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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087894
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】合成樹脂接着用繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 10/02 20060101AFI20220607BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20220607BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20220607BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220607BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20220607BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
D06M10/02 C
C09J7/21
C09J7/35
C09J175/04
D06M13/11
C08J5/04 CEQ
C08J5/04 CFF
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200020
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591051966
【氏名又は名称】株式会社サンライン
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根立 敏
(72)【発明者】
【氏名】堤 英伸
(72)【発明者】
【氏名】水津 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【テーマコード(参考)】
4F072
4J004
4J040
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB02
4F072AB03
4F072AB04
4F072AB05
4F072AB06
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB30
4F072AC06
4F072AC12
4F072AD02
4F072AD43
4J004AA13
4J004AA14
4J004AB05
4J004BA01
4J004CA02
4J004CB01
4J004CC01
4J004CD08
4J004EA05
4J004FA08
4J040EF041
4J040EF331
4J040JA06
4J040JB02
4J040LA06
4J040MA10
4J040MB03
4J040PA30
4L031AA11
4L031AB01
4L031CB05
4L033AA04
4L033AB01
4L033AC11
4L033BA08
4L033BA69
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】柔軟さを有しつつ接着力の向上した合成繊維を製造することが可能であり、且つ作業面での負担を軽減可能にする。
【解決手段】合成繊維の製造方法は、ブロックポリイソシアネート化合物を所定重量%含有する処理剤を、合成繊維に塗布する処理剤塗布工程と、処理剤が塗布された合成繊維を熱乾燥させる熱風乾燥工程と、処理剤塗布工程前に、合成繊維にプラズマを照射するプラズマ処理工程とを含む。そして、熱風乾燥工程において、合成繊維を加熱する温度がブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックポリイソシアネート化合物を含有する水系接着剤用の処理剤を、合成繊維に塗布する処理剤塗布工程と、
前記処理剤が塗布された前記合成繊維を熱乾燥させる熱乾燥工程と、
前記処理剤塗布工程前及び/又は前記処理剤塗布工程後に、前記合成繊維にプラズマを照射するプラズマ処理工程とを含み、
前記熱乾燥工程において、前記合成繊維を加熱する温度が前記ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満であることを特徴とする合成樹脂接着用繊維の製造方法。
【請求項2】
前記処理剤は、ポリエポキシド化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂接着用繊維の製造方法。
【請求項3】
前記処理剤塗布工程において、前記ブロックポリイソシアネート化合物と前記ポリエポキシド化合物との前記合成繊維への合計塗布量が、前記合成繊維の重量に対して0.5重量%以上5重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の合成樹脂接着用繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中に極性基を有する合成樹脂に接着するための、合成樹脂接着用繊維の製造方法に関し、特に合成繊維にブロックポリイソシアネート化合物を含有する水系接着剤用の処理剤を塗布して製造された合成樹脂接着用繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴムや合成樹脂などと布帛やコードなどの繊維材料とを組み合わせて、複合材料として使用することが行われている。これらの複合材料ではその強度を確保するために、合成樹脂と繊維材料とが強固に接着されていることが要求される。その方法として一般には、繊維材料に接着剤を塗布する、RFL処理を行うなどの各種の接着性の表面処理を施すことが行われている(例えば、特許文献1参照)。またその接着層形成時の溶媒には一般的に有機溶剤が用いられている。
【0003】
特許文献1には、ポリエポキシド化合物、ブロックドポリイソシアネート、ゴムラテックスを主成分とする前処理液が付与された後、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスを主成分とする樹脂が付与されている繊維を低温プラズマ処理するゴム補強用繊維の製造方法について記載されている。これにより、ゴムに対する接着力の高いゴム補強用繊維を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-219782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のゴム補強用繊維の製造方法においては、前処理液に繊維を浸漬させた後に、240℃で熱処理を行っている。つまり、ブロックドポリイソシアネートのブロック剤の解離温度以上で繊維を加熱している。このため、ブロックドポリイソシアネートのブロック剤が解離し、イソシアネート基が再生され、これが反応して熱硬化物が生成される。つまり、ゴム補強用繊維の柔軟性が低下し曲げにくくなる。この結果、当該繊維の取り扱いがし辛くなるという問題が生じる。
また、一般的に、接着層の形成時に有機溶剤を用いることが多々ある。このため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理が必要となり、作業面での負担が大きいという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、柔軟さを有しつつ接着力の向上した合成繊維を製造することが可能であり、且つ作業面での負担を軽減可能な合成樹脂接着用繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の合成樹脂接着用繊維の製造方法は、ブロックポリイソシアネート化合物を含有する水系接着剤用の処理剤を、合成繊維に塗布する処理剤塗布工程と、前記処理剤が塗布された前記合成繊維を熱乾燥させる熱乾燥工程と、前記処理剤塗布工程前及び/又は前記処理剤塗布工程後に、前記合成繊維にプラズマを照射するプラズマ処理工程とを含む。そして、前記熱乾燥工程において、前記合成繊維を加熱する温度が前記ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満である。
【0008】
これによると、熱乾燥工程において合成繊維を加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、処理剤の硬化を抑制しつつ処理剤中の水分を蒸発させることが可能となる。このため、合成繊維の柔軟性が保たれる。また、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程前及び/又は処理剤塗布工程後に行われることで、合成繊維の処理剤(接着剤)に対する親和性が高くなり、合成繊維を合成樹脂に接着したときの接着力が向上する。つまり、柔軟さを有しつつ接着力の向上した合成繊維を製造することが可能となる。また、処理剤が水系接着剤用であるため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理の必要がなくなり、作業面での負担を軽減することが可能となる。
【0009】
本発明において、前記処理剤は、ポリエポキシド化合物を含有することが好ましい。これにより、処理剤にポリエポキシド化合物を含有されたものを使用することが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記処理剤塗布工程において、前記ブロックポリイソシアネート化合物と前記ポリエポキシド化合物との前記合成繊維への合計塗布量が、前記合成繊維の重量に対して0.5重量%以上5重量%以下の範囲であることが好ましい。これにより、これら化合物の合成繊維への合計塗布量が、0.5重量%以上であるため、合成樹脂に対する接着力が低下するのを抑制することが可能となる。また、これら化合物の合成繊維への合計塗布量が、5重量%以下であるため、製造コストの上昇を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の合成樹脂接着用繊維の製造方法によると、熱乾燥工程において合成繊維を加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、処理剤の硬化を抑制しつつ処理剤中の水分を蒸発させることが可能となる。このため、合成繊維の柔軟性が保たれる。また、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程前、及び/又は、処理剤塗布工程後に行われることで、合成繊維の処理剤(接着剤)に対する親和性が高くなり、合成繊維を合成樹脂に接着したときの接着力が向上する。つまり、柔軟さを有しつつ接着力の向上した合成繊維を製造することが可能となる。また、処理剤が水系接着剤用であるため、溶剤対応設備や作業面での負担を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法の製造工程を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法を行うための製造設備の概略構成図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法の製造工程を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法を行うための製造設備の概略構成図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法の製造工程を示す図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法を行うための製造設備の概略構成図である。
図7】糸の柔軟性を計測するときの状況を示す図である。
図8】(a)は糸を合成樹脂シートに接着したときの状況を示す図であり、(b)は合成樹脂シートに対する糸の接着力を計測するときの状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法について、図1及び図2を参照しつつ以下に説明する。
【0014】
ここで本実施形態における製造方法において用いられる繊維は合成繊維であれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの半芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペートなどの脂肪族ポリエステル、パラヒドロキシ安息香酸と6ヒドロキシ2ナフトエ酸の共重合体などの全芳香族ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド、ナイロン6TやナイロンMXD6などの半芳香族ポリアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドなどの全芳香族ポリアミド、およびポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンなどの繊維形成性の熱可塑性ポリマーからなる繊維、ポリパラフェニレンベンゾ ビスオキサゾールなどのヘテロ環を含む繊維、アクリル及びアクリル系繊維、ポリウレタン系繊維、またレーヨンやリヨセル、アセテートなどのセルロース系繊維など、公知の紡糸、延伸方法により得られる繊維であることが好ましい。
【0015】
また、繊維の繊度、フィラメント数、断面形状等には特に制限は無く、糸、紐、不織布、織編物等の種々の形態に対して適用することができる。
【0016】
本実施形態における糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法は、図1に示すように、糸送出し工程と、プラズマ処理工程と、処理剤塗布工程と、熱風乾燥工程(熱乾燥工程)と、糸巻取り工程とが順に行われる。本実施形態に採用される糸Sは、ポリエチレンテレフタレート繊維(1100デシテックス/192フィラメント)の2本を撚数100T/Mで合撚した繊維であるが、他の合成繊維から構成されていてもよい。本実施形態における糸Sの製造設備100は、図2に示すように、3つのローラユニットR1~R3、プラズマ処理器20、オイリングローラ30、及び、熱風乾燥機40などを有する。糸Sは、ボビン10に巻回されている。そして、ボビン10から巻出した糸Sを、3つのローラユニットR1~R3を介しつつ、プラズマ処理器20、オイリングローラ30、及び、熱風乾燥機40を通過させ、ボビン11に取り付ける。この後、ボビン10から所定速度(例えば、3m/min)で糸Sを送出し、プラズマ処理器20、オイリングローラ30、及び、熱風乾燥機40を順に通過させて加工処理した糸Sを、ボビン11で巻き取る。こうして、合成樹脂接着用繊維としての糸Sが製造される。
【0017】
本実施形態における3つのローラユニットR1~R3は、いずれも、駆動ローラRaと従動ローラRbとテンションローラRcとを有している。テンションローラRcは、駆動ローラRaと従動ローラRbとの間に配置され、糸Sに所定のテンションを付与するように構成されている。そして、各ローラユニットR1~R3の駆動ローラRaが駆動されることで、所定の送出速度で糸Sがボビン10から巻出されて送出される(糸送出し工程)。そして、糸送出し工程によって送出され、各工程を経て処理された糸Sが、ボビン11によって巻き取られる(糸巻取り工程)。
【0018】
本実施形態における製造方法に採用したプラズマ処理器20は、電界中に所望の処理用ガスを導入することで発生させたプラズマを糸Sに照射可能な公知のダイレクト式大気圧プラズマ処理器であるが、これ以外の減圧下で処理する方式のプラズマ処理器などでもよいし、リモート方式でもよい。つまり、糸Sに所望のプラズマを照射してプラズマ処理することが可能であればよい。なお、処理用ガスとしては、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、アンモニアガス、空気などあるいはこれらを所定の割合で混合したものを用いればよい。このようなプラズマ処理器20によって、処理剤塗布工程前の糸Sにプラズマを照射することで、糸Sに対する所望のプラズマ処理が行われる(プラズマ処理工程)。これにより、糸Sが脱脂されるとともに、その表面のぬれ性が向上し極性官能状態となる。これらにより、糸Sに塗布する処理剤(後述する)の糸Sを構成する繊維フィラメント束内への浸透が容易となり、処理剤に含まれるブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物の反応生成物が同繊維束内で均一に形成されやすくなる。つまり、硬質の樹脂被膜が繊維表面に偏在して形成されにくくなって、繊維束としての柔軟性を保つために寄与する。また、糸Sの処理剤に対する親和性が高くなり、糸Sを合成樹脂(後述する)に接着したときの接着力が向上する。
【0019】
また、本実施形態におけるプラズマ処理器20のプラズマ照射区間が0.75mとなっている。このため、糸Sを3m/minで送出すると、糸Sはプラズマが約15秒間、照射される。なお、糸Sの送出速度を速くすると、プラズマ照射時間が短くなり、糸Sの送出速度を遅くするとプラズマ照射時間が長くなる。
【0020】
本実施形態における製造方法に採用したオイリングローラ30も、公知のものを採用しているが、糸Sに所望量の処理剤を塗布することが可能であれば、計量ポンプとオイリングノズルによる塗布方法など他の塗布装置を用いてもよい。また、オイリングローラ30を適宜調整することで、糸Sへの処理剤の塗布量を制御する。本実施形態においては、処理剤に含まれるブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物の糸Sへの合計塗布量が、糸Sの重量に対して0.5重量%以上5重量%以下の範囲となるように調整する。これら化合物の糸Sへの合計塗布量が、0.5重量%以上であるため、糸Sに対する接着力が低下するのを抑制することが可能となる。また、これら化合物の糸Sへの合計塗布量が、5重量%以下であるため、これら化合物の使用量が減り、製造コストの上昇を抑制することが可能となる。このようなオイリングローラ30によって糸Sに処理剤を塗布し、ブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物とが糸Sに付与される(処理剤塗布工程)。
【0021】
本実施形態における処理剤としては、ブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物のそれぞれが1.5重量%混合分散された水系接着剤用の処理水を用いる。処理剤が水系接着剤用であるため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理の必要がなくなり、作業面での負担を軽減することが可能となる。また、処理剤中のブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物の割合は任意である。ブロックポリイソシアネート化合物の繊維への塗布量は、その種類にもよるが、通常は繊維に対する付与量は0.1~5重量%、好ましくは0.2~4.5重量%であることが必要である。0.1重量%未満であると、合成樹脂との接着性能が不足したり、また繊維へのブロックポリイソシアネート化合物の塗布ばらつきが生じ、合成樹脂との接着斑を起こす原因となる場合が多く好ましくない。また塗布量が4.5重量%を超えると製造コストの上昇を招き好ましくない。
【0022】
また、ブロックポリイソシアネート化合物におけるポリイソシアネート種としては、脂肪族ポリイソシアネート系、脂環族ポリイソシアネート系、芳香族ポリイソシアネート系、芳香脂肪族ポリイソシアネート系を採用することが可能である。また、ブロックポリイソシアネート化合物におけるブロック剤種としては、ラクタム系ブロック剤(解離温度が130℃~200℃)、アルコール系ブロック剤(解離温度が150℃~210℃)、オキシム系ブロック剤(解離温度が130℃~190℃)、アミン系ブロック剤(解離温度が140℃~220℃)、活性メチレン系ブロック剤(解離温度が80℃~160℃)、ピラゾール系ブロック剤(解離温度が110℃~180℃)、フェノール系ブロック剤(解離温度が120℃~180℃)、イミダゾール系ブロック剤(解離温度が80℃~150℃)を採用することが可能である。処理剤が糸Sに塗布された後にプラズマ処理工程が行われる場合は、製造方法に採用するブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤としては、解離温度が140℃以上のものとする。これは、処理剤が糸Sに塗布された後にプラズマ処理工程が行われた際に、プラズマ処理により糸Sが120℃程度まで加熱されても、ブロック剤を解離させないためである。本実施形態のようにプラズマ処理工程の後に、処理剤塗布工程が行われる場合は、採用するブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤としては、解離温度が140℃未満のものであってもよい。
【0023】
本実施形態における製造方法に採用した熱風乾燥機40も、公知のものを採用しているが、ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度よりも低い温度で糸Sを加熱し、糸Sに塗布された処理剤中の水分を蒸発させることが可能であれば、他の乾燥機を用いてもよい。このような熱風乾燥機40中に処理剤が塗布された糸Sを通過させて、ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満で糸Sを加熱し熱乾燥させる(熱風乾燥工程:熱乾燥工程)。このように熱風乾燥工程において、糸Sを加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、処理剤の硬化を抑制しつつ処理剤中の水分を蒸発させることが可能となる。このため、糸Sの柔軟性が保たれる。
【0024】
また、本実施形態における熱風乾燥機40の熱乾燥区間が2mとなっている。このため、糸Sを3m/minで送出すると、糸Sは約40秒間、熱乾燥される。なお、糸Sの送出速度を速くすると、熱乾燥時間が短くなり、糸Sの送出速度を遅くすると熱乾燥時間が長くなる。
【0025】
以上のような糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法によると、熱風乾燥工程において糸Sを加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、処理剤の硬化を抑制しつつ処理剤中の水分を蒸発させることが可能となる。このため、糸Sの柔軟性が保たれる。また、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程前に行われることで、糸Sの処理剤(接着剤)に対する親和性が高くなり、糸Sを後述するように合成樹脂に接着したときの接着力が向上する。つまり、柔軟さを有しつつ接着力の向上した糸Sを製造することが可能となる。また、処理剤が水系接着剤用であるため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理の必要がなくなり、作業面での負担を軽減することが可能となる。
【0026】
続いて、本発明の第2実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法について、図3及び図4を参照しつつ以下に説明する。なお、第1実施形態と同様なものについては、同符号を付与し説明を省略する。
【0027】
本実施形態における糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法は、図3に示すように、糸送出し工程と、処理剤塗布工程と、プラズマ処理工程と、熱風乾燥工程(熱乾燥工程)と、糸巻取り工程とが順に行われる。つまり、本実施形態の製造方法は、第1実施形態のプラズマ処理工程と処理剤塗布工程との順番が入れ替わっただけである。つまり、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程後に行われる。これ以外はすべて同様である。また、糸Sの製造設備200は、図4に示すように、第1実施形態の製造設備100のプラズマ処理器20とオイリングローラ30との配置が入れ替わっただけで、それ以外は同様の構成である。
【0028】
このような糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法においても、熱風乾燥工程において糸Sを加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。また、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程後に行われていても、糸Sを後述するように合成樹脂に接着したときの接着力が向上する。つまり、柔軟さを有しつつ接着力の向上した糸Sを製造することが可能となる。また、処理剤が水系接着剤用であるため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理の必要がなくなり、作業面での負担を軽減することが可能となる。なお、第1実施形態と同様な構成については同じ効果を得ることができる。
【0029】
続いて、本発明の第3実施形態に係る合成樹脂接着用繊維の製造方法について、図5及び図6を参照しつつ以下に説明する。なお、第1及び第2実施形態と同様なものについては、同符号を付与し説明を省略する。
【0030】
本実施形態における糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法は、図5に示すように、第1実施形態の製造方法における熱風乾燥工程(熱乾燥工程)と糸巻取り工程との間に、プラズマ処理工程が追加されたものである。つまり、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程の前後の両方に実施される。これ以外はすべて同様である。また、糸Sの製造設備300は、図6に示すように、第1実施形態の製造設備100のローラユニットR3に続けて設置されたプラズマ処理器50とローラユニットR4とを有する。プラズマ処理器50は、上述のプラズマ処理器20と同様な構成を有する。また、ローラユニットR4も、上述のローラユニットR1~R3と同様な構成を有する。
【0031】
このような糸S(合成樹脂接着用繊維)の製造方法においても、熱風乾燥工程において糸Sを加熱する温度がブロック剤の解離温度未満であるため、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。また、プラズマ処理工程が、処理剤塗布工程前後両方において行われているため、第1及び第2実施形態同様に、糸Sを後述するように合成樹脂に接着したときの接着力が向上する。つまり、柔軟さを有しつつ接着力の向上した糸Sを製造することが可能となる。また、処理剤が水系接着剤用であるため、有機溶剤特有の防爆設備の設置や廃液処理の必要がなくなり、作業面での負担を軽減することが可能となる。なお、第1及び第2実施形態と同様な構成については同じ効果を得ることができる。
【0032】
第3実施形態における製造方法は、熱風乾燥工程に続いてプラズマ処理工程が実行される連続式の製造方法であるが、熱風乾燥工程の後に糸巻き取り工程を行い、一旦ボビンにそこまで処理した糸Sを巻き取った後、その巻き取られた糸Sを、ボビンから送出し、プラズマ処理工程を行った後に、別のボビンに糸Sを巻き取る2ステップの製造方法であってもよい。
【0033】
また、第3実施形態及びその変形例においては、プラズマ処理が熱風乾燥工程の後に行われているが、処理剤塗布工程と熱風乾燥工程との間にプラズマ処理工程が行われていてもよい。これにおいても上述と同様の効果を得ることができる。
【実施例0034】
続いて、実施例1~11及び比較例1~4について以下に説明する。実施例1~11及び比較例1~4の糸の送出速度、処理剤の塗布量、プラズマ処理の時期及び処理ガス、時間、熱乾燥処理の温度及び時間、これら処理後の柔軟性、及び、接着力について表1に示す。
【表1】
【0035】
実施例1~11及び比較例1~4に用いる糸は、上述の糸Sと同様な、ポリエチレンテレフタレート繊維(1100デシテックス/192フィラメント)の2本を撚数100T/Mで合撚した繊維である。実施例1~11及び比較例1~3に用いる処理剤は、すべて上述の処理剤(ブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物のそれぞれが1.5重量%混合分散された水系接着剤用の処理水)と同様のものである。なお、ブロックポリイソシアネート化合物には、明成化学工業社製のε-カプロラクタムブロックジフェニルメタンジイソシアネート(製品名「DM30」)を用いた。このブロック剤の解離温度は約180℃である。また、ポリエポキシド化合物には、ナガセケムテックス社製のソルビトールポリグリシジルエーテル(製品名「デナコールEX-614B」)を用いた。比較例4に用いられる処理剤は、ブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物とを有機溶媒N-メチルピロリドンに各々1.5重量%濃度で溶解した処理剤も用いた。表1に示すように、実施例1~10及び比較例1~4の糸の送出速度は、いずれも3m/minであり、実施例11の糸の送出速度は、9m/minである。処理剤の塗布量、すなわち処理剤の含まれる2つの化合物の糸への合計塗布量は、実施例1~4、7~10、及び、比較例1、4は糸の重量に対して1重量%であり、実施例5、及び、比較例2,3は糸の重量に対して2重量%であり、実施例11は糸の重量に対して0.5重量%である。
【0036】
また、表1に示すように、実施例1,3,4,5及び比較例2がプラズマ処理工程の時期が処理剤の塗布前のみである。つまり、これら実施例1,3,4,5及び比較例2のプラズマ処理工程の実行タイミングが、上述の第1実施形態の製造方法のプラズマ処理工程のタイミングと同様である。実施例2はプラズマ処理工程の時期が処理剤の塗布後のみである。つまり、実施例2のプラズマ処理工程の実行タイミングが、上述の第2実施形態の製造方法のプラズマ処理工程のタイミングと同様である。実施例6~11はプラズマ処理工程の時期が処理剤の塗布前後の両方である。つまり、これら実施例6~11のプラズマ処理工程の実行タイミングが、上述の第3実施形態の製造方法のプラズマ処理工程のタイミングと同様である。なお、比較例1,3,4はプラズマ処理工程が行われていない。使用した処理ガスは、実施例1,2,5,6,11が窒素ガスのみであり、実施例3が酸素ガスのみであり、実施例4が炭酸ガスのみである。実施例7,8は処理ガスとして酸素ガスと窒素ガスが用いられ、実施例9は処理ガスとして炭酸ガスと窒素ガスが用いられ、実施例10は処理ガスとして空気と窒素ガスが用いられている。また、実施例1~10及び比較例2におけるプラズマ処理時間は一工程において約15秒である。実施例11におけるプラズマ処理時間は一工程において約5秒である。
【0037】
また、表1に示すように、熱乾燥処理の温度は、実施例1~11及び比較例1が120℃であり、比較例2~4が210℃である。熱乾燥処理の時間は、実施例1~10及び比較例1~4が40秒であり、実施例11が13秒である。
【0038】
このような条件で処理されて製造された実施例1~11及び比較例1~4の糸の柔軟性及び接着力について測定した結果も表1に示す。糸の柔軟性については、図7を参照しつつ以下に説明する。
【0039】
まず、各実施例1~11及び各比較例1~4の条件で処理して製造された糸S1のそれぞれを、固定板70に固定する。固定板70は、アクリル樹脂板であり、幅10mm、長さ1200mm、厚み2mmである。糸S1は長さ40mmとする。そして、図7に示すように、糸S1の一端部を固定板の下端部中央の表面に貼り付け、糸S1の他端部を固定板の下端部中央の裏面に貼り付ける。このときの貼り付け長は、ともに10mmである。つまり、20mmの糸S1が固定板70から下方にU字状に垂れ下がった状態となる。この状態において、室温23℃、湿度65%RHで24時間静置させる。この後、固定板70とともに糸S1を1.5mm/sの速度で降下させ、糸S1をロードセル上面80に接触させる。糸S1がロードセル上面80と接触してから2秒後に固定板70の降下を停止する。すなわち、糸S1をロードセル上面80に接触させてから固定板70を3mm降下させて停止する。このときの糸S1の反発力(N)をロードセルで計測する。この計測を1つの糸S1に対して5回実施し、その平均値を柔軟性として評価する。この結果、実施例1~11及び比較例1が、0.03Nとなり、比較例2が0.20N、比較例3が0.21N、比較例4が0.19Nとなった。処理を行っていない未処理の糸はそもそも硬化しないため、曲げやすく柔軟性のあるものとなり、取り扱いしやすい。この未処理の糸で同様の柔軟性を評価した場合、0.03Nとなった。これより、実施例1~11及び比較例1については、未処理の糸と同様に、柔軟性が良好となり、製造ラインにおいて、処理済み糸を用いやすくなる。一方、比較例2~4については、反発力が未処理のものよりも6倍以上となり、柔軟性が大幅に低下する。これより、糸が、熱乾燥処理において、ブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満で加熱され熱乾燥されていることで、柔軟性が保たれることがわかる。
【0040】
続いて、糸の接着力については、図8を参照しつつ以下に説明する。まず、製造された複数の糸S1を、図8(a)に示すように、合成樹脂シート90に貼り付ける。つまり、複数の糸S1を、合成樹脂シート90の幅方向に沿って互いに離隔させつつ等間隔に配置する。合成樹脂シート90は、熱可塑性ポリウレタンシートであり、幅が100mm、長さ200mm、厚み2mmである。この後、熱プレスを行って複数の糸S1を合成樹脂シートに貼り付ける。このときの熱プレスの条件としては、温度160℃、圧力18kg/cm2、プレス時間5分である。この後、熱プレスした合成樹脂シート90を冷却する。そして、この状態において、室温23℃、湿度65%RHで24時間静置させる。これを各実施例1~11及び比較例1~4の条件で処理して製造された糸S1に対してそれぞれ行う。
【0041】
次に、図8(b)に示すように、合成樹脂シート90に貼り付けられた複数の糸S1のうち、隣接する2本の糸S1の一端部を治具95に取り付ける。この後、糸S1がU字状に180°折り返すような格好で2本の糸S1が治具95で合成樹脂シート90から引き剥がす時の強力(接着力)を測定する。測定方法としては、JIS K 6854-2:1999(ISO 8510-2:1990) 「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離」に準拠して実施する。このときの治具95の移動速度が50mm/min、移動長さが200mmである。この測定により得られた最大値を接着力(N)とする。なお、測定は、各例において、5回実施し、その平均値を接着力として評価する。また、測定時に糸S1(合成繊維)自体が破断した場合は破断と示し、後述の所望接着力20N以上の接着力があって良好であることがわかる。なお、接着力の評価基準としては、例えば、消防ホースとして採用する際の糸と合成樹脂の間の基準である、20N以上であれば、実用上問題ないとして評価する。
【0042】
実施例1~11はいずれも接着力が20N以上もしくは糸S1の破断である。つまり、実用上問題のない接着力を有し、良好である。これは、いずれの実施例1~11においても、プラズマ処理が行われているためである。プラズマ処理が行われることで、柔軟性を保つために、熱乾燥処理における糸S1の加熱温度がブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満であっても、接着力を所望以上とすることが可能になることがわかる。一方、比較例1は、プラズマ処理が行われていないために、接着力が低くなり、所望の接着力を有さない。比較例2~4については、熱乾燥処理における糸S1の加熱温度がブロック剤の解離温度を超えるため、所望の接着力を有する状態となるが、糸S1自体が硬化した状態であるため、柔軟性がない。
【0043】
以上の実施例1~11より、処理剤塗布工程前及び/又は処理剤塗布工程後に、プラズマ処理が行われ、熱乾燥工程における糸S1の加熱温度がブロックポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離温度未満であることで、柔軟さを有しつつ接着力の向上した糸S1(合成繊維)を製造することが可能であることがわかる。これにより、作業面での負担を軽減可能となる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の第1~第3実施形態の製造方法に採用された処理剤は、ブロックポリイソシアネート化合物とポリエポキシド化合物を含んでいるが、ポリエポキシド化合物以外の化合物を含んでいてもよい。
【0045】
また、処理剤塗布工程における処理剤に含まれる化合物の合成繊維への塗布量は、合成繊維の重量に対して0.5重量%未満であってもよいし、5重量%を超えていてもよい。
【0046】
また、本発明における処理剤を付与しても接着性の向上効果が十分でない合成樹脂を合成繊維に接着させる場合、合成繊維の表面に当該処理剤層を形成した後、その表面に前記処理剤及び前記合成樹脂の両方と良好な接着性を有する他の接着剤を塗布することも可能である。この場合、処理剤は合成繊維と他の接着剤との間の中間層として利用されることとなる。
【符号の説明】
【0047】
10,11 ボビン
20 プラズマ処理器
30 オイリングローラ
40 熱風乾燥機
100,200,300 製造設備
R1~R4 ローラユニット
S 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8