巻くことで、全周の検査を一度に行うことができる。それぞれ、渦流探傷用プローブ1の走査方向22を円筒状配管101の軸方向とすることができる。検査精度の向上や作業の効率化を図ることができる。
【0033】
図6(a)は、本実施形態にかかる渦流探傷用プローブを用いた、ボイラーチューブの探傷検査方法を示す断面図である。図6(b)は、渦流探傷用プローブの一部を含む断面図である。ボイラーチューブは、円筒状配管101どうしをフィン102で溶接接続された複雑な形状をしている。図6の例では、円筒状配管101に本実施形態の渦流探傷用プローブ1を押し付けて、円筒状配管101の略半周に加え、フィン102の一部および溶接部103に沿わせて変形させ、探傷検査することができる。図6(b)の拡大断面図に示すように、フィルムコイル10は、弾性体9側に押し込まれて、保護シート11を介して、検査対象面に密着している。
【0034】
図7は、本実施形態における他のコイル配置を表す渦流探傷用プローブ1の平面図である。図7(a)は、走査方向22に対し45°傾けて、励磁コイル3および検出コイル4を一様に斜向配置するものである。図7(b)は、W字やM字を連続させるように、励磁コイル3および検出コイル4を配置するものである。図7(c)は、走査方向22に直交する方向に、励磁コイル3および検出コイル4をそれぞれ一列に配置するものである。図7(d)は、検査コイル4を走査方向22に直交する方向に一列に配置し、走査方向22に検査コイル4を挟んで、交互に、走査方向22に直交する方向に励磁コイル3を一つ飛ばしに配置するものである。図7(e)は、図3と同様、励磁コイル3と検出コイル4を一対とし、走査方向22にずらして配置し、走査方向22に直交する方向にその一対を複数対並べるとともに、励磁コイル3と検出コイル4を走査方向22および走査方向22に直交する方向に交互に配置する、いわゆる千鳥状に配置するものである。以下の試験では、図7(e)のコイル配置の渦流探傷用プローブ1を用いた。
【0035】
また、励磁コイル3および検出コイル4は、1周以上であることが好ましい。たとえば、1周未満であると、その欠けた部分が、直交部位7に重なると、検出精度が下がってしまうおそれがある。一方、上限は特に設定しないが、あまりに多くすると、線密度が高くなりすぎ、短絡のおそれがあるので、コイル線間は0.1mm程度の隙間で10周程度とすることが好ましい。
【0036】
図8は、本実施形態の渦流探傷用プローブ1を用いた渦流探傷試験のための渦流探傷装置30の機器構成を表すブロック図である。渦流探傷装置30は、渦流探傷用プローブ1と探傷器31とからなる。渦流探傷用プローブ1は、コイルアレイ32とプリアンプ33で構成される。探傷器31はマルチプレクサ34と渦流探傷ユニット35で構成される。コイルアレイ32は、上記したように、基板2上に複数の励磁コイル3と複数の検出コイル4を配置したものである。また、図4に示すように、検査対象物側に保護シート11と、検査対象物に対し背面側に弾性体9を充填したケース8と、を有していることが好ましい。コイルアレイ32で検出された信号はプリアンプ33で増幅されて探傷器31へ送られる。励磁コイル3の信号と検出コイル4の信号とは、マルチプレクサ34によって切り替えられる。得られた信号は渦流探傷ユニット35で探傷情報データに変換される。渦流探傷ユニット35は、得られた探傷情報データを表示可能に構成されることが好ましい。渦流探傷ユニット35で測定した探傷情報データはコントロールPC(パーソナルコンピュータ)36に蓄積され、解析できる。また、エンコーダ37が渦流探傷ユニット35に接続されており、距離測定器38として、キズ位置の情報を探傷情報データに追加し、キズ位置の評価が可能となっている。
【0037】
図9に上記構成の機器で渦流探傷試験した結果の一例を示す。ここでは、コイルアレイで複数のデータを収集したうちの一例である。亀裂の深さとY軸方向の信号変化の大きさがほぼ比例しており、走査方向22に直交する縦方向のキズ(縦割れ)および走査方向22に平行なキズ(横割れ)のいずれも、キズの深さを定量的に検知可能である。
【0038】
本実施形態の渦流探傷装置30は、たとえば、炭素鋼の円筒状配管の表面に高耐食性の合金、たとえば、インコネル等を肉盛溶接で被覆した部品の表面キズの探傷試験に好適に用いることができる。複雑な形状の部品であっても表面キズの深さを精確にかつ定量的に測定できるので、表面キズの深さが高耐食性の被覆層を貫通して、炭素鋼に達する前など、補修時期を適切に判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の渦流探傷用プローブや探傷方法、渦流探傷装置によれば、異なる面に配置した励磁コイルと検出コイルの直交部位で渦電流の変化を検出するようにしたので、リフトオフによるノイズの影響を受けずに検査物表面のキズを精度よく探傷でき、直交部位を複数箇所にしたことでコンパクトなプローブで全方位の欠陥を検出できる。加えて、可撓性を持ったフィルムの両面にコイルを配置することで、様々な形状の試験材に対応することができ、検査精度が向上するので、産業上有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 渦流探傷用プローブ
2 基板(フィルム)
3 励磁コイル
4 検出コイル
5 端子
6 スルーホール
7 検出部(直交部位)
8 ケース
9 弾性体
10 フィルムコイル
11 保護シート
12 リード線
21 渦電流
22 コイルの走査方向
23 キズ
30 渦流探傷装置
31 探傷器
32 コイルアレイ
33 プリアンプ
34 マルチプレクサ
35 渦流探傷ユニット
36 コントロールPC
37 エンコーダ
38 距離測定器
40 電流
41 コイル
42 磁束
100 検査対象物(試験材)
101 円筒状配管
102 フィン
103 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10