(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087871
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】耐高面圧複層軸受材料およびこれを用いた内燃機関用軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20220607BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20220607BHJP
F16C 33/14 20060101ALI20220607BHJP
F16C 3/06 20060101ALI20220607BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20220607BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220607BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20220607BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20220607BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20220607BHJP
B22F 3/26 20060101ALI20220607BHJP
C22C 9/02 20060101ALN20220607BHJP
【FI】
F16C33/12 B
F16C33/20 A
F16C33/14 A
F16C3/06
F16C9/02
B22F1/00 L
C22C1/04 A
B22F7/00 E
B22F3/11 Z
B22F3/26 G
C22C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020199983
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】13-15 Quai Alphonse Le Gallo 92100 Boulogne-Billancourt,France
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 勇人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 毅
(72)【発明者】
【氏名】大野 亘
(72)【発明者】
【氏名】石田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 澄英
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
4K018
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011DA01
3J011DA02
3J011KA02
3J011LA01
3J011MA02
3J011SB19
3J011SC01
3J033AA02
3J033AA05
3J033GA05
3J033GA07
4K018AA05
4K018BA02
4K018BB03
4K018BB04
4K018FA47
4K018KA03
4K018KA07
4K018KA22
(57)【要約】
【課題】受圧方向に対する圧縮変形が抑制された多孔質焼結金属層を備えた耐高面圧複層軸受材料およびこれを用いた内燃機関用軸受を提供すること。
【解決手段】金属板からなる裏金層110と、この裏金層110の表面に焼結した多数の球状金属粒子からなる多孔質焼結金属層120と、この多孔質焼結金属層120の表面に積層して軸部材Sと対向する樹脂層130とで構成され、樹脂層130が多孔質焼結金属層120の表面に含浸された状態で圧縮された耐高面圧複層軸受材料であって、金属板の結晶粒の受圧方向と直交する横方向の幅が、金属板の結晶粒の受圧方向の幅より大きく、球状金属粒子の横方向の幅が、球状金属粒子の受圧方向の幅より大きく、金属板の結晶粒の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、球状金属粒子の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、裏金層110の硬度が、170HV以上であり、多孔質焼結金属層の硬度が、150HV以上である耐高面圧複層軸受材料。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなる裏金層と、該裏金層の表面に焼結した多数の球状金属粒子からなる多孔質焼結金属層と、該多孔質焼結金属層の表面に積層して軸部材と対向する樹脂層とで構成され、前記樹脂層が前記多孔質焼結金属層の表面に含浸された状態で圧縮された耐高面圧複層軸受材料であって、
前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向と直交する横方向の幅が、前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向の幅より大きく、
前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の前記横方向の幅が、前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の前記受圧方向の幅より大きく、
前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、
前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、
前記裏金層の硬度が、170HV以上であり、
前記多孔質焼結金属層の硬度が、150HV以上であることを特徴とする耐高面圧複層軸受材料。
【請求項2】
前記裏金層の硬度が、225HV以下であり、
前記多孔質焼結金属層の硬度が、220HV以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐高面圧複層軸受材料。
【請求項3】
前記多孔質焼結金属層が、錫と銅との合金粉末からなり、
前記樹脂層が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐高面圧複層軸受材料。
【請求項4】
ピストンと、該ピストンの往動運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、前記ピストンと前記クランクシャフトとを連結するリンク機構と、該リンク機構の位置を変えて前記ピストンと前記クランクシャフトとの距離を変化させるリンク移動機構とを備えた内燃機関に用いて、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐高面圧複層軸受材料を円筒状に成型した内燃機関用軸受であって、
前記リンク機構が、前記ピストンと連結される上部リンクと、該上部リンクと前記クランクシャフトと前記リンク移動機構のコントロールリンクと連結される下部リンクとを有し、
前記上部リンクと前記下部リンクとの第一連結部または前記下部リンクと前記コントロールリンクとの第二連結部の少なくとも一方に取り付けられていることを特徴とする内燃機関用軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏金層と多孔質焼結金属層と樹脂層とで構成された耐高面圧複層軸受材料に関するものであって、特に、内燃機関に用いる内燃機関用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自己潤滑性を持ったすべり軸受の一つとして、金属薄板(裏金層)の上に多孔質焼結金属層を設け、この多孔質焼結金属層の上に樹脂組成物からなる樹脂層を含浸させた複層軸受がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような複層軸受は、自己潤滑性や耐摩耗性に優れているという樹脂製軸受の特徴と、熱伝導性や機械的強度に優れているという金属製軸受の特徴とを併せ持った軸受であり、様々な分野で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような複層軸受は、多孔質焼結金属層を有しているため、高面圧環境下で使用すると、軸受面への加圧によって複層軸受の多孔質焼結金属層が、受圧方向に対して不可逆的に圧縮変形、すなわち、塑性変形してしまう。
これにより、複層軸受の軸受面と回転軸との間隔(以下、「軸受すきま」という。)が、設計値から乖離してしまう可能性がある。
【0006】
一般に、すべり軸受において、軸受すきまは軸受性能に重大な影響を及ぼすため、使用時の軸受すきまが設計時の軸受すきまから乖離してしまうことを避ける必要がある。
このような状況から、従来、高面圧の使用環境下となる内燃機関に前述のような裏金層・多孔質焼結金属層・樹脂層の3層からなる複層軸受を組み込むことは困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、受圧方向に対する圧縮変形が抑制された多孔質焼結金属層を備えた耐高面圧複層軸受材料およびこれを用いた内燃機関用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、金属板からなる裏金層と、該裏金層の表面に焼結した多数の球状金属粒子からなる多孔質焼結金属層と、該多孔質焼結金属層の表面に積層して軸部材と対向する樹脂層とで構成され、前記樹脂層が前記多孔質焼結金属層の表面に含浸された状態で圧縮された耐高面圧複層軸受材料であって、前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向と直交する横方向の幅が、前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向の幅より大きく、前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の前記横方向の幅が、前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の前記受圧方向の幅より大きく、前記裏金層を構成する金属板の結晶粒の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、前記多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、前記裏金層の硬度が、170HV以上であり、前記多孔質焼結金属層の硬度が、150HV以上であることにより、前述した課題を解決するものである。
なお、「結晶粒の縦横比」および「球状金属粒子の縦横比」とは、円形1粒相当の結晶粒(球状金属粒子)をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から10個抽出し、それぞれの結晶粒(球状金属粒子)の垂直方向(受圧方向)の長さに対する水平方向(受圧方向と直交する方向)の長さの比を算術平均した値である。
また、「多孔質焼結金属層の硬度」とは、多孔質焼結金属層において円形1粒相当の球状金属粒子をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から5個抽出し、それぞれのビッカース硬さ(試験力0.1kgf)を算術平均した値であり、「裏金層の硬度」とは、裏金層においてビッカース硬さ(試験力0.1kgf)をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から5か所測定して算術平均した値である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された耐高面圧複層軸受材料の構成に加えて、前記裏金層の硬度が、225HV以下であり、前記多孔質焼結金属層の硬度が、220HV以下であることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された耐高面圧複層軸受材料の構成に加えて、前記多孔質焼結金属層が、錫と銅との合金粉末からなり、前記樹脂層が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)からなることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、ピストンと、該ピストンの往動運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、前記ピストンと前記クランクシャフトとを連結するリンク機構と、該リンク機構の位置を変えて前記ピストンと前記クランクシャフトとの距離を変化させるリンク移動機構とを備えた内燃機関に用いて、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の耐高面圧複層軸受材料を円筒状に成型した内燃機関用軸受であって、前記リンク機構が、前記ピストンと連結される上部リンクと、該上部リンクと前記クランクシャフトと前記リンク移動機構のコントロールリンクと連結される下部リンクとを有し、前記上部リンクと前記下部リンクとの第一連結部または前記下部リンクと前記コントロールリンクとの第二連結部の少なくとも一方に取り付けられていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の耐高面圧複層軸受材料によれば、裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向と直交する横方向の幅が、裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向の幅より大きいことにより、結晶粒界の凹凸が増加し、受圧方向に対する粒界すべり(すべり速度)が抑制されるため、裏金層を受圧方向に対して変形しにくくすることができる。
また、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の横方向の幅が、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の受圧方向の幅より大きくなっていることにより、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の横方向の幅が多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の受圧方向の幅より大きくない場合に比べて、多孔質焼結金属層の受圧方向と直交する横方向の球状金属粒子どうしの間隔が減少すると共に球状金属粒子の受圧面積が大きくなることで球状金属粒子に加わる圧力が小さくなるため、多孔質焼結金属層を横方向に対して変形しにくくすることができる。
さらに、裏金層を構成する金属板の結晶粒の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、裏金層の硬度が、170HV以上であり、多孔質焼結金属層の硬度が、150HV以上であることにより、裏金層に対して多孔質焼結金属層が安定して積層されると共に裏金層との硬度が充分に確保されるため、耐高面圧複層軸受材料が内燃機関の内部のような高温高面圧条件下で軸部材と対向しても、多孔質焼結金属層の塑性変形を確実に抑制して軸受性能を長期に亘って保ったまま軸部材を支持することができる。
【0013】
請求項2に係る発明の耐高面圧複層軸受材料によれば、請求項1に係る発明の耐高面圧複層軸受材料が奏する効果に加えて、裏金層の硬度が、225HV以下であり、多孔質焼結金属層の硬度が、220HV以下であることにより、耐高面圧複層軸受材料に加わる負荷に対して樹脂層だけでなく裏金層および多孔質焼結金属層が弾性変形可能となり、裏金層および多孔質焼結金属層は樹脂層の変形に対して追従性が保たれ、耐高面圧複層軸受材料に加わる負荷に対して樹脂層に過大な負荷が加わらないため、樹脂層の内部にクラックが生じにくくなる。
【0014】
請求項3に係る発明の耐高面圧複層軸受材料によれば、請求項1または請求項2に係る発明の耐高面圧複層軸受材料が奏する効果に加えて、多孔質焼結金属層が錫と銅との合金粉末からなり、樹脂層がポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)からなることにより、耐熱性、耐圧性および耐摩耗性に優れた樹脂層が、強靭な圧縮強さを発揮する多孔質焼結金属層の多孔質組織内に充分に浸透して強固な接合形態を形成するため、内燃機関の内部のような高温高面圧条件下で軸部材と対向しても多孔質焼結金属層の塑性変形を大幅に抑制して軸受性能を長期亘って軸部材を支持することができる。
【0015】
請求項4に係る発明の内燃機関用軸受によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に係る発明の耐高面圧複層軸受材料が奏する効果に加えて、耐高面圧複層軸受材料で形成された内燃機関用軸受が、上部リンクと下部リンクとの第一連結部または下部リンクとコントロールリンクとの第二連結部の少なくとも一方に取り付けられていることにより、シリンダー内部のような高温高面圧条件下であっても、内燃機関用軸受が受圧方向に塑性変形しにくいため、内燃機関の性能を長期に亘って保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例である内燃機関用軸受を用いた内燃機関の断面図。
【
図2】本発明の実施例である内燃機関用軸受の斜視図。
【
図3】本発明の実施例である内燃機関用軸受の部分拡大断面図。
【
図5】縦横比および硬度と塑性変形量との観点から比較例との検討結果を示す図。
【
図6】縦横比および硬度と樹脂層の状態との観点から比較例との検討結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐高面圧複層軸受材料は、金属板からなる裏金層と、この裏金層の表面に焼結した多数の球状金属粒子からなる多孔質焼結金属層と、この多孔質焼結金属層の表面に積層して軸部材と対向する樹脂層とで構成され、樹脂層が多孔質焼結金属層の表面に含浸された状態で圧縮され、裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向と直交する横方向の幅が、裏金層を構成する金属板の結晶粒の受圧方向の幅より大きく、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の横方向の幅が、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の受圧方向の幅より大きく、裏金層を構成する金属板の結晶粒の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、裏金層の硬度が、170HV以上であり、多孔質焼結金属層の硬度が、150HV以上であり、受圧方向に対する圧縮変形が抑制されるものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0018】
例えば、本発明の耐高面圧複層軸受材料において、裏金層を形成する金属板の具体的な素材については、鋼、ステンレス、銅合金等、如何なるものであっても良い。
【0019】
例えば、本発明の耐高面圧複層軸受材料において、多孔質焼結金属層の具体的な素材については、錫と銅の合金である青銅の粉末、青銅以外の銅合金、鉄合金、ニッケル合金等、如何なるものであっても良い。
【0020】
例えば、本発明の耐高面圧複層軸受材料において、樹脂層の具体的な素材については、耐摩耗性および耐圧性に優れる素材であれば如何なる樹脂であってもよいが、特にポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)であることが好ましい。
【実施例0021】
以下、
図1乃至
図6に基づいて、本発明の実施例である耐高面圧複層軸受材料およびこれを用いた内燃機関用軸受(以下、「軸受」という。)100を説明する。
【0022】
<1.本発明の実施例である軸受100の周辺構造>
まず、本発明の実施例である内燃機関用軸受を用いた内燃機関の断面図である
図1に基づいて、本発明の実施例である軸受100の周辺構造を説明する。
【0023】
図1に示すように、内燃機関Eは、一般的な内燃機関と同様に、燃焼室を形成するシリンダーEcと、燃焼室内を上下に往復運動するピストンEpと、このピストンEpの往動運動を回転運動に変換するクランクシャフトEcsとを備えている。
さらに、この内燃機関Eは、さらに、ピストンEpとクランクシャフトEcsとを連結するリンク機構Elと、ピストンEpとクランクシャフトEcsとの距離を変化させるリンク移動機構Emとを備えている。
【0024】
リンク機構Elは、ピストンEpと連結される上部リンクEulと、この上部リンクEulおよびクランクシャフトEcsと連結される下部リンクEdlとから構成されている。
上部リンクEulとピストンEpとは、ピストンピンEppにより連結されている。
下部リンクEdlと上部リンクEulとは、下部リンクEdlに固定された上部連結ピンEupにより連結されている。
下部リンクEdlとクランクシャフトEcsとは、クランクピンEcpにより連結されている。
【0025】
リンク移動機構Emは、リンク機構Elの下部リンクEdlと連結されるコントロールリンクEmlと、リンク機構Elを可動させるためのモーターEdと、コントロールリンクEmlとモーターEdとを連結するアームEaとから構成されている。
コントロールリンクEmlとリンク機構Elの下部リンクEdlとは、下部リンクEdlに固定された下部連結ピンEdpにより連結されている。
コントロールリンクEmlとアームEaとは、コントロールシャフトEmsにより連結されている。
アームEaは、モーターEdのモーターシャフトEdsに連結されている。
【0026】
リンク機構Elおよびリンク移動機構Emが上記のように構成されていることにより、ピストンEpとクランクシャフトEcsとの距離を変化させることが可能となり、従来の内燃機関では固定値であった圧縮比を自在に変更することができる。
すなわち、リンク移動機構EmのモーターEdを駆動させることでアームEaがコントロールシャフトEmsを回転させる。
このコントロールシャフトEmsの回転により、コントロールリンクEmlを介してリンク機構Elの下部リンクEdlが駆動する。
そして、下部リンクEdlと連結する上部リンクEulが動き、ピストンEpとクランクシャフトEcsとの距離が変化する。
【0027】
そして、リンク機構Elの上部リンクEulと下部リンクEdlとの連結部(第一連結部)C1の上部リンクEul側、すなわち、上部リンクEulの下端には、上部連結ピンEupの回転を支持する軸受100が組み込まれている。
なお、この軸受100は、リンク機構Elの下部リンクEdlとリンク移動機構EmのコントロールリンクEmlとの連結部(第二連結部)C2のコントロールリンクEml側、すなわち、コントロールリンクEmlの上端に組み込まれて、下部連結ピンEdpの回転を支持しても良い。
また、第一連結部C1および第二連結部C2は、内燃機関Eの内部に位置していることから、200MPa以上の面圧がかかる高圧部位となっている。
【0028】
また、軸受100が支持する軸部材(上部連結ピンEupや下部連結ピンEdp)と軸受100との間には、霧状の潤滑油が供給されている。
したがって、軸受100と軸部材との間は、流体潤滑となっており、軸受100と軸部材との間には、軸受すきまが存在する。
【0029】
<2.本発明の実施例である軸受100の構造>
次に、内燃機関Eに組み込まれる軸受100について、
図2乃至
図4に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施例である内燃機関用軸受の斜視図であり、
図3は、本発明の実施例である内燃機関用軸受の部分拡大断面図であり、
図4は、
図3の要部拡大図である。
【0030】
軸受100は、本発明の実施例である耐高面圧複層軸受材料を円筒状に曲げ成型して作製される。
したがって、軸受100には、耐高面圧複層軸受材料の端面が離間対向している軸方向に伸びる合わせ目Gが形成されている。
【0031】
耐高面圧複層軸受材料は、
図2および
図3に示すように、金属板(具体的には、表面に銅メッキの被膜を施した冷間圧延鋼板(SPCC))からなる裏金層110と、この裏金層110の表面に焼結した多数の球状金属粒子(具体的には、銅90%-錫10%の青銅粒子)からなる多孔質焼結金属層120と、軸部材S(例えば、上部連結ピンEup、下部連結ピンEdp)と対向する樹脂層130とで構成されている。
【0032】
また、この耐高面圧複層軸受材料は、多孔質焼結金属層120の表面に樹脂層130が含浸された状態で内燃機関Eの内部圧力(すなわち、200MPa)以上の圧力で予め圧延されている。
したがって、耐高面圧複層軸受材料は、内燃機関Eの内部圧力程度の圧力を受圧としても塑性変形しにくくなっている。
なお、本発明の実施例である耐高面圧複層軸受材料の圧下率は、14%以上であることが好ましい。
ここでいう「圧下率」とは、圧延前の耐高面圧複層軸受材料の厚さをh1、圧延後の耐高面圧複層軸受材料の厚さをh2としたとき、「(h1-h2)/h1」で定義される値である。
【0033】
<2.1.裏金層>
裏金層110は、厚みが1.15mm程度となっている。
また、「裏金層の硬度」を、ビッカース硬さ(試験力0.1kgf)をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から5か所測定して算術平均した値とすると、裏金層110の硬度は、170HV以上225HV以下となっている。
【0034】
また、裏金層110は、金属板で形成されるため、裏金層110を拡大すると、裏金層110は、
図4に示すように、無数の結晶粒111から構成されている。
この結晶粒111の横方向X(受圧方向Zと直交する方向)の幅W1は、圧延により塑性変形していることから、
図4に示すように、結晶粒111の受圧方向Zの幅H1より大きくなっている。
すなわち、本実施例において、裏金層110を構成する結晶粒111は、横方向Xに偏平な形状となっている。
ここで、「結晶粒の縦横比」を、円形1粒相当の結晶粒をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から10個抽出し、それぞれの結晶粒の受圧方向(垂直方向)Zの長さに対する横方向(水平方向)Xの長さの比を算術平均した値とすると、本実施例における結晶粒の縦横比は、1.7以上3.5以下となっている。
【0035】
<2.2.多孔質焼結金属層>
多孔質焼結金属層120は、厚みが230μm程度となっている。
また、「多孔質焼結金属層の硬度」を、円形1粒相当の球状金属粒子をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から5個抽出し、それぞれのビッカース硬さ(試験力0.1kgf)を算術平均した値とすると、多孔質焼結金属層120の硬度は、150HV以上220HV以下となっている。
そして、多孔質焼結金属層120の硬度は、裏金層110の硬度より小さくなっている。
【0036】
また、多孔質焼結金属層120は、錫と銅との合金粉末を焼結して形成されているため、
図3に示すように、多孔質焼結金属層120は、無数の球状金属粒子121から構成されている。
この球状金属粒子121の横方向Xの幅W2は、圧延により塑性変形していることから、
図3に示すように、球状金属粒子121の受圧方向Zの幅H2より大きくなっている。
すなわち、本実施例において、多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121は、横方向Xに偏平な形状となっている。
なお、球状金属粒子121の横方向Xの幅W2は、結晶粒111の横方向Xの幅W1より大きく、球状金属粒子121の受圧方向Zの幅H2は、結晶粒111の受圧方向Zの幅H1より大きくなっている。
そして、「球状金属粒子の縦横比」を、円形1粒相当の球状金属粒子をランダムに耐高面圧複層軸受材料の切断面から10個抽出し、それぞれの球状金属粒子の水平方向の長さと垂直方向の長さとの比の算術平均した値とすると、本実施例における球状金属粒子の縦横比は、1.4以上2.3以下となっている。
【0037】
<2.3.樹脂層>
樹脂層130は、PEEK樹脂で形成され、厚みが150μm程度となっている。
樹脂層130は、多孔質焼結金属層120に積層されると共に一部が多孔質焼結金属層120の表面に含浸している。
【0038】
<2.4.比較例との検討>
次に、
図5および
図6に基づいて、比較例との検討結果を説明する。
図5は縦横比および硬度と塑性変形量との観点から比較例との検討結果を示す図であり、
図6は縦横比および硬度と樹脂層の状態との観点から比較例との検討結果を示す図である。
【0039】
<2.4.1.縦横比および硬度と塑性変形量との関係>
まず、
図5に基づいて、本実施例の耐高面圧複層軸受材料および比較例の複層軸受材料について、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比、裏金層を構成する結晶粒の縦横比、多孔質焼結金属層の硬度および裏金層の硬度と、塑性変形量との関係を検討した結果を説明する。
【0040】
図5に示す実施例1~4は14%以上の異なる圧下率でそれぞれ圧延したものであり、比較例1~5は14%未満の異なる圧下率でそれぞれ圧延したものである。
なお、
図5に示す、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比、裏金層を構成する結晶粒の縦横比、多孔質焼結金属層の硬度および裏金層の硬度は、上述した測定方法と同様である。
また、実施例の耐高面圧複層軸受材料および比較例の複層軸受材料の塑性変形量は、縦10mm、横10mm、厚さ1.48mmの方形状の試験片を縦横比と硬度とを測定した複層軸受材料から準備し、インストロン万能試験機を用いて厚さ方向に350MPaの圧力を付加したときの、試験前後の寸法変化量で表した。
【0041】
まず、縦横比に着目すると、圧下率を14%以上とすれば、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比は1.4以上となり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比は1.7以上となる。
そして、硬度に着目すると、圧下率を14%以上とすれば、多孔質焼結金属層の硬度は150HV以上となり、裏金層の硬度は170HV以上となる。
このように、圧下率を14%以上とすれば、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比は1.4以上となり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比は1.7以上となり、多孔質焼結金属層の硬度は150HV以上となり、裏金層の硬度は170HV以上となる。
【0042】
そして、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比が1.4以上であり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比が1.7以上であり、多孔質焼結金属層の硬度が150HV以上であり、裏金層の硬度が170HV以上であれば、
図5に示すように、実施例の耐高面圧複層軸受材料は、塑性変形量が5μm以下となり、軸受として内燃機関に用いたとしても、流体軸受として十分機能することができる。
これに対して、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比が1.4以上、裏金層を構成する結晶粒の縦横比が1.7以上、多孔質焼結金属層の硬度が150HV以上、裏金層の硬度が170HV以上であるという条件を満たしていない比較例の複層軸受材料は、塑性変形量が5μmより大きくなり、軸受として内燃機関に用いたとしても、流体軸受として十分に機能することができない。
【0043】
<2.4.2.縦横比および硬度と樹脂層の状態との関係>
次に、
図6に基づいて、本実施例の耐高面圧複層軸受材料および比較例の複層軸受材料について、多孔質焼結金属層を構成する球状金属粒子の縦横比、裏金層を構成する結晶粒の縦横比、多孔質焼結金属層の硬度および裏金層の硬度と、樹脂層の状態との関係を検討した結果を説明する。
【0044】
図6に示す実施例5~7は14%以上40%以下の異なる圧下率でそれぞれ圧延したものであり、比較例6~8は40%より大きい異なる圧下率でそれぞれ圧延したものである。
なお、
図6に示す、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比、裏金層を構成する結晶粒の縦横比、多孔質焼結金属層の硬度および裏金層の硬度は、上述した測定方法と同様である。
また、実施例の耐高面圧複層軸受材料および比較例の複層軸受材料の樹脂層の状態は、光学顕微鏡で樹脂層の断面を観察した際に、クラックの存在が確認できなかったものを「+」、クラックの存在が確認できたものを「-」として評価した。
【0045】
まず、縦横比に着目すると、圧下率を40%以下とすれば、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比は2.3以下となり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比は3.5以下となる。
そして、硬度に着目すると、圧下率を40%以下とすれば、多孔質焼結金属層の硬度は220HV以下となり、裏金層の硬度は225HV以下となる。
このように、圧下率を40%以下とすれば、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比は2.3以下となり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比は3.5以下となり、多孔質焼結金属層の硬度は220HV以上となり、裏金層の硬度は225HV以下となる。
【0046】
そして、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比が2.3以下であり、裏金層を構成する結晶粒の縦横比が3.5以下であり、多孔質焼結金属層の硬度が220HV以下であり、裏金層の硬度が225HV以下であれば、
図6に示すように、実施例の耐高面圧複層軸受材料は、樹脂層にクラックが生じず、軸受として内燃機関に用いたとしても、流体軸受として十分機能することができる。
これに対して、多孔質焼結金属層の球状金属粒子の縦横比が2.3以下、裏金層を構成する結晶粒の縦横比が3.5以下、多孔質焼結金属層の硬度が220HV以下、裏金層の硬度が225HV以下であるという条件を満たしていない比較例の複層軸受材料は、樹脂層にクラックが生じ、軸受として内燃機関に用いたとしても、流体軸受として十分に機能することができない。
【0047】
<3.本実施例の奏する作用効果>
本実施例の軸受100を形成する耐高面圧複層軸受材料によれば、裏金層110を構成する金属板の結晶粒111の受圧方向Zと直交する横方向Xの幅W1が、裏金層110を構成する金属板の結晶粒111の受圧方向Zの幅H1より大きいことにより、結晶粒界の凹凸が増加し、受圧方向Zに対する粒界すべり(すべり速度)が抑制されるため、裏金層110を受圧方向Zに対して変形しにくくすることができる。
また、多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121の横方向Xの幅W2が、多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121の受圧方向Zの幅H2より大きくなっていることにより、多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121の横方向Xの幅W2が多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121の受圧方向Zの幅H2より大きくない場合に比べて、多孔質焼結金属層120の受圧方向Zと直交する横方向Xの球状金属粒子121どうしの間隔が減少すると共に球状金属粒子121の受圧面積が大きくなることで球状金属粒子121に加わる圧力が小さくなるため、多孔質焼結金属層120を横方向Xに対して変形しにくくすることができる。
さらに、裏金層110を構成する金属板の結晶粒111の縦横比が、1.7以上3.5以下であり、多孔質焼結金属層120を構成する球状金属粒子121の縦横比が、1.4以上2.3以下であり、裏金層110の硬度が、170HV以上であり、多孔質焼結金属層120の硬度が、150HV以上であることにより、裏金層110に対して多孔質焼結金属層120が安定して積層されると共に裏金層110との硬度が充分に確保されるため、耐高面圧複層軸受材料が内燃機関Eの内部のような高温高面圧下で軸部材Sと対向しても、多孔質焼結金属層120の塑性変形を確実に抑制して軸受性能を長期に亘って保ったまま軸部材Sを支持することができる。
【0048】
また、裏金層110の硬度が、225HV以下であり、多孔質焼結金属層120の硬度が、220HV以下であることにより、軸受100に加わる負荷に対して樹脂層130だけでなく裏金層110および多孔質焼結金属層120が弾性変形可能となり、裏金層110および多孔質焼結金属層120は樹脂層130に対して追従性が保たれ、軸受100に加わる負荷に対して樹脂層130に過大な負荷が加わらないため、樹脂層130の内部にクラックが生じにくくなる。
【0049】
また、多孔質焼結金属層120が錫と銅との合金粉末からなり、樹脂層130がポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)からなることにより、耐熱性、耐圧性および耐摩耗性に優れた樹脂層130が、強靭な圧縮強さを発揮する多孔質焼結金属層120の多孔質組織内に充分に浸透して強固な接合形態を形成するため、内燃機関Eの内部のような高温高面圧下で軸部材Sと対向しても多孔質焼結金属層120の塑性変形を大幅に抑制して軸受性能を長期亘って確保することができる。
【0050】
また、耐高面圧複層軸受材料が、受圧方向に加圧して圧縮する圧延加工により形成されていることにより、耐高面圧複層軸受材料が塑性変形するため、内燃機関Eにおいて加わる圧力以上の圧力で耐高面圧複層軸受材料を予め圧延加工しておけば、内燃機関Eにおける高温高面圧下であっても耐高面圧複層軸受材料が塑性変形しにくくなり、安定した軸受性能を長期に亘って確保することができる。
【0051】
また、本実施例の軸受100は、上部リンクEulと下部リンクEdlとの第一連結部C1または下部リンクEdlとコントロールリンクEmlとの第二連結部C2の少なくとも一方に取り付けられていることにより、200MPa以上のような高温高面圧下のシリンダーEc内部であっても、内燃機関用軸受である軸受100が受圧方向に塑性変形しにくいため、内燃機関Eの性能を長期に亘って保つことができる。
【0052】
<4.変形例>
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものではない。
【0053】
例えば、本実施例では耐高面圧複層軸受材料を圧延加工にて作製していたが、裏金層および多孔質焼結金属層を圧縮して塑性変形させることができれば、裏金層および多孔質焼結金属層に対する塑性加工は圧延加工に限定されるものではなく、例えば、プレス加工であってもよい。
【0054】
例えば、裏金層110を形成する金属板の結晶粒の横方向の幅と受圧方向の幅との関係は、金属板を構成する大半の結晶粒において横方向の幅が受圧方向の幅より大きければよく、金属板を構成する全ての結晶粒で成り立たなくてもよい。
【0055】
例えば、多孔質焼結金属層120において積層される球状金属粒子121は、1層以上であれば、球状金属粒子121の積層層数は限定されるものでない。
【0056】
例えば、多孔質焼結金属層120の球状金属粒子121の横方向の幅と受圧方向の幅との関係は、多孔質焼結金属層120を構成する大半の球状金属粒子において横方向の幅が受圧方向の幅より大きければよく、多孔質焼結金属層120を構成する全ての球状金属粒子で成り立たなくてもよい。
【0057】
例えば、耐高面圧複層軸受材料により形成される軸受は、内燃機関の内部で用いるだけでなく、その他の場所で用いてもよい。