(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087898
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20220607BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20220607BHJP
F04C 14/06 20060101ALN20220607BHJP
【FI】
F04C2/10 341B
F04C2/10 341Z
F04C15/00 B
F04C15/00 D
F04C14/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200027
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】520474554
【氏名又は名称】株式会社エンジニアリングデザインラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 智巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 規臣
(72)【発明者】
【氏名】田中 和博
(72)【発明者】
【氏名】渡部 和哉
(72)【発明者】
【氏名】進 純太
(72)【発明者】
【氏名】菊政 慧
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB03
3H041CC03
3H041CC20
3H041CC21
3H041DD04
3H041DD11
3H041DD22
3H041DD23
3H041DD33
3H041DD34
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC03
3H044CC19
3H044CC21
3H044DD04
3H044DD11
3H044DD23
3H044DD24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低温状態での始動性と高温状態での吐出効率との双方を向上させることができるオイルポンプを提供する。
【解決手段】オイルポンプ1は、吸入ポート2iおよび吐出ポート2oを有するポンプハウジング2と、ポンプハウジング2内に配置される少なくとも1つのロータ3,4と、ポンプハウジング2内にロータ3,4に対して軸方向に移動自在に配置される可動部材6と、形状記憶効果をもたない材料により形成され、可動部材6とロータ3,4とのクリアランスが大きくなるように可動部材6を軸方向における一側に付勢する第1付勢部材11と、形状記憶効果を有する材料により形成され、温度上昇に応じて可動部材6とロータ3,4とのクリアランスが小さくなるように可動部材6を第1付勢部材11の付勢力に抗して軸方向における他側に付勢する第2付勢部材12とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入ポートおよび吐出ポートを有するポンプハウジングと、前記ポンプハウジング内に配置される少なくとも1つのロータとを含み、前記吸入ポートから吸入したオイルを前記吐出ポートから吐出するオイルポンプにおいて、
前記ポンプハウジング内に前記ロータに対して軸方向に移動自在に配置される可動部材と、
形状記憶効果をもたない材料により形成され、前記可動部材と前記ロータとのクリアランスが大きくなるように前記可動部材を前記軸方向における一側に付勢する第1付勢部材と、
形状記憶効果を有する材料により形成され、温度上昇に応じて前記可動部材と前記ロータとの前記クリアランスが小さくなるように前記可動部材を前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記軸方向における他側に付勢する第2付勢部材と、
を備えるオイルポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルポンプにおいて、
前記ポンプハウジングは、前記可動部材の前記軸方向における前記一側への移動を規制する第1移動規制部と、前記可動部材の前記軸方向における前記他側への移動を規制する第2移動規制部とを含むオイルポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオイルポンプにおいて、
前記ポンプハウジングは、開口を有し、
前記可動部材は、前記吐出ポート側からのオイルを前記開口側に導く連通路を有し、
前記開口を開閉可能な弁体と、形状記憶効果をもたない材料により形成されると共に前記弁体を開弁側に付勢する第1弁体付勢部材と、形状記憶効果を有する材料により形成されると共に温度上昇に応じて前記弁体を前記第1弁体付勢部材の付勢力に抗して閉弁側に付勢する第2弁体付勢部材とを含むリリーフバルブを更に備えるオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸入ポートおよび吐出ポートを有するポンプハウジングと、ポンプハウジング内に配置される少なくとも1つのロータとを含むオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸と一体回転するインナーロータと、インナーロータの回転に応じて当該インナーロータとの間の容積を変化させてオイルを送出するアウターロータと、インナーロータおよびアウターロータを収容するハウジングと、軸方向の一端がハウジングに当接すると共に他端がインナーロータおよびアウターロータの軸方向端面と近接対向するようにハウジング内に配置される熱膨張部材とを含む電動式のオイルポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。このオイルポンプの熱膨張部材は、ハウジング、インナーロータおよびアウターロータの熱膨張係数より大きい熱膨張係数を有し、オイルや外気の温度の上昇に応じて熱膨張すると共に温度の低下に応じて熱収縮する。これにより、オイルや外気の温度が比較的低い場合には、熱膨張部材の熱収縮により当該熱膨張部材とインナーロータおよびアウターロータの軸方向端面との隙間である軸方向クリアランス(サイドクリアランス)を大きくしてインナーロータおよびアウターロータへの抵抗を低減することができる。また、オイルや外気の温度が比較的高い場合には、熱膨張部材の熱膨張により軸方向クリアランスを小さくして吐出効率の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のオイルポンプにおいて、熱膨張部材の熱膨張量を充分かつ精度よく確保することは容易ではない。このため、オイルや外気の温度が比較的低いときのサイドクリアランス等と、オイル等の温度が比較的高いときのサイドクリアランス等との双方を適正に設定し得なくなり、低温状態でのオイルポンプの始動性と高温状態でのオイルポンプの吐出効率との双方を向上させることを困難となる。
【0005】
そこで、本開示は、低温状態での始動性と高温状態での吐出効率との双方を向上させることができるオイルポンプの提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のオイルポンプは、吸入ポートおよび吐出ポートを有するポンプハウジングと、前記ポンプハウジング内に配置される少なくとも1つのロータとを含み、前記吸入ポートから吸入したオイルを前記吐出ポートから吐出するオイルポンプにおいて、前記ポンプハウジング内に前記ロータに対して軸方向に移動自在に配置される可動部材と、形状記憶効果をもたない材料により形成され、前記可動部材と前記ロータとのクリアランスが大きくなるように前記可動部材を前記軸方向における一側に付勢する第1付勢部材と、形状記憶効果を有する材料により形成され、温度上昇に応じて前記可動部材と前記ロータとの前記クリアランスが小さくなるように前記可動部材を前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記軸方向における他側に付勢する第2付勢部材とを含むものである。
【0007】
本開示のオイルポンプにおいて、第1付勢部材は、形状記憶効果をもたない材料により形成され、可動部材とロータとのクリアランスが大きくなるように可動部材を軸方向における一側に付勢する。また、第2付勢部材は、形状記憶効果を有する材料により形成されて温度上昇に応じて可動部材とロータとのクリアランスが小さくなるように可動部材を第1付勢部材の付勢力に抗して軸方向における他側に付勢する。これにより、オイルや外気の温度が低い低温状態では、第1付勢部材により可動部材を軸方向における一側に付勢して可動部材とロータとのクリアランスを大きくし、それによりロータへの抵抗を低減してオイルポンプをスムースに始動させることができる。更に、オイルや外気の温度が高い高温状態では、第2付勢部材により可動部材を第1付勢部材の付勢力に抗して軸方向における他側に付勢して可動部材とロータとのクリアランスを小さくし、吐出効率の悪化を抑制することが可能となる。また、形状記憶効果をもたない第1付勢部材と、形状記憶効果を有する第2付勢部材とを組み合わせることで、可動部材を低温状態で軸方向における一側に確実かつ適正に移動させると共に高温状態で軸方向における他側に確実かつ適正に移動させることができる。この結果、本開示のオイルポンプでは、低温状態での始動性と高温状態での吐出効率との双方を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のオイルポンプを示す概略構成図である。
【
図2】本開示のオイルポンプを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のオイルポンプ1を示す概略構成図である。同図に示すオイルポンプ1は、例えば、図示しない車両に搭載されると共に作動油貯留部(オイルパン)に貯留されている作動油(オイル)を吸引して当該車両の変速機への油圧を制御する油圧制御装置(何れも図示省略)へと圧送するものである。本実施形態において、オイルポンプ1は、ギヤポンプであり、ポンプハウジング2と、それぞれポンプハウジング2内に回転自在に配置されるインナーロータ(ドライブギヤ)3およびアウターロータ(ドリブンギヤ)4と、車両に搭載されたエンジンのクランクシャフトあるいは電動モータに連結されると共にインナーロータ3が固定される回転軸5とを含む。
【0011】
ポンプハウジング2は、中空筒状のポンプボディ20と、第1ポンプカバー21と、第2ポンプカバー22とを含む。ポンプボディ20の内部には、
図1における下側に位置する第1室201と、
図1における上側に位置する第1室201よりも大径の第2室202とが形成されている。本実施形態において、第1室201の軸長は、インナーロータ3およびアウターロータ4の軸長(厚み)よりも長く定められている。第1ポンプカバー21は、回転軸5を回転自在に支持する貫通孔を有し、第1室201を塞ぐようにポンプボディ20の
図1における下側の端部に固定(一体化)される。第2ポンプカバー22は、回転軸5を回転自在に支持する貫通孔を有し、第2室202を塞ぐようにポンプボディ20の
図1における上側の端部に固定(一体化)される。
【0012】
インナーロータ3は、回転軸5に固定されると共に、ポンプハウジング2のポンプボディ20に形成された第1室201内に配置され、当該回転軸5に付与される動力により回転駆動される。また、インナーロータ3の外周には、図示しない複数の外歯が形成されている。一方、アウターロータ4の内周には、インナーロータ3の外歯の総数よりも1つ多い数の内歯が形成されている。アウターロータ4は、少なくとも何れか1つまたは複数の内歯がインナーロータ3の対応する外歯に噛合すると共に、インナーロータ3に対して予め定められた偏心量だけ偏心した状態でポンプボディ20の第1室201内に回転自在に配置される。更に、インナーロータ3とアウターロータ4との間には、基本的に隣り合う2つの外歯と隣り合う2つの内歯とにより図示しない複数の歯間室(ポンプ室)が形成される。
【0013】
これにより、回転軸5からの動力によりインナーロータ3が予め定められた方向に回転すると、アウターロータ4は、複数の内歯の一部が複数の外歯の一部に噛合することで、インナーロータ3の回転中心から上記偏心量だけ離間した回転中心の周りにインナーロータ3と共に同方向に回転する。インナーロータ3およびアウターロータ4が回転する際、両者の回転方向における後側(上流側)の領域では、インナーロータ3等の回転に伴って各歯間室の容積が増加(歯間室が膨張)する。一方、インナーロータ3およびアウターロータ4の回転方向における前側(下流側)の領域では、インナーロータ3等の回転に伴って各歯間室の容積が減少(歯間室が収縮)する。
【0014】
また、ポンプハウジング2を構成する第1ポンプカバー21には、それぞれ例えば略円弧状に延在する吸入ポート2iおよび吐出ポート2oが形成されている。吸入ポート2iは、図示しない油路を介して上記作動油貯留部に連通すると共に、インナーロータ3およびアウターロータ4により画成される複数の歯間室のうち、インナーロータ3等の回転に伴って容積が増加する歯間室と連通(対向)する。吐出ポート2oは、図示しない油路を介して上記油圧制御装置の図示しない作動油入口に連通すると共に、吸入ポート2iよりもインナーロータ3等の回転方向における前側で、上記複数の歯間室のうち、インナーロータ3等の回転に伴って容積が減少する歯間室と連通(対向)する。なお、第1ポンプカバー21には、隔壁部により仕切られて互いに独立した複数の吐出ポートが形成されてもよい。
【0015】
更に、オイルポンプ1は、ポンプハウジング2内にインナーロータ3およびアウターロータ4に対して軸方向に移動自在に配置される可動部材6を含む。可動部材6は、アウターロータ4と概ね同一の外径を有する円盤状のディスク部60と、ディスク部60の外周から径方向外側に延出された環状のフランジ部61と、フランジ部61の
図1における下側すなわちインナーロータ3およびアウターロータ4側でディスク部60の外周から径方向外側に突出する環状の突出部65とを有する。
【0016】
可動部材6のディスク部60の中心部には、貫通孔が形成されている。また、ディスク部60の
図1における下側すなわちインナーロータ3およびアウターロータ4側の端面には、それぞれ円弧状に延びる吸入側凹部60iおよび吐出側凹部60oが形成されている。可動部材6のフランジ部61は、ディスク部60の
図1における上側すなわちインナーロータ3およびアウターロータ4側とは反対側の端面よりも当該インナーロータ3およびアウターロータ4側(
図1における下側)でディスク部60の外周から径方向外側に延出される。また、フランジ部61は、ポンプボディ20の第1室201の内径よりも大きく、かつ第2室202の内径よりも若干小さい外径を有する。
【0017】
可動部材6の突出部65は、ディスク部60のインナーロータ3およびアウターロータ4側(
図1における下側)の端面よりもフランジ部61側でディスク部60の外周から径方向外側に突出する。突出部65は、ポンプボディ20の第1室201の内径よりも大きく、かつフランジ部61の外径よりも小さい外径を有する。なお、可動部材6には、ディスク部60の外周から径方向外側に突出するように複数の突出部が周方向に間隔をおいて設けられてもよい。
【0018】
図1に示すように、可動部材6は、ディスク部60の
図1中下側の一部がポンプボディ20の第1室201内に位置すると共に、フランジ部61および突出部65がポンプボディ20の第2室202内に位置するようにポンプハウジング2(ポンプボディ20)内に配置される。また、ディスク部60の
図1における下側の端面と、インナーロータ3およびアウターロータ4の
図1における上側の端面との間には、微小なクリアランス(サイドクリアランス)CLが形成される。更に、ディスク部60の吸入側凹部60iは、第1ポンプカバー21に形成された吸入ポート2iの反対側でインナーロータ3等の回転に伴って容積が増加する歯間室と連通(対向)し、吐出側凹部60oは、第1ポンプカバー21に形成された吐出ポート2oの反対側でインナーロータ3等の回転に伴って容積が減少する歯間室と連通(対向)する。
【0019】
また、ディスク部60の中心の貫通孔には、回転軸5が摺動自在に挿通され、可動部材6は、インナーロータ3およびアウターロータ4に対して軸方向に移動自在となる。更に、ポンプハウジング2の第2ポンプカバー22は、可動部材6のディスク部60に形成された凹部に嵌合されるノック24を保持する。これにより、ポンプハウジング2に対する可動部材6の回転軸5周りの回転が回り止めとしてのノック24により規制される。
【0020】
そして、可動部材6のフランジ部61とポンプボディ20の第2室202の底面205との軸方向における間であって、突出部65の周囲には、環状の第1付勢部材11が配置される。第1付勢部材11は、例えば鋼材等の形状記憶効果をもたない材料により形成された皿ばねである。第1付勢部材11は、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLが大きくなるように可動部材6をインナーロータ3およびアウターロータ4とは反対側に位置する第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)に付勢する。
【0021】
更に、可動部材6のフランジ部61と第2ポンプカバー22の内面225(インナーロータ3およびアウターロータ4側の表面)との間であって、ディスク部60の周囲には、環状の第2付勢部材12が配置される。第2付勢部材12は、例えばNi-Ti系形状記憶合金や鉄系形状記憶合金といった形状記憶効果を有する材料(形状記憶合金)により形成された環状部材である。第2付勢部材12は、その温度が変態温度未満である間、ディスク部60のインナーロータ3およびアウターロータ4側とは反対側(
図1における上側)の端面からフランジ部61までの長さよりも小さい厚みをもった概ね平坦な形状に維持される。一方、第2付勢部材12の温度が変態温度以上になると、第2付勢部材12は、内周部と外周部とが軸方向に互いに離間した皿ばね状の(元の)形状に戻り、それにより、上記クリアランスCLが小さくなるように可動部材6を第1付勢部材11の付勢力に抗してインナーロータ3およびアウターロータ4側(軸方向における他側)に付勢する。
【0022】
また、ポンプハウジング2の第2ポンプカバー22には、開口28が形成されており、可動部材6には、吐出側凹部60oで開口すると共に第2ポンプカバー22側の端面かつ開口28付近で開口する連通路(チョーク)68が形成されている。これにより、インナーロータ3等の回転に伴って容積が減少する歯間室から吐出側凹部60oに流入した作動油の一部は、連通路68を介して開口28側に導かれる。更に、第2ポンプカバー22と可動部材6との間には、開口28と連通路68との連通部を封止する例えばOリング等のシール部材7が配置されており、第2ポンプカバー22には、リリーフバルブ8が設置されている。リリーフバルブ8は、第2ポンプカバー22の開口28を開閉可能な弁体80と、弁体80を開弁側に付勢する第1スプリング(第1弁体付勢部材)81と、弁体80を閉弁側に付勢する第2スプリング(第2弁体付勢部材)82とを含むものである。
【0023】
リリーフバルブ8の第1スプリング81は、例えば鋼材等の形状記憶効果をもたない材料により形成されたコイルばねである。また、リリーフバルブ8の第2スプリング82は、例えばNi-Ti系形状記憶合金や鉄系形状記憶合金といった形状記憶効果を有する材料(形状記憶合金)により形成されたコイルばねである。第2スプリング82の温度が変態温度未満である間、当該第2スプリング82は収縮状態に維持され、リリーフバルブ8の弁体80は、第1スプリング81により
図1における上側に付勢されて開弁状態に維持される。これに対して、第2スプリング82の温度が変態温度以上になると、当該第2スプリング82は、上記収縮状態よりも軸長が長くなる伸長状態に戻り、弁体80を第1スプリング81の付勢力に抗して
図1における下側すなわち閉弁側に付勢する。これにより、弁体80は、第2スプリング82の付勢力により閉弁状態に維持される。
【0024】
続いて、上述のように構成されるオイルポンプ1の動作について説明する。
【0025】
オイルポンプ1を含む車両の走行が開始され、回転軸5からの動力によりインナーロータ3およびアウターロータ4が回転すると、吸入ポート2iと対向(連通)すると共にインナーロータ3およびアウターロータ4の回転に伴って容積が増加する複数の歯間室内に当該吸入ポート2iを介して作動油貯留部から作動油が吸入される。作動油を吸入した歯間室の容積は、インナーロータ3等の回転に伴って減少し、容積が減少する歯間室は、インナーロータ3の回転に伴って吐出ポート2oおよび可動部材6の吐出側凹部60oに対向(連通)する。これにより、容積が減少する歯間室から吐出ポート2oへと作動油が圧送され、吐出ポート2oからの作動油が油路を介して油圧制御装置に供給されることになる。
【0026】
また、オイルポンプ1において、形状記憶効果をもたない材料により形成された第1付勢部材11は、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLが大きくなるように可動部材6を第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)に付勢する。これに対して、作動油や外気の温度が比較的低く、第2付勢部材12の温度が変態温度未満である際、当該第2付勢部材12は、可動部材6のディスク部60の
図1における上側の端面からフランジ部61までの長さよりも小さい厚みをもった概ね平坦な形状に維持される。従って、可動部材6は、第1付勢部材11の付勢力のみにより第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)に移動させられ、ディスク部60のインナーロータ3およびアウターロータ4側とは反対側の端面が第1移動規制部としての第2ポンプカバー22の内面225に当接することで、当該内面225により可動部材6の第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)への移動が規制される。
【0027】
これにより、作動油や外気の温度が比較的低い低温状態では、
図1に示すように、第1付勢部材11により可動部材6を第2ポンプカバー22側に付勢して可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCL(並びにインナーロータ3およびアウターロータ4と第1ポンプカバー21の内面(ポンプハウジング2)とのクリアランス)を大きくすることができる。従って、低温状態では、インナーロータ3およびアウターロータ4への抵抗を低減してオイルポンプ1をスムースに始動させることが可能となる。この結果、オイルポンプ1が電動モータにより駆動される電動ポンプである場合には、低温状態での始動性を向上させるために電動モータのトルクを増加させる必要がなくなり、オイルポンプ1がエンジンにより駆動される機械式ポンプである場合には、低温状態での損失を低減化することができる。本実施形態において、オイルポンプ1の各構成部材の諸元は、第2付勢部材12の温度が変態温度未満であるときに、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLと、インナーロータ3およびアウターロータ4と第1ポンプカバー21の内面とのクリアランスとの和が実験・解析を経て予め定められた値になるように定められている。
【0028】
また、第2付勢部材12の温度が変態温度以上になると、
図2に示すように、当該第2付勢部材12は、内周部と外周部とが軸方向に互いに離間した皿ばね状の(元の)形状に戻り、上記クリアランスCLが小さくなるように可動部材6を第1付勢部材11の付勢力に抗してインナーロータ3およびアウターロータ4側(軸方向における他側)に付勢する。これにより、可動部材6は、第2付勢部材12の付勢力によりインナーロータ3およびアウターロータ4側(軸方向における他側)に移動させられ、可動部材6の突出部65の
図2における下側の端面がポンプボディ20の第2室202の底面205に当接することで、当該底面205により可動部材6のインナーロータ3およびアウターロータ4側(軸方向における他側)への移動が規制される。
【0029】
この結果、作動油や外気の温度が比較的高い高温状態では、
図2に示すように、第2付勢部材12により可動部材6を第1付勢部材11の付勢力に抗してインナーロータ3およびアウターロータ4側に付勢して可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCL(並びにインナーロータ3およびアウターロータ4と第1ポンプカバー21の内面(ポンプハウジング2)とのクリアランス)を小さくし、クリアランスCL等を介した作動油の漏れに起因した吐出効率の悪化を良好に抑制することが可能となる。本実施形態において、オイルポンプ1の各構成部材の諸元は、第2付勢部材12の温度が変態温度以上であるときに、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLと、インナーロータ3およびアウターロータ4と第1ポンプカバー21の内面とのクリアランスとの和が例えば低温状態における値の20-50%程度(数十μm程度)になるように定められている。
【0030】
そして、形状記憶効果をもたない第1付勢部材11と、形状記憶効果を有する第2付勢部材12とを組み合わせることで、可動部材6を低温状態で第2ポンプカバー22側に確実かつ適正に移動させると共に、高温状態でインナーロータ3およびアウターロータ4側に確実かつ適正に移動させることができる。この結果、オイルポンプ1では、低温状態での始動性と高温状態での吐出効率との双方を向上させることが可能となる。
【0031】
また、オイルポンプ1において、ポンプハウジング2は、可動部材6の第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)への移動を規制する第2ポンプカバー22の内面(第1移動規制部)225と、可動部材6のインナーロータ3およびアウターロータ4側への移動を規制するポンプボディ20の底面205(第2移動規制部)とを含む。これにより、低温状態および高温状態の双方において、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLのばらつきを良好に抑制することができる。
【0032】
更に、ポンプハウジング2の第2ポンプカバー22は、開口28を有し、可動部材6は、吐出側凹部60oすなわち吐出ポート2o側からの作動油を開口28側に導く連通路68を有する。また、オイルポンプ1は、開口28を開閉可能な弁体80と、形状記憶効果をもたない材料により形成されると共に弁体80を開弁側に付勢する第1スプリング(第1弁体付勢部材)81と、形状記憶効果を有する材料により形成されると共に温度上昇に応じて弁体80を第1スプリング81の付勢力に抗して閉弁側に付勢する第2スプリング(第2弁体付勢部材)82とを含むリリーフバルブ8を有する。
【0033】
これにより、作動油や外気の温度が比較的低い低温状態では、
図1に示すように、第1スプリング81の付勢力により弁体80を開弁側に移動させてリリーフバルブ8を開弁させ、吐出ポート2oに流入しなかった吐出側凹部60o内の高圧のオイルの一部を可動部材6の連通路68および第2ポンプカバー22(ポンプハウジング2)の開口28を介してポンプハウジング2外に流出させることができる。この結果、ディスク部60の第2ポンプカバー22側の端面に吐出圧が作用することで第1付勢部材11の付勢力に対する反力が発生するのを抑制し、第1付勢部材11によって可動部材6をスムースに第2ポンプカバー22側(軸方向における一側)に移動させることが可能となる。
【0034】
また、作動油や外気の温度が比較的高い高温状態では、
図2に示すように、第2スプリング82の付勢力により弁体80を閉弁側に移動させてリリーフバルブ8を閉弁させると共に、吐出ポート2o側から高圧の作動油をクリアランスCL側から開口28側に導入して吐出圧をキャンセルする背圧を形成することできる。これにより、第2付勢部材12によって可動部材6をスムースにインナーロータ3およびアウターロータ4側(軸方向における他一側)に移動させることが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本開示のオイルポンプ1は、吸入ポート2iおよび吐出ポート2oを有するポンプハウジング2と、ポンプハウジング2内に配置されるインナーロータ3およびアウターロータ4とを含み、吸入ポート2iから吸入した作動油を吐出ポート2oから吐出するものである。そして、オイルポンプ1は、ポンプハウジング2内にインナーロータ3およびアウターロータ4に対して軸方向に移動自在に配置される可動部材6と、形状記憶効果をもたない材料により形成され、可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLが大きくなるように可動部材6を軸方向における一側に付勢する第1付勢部材11と、形状記憶効果を有する材料により形成され,温度上昇に応じて可動部材6とインナーロータ3およびアウターロータ4とのクリアランスCLが小さくなるように可動部材6を第1付勢部材11の付勢力に抗して軸方向における他側に付勢する第2付勢部材12とを含む。これにより、オイルポンプ1では、低温状態での始動性と高温状態での吐出効率との双方を向上させることが可能となる。
【0036】
なお、オイルポンプ1は、変速機用の作動油を圧送するオイルポンプ以外の車載ポンプ(例えば、エンジンオイルポンプ)として構成されてもよく、車載ポンプ以外の用途に適用されてもよい。また、オイルポンプ1は、ポンプハウジング2内に配置される少なくとも1つのロータを含むものであればよい。すなわち、オイルポンプ1は、例えば、内周カム面を含むカムリングと、放射状に形成された複数のスリットを含むロータと、それぞれカムリングの内周カム面に当接するようにロータのスリット内に摺動自在に配置される複数のベーンとを含むベーンポンプであってもよい。
【0037】
また、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本開示の発明は、オイルポンプの製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 オイルポンプ、2 ポンプハウジング、205 底面(第2移動規制部)、225 内面(第1移動規制部)、28 開口、2i 吸入ポート、2o 吐出ポート、3 インナーロータ、4 アウターロータ、6 可動部材、68 連通路、8 リリーフバルブ、80 弁体、81 第1スプリング(第1弁体付勢部材)、82 第2スプリング(第2弁体付勢部材)、11 第1付勢部材、12 第2付勢部材。