(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087852
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】培養装置、担体支持装置、および培養対象の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220607BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019152409
(22)【出願日】2019-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019078903
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】都筑 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】岩越 万里
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB04
4B029CC01
4B029DA04
4B029DB01
4B029DB19
4B029DC05
4B029DC07
4B029DG06
4B029GA08
4B029GB01
4B029GB07
4B029GB08
4B065AA83X
4B065BC41
4B065BC48
4B065BC50
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA54
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】例えばプールやタンクのみを用いて培養対象を培養する場合と比較して、培養の効率を向上させることが可能な培養装置などを提供する。
【解決手段】培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体と、担体に光を照射する照射部と、担体から流下する培養液を貯留するとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、培養部に貯留される培養液を攪拌する攪拌部と、培養部で貯留される培養液を担体に供給する供給部とを備える培養装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体と、
前記担体から流下する培養液を受けるとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、
前記培養部から流出する培養液を前記担体に供給する第1供給部と、
前記培養部から流出する培養液を当該培養部に供給し、当該培養部内において培養液の流れを生じさせる第2供給部と
を備える
培養装置。
【請求項2】
培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体と、
前記担体に光を照射する照射部と、
前記担体から流下する培養液を貯留するとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、
前記培養部に貯留される培養液を攪拌する攪拌部と、
前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給する供給部と
を備える
培養装置。
【請求項3】
前記培養液に対してガスを供給するガス供給部を有する
請求項1または2記載の培養装置。
【請求項4】
前記ガス供給部は、前記担体に向けて炭酸ガスを供給する
請求項3記載の培養装置。
【請求項5】
前記培養部の前記通過領域を介して培養液に光を照射する他の照射部を有する
請求項1乃至4のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項6】
前記培養部は、上方が開放され貯留する培養液が外気と接触可能な貯留槽を有する
請求項1乃至5のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項7】
前記貯留槽は、貯留する培養液の液面における最大幅が、貯留する培養液の最大深さよりも大きい
請求項6記載の培養装置。
【請求項8】
前記担体は、
平板状の部分である平板部を有し、
前記平板部において当該平板部の厚み方向に貫通し、培養対象が通過可能な寸法である貫通孔を有する
請求項1乃至7のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項9】
前記担体は、前記照射部によって照射される光を透過可能な部材を備える
請求項1乃至8のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項10】
前記担体は、樹脂製の糸状部材を複数組み合わせて形成される網体である
請求項1乃至9のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項11】
前記担体は複数設けられ、
内部に前記担体のいずれかを収容する複数の収容体を有する
請求項1乃至10のいずれか1項記載の培養装置。
【請求項12】
前記担体は、互いに対向して設けられる第1対向部および第2対向部を有し、
前記ガス供給部は、前記担体の前記第1対向部および前記第2対向部により挟まれる空間内に供給口が位置し、当該供給口から当該空間にガスを供給する
請求項3記載の培養装置。
【請求項13】
前記担体は、前記第1対向部および前記第2対向部の間を連続させる連続部を有し、
前記供給部は、前記担体における前記連続部の上方に他の供給口が位置し、当該他の供給口から当該連続部に培養液を落下させる
請求項12記載の培養装置。
【請求項14】
培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体を支持する支持部と、
前記担体に光を照射する照射部と、
前記担体から流下する培養液を貯留するとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、
前記培養部に貯留される培養液を攪拌する攪拌部と、
前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給する供給部と
を備える
担体支持装置。
【請求項15】
培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体に光を照射するステップと、
前記担体から流下する培養液を貯留する培養部において、培養液に向けて光を通過させ、培養液を攪拌し、培養対象を培養するステップと、
前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給するステップと
を含む培養対象の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置、担体支持装置、および培養対象の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、温暖化ガスの排出を可及的に抑える取り組み等が各国の産業界に強く求められている。クロレラ等の微細藻類や光合成細菌などの微生物は、CO2を排出しないでエネルギー生産が可能な資源その他の産業上利用可能な資源として非常に有望視されており、商業レベルでの活用および効率的な製造に期待が寄せられている。
【0003】
微細藻類をエネルギー資源その他の産業上の利用に供するためには、できるだけ低いコストで生産することが要求される。そして、微細藻類の培養システムとして、大規模なプールやタンクを用いて、微細藻類を水中で大量に培養するシステムが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、光合成微細藻類と培養液の混合液を収容する培養槽(又は培養池)において、光合成微細藻類として、光を吸収し二酸化炭素を取り込み光合成を行うことで油を生成する光合成微細藻類を用い、油を生成した光合成微細藻類を、回収手段によって、浮上している状態で回収するようにし、その結果、培養した光合成微細藻類に同伴される培養液を大幅に低減する光合成微細藻類培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばプールやタンクを用いて培養対象を培養する場合において、培養の効率を向上させることが要求されている。
そこで、本発明は、例えばプールやタンクのみを用いて培養対象を培養する場合と比較して、培養の効率を向上させることが可能な培養装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的のもと、本明細書に開示される技術は、培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体と、前記担体から流下する培養液を受けるとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、前記培養部から流出する培養液を前記担体に供給する第1供給部と、前記培養部から流出する培養液を当該培養部に供給し、当該培養部内において培養液の流れを生じさせる第2供給部とを備える培養装置である。
【0008】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体と、前記担体に光を照射する照射部と、前記担体から流下する培養液を貯留するとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、前記培養部に貯留される培養液を攪拌する攪拌部と、前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給する供給部とを備える培養装置である。
ここで、前記培養液に対してガスを供給するガス供給部を有するとよい。
また、前記ガス供給部は、前記担体に向けて炭酸ガスを供給するとよい。
また、前記培養部の前記通過領域を介して培養液に光を照射する他の照射部を有するとよい。
また、前記培養部は、上方が開放され貯留する培養液が外気と接触可能な貯留槽を有するとよい。
また、前記貯留槽は、貯留する培養液の液面における最大幅が、貯留する培養液の最大深さよりも大きいとよい。
また、前記担体は、平板状の部分である平板部を有し、前記平板部において当該平板部の厚み方向に貫通し、培養対象が通過可能な寸法である貫通孔を有するとよい。
また、前記担体は、前記照射部によって照射される光を透過可能な部材を備えるとよい。
また、前記担体は、樹脂製の糸状部材を複数組み合わせて形成される網体であるとよい。
また、前記担体は複数設けられ、内部に前記担体のいずれかを収容する複数の収容体を有するとよい。
また、前記担体は、互いに対向して設けられる第1対向部および第2対向部を有し、前記ガス供給部は、前記担体の前記第1対向部および前記第2対向部により挟まれる空間内に供給口が位置し、当該供給口から当該空間にガスを供給するとよい。
また、前記担体は、前記第1対向部および前記第2対向部の間を連続させる連続部を有し、前記供給部は、前記担体における前記連続部の上方に他の供給口が位置し、当該他の供給口から当該連続部に培養液を落下させるとよい。
【0009】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体を支持する支持部と、前記担体に光を照射する照射部と、前記担体から流下する培養液を貯留するとともに、培養液に向かう光が通過する通過領域を有し、培養対象を培養する培養部と、前記培養部に貯留される培養液を攪拌する攪拌部と、前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給する供給部とを備える担体支持装置である。
【0010】
他の観点から捉えると、本明細書に開示される技術は、培養対象を含む培養液が表面および/または内部を流下する担体に光を照射するステップと、前記担体から流下する培養液を貯留する培養部において、培養液に向けて光を通過させ、培養液を攪拌し、培養対象を培養するステップと、前記培養部で貯留される培養液を前記担体に供給するステップとを含む培養対象の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に開示される技術によれば、例えばプールやタンクのみを用いて培養対象を培養する場合と比較して、培養の効率を向上させることが可能な培養装置などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係る培養システムを示す概略構成図である。
【
図6】(a)乃至(d)は、実験1乃至4の条件を説明する図である。
【
図7】実験1乃至4における収穫量を示すテーブルである。
【
図8】培養システムにおける微生物の製造方法動作を説明するフローチャートである。
【
図9】本実施の形態における変形例を説明する図である。
【
図10】本実施の形態における変形例を説明する図である。
【
図11】本実施の形態における変形例を説明する図である。
【
図12】本実施の形態における他の変形例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の微生物培養システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
<培養システム1>
図1は、本実施の形態に係る培養システム1を示す概略構成図である。
まず、
図1を参照して、本実施の形態が適用される培養システム1の概略構成を説明する。
【0014】
図1に示すように、培養装置の一例である培養システム1は、微生物を含む培養液が供給される担体ユニット10と、微生物を培養する培養ユニット30と、微生物を含む培養液を循環させる培養液循環ユニット50と、担体ユニット10にガスを供給するガス供給ユニット60と、担体ユニット10に光を照射する担体照射ユニット70と、培養ユニット30に光を照射する培養照射ユニット80と、各構成部材を制御する制御ユニット90とを有する。
【0015】
なお、以下の説明においては、
図1に示す培養システム1の上下方向を、単に上下方向ということがある。また、培養システム1の幅方向を、単に幅方向ということがある。また、培養システム1における上下方向および幅方向と交差する方向を、単に奥行方向ということがある。
【0016】
図1に示すように、担体ユニット10は、微生物を含む培養液が供給される担体12と、担体12の外周を覆うカバー15と、担体12およびカバー15を支持する支持体17とを有する。図示の例においては、カバー15に収容された担体12が、奥行方向に複数(2つ)並べて設けられている。収容体の一例であるカバー15内においては、微生物を含む培養液が担体12に沿って流れ落ちるとともに、光が照射されかつ炭酸ガスが供給される。担体ユニット10の詳細については後述する。
【0017】
培養部の一例である培養ユニット30は、培養液が貯留されるとともに微生物が培養される培養槽31と、培養槽31内の培養液を攪拌する攪拌器35と、培養した微生物をろ過するろ過器37とを有する。
【0018】
培養槽31は、上下方向上側が開放されている容器である。この培養槽31においては、貯留する培養液が外気と接触可能である。すなわち、培養槽31は、外気を内部に取り込む開口を有する構成である。また、培養槽31は、培養照射ユニット80が照射する光に対して透明な樹脂やガラスなどで形成される。すなわち、培養槽31の側面は、培養液に向かう光を通過させる通過領域として機能する。
【0019】
攪拌部の一例である攪拌器35は、培養槽31内に設けられた不図示の回転子を回転させることにより、培養槽31内の培養液を攪拌する。ここで、攪拌器35は、培養槽31内の培養液をかき混ぜることが可能であれば、回転子を用いる構成に限定されない。例えば、培養槽31内に炭酸ガスなどの気体や、培養液などの液体を供給することで培養液を攪拌してもよい。また、例えば超音波などにより、培養槽31を振動させることで培養液を攪拌してもよい。
【0020】
ろ過器37は、培養槽31から、培養された微生物を培養液とともに受ける。そして、ろ過器37は、培養液からろ過により微生物を分離することで微生物を回収する。なお、ろ過器37によって微生物が分離された培養液、すなわちろ液は、廃棄されてもよいし、培養槽31へ供給し、再び微生物の培養に利用してもよい。
【0021】
供給部の一例である培養液循環ユニット50は、担体ユニット10に培養液を供給する第1配管51と、担体ユニット10から培養液を回収する第2配管53と、培養槽31から培養液を循環させる第3配管57と、培養液を循環させる駆動源であるポンプ59とを有する。培養液循環ユニット50は、ポンプ59によって培養槽31から担体ユニット10に微生物および培養液を供給し、担体ユニット10から培養液とともに微生物を培養槽31へと回収することを繰り返すことで、微生物および培養液を循環させる。なお、図示の培養ユニット30は、担体ユニット10の上下方向下側からずれた位置に配置されている。すなわち、培養ユニット30は、担体ユニット10とは異なる地点に設けられている。図示の例においては、第1配管51、第2配管53、および第3配管57によって、異なる地点に設けられ互いに離間した担体ユニット10および培養ユニット30が互いに接続される。
【0022】
ガス供給部の一例であるガス供給ユニット60は、炭酸ガスを圧縮して収容するガスボンベ61と、ガスボンベ61から供給される炭酸ガスを担体ユニット10に供給するガス配管63とを有する。
照射部の一例である担体照射ユニット70は、担体ユニット10を挟んで奥行方向両側から担体ユニット10に向けて光を照射する第1照射パネル71および第2照射パネル73を有する。図示の例においては、第1照射パネル71および第2照射パネル73は、担体ユニット10に対向配置する略板状の形状である。第1照射パネル71および第2照射パネル73は、例えば、光源として蛍光灯、有機ELまたはLED等を配列しており、微生物の増殖に適した波長や光量の光を照射するように構成されている。第1照射パネル71および第2照射パネル73が照射する光の波長は、例えば380~780nmの範囲である。また、第1照射パネル71および第2照射パネル73は、例えば赤色光のみで増殖が可能な微生物に対しては、赤色光のみを照射できるとよい。
【0023】
他の照射部の一例である培養照射ユニット80は、培養槽31を挟んで奥行方向両側から担体ユニット10に向けて光を照射する第1照射パネル81および第2照射パネル83を有する。この第1照射パネル81および第2照射パネル83は、第1照射パネル71および第2照射パネル73と同様に構成されている。さらに説明をすると、第1照射パネル81および第2照射パネル83は、例えば、光源として蛍光灯、有機ELまたはLED等を配列しており、微生物の増殖に適した波長や光量の光を照射するように構成されている。第1照射パネル81および第2照射パネル83が照射する光の波長は、例えば380~780nmの範囲である。また、第1照射パネル81および第2照射パネル83は、例えば赤色光のみで増殖が可能な微生物に対しては、赤色光のみを照射できるとよい。図示の例においては、第1照射パネル81および第2照射パネル83は、担体ユニット10に対向配置する略板状の形状であるが、培養槽31に光を照射可能であれば、例えば上下方向上側からのみ照射するなど、構造は特に限定されない。
【0024】
制御ユニット90は、コンピュータなどにより構成され、培養システム1の構成部材を制御する。例えば、制御ユニット90は、培養液循環ユニット50の動作タイミングを制御する。
【0025】
培養システム1においては、培養ユニット30で微生物が培養される。そして、培養液循環ユニット50によって微生物を含む培養液を循環させながら、担体ユニット10で微生物および培養液への炭酸ガスの供給および光の照射が実行される。すなわち、担体ユニット10において、微生物が光合成を行なうのに必要な炭酸ガスおよび光エネルギーが供給される。そして、微生物および培養液が再び培養ユニット30へと導かれ、培養ユニット30において微生物が培養される。また、培養ユニット30においては、培養照射ユニット80によって光が照射されることにより、微生物の培養が促進される。
【0026】
なお、培養システム1においては、培養液が培養ユニット30を通過するのに要する時間は、培養液が担体ユニット10を通過するのに要する時間よりも長い。言い替えると、培養液が培養槽31に貯留される時間は、培養液が担体12を流れ落ちる時間よりも長い。また、ある時点において、培養槽31に貯留される培養液の量は、カバー15内に存在する培養液の量よりも多い。
【0027】
ここで、培養対象とする微生物は例えば光合成微細藻類である。なお、光合成を行わずに増殖できる微生物を培養する場合においては、培養システム1が担体照射ユニット70および培養照射ユニット80を備えなくてもよい。
また、培養液としては、微細藻類を通常の方法により培養して、微生物の濃度を高めることが可能な培地の希釈液であれば、特に制限されない。培地としては、例えばCHU培地、JM培地、MDM培地などの一般的な無機培地を用いることができる。さらに、培地としては、ガンボーグB5培地、BG11培地、HSM培地の各種培地の希釈液が好ましい。無機培地には、窒素源としてCa(NO3)2・4H2OやKNO3、NH4Clが、その他の主要な栄養成分としてKH3PO4やMgSO4・7H2O、FeSO4・7H2Oなどが含まれる。また、培地には、微細藻類の生育に影響を与えない抗生物質等を添加してもよい。培地のpHは4~10が好ましい。また、各種産業から排出される廃水等を利用してもよい。
【0028】
<担体ユニット10>
図2は、担体12の斜視図である。
図3は、担体ユニット10の概略構成図である。
次に、
図1乃至
図3を参照しながら、担体ユニット10の詳細構成を説明する。
上記のように、担体ユニット10は、担体12と、カバー15と、支持体17とを有する。以下、各々の構成について説明をする。
【0029】
まず、担体12について説明をする。
図2に示すように、担体12は、微生物を含む培養液が通過する板状部材である。図示の担体12は、正面視略長方形の布部材である。より具体的には、担体12は、可撓性を有する部材、より具体的にはポリエステルなどの樹脂繊維により構成されている。また、図示の担体12は、第1照射パネル71および第2照射パネル73から照射される光の少なくとも一部を透過する糸状部材により形成される。なお、担体12の材質は特に限定されるものではなく、綿、絹、毛、アクリル等を用いてもよい。
【0030】
ここで、担体12は、担体12の長手方向に沿って配置される縦糸126と、担体12の長手方向と交差する方向(幅方向)に沿って配置される複数の横糸127とを有する。縦糸126は、幅方向において予め定めた間隔で複数設けられている。また、横糸127は、長手方向において予め定めた間隔で複数設けられている。したがって、担体12は、網目状に形成された網体として捉えることができる。この担体12においては、複数の開口128が形成される。詳細は後述するが、開口128は、微生物が通過可能な寸法である。また、開口128は、担体12の厚み方向において貫通する貫通孔として捉えることができる。また、縦糸126および横糸127の少なくとも一方は、複数の湾曲部を有する所謂ウェーブ状の繊維部材であってもよい。
【0031】
ここで、担体12は、担体ユニット10においては長手方向の略中央で2つに折り曲げられて設けられている(
図1参照)。担体12の寸法は、特に限定されないが、より効率的に微生物を培養するために大きく形成される。例えば、担体12は、展開した際の長手方向の長さが2.5mで、幅方向の長さが1mの布部材を用いて、縦寸法が約1.25mになるように長手方向の略中央で折り曲げられる。
【0032】
次に、カバー15について説明をする。
図1に示すように、カバー15は、可撓性を有するシート部材の長手方向の中央を折り曲げて形成されている。カバー15は、担体照射ユニット70から照射する光を透過する材質により構成される。カバー15は、例えば塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、PET等の合成樹脂により構成される。
【0033】
ここで、カバー15は、内部に担体12を収容できる偏平な袋状に形成されている。さらに説明をすると、カバー15は、一部を除き内部を密閉可能に形成されている。具体的には、
図3に示すカバー15は、培養液を導出する導出口154、培養液を導入する導入口156、炭酸ガスを導入するガス口157を有する。
【0034】
ここで、導出口154は、カバー15における上下方向下側の端部である下端部152に設けられる。この導出口154は、第2配管53が着脱できるようになっている。導入口156は、カバー15における上下方向上側に設けられる。この導入口156は、後述するカバー支持体171の端部が貫通する。また、ガス口157は、カバー15における上下方向中央部に設けられる。このガス口157は、後述するガス供給管177の端部が貫通する。
【0035】
次に、支持体17について説明をする。
図3に示すように、支持部の一例である支持体17は、カバー15を支持するカバー支持体171と、担体12を支持する担体支持体173と、炭酸ガスを供給するガス供給管177と、カバー支持体171、担体支持体173、およびガス供給管177を支持する枠体179とを有する。なお、支持体17は、例えばアルミニウムなど微生物の培養を妨げない材質で形成される。
【0036】
カバー支持体171は、幅方向に延びる円筒状の部材である。このカバー支持体171は、カバー15が掛けられる。また、カバー支持体171は、幅方向において予め定めた間隔で培養液排出孔175が形成されている。図示の例においては、カバー支持体171における上下方向下側の面に、培養液排出孔175が形成されている。この培養液排出孔175は、カバー支持体171内部から培養液を排出する。また、カバー支持体171は、一方の端部が導入口156から突出し、第1配管51に接続される。カバー支持体171の他方の端部は、不図示の配管に接続されている。この配管は、担体12に供給されなかった培養液を培養槽31へと案内する。
【0037】
担体支持体173は、幅方向に延びる円柱状の部材である。この担体支持体173は、カバー支持体171よりも上下方向下側で、カバー支持体171に吊るされて設けられている。この担体支持体173は、折り曲げられた担体12が掛けられる部分である。なお、図示の例における担体支持体173は、カバー支持体171よりも奥行方向における寸法(外径)が小さい(後述する
図4参照)。
【0038】
ガス供給管177は、幅方向に延びる円筒状の部材である。このガス供給管177の外周にはガス排出孔178が複数形成されている。供給口の一例であるガス排出孔178は、上下方向両側および幅方向両側などに向けて開口している。ガス排出孔178は、ガス供給管177内部から炭酸ガスを排出する。また、ガス供給管177の端部は、ガス口157から突出し、ガス配管63に接続される。なお、図示の例におけるガス供給管177は、担体支持体173よりも奥行方向における寸法(外径)が小さい(後述する
図4参照)。なお、培養システム1の担体12以外の部分は、担体支持装置として捉えることができる。
【0039】
<担体ユニット10における配置>
図4は、
図3のIV-IVにおける断面図である。
図5は
図4の領域Vにおける拡大図である。
次に、
図3乃至
図5を参照しながら、担体ユニット10における担体12の周辺の構造について説明する。
【0040】
図4に示すように、カバー15は、カバー支持体171に掛けられて配置される。このカバー15は、連続部の一例である曲げ部155を挟んで位置する第1部151と第2部153とを有する。第1部151と第2部153は、各々上下方向に沿って起立して設けられる。
【0041】
また、担体12は、担体支持体173に掛けられて配置される。この担体12は、折り曲げられ湾曲した部分である曲げ部125を挟んで、平板部の一例である第1部121と第2部123とを有する形状である。第1部121および第2部123は、各々上下方向に沿って起立して設けられる。ここで、第1部121および第2部123は、互いに離間して配置される。また、第1部121および第2部123は、カバー15から離間して配置される。なお、第1部121および第2部123は、第1対向部および第2対向部の一例である。
【0042】
ここで、担体12の曲げ部125の上下方向上側にカバー支持体171の培養液排出孔175が位置する。すなわち、他の供給口の一例である培養液排出孔175は、曲げ部125に向けて開口する。また、担体12の第1部121と第2部123との間には、ガス供給管177が配置される。このガス供給管177のガス排出孔178は、第1部121と第2部123によって挟まれる空間内に向けて開口する。
【0043】
さて、
図4に示すように、培養液排出孔175から排出される培養液は、担体12の曲げ部125に供給される(図中矢印A1参照)。この曲げ部125に供給された培養液は、第1部121および第2部123に分岐して流れ落ちる(図中矢印A3およびA5参照)。
【0044】
また、ガス排出孔178から排出される炭酸ガスは、担体12の第1部121および第2部123によって挟まれる空間内に供給される(図中矢印B1乃至B4参照)。このとき、炭酸ガスは、一部が上下方向に流れ(図中矢印B1およびB2参照)、一部は奥行方向、すなわち第1部121と第2部123に向けて流れる(図中矢印B3およびB4参照)。
【0045】
ここで、
図5を参照しながら、担体12における培養液などの流れについて詳細に説明をする。
担体12の第1部121の表面および/または内部においては、培養液が上下方向上側から下側へと流れる(図中矢印A7参照)。
【0046】
また、炭酸ガスは、奥行方向に沿って第1部121を通過する(図中矢印B5参照)。この炭酸ガスの流れは、培養液の流れ(図中矢印A7参照)と交差する向きである。また、炭酸ガスは、上下方向下側から上側へと流れる(図中矢印B6参照)。この炭酸ガスの流れは、培養液とは反対の向き、すなわち培養液と対向する向きである。このように、炭酸ガスが、培養液と交差する向き、および培養液と反対の向きに流れることにより、培養液に供給される炭酸ガスの量が増加し得る。
【0047】
第2照射パネル73(
図1参照)から照射された光は、奥行方向に沿って第1部121を通過する(図中矢印C1参照)。この光の進行方向は、培養液と交差する向きである。このことにより、培養液に含まれる微生物が受ける光量が増加し得る。
【0048】
ここで、微生物は、培養液とともに、上下方向上側から下側に向けて流下する。すなわち、微生物は、縦糸126に沿って落下する。ここで、縦糸126に沿って落下する微生物は、横糸127にぶつかると流れる向きが変わる(図中矢印A11、A13、A15、A17)。すなわち、微生物は、奥行方向において揺動しながら落下する。さらに説明をすると、微生物は、担体12の開口128を通過しながら落下する。このことにより、微生物がガスと接触する時間が長くなり、結果として微生物におけるガス交換効率が高まる。なお、図示の例においては、横糸127は、ウェーブ状に成型されており、各横糸127は奥行方向において互いにずれた配置となる。このことにより、微生物の奥行方向における揺動がより促進される。
【実施例0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
図6(a)乃至(d)は、実験1乃至4の条件を説明する図である。
図7は、実験1乃至4における収穫量を示すテーブルである。
【0050】
図1に示すような培養システム1を用いてスピルリナを培養した。担体12は、ナイロン製のメッシュ素材、所謂ナイロンタオル(ライフレックス社製)を用いた。担体12の寸法は幅18cm、長さ100cmとした。この担体12は、2つ折りで吊るしたものを2枚用いて測定を行った。また、カバー15は、厚さ0.45mmの塩化ビニールシートを2枚用い、各々担体12を収容させた。カバー支持体171は、アクリル製であり、寸法が厚さ3mm、呼び径16であるものを2本用いた。カバー支持体171の培養液排出孔175は、直径0.9mmであり、カバー支持体171の長手方向に沿って、2cmおきに9か所設けた。
【0051】
第1照射パネル71、第2照射パネル73、第1照射パネル81および第2照射パネル83は、赤色LED(イフェクト社製)を用いて光を照射した。光の強さは担体12の端で50μmol/m2/sec、担体12の中央で20μmol/m2/secとした。
【0052】
ポンプ59は、エーハイム水陸両用ポンプ1048を用いた。
第1配管51、第2配管53、第3配管57は、シリコン製ホース(10×13mm)を用いた。ここで、Y字コネクター(アズワン、1-7377-18)を用いることにより、第1配管51において2本のカバー支持体171へ分岐する流路を確保した。
培養槽31は、ポリプロピレン製であり、寸法は、幅30cm、奥行15cm、高さ30cmとした。培養液は、表1に示す通りである。
【表1】
【0053】
図6(a)乃至(d)に示すように、担体ユニット10および培養ユニット30に対する光の照射条件を変化させながら、実験1乃至実験4を行った。具体的には、担体ユニット10および培養ユニット30の各々に対して、光を照射する場合と、光が照射されないよう遮光する場合とを切り替えた。さらに説明をすると、担体ユニット10の遮光は、担体ユニット10のカバー15をアルミ箔で覆うことにより行った。付言すると、担体ユニット10を遮光することで、担体ユニット10の担体12に光が到達しなくなる。また、培養ユニット30の遮光は、培養ユニット30の培養槽31をアルミ箔で覆うことにより行った。付言すると、培養ユニット30を遮光することで、培養ユニット30の培養槽31の内部に光が到達しなくなる。
【0054】
図6(a)に示すように、実験1においては、担体ユニット10および培養ユニット30の両者を遮光した。
図6(b)に示すように、実験2においては、担体ユニット10には光を照射し、培養ユニット30を遮光した。
図6(c)に示すように、実験3においては、担体ユニット10を遮光し、培養ユニット30には光を照射した。
図6(d)に示すように、実験4においては、担体ユニット10および培養ユニット30の両者に光を照射した。
【0055】
実験1乃至実験4の各々における培養養開始時には、各担体12にスピルリナを1g均等に乗せ(2枚合計で2g)た後、カバー15内に収容した。培養槽31には培養液を5L入れポンプ59で循環させた。培養中は、培養槽31内の培養液の温度が30℃となるように室温を調整した。この条件で12日間培養を行った結果、担体12(2枚)および培養槽31内のスピルリナを回収、すなわち収穫して重量を測定した。
【0056】
図7に示すように、実験1においては、スピルリナの収穫量が2.33gであった。同様に、実験2では収穫量が10.15gであり、実験3では収穫量が4.16gであり、実験4では収穫量が11.73gであった。このことから、担体ユニット10および培養ユニット30の両者に光を照射した実験4では、担体ユニット10のみに光を照射した実験2や、培養ユニット30のみに光を照射した実験3と比較して、収穫量が増加することが確認された。
【0057】
<培養対象>
上記のように培養システム1が培養する培養対象は、クロレラやシネコキスティス、スピルリナのような運動性のないあるいは乏しい光合成微生物だけでなく、鞭毛で水中を運動するプランクトン性のユーグレナやクラミドモナス、プレウロクリシスも含まれる。言い替えると、培養システム1の培養対象となる微生物は、きわめて多様である。培養システム1の培養対象となる主な微生物群としては、例えば以下のA類、B類、C類が挙げられる。
【0058】
まず、A類として、原核生物である真正細菌と古細菌を挙げることができる。
真正細菌には、酸素非発生型の光合成細菌や酸素発生型光合成を行うシアノバクテリア、有機物質を利用する通性嫌気性発酵性細菌と非発酵性細菌、さらに無機栄養細菌、放線菌およびコリネバクテリウム、有胞子細菌を挙げることができる。光合成細菌には、ロドバクター、ロドスピリルム、クロロビウム、クロロフレクサスが挙げられる。シアノバクテリアにはシネココッカス、シネコキスティス、スピルリナ、アルスロスピラ、ノストック、アナベナ、オシラトリア、リングビア、イシクラゲ、スイゼンジノリが挙げられる。通性嫌気性発酵性細菌として大腸菌、乳酸菌が挙げられる。非発酵性細菌としてシュードモナスが挙げられる。無機栄養細菌として水素細菌が挙げられる。放線菌としてストレプトマイセスが、有胞子細菌として枯草菌が挙げられる。古細菌は好熱菌や高度好塩菌が挙げられる。好熱菌としてサーモコッカスが、高度好塩菌としてハロバクテリウムが挙げられる。その他に、グルタミン酸生産菌、リジン生産菌、セルロース生産菌などが挙げられる。
【0059】
次に、B類として、真核光合成微生物である微細藻類を挙げることができる。
微細藻類には、緑藻、トレボキシア藻、紅藻、珪藻、ハプト藻、真正眼点藻、ユーグレナ、褐虫藻が挙げられる。
緑藻にはクロレラ、セネデスムス、クラミドモナス、ボトリオコッカス、ヘマトコッカス、ナンノクロリス、シュードコリシスティスが、トレボキシア藻としてパラクロレラやココミクサが挙げられる。紅藻としてシアニディオシゾン、シアニディウム、ガルディエリア、ポルフィリディウムが、珪藻としてニッチア、フェオダクティルム、キートケロス、タラシオシラ、スケレトネマ、フィツリフェラが挙げられる。ハプト藻として、プレウロクリシス、ゲフィロカプサ、エミリアニア、イソクリシス、パブロバが挙げられる。真正眼点藻としてナンノクロロプシス、ユーグレナとしてユーグレナが挙げられる。さらに、サンゴの共生藻である褐虫藻としてはシンビオディニウムが挙げられる。
【0060】
次にC類として、非光合成真核生物である菌類を挙げることができる。
菌類には酵母菌とコウジカビが挙げられる。また、担子菌類の菌糸培養は培養対象となる。さらに、水生変形菌類(現在は原生生物)のラビリンチュラも適用できる。ラビリンチュラとしては、オーランチオキトリウムを挙げられる。
【0061】
なお、微生物ではないが、多細胞性海藻のうち、緑藻であるアオサやアオノリ、紅藻であるアサクサノリ、アマノリ、スサビノリ、イワノリ、その他の食用ノリも培養対象となる。さらに、緑色植物であるコケ類も培養対象となる。また、共生生物である地衣類も培養対象となる。
なお、微細藻類は、シアノバクテリアを含むものとして捉えることができる。
【0062】
<微生物の製造方法>
図8は、培養システム1における微生物の製造方法動作を説明するフローチャートである。
上記のような培養システム1において実行される微生物を培養する方法は、微生物の製造方法として捉えることができる。以下、
図8を参照しながら、培養システム1において実行される微生物の製造方法を説明する。
【0063】
まず、担体ユニット10の担体12においては、担体照射ユニット70によって担体12へ光が照射される(S801)。また、担体12においては、ガス供給ユニット60によって担体へ炭酸ガスが供給される(S802)。
【0064】
そして、培養ユニット30の培養槽31においては、培養照射ユニット80によって、微生物を含む培養液へ光が照射される(S803)。また、培養ユニット30の培養槽31においては、攪拌器35によって、培養液が攪拌される(S804)。
【0065】
そして、制御ユニット90によって、予め定められた培養槽31の微生物を収穫するタイミングであるかが判断される(S805)。微生物を収穫するタイミングである場合(S805でYES)、ろ過器37によって培養液から微生物がろ過されることで、微生物が収穫される(S806)。一方、微生物を収穫するタイミングでない場合(S805でNO)、培養液循環ユニット50によって、微生物および培養液が担体ユニット10へ送られることで、微生物および培養液が循環する(S807)。
【0066】
<変形例>
図9乃至
図11は、本実施の形態における変形例を説明する図である。
次に、
図9乃至
図11を参照しながら、本実施の形態における変形例を説明する。なお、以下の説明においては、上記実施の形態で説明した構成と同一の部分には同一の符号をつけ、その詳細な説明は省略する。
【0067】
上記の実施の形態においては、担体ユニット10を通過した培養液を、第2配管53を介して培養ユニット30へと回収することを説明したが、担体ユニット10を通過した培養液が培養槽31へ回収される態様であれば、構成は特に限定されない。
【0068】
例えば、
図9に示す培養システム101のように、担体ユニット10の上下方向下側に培養ユニット300が設けられてもよい。この培養ユニット300は、担体ユニット10から排出され落下する培養液および微生物を受ける培養槽310を有する。この培養槽310は略円筒状の容器である。培養槽310の外周には、培養照射ユニット80の照射体85が複数並べて配置されている。担体ユニット10から落下した培養液は、培養槽310によって貯留されるとともに、照射体85からの光が照射されることにより、培養槽310内において微生物が培養される。
【0069】
上記の実施の形態においては、培養ユニット30に対して培養照射ユニット80が光を照射することを説明したが、培養ユニット30に光が照射される態様であれば、構成は特に限定されない。例えば、
図10に示す培養システム103のように、培養ユニット350が、屋外に設けられてもよい。すなわち、培養槽351が太陽光を受ける構成とし、培養照射ユニット80を備えない構成であってもよい。また、図示とは異なり、太陽光を受ける構成としたうえで、さらに培養照射ユニット80を備える構成であってもよい。
【0070】
ここで、本実施の形態および変形例とは異なる微生物の培養方式の1つとして、回遊池方式(ポンド式)が知られている。この回遊池方式においては、太陽光が届く範囲(水深30cm程度)までしか深さ方向に広げられないため、水平方向に広大な用地を取得する必要がある。一方で、培養システム103においては、担体ユニット10において微生物および培養液に光が照射されることから、培養槽351の水深を太陽光が届く範囲よりも深くすることが可能である。なお、図示の例の培養槽351は、一部を地下に埋没させることにより、培養槽351の深さ方向の寸法を確保している。また、図示の培養槽351は、貯留する培養液の液面における最大幅が、貯留する培養液の最大深さよりも大きい寸法で形成されている。
【0071】
付言すると、上記培養システム103は、担体ユニット10における担持体方式による微生物の培養と、培養ユニット305における回遊池方式による微生物の培養とを組み合わせたハイブリッド式の微生物の培養システムとして捉えることができる。さらに説明をすると、担持体方式と、回遊池以外の微生物の培養方式とを組み合わせたハイブリッド式の微生物の培養システムであってもよい。例えば、担体ユニット10における担持体方式による微生物の培養と、所謂タンク方式による微生物の培養とを組み合わせたハイブリッド式の微生物の培養システムであってもよい。
【0072】
さて、上記の実施の形態においては、担体12を用いた担体ユニット10において、微生物および培養液に光の照射および炭酸ガスの供給を実行したが、微生物および培養液に対して光の照射および炭酸ガスの供給が実行される態様であれば、構成は特に限定されない。
【0073】
例えば、
図11に示す培養システム105のように、培養液を貯留し、かつ光の照射および炭酸ガスの供給を実行するタンク110を備える構成であってもよい。このタンク110内においては、発光源である照射パネル75と、炭酸ガスを供給するガス供給部65とが設けられている。担体ユニット10において光の照射および炭酸ガスの供給を受けた微生物および培養液はタンク110へと導かれる。そして、このタンク110において、微生物が培養される。なお、図示の例においては、タンク110にガス供給部65が設けられることを説明したが、タンク110にガス供給部65が設けられない構成であってもよい。
【0074】
さて、上記の実施の形態においては、担体ユニット10のカバー15が担体12ごとに設けられることを説明したが、これに限定されない。例えば、1つのカバー15内に複数の担体12が設けられる構成であってもよい。付言すると、担体12ごとにカバー15が設けられることにより、担体12の各々に供給される炭酸ガスの制御が容易となる。また、培養システム1は、担体ユニット10にカバー15が設けられない構成であってもよい。
【0075】
また、上記の実施の形態においては、担体12が2つに折り曲げられ、曲げ部125が支持体17に掛けられることを説明したが、これに限定されない。例えば、担体12を平板状に吊るして設けてもよい。また、担体12を円筒状や角筒状など平板以外の形状で構成してもよい。
【0076】
また、上記の実施の形態においては、担体12が繊維により形成される布部材であることを説明したが、材質や形状はこれに限定されない。例えば、担体12は、微生物が通過可能な寸法の貫通孔が複数形成された板状部材であってもよい。
【0077】
また、上記の実施の形態においては、培養ユニット30に光を照射することを説明したが、光を照射しない態様であってもよい。さらに説明をすると、例えば、培養槽31の上部を開放せずに、培養槽31全体が地中や屋内などに設けられ、かつ担体照射ユニット70や太陽光からの光を受けない態様であってもよい。
【0078】
また、上記の実施の形態においては、カバー支持体171が曲げ部125に培養液を供給したが、担体12に培養液を供給することができれば、これに限定されない。例えば、カバー支持体171とは別体として構成され培養液を噴霧する噴霧部(不図示)が、第1部121および第2部123の各々と対向する位置に設けられ、この噴霧部を介して担体12に培養液を供給してもよい。
【0079】
また、上記の実施の形態においては、ガス供給管177が第1部121および第2部123の間に設けられることを説明したが、担体12に対して炭酸ガスが供給されれば、これに限定されない。例えば、ガス供給管177が第1部121および第2部123の各々と対向する位置に設けられ、炭酸ガスを吹き付けるような構成であってもよい。また、上記の説明とは異なり、担体12に対して炭酸ガスを供給しない構成であってもよい。
【0080】
<他の変形例>
図12は、本実施の形態における他の変形例を説明する図である。
次に、
図12を参照しながら、本実施の形態における他の変形例を説明する。なお、以下の説明においては、上記実施の形態および変形例などで説明した構成と同一の部分には同一の符号をつけ、その詳細な説明は省略する。
【0081】
上記の説明においては、担体ユニット10を通過した培養液を培養ユニット30の培養槽31へと回収することを説明したが、構成は特に限定されない。例えば、
図12に示す培養システム107のように、担体ユニット100と、担体ユニット100の上下方向下側に設けられる下方槽400と、微生物を含む培養液を循環させる培養液循環ユニット500とを有する構成であってもよい。この培養システム107においては、上記のような培養照射ユニット80は設けられず、担体ユニット100および下方槽400が太陽光を受けることにより微生物が培養される。
【0082】
図示の例においては、担体ユニット100は、奥行方向に複数(5つ)並べて設けられた担体12を有する。さらに説明をすると、各担体12は予め定めた間隔(例えば30cm程度)離間して配置される。このことにより、各担体12が受ける太陽光の光量が増加する。
【0083】
また、担体ユニット100は、担体12および下方槽400を覆うカバー体150を有する。このカバー体150は、担体12および下方槽400を内部に収容し、外気から隔離する。カバー体150は、培養システム107が屋外に設けられた場合に、担体12などの風よけとして機能する。また、カバー体150は、培養液などにカビ胞子などの異物が混入することを抑制する。また、カバー体150は、カバー体150内部の炭酸ガス濃度を予め定めた範囲(例えば1000ppm程度)に維持することを可能とする。カバー体150は、太陽光を透過可能な部材により構成されれば、その材質は特に限定されない。カバー体150は、例えばフィルム状部材(例えば、塩化ビニルなどの樹脂フィルム)などにより形成される。
【0084】
培養部の一例である下方槽400は、上下方向上側が開放された略直方体上の箱部材である。下方槽400は上下方向上側からみて略長方形状であり、長手方向が幅方向に沿って配置されている。下方槽400は、例えば塩化ビニルなどの樹脂板により形成されるが、その材質は特に限定されない。下方槽400は、担体ユニット100から落下する培養液を受ける。また、下方槽400内の培養液は、一方向(幅方向)に流れる。また、上記のように下方槽400は上側が開放しており、この開放した領域(通過領域)を通過する太陽光は下方槽400内の培養液に照射される。
【0085】
培養液循環ユニット500は、第1供給部の一例である担体ユニット100に培養液を供給する第1配管511と、下方槽400から流出する培養液が流れる第2配管531と、第2供給部の一例である下方槽400に培養液を供給する第3配管515と、培養液を循環させる駆動源であるポンプ590とを有する。培養液循環ユニット500においては、ポンプ590によって担体ユニット100および下方槽400に対して微生物および培養液が供給される。また、ポンプ590によって下方槽400から培養液および微生物が回収される。このことを繰り返すことで、微生物および培養液を循環させる。
【0086】
ここで、培養システム107においては、担体12から下方槽400に向けて培養液が落下する(図中矢印D11参照)。また、培養システム107においては、第3配管515を介して下方槽400に培養液が供給され、下方槽400内を培養液が流れた後(図中矢印D13参照)、第2配管531を介して培養液が排出される。さらに説明をすると、第3配管515から供給された培養液は下方槽400内を幅方向に沿って強制的に流される。そして、幅方向に沿って流れる培養液は、第2配管531を介して下方槽400から流出する。
【0087】
さて、図示の培養システム107は、担体12にガスを供給するガス供給ユニット60(
図1参照)を有しないが、ガス供給ユニット60を有する構成であってもよい。例えば第1配管511を流れる培養液に対して、炭酸ガスでバブリングする構成としてガス供給ユニット60を設けてもよい。
【0088】
また図示の培養システム107は、長手方向の略中央で2つに折り曲げられた担体12を複数並べて設けることを説明したが、担体12の配置はこれに限定されない。例えば、並べて設けられる担体12を互いに異なる向きに配置してもよい。また、平面視略長方形の板状に形成された担体12の長辺同士を互いに接続された状態で、隣接する担体12を交互に異なる向きとする、所謂蛇腹状に担体12を構成してもよい。
【0089】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。