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特開2022-87830アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法
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  • 特開-アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法 図1
  • 特開-アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法 図2
  • 特開-アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法 図3
  • 特開-アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087830
(43)【公開日】2022-06-13
(54)【発明の名称】アルミニウム合金、及び、軽量部材の付加製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20220606BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20220606BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220606BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20220606BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220606BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20220606BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C22F1/04 A
B22F9/08 A
B22F9/04 C
B22F10/28
B22F10/64
C22F1/00 602
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 692A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021193699
(22)【出願日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】10 2020 131 823.5
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】503195311
【氏名又は名称】エアバス・ディフェンス・アンド・スペース・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】パルム,フランク
(72)【発明者】
【氏名】シムベック,ダービッド
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BB09
4K017BB12
4K017EA03
4K017FA14
4K017FA17
4K018AA15
4K018BA08
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
4K018KA01
(57)【要約】
【課題】十分に速い冷却速度での付加製造に適した、改良されたアルミニウム合金を提供する。
【解決手段】本発明は、アルミニウム、チタン、スカンジウム及びジルコニウムからなるか、これらと、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、シリコン、鉄、コバルト、ニッケル及びカルシウムから選択される他の金属とからなる合金に関する。アルミニウム合金は、航空機用の軽量部材の付加製造に適する。第1ステップにて、本発明によるアルミニウム合金の粉末は、L-PBFプロセス(レーザー粉末床溶融結合)におけるレーザー溶融などの付加製造によって軽量部材前駆体に作り上げられる。これは、レーザー溶融物の急速な凝固による固溶体中に、チタン、スカンジウム及びジルコニウムを含有する。第2ステップにて、軽量部材前駆体は、250~400℃で二次相を析出して硬化して軽量部材となり、高強度の3Dプリントされた軽量部材が得られる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の合金成分を含むアルミニウム合金:
- 0.1重量%から15.0重量%の含有量のチタン(Ti)、
- 0.1重量%から3.0重量%の含有量のスカンジウム(Sc)、
- 0.1重量%から3.0重量%の含有量のジルコニウム(Zr)、及び、
- 残部をなす、アルミニウム(Al)及び不可避の不純物。
【請求項2】
0.5重量%から5.0重量%の含有量のTi、
0.2重量%から1.5重量%の含有量のSc、及び、
0.2重量%から1.5重量%の含有量のZrを含むことを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
1.0重量%から5.0重量%の含有量、好ましくは1.0重量%から4.0重量%の含有量のTi、
0.5重量%から1.0重量%の含有量のSc、及び、
0.2重量%から0.8重量%の含有量のZrを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれる、一つ、二つ、またはそれ以上の金属を含み、これらの元素のそれぞれの含有量は、個々に次のとおりである請求項1~3のいずれかに記載のアルミニウム合金。
- Ti含有量の、100%まで、好ましくは最大90%、好ましくは最大70%、さらに好ましくは最大50%に相当する。但し、これらの金属のトータルの含有量は、請求項1から3のいずれかのアルミニウム合金における、最大で15重量%、好ましくは最大で10重量%をなす。または、
- 0.1重量%から2重量%である。但し、これらの金属のトータルの含有量は、請求項1から3のいずれかのアルミニウム合金における、最大で15重量%、好ましくは最大で10重量%をなす。
【請求項5】
カルシウム(Ca)を、0.1重量%から5重量%の範囲、好ましくは0.5重量%を超えて5重量%までの範囲、特に好ましくは0.7重量%から3重量%の範囲の含有量で含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
アルミニウム及び不可避の不純物に加えて、アルミニウムよりも、高い蒸発エンタルピー、または、より低い蒸気圧を有する金属のみを含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
マグネシウム及び/またはマンガンを含まないことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
請求項1に記載された合金成分からなることを特徴とするアルミニウム合金。
【請求項9】
不可避不純物を除き、以下からなることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のアルミニウム合金。
- Al、Ti、Sc、Zr、及び、請求項4に記載の1つ、2つ、またはそれ以上の金属。
- Al、Ti、Sc、Zr及びCr。Cr含有量は、0.2重量%から3.5重量%、好ましくは0.5から3.0重量%の範囲内である。
- Al、Ti、Sc、Zr及びNi。Ni含有量は、0.2重量%から2.5重量%、好ましくは0.5重量%から2.0重量%の範囲内である。
- Al、Ti、Sc、Zr及びMo。Mo含有量は、0.1重量%から1.3重量%、好ましくは0.5重量%から1.0重量%の範囲内である。
- Al、Ti、Sc、Zr及びFe。Fe含有量は、0.1重量%から2.5重量%、好ましくは0.5重量%から2.0重量%の範囲内である。
- Al、Ti、Sc、Zr及びCa。Ca含有量は、0.1重量%から5重量%の範囲の、好ましくは0.5重量%を超えて5重量%までの範囲、特に好ましくは0.7重量%から5重量%の範囲内である。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金から軽量部材前駆体を付加製造するための方法であって、以下を含む方法。
a)金属をまとめて溶融させてアルミニウム合金の溶融物とする。
b)アルミニウム合金の溶融物を、強制的に冷却させるか、または、冷却されるようにする。この際、
b1)1,000K/sから10,000,000K/sの冷却速度、特に100,000 K/sから1,000,000K/sの冷却速度での急速固化プロセスにより、例えば、メルトスピニング、ガスまたは水中での粉末噴霧、ストリップキャスティングまたはスプレーフォーミングにより、場合によっては粉末状である、固化されたアルミニウム合金であって、固溶体中にスカンジウムが含まれているものを得る。または、
b2)冷却プロセスにより、固化したアルミニウム合金を得る。
c)ステップb1)またはb2)のアルミニウム合金を粉末に粉砕する。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のアルミニウム合金から軽量部材前駆体を付加製造する方法であって、以下を含む方法。
d)請求項10のステップc)で得られた粉末から粉末床を製造する。
e)粉末床でのレーザー溶融プロセスにて、粉末を局所的にレーザーで溶融し、局所的に溶融した領域を強制的に冷却させるかまたは冷却するようにして、三次元の軽量部材の前駆体の付加製造を行うことで、スカンジウムを固溶体中に備える、アルミニウム合金からの軽量部材の前駆体を得る。
【請求項12】
請求項11に記載の方法で得られた軽量部材前駆体について、前記軽量部材前駆体が析出硬化により硬化する温度で熱処理することを含む、軽量部材を製造する方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法によって得られる軽量部材前駆体。
【請求項14】
請求項12に記載の方法により得られる軽量部材。
【請求項15】
選択的レーザー溶融によって軽量部材前駆体を製造してから、選択的レーザー溶融及びその後の析出硬化を行うことにより軽量部材を製造するための、請求項1~9のいずれかに記載のアルミニウム合金または請求項10に記載の方法によって得られる粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金、このアルミニウム合金からの粉末を使用して軽量部材を付加製造(additive manufacturing)する方法、及びこの方法によって製造される軽量部材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、航空機用の軽量部材を製造するための重要な材料である。航空機に、これらの軽量部材を組み込むことに結びついた航空機の総重量の減少は、燃料コストの削減を可能にする。この目的に使用できるアルミニウム合金は、飛行の安全性の観点から、高い引張強度、延性、靭性、及び耐食性も備えている必要がある。
【0003】
航空機製造に使用できるアルミニウム合金の例は、AA2024、AA7349、及びAA6061という名称の合金である。これらの合金は、ベース金属としてのアルミニウムに加えて、必須の合金パートナーとしてのマグネシウム及び銅を含み、また、必然的または任意選択的に、マンガン、ジルコニウム、クロム、鉄、シリコン、チタン及び/または亜鉛を含む。
【0004】
重要なさらなる発展が、スカンジウム含有アルミニウム合金により示されており、この合金は、例えば、APWorks GmbHから製品名Scalmalloy(登録商標)で市販されて入手可能である。この合金は、上記の合金よりも高い強度、延性、及び耐食性を備えている。全ての遷移金属の中で、スカンジウムは、Al3Scの析出硬化による、強度の最大の増加を示す。スカンジウムのアルミニウムへの低い溶解度のため(約660℃で約0.3重量%)、Scalmalloy(登録商標)は、溶融物の、メルトスピニング(「melt spinning」)といった急速凝固(急速固化)、及び、これに続く、アルミニウムマトリックス中での二次的なAl3Sc-析出物の形成を伴う、析出硬化により製造される必要がある。
【0005】
Scalmalloy(登録商標)の詳細については、刊行物「Scalmalloy(登録商標)-ユニークな、高強度で腐食に影響されないAlMgScZr材料のコンセプト」(“ScalmalloyR- A unique high strength and corrosion insensitive AlMgScZr material concept” (A.J. Bosch, R. Senden, W. Entelmann, M. Knuewer, F. Palm, “Proceedings of the 11th Internacional Conference on Aluminum Alloys in: “Aluminum Alloys: Their physical and mechanical properties”, J. Hirsch, G. Gottstein, B. Skrotzki, Wiley-VCH)、及び、「急速固化処理により調製された過共晶AlSc及びAlMgScエンジニアリング材料の冶金学的特性」(“Metallurgical peculiarities in hyper-eutectic AlSc and AlMgSc engineering materials prepared by rapid solidification processing” (F. Palm, P. Vermeer, W. von Bestenbostel, D. Isheim, R. Schneider (上記引用文献中))が参照される。
【0006】
図1による表1は、航空機用の軽量部材の製造に使用することができる上記のアルミニウム合金の化学組成を示している。
【0007】
Scalmalloy(登録商標)のもう1つの利点は、軽量部材の付加製造に適していることである。ワイヤーアーク付加製造(アークワイヤー蒸着溶接)(WAAM = “Wire Arc Additive Manufacturing”)などのプロセスに加えて、レーザー粉末床溶融結合に特に適している。この付加製造プロセスは、以下にてL-PBFプロセスとも呼ばれる(L PBF = “Laser Powder Bed Fusion”)。このプロセスに使用できる合金の数は限られている。WO2018/144323によると、Scalmalloy(登録商標)、AlSi10Mg、TiAl6V4、CoCr、及びInconel 718の合金でもって、L-PBFプロセスにて信頼性の高い付加製造が可能であるが、現在使用されている5,500を超える合金の大部分は、L-PBFプロセスまたは3Dプリントに使用できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、例えばL-PBFプロセスにおいて、十分に速い冷却速度での付加製造に適した、改良されたアルミニウム合金を提供することにある。
【0009】
この課題は、請求項1に記載のアルミニウム合金によって解決される。有利な改良は、サブクレームの主題である。
【0010】
第1の態様によれば、本発明は、以下の合金成分を含むアルミニウム合金を提供する。
- 0.1~15.0重量%の含有量のTi、
- 0.1~3.0重量%の含有量でSc、
- 0.1~3.0重量%の含有量のZr、
- 残りの、Al、及び、避けられない不純物。
【0011】
Tiの添加には、多くの利点が伴っている。LPB-Fプロセスは、MgまたはZnといった、高い蒸気圧ないしは低い蒸発エンタルピーの金属が存在しないために、安定である。Tiは、結晶グレインの微細化によって強度を高める。この際、一次的にAl3X相(X = Ti、Zr、Sc)が整合析出するのであり、また、Tiを合金に組み込むことによって生じる、高い組織的な過冷却と相まって、核生成サイトとして機能する。その後の熱・後処理中に、二次相が析出硬化するため、強度が増加する。Tiをも含むAlSc合金は、さらに優れた耐食性を示す。
【0012】
Tiは、アルミニウム合金に、ScまたはZrほどには、室温での強度の大きい増加を引き起こさない。急速凝固の間、大部分のTiは、固溶体に溶解したままである。析出物の粗大化は予測よりも遅い。耐疲労性ないし耐クリープ性(creep resistance)が向上する。
【0013】
析出の化学的駆動力ΔFchは、Al3TiよりもAl3Zrの方が有意に大きい。析出中のAl3Tiの弾性ひずみエネルギーΔFel(「析出の弾性ひずみエネルギー;elastic strain energy for precipitation」)は、核形成を防ぎ、Al3Zrの弾性ひずみエネルギーの7倍である。急冷の場合、アルミニウムマトリックスに最大2重量%のTiを強制的に溶解させることができる。
【0014】
アルミニウム合金のL-PBFプロセス(または「選択的レーザー溶融」からのSLMプロセス)による軽量部材の付加製造におけるTiの利点は、低い蒸気圧、もしくは、高い蒸発熱である。Tiの蒸気圧は、ベース金属であるアルミニウムの蒸気圧よりも低い。Tiの蒸発エンタルピーは、ベース金属であるアルミニウムのそれよりも高い。その結果、プロセスの安定性が向上し、マグネシウムを含むアルミニウム合金と比較して、再溶融時に非常に平穏・安定な溶融プール(溶融池)が作成されます。
【0015】
Tiは、凝固中における強い構造的過冷却を保証する。これにより、溶融物中の強力な一次核生成サイトが活性化され、結晶グレインが微細化される。微細なミクロ構造は、ホール-ペッチ(Hall-Petch;強度の増加は、d-1/2に従って、グレインサイズに反比例する)に従ってアルミニウム合金の強度を増加させる。
【0016】
溶融状態にて、Zrは高温でも効果的な核生成サイトを提供する。Al3Zrは、約900℃で既に析出し、したがって、構造的な過冷却によって活性化されうるからである。これとは対照的に、Al3Scは、固相線温度の少し前になって初めて析出する。
【0017】
アルミニウム合金は、Tiを0.5重量%から5.0重量%の含有量で、Scを0.2重量%から1.5重量%の含有量で、Zrを0.2重量%から1.5重量%の含有量で含有するのが好ましい。
【0018】
アルミニウム合金は、Tiを、1.0重量%から5.0重量%、好ましくは1.0重量%から4.0重量%の含有量で、Scを0.5重量%から1.0重量%の含有量で、Zrを0.2重量%から0.8重量%の含有量で含有するのが好ましい。
【0019】
アルミニウム合金は、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、及びニッケル(Ni)からなる群から選ばれる一つ、二つまたは複数の金属を含有するのが好ましい。
これらの元素のそれぞれの含有量は、個々に次のとおりである。
- Ti含有量の、100%まで、好ましくは最大90%、好ましくは最大70%、さらに好ましくは最大50%に相当する。ただし、これらの金属のトータルの含有量は、請求項1~3のいずれかのアルミニウム合金における、最大で15重量%、好ましくは最大で10重量%をなす。または、
- 0.1重量%~2重量%である。ただし、これらの金属のトータルの含有量は、請求項1~3のいずれかに記載のアルミニウム合金における、最大で15重量%、好ましくは最大で10重量%をなす。
【0020】
アルミニウム合金は、アルミニウム及び避けられない不純物に加えて、アルミニウムよりも、高い蒸発熱または低い蒸気圧を有する金属のみを含むことが好ましい。
【0021】
アルミニウム合金は、カルシウム(Ca)を、0.1から5重量%までの範囲、好ましくは0.5重量%を超えて5重量%までの範囲、特に好ましくは0.7重量%から3重量%までの範囲で含有するのが好ましい。カルシウムは、レーザー溶融の際に、酸化カルシウムのコーティングを形成し、合金元素の望ましくない蒸発を防ぐ。
【0022】
アルミニウム合金は、マグネシウム及び/またはマンガンを含まないことが好ましい。
【0023】
アルミニウム合金は、先に述べた合金成分の組み合わせからなるのが好ましい。
【0024】
アルミニウム合金は、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc及びZrからなるか、または、Al、Ti、Sc、Zr、及び、上記の金属の1つまたは2つ以上からなるのが好ましい。
【0025】
アルミニウム合金は、次のようであるのが好ましい。すなわち、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc、Zr及びCrからなり、Cr含有量は、0.2重量%から3.5重量%の範囲内、好ましくは0.5重量%から3.0重量%の範囲内である。
【0026】
アルミニウム合金は、次のようであるのが好ましい。すなわち、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc、Zr及びNiからなり、Ni含有量は、0.2重量%から2.5重量%の範囲内、好ましくは0.5重量%から2.0重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0027】
アルミニウム合金は、次のようであるのが好ましい。すなわち、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc、Zr及びMoからなり、Mo含有量は、0.1重量%から1.3重量%の範囲内、好ましくは0.5重量%から1.0重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0028】
アルミニウム合金は、次のようであるのが好ましい。すなわち、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc、Zr及びFeからなり、Fe含有量は、0.1重量%から2.5重量%の範囲内、好ましくは0.5重量%から2.0重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0029】
アルミニウム合金は、次のようであるのが好ましい。すなわち、避けられない不純物を除き、Al、Ti、Sc、Zr及びCaからなり、Ca含有量は、0.1重量%から5重量%の範囲内、好ましくは0.5重量%を超えて5重量%までの範囲内、特に好ましくは0.7重量%から3重量%の範囲内であるのが好ましい。
【0030】
第2の態様によれば、本発明は、軽量構造部材の前駆体を付加製造するための方法を作り出すのであり、以下を含む。
a)金属をまとめて溶融させてアルミニウム合金の溶融物とする。
b)アルミニウム合金の溶融物を、強制的に冷却させるか、または、冷却されるように放置する。この際、
b1)1,000K/s(K/秒)から10,000,000K/sの冷却速度、特には100,000K/sから1,000,000K/sの冷却速度での急速固化プロセス(例えば、メルトスピニング、ガスまたは水中での粉末噴霧、ストリップキャスティング、またはスプレーフォーミング(spray forming, in-situ compaction))により、場合によっては粉末の形態である、固化されたアルミニウム合金であって、固溶体中にスカンジウムが含まれているものを得る。または、
b2)冷却プロセスにより、固化したアルミニウム合金を得る。
c)ステップb1)またはb2)のアルミニウム合金を粉末に粉砕する。
【0031】
ステップb)またはステップb1)において、冷却速度は、少なくとも1,800Kから500Kの温度範囲で維持されることが好ましい。
【0032】
ステップb)にて溶融アルミニウム合金を冷却する際、るつぼに溶融物をキャストするときのように冷却速度が速すぎるのではない場合、合金元素Ti、Sc及びZrが、主として、大きな一次析出物中に存在するアルミニウムマトリックスが形成される。上記のアルミニウム合金が、1,000K/sから10,000,000K/sといった速度にて非常に急速に冷却される場合、固化したアルミニウム合金は、実質上、固溶体中に上記の合金元素を含む。一次相の析出は急冷により抑制される。溶融物の冷却が速ければ速いほど、一次析出物の含有量は低くなる。これに続く、約250~450℃の温度での析出固化の際、ナノスケールのコヒーレント(整合的)なAl3X相(X = Ti、Zr、Sc)が析出し、アルミニウム合金の強度が大幅に向上することが保証される。
【0033】
ステップe)にて、粉末がレーザービームで溶融した後に、合金元素が、実質上固溶体に固化する非常に急速な冷却が行われる。このプロセスステップには、全体として、所望の合金への再溶解が含まれる。
【0034】
第3の態様によれば、本発明は、先に記載したアルミニウム合金から軽量部材の前駆体を付加製造するための方法を提供する。この方法は、下記を含む。
d)請求項10のステップc)で得られた粉末から粉末床を製造する。
e)粉末床でのレーザー溶融プロセスにて、粉末を局所的にレーザーで溶融し、局所的に溶融した領域を強制的に冷却させるかまたは冷却されるようにして、三次元の軽量部材の前駆体の付加製造を行うことで、スカンジウムを固溶体中に備える、アルミニウム合金からの軽量部材の前駆体を得る。
【0035】
第4の態様によれば、本発明は、先に記載した方法で得られた軽量部材前駆体について、軽量部材前駆体が析出硬化によって硬化する温度で熱処理することを含む軽量部材を製造するための方法を提供する。
【0036】
第5の態様によれば、本発明は、上記の付加製造プロセスによって得られる軽量部材前駆体を提供する。
【0037】
第6の態様によれば、本発明は、上記の硬化プロセスによって得られる軽量部材を提供する。
【0038】
第7の態様によれば、本発明は、選択的レーザー溶融によって軽量部材前駆体を製造してから、選択的レーザー溶融及びその後の析出硬化を行うことによる軽量部材の製造のために、先に記載したアルミニウム合金、または、上記の方法によって得られる粉末を使用すること(粉末の使用)を提供する。
【0039】
例示的な実施形態は、添付の図面を参照して、以下に、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】表1に、航空用軽量部材用の一般的なアルミニウム合金の化学組成を示す。
図2】表2に、最も重要な合金元素の物理的特性を示す。
図3】Scalmalloy(登録商標)の構成元素についての温度の関数としての蒸気圧を示す。
図4】本発明による合金の構成元素についての温度の関数としての蒸気圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、表1中に、航空用の軽量部材の製造に使用されるアルミニウム合金の組成を示す。合金AA2024、AA7349、AA7010及びAA6061には、ジュラルミンのように、マグネシウム及び銅が含まれている。ジュラルミンは、1906年にアルフレッド ウィルムスによって開発されたアルミニウム合金であり、析出硬化によって合金の強度を大幅に高めることができることが認められた。このように達成された強度の増大により、アルミニウムを合金の形態にて、航空に使用することが可能になっている。
【0042】
Scalmalloy(登録商標)の場合のように、スカンジウムを追加することにより、アルミニウムの強度をさらに大幅に向上させることができる。室温でのアルミニウムへのスカンジウムの溶解度が低いため、250℃から450℃の範囲の温度で析出硬化が実行可能となる前に、まず、メルトスピニングなどの急速固化プロセスにて、スカンジウムをアルミニウムに強制的に溶解する必要がある。
【0043】
表1における、2つのアルミニウム合金AlSi10Mg、及びScalmalloy(登録商標)の特徴は、L-PBFプロセスでのレーザー溶融に適していることである。したがって、これら2つの合金は、付加製造によって、航空機用の軽量部材に加工されうる。
【0044】
図2は、表2中に、種々の合金元素の物理的特性を示す。アルミニウムより上方の合金元素は、アルミニウムよりも高い蒸発エンタルピーを有する。アルミニウムより下方のものは、いずれも、アルミニウムよりも低い蒸発エンタルピーを有する。
【0045】
図3は、Scalmalloy(登録商標)の合金成分(合金を構成する元素)についての蒸気圧の温度依存性を示すダイアグラムである。
【0046】
図4は、本発明によるアルミニウム合金の蒸気圧の温度依存性を示すダイアグラムである。
【0047】
以下に、アルミニウム合金、軽量部材前駆体、及び軽量部材の製造方法について説明する。
【0048】
A)アルミニウム合金の製造プロセス
<実施例1 粉末形態のアルミニウム合金の製造>
不活性のるつぼ中にて、0.75重量%のSc、0.35重量%のZr、1.0重量%のTi、及び、97.9重量%のAlが溶融される。溶融物は、さらなる処理の前にホモジナイズされうる。
【0049】
溶融物の第1のフラクションが、不活性のるつぼ中に注がれ、そこで冷却されて固化する。冷却の際に、一次的なAl3Sc、Al3Zr及びAl3Tiの相が析出する。得られた材料は、粉末床での選択的レーザー溶融に使用できる粉末に粉砕される。
【0050】
溶融物の第2のフラクションは、メルトスピニングプロセスにて、回転する水冷銅ローラーに注がれる。溶融物は1,000,000K/sの速度で冷却されて、ストリップ(帯状体)を形成する。溶融物は、非常に急速に冷却されるため、Al3Sc、Al3Zr、及びAl3Tiの形成は、完全に、または実質上抑制される。ストリップは短いフレークにカットされる。
【0051】
2つの冷却プロセスで得られた合金材料は粉末に粉砕され、粉末床での選択的レーザー溶融に使用できる。
【0052】
<実施例2 チタン含有量の異なる粉末形態のアルミニウム合金の製造>
上記の手順が繰り返される。但し、Tiの含有量を3.0重量%、5.0重量%、10.0重量%、及び15.0重量%に増加させ、それに応じてAlの含有量を減少させる。Sc及びZrの含有量は、変化させないままである。
【0053】
<実施例3 バナジウムを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、2.0重量%のバナジウムが、さらに、るつぼに入れられ、Ti、Sc及びZrの含量は一定に保たれる。
【0054】
<実施例4 ニッケルを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、1.2重量%のニッケルが、さらに、るつぼに入れられ、Ti、Sc及びZrの含量は一定に保たれる。
【0055】
<実施例5 クロムバナジウムを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、1.0重量%のバナジウム、及び2.0重量%のクロムが、さらに、るつぼに入れられ、チタンの含有量が5重量%に増加させられる。Zrの含有量は変化させないままである。
【0056】
B)L-PBFプロセスにて軽量部材前駆体を製造するプロセス
上記の実施例1~5のそれぞれからの各アルミニウム合金粉末を、選択的レーザー溶融による付加製造のための設備中に配置して、粉末床を形成する。レーザービームは、デジタル情報に従って3次元の粉末床上を移動する。この際、粉末床は、段階的に高さが低くなり、新しい粉末層が被せられる。点状に溶融したアルミニウム合金の冷却は、次のとおりとなるように非常に迅速に行われる。すなわち、スカンジウム、ジルコニウム、及びチタンは、アルミニウム合金の他の組成に関係なく、また粉末が通常の冷却または急速冷却(例えば、1,000,000K/sの速度での冷却)のどちらで製造されたかに関係なく、固溶体をなすように、完全に、または実質上(substantially)、または主として(predominantly;過半が)、凍結(固化)される。スキャンプロセス(scanning process)が完了した後、アルミニウム合金の部材前駆体が粉末床から引き離される。
【0057】
C)軽量部材の製造方法
B)にて製造された部材前駆体は、250℃から450℃、好ましくは300℃から400℃、さらに好ましくは325℃から350℃の範囲内といった温度に加熱される。この際、種々のAl3X相(X = Ti、Zr、Sc、または個々の元素の、任意所望の非化学量論的混合物)の析出が生じる。Al3Tiも析出されるが、Al3Sc及びAl3Zrと比較すると、チタン成分における主たる部分または過半が固溶体のままである。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】